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2011年6月13日 (月)

モーツァルト ピアノ協奏曲第9番「ジュノーム」変ホ長調K.271 名盤

モーツァルトのピアノ協奏曲第8番「リュッツォウ」は、このジャンルで飛躍的な進歩を遂げた最初の傑作だと思いますが、続く第9番「ジュノーム」はそれ以上の傑作です。第10番までが生まれ故郷ザルツブルク時代の作品なのですが、その中で最も充実した作品と言えば、やはりこの第9番であるのは間違いありません。この協奏曲は、フランスの女流ピアニスト、ジュノーム嬢がザルツブルクを訪れた際にモーツァルトが彼女に献呈したと言われてはいましたが、具体的にそれがどこの誰なのかは、長い間、判らなかったらしいです。それが判明したのは何と2004年になってのことで、ジュノームというのはモーツァルトの友人でフランス人舞踏家ジャン・ジョルジュ・ノヴェルの娘のヴィクトワール・ジュナミのことだそうです。彼女が相当なレベルの腕前だったのは、この曲に要求される技巧でも明らかです。この曲は音楽的な内容も凄く大胆で新鮮に感じます。後期の20番台の曲を含めても、コンサートでの演奏回数の非常に多い曲です。

第1楽章アレグロは、オーケストラの第1主題に応えてピアノがさっそうと登場するイントロが非常に印象的です。続く部分も勇壮でありながら優美な趣を持つ素晴らしい楽章です。

第2楽章アンダーティーノはハ短調で、弦楽器が寂寥感に満ちた旋律を奏でます。続いてピアノが淡々とモノローグのように歌います。まるで後期のような深さがあります。

第3楽章ロンド・プレストは若さが爆発するような情熱を感じます。それでいて貴族に献呈した曲であるかのような気品の高さを失いません。

この曲にはモーツァルト自身が書いたカデンツァが何種類も残されているそうです。それはモーツァルトがこの曲を好んで何度も演奏したことを示す証拠なのでしょうね。

それでは僕の愛聴盤です。

1197111202 クララ・ハスキル独奏、ザッヒャー指揮ウイーン響(1954年録音/フィリップス盤) 昔は「モーツァルトといえばハスキル」という評判があって、色々と聴いてみました。結果、確かに気に入った演奏も有りましたが、全般的にピアノの音がどうも冴えない気がしたのです。それはCDで聴いても感じます。何故かオフマイクのまるで風呂場で録音したような風なのです。でも今ではハスキルの音が本当は美しい(はずである)ことはよく判ります。現代の電子楽器のような無機的な音とは全く異なる、木箱であるピアノ本来の自然な響きの音なのです。それが一部の録音を除いて中々聴けないのが残念です。この録音もしかりですが、人間の肌のぬくもりを感じさせる演奏が心をとても和ませてくれます。

671 ゲザ・アンダ独奏/指揮、ザルツブルク・モーツァルテウム室内管(1968年録音/グラモフォン盤) 全集盤からの演奏です。アンダの演奏は速過ぎも遅過ぎもしないテンポで本当に凛としていて、まるで小さな耳を真っ直ぐに立てた柴犬のようです。飼い主に媚びないけれども、どこまでも忠実で誠実なそれです。技術が確かなので余裕をもって一音一音を実になめらかに弾き切れます。それも常に音楽に誠実な心の裏付けがあります。2楽章などは心のこもっている点で非常に感動的です。また、ピアノの音が余り現代的で無いのにも好感が持てます。オーケストラも表情が豊かで、アンダの指揮のセンスの良さには舌を巻きます。

262 フリードリッヒ・グルダ独奏、ベーム指揮バイエルン放送響(1969年録音/オルフェオ盤) ミュンヘンでの両者の共演ライブです。グルダのピアノはスタッカートで短めに切る音が多いです。個人的には少々スッキリし過ぎのように感じてしまいます。ベームの音も同様に引き締まった低脂肪の演奏なのですが、味わいが損なわれないのはさすがだと思います。できればウイーン・フィルを指揮したベームの伴奏で聴いてみたかったです。

2edebf2ef962870ed7a190d588ced904 ダニエル・バレンボイム独奏/指揮、イギリス室内管弦楽団(1973年録音/EMI盤) EMIの全集盤に含まれています。1楽章は幾らかテンポを遅めに取って、じっくりとこの曲の典雅さや優美さを表現しています。ですので聴き手によっては、もたれると感じる人も居るかもしれません。2楽章のモノローグも淡々と味わい深いです。3楽章は一転して速く活力に溢れます。それにしてもイギリス室内管は優秀で、バレンボイムの指揮も繊細で美しいです。

