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2011年5月 7日 (土)

~名曲シリーズ~ ワーグナー「ジークフリート牧歌」

モーツァルトのピアノ協奏曲特集を始める前に、もう一曲だけ名曲シリーズと行きます。

リヒャルト・ワーグナーというと、どうしても巨大なスケールの英雄的な音楽というイメージが強いのですが、小編成の管弦楽用の「ジークフリート牧歌」という一品が有ります。この曲は、本当に心に染み入るような優しさと愛らしさに溢れた佳曲です。僕にとっては、夜更けに一人静かに聴きたくなる曲の最右翼です。

Wagner_siegfried

ワーグナーは長年不倫関係にあったリストの娘のコジマと、ようやく正式に結婚が出来た年のクリスマスに(12月25日がコジマの誕生日でした)彼女への贈り物として、この曲を書きました。それはまた、自分の子供を産んでくれたコジマに、ねぎらいと感謝を示す意味も有りました。ワーグナーがこの曲をコジマへ初めて聴かせた場所は、当時二人で暮らしていたスイスのルツェルンの邸宅でしたが、その時の様子はおよそ次のようなものだったそうです。

クリスマスの早朝、ワーグナーの弟子のハンス・リヒターがチューリッヒのオーケストラから選んだ17人の腕利き奏者達が家に到着すると、こっそりと台所で楽器の音合わせを行いました。それから、彼らはコジマの寝室の外の回り階段に譜面台を並べました。ワーグナー自身は、指揮をする為に階段の最も上に立ち、演奏者達はその下の階段に順番に並びました。いよいよ演奏が始まると、それを知らされていなかったコジマは大変驚いて感激しました。演奏の出来映えも実に見事だったそうで、その日のうちに数回も繰り返し演奏されました。

この曲は後から、楽劇「ジークフリート」の中に転用されましたが、それは本当に美しく神秘的な場面の音楽となっています。ですが、原曲の「ジークフリート牧歌」は、曲の生まれた背景から、一管編成の規模で書かれています。ですが実際に演奏される際には、編成を大きくすることがほとんどです。

この名曲は、ワーグナーを得意とする指揮者達が精一杯の愛情を込めて演奏していますので、僕の愛聴CDをご紹介します。

Pocl4304_l ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウイーン・フィル(1955年録音/DECCA盤) 「リング」を指揮すれば、あれほどまでに豪快な演奏になるクナですが、この曲の場合はいじらしいほどの優しさに溢れた演奏をします。50年代のウイーン・フィルの懐かしく甘く柔らかい響きも素晴らしいです。晩年の再録音と比べると、クナにしてはテンポも比較的速めです。モノラル録音で鮮度が落ちていますが、一応は平均レベルです。

Wacci00003 カール・シューリヒト指揮シュトゥットガルト放送響(1955年録音/ヘンスラー盤) クナと同じ年のライブ録音です。当然モノラルですが、中々に良好と言えます。いかにもシューリヒトらしく、速いテンポであっさりと進みますが、一見そっけないようでいて、良く耳を傾ければ深い愛情に満ち溢れているのが分かります。ニュアンスに富んだ、奥の深い味わいは格別です。

1197070962 ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ミュンヘン・フィル(1962年録音/ウエストミンスター盤) 同じウエストミンスターにはブルックナーの8番という超弩級の名盤が有りましたが、ワーグナーの管弦楽集がステレオ録音で聴くことが出来るのもこたえられません。デッカ盤に比べると、随分と甘さが抜けて素朴な味わいです。ともすればメカニカルで無機的に感じる現代の演奏とは全く異なる、非常に人間的な肌触りのする演奏です。

Klempe77d オットー・クレンペラー指揮ウイーン・フィル(1968年録音/テスタメント盤) これはウイーン芸術週間のライブ演奏です。この曲の演奏はほとんど全て編成を大きめにしてありますが、クレンペラー盤はオリジナルの最小編成です。その為に、独奏で弾かれる第一ヴァイオリンのいじらしいほどの表現が魅力倍増となって聞こえます。コジマが感動したのは、きっとこういう音だったのだと納得させられてしまいます。この演奏を聴かずして、この曲は語れません。

