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2011年3月

2011年3月30日 (水)

ブラームス 交響曲第4番ホ短調op.98 名盤 ~温故知新~

さてブラームスの交響曲特集ですが、早くも最後の第4番になってしまいました。

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交響曲第3番を完成させたブラームスは、その翌年には早くも第4番の1、2楽章を書き上げました。更に次の年には3、4楽章を書いて、この曲を完成させました。第1番の完成迄には、あれほど苦労したのが嘘のようです。しかも最後の交響曲だけあって、ブラームスの円熟の極みの作品となりました。

ロマン派全盛の時代にあっても、古典派形式を踏襲したブラームスは、新古典派などとも呼ばれましたが、この交響曲の終楽章では古典派どころか、バロック時代の変奏曲形式であるシャコンヌ(パッサカリアとも言います)を用いました。当時の楽壇の中には、「古臭くて陳腐だ」とけなす人も居たそうです。あのマーラーでさえこの作品を「からっぽな音の桟敷」と酷評したぐらいです。けれども、若きリヒャルト・シュトラウスは、父親への手紙の中で「間違いなく巨人のような作品です。とてつもない楽想、そして創造力。形式の扱いや長編としての構造は、まさに天才的です。」と書いています。リヒャルト・シュトラウスはかく語りきです。

この曲の凄さを理解したシュトラウスは、ブラームス自身の指揮で行なわれた初演の際のオーケストラでトライアングルを担当しました。あの3楽章で、チンチンチンとやったのですね。想像すると何だか愉快です。ともかく、この曲はブラームスのシンフォニーの最高傑作です。第1番は大変な力作ですし、第2番、第3番も名作なのですが、そのことだけは疑いの無い事実です。ブラームスはこの作品で正に「温故知新」を完遂させたのです。

第1楽章の冒頭は、いきなり第1主題がヴァイオリンのH(ハー)の音で開始されます。これは非常に演奏が難しいです。音の強さ、表情、テンポ、以後との関連づけと色々な要素が有り過ぎるからです。それにしてもこの楽章は、いかにもブラームスらしい哀愁と暗い情熱の高まりが一体化している傑作です。続く、第2楽章も寂寥感いっぱいでノスタルジックな深い深い浪漫がブラームジアーナーを泣かせます。第3楽章はスケルツォ楽章ですが、粗野で荒々しく、ラプソディックな性格は、ヴァイオリン協奏曲の終楽章あたりと似ています。そして、終楽章のシャコンヌです。これは200年も前の古い様式を使って、主題に続く30回もの変奏を、ありとあらゆる手練手管を駆使して書かれた変奏曲の一大傑作です。演奏の難しさは極まっていて、下手な指揮者の場合は気持ちが前面に出過ぎて、派手な響きで管楽器が咆哮する爆演に終わることが往々です。コンサートでは盛大な拍手を受けるでしょうが、大抵の場合には空虚さだけが残ります。

この曲は、僕が大学のオーケストラに入って初めて定期演奏会で弾いた思い出深い曲です。当然ながら、半年間来る日も来る日も必死でパート譜とスコアとにらめっこをしました。ですので、逆に曲の隅々が頭の中に残っています。そういう曲なので、演奏については他の曲以上にうるさくなるのかもしれません。

ともかくは愛聴盤のご紹介に移りましょう。

Cci00054 ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1943年録音/ターラ盤) 戦時中のライブですが、僕はターラ盤のセットで聴いています。昔から「冒頭のHの音をあんな風に出せる指揮者は他には決していない」と言われてきました。確かに、まるで首のうなじにそっと触れられるようなゾクゾク感が有ります。うーん、なんてエッチなんでしょう!この演奏は完全に後期ロマン派的な演奏で、古典的造形性には著しく欠けています。テンポの急激な変化や加速、極端に大きなルバートが頻出します。本来は僕の好まないタイプの演奏なのですけれども、嫌でも引きずり込まれてしまいます。録音はざらつきが多いものの、年代にしては明瞭です。

41uvmjpcql__sl500_aa300_ ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1948年録音/audite盤) ベルリンのティタニア・パラストでのライブです。長い間EMIから発売されていましたが、昨年RIAS放送のオリジナルテープからCD化されて、各パートの音像がずっと明確になりました(といっても所詮は年代による限界が有ります)。演奏の基本スタイルは43年の演奏と同じですが、録音の良さで、聴きごたえがずっと増しています。演奏そのものも、我を忘れるほどに興奮したオケの熱演度が更に凄いので、これこそは好き嫌いを超えた超演と呼べるのではないでしょうか。

049_2 ブルーノ・ワルター/コロムビア響(1959年録音/CBS SONY盤) オーケストラの音は薄っぺたく、迫力や重厚とさは無縁ですが、言い方を変えれば透明感の有る室内楽的な響きです。いかにもワルターらしい実に滋味に溢れた演奏ですが、とても美しくロマンティックに歌うので、聴いていると何かとても懐かしさを感じさせられます。ワルターのステレオ録音のブラームスでは第1番以上に素晴らしい出来栄えですので、この演奏は時々聴きたくなる時があります。

Cci00036b カール・シューリヒト指揮バイエルン放送響(1961年録音/Scribendum盤) 以前DENONからも出ていましたが、典型的なシューリヒト・スタイルの軽く颯爽と進む演奏で、およそブラームスの重厚な音は聞こえてきません。引き締まった造形性だけは見事ですが、ロマンティシズムが希薄です。某評論家がこの演奏を推薦していましたが、慌てて騙されてはいけません。シューリヒトのブラームスの名演奏は最晩年のシュトゥットガルト放送響との2番だけです。

Schu869 カール・シューリヒト指揮ウイーン・フィル(1965年録音/Altus盤) ハルくんのウソつきと言うことなかれ。このウイーンでのライブは良い演奏です。バイエルン盤から僅か5年後ですが、テンポが著しく遅くなりました。それでいて演奏の緊張感は保たれています。ウイーン・フィルそのものの持つ音色も魅力的ですが、要所でロマンティックに歌わせるので味わい深さが有ります。造形性も損なっていません。年代相応のモノラル録音ですが、マスタリングが高音強調なのは頂けません。

4110061113 クルト・ザンデルリンク指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1972年録音/DENON盤) SKドレスデンのことを「幾ら引っ張ろうとしても動かない牛車のようだ」と称したのは、指揮者フリッツ・ブッシュ(アドルフ・ブッシュの兄)でしたが、遅めで微動だにしないイン・テンポを守るザンデルリンクが振ると、その特徴が最高に生きてきます。良い例が終楽章のコーダの第273小節からで、念押しするリズムが巨大なスケール感を生み出します。厳格なマルカート奏法には凄みすら感じますし、柔らかく目のつんだ典雅で厚みのある響きには心底魅了されます。そして管楽器奏者たちの音楽的な上手さにも惚れ惚れします。ティンパニーのゾンダーマンの妙技も冴えわたっています。1970年代のこのオケは本当に凄かったです。

Brahms_14ハンス・シュミット-イッセルシュテット指揮北ドイツ放送響(1973年録音/EMI盤) これも北ドイツ放送響(NDR)とのライブ録音の全集です。NDRの暗くくすんだ音色がこの曲に良く合います。どっしりと構えたテンポも、いかにもドイツ的です。この念押しする感覚が無いとブラームスには聞こえず、一体誰の音楽を聴いていたのか分らなくなります。その点、この演奏は安心して聴くことができます。ちょうどザンデルリンクのスケールを一回り小さくしたような印象です。その分、良い演奏なのですが損をしているように思います。

Brahms_bohem_14 カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1975年録音/グラモフォン盤) ウイーン録音の全集盤です。ウイーン・フィルの透明感のある響きを立体的に生かしています。1楽章の前半は少々解説口調で音楽との隙間を感じますが、後半では一体になっています。2楽章は不健康さは感じませんが、ウイーンフィルが非常に流麗で美しいです。3楽章は立派ですが幾らか冷静過ぎる気はします。終楽章は巨大な建造物のようなスケール感があります。聴後の充実感は中々のものです。