Fi2546314_0e アンネローゼ・ シュミット独奏、マズア指揮ドレスデン・フィル(1978年録音/独edel盤) どの曲にも共通しているのですが、シュミット女史とマズアの演奏は勝手にルバートをしたりしない、堅実でオーソドックスなものです。極めて古典的と言えるのかもしれません。終楽章などはテンポ速めですが、浮ついた印象は有りません。全体的にハッとするような面白さは無いですが、退屈な演奏かというと、そんなことは無く、非常に安心して聴いていられます。曲の良さも充分に伝わってきます。むしろ最初に聴くには一番良い演奏なのかもしれません。

Mozart_serkin ルドルフ・ゼルキン独奏、アバド指揮ロンドン響(1981年録音/グラモフォン盤) BOX選集に含まれています。第1楽章はハスキル以上に遅いテンポで非常にゆったりしています。所々でルバートを効かせるので尚更です。けれども深い呼吸が自分のものになっていているので、違和感は感じません。但しアバドの方は、この遅さに幾らか窮屈そうです。第2楽章は深い悲しみの表情が秀逸で非常に心を打たれます。第3楽章も遅いですが、生命力を失うことなく堂々と風格を感じる演奏です。

Felista_00000448546 ジャン=マルク・ルイサダ独奏、メイエ指揮オルケストラ・ディ・パドヴァ・エ・デル・ヴェネート(2001年録音/RCA盤) この曲を贈られたフランスのピアニストの演奏です。いかにもルイサダらしい、とても繊細でニュアンスに溢れたピアノです。ピアノの音は現代的なのですが、テンポに充分落ち着きが有って表情が豊かなので少しも無機的に感じません。しかもそれが少しも演出臭く無いのです。この人はやはり本当の音楽家だと思います。ショパン演奏はもちろん素晴らしいですが、モーツァルトも実に素晴らしいと思います。メイエの指揮は手堅いものです。

というわけで、僕はこの曲に関してはアンダを一番好んでいますが、バレンボイムやゼルキンやルイサダもとても好きです。フランス人の演奏として聴きたかったのは若いころのエリック・ハイドシェックなのですが、残念ながら録音は有りません。

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モーツァルト(協奏曲: ピアノ 第01~9番)」カテゴリの記事

コメント

ハルくんさん、おはようございます

曲についてよく調べ、また、演奏についても的確にご紹介頂き、とてもありがたく思っております。
ハスキルの録音は、明瞭さに欠けるものが多いですね。この曲では、ザッヒャーとの録音は、オケの方はまあまあですが、ピアノがそうですね。ハスキルには、このほか、シューリヒト指揮/シュトゥットガルト放送交響楽団とヨッフム指揮/バイエルン放送交響楽団とのものがあり、後者は録音に残響が少なく、比較的よく聴こえて来ます。ハスキルの演奏は細かな動きが多く、いろいろ沢山聴こえて来るような感じがしますね。
ハイドシェックには私も関心があり、20番以降のヴァンデルノート指揮との録音は持っていますが、若い頃の録音ではこの曲はなかった様ですね。HABABI

投稿: HABABI | 2011年6月13日 (月) 07時01分

HABABIさん、こんばんは。

ハスキルの録音は、どうも当時のフィリップスのプロデューサーの意図であのような音作りをしたようです。もう少し自然な音作りをしてもらいたかったです。それに比べると他のレーベルやライブ録音だと、普通の音で録れていますね。シューリヒト盤は昔LP盤を持っていましたが、現在は有りません。ヨッフム盤はたぶん聴いていないと思います。現代から見れば随分まったりとしたスタイルでしょうが、だからこそ今では聴けない個性的な魅力を感じます。
ハイドシェックは後年にはこの曲の録音が有りますが、僕が好きなのは若い頃の演奏なんです。本当に素敵なピアノを弾いていましたね。

投稿: ハルくん | 2011年6月13日 (月) 22時35分

今晩は、ハルくん様。
この記事を読んだ3日後、偶然ブックオフでクララ・ハスキル盤を見つけ早速購入。 さあて風呂場の録音って、ハルくんが表現した音はどんな感じだろうと聞いてみました。

ダメですねぇ。感性の乏しい私めには、心に感じるものを、的確な言葉に置き換えることが出来ません。
クララおばさんの演奏は、普通に上手いでした。普通に○○っていう言い方もおかしなもんですよね。今、よく使われてるけど。???
アルバムジャケットのクララおばさんのルックス可愛くて好きだな。
『奥様は魔女』に出てくるクララおばさんによく似てます。ははは、古いTV番組、持ち出しちゃった。昭和だなぁ(笑)
クララおばさんをもっと聞き込みます。
お休みなさいZzz…