Wagner_regner ハインツ・レーグナー指揮ベルリン放送響(1978年録音/シャルプラッテン盤) かつてのレーグナーの代表的な名演奏です。相当に遅いテンポで、じっくりと進みますが、決してもたれることが有りません。楽器のハーモニーの美しさも、特筆ものです。美音と落ち着いた雰囲気に、時を忘れていつまでも浸っていたくなるような素晴らしい演奏です。録音も優秀です。

Wagner_cheri セルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィル(1993年録音/EMI盤) レーグナーを更に上回る遅いテンポです。ブルックナーなどでは、この遅さにもたれてしまい、息苦しさを感じることが多いですが、この演奏は深い音楽の雰囲気にどっぷりと浸らせてくれます。ライブ演奏ですが、さすがにチェリ/ミュンヘンだけあって、実に美しい音と出来栄えです。

というわけで、クレンペラー/ウイーン・フィル盤こそが、この曲の本来の姿を伝える最高の演奏だと思いますが、それ以外ではクナッパーツブッシュ/ミュンヘン・フィル盤、レーグナー盤、チェリビダッケ盤あたりも、曲の素晴らしさから、やはり充分に満足できる名演奏だと思います。

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ワーグナー」カテゴリの記事

コメント

ハルくん、こんにちわ

この曲は、演奏者を選ばない名曲と言う感じがしています。ですから、私にとっては誰の演奏でもいい感じです。

上記では、クナ指揮ミュンヘンpo.、クレンペラー指揮ウィーンpo.、レーグナー指揮ベルリン放送O.のものを持っていますが、それ以外には、フルベン指揮ウィーンpo.、クレンペラー指揮フィルハーモニアO.、トスカニーニ指揮NBCso.、マタチッチ指揮NHKso.なんて言うのもあります。その上、ワルター指揮のものではコロンビアso.、ウィーンpo.のほか、ボストンso.、ロイヤルpo.、ロサンゼルスpo.なんて言うのもありますが、この曲は、やはり、録音が良い方がいいですので、コロンビアso.のものが最も好きです。

投稿: matsumo | 2011年5月 7日 (土) 17時14分

matsumoさん、こんばんは。

確かに、どの演奏でも曲の良さを味わうことが出来ますね。「演奏を選ばない名曲」というのは、案外的を得ているかもしれません。

ワルターの演奏は残念ながら聴いたかどうか、良く憶えていません。さぞかし幸福感に溢れた良い演奏なのでしょうね。

投稿: ハルくん | 2011年5月 7日 (土) 23時13分

おはようございます
とても穏やかな中にも、ワーグナーらしい”うねり”や盛り上がりが含まれている曲ですが、歴史的な価値のある演奏録音が残されています。ジークフリート・ワーグナー指揮、ロンドン交響楽団、1927年4月録音です。演奏時間は16分10秒。作曲家、指揮者として活躍し、英国生まれの女性と結婚し4人の子供をもうけ、バイロイト音楽祭の監督をしたジークフリートは、母コジマの死の半年後に亡くなっています。
偶然入手したLPで、想像のとおり、弦の響きは期待できませんが、管の音は意外とそれらしく録れており、曲の大まかな雰囲気は伝わって来ます。ハルくんさんの記事を読み、たまには、こんなレコード(記録)を聴くのもいいのではないかと思い、引っ張り出して久し振りに聴きました。

投稿: HABABI | 2011年5月 8日 (日) 07時24分

HABABIさん、こんにちは。

それはまた大変に貴重なレコードをお持ちですね!
ジークフリートは作曲家としては成功しなかったようですが、指揮者/演出家としては父の後を立派に継ぎましたので、その演奏を是非聴いてみたいです。演奏時間的には、ごく普通というところなんですね。

投稿: ハルくん | 2011年5月 8日 (日) 19時34分

こんばんは

クレンペラーとウィーンpoの演奏は全く
知りませんでした。
聴いたのはフィルハーモニア盤だけです。
テスタメントですが原盤はEMIですか?

