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2011年8月28日 (日)

モーツァルト ピアノ協奏曲第17番ト長調K.453

さてさて、サマー特集も終了して、モーツァルトのピアノ協奏曲に再び戻ろうかと思います。再開の曲は、ウイーン時代のピアノ協奏曲の六つ子作品、第14番から第19番までの四男坊にあたる、ピアノ協奏曲第17番です。この曲は彼の弟子のバルバラ・プロイヤー嬢のために書いたもので、第15番、16番と比べると技巧的には易しくなっています。それにしても、この曲はおよそ優美さという点では、ウイーン時代の作品の中でも髄一だと思います。モーツァルトは女性の為に曲を書くときには明らかに意識をしていますね。しかも愛弟子ですから、愛情(下心?)があふれ出ています。さすがです。ただし第2楽章や第3楽章の中に聴かれるような音の翳りは既にモーツァルトの本質を表していています。彼自身もこの曲はとても気に入っていたようですが、作曲家オリビエ・メシアンは、この曲について「モーツァルトが書いた中で最も美しく、変化とコントラストに富んでいる。第2楽章アンダンテだけでも、彼の名を不滅にするに充分である。」と絶賛しています。僕はモーツァルトの10番台のピアノ協奏曲の中では、第15番が一番好きではありますが、この第17番もとても好きです。

第1楽章アレグロは、春の暖かな風が頬を撫ぜてゆくようなイントロに始まる、とにかく優美極まりない曲です。けれども展開部の充実した内容は、さすがに中期のモーツァルトです。

第2楽章アンダンテは、「やや遅めに」と指示されているように、深い静けさに包まれた非常に美しい音楽です。特に中間部で転調して移りゆく音の陰りと悲しみの雰囲気は、後期の作品群がすぐ近くまで来ていることを暗示させるに充分です。あぁ、モーツァルト!

第3楽章は、オペラ・ブッフォ調の実に楽しい曲です。「魔笛」に登場する天衣無縫なパパゲーノが舞台の上で飛び跳ねているような光景を思い浮かべてしまいます。中間部で突然音楽が悲しみに変わるのもまた、パパゲーノの心のようです。

この曲も、僕がアナログ盤時代に聴いていたのは、ピーター・ゼルキンとアレキサンダー・シュナイダーの演奏でしたが、現在愛聴しているCDは以下の通りです。

671ゲザ・アンダ独奏/指揮、ザルツブルク・モーツァルテウム室内管(1961年録音/グラモフォン盤) 全集盤からの演奏です。テンポは中庸ですが、生命力が素晴らしいです。曲によっては多少の荒々しさを感じることがあるアンダですが、この曲では優美さと躍動感が高次元で融和しています。2楽章の深い翳りも非常に素晴らしいですが、3楽章のリズムの切れの良さとコミカルな表情は、まるで名歌手が歌い演技するパパゲーノのようで最高です。アンダはピアノだけでなく、指揮者としても素晴らしいです。

2edebf2ef962870ed7a190d588ced904ダニエル・バレンボイム独奏/指揮、イギリス室内管弦楽団(1967年録音/EMI盤) EMIの全集盤に含まれています。1楽章は意外に速いテンポです。その為か幾らかせわしなく、優美さが充分表し切れていないように感じます。一転して2楽章では遅めのテンポですが、その割に音楽の深みはいま一つです。流れも余り良くないように感じます。3楽章は前半を遅めのテンポでじっくりと各フレーズを歌いますが、楽しさが不十分です。後半はテンポアップして躍動感が感じられて良いです。

Fi2546314_0e アンネローゼ・ シュミット独奏、マズア指揮ドレスデン・フィル(1976年録音/独edel盤) 全集盤からの演奏です。まずはマズア率いるオケ伴奏の美しさに魅入られます。テンポ感覚も中庸かつ抜群です。ウイーン的に甘くなるわけではなく凛とした佇まいが逆に魅了的です。普段はいまひとつのマズア爺が顔に似合わず本当にチャーミングな指揮をしています。シュミットのピアノも堅牢で、女々しくならない格調の高さを感じます。現代的に過ぎないピアノらしい音も好きです。第2楽章の悲しみの表情と美しさも感動的です。第3楽章はコミカルというよりは格調が高いので、DFディースカウのパパゲーノといった雰囲気です。

Mozart_serkin ルドルフ・ゼルキン独奏、アバド指揮ロンドン響(1981年録音/グラモフォン盤) BOX選集に含まれています。冒頭のオケ伴奏はアバドが優等生的に健闘していますが、アンダやマズアの魅力には及びません。ゼルキンのピアノはここでもゆったりと風格と味わいを感じさせますが、少々のんびりし過ぎた印象です。第2楽章では、ゼルキンが意外や余り淡々とはならずに、むしろ大きな表情で歌います。深い悲しみがドラマティックで感動的です。第3楽章はオペラが得意なアバドに適しているのでしょう。素晴らしくチャーミングな伴奏、というよりも主役です。ゼルキンもそれに乗って生き生きとしています。

