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2011年1月

2011年1月29日 (土)

ラフマニノフ 交響曲第2番ホ短調op.27 名盤 ~ロシア音楽紀行~

本当に毎日寒いですが、寒い寒いとばかりも言ってはいられませんので、寒さに負けずに「暖炉にあたった気分でロシア音楽を聴きましょうシリーズ」の第6回と行きましょう。前回に続いてラフマニノフです。今回はシンフォニーです。と、ここまで読めば、もう皆さんは「ハハん、あの曲ね。」と察しがつくでしょう。そうです、交響曲第2番です。

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ラフマニノフというとピアニストのイメージが強いですが、管弦楽作品も書いていますし、自作の演奏のために指揮台にも立っています。交響曲は3曲を残しましたが、その中で最も人気の高いのが第2番です。個人的には色々なモティーフが絡み合っていて近代交響作品として更に優れているのではないかと思う第3番も好きなのですが、やはり第2番の甘い旋律でロマンティックに迫られると抵抗できずに身も心も奪われてしまいます。

この曲はまるで映画音楽のような暗く甘いムードを持って情緒綿々と歌われます。いきなり第1楽章からそんな雰囲気でいっぱいです。第2楽章はアレグロ・モルトですが、このリズムは馬の駆けるイメージですね。雪原を疾走する馬でしょう。第3楽章アダージオはこの曲の白眉である甘くとろけるような旋律で延々と歌われる楽章です。第4楽章アレグロ・ヴィヴァーチェは非常に活力が有りますが、なんだかクラシックというよりはブロードウェイ・ミュージカルみたいです。

この曲は長大なので、以前は短縮版で演奏されるのが普通でした。現在は完全版で演奏されていますが、それを世に広めた功労者はアンドレ・プレヴィンです。但し完全版での演奏をプレヴィンに助言したのは他でもないムラヴィンスキーだったそうです。

この曲を余り好きでない方からは「映画音楽みたいだ」とケチをつけられますが、それぐらいにムードの有るのがラフマニノフの音楽の魅力ですので、理屈抜きで楽しめば良いでしょう。けれどもさすがにこの曲を幾つもの演奏で聴き比べてはいません。現在手元に有るのは2種類のみです。

417vxknth3l__sl500_aa300__2 マリス・ヤンソンス指揮サンクトペテルブルグ・フィル(1993年録音/EMI盤) 今では非常に人気のあるマリス・ヤンソンスですが、以前に全曲録音を行っています。この演奏はことさらに過剰に歌い上げていないところが、好みの分かれ目だと思います。ムード的で無い、映画音楽を感じさせない演奏とでも言いましょうか。サンクトぺテルブルク・フィルの優秀さも際立っていて、非常に聴きごたえが有ります。個人的には、とても好きな演奏です。但しEMIの録音が後述のスヴェトラノフ盤と比べて少々くすんだ印象で聴き劣りがするのがマイナスです。このCDには名曲「ヴォカリーズ」が管弦楽版で入っているのは大変嬉しいです。

560 エフゲニ・スヴェトラーノフ指揮ロシア国立響(1995年録音/ワーナーミュージック盤) ロシアものとくればやはりこの人が登場しないわけには行きません。緩徐部分はずいぶん遅いテンポでたっぷりと歌い上げます。その割に1楽章の中間部は大迫力なので、リムスキー・コルサコフのようでもあります。聴きものの3楽章は期待通りに雰囲気いっぱいに歌ってくれます。うーん、ラフマニノフ!終楽章も期待通りに派手なミュージカルさながらです。録音も優秀ですのでオーケストラの美しい響きをふんだんに味わえます。オリジナルのキャニオン盤は現在廃盤ですが、ワーナーミュージックから同じものが再発売されています。僕は全集で持っていますが、第2番単独でも出ています。 

ところで、この曲を世に広めたアンドレ・プレヴィンも何回か録音を残していますが、最初のロンドン響との演奏(EMI盤)を聴いた限りでは正直言って少々生ぬるくBGM的な印象と記憶しています。えっ、この曲はそれで良いって?いや、決してそんなことは・・・・

