« モーツァルト ピアノ協奏曲第24番ハ短調K.491 名盤 | トップページ | モーツァルト ピアノ協奏曲第26番「戴冠式」ニ長調K.537 名盤 »

2011年10月21日 (金)

モーツァルト ピアノ協奏曲第25番ハ長調K.503 名盤

モーツァルトのピアノ協奏曲の第20番以降の曲は、どれもが大変な傑作ですが、その中で一番地味で目立たない曲と言えば、この第25番でしょう。前作の第24番がハ短調であれほど悲劇的な曲想だったのに、この曲は一転してハ長調の華麗で明るい曲想です。それにもかかわらず目立たないのは何故でしょう。とても美しい曲なのですが、ほかの曲のような霊感に少々乏しいからでしょうか。確かに第20番以前の曲でも、ずっと霊感を感じさせる曲は多く有りました。それに何しろ、この曲の直後には、あの傑作交響曲の第38番「プラハ」を書いているのですから、その落差は感じてしまいます。

この曲は恐らく、第20番以降の難しい曲で、ウイーンの聴衆からそっぽを向かれた反動から、それ以前の華やかで分り易い音楽に戻そうと試みたのではないかと思います。その曖昧な立ち位置が、この曲を何となくとりとめの無い作品にしてしまった気がします。とは言いながらも、この曲がとても美しく立派な音楽に仕立てられているのは、天才モーツァルトの円熟した匠の業です。ところで、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番も同じハ長調ですが、1楽章の第2主題がどことなく似ている気がします。

第1楽章アレグロ・マエストーソは、力強く立派で華麗な音楽です。但し演奏によっては、確かにとりとめが無い曲に聞こえてしまいます。

第2楽章アンダンテは、ゆったりとした明るく美しい音楽です。にもかかわらず、ここにはどうも「何か」が足りないように思えてしまいます。

第3楽章アレグレットはロンド形式ですが、僕はこの楽章は大変好きです。まるでオペラを観ている時のように、心がうきうきと愉しくなるからです。

それでは、僕の愛聴盤をご紹介します。

25_27 エリック・ハイドシェック独奏、ヴァンデルノート指揮パリ音楽院管(1962年録音/EMI盤) 1楽章は速いテンポで、まずオーケストラの壮麗な響きに惹きつけられます。ハイドシェックのピアノは登場するや、自由自在に駆け回る印象です。若いころのこの人は、天衣無縫で本当に素晴らしいです。2楽章も美しいですが、3楽章の愉しさは正に最高で、この曲がやはり素晴らしい傑作なのではないかと思えてしまうほどです。

671ゲザ・アンダ独奏/指揮、ザルツブルク・モーツァルテウム室内管(1968年録音/グラモフォン盤) 全集盤からの演奏です。この1楽章もハイドシェック盤並みに快速です。やはり、このほうが楽しく感じます。アンダはこの速さでも音の粒立ちが良いのには感心します。2楽章も速めで音楽の流れが良いです。3楽章では更に加速していて実に爽快なのですが、これでは少々速過ぎで愉悦感は逆に薄れるかなという気もします。

Fi2546314_0e アンネローゼ・ シュミット独奏、マズア指揮ドレスデン・フィル(1973年録音/独edel盤) 全集盤からの演奏です。1楽章は速めで躍動感が有って良いです。マズアの率いるオケの響きも非常に美しいです。シュミットのピアノもオーソドックスで面白みこそ有りませんが、曲の良さは充分出していると思います。2楽章も実に美しいです。3楽章はしっとりと落ち着いていますが、音楽は良く流れていて決してもたれません。

2edebf2ef962870ed7a190d588ced904ダニエル・バレンボイム独奏/指揮、イギリス室内管弦楽団(1974年録音/EMI盤) EMIの全集盤に含まれています。1楽章を速いテンポにするのは我が意を得たりです。やはり、この方がこの曲は楽しめます。それでいて、かしこにロマンの香りがプンプンするのは、この人ならではです。2楽章ではゆったりと更にロマンの雰囲気を感じさせます。3楽章は軽快ですが速過ぎずに、理想的なテンポに思えます。そして演奏の自由自在さが益々この曲の愉悦感を高めます。