ということで、シュミット盤やゼルキン盤も捨てがたい良さが有るのですが、総合的に文句の付けようの無いアンダ盤がやはり一番好きです。

<関連記事>
モーツァルト ピアノ協奏曲第24、21、17、12番 ポリーニ/ウイーン・フィル盤

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モーツァルト(協奏曲: ピアノ 第10~19番)」カテゴリの記事

コメント

ハルくん、今晩は。モーツァルトのピアノコンチェルトの一松(四男なのにね)くんは、もう少し見聞を広げてからと言うことで…
今日8月28日はヴァイオリンの日なんですって?わが愛車のナビゲーションが教えてくれました。何でも国産第一号完成の日なんだそうです。
この日に合わせて晶子様のブルッフを放送したのかな?1時間枠に納めるために、チューさんを取ったNHKの選択は間違いじゃないでしょうよ。晶子様を優先したらそちらの方が許し難い!
晶子様へのプロポーズ、妄想で終わらせては勿体ない。尾高さんはピアニストのゆきこ夫人。佐藤しのぶさんの旦那様は指揮者の現田氏。樫村大進氏の奥様はマリンバ奏者。奥村愛さんの旦那様だってチューバ奏者だし、音楽家同士は上手くいくんですって!女優さんを奥様にした金聖響氏はブッブー×でしたよん。

投稿: From Seiko | 2011年8月28日 (日) 20時40分

Seikoさん、再びのコメントをありがとうございます。

今日はヴァイオリンの日ですか。調べたら国産第一号は東京深川の職人さんが完成させたんですってね。この人は、どじょうや深川丼の店を出さないで、どうして異国の楽器造りなんかに励んだのでしょうね?

忠さんと晶子様ならば、特別に2時間枠に拡大すれば良かったのですよ。そもそもN響アワーだってカットが多過ぎます。番組自体は有り難いですが、もっとサービスしてほしいなぁ。

晶子様へのプロポーズ大作戦(懐かし!)。やっぱりヴィオラ漫談に賭けるしかないかなぁ。初舞台(末広亭?)のチケットは是非買ってくださいね。(笑)

投稿: ハルくん | 2011年8月28日 (日) 21時06分

こんばんは

この名曲シリーズに対して、先回りして聴いて
おくようにしているのですが、この17番だけは
見つからず、歯がゆい気持ちでいっぱいです。
バレンボイム盤はあったはずなんですが...
18番はもう先回りしましたけど。

投稿: メタボパパ | 2011年8月28日 (日) 23時48分

メタボパパさん、こんにちは。

そうなんですか。いつも予習をして頂いているんですね。
そのレコードが見つかると良いですね。

投稿: ハルくん | 2011年8月29日 (月) 07時27分

はるくんさん、こんばんわ。
ついに17番まできましたねぇ・・・。
私も今はアンダ盤が一番好きなのです(この全集の中でもピカイチ的に優れていると思います)が
私はあと二ついや正確には三つをどうしても推挙(何たる言い方)したいです。
私の17番といえば
一つ目はバーンスタインのDVD盤オケはもちウィーンフィル
これが実にチャーミングですばらしいのです。私がこの曲のとりこになったきっかけは実はこのバーンスタイン盤でした。
それからプレヴィンとウィーンフィル盤・・、こちらもさすがの演奏で彼の十八番の24番と一緒に1984年だったかにリリースされたもの。この17番も超のつく名演奏でした。そのプレヴィン実はこの録音の10年以上前にボールトとロンドン交響楽団でも録音していました。これも実にすばらしい・・・。彼のモーツァルト演奏の原点がこの17番と24番なのです。それからついでにもうひとつ、カザドシュがセルと組んで録音した1968年のステレオ盤。この演奏の魅力はなんと言うのでしょうか、しゃれた演奏で本当に楽しいものでフランス的としか言いようのないものでした。
というわけで、三人のピアニストで四つを紹介させていただきます。
私17番本当に好きなんです、第3楽章でうきうきしてしまうのです。
ということで、勝手気ままなお話でした。 

投稿: まつやす | 2011年8月30日 (火) 22時53分

まつやすさん、こんばんは。

まつやすさんは本当に17番がお好きなのですねー。さすがです。
バーンスタインはこの曲が好きみたいですね。旧盤も良かったようですし。
残念ながらプレヴィン盤はどちらも聴いたことが有りません。
カサドシュのモーツァルトは僕も好きなのですが、17番は残念ながら持っていません。
いやー、聴いてみたい演奏が沢山有って困ります。
でも一番お好きな演奏が、同じアンダとのことなので安心しました。これは本当に素晴らしい演奏だと思います。

