« モーツァルト ピアノ協奏曲第21番ハ長調K.467 名盤  ~みじかくも美しく燃え~ | トップページ | モーツァルト ピアノ協奏曲第23番イ長調K.488 名盤 »

2011年10月 1日 (土)

モーツァルト ピアノ協奏曲第22番変ホ長調K.482 名盤

今日から10月ですね。爽やかな秋の季節になりました。初秋に聴くモーツァルトは大好きですが、もう少し秋が深まってきたら・・・やはりブラームスでしょうね。

モーツァルトのピアノ協奏曲特集ですが、今回は第22番です。彼はピアノ協奏曲では、この曲で初めてクラリネットを使用しました。クラリネットは、次の第23番、24番にも同じように効果的に使用されていますし、あの大傑作のクラリネット協奏曲が有るように、モーツァルトはクラリネットの音を好んでいたようです。この楽器が加わると、全体の響きが柔らかくまろやかに溶け合います。

ところで、この第22番という曲はポピュラリティで言えば、第20番、21番、あるいは23番という一連の名作と比べると幾らか落ちるように思われますが、内容的には少しも劣ることの無い、充実し切った名曲です。宇野功芳先生も、いつごろからか「モーツァルトのピアノ協奏曲の中で一番好きだ」と仰られるようになりました。

第1楽章アレグロは、堂々とした立派な曲想です。シンフォニックな響きの管弦楽が素晴らしいですが、ピアノがそれに互角に渡り合っていて非常に聴き応えがあります。

第2楽章アンダンテは、いかにも後期のモーツァルトらしい、深く沈みこむようなモノローグが延々と続きます。そして中間部のドラマティックな盛り上がりは、哀しみに耐えきれなくなったモーツァルトの心の叫びのように思えます。

第3楽章アレグロはロンド形式ですが、この協奏曲で最も魅力的な楽章ではないでしょうか。冒頭の主題は映画「アマデウス」の中で、馬車がウイーンの街を駆けてゆくシーンで流れましたので、きっとご記憶に残っていると思います。白眉は中間部でテンポをアンダンティーノ・カンタービレにぐっと落として、優しく優しく歌いかけてくる部分です。ここではクラリネットが何とも甘く歌います。まるで耳元でそっとささやかれるようなので、身体がゾクゾクしてしまいます。う~ん、モーツァルト!

それでは僕の愛聴盤のご紹介です。

31jkgj0kfhl__sl500_aa300_ タチアナ・ニコラーエワ独奏、シューリヒト指揮ウイーン・フィル(1956年録音/ISMS盤) いきなり番外ともいうべき演奏ですが、モーツァルト生誕200周年のザルツブルクでのライブ録音です。シューリヒトとウイーン・フィルのモーツァルトとくれば、ファンには唾液ものです。少しも力みの無い、くつろいだ雰囲気にとても惹かれます。若きニコラーエワも美しく流れるようなタッチで中々に聴かせてくれます。録音はもちろんモノラルですが、この年代にしてはかなり明瞭です。

Casad_00ロベール・カザドシュ独奏、セル指揮コロムビア響(1959年録音/CBS盤) まず、セルのオーケストラの素晴らしさに驚きます。テンポは速めでスッキリしていますが、響きが立派で細部のニュアンスに富んでいます。カザドシュの音は粒がよく揃っていて、いぶし銀の輝きを放っています。要所要所で見せるアタックにも厳しさが有ります。2楽章の透明感ある孤独な悲哀も心に染み入るようです。3楽章は軽快で切れが有り、かつ愉悦感に溢れますが、中間部では純粋な美しさに魅惑されます。このコンビのモーツァルトはどれも素晴らしいです。

671ゲザ・アンダ独奏/指揮、ザルツブルク・モーツァルテウム室内管(1962年録音/グラモフォン盤) 全集盤からの演奏です。導入部のオーケストラがとても立派で素晴らしいので、ピアノにも期待します。確かに良いのですが、オケほどの充実感は感じられません。けれども2楽章ではさすがにアンダです。非常に沈んだ雰囲気が漂っていて、哀しみで一杯です。3楽章も良い演奏です。愉悦感というよりも、しっとりと落ち着いた雰囲気です。