Hmv_3637652 フリードリッヒ・グルダ独奏、アバド指揮ウイーン・フィル(1975年録音/グラモフォン盤) アバドは1楽章を遅めのテンポで堂々と立派に演奏しようとしていますが、逆に音楽が重くもたれる結果となり、余り楽しくありません。それはウイーン・フィルの典雅な音をもってしてもカバー仕切れないようです。2楽章もオケの音が美しい割には余り酔うことができません。3楽章のテンポもゆったり気味ですが、ここではグルダの美しく瑞々しいピアノに弾きつけられます。

Mozart_serkin ルドルフ・ゼルキン独奏、アバド指揮ロンドン響(1981年録音/グラモフォン盤) これもまた、アバドの指揮ですが、1楽章の遅いテンポはゼルキンの要求でもあるでしょう。始めは止まりそうなぐらい遅く感じます。ところがゼルキンは音符ひとつひとつを本当に慈しむように弾いてゆくので、いつの間にか惹きつけられてしまいます。2楽章も遅いですが、グルダ盤よりももたれません。白眉は3楽章で、非常に遅いテンポでとうとう最後まで乗り切ってしまうどころか、独特のたおやかさを感じさせるのが魅力的です。

31sa8psmmzl__sl500_aa300__2ダニエル・バレンボイム独奏/指揮、ベルリン・フィル(1988年録音/TELDEC盤) EMI盤から20年後の新盤です。ベルリン・フィルの壮麗でシンフォニックな響きはこの曲にピッタリという印象です。バレンボイムのピアノも旧盤よりも弾きこんだ印象で輝きを増しています。2楽章はロマンティックでピアノもオケも非常に美しいです。3楽章も歯切れの良さと優美さが両立していて素晴らしいです。聴いていて胸いっぱいに愉しさが溢れてきます。 

Michelangeli20 アルトゥーロ・ベネディッティ・ミケランジェリ独奏、ガーベン指揮北ドイツ放送響(1989年録音/グラモフォン盤) これはライブですが、録音は優秀です。ミケランジェリはかつての鋭い切れ味は衰えたものの、透明感のある音と繊細なタッチは失っていません。ことさらに立派にしようという力みを感じることもなく、ゆったりしたテンポで音楽を慈しむかのようです。北ドイツ放送響の響きは落ち着いていてピアノと合っています。

以上の中のマイ・フェヴァリット盤はといえば、何と言ってもハイドシェックのEMI盤ですが、もうひとつバレンボイム/ベルリン・フィル盤も上げたいです。

|

« モーツァルト ピアノ協奏曲第24番ハ短調K.491 名盤 | トップページ | モーツァルト ピアノ協奏曲第26番「戴冠式」ニ長調K.537 名盤 »

モーツァルト(協奏曲: ピアノ 第20~27番)」カテゴリの記事

コメント

ハルくんさん、こんにちは

この曲は、最初にクレンペラー指揮/ニューフィルハーモニア管とバレンボイムとの演奏録音で聴いたせいか、とてもスケール感のある曲という印象を強く持っています。他の演奏録音、たとえばモラヴェッツ/ヴラフ指揮/チェコフィルのものも、同様のスケール感があり、もともとその様な曲なのだろうと思います
ハイドシェック達のものからはそのようなスケール感は覚えませんが、ピアノが、いかにも自由に、しかし嫌味にならないセンスを持って音楽を聴かせてくれる、貴重な演奏になっていると思います。
私は、案外、この曲は好きですよ。

投稿: HABABI | 2011年10月22日 (土) 12時56分

ハルくん、こんにちわ

第25番ですか、この曲の思い出は、FM放送でバレンボイム・クレンペラー盤が流された時、クレンペラーの力強く雄大な伴奏です。ただし、バレンボイムは完全にクレンペラーに負けていました。

あ、この録音は持っておらず、持っているのは、ブレンデル(マリナー指揮)とフィッシャー(クリップス指揮)等です。

投稿: matsumo | 2011年10月22日 (土) 12時56分

HABABIさん、こんにちは。

バレンボイムには確かにクレンペラー盤も有りましたね。全集では速めのテンポで弾いていますので、その演奏はおそらくクレンペラーの主導なのでしょう。

個人的には、この曲はスケール感を出そうとする演奏家よりも、躍動感にあふれた闊達な演奏家のほうが気に入ることが多いです。
そうしたお気に入りの演奏を聴いた時には、本当に名作に思えますね。