Tah474 オイゲン・ヨッフム指揮アムステルダム・コンセルトへボウ管(1976年録音/ターラ盤) ヨッフムのライブ録音のボックス・セットです。ヨッフムは基本的に後期ロマン派のタイプですので、厳格なイン・テンポを刻むのでは無く、テンポに揺れを感じます。けれどもフルトヴェングラーのように極端ではありません。この演奏はテンポがさほど遅くもなく、リズムの念押しも無いので、全体的にスタイリッシュに感じられて幾らか物足りなさを感じます。

795 オイゲン・ヨッフム指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1979年録音/WEITBRICK盤) この演奏は3年前に一度記事にしました(こちら)。ヨッフムのロマン的な気質とSKドレスデンの堅牢な奏法とが高次元で一体化した素晴らしい演奏です。これを聴いてみるとザンデルリンクの名盤も、SKドレスデンの力に由る部分が相当多いことが分かります。76年のコンセルトへボウ盤と比べると、僅か3年の違いでずっとテンポが遅く重厚です。そこにロマンの味わいが加わるのですからたまりません。欠点はマスタリングで高域がやや硬いことだけです。

Brahms4_jochum オイゲン・ヨッフム指揮バイエルン放送響(1970年代録音/Green HILL盤) このライブ録音は正確な録音年が不明です。けれどもテンポがSKドレスデン盤と似かよっているので70年代の終わり頃ではないかと思います。堅牢でプロシア的な音のSKドレスデンに対して南ドイツ的に明るくしなやかな音ですが、これも非常に魅力的です。むしろヨッフムのロマン的な資質がストレートに出ています。海賊盤ながら音質は極上で、マスタリングの良さからSKドレスデン盤を上回ります。

515r2b7qvll__ss500_ ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1983年録音/オルフェオ盤) これもミュンヘン・ライブの全集盤です。ここまで4曲を聴いてきて共通して感じるのは、クーベリックのリズムに念押しが足りないことです。結果としてどの部分でも呼吸の浅さを感じてしまいます。ブラームスに重厚さを求めない聴き手には構わないことでしょうが、僕の場合は満足し切れなさが残ります。それでいて終楽章のコーダで突然テンポを落として念押しするのは唐突感が残ります。録音も優れていて一般的には悪い演奏では無いのですが。

Brahms_kurt619_2 クルト・ザンデルリンク指揮ミュンヘン・フィル(1984年録音/WEITBRICK盤) ミュンヘンのヘラクレスザールでのライブです。SKドレスデンの旧盤とベルリン響の新盤の間の時期になります。ですので基本テンポもちょうど中間で、SKD盤よりも遅く、ベルリン盤よりも早いです。興味深いのは、オケがかなりレガート気味に弾いているのと金管の明るい音色です。ある種、耽美的とも言える美しさを感じます。これはチェリビダッケの影響が大なのでしょうね。3楽章の荒々しくスカッとした演奏はザンデルリンクでは無い別人のようです。これはこれで楽しめます。

Suitner_brahms4 オトマール・スイトナー指揮シュターツカペレ・ベルリン(1985年録音/シャルプラッテン盤) スイトナーの80年代のブラームス全集では3番と並ぶ名演だと思います。テンポは決して遅くは有りませんが、呼吸の深さが有るので腰が据わった印象です。全体に古典的な造形感を感じますが、それでいてロマン的な味わいが充分有ります。相変わらず弦と管が柔らかく溶け合った響きがとても美しいですし、強奏部分も管が少しもうるさくなりません。

Vcm_s_kf_repr_500x500 クルト・ザンデルリンク指揮ベルリン響(1990年録音/カプリッチオ盤) ベルリン響との新盤の中では最も好きな演奏です。1楽章では、もたれるほどに遅いテンポが沈滞したロマンを感じさせます。2楽章も深いロマンの海に沈み込むようです。3楽章はSKドレスデンの切れの良さには敵いません。終楽章は遅いテンポでスケールが大きいですが、33小節からの第4変奏でぐぐっと重さを増すところは非常に素晴らしいです。後半の高揚ぶりも見事ですが、コーダの凄さはやはり特筆ものです。

41mqvx5jevl__sl500_aa300_ カルロ・マリア・ジュリーニ指揮ウイーン・フィル(1989年録音/グラモフォン盤) ジュリーニは、この曲でも遅いテンポでイン・テンポを守り、ゆったりとスケールの大きさを感じます。少しも力みが無いのに、緊張感を失うことがありません。但し、3楽章は落ち着き過ぎで、ラプソディックな性格が薄いです。全体を通してカンタービレがよく効いていますが、ごく自然で美しいです。ウイーン・フィルの響きはSKドレスデンのいぶし銀の音とは異なりますが、流麗で非常に美しいです。これはジュリーニの全集の中のベストだと思います。

というわけで、マイ・フェイヴァリットを一つ選ぶとすれば、やはりこの曲でも不動のザンデルリンク/シュターツカペレ・ドレスデン盤です。

続く次点は激戦です。ザンデルリンクのミュンヘン・フィル盤はとても楽しめますし、ベルリン響盤も新全集の中では最も優れていると思います。ヨッフムも素晴らしく、SKドレスデン盤はマスタリングさえ良ければザンデルリンクに迫る名演奏です。けれども、僕はむしろバイエルン放送響の海賊盤を上位にしたいと思います。更にスイトナー/シュターツカペレ・ベルリン盤も外せません。

番外としてはフルトヴェングラー/ベルリン・フィルの壮絶な1948年盤とワルター/コロムビア響盤を上げておきたいです。さて、皆さんの愛聴盤はどれでしょうか。

それにしても、こうして聴いていると、やっぱり4番はいいですね。う~ん、ブラームス!

<追記> ジュリーニ盤を後から加筆しました。次点グループには間違いなく入りますし、その中でもトップクラスです。

<後日記事>
ブラームス 交響曲第4番 エッシェンバッハの東京ライブ盤
今年聴いたブラームスの交響曲のCD

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2011年3月27日 (日)

震災では無く人災だった!?

昨日の産経WEBニュースに、思わず目に留まった記事が有りました。

<以下全文>

 東日本大震災で大津波が直撃した東京電力福島第1原発(福島県)をめぐり、2009年の審議会で、平安時代の869年に起きた貞観津波の痕跡を調査した研究者が、同原発を大津波が襲う危険性を指摘していたことが26日、分かった。

 東電側は「十分な情報がない」として地震想定の引き上げに難色を示し、設計上は耐震性に余裕があると主張。津波想定は先送りされ、地震想定も変更されなかった。この時点で非常用電源など設備を改修していれば原発事故は防げた可能性があり、東電の主張を是認した国の姿勢も厳しく問われそうだ。

 危険性を指摘した独立行政法人「産業技術総合研究所」の岡村行信活断層・地震研究センター長は「原発の安全性は十分な余裕を持つべきだ。不確定な部分は考慮しないという姿勢はおかしい」としている。 

以上

ということは、今回の放射能漏れによる被害は「震災」では無く「人災」だったのですね。何が起きても「想定外」で済まそうという電力会社や国の姿勢では、今後新たに日本に原子力発電所を増設することは無理でしょう。なぜならそんな「事故を想定できない、想定しようとしない」施設を受け入れる町は絶対に無いからです。ただし、それは半恒久的な日本の電力不足を意味しています。猛暑の夏もエアコンは使用できない。冬の電化暖房も充分に取れない。鉄道の本数も減らす。街のイルミネーションも規制する。電気自動車の普及も見直す。様々な生活への影響が避けられません。それでも、原子力事故に合うことを避けるためには止むを得ないことですね。