投稿: ハルくん | 2011年8月31日 (水) 22時05分

ハルさん、こんばんは。
私も17番に関しては、プレヴィン=ウィーン・フィルのCDを推します。
プレヴィンのピアノも素晴らしいですが、それ以上にウィーン・フィルのサウンドがとても美しく、この曲調にピッタリだと思います。
録音も優秀で、ベストのCDですね。

投稿: たろう | 2011年9月 1日 (木) 20時44分

たろうさん、こんばんは。

おおっ、たろうさんもプレヴィン/ウィーンですか。これで二票。人気が有りますね。
こりゃ是非聴かねばならないですね。
どうもありがとうございました。


投稿: ハルくん | 2011年9月 1日 (木) 22時21分

ハルくん、こんにちは。
第3楽章をパパゲーノとは、的を得てますね。聴いていて飽きることなし、本当に楽しい曲ですね。中間部の転調、後半のプレストは、モーツァルトならではといったところ。
さて、愛聴盤ですが、なかなか一つに絞れませんが、ゼルキン、バレンボイム(BPO)、カサドシュ でしょうか。特に、ゼルキンは、第1楽章は、ゆったりと優しく丁寧に歌っていますが、第3楽章では、生き生きと。また、テンポが快速であっても、フレーズの歌い出しの丁寧なところ、リタルダンドなど、泣かせますね。バックも管楽器、なかでもファゴットが随所でいい味を出しています。

投稿: ひらけん | 2011年9月 4日 (日) 11時22分

ひらけんさん、こんにちは。

17番は人気が有りますね。実に楽しい良い曲ですものね。

やはりゼルキン盤が特にお気に入りでいらっしゃるようですね。あの3楽章の楽しさはアバドの指揮があればこそだと思います。いや本当に素晴らしいです。

投稿: ハルくん | 2011年9月 4日 (日) 12時06分

個人的には内田光子/テイト指揮が一番だと思っています。

投稿: Papageno | 2011年9月 4日 (日) 22時29分

Papagenoさん、こんばんは。

内田さんの17番は聴いたことが有りません。以前、別の曲を聴いてみて、好みの音では無かったために、それ以来他の演奏をほとんど聴いていません。
これはまったくの個人的な嗜好ですので、どうかお気を悪くされないでくださいね。

投稿: ハルくん | 2011年9月 4日 (日) 23時55分

あの演奏会の全局放送は別の時間帯にあったみたいですよ。

もともとモーツァルトは官能に任せて弾く曲ではないですが、頭でっかちで考えすぎの弾き方も嫌いなので、内田光子のような内省的な演奏、私は好きですよ。

投稿: かげっち | 2011年9月 6日 (火) 13時06分

かげっちさん、こんばんは。

僕の好きなモーツァルトは、どちらかいうと本能や感覚に任せて天衣無縫というか、自由自在というか、そんな演奏スタイルが好きなんです。苦手なのが学究的、理論的なスタイルです。内田さんはストイックなまでに核心に迫ろうと言う気構えを感じますが、実はそこが苦手です。どうも聴いていて窮屈に感じられてしまうのです。これはもう男と女の関係みたいなものです。一度、二度デートをして、窮屈に感じた相手とはそのあとはまたデートしたいとは思いませんよねぇ。それで余り聴いていないんです。でも、一緒に暮らしてみたら実は良い女房だったってことも有るのかも知れませんが。

投稿: ハルくん | 2011年9月 6日 (火) 21時14分

デレク・ハンを購入しました。とてもいいです。
ホグウッド、ロバート・レヴィン盤にて親しみましたが、モダン楽器でもやはりいいものはいいんだと思いました。
デレク・ハン盤は廉価盤のようですが、演奏、さにあらず、一見の価値ありです。

投稿: itokki | 2016年5月 3日 (火) 17時44分

itokkiさん、こんにちは。

コメントを頂きましてありがとうございます。
デレク・ハンは室内楽のようなこじんまりした曲は中々に聴かせますね。
モーツァルトは聴いたことがありませんが良いかもしれませんね。

レヴィン盤は有名ですが、モーツァルトのピリオド楽器演奏は余り好まないので持っていません。
といって現代的な大ホール向きのピアノが好きなわけでもありませんが。

投稿: ハルくん | 2016年5月 6日 (金) 12時37分

バーンスタインの弾き振りによる2種

CBS盤はモノラル録音なので愉しくありません。

ウィーン・フィルとのは映像と同じ音源だと思いますが
手持ちのDG盤は
1981年のウィーン・フィルが実に魅力的です。
全体的に少々重たい演奏ですが
モーツァルトのピアノ協奏曲の醍醐味を満喫できます。

投稿: 影の王子 | 2017年12月 5日 (火) 20時00分

影の王子さん、こんにちは。

バーンスタイン/ウイーンフィルの弾き振りによる演奏というと第15番にも美しい名演奏が有りましたね。
このコンビが録音した交響曲集もとても気に入っています。

投稿: ハルくん | 2017年12月 6日 (水) 12時43分

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