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2011年1月24日 (月)

N響アワー 堤剛さんのドヴォルザーク チェロ協奏曲ロ短調

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今夜のN響アワーに堤剛さんがゲスト出演していました。対話の後に放送されたのが、ドヴォルザークのチェロ協奏曲ロ短調です。昨年10月のN響定期公演での収録です。僕はこの番組を毎回観るということでは無いのですが、今回は我が国のチェロ界の重鎮の登場なのと、チェロの不朽の名曲という内容だったからです。堤さんの話の中では、若いときに留学してヤーノシュ・シュタルケルに技術だけではなくプロとしての心構えを叩き込まれたというくだりがとても興深かったです。

後半のコンサートの録画ですが、非常に貫禄が有る演奏ぶりだなぁという印象でした。但し、何しろチェロの難曲ですので、年齢の衰えとライヴの難しさからか、音の怪しい個所が随分有りましたし、かなり辛そうでした。特にあの困難な第3楽章では目立っていました。それでも年輪を重ねた音楽の深さ、大きさにはやはり惹かれるものがあります。

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レーベル:ソニー   品番:SRCR-1528

このコンサートの実演を聴かれた人や、今日のN響アワーを観られた人が、どのような感想を持たれたかは知る由も有りませんが、堤さんにはずっと若いころにドヴォルザークの祖国チェコのプラハでレコーディングをしたこの曲の素晴らしい演奏が有ります。チェコの名指揮者ズデニェック・コシュラーが指揮するチェコ・フィルハーモニーの伴奏という理想的なサポートでした。ここでのオーケストラは僕が知る限りこの曲の最高の演奏です。そして全盛期の堤さんの素晴らしいチェロを聴くことができます。実は一般的に人気の高いロストロポーヴィチ、フルニエ、ヨーヨー・マ、デュ・プレといった幾つもの名盤よりも、個人的にはずっと好んでいます。但し繰り返しますが、その魅力の半分か、あるいはそれ以上はコシュラーとチェコ・フィルの素晴らしさです。この演奏は現在は廉価CDで出ていますし、この曲を愛する人には是非一度は聴いてほしいと思います。

<旧記事はこちら> ドヴォルザーク「チェロ協奏曲ロ短調」の名盤

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2011年1月21日 (金)

ラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番ニ短調op.30 名盤 ~ロシア音楽紀行~

早いもので大寒に入りました。ここまでくれば厳しい寒さももう少しの辛抱ですね。さて「暖炉にあたった気分でロシア音楽を聴きましょうシリーズ」も第5回です。僕が冬の季節にチャイコフスキーと並んで聴くのが好きなのはラフマニノフです。昨年末に「ピアノ協奏曲第2番 名盤」の記事を書きましたので、今回はその続きということでピアノ協奏曲第3番です。

Rachmaninov_2 (写真:左端から順にラフマニノフ、ウオルト・ディズニー、ホロヴィッツ)

ピアノ協奏曲第3番は、成功を収めたピアノ協奏曲第2番から8年後の1909年にニューヨークで初演されました。独奏はもちろんラフマニノフ本人です。曲の雰囲気は第2番とほぼ同じと言えますが、甘さがだいぶ減少して憂鬱と孤独な雰囲気が強まったように感じます。ロシア的な雰囲気もより強いように思います。ピアノ技術的には更に難易度が高まりましたので、腕前を披露する格好のレパートリーです。この曲はヴィルトゥオーゾが好んで演奏します。一般的には第2番のほうが人気は高いでしょうが、この第3番もラフマニノフ好きにはたまらない魅力が有ります。1楽章の憂鬱と孤独と激しい切迫感、2楽章の寂寥感、3楽章の情熱と迫力はいずれも魅力的で、やはりピアノ協奏曲の名作です。