真夏は公務員だろと会社員だろうと店員さんだろうと国民全員がシャツと短パンで仕事をして、冬は誰もが屋内でもダウンジャケットを着て過ごす。そんな生活をすれば良いのです。まあ、20~30年もすればソーラー発電や別の仕組みが実現するかもしれません。それまでは国民が便利さを諦める決意が必要でしょう。「クリーンで絶対に安全な○○○」というのが嘘でない発電方式が実現するのを待つことです。

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2011年3月24日 (木)

ブラームス 交響曲第3番ヘ長調op.90 名盤 ~ブラームスはお好き~

東北関東大地震から10日以上が経ちました。東京では交通機関の乱れもかなり改善されましたし、ガソリン不足や計画停電の不自由さも被災地の困窮に比べれば何ということはありません。その被災地でも少しづつ復旧が進んではいるようですが、物資の不足は相変わらず改善されていないと伝えられています。そんな今、こんな風に音楽を聴いていて良いのだろうかという気持ちも有ります。けれども太古の昔から、音楽は人間の生活と切っても切れない存在でした。欧米では戦時中、毎晩爆撃されるような状況下でも、コンサートは続けられました。それを無理に断つというのも不自然な気がします。今、音楽を聴けることに心から感謝したいと思います。

それではブラームスの交響曲特集の再開です。

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「ブラームスはお好き?」という言葉は、フランソワーズ・サガンの同名小説の中で25歳の青年シモンが39歳の離婚独身女性ポールをコンサートに誘う手紙の中で出てきます。ブルックナーでないのは賢明です。デートが不成功に終わる確立が相当高いでしょう。この小説は映画化もされましたが、英語版タイトルでは「Goodbye Again」と変えられました。なにゆえ「さようならをもう一度」なのか。エスプリの効いた原題タイトルに対して、何ともアメリカ的な単純明瞭なタイトルです。映画の内容が分かりやすいことは確かですけれどもね。きっと、原題のままではアメリカの観客は集まらないと考えられたのでしょう。おっと、日本語タイトルも同じですね。

小説の中のコンサートの場面で演奏されるのはヴァイオリン協奏曲という設定ですが、映画でメインで使用されているのは交響曲第3番の第3楽章です。センチメンタルなメロディが大人の恋愛映画によく似合います。この美しい曲を聴きさえすれば、アメリカ人もすっかり魅了されたことでしょう。

それにしても映画のポール役のイングリッド・バーグマンって本当に綺麗ですよね。気品が有りますよね。こんな美人と一緒にブラームスを聴きに行ってみたいものです。映画っていいですね。非現実的で。(苦笑)

つまらない話はこれぐらいにして、第3番はブラームスの交響曲では最も私的な作品だと思います。全楽章がピアニシモで終わるという珍しい構成ですが、他の作品のように妙に凝り過ぎていません。実に簡潔明瞭です。この曲も第2番と同じように、大半がウイーンでは無く、避暑地のウイースヴァーデンで作曲されました。なんでもブラームスは森の中を散歩しながら、くつろいだ気分でこの曲を書いたそうです。

この曲の第1楽章冒頭で本来の6/4拍子が何拍子か分りにくいように聞こえるのは、恩師シューマンの第3番「ライン」の冒頭がやはり3/4拍子が分かりずらく書かれているのと同じです。リズム音型がよく似ています。学生時代に両曲ともアマチュアオケで演奏しましたが、その時に譜面を見てそう感じました。これは弟子のブラームスが同じ第3交響曲ということで、意識して書いたのかもしれません。展開部で身体が大きな波に揺さぶられるれるような部分も聴きものです。第2楽章は一転してクラリネットとファゴットが淡々とした足取りで大人の男の雰囲気を漂わせて歌います。ゆったりと、けれども毅然と歩くような演奏が僕は好きです。第3楽章は甘く美しいメロディがとても有名ですが、後ろ姿に寂しさを漂わせた男の姿が目に浮かびます。終楽章は情熱的に高揚しますが、一気苛性の追い込みがたまりません。

この曲は個人的にはブラームスのシンフォニーの中で最も好きかもしれません。それでは愛聴盤をご紹介します。

41uvmjpcql__sl500_aa300_ ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1954年録音/audite盤) ベルリンのティタニア・パラストでのライブです。昨年発売されたRIASボックス盤は、従来のグラモフォン盤よりも音質が飛躍的に向上しました。フルトヴェングラーのブラームス演奏は頻繁にテンポが揺れていて後期ロマン派寄りなのが正直好みでは有りません。造形性に欠けるからです。けれども、これだけ明瞭な音で鑑賞できると、フルトヴェングラーの世界にどっぷり浸かろうという気持ちになれます。終楽章展開部以降の情熱と迫力は凄まじい限りです。なお、このボックスには1949年の演奏も含まれていて更に凄まじい演奏なのですが、音質は大分劣ります。

Brahms_monteux ピエール・モントゥー指揮アムステルダム・コンセルトへボウ管(1960年録音/TAHRA盤) これもライブ録音です。モントゥーのブラームスは世評の割に僕はそれほど感心したことがありません。けれどもこの演奏は中々聞かせます。テンポは中庸ですが、重圧さを感じさせます。この曲の歌謡性と情熱的な要素の表現も意外に自分の肝に合っているように思います。2、3楽章は味わい深く、終楽章は情熱的に盛り上がります。録音はモノラルですが明瞭です。そういえばこの人はブラームスはお好きなんだそうです。(ホントの話)

Brahms_kempeルドルフ・ケンぺ指揮ベルリン・フィル(1960年録音/EMI盤) ケンぺのベルリン・フィルとのEMI録音は1番と3番のみがステレオ録音です。やはり当時のベルリン・フィルのドイツ的な響きは良いのですが、速めのイン・テンポで押し通すので、ややスタイリッシュに過ぎる気がします。逆に遅いテンポが嫌いな人には丁度良いと思います。東芝EMI盤はこの曲でも高音に強調感が有りますので、やはりテスタメント盤で購入されたほうが良いでしょうね。

41gh0rfq9cl_2 ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ウイーン・フィル(1961年録音/DECCA盤) いつもブラームスの曲からは”壮年の紳士”を連想させられるのですが、この演奏からはアラ・サーのスマートな青年を想わされます。確かに当時のウイーン・フィルの音は非常に美しいですし、流麗な歌い回しも(幾らか過剰なほどですが)魅力です。所々でリズムに更にドイツ的な念押しが有ればとは思いますが、これは自分のブラームスのイメージなので仕方ありません。全体的に若さ溢れる名演で、この3年後に録音したベルリン・フィル盤(DG)よりもずっと好みます。

Bra618 ハンス・クナッパーツブッシュ指揮シュトゥットガルト放送響(1963年録音/ヘンスラー盤) 大学生の時にこの曲のクナ/ベルリン・フィルの1943年盤の海賊盤を大金はたいて買いました。天地が引っくり返るような巨大な演奏でしたが、そのうち異形に感じられて聴かなくなりました。この最晩年の演奏は、それを更に上回る巨大さで信じられません。ブラームスというよりは、まるで「ニーベルンクの指輪」みたいです。モノラルですが音質は良いので、興味の有る方は一度お聴きになると面白いです。但し腰を抜かさないようにご注意を。

Brahms41rsb0rr8kl_sx355_サー・ジョン・バルビローリ指揮ウイーン・フィル(1967年録音/EMI盤) ゆったりとしたテンポで一歩一歩を踏みしめながら歩みを進めます。情緒豊かで深い情感に覆われているのもバルビローリのファンにはこたえられないと思います。3楽章ではこの人にしては寂寥感が足りないかなと思っていると最後に情緒面々と歌いあげて挽回します。終楽章でもブラームスの古典的造形性が希薄なのが気になります。トータルの出来映えとしては第4番のほうが高いと思います。古いCDのために最新リマスターにありがちな高域強調型でないのがブラームスにはむしろ幸いです。