2edebf2ef962870ed7a190d588ced904ダニエル・バレンボイム独奏/指揮、イギリス室内管弦楽団(1971年録音/EMI盤) EMIの全集盤に含まれています。バレンボイムは若いころからこの曲を得意にしていたようで、ピアノもオーケストラも完成度が非常に高く、旧全集の中でも1、2を争う出来ではないでしょうか。ロマンティックなスタイルですが、表情が実に豊かで天衣無縫の演奏です。正にモーツァルトの真髄をついていると思います。名女流クラリネット奏者のシーア・キングさんを始めとする木管の演奏もとても美しいです。

Fi2546314_0eアンネローゼ・ シュミット独奏、マズア指揮ドレスデン・フィル(1972年録音/独edel盤) 全集盤からの演奏です。 1楽章は速めのイン・テンポですが、この曲のシンフォニックな立派さに欠けます。オケもピアノも余り面白さを感じません。2楽章も速めですが、ここでは静かに哀しみを独白しています。3楽章はリズミカルで軽快ですが、この曲の持つ魅惑を更に感じさせてほしい気もします。それでも中間部は中々の美しさです。

Mozart_serkinルドルフ・ゼルキン独奏、アバド指揮ロンドン響(1984年録音/グラモフォン盤) BOX選集に含まれています。まず、1楽章では、アバドのオーケストラがテヌートで音を引っ張るのに、どうもだらしなさを感じます。セルの威厳ある音とは対照的です。けれどもゼルキンは、「そんなことはどうでもいい」とばかりにマイペースでゆったりと弾いてゆきますので、後はアバドがゼルキンにひたすら合わせてゆくだけです。2楽章もオケは割に平凡ですが、ピアノにはとても深みが有ります。3楽章の中間部も同様ですが、全体は少々重すぎて愉悦感に不足します。

349 ダニエル・バレンボイム独奏/指揮、ベルリン・フィル(1989年録音/TELDEC盤) EMI盤から20年後の新盤です。まずベルリン・フィルのシンフォニックな響きが凄いです。但し、個人的には旧盤のイギリス室内管の繊細な響きの方を好みます。ピアノについては、旧盤と比べると表情が更に濃くなりましたが、バレンボイムの頭と指先の間に僅かな隙間が存在する様な気がします。これは既に本格的に指揮者に転向したからかもしれません。とは言いながら、やはりこの人のK482は素晴らしいです。

ということで、以上の中のマイ・フェイヴァリットは、やはりバレンボイムの特にEMI盤の方ですが、カザドシュ/セル盤にもまた別の魅力が有って大好きです。

|

« モーツァルト ピアノ協奏曲第21番ハ長調K.467 名盤  ~みじかくも美しく燃え~ | トップページ | モーツァルト ピアノ協奏曲第23番イ長調K.488 名盤 »

モーツァルト(協奏曲: ピアノ 第20~27番)」カテゴリの記事

コメント

ハルくん、こんにちわ

第22番ですか、滅多に聴かない曲ですので、CDを探し出して聴いてみましたが、全体的には力強い感じの曲ですね。

ちなみに持っているCDは、フィッシャー(バルビローリ指揮)、シュナーベル(ワルター指揮)の2枚で、いずれも古い録音でした。

投稿: matsumo | 2011年10月 1日 (土) 19時04分

matsumoさん、こんばんは。

この曲、1楽章は堂々としていますが、3楽章の愉しさと美しさは格別だと思いますよ。

さすがにmatsumoさん、歴史的な演奏家をお持ちなのですね。僕はどちらの演奏も聴いたことは有りません。

投稿: ハルくん | 2011年10月 1日 (土) 23時12分

ハルくんさん、おはようございます。

私は、演奏録音は持っていますが、あまり聴くことのない曲です。オペラの一部分のような印象があり、いかにもモーツァルトらしいのですが、逆にピアノ協奏曲として独立した印象が残り難いような気もします。
全集以外では、カザドシュ/セルの録音(LP)とブレンデル/マッケラス/スコットランド室内オーケストラ(2000年録音、CD)を持っています。ブレンデルは、この時のマッケラスとの一連の録音に加えていますので、この曲が好きだったのだろうと思います。テクニックに余裕を持って、柔らかく、自由自在に表現を付けながら、オケと共に温もりを感じさせる演奏になっています。
ハルくんさんのブログを見ながら、以前購入したCDを取り出して、再び聴いています。
HABABI