投稿: メタボパパ | 2011年5月 8日 (日) 23時35分

メタボパパさん、こんばんは。

これは1968年のウイーン芸術週間の際に演奏されたライブ録音の中のひとつです。テスタメントがよく行うEMIやDECCA原盤のリマスターではありません。僕はEMI盤は聴いていませんが、ウイーン・フィルの団員の演奏は見事ですよ。

投稿: ハルくん | 2011年5月 8日 (日) 23時42分

この曲のチェリビダッケは、お勧めなんですね~。
彼のEMIのBOXセットを2つ持っているのですが、ほとんど聴いていないので順番に聴いていこうと思います。
もし、チェリビダッケでこの曲以外に良いと思うものが何かありましたら、教えて下さいね。(ブルックナーは、作品自体が私には全然合わないので聴きませんけど)
私がチェリビダッケを初めて聴いたのは、1986年東京公演のブラームス第4番の放送です。
ハルくんさんは大の苦手だそうですが、この東京ライブのCDは私の愛聴盤です。流麗濃密な叙情感と研ぎ澄まされた美音が好きなので。この録音がお好きな方、結構多いようですね。


投稿: yoshimi | 2011年5月 9日 (月) 01時20分

yoshimiさん、こんにちは。

チェリビダッケの晩年の演奏は、ほとんどの場合でテンポが遅すぎて息苦しさを感じるので、余り好んでいません。むしろこの「ジークフリート牧歌」は例外的です。ですので他にお勧めが出来ないのが残念です。

東京ライブのブラ4は聴いた記憶が有りませんが、ドイツ的な圭角の無い流麗なブラームスは好みに合わないような気がします。もっとも、そう言いながら流麗濃密な叙情感あるワルターも好きですので余り説明になっていませんね。(苦笑)
一度ちゃんと聴いてみたい気がします。どうもありがとうございました。

ところでブラームスのP協をまた幾つか聴いていますので、いずれまとめて記事にしたいと思っています。

投稿: ハルくん | 2011年5月 9日 (月) 19時06分

ハルくん、今晩は。
ワーグナーの話題でなくて申し訳ないのですが、今年も行って来ました〈ラ・フォルジュルネ2011年〉原発事故のゴタゴタで来日をキャンセルしたオケ&指揮者の代わりに、仙台フィルと井上道義さんと三ッ橋敬子さんが参加してくれました。
今回は、沢山足を運びましたよ~。
まずはプレ公演に地元オケとオランダ生まれ新潟育ちの奥村愛さんで、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲でしょ。それから、新潟生まれ新潟育ちの枝並千花さんで、ベートーヴェンのヴァイオリンソナタ3番と8番でしょ。
仙台フィル・三ッ橋さんでベト7でしょ。
極めつけに仙台フィル・井上ミッチー&仲道郁代さんで『皇帝』でしょ。この4公演で、お値段何と\6,500でっせ~!正に熱狂の日々でしたよん。
被災地から、ようこそ仙台フィル…素晴らしい演奏と感動をありがとう(涙)
奥村愛さん、キレカワ(綺麗可愛い)です。枝並さんは面長でキリリとしたクールビューティー顔。三ッ橋さんは意外に小柄で、でも指揮は力強くスケールがありますね。知的で素敵な方。
仲道さんの美しさは語る必要なし。オフホワイトのドレスが似合って、アラ50とは思えない!
あぁ!何故神は才も美も両方を、この方たちには

投稿: From Seiko | 2011年5月 9日 (月) 21時15分

文章が途中で途切れました。
この方たちには、お与えになった1不公平だわ~。
井上道義さんはお茶目で、サービス精神旺盛な熱い心の持ち主。着々と巨匠の道まっしぐらですね。指揮者ぶりも頭部も。
耳にも目にも保養になった1週間でした。

投稿: From Seiko | 2011年5月 9日 (月) 21時37分

Seikoさん、こんにちは。

いえいえ、話題は何でも構いませんよ。
GWのコンサート三昧は良かったですね!
しかも井上ミッチさんと仲道さんの「皇帝」とは、見もの聴きものでしたね。
それにしてもラ・フォルジュルネでは北陸は新潟・金沢と大いに盛り上がりますね。素晴らしいです。そのうえ美女演奏家オンパレードとあっては、行きたかったです~。

投稿: ハルくん | 2011年5月10日 (火) 19時59分

なつかしい曲です。某女子大の弦楽合奏団にエキストラで出かけた時に吹きました。隣の奏者は演奏以外にも何か活動をしていたらしく、コンマスと結婚してしまいました(笑)