Cci00062b ハンス・シュミット-イッセルシュテット指揮バイエルン放送響(1967年録音/GreenHILL盤) ライブ演奏ですが、海賊盤ながらも高音質で定評の有るグリーンヒル盤です。オケは南ドイツ的な明るめの音ですが、しなやかでとても美しいです。といってウイーンのオケほど柔らかくはなりません。古典的な造形性とロマンティシズムがこれほど高次元でバランスの取れている演奏は珍しいです。終楽章の高揚感も実に素晴らしいです。なお、カップリングのシェリング独奏のベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲も最高の演奏です。未聴の方は是非とも中古店で見つけて聴かれてほしいです。

Brahms_14 ハンス・シュミット-イッセルシュテット指揮北ドイツ放送響(1968年録音/EMI盤) 北ドイツ放送響(NDR)とのライブ録音の全集です。 2番はともかくとしても、北ドイツの楽団の音はブラームスの音楽に本当に合います。バイエルン放送響も音が南ドイツの晴れた空を想わせるのに対して、こちらは北ドイツのどんよりした曇り空のようです。ドイツ的ということももちろんですが、非常に内向的な演奏だと思います。1、4楽章は外面的な爆発は一切無く、3楽章の歌い方も実に地味です。個人的にはバイエルン放送盤のほうを好みます。

4110061114クルト・ザンデルリンク指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1972年録音/DENON盤) ザンデルリンクが全盛期のSKドレスデンを振った旧全集ですが、相変わらず遅めのインテンポを頑固に守り、強固なリズムとマルカート奏法がドイツ的な重厚さを生み出します。それが推進力と黄金比のバランスを取っています。1楽章展開部の大波に揺れるような凄みや、終楽章の充実感も最高です。SKドレスデンの柔らかで目のつんだ音の弦に管が完全に溶け合って、実に厚みのある音を聞かせます。管のソロ奏者達の上手さも本当に魅力的です。録音から40年経た今でもこの音と演奏を越えるものは未だに聴いたことが有りません。

522 エフゲニ・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル(1972年録音/Scribendum盤) モスクワでのライブ録音です。4番の演奏なんかもそうですが、ムラヴィンスキーの演奏としては良くてもブラームスとしては不満です。まず各パートのリズムにドイツ的な厳格さが足りません。全体の響きも一つに溶け合ったドイツ的な厚みを感じません。ムラヴィンスキーとしては精一杯客観的な演奏を行なっているのは分かりますが、伝統の重みというのはそれほど簡単には片付けられません。

Brahms_bohem_14 カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1975年録音/グラモフォン盤) ウイーンで録音された全集盤です。この曲ではウイーン・フィルの透明感のある響きがややマイナスに感じます。ドイツのオケのようにマルカートで無く流麗に過ぎるので全体的にムード的に聞こえます。遅いテンポの2楽章は特にダレているように感じます。ならば3楽章に期待したいところですが、意外に面白くありません。終楽章の高揚もいま一つですし、ベームのブラームスとしては消化不良に感じます。

515r2b7qvll__ss500_ ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1983年録音/オルフェオ盤) これもミュンヘン・ライブの全集盤です。幾らか明るくてもドイツ的なオケの音は好ましいですし、クーベリックの指揮に不満は無いのですが、しいて言えば中間楽章がいま一つです。2楽章のリズムに厳しさが欠けるのと、3楽章の歌いまわしがやや物足りません。両端楽章は非常に充実していて聴きごたえが有ります。全体としては中々に良い演奏だと思います。

Suitner_brahms3 オトマール・スイトナー指揮シュターツカペレ・ベルリン(1985年録音/シャルプラッテン盤) スイトナーの80年代のブラームス全集は全てが気に入っている訳ではありませんが、3番の演奏はとても好きです。弦と管が柔らかく溶け合った響きが厚みを感じさせてとても良いです。1楽章の重厚なテンポは聴きごたえが有りますし、2楽章も味わいが有ります。3楽章はしなやかに歌いますが節度が合って良いです。終楽章はじっくりとしたインテンポですが、非常に高揚感が有ります。時に重く念押しするリズムもたまりません。

Vcm_s_kf_repr_500x500 クルト・ザンデルリンク指揮ベルリン響(1990年録音/カプリッチオ盤) 旧盤に比べてテンポが大分遅くなりました。ところが推進力を失ってしまったので、聴いていてどうももたれます。終楽章などはスケール感は有りますが、緊張感に欠けます。またベルリン響をどうしても旧盤のSKドレスデンと比べてしまいますが、個々の奏者の力量では全く敵いません。残響の非常に多い録音もムード的に聞こえるので余り好きではありません。

41mqvx5jevl__sl500_aa300_ カルロ・マリア・ジュリーニ指揮ウイーン・フィル(1990年録音/グラモフォン盤) 全集盤の録音です。1楽章は遅めの非常に良いテンポです。イン・テンポを守るのも良しです。音には張りと緊張感が有ります。但し、ドイツ的な武骨なリズムの強調よりは、流麗なカンタービレが印象的です。2楽章の味わいも良いですが、3楽章の主題を弱い音で控えめに奏でるのがユニークです。4楽章も遅いインテンポですが、ライブのような迫力が有ります。金管が前面に出がちで、音色も明るいのは北ドイツ・スタイルとは異なりますが、感興の高まってゆくのにぐいぐい惹きこまれます。

F6421 クルト・ザンデルリンク指揮ウイーン響(1997年録音/WEITBRICK盤) 3年前に発売されたときにこのブログで酷評して以来、ほとんど聴きませんでしたが、棚にはまだ残されていましたので改めて聴いてみました。うーん、やはりオケの響きが柔らかいのは良いとしても厚み不足なのですね。ザンデルリンクの指揮にも厳しさが有りません。ベルリン響との新盤よりは良いかもしれませんが、SKドレスデンとの旧盤とは全く勝負になりません。残念ながら3年前と感想はほとんど変わりませんでした。

というわけで、マイ・フェイヴァリットは不動明王(?)のザンデルリンク/シュターツカペレ・ドレスデンです。これはザンデルリンクの旧全集の中でも1、2を争う名演なので当然です。次点としては、海賊盤ながらもシュミット-イッセルシュテット/バイエルン放送響盤を置きたいです。これも本当に素晴らしい演奏です。そして僅差で続くのがスイトナー/シュターツカペレ・ベルリン盤です。

さて皆さんは、どのブラームスがお好きですか?

<追記> ジュリーニ盤、カラヤン盤、バルビローリ盤を後から加筆しました。特にジュリーニ盤は、ザンデルリンクには及ばないまでも、次点グループに充分割って入ります。ウイーン・フィルの3番としては最上ではないでしょうか。

<関連記事>
今年聴いたブラームスの交響曲のCD

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2011年3月14日 (月)

ブラームス 「ドイツ・レクイエム」op.45 ~亡くなられた被災者の方へ~

東北および関東地方で発生した大地震と津波による被害の余りの大きさと悲惨さを連日のニュース報道で知るにつけ、自然の脅威の前での人間の無力感を改めて思い知らさせてしまいます。どんなに科学が発達して、宇宙に行くことが出来たり、かつての不治の病を克服することは出来ても、大自然をコントロールすることだけは永遠に不可能でしょう。

けれども我々は自らの無力を認識したうえで、少しでも悲惨な状態から脱却するために皆で知恵を使い合い、協力し合わなければなりません。その為にも現在の日本国全体の危機を乗り越えるためにも、政府の強力なリーダーシップが必要です。今こそ政治主導であらゆる緊急対応策をとって貰いたいです。民主党は駄目だと言ってる場合ではありません。駄目では困るのです。与党も野党も無い、今こそは一致団結して貰いたい。そして今はとにかく生存者の救命と被災者への支援を最優先として全力を尽くして欲しいです。