投稿: HABABI | 2011年10月 2日 (日) 07時11分

HABABIさん、おはようございます。

モーツァルトの曲想というのは、元々からジャンルの垣根が余り無いですね。シンフォニーでもコンチェルトでもオペラの一部のように(あるいはまた、その逆に)聞こえる箇所が頻繁に現れます。
この曲はもちろん大好きなのですが、1楽章と3楽章のアンバランスさを感じないでは有りません。そのあたりも、ピアノ協奏曲として独立した印象が残り難い原因のひとつかもしれません。
せっかくお持ちのCDでしたら、いろいろと聴き比べられると面白いと思います。ぜひ!

投稿: ハルくん | 2011年10月 2日 (日) 08時04分

こんばんは

22番は20番以降の素晴らしい協奏曲の中で
も大好きな1曲で、あまり人気がないのが
不思議でなりませんでした。
毎度のことながら、やはりバレンボイムの
旧盤がいいと思います。

投稿: メタボパパ | 2011年10月 2日 (日) 23時00分

メタボパパさん、こんばんは。

そうなんですよね。22番はもっともっと人気が出て良い曲に思いますね。演奏される機会が少ないからでしょうか。

この曲はバレンボイムが本当に良いですね。新盤も良いはと思いますが、やはり旧盤で決まりですよね。

投稿: ハルくん | 2011年10月 3日 (月) 21時55分

ようやく納得できる名盤が手に入りました。バレンボイムの弾き振りではなくピアノに専念したクベーリック指揮バイエルン放送交響楽団のライブです。22番23番収録のバイエルン放送協会自主盤です。個性は大変強いですが力強く音も美しく合奏も見事です。やっと満足しました。それでは移動します。お世話様でした。

投稿: 薄暮の旅人 | 2013年5月17日 (金) 09時40分

薄暮の旅人さん、たくさんコメントをありがとうございます。

バレンボイムはEMI盤で充分満足していますが、ご紹介の演奏も評判が良いので興味は有りますが、まだ聴いていません。
クーベリック/バイエルンのモーツァルトとは自分は相性が余り良くないような気がしますが、一度は聴いてみないといけませんね。

投稿: ハルくん | 2013年5月17日 (金) 23時31分

ラローチャ盤を聴いてみましたが
ことのほか素晴らしいです。

玉を転がすようなピアノの音色が美しいし
シーガル指揮ウィーン響の伴奏が
痒いところに手が届く感じでいいです。

そしてデッカの自然な録音でいうことありません。

投稿: 影の王子 | 2013年8月 4日 (日) 20時04分

影の王子さん、こんばんは。

ブログ仲間のまつやすさんも、ラローチャがお気に入りだそうですが、残念ながら僕は聴いたことが有りません。
モーツァルトも得意にしていたようですし、この曲は大好きなので、是非聴いてみたいですね。
ありがとうございました。

投稿: ハルくん | 2013年8月 4日 (日) 22時55分

初めまして。22番は映画「アマデウス」でも、バックに流れていましたね。私のベスト版は2枚。勿論バレンボイムの旧録音、それとなんと言ってもリステンパルトとペヌティエの演奏が素晴らしいと思います。

投稿: yasu | 2016年8月27日 (土) 17時51分

yasuさん、初めまして。
コメントありがとうございます。

ペヌティエの演奏は聴いたことがありませんが、どんな演奏をする人なのでしょうね。ひと昔まえのピアニストのリパッティとかハスキルとかの音は大好きです。聴いてみたいものですね。
ご紹介ありがとうございました。


投稿: ハルくん | 2016年8月29日 (月) 00時27分

ペヌティエの演奏についての個人的な感想は差し控えますが、現在当22番のCDは廃盤で、聴く事ができないと思います。LPならば仏クリュブ・フランセから中古品出ていますが、何しろ高額で手が出ません。
そこで、ペヌティエの演奏で現在手に入るものを紹介します。いずれも仏HMのCDです。
シューベルト/ピアノ三重奏、アルペジオーネソナタ等。 後ブラームスのピアノ三重奏等が
ありますので、一度聴いてみて下さい。
ドイツ系の演奏者に慣れた耳には、新鮮にうつるかも知れません。(私がそうでした。)