投稿: From Seiko | 2011年6月18日 (土) 02時15分

Seikoさん、おはようございます。

クララおばさんって「魔女」というよりは、やはり修道院のシスターというイメージですねぇ。生涯を音楽に捧げた人から自然ににじみ出るオーラを感じます。この人の音楽の本質は「愛」なのではないかと。マザーテレサみたいなものですね。この人のピアノじっくりと聴きこんでみてくださいね。

「風呂場の録音みたい」と書いてみたものの、そんな録音を実際に聞いたことは有りません。でも昔「寺内貫太郎一家」で、マチャアキたちが風呂場で歌を歌っていたような記憶もかすかに。昭和だなぁ(笑)

投稿: ハルくん | 2011年6月18日 (土) 09時37分

こんにちは

ハスキルの録音で、20、24番は確かに明瞭さに
欠けると思いますが、私の所有しているレコード
(蘭フィリップスA00259L)では全くそんな感じは
受けません。
というよりも、もっともハスキルのタッチが明瞭に
分かる録音だと思います。しかし、みなさんに悪い、
悪いと言われると、くじけそうですけど。

投稿: メタボパパ | 2011年6月19日 (日) 17時47分

メタボパパさん、こんにちは。

ステレオ盤の20、24番の録音は悪くないですね。僕のは94kHz 24bitのCDですが、確かにハスキルの音が良く分かります。良質のアナログ盤でしたら尚更でしょうね。
全てが悪いと言うわけでは有りませんが、フィリップス録音の傾向として指摘をしました。余り気になさらないでください。

投稿: ハルくん | 2011年6月19日 (日) 18時48分

ひらけんです。コメント第6番です。
家にいるジュノーム嬢を探しましたら、田部京子さんとハスキルさん(指揮シューリヒト)とソフロニツキーさんとシュミットさんがいらっしゃいました。
この曲に関しては女性ピアニスト以外を聴く気になれません。曲も女性らしく、とびきりチャーミングな気がしませんか。
さて、お嬢さんかどうかわかりませんが、というより、敢えてコメントしませんが、演奏その他総合勘案して、よく手に取る盤は、田部さんでしょうか。デンオンの録音も良質でジャケも良いですよ。
ちなみに、ゼルキンおじいさんの演奏も・・・。スローテンポで美しくロマンティック、時折魅せるリタルダンドなんか、もう、思わずリピートしたくなります。バックのアバドも良いですね。
田部嬢とゼルキンとのどちらが推薦盤かわからなくなりましたが、そういうことにしておいてください。

投稿: ひらけん | 2011年7月27日 (水) 21時47分

ひらけんさん、こんにちは。

この曲は飛び切りチャーミングなので、女流ピアニスト(できれば美人の??)に是非弾いてもらいたいところですが、男性でも名演奏ならば許せちゃいますね。
ゼルキン爺の晩年のモーツァルト演奏も、のんびりしていて良いですね。結局は色々な良い演奏を受け入れる懐の広い音楽ということでしょうか。

投稿: ハルくん | 2011年7月27日 (水) 23時38分

ハルくんさん、こんばんは。ひらけんです。
またまた、フェスタ・サマー・ミューザ川崎に行ってきました。今宵は、ロッシーニ「絹のはしご」、モーツァルト「ジュノーム」、「ハフナー」でした。お目当ては、もちろん「ジュノーム」で、ハルくんのブログを読み「行くしかない」と心に決め聴いてきました。
ピアニストは河村尚子さんです。私はステージ近くに陣取りましたので、哀愁を帯びた二楽章は表情もよくわかり、音も明瞭で細かいニュアンスまでも感じることができました。また、河村さんは美人だし、感激!で、今晩、夢に出てきそうです。さらにCDも購入してしまいました。(もうすぐ新譜も出ますよ!)
ちなみに、園田隆一郎(若手)指揮の日本フィルもイキイキとして、良かったですよ。ロッシーニのオーボエ吹きもうまかった。
今日は良かったなぁ。ジュノーム嬢が夢に出てこないかなぁ・・・。
しかし、今日で、楽しかった夏休みは終了で、明日から現実生活に戻ります。さぁ、頑張りましょう!

投稿: ひらけん | 2011年8月10日 (水) 20時47分

ひらけんさん、こんばんは。

今宵もコンサートでしたか!
正にサマーフェスタされていらっしゃいますね。
河村尚子さん、確かに美人ですね。しかもピアノも素晴らしかったですか。では、夢にはジュノーム嬢、河村嬢、どちらが登場してもイイですね~。
そして明日から現実生活を頑張ってくださいね。

投稿: ハルくん | 2011年8月10日 (水) 22時16分

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