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2011年9月25日 (日)

モーツァルト ピアノ協奏曲第21番ハ長調K.467 名盤  ~みじかくも美しく燃え~

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     スウェーデン映画「みじかくも美しく燃え」

地獄の淵を覗き込むような暗さと激しさを持ったピアノ協奏曲第20番から僅か1か月後に完成した第21番は、全く正反対の天国的なまでの幸福感に満ちた曲です。美しさの極まった第2楽章アンダンテは1960年代のスウェーデン映画「みじかくも美しく燃え」で、一躍ポピュラー音楽並みに有名になりました。そのイメージから、生粋のクラシック音楽ファンの中には、モーツァルトの音楽を単に美しいだけのBGMのように捉えている方も多いと思います。そういう意味では、この曲が有名に成り過ぎたことは逆にマイナスにもなったかもしれません。実は僕自身も昔は、この曲を何となく一段低いもののように考えていました。けれども現在では、他の20番台の傑作たちと同様にとても素晴らしい曲だと思っています。

それにしても20番以降の曲は大半が人気、内容ともに抜群ですので、そのまま名曲シリーズになってしまいますね。

第1楽章アレグロ・マエストーソは、行進曲のような勇壮な主題で開始されますが、第二主題はロココ調の明るくゆったりとした優美さを感じさせます。展開部を経た中間部では一転して静かな哀しみを感じさせます。

第2楽章アンダンテは、説明の必要が無いほど有名な、幸福感に満ち溢れた曲です。その合間にかすかに漂う寂しさは、いわゆるモーツァルトの「微笑みの裏に隠された哀しみ」です。弱音器を付けた弦楽の音の間をさまようピアノが何と美しいことでしょうか。

第3楽章アレグロ・ヴィヴァーチェ・アッサイは、軽快でオペラ・ブッフォのような楽しさを持つ曲です。こんなに幸せに満ち溢れたモーツァルトを聴けるのは、このうえない喜びだと思います。

それでは僕の愛聴盤のご紹介です。

Mozcci00036 ディヌ・リパッティ独奏、カラヤン指揮ルツェルン室内管(1950年録音/EMI盤) これはルツェルンでのライブ録音です。但し、当時のライブとしても音質にはかなり不満を感じます。それでもリパッティの音の良さを「想像する」ことは出来ます。ここでの彼は驚くほど力強い演奏をしています。若きカラヤンの指揮も、まるでトスカニーニのように輝いています。ですので3楽章などは両者ががっぷり四つで大変に聴きごたえがあります。

Casad_00 ロベール・カザドシュ独奏、セル指揮クリーヴランド管(1961年録音/CBS盤) フランスのピアニスト、カザドシュもモーツァルトを得意にしました。スタッカートの軽みの有る音で珠を転がすようです。一方、セルは緻密な指揮ですが、通常目立たない音が非常によく聞こえてきます。両者の息もピタリと合って見事なアンサンブルを醸し出しています。2楽章ではセルが甘く甘く演奏しているのも驚きです。3楽章は、さすがセル、切れのあるリズムと躍動感が見事です。カザドシュも素晴らしいです。録音に古めかしさを感じるのがやや残念です。

671ゲザ・アンダ独奏/指揮、ザルツブルク・モーツァルテウム室内管(1961年録音/グラモフォン盤) 全集盤からの演奏です。主題は良いテンポで毅然と進行します。とても安心感が有ります。短調に転調する部分では非常に沈み込んだ雰囲気が漂って来て涙を誘います。2楽章のテンポはかなり遅く沈滞した雰囲気です。ここでは微笑みはほとんど消え去ってしまい、哀しみの表情が一貫して続きます。3楽章は良いテンポで愉悦感を感じさせてくれます。

2edebf2ef962870ed7a190d588ced904ダニエル・バレンボイム独奏/指揮、イギリス室内管弦楽団(1968年録音/EMI盤) EMIの全集盤に含まれています。バレンボイムのテンポ・ルバートを多用したロマンティックで天衣無縫のモーツァルトはとても好きです。但し、この曲の1楽章には、更にきりりと引き締まったリズムと立派さが欲しいと思います。タッチにもやや曖昧さを感じます。2楽章の遅いテンポももたれる感じで良さが出ていません。3楽章も平均的レベルです。