投稿: yasu | 2016年8月29日 (月) 12時43分

yasuさん、こんにちは。

色々とご親切にありがとうございます。
ペヌティエの録音を調べたら案外と有るのですね。特にフォーレの権威だそうなのでピアノ独奏曲や室内楽を聴いてみたいです。
今年も日本に来ていたのは意外でした。フランス音楽には疎いので気に止まらなかったです。
思えば勿体ないことをしました。

投稿: ハルくん | 2016年8月30日 (火) 22時29分

こんばんは。

カザドシュ&セル盤、かなり良いですね。
ピアノもオケもグイグイと「攻めて」いるのですが
それがなんとも軽妙洒脱な感じが凄いですね。
録音も21番よりはいくらか鮮明ですし。
これはバレンボイムに対抗できる名演だと思います!

投稿: 影の王子 | 2017年7月 5日 (水) 20時11分

影の王子さん、こんにちは。

録音はともかくとしてカザドシュの演奏はとても良いですよね。
バレンボイムとタイプは異なりますがどちらも素晴らしいです。この地味ながら素晴らしい名曲の魅力を最大限に味あわせてくれますね。

投稿: ハルくん | 2017年7月 6日 (木) 09時15分

ハルくん様

僕もモーツァルトのピアノ協奏曲は大好きで、よく聴きます。
ピアノ協奏曲第22番は、25番と並んで規模が大きいせいか人気はいまいちですが、僕は大好きです。
僕の愛聴盤は以下の通りです。

① バレンボイム/イギリス室内管弦楽団(全集より)

② アニー・フィッシャー、サヴァリッシュ/フィルハーモニー管弦楽団(1958年録音)

③ ギュラー、デサルツェンス/ローザンヌ室内管弦楽団(1968年ライヴ録音)

バレンボイムのモーツァルトのピアノ協奏曲はベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との新盤の方が一般的には評価が高いようですが、僕は好みません。
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団はヨーロッパのオーケストラの中では機能性が高いオーケストラとして有名です。
やはり弾き振りではなく、別に指揮者を立てて、ピアノに集中した方が良い結果が得られたように思います。

②のアニー・フィッシャーは録音嫌いのため日本ではあまり知られていませんが、クレンペラーの薫陶を受け、リヒテルからも称賛されていたことからも、彼女の腕前が窺われます。
幸い、ピアノ協奏曲は20番~24番、27番がステレオ録音されています。
スタジオ録音のせいか、あまり気乗りしていないようですが、女性ならではの感性と男性顔負けのスケールの大きさに魅かれます。

③のヨウラ・ギュラーは御存じない方は知らないと思います(当たり前だ)。
パリ音楽院ではハスキルと同期でしたが、ハスキル以上の成績で同学院を卒業しています。
ただ、戦争や病気のためほとんど録音が存在しません。ロマン・ロランが彼女の実力を絶賛したと云われますが、その通り彼女の紡ぎだす音は宝石のような輝きに満ちています(モノラル録音なのが残念ですが)。

以上、かなりレア盤が並びましたが、22番は往年の名手にも愛された作品だったと言えると思います。

いつも長文で申し訳ありません。最後までお読みいただいた方に感謝申し上げます。

投稿: motosumiyosi | 2017年7月 6日 (木) 22時21分

motosumiyosiさん、こんにちは。

どんな曲でも聴き手の好みによって「良し」とされる演奏は様々に変わりますが、モーツァルトのコンチェルトもやはりそうですね。
バレンボイムのそれも、新旧盤では一長一短あるのも確かですが、結局は好みに負うところが大きいように思います。私も全体としては旧盤を好んでいます。

フィッシャーとギュラーのモーツァルトはほとんど聴いていませんので何も言えませんが、機会あれば是非聴いてみたいものです。
ご紹介くださり有難うございました!

投稿: ハルくん | 2017年7月 7日 (金) 15時13分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: モーツァルト ピアノ協奏曲第22番変ホ長調K.482 名盤:

« モーツァルト ピアノ協奏曲第21番ハ長調K.467 名盤  ~みじかくも美しく燃え~ | トップページ | モーツァルト ピアノ協奏曲第23番イ長調K.488 名盤 »