投稿: ハルくん | 2011年10月22日 (土) 21時36分

matsumoさん、こんにちは。

バレンボイムはやはり自分で弾き振りをした全集録音で実力を発揮したのではないでしょうか。新盤なんかはかなり良いと思いますよ。

ブレンデルもフィッシャーも、この曲の演奏は残念ながら聴いたことは有りません。

投稿: ハルくん | 2011年10月22日 (土) 21時41分

こんばんは

20番以降のピアノ協奏曲は何れも素晴らしいと
思いますし、25番ももの凄く美しいと思うのに
あまり聴かなくなっています。
曖昧な立ち位置だからかは分りませんが。

バレンボイムの新盤は未聴ですが、クレンペラー
との競演より、EMI盤の弾き振りの方がいいと
思います。

投稿: メタボパパ | 2011年10月23日 (日) 22時40分

メタボパパさん、こんばんは。

もちろん良い曲なのは間違いありませんが、記事中に書いた通り、どうしても他の曲より霊感が薄いように感じてなりません。
「曖昧な立ち位置」というのは、モーツァルトが、不本意ながらも後ろを(ウイーンの大衆を)振り返っているように感じるからです。

投稿: ハルくん | 2011年10月23日 (日) 22時52分

ハルくん、おはようございます。
25番は、私にとって想い出の曲です。25番に出会う前は、モーツァルトのピアノコンチェルトをほとんど聴き流していたのですが、曲、演奏がピッタリとはまっているアルゲリッチによる1978年のコンセルトヘボウ・ライヴを聴いて、開眼しました。したがって、アルゲリッチ以外の演奏は受け付けがたいです。
今回、ゼルキン、バレンボイム、ミケランジェリ、グルダ、と聴き比べしましたが、アルゲリッチの右に出る盤はありませんでした。

投稿: ひらけん | 2011年10月24日 (月) 06時11分

ハルくんさんこんにちは。
僕はこの25番は、グルダ/アバド・ウィーンフィルのみ所有しております。不勉強ですいません。
仰せの通オケのウィーンフィルが本来の典雅さを出し切れていない様に思います。何か乾いた音色に聴こえてしまいます。
グルダというピアニストは、この録音時は判りませんが、ベーゼンドルファーを使う事があったらしいと昔本で読みました。そうだとすれば、彼のピアノの演奏や音色に何か関係していたかもしれないですね。

投稿: sasa yo | 2011年10月24日 (月) 12時57分

ひらけんさん、こんにちは。

アルゲリッチ盤は残念ながら聴いたことは有りませんが、ひらけんさんはピタリとハマられたのですね。
確かに、特別に気に入った演奏に出会うと他の演奏は中々受け入れにくくなると思います。
僕の場合には、それがハイドシェック盤です。

投稿: ハルくん | 2011年10月24日 (月) 20時59分

sasa yoさん、こんにちは。

グルダの演奏は、アバドに問題が有ったような気がします。一度グルダの弾き振りで聴いてみたいものですね。
ベーゼンドルファーを使うことは多かったようです。でもバックハウスのような柔らかく深い音とは違って、ずっと明瞭な音だったように思います。中々録音で比較するのは難しいのですが。

投稿: ハルくん | 2011年10月24日 (月) 21時08分

こんばんは。

今日12/5はモーツァルトの命日なので
「勝手に一人でモーツァルト祭り」開催中です。

お書きになられた通り「凡庸な」曲ですが
バレンボイム独奏/指揮ベルリン・フィルでは聴き映えしますね。
彼の弾き振りは「名人芸」です。

今年はジャクリーヌ・デュ・プレの没後30年ですね。
遺族が「暴露本」を出して映画化までされましたが
詳しくは知りません。
バレンボイムの偉いところは「沈黙」を貫いたところでしょうか。

投稿: 影の王子 | 2017年12月 5日 (火) 17時53分

影の王子さん、こんにちは。

「凡庸な」とまでは言いませんが、前後の傑作群の中に合っては分が悪いですね。
バレンボイムの弾くモーツァルトの協奏曲はやはり素晴らしいです。

投稿: ハルくん | 2017年12月 6日 (水) 12時34分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1080200/42561775

この記事へのトラックバック一覧です: モーツァルト ピアノ協奏曲第25番ハ長調K.503 名盤 :

« モーツァルト ピアノ協奏曲第24番ハ短調K.491 名盤 | トップページ | モーツァルト ピアノ協奏曲第26番「戴冠式」ニ長調K.537 名盤 »