932 パウル・バドゥラ=スコダ独奏/指揮、プラハ室内管(1970年録音/スプラフォン盤) ウイーンのピアニスト、バドゥラ=スコダ教授の弾き振りです。これがウイーン大学で教えられる正統派のスタイルなのでしょうか。実につつましやかで端正な演奏です。地味すぎて面白くないと言えないことも有りません。但し、3楽章ではリズムに切れの良さが有ります。オケの響きが薄いので、何となくおもちゃの楽隊のように聞こえます。ということは結局、余り褒めてはいないかな。

Fi2546314_0eアンネローゼ・ シュミット独奏、マズア指揮ドレスデン・フィル(1974年録音/独edel盤) 全集盤からの演奏です。シュミット女史は60年代にスイトナー指揮で一度この曲の録音を行ないましたが、ピアノもオケもこの新盤のほうが優れています。相変わらず、古典的な造形性を重視した堅実な演奏ですが、この曲のギリシア的な造形を持つ明るい曲想に適しています。男性的なピアノタッチも特にマイナスには感じません。

Anda_2 ゲザ・アンダ独奏/指揮、ウイーン響(1973年録音/DENON盤) 全曲盤から12年後の再録音です。旧盤も素晴らしかったですが、アンダのK467は実に魅力的です。1楽章ではテンポ感覚が実に良いです。ゆとりを感じさせながらも躍動感を失わず、中間部ではぐっと哀しみを表します。録音が良い分、ピアノの音の美しさが良く味わえます。2楽章は旧盤よりも速めですが、むしろ自然にひしひしと心に染み入ってきます。3楽章は軽快で、オペラ・ブッフォのような楽しみに溢れています。

Hmv_3637593_2  フリードリッヒ・グルダ独奏、アバド指揮ウイーン・フィル(1974年録音/グラモフォン盤) グルダのK467は、60年代にハンス・スワロフスキーが伴奏指揮した録音が有りましたが、それは装飾音が多過ぎて個人的には少々抵抗が有りました。それに対してこの演奏は大分オーソドックスになり、アバドの指揮もグルダのピアノも若々しくきりりと引き締まり、青年モーツァルトを感じさせて素晴らしいです。ウイーン・フィルの弦と木管の音も非常に美しくため息が出るほどで、特に2楽章は絶品です。3楽章の軽快なテンポによる愉悦感も素晴らしいです。

Mozart_serkinルドルフ・ゼルキン独奏、アバド指揮ロンドン響(1983年録音/グラモフォン盤) BOX選集に含まれています。1楽章冒頭のアバドのテンポはグルダ盤の時よりもずっとゆったりです。ゼルキンに合わせたのでしょう。それにしても両者とも少々のんびりし過ぎな気はします。2楽章もかなり遅めのテンポですが、沈んだ気分の雰囲気が悪くありません。3楽章は慌てずに余裕を感じますが、愉悦感が失われることが無く落ち着いて楽しめます。

349 ダニエル・バレンボイム独奏/指揮、ベルリン・フィル(1986年録音/TELDEC盤) EMI盤から20年後の新盤です。旧盤とはかなり違った印象です。まず、ピアノのタッチが明瞭になり滑舌の良さを感じます。非常に輝かしい演奏ですが、それが時折粗さを感じる部分も有ります。オーケストラもシンフォニックです。2楽章のテンポは相変わらず遅いですが、旧盤のようにもたれた印象は無く、ロマンティックで美しいです。3楽章はオケの音が分厚いのでまるでシンフォニーみたいです。この曲については、新盤のほうを取りたいと思います。

以上の中のマイ・フェイヴァリットはというと、アンダ/ウイーン響盤とグルダ/アバド盤です。ユニークなカザドシュ/セル盤にも大いに惹かれます。

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モーツァルト(協奏曲: ピアノ 第20~27番)」カテゴリの記事

コメント

こんばんは

リパッティの演奏は素晴らしいと思うのですが、
如何せん録音が悪すぎますね。
録音後すぐにレコード化されなかったのが、残念
でなりません。
結局バレンボイムの旧盤を聴くことが多い気がします。

投稿: メタボパパ | 2011年9月25日 (日) 19時18分

ハルくんさん、こんばんは

この曲は、バレンボイム旧盤(LP)が出た時に購入して聴き、次いでリパッティのもの(LP)を数十年前に聴いていました。
最近では、ペライヤがヨーロッパ室内管弦楽団と一緒に1990年にデジタル録音したものが、後にSACDで出たので、それを聴きました。録音会場の雰囲気が伝わってくるような録音で、音に包まれて思いっきり抒情性を味わいたい時には、よい演奏録音だと思います。
ハスキルは、この曲を録音していませんね。このような幸せな気分に溢れた曲には、縁がなかったのでしょう。
HABABI