さて、前々回からブラームスの交響曲の特集をしていましたが、今はとてもシンフォニーという気分ではありません。ですので、不幸にも亡くなられてしまった大勢の方々のご冥福をお祈りするのと、被害に合われた方々の一刻も早い救出、被災地域の一日も早い復旧を祈る意味で、ブラームスの「ドイツ・レクイエム」の記事にします。

ブラームスがこの作品を書こうと思ったきっかけとなったのは、恩師シューマンの死去です。けれども曲の一部を書いたところで筆が進まなくなります。それを数年後に完成させるきっかけとなったのは今度は自分の母の死でした。

通常「レクイエム」というと、カトリック協会のミサの典礼文になるので、言葉はラテン語です。ところがこの作品はプロテスタントの信者であったブラームスがマルチン・ルター訳のドイツ語の聖書から、選び出して曲にしました。ですのでこれは全くのコンサート用の作品なのです。バッハの影響を受けている部分が少なからず有りますが、声楽曲として素晴らしく充実しています。作品番号からも分かるように、この作品は交響曲第1番よりも以前の作品です。けれどもオーケストラと合唱の重厚な響きは紛れもないブラームス作品ですので、楽壇ではその実力を大いに認められたそうです。全体は7曲からなる構成ですが、各曲の内容は次の通りです。

第1曲 悲しんでいる人たちは幸いである。彼らは慰められるであろう。 非常に美しく厳粛な曲です。この曲ではヴァイオリンが弾きませんので音色がとてもくすんでいます。

第2曲 人は皆草のごとく、その栄華は草の花に似ている。草は枯れ、花は散る。 葬送行進曲ですが、悲しみだけではなく威厳が有ります。聴き易いので昔からとても好んでいます。

第3曲 主よ、私の一生があとどれぐらいあるかを私に知らせ、命のはかなさを教えてください。 バリトンも合唱も素晴らしいですが、最後のフーガは堂々としていて大バッハを思わせます。

第4曲 雲の中で天使が歌う 短い曲で、7曲の真ん中に間奏曲のように置かれていますが、非常に美しく、この曲も個人的には大好きです。

第5曲 あなたがたも今は憂いあり ソプラノが静かに歌うこの曲も短めです。

第6曲 この地上には永遠の土地は無い カトリックの典礼文で言えば「怒りの日」に相当しますが、ブラームスは歌詞から「最後の審判」を外しています。現世で死せるものは最後のラッパにより、なに人も天国に迎えられると解釈できそうです。曲の後半の壮絶な盛り上がりには言葉を失います。壮大に続くフーガは正にこの曲の聴きどころです。

第7曲 今からのち、主にありて死ぬ人は幸せである。 優しく慰めに満ちた終曲です。死により天上で永遠の命を与えられる、と美しく歌われます。

この曲は歌詞がドイツ語ですので、コーラスはドイツの合唱団が理想です。というよりも、そうでないと子音の発音がどうしても曖昧になってしまって違和感を感じます。この曲はそれほど幾つものCDを持っているわけではありませんが、気に入っているものをご紹介します。

Klempe77d オットー・クレンペラー指揮ウイーン・フィル(1958年録音/テスタメント盤) クレンペラーはEMIへのスタジオ録音も有りましたが、僕が聴いているのはウイーンでのライブ録音です。但し、これはボックスセットの中の付録盤です。コーラスは当然、ウイーン楽友協会合唱団です。50年代の演奏ですので、合唱団もオーケストラも柔らかい音が肌のぬくもりを感じさせて、優しい表情が胸に染み入ります。クレンペラーの指揮は普通の速さのインテンポですが、音量の変化が大きく、少しもわざとらしくなくて非常に効果的です。モノラル録音ですが、音質は優秀です。

Schuli50032_0 カール・シューリヒト指揮シュトゥットガルト放送響(1959年録音/Tresor盤) シュトゥットガルトでのライブ録音です。フランクフルト放送からの応援を得た合唱団がとても力強く魅力的です。シューリヒトのテンポは沈滞することなく速めですが、流石はこの人で非常に味わいに富んでいます。マリア・シュターダー、ヘルマン・プライの独唱も素晴らしいです。明瞭なモノラル録音ですが、フォルテで高音が歪むのが残念です。この演奏は、以前archiphonから出ていましたが、Tresor盤の音質は全く同じです。

Brahams_re_607 ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1978年録音/audite盤) ミュンヘンでのライブ録音です。最新盤では無いですが、非常に優秀な録音です。音が自然で柔らかいのにもかかわらず分離に優れます。低域には量感が有り、低弦群やティンパニに重量感を感じます。合唱はとても明瞭で、ドイツ語の子音の発音がとても良く聞きとれるのに満足です。エディット・マティス、ウォルフガング・ブレンデルの独唱とともに、真実味の有る深い祈りを感じさせる声楽陣の素晴らしさは、少なくとも僕が聴いたものの中では最高です。

Brahmsa_req カルロ・マリア・ジュリーニ指揮ウイーン・フィル(1987年録音/グラモフォン盤) 遅めのテンポでゆったりとした構えですが、流麗で耽美的な美しさはクーベリックを凌ぎます。但し、レガートに過ぎますので、ブラームスの音楽の持つドイツ的な圭角が失われています。クーベリックの真剣勝負の真実味と比べると、どうも表面的な印象は拭えません。けれども良い演奏であることに間違いはなく、自分としてもその時の気分で聴き分けたいと思っています。

ということで、肌のぬくもりを感じさせるクレンペラー/ウイーン・フィル、耽美的ともいえるジュリーニ/ウイーン・フィルも魅力的ですが、やはり真実味と限りなく深い祈りを感じるクーベリック/バイエルン放送響盤に最も感動させられます。

<後日記事>

ブラームス 「ドイツ・レクイエム」 続・名盤

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2011年3月10日 (木)

ブラームス 交響曲第2番ニ長調op.73 名盤

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― ブラームスが滞在したペルチャッハの城館 ―

さて、ブラームスの交響曲の特集ですが、今回は第2番です。第1番の完成に20年以上の歳月をかけたブラームスでしたが、この曲はオーストリアのウェルター湖畔の避暑地ペルチャッハに滞在しながら僅か4か月で完成させてしまいました。この曲には、そうしたくつろいだ気分が反映されているので、ブラームスの「田園交響曲」などと呼ばれたりもしています。確かにその通り、曲全体に牧歌的な雰囲気を湛えています。開放的でメロディアスですが、どこか寂しさを感じさせる第1楽章、抒情的でオーストリアの美しい自然をいっぱいに想い抱かせる第2楽章、いじらしいほどに愛らしい第3楽章と実に魅力的です。終楽章はうって変わって躍動感に溢れ、イケイケどんどん的な単純さがブラームスの曲想としては幾らか物足り無さを感じますが、それでも中間部でぐっと抒情的に歌うところなどはブラームスの醍醐味です。

この曲の演奏は意外に難しく、その理由の一つは金管の響きに有ります。フォルテでどうしても金属的な音に聞こえやすいのです。それが気にならない演奏は指揮者の音のバランスが優れていると言えるでしょう。もう一つは好みの問題なのですが、終楽章を爆演するパターンです。常識的にはフィナーレですので、盛り上げるためにどうしても指揮棒に力が入ります。テンポは上がって、金管の強奏、ティンパニの強打となります。けれども、それではブラームスの書いた音楽の造形性と響きが失われてしまいます。いい例がブルーノ・ワルターのニューヨーク・フィルとのモノラル盤です。尊敬する宇野功芳先生はこの演奏を推薦されていますが、僕は全く好みません。このことを知っておいて頂けると、これからご紹介する僕の愛聴盤に納得されることと思います。