1管編成以外に拡張編成のバージョンがあるのですか?暑い日に木陰で聴きたい曲ですね。

投稿: かげっち | 2011年5月11日 (水) 12時40分

かげっちさん、こんにちは。

女子大にエキストラされたとは羨ましいです。
その体験には縁が無かったのが、痛恨の極みですぅ。(泣)

それにしても、そのお隣の奏者さんはワーグナーがこの曲に込めた愛情を実践されたわけですか。いやーお見事な腕前だったんですね。


投稿: ハルくん | 2011年5月11日 (水) 20時50分

こんばんわに。

初めて聴いたクナのワーグナーが、MPO/ウェストミンスター盤でした。1曲目「リエンツィ」を試聴し、余りの録音の良さに即買い。

20bit盤が成功だったのか、クナとは信じ難い程の良さで、コレが最初だった為に、Decca盤の管弦曲集は録音の落差を感じてしまい、クナでワーグナーを聴きたくなると毎度コレに手が伸びます。

ジークフリート牧歌については曲名の通り、演奏も暖かくて大好きです。WM盤がスゴ過ぎて、他の指揮者盤に目が行きません。

投稿: source man | 2011年5月11日 (水) 23時33分

 ハルくんさん、こんにちわ。

ワグナーは、序曲集くらいしか聴いていませんので、なんとも言えませんが序曲集は有名でいい音楽が集まっていて聴き易いですね。
しかし、テレビで歌劇など観ましても、なんか観念的でスンナリ入ってきません。
この「ジークフリート牧歌」も聴いたことはありませんので、YOU TUBEでアマチュアの演奏を.........うっ、優しくって分かりやすくって綺麗な音楽ですねー。
歌劇、楽劇などの大曲がワグナーの芸術なのでしょうが、こういう「ジークフリート牧歌」を創作するワグナーを聴いて、イメージを覆す一面を発見した思いです。

だから芸術家って、すごいんでしょうね。

投稿: たつ | 2011年5月12日 (木) 10時04分

source manさん、こんにちは。

ウエストミンスターのステレオ録音は優秀ですね。僕も残響少なめの素朴で自然な響きは好きです。DECCA盤もステレオ録音の「トリスタン」や「ジークフリートのラインへの旅」は素晴らしい音質なのですが、モノラル録音はかなり落ちますね。
僕もクナ/ミュンヘン盤は長年の愛聴盤ですが、現在はクレンペラー/ウイーン・フィル盤を最も愛聴しています。

投稿: ハルくん | 2011年5月12日 (木) 18時59分

たつさん、こんにちは。

僕もワーグナーの長大な作品を自宅で観たり聴いたりするのは結構しんどいです。「トリスタン」と「パルジファル」だけは別ですけれども。
ワーグナーは長大な作品の至る所に美しくデリカシー溢れる部分が有るのですが、全体を通すとやはりスケール巨大なイメージが強いですからね。「ジークフリート牧歌」を是非とも優秀なプロの演奏でじっくりとお聴きになられてみてはいかがでしょうか。

投稿: ハルくん | 2011年5月12日 (木) 19時08分

ハルくん様
愚生のこの曲のベスト・チョイスは、マリナー指揮アカデミー室内管弦楽団のArgo原盤の演奏ですね。K16C-9126と言う、KINGrecordから出たLPレコードでしか、聴いていませんが、さらっと、すっきり味に仕上げた幾度聴いてももたれず鼻につかない、そんな演奏です。
あとEMI原盤のクレンペラー&フィルハーモニアも、意表を突いて小編成で演奏した、マリナーとは一味違う一聴に価する演奏です。

投稿: リゴレットさん | 2018年6月20日 (水) 16時04分

リゴレットさん

マリナー盤は聴いていませんが、この人の演奏する英国音楽のように透明感あるすっきりとした味わいなのでしょうね。

記事に上げていませんがオリジナル版ではショルティ/ウイーンフィル団員の演奏も大変美しいです。この曲ではさすがのショルティも力(パワー??)を発揮する必要は無かったです。

投稿: ハルくん | 2018年6月20日 (水) 16時23分

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