投稿: HABABI | 2011年9月25日 (日) 20時02分

ハルくん、こんにちわ

上げられた録音の内、私が持っているのはリパッティのLPとCDのみです。と言うか、この曲の録音はこれしか持っていません。それにしても、この録音に限らず、リパッティの録音って、良い音のがほとんどありませんね。当時のEMIにデッカの技術があったら、素晴らしい音で残ったのですが。

映画でも使われた第2楽章は大好きです。

投稿: matsumo | 2011年9月25日 (日) 20時44分

メタボパパさん、こちらへもコメントありがとうございます。

リパッティ盤はライブ録音ですので、条件的には最初から厳しかったと思います。
記録として価値が有るということでやむを得ないのではないでしょうか。

バレンボイムについては、この曲に関しては新盤のほうがイイかなあと思っています。

投稿: ハルくん | 2011年9月25日 (日) 22時18分

HABABIさん、こんばんは。

ペライアのこの曲の演奏は聴いていませんが、とても向いているかもしれませんね。
逆にハスキルは、どうもこの曲には向いている気がしませんよね。実際に録音も無いようですし。やはり哀しみに浸るような曲に向いているんですかねぇ。

投稿: ハルくん | 2011年9月25日 (日) 22時24分

matsumoさん、こんばんは。

リパッティのこの曲の録音は少々悪すぎますね。
でもショパンのソナタ3番とかモーツァルトのソナタ8番とか、中々良いと思えるものも有りますよ。そういう曲は、他のハイファイ録音の演奏家と比べても魅力で勝るように思います。

投稿: ハルくん | 2011年9月25日 (日) 22時27分

ハルくんさま、


ごぶさたしております。
急きょ20番のオケパート(もちろんピアノ版)を仰せつかり、急ぎ勉強中です。
20、21、25、27番が入っているもの(グルダ、アバド、ウィーンフィル)を聴いてまして、20番より「おおおお~」っと思ったのが21番。こんないい曲だったっけ?と思わず興奮です。
ふとこちらのブログにもたしかグルダ盤のことが書いてあったような・・・と思いだし、やってまいりました。

・・・やはりそうでした(笑)。

私は20番ばかりやたらもっていてるのですが、たまにはほかのも聴かなきゃ~と思ったことでありました。

またお邪魔いたします♪

投稿: いぞるで | 2011年11月 8日 (火) 15時56分

いぞるでさん、こちらこそご無沙汰しておりました。お元気そうで何よりです。でも最初はお名前が判りませんでした。(笑)

20番は確かに演奏の聴き比べをして一番面白い曲ですね。でも素晴らしい曲は他にもたくさん有りますよ。

21番のグルダの演奏は好きですね~。アバド/ウイーンフィルがまた良いんですよね。

しかし20番のオケパートとは楽しそうです。独奏パートよりも面白いかもしれません。

投稿: ハルくん | 2011年11月 8日 (火) 21時29分

バレンボイムの新盤はなんといってもピアノの美しさが
際立って、この曲の良さを巧く引き出しています。
ただ、オケの響きが鈍重に響く感じがマイナスです。
名演であることには間違いありませんが。

宇野氏の1994年の「協奏曲の名曲名盤」という本での
「バレンボイムの新盤があれば他はいらないくらいだ」
はいくらなんでも過大評価でしょう。
グルダ&アバド盤も素晴らしいですし。

投稿: 影の王子 | 2014年12月23日 (火) 19時25分

影の王子さん

バレンボイムの新盤はとても良いですが、宇野氏の評価は確かに過大に思います。
グルダ/アバド盤、アンダ弾き語り盤、それにルプー/シーガル盤が自分のベスト3です。

投稿: ハルくん | 2014年12月23日 (火) 23時19分

こんにちは。

カザドシュ&セル盤は録音の古めかしさに目を瞑れば
かなりすばらしいですね。
デリケートだけれども神経質ではない絶妙のバランスです。

宇野氏に酷評されたセルですが、同じモーツァルトの交響曲
39番&40番が良かったので聴いてみましたが正解でした。

投稿: 影の王子 | 2017年7月 2日 (日) 16時36分

影の王子さん、こんにちは。

カサドシュ&セル盤は良いですよね。
こういう脂っこく無い、軽やかでコロコロ(だからロココ?)した音がやはりモーツァルトには適しています。

録音が優れないのが本当に残念ですね。

投稿: ハルくん | 2017年7月 3日 (月) 15時18分

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