131 フェレンツ・フリッチャイ指揮ベルリン放送響(1953年録音/audite盤) ベルリンでのライブですが、自由ベルリン放送(RIAS)の優れたモノラル録音で楽しめます。引き締まった演奏タイプの多いハンガリーの指揮者の中で、フリッチャイはロマンティックなスタイルで一線を画します。豊かな表現力が時に絶大な魅力となります。この演奏もゆったりと非常に表情が豊かですが、基本的にインテンポで造形の崩れは感じません。終楽章もかなりの迫力を見せますが、騒々しくなることはありません。

C0986599フェレンツ・フリッチャイ指揮ウイーンフィル(1963年録音/グラモフォン盤) ザルツブルクでのライブです。モノラルなのが残念ですし、録音はむしろ前述のRIAS録音の方が明瞭です。元々抒情的なこの曲を、フリッチャイは造形が崩れるほど目いっぱい抒情的に演奏しています。その点ではRIAS盤以上です。それはオケがウイーン・フィルということもあるでしょう。随所にかかるポルタメントも少々煩わしく感じるほどです。終楽章はRIAS盤よりも更にドラマティックですので好まれる方はいらっしゃるでしょう。

Cci00003 カール・ シューリヒト指揮シュトゥットガルト放送響(1966年録音/archiphon盤) 巨匠シューリヒト最晩年の貴重なライブでのステレオ録音です。この人は通常は早いテンポで颯爽とした演奏をしますが、ここでは別人のように遅いテンポで全ての音符を慈しむように奏でます。全体を通してしみじみとした味わいが胸にしみ入ってたまりません。時にルバートを見せますが、基本的にはイン・テンポですので造形が崩れるほどではありません。評論家にはウイーン・フィルとのDECCA盤がよく取り上げられますが、僕は断然こちらの方を好みます。この録音は現在はヘンスラー盤で出ていますが、マスタリングが高音に強調感が有るらしいので、出来れば中古店でarchiphon盤をお探しになるほうが良さそうです。

695 ヨゼフ・カイルベルト指揮バイエルン放送響(1966年録音/オルフェオ盤) カイルベルトにはベルリン・フィルとのスタジオ録音も有りますが、これはミュンヘンでのライブ録音です。カぺルマイスターのカイルベルトの指揮は柔らかいウイーン・スタイルではなく堅牢なプロシア・スタイルですが、非常にオーソドックスで、ゆったりと曲そのものの良さを充分に引き出しています。2楽章は美しく、終楽章は堂々とした力演で充実感が有り、非常に聴きごたえがあります。終結部がやや爆演気味ですが許容範囲です。バイエルン放送響の音は南ドイツ的な明るさが有りますが、2番の場合にはそれが向いています。

Brahms_14 ハンス・シュミット-イッセルシュテット指揮北ドイツ放送響(1967年録音/EMI盤) 北ドイツ放送響とのライブによる全集ですが、2番以降は全てステレオ録音です。高音強調型のマスタリングが気になりますが許容範囲です。Sイッセルシュテットは指揮するオケや音楽への順応性が非常に高く、この曲では北ドイツ放送響の暗く厚い響きをそのままに、堅牢一辺倒では無く、しなやかさも感じさせます。但し歌い方が控えめなので少々地味過ぎるように感じます。ハニカミ屋のヨハネス青年という感じかな。でも真面目なので好きですよ。

51avvm74jl__ss500_ サー・ジョン・バルビローリ指揮バイエルン放送響(1970年録音/オルフェオ盤) この人にはウイーン・フィルとの全集がありますが、1、2番に関しては透明感の有り過ぎる音と気の抜けた感じの演奏が余り好みでは有りませんでした。けれども、このバイエルン放送響とのライブ盤はオケの音色が曲に適しているのと、演奏に気合が入っているので好きです。後期ロマン派寄りのたっぷりとした表現で、2楽章では弦の歌いまわしが震えるほどの美しさです。終楽章の遅いテンポでのじわりじわりとした高揚感とスケールの大きさにも思わず惹きこまれてしまいます。

416gjxaqwml__sl500_aa300_ クルト・ザンデルリンク指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1972年録音/DENON盤) 徹底したマルカート奏法のSKドレスデンを聴くと、これぞドイツの音だと実感します。そのオケをザンデルリンクは頑固一徹にイン・テンポで押し通します。ブラームスの音楽が古典的な書法であることを最も感じさせる演奏です。大抵の指揮者がアッチェランド気味に煽る終楽章の終結部でも、逆に腰を据えた感じで大きな充実感を生み出します。ところで、何故かDENONのクレスト1000シリーズは、2番だけが20bitの新リマスターではありません。このことはsource manさんがDENONに直接確認されたのを教えて頂きました。元々LP時代から2番の録音は他の曲よりも幾らか音質が劣るような印象は有りましたが、因果関係は全く分かりません。但し通常は言われないと気にならない程度の違いですので心配は有りません。

Brahms_bohem_14 カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1975年録音/グラモフォン盤) 全集盤に収められています。まず、ムジーク・フェラインでの美しい響きの録音に惚れ惚れします。金管の和音がとても美しく、スタジオ録音のメリットが出ていると思います。もちろん弦や木管の美しさも特筆ものです。ベームの演奏は非常に呼吸が深く、しかもどこまでも自然なので安心して身を委ねられる雰囲気です。独特のたおやかさを感じます。終楽章も少しも騒々しくならないのが良いです。ベームは何もライブだけの人では決してありません。

Hmv_2683414 カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1977年録音/TDK盤) 全集盤から2年後の日本公演のライブです。東京文化会館でのTDKの録音は優れていますが、ムジーク・フェラインの美しい響きには及びません。ベームの解釈は変わりませんが、ほんの少しだけテンポが速くなっていて、呼吸の深さは全集盤のほうが強く感じます。但し、終楽章だけは曲想のせいで、躍動感と高揚感に勝るライブの方が一般的に好まれるのは間違いありません。

175 オイゲン・ヨッフム指揮ウイーン・フィル(1981年録音/Altus盤) もうひとつウイーン・フィルの良い演奏があります。これは実はベーム追悼演奏会のライブです。会場は楽友協会大ホールですが、美しい響きが聞ける名録音だと思います。特に中低域の音が厚いので嬉しいです。ここはどうしてもベームの演奏との比較になりますが、元々テンポを微妙に揺らすヨッフムはベームほどの貫禄は有りません。けれども逆にしなやかさを感じますので、これはこれでとても魅力的です。終楽章も少しもうるさくならずに熱演しています。敬愛するベームを悼んで襟を正して真剣に演奏するウイーンの楽団員たちの姿が目に浮かぶようです。

515r2b7qvll__ss500_ ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1983年録音/オルフェオ盤) ミュンヘン・ライブの全集です。元々明るい音色のバイエルン放送響ですが、この演奏は金管の音量バランスが幾らか強めで目立ちます。うるさいわけではありませんが、もう少し控えめのほうが落ち着きます。リズムに念押しが無いので腰の軽さを感じさせます。プロシア魂は感じさせない演奏です。かといって流麗なウイーン・スタイルでもありませんので、スタイルがやや中途半端な印象です。決して悪い演奏ではありませんが特徴に欠けます。

Vcm_s_kf_repr_500x500クルト・ザンデルリンク指揮ベルリン響(1990年録音/カプリッチオ盤) SKドレスデン盤から18年後の再録音全集です。残響の深いイエスキリスト教会で、更にオフ気味の録音なのでムード的に聞こえます。演奏そのものもSKドレスデンのように徹底したマルカート奏法では無いにしても、圭角がまるで取れて聞こえます。テンポは大分遅くなっていて、幾らかもたつきを感じますが、スケールの大きさでは旧盤を上回ります。新盤の良さも無いわけではないのですが、全体的にはやはり旧盤を上にしたいと思います。

41mqvx5jevl__sl500_aa300_ カルロ・マリア・ジュリーニ指揮ウイーン・フィル(1991年録音/グラモフォン盤) 全集盤の録音です。この演奏は中野雄さんが推薦されていたので気になっていました。ウイーン・フィルの奏するブラームスでは最も適性を感じるのが第2番だからです。全体に遅いテンポで重厚な響きなのですが、旋律を美しく奏でる弦楽器と木管の音が確かにこの曲にはうってつけです。2楽章のカンタービレの美しさはいかばかりでしょう。終楽章のスケールの大きさもザンデルリンクに匹敵します。

以上を改めて聴き直した結果のマイ・フェイヴァリットは、ベーム/ウイーン・フィルのグラモフォン盤です。次点としてはシューリヒト/シュトゥットガルト放送響、ザンデルリンク/シュターツカペレ・ドレスデンです。
他には、カイルベルト/バイエルン放送響、バルビローリ/バイエルン放送響、ベーム/ウイーン・フィルのTDK盤、ヨッフム/ウイーン・フィルと続いて、中々の激戦状態です。

こうしてみると南ドイツ、オーストリアの楽団が大勢を占めていて、第1番で北ドイツの楽団が優勢であったのとは逆のねじれ現象が起こりました。これは明らかに曲想の違いだと思います。

<追記> ジュリーニ盤を後から加筆しました。ベームと並ぶウイーン・フィルによる素晴らしい演奏で、この曲のベストを争う1枚だと思います。

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2011年3月 2日 (水)

ブラームス 交響曲第1番ハ短調op.68 名盤(ステレオ録音編)

ブラームスの交響曲第1番の愛聴盤ご紹介ですが、前回の「モノラル録音編」に続いて今回はステレオ録音編です。懐かしい往年の名指揮者が順に登場しますが、これらは全くの僕個人の趣味ですので、ご了承ください。

Xat1245253140 エドゥアルト・ヴァン・ベイヌム指揮アムステルダム・コンセルトへボウ管(1958年録音) 最近は、すっかり忘れ去られた感のあるベイヌムですが、僕が学生の頃には中々に人気が有りました。引き締まって切れの良いリズムが非常に魅力的でした。このブラームスも速めのテンポで躍動感の有るスタイルで、後述のベーム/ベルリン・フィルに共通していますが、少々引き締まり過ぎていて、もう少しゆったりとした余裕が欲しい気がします。

Walter3200081099 ブルーノ・ワルター指揮コロムビア響(1959年録音/CBS SONY盤) 僕はワルターのニューヨーク・フィルとのモノラル盤は好みません。かつての柔らかいヨーロピアン・スタイルとはかけ離れたアメリカ的な激しい表現だからです。その点ステレオ盤では、ゆったりとした雰囲気を取り戻していて、非常に魅力的です。曲のどこをとっても柔らかく美しい表情で一杯です。オケの音の薄さも不思議と気になりません。晩年のステレオ盤では2番と3番は音が荒くいただけないのですが、この1番と4番はとても出来が良いと思います。

41ce7fgfjsl__sl500_aa300_ カール・ベーム指揮ベルリン・フィル(1959年録音/グラモフォン盤)  ベームがまだ60代の壮年期の演奏です。後年の演奏よりもテンポが速く、活力に溢れています。当時のベルリン・フィルもドイツ的な暗い音色を残していてブラームスに適しています。ただ、音が余りに凝縮され過ぎているので、聴いていて息苦しさを感じます。一つはスタジオ録音のせいでもあるでしょう。個人的には後年のライブ録音の方に強い魅力を感じます。

Brahms_kempe ルドルフ・ケンぺ指揮ベルリン・フィル(1959年録音/EMI盤) ケンぺは晩年のミュンヘン・フィルとの録音も有りますが、響きが薄く好みません。その点、暗く厚い音を持つ当時のベルリン・フィルとの演奏には満足できます。厳格なイン・テンポでじわじわと高揚させてゆく辺りはやはりドイツ人です。それでいてベーム/ベルリン・フィルのような息苦しさも感じません。僕が持っているCDは東芝EMI盤なので高音に強調感が有ります。現在はテスタメント盤が出ていますので、これから購入される方はそちらを選ぶべきです。

Brahms1_konvic フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1962年録音/シャルプラッテン盤) コンヴィチュニー最晩年の録音です。ベートーヴェンやシューマンであれほど素晴らしいドイツの音を聞かせた全盛期のゲヴァントハウスとのブラームス全集が無いのは痛恨の極みですが、唯一録音が残された1番は、期待通りの演奏です。弦も管も古色蒼然としたオケの音色が最高で、特に終楽章冒頭のホルンには言葉を失います。テンポはもちろん厳格なイン・テンポ。これでこそブラームスの音楽は生きます。それにしても、この素晴らしい演奏が廃盤なのはドイツ音楽ファンにとって大きな損失です。

4105110900 カレル・アンチェル指揮チェコ・フィル(1962年録音/スプラフォン盤) 1楽章の導入部は速めですが主部に入るとじっくりと進行します。リズムやアクセントの厳格な刻みがドイツのオケ以上なのに目を見張ります。推進力が有りますが、決して上滑りしないのはブラームスに適しています。チェコ・フィルの清涼感の有る音色は悪くありませんが、管楽器の大きなビブラートが目立つのは微妙です。終楽章でもイン・テンポでじわじわと高揚する辺りは聴き応えが有ります。僕はこの演奏は意外に好きです。

Brahms_bohem_1 カール・ベーム指揮バイエルン放送響(1969年録音/オルフェオ盤)  ミュンヘンでのライブ録音です。ベームのこの曲の録音の中でも最も燃えに燃えている演奏です。ある評論家が「まるで阿修羅のようだ」と記述していましたが、とても的を得た表現です。老境に入る前のベームがライブでひとたび燃え上がるとどれだけ凄かったかが良く分かる最高の記録でしょう。但しその分、晩年の演奏に比べて音楽の翳りがやや乏しい面が有ります。バイエルン放送響の音色は幾分明るめに感じられますが、違和感は有りません。録音は年代相応というところです。

4110061114クルト・ザンデルリンク指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1971年録音/DENON盤) 全盛期のSKドレスデンをブラームスの音楽を最も得意とするザンデルリンクが振った演奏です。やや遅めでインテンポを守りますが、アフフタクトを強調して念押しするような強固なリズムや、ドイツ的なマルカート奏法が重厚さをもたらしています。それでいて推進力を失いませんので、終楽章などは充実感で一杯です。SKドレスデンの典雅な響きも最高です。柔らかく目のつんだ弦の音に管が完全に溶け合って、実に厚みのある音を聞かせます。終楽章の弦の主題の高貴さは類例がないと思います。管のソロ奏者達も皆上手く極めて魅力的です。録音から40年経た今でもこの音と演奏を越えるものは未だに聴いたことが有りません。

Sander416 クルト・ザンデルリンク指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1973年録音/TDK盤) SKドレスデンの初来日時のライブ録音です。テンポといい鳴らし方といい、2年前のスタジオ録音と全く変わりません。録音は大差有りませんが、柔らかく深い響きはドレスデンのルカ教会で録音されたスタジオ盤のほうが勝ります。後述のベーム/ウイーン・フィルと並んで、過去日本で演奏された最上のブラームスだと思いますが、どちらかを選べと言われれば、僕は迷うことなく’71年のスタジオ録音盤をとります。

Cci00014b_2 カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1975年録音/グラモフォン盤) 日本公演のライブです。NHKホールのこの時の演奏はオールドファンの語り草となっています。バイエルン放送響盤よりもゆったりとしたテンポでスケールが非常に大きいのですが、一方で高揚感も充分に有ります。また、ウイーン・フィルらしからぬ重厚な響きも大変に魅力的です。厳格なプロシア風とは言い難いですが、雄大なアルプスを感じさせる演奏です。これはベームの最上の演奏記録だと思います。NHKの録音も低域まで充実していて非常に優秀です。

Brahms_bohem_14 カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1975年録音/グラモフォン盤) ベームとウイーン・フィルは日本公演から2か月後にウイーンで全集録音を行いました。音楽の造りはほぼ同じです。ムジーク・フェラインの美しい響きを捉えた録音も素晴らしいのですが、少々落ち着き過ぎている印象はあります。実演になると別人の如く気合の入るベームですので、この曲に関してはやはりNHKのライブ盤のほうを第一に取りたいと思います。

Brahms1_381 オイゲン・ヨッフム指揮ベルリン・ドイツ響(1981年録音/WEITBRLICK盤) ヨッフムはブルックナーほど多くの録音を残してはいませんが、ブラームスも重要なレパートリーです。幾らかテンポの浮遊感を感じますし、リズムの念押しも普通なので、特別に重厚な印象は有りません。古典派よりも幾らかロマン派に傾倒した演奏です。金管も部分的に強奏されます。人によっては好まれるのではないでしょうか。但し終楽章でフルートとホルンが聴きどころで音が不安定になるのは頂けません。ベルリン・ドイツ響はかつてのフリッチャイの西ベルリンの放送響です。レーグナーの東ベルリンの放送響とは異なります。

515r2b7qvll__ss500_ ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1983年録音/オルフェオ盤) ミュンヘンでのライブの全集盤です。冒頭のテンポが速いので「これは爆演タイプかな」と警戒していると、主部では念押しした重圧なリズムになるので安心します。あとは最後までインテンポを通すのは我が意を得たりです。ホールトーンを生かした柔らかい録音なので響きがとても美しく心地よいです。終楽章の終結部で金管が開放的に奏されますが、騒々しくなることは無く許容範囲内と言えます。

Brahms1_karajan_1988 ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィル(1988年録音/テスタメント盤) 実は高校時代に初めて買ったブラームス全集はカラヤンの最初のグラモフォン盤でした。但しそれは1年後ぐらいに友人のフルトヴェングラーのEMIの全集と交換してしまいました。これはカラヤン晩年のロンドンでのライブ録音です。この時は、会場への楽器の到着が遅れるアクシデントが有ったために、リハーサルなしの本番だったとのことです。その影響が有ったかどうかは知りませんが、全体にカラヤンにしては遅めのテンポで堂々としています。但し古典派よりもロマン派に傾倒した演奏です。終楽章の弦の主題がいい例でレガートに歌うのでムード的です。BBCの録音のせいか、響きはいつものベルリン・フィルのように騒々しくは感じません。ところが終楽章では何事かと思うような凄まじい金管の強奏とティンパニの強打で本来のカラヤンに戻るので、耳にこたえます。

F0123532_851327 オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ベルリン(1988年録音/Altus盤) スウィトナーがパーキンソン病で引退する2年前のサントリーホールでのライブ録音です。この人はモーツァルトを演奏すると非常に軽快ですが、このような重厚な音楽はその通り忠実に演奏します。1楽章のドイツ風に念押しするリズムは、さながらザンデルリンクのようです。ただ、2楽章以降は造形性が幾らか緩やかになります。特に終楽章ではテンポの揺れが有ったり、部分的にフォルテを強調したりとロマン派調に傾きます。弦に管が溶け合う響きはやはりドイツのオーケストラです。

Vcm_s_kf_repr_500x500 クルト・ザンデルリンク指揮ベルリン響(1990年録音/カプリッチオ盤) SKドレスデン盤から18年後の再録音全集です。テンポが非常に遅くなりました。そのうえで念押しするリズムは変わりませんので、かなりもたれます。1楽章などは推進力が全く失われているので、じれったいほどです。2楽章以降もやはり同様にもたれています。但し終楽章の弦による主題以降は推進力を感じます。ベルリン響の音については、このCDを推薦する評論家は「真にドイツ風の響きだ」と言いますが、イエスキリスト教会の深い響きに助けられているだけです。オケの魅力はSKドレスデンに遥かに及びません。

41mqvx5jevl__sl500_aa300_ カルロ・マリア・ジュリーニ指揮ウイーン・フィル(1991年録音/グラモフォン盤) 全集盤の録音です。遅いテンポでイン・テンポを守り、一音一音念押しするリズムがいかにもブラームスです。1楽章は緊張感と重厚な響きが素晴らしく、ベストを争うほどの出来栄えです。2楽章はゆったりとして、ウイーン・フィルがとても美しいです。4楽章もスケールが大きく、緊張感を保っていて良いです。カンタービレがやや過剰気味なのが自分の好みから離れてしまいますが、全体的には非常に良い演奏です。

869 ベルナルト・ハイティンク指揮シュターツカペレ・ドレスデン(2002年録音/Querstand盤) 実はハイティンクは余り好きでは無いのでこのCDは購入していませんでした。それを昨年末にsource manさんからディスクを頂戴したのです。考えてみれば、ブラームスに最適なSKドレスデンですので、これまで聴かなかったのは不思議です。これはドレスデンでのライブ録音ですが、当然音質は優秀です。オケの響きも管が弦に完全に溶け込むSKDサウンドです。元々自己主張を強くしないハイティンクはSKDには向いているかもしれません。但し、この演奏がザンデルリンク盤を超えるかというと、そうとは言えません。剛直なプロイセン魂をザンデルリンク盤には感じますが、ハイティンクには残念ながらそれは感じません。SKDも40年前の方がドイツ的な体質をより強く保持していたのは否定できません。ディスクとして比較すると、どうしてもそんなことを感じてしまいます。けれども、これは最新の録音で聴くことが出来る最上のブラームスだと思います。このCDをお贈り頂いたsource manさんに改めて御礼申し上げます。

51qxycs6il__sl500_aa300_ 小澤征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラ(2010年録音/DECCA盤) 小澤さんの若い頃の演奏は非常に若々しくフレッシュでとても好きでした。ところが年齢を重ねるにつれて、それほど好きでは無くなりました。しかし食道癌との闘病後の昨年末にニューヨークのカーネギーホールで行った復帰コンサートをCDにされては聴かない訳にはいきません。このオケはもちろん常設団体では有りませんが、今回のメンバーは特に管楽に世界の著名オケの首席クラスが大勢加わっています。彼らが齋藤秀雄氏に関係が有るのか無いのか良く分かりませんが、スーパーヴィルティオーゾ・オーケストラと呼ぶのに躊躇いは有りません。演奏は遅めのテンポでゆとりが有りますが、メンバーの非常に高揚した気分を感じます。管楽はさすがに素晴らしいです。常設オケのような同一性や熟した印象は無くとも、逆に緊張感を感じます。弦楽も細部の表情がとても豊かで感心します。小澤さんの指揮にはドイツ的な音のタメこそ有りませんが、新鮮さの有るブラームスです。全体の響きがまろやかなのも良く、これは決して録音によるだけでは無いと思います。この演奏をこれから何度も繰り返して聴きたくなるかどうか現時点では分かりませんが、何年か後に自分がどう感じるか楽しみな1枚です。

ということで、この曲の所有CDを改めて聴き直しましたが、モノラル/ステレオ盤を合わせてのマイ・フェイヴァリットは、やはりザンデルリンク指揮シュターツカペレ・ドレスデンの1971年盤でした。これは自分にとっては完全無欠の「ブラ1」です。そして2番目はベーム/ウイーン・フィルの1975年NHKライブです。これも本当に素晴らしく、正に記念碑的な演奏だと思います。3番目グループとしては、フルトヴェングラー/北ドイツ放送響の1951年盤、コンヴィチュニー/ゲヴァントハウス管の1962年盤、シュミット-イッセルシュテット/北ドイツ放送響の1967年盤、ハイティンク/SKドレスデンの2002年盤が続きます。それ以外も、実はみな好きな演奏です。やはり自分はブラームジアーナーに間違い有りません。

<追記> ジュリーニ盤を後から加筆しました。この演奏は3番目グループに加えたいと思います。

<関連記事>
今年聴いたブラームスの交響曲のCD

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