それでは、僕の愛聴している演奏のご紹介です。

Rachmaninov_naxos_8110601_2 セルゲイ・ラフマニノフ独奏、オーマンディ指揮フィラデルフィア管(1939年録音/NAXOS盤) 作曲者本人の演奏を聴くことができるというのは大変な参考になります。後年の演奏家がこの録音を聴かずに演奏することはまず考えれらません。ラフマニノフの弾くテンポは大変な快速なのですが、少しも性急に聞こえないのはさすがに自分の曲です。第2番の演奏と同じように、ロマンティックな部分での歌い回しもごく自然に心に浸みこんできます。伴奏指揮はオーマンディに変わったので幾らか甘さが控えめになりました。NAXOS盤のSP盤からの復刻は、やはり明確な音質です。

4108080495 ウラディミール・ホロヴィッツ独奏、オーマンディ指揮フィラデルフィア管(1978年録音/RCA盤) これはカーネギーホールで開かれたホロヴィッツのアメリカ・デビュー50周年記念コンサートのライブ演奏です。奇しくも伴奏を務めるのは40年前にラフマニノフ盤の伴奏をしたオーマンディ/フィラデルフィア管です。それだけでも記念碑的な演奏だと言えます。ホロヴィッツの演奏は非常に貫禄が有りますし、3楽章の終結部の迫力などは相当に凄まじく圧倒されます。但し残響の少ない会場での録音条件の悪さが全体の印象に少々マイナス影響しているのが残念です。

Cci00014b マルタ・アルゲリッチ独奏、シャイー指揮ベルリン放送響(1982年録音/フィリップス盤) ベルリンでのライブ演奏です。1楽章は遅めにゆったりと開始されます。デリカシーに溢れた歌いまわしに非常に魅了されます。感情の大きな波が徐々に高まってゆく表現が素晴らしいです。一方、フォルテ部分ではロシア人ピアニストにも負けないほどの豪快さで、女性でこれだけ力強く弾ける人は他にはまず居ないでしょう。シャイーの伴奏指揮もロシア的ともアメリカ的とも違いますが、ロマンティックな情緒に富んでいてとても美しいです。

Eresco_rachmaninov ヴィクトール・エレスコ独奏、プロヴァトロフ指揮ソヴィエト国立響(1984年録音/メロディア盤) エレスコの録音したピアノ協奏曲全集の中の演奏です。テクニック的にも不満はありませんし、デリカシーにも富んだ良い演奏です。1楽章のテンポは速めでラフマニノフ並みですが性急な感じは有りません。2楽章はロマンティックな味わいがとても良いです。3楽章はゆったりと構えていて、興奮よりは味わい重視という印象です。指揮もオケもロシア勢によるロシア的な土の香りと哀愁の味が濃く、アメリカの都会的な雰囲気は薄目です。

51lsgj7ocl__sl500_aa300_ 中村紘子独奏、スヴェトラーノフ指揮ロシア国立響(1985年録音/SONY盤) 同じコンビのピアノ協奏曲第2番のCDは僕の愛聴盤ですが、モスクワ録音の第3番も素晴らしい演奏です。スヴェトラーノフがこの人にしては速めのテンポで比較的淡々と演奏している印象ですが、それでもオーケストラから滲み出るロシアの香りは充分です。中村紘子のピアノはオーソドックスなもので、テクニックにも不足しませんし、歌のセンスや力強さにも不満は有りません。録音も良いので、ニュートラルな演奏としてお薦めすることが出来ます。

764 アンドレイ・ガヴリーロフ独奏、ムーティ指揮フィラデルフィア管(1986年録音/EMI盤) 明るくゴージャスな響きのフィラデルフィア管をムーティが歌わせると、まるでハリウッドの映画音楽みたいです。ここにはロシアの土の香りは全く有りません。ガヴリーロフは冒頭はゆっくり入ってきますが、徐々に高揚してゆき、中間部の両手で和音を叩きつける部分は驚異的な高速で凄まじい迫力をもって弾き切ります。ここは思わず鳥肌が立ちます。ですが一転して2楽章のようにデリカシー溢れる部分も実に見事です。そして3楽章のピアノとオケのからみの迫力の凄いこと。ここまで徹底されると脱帽です。

以上の中で一番凄いと思うのは、ガヴリーロフ/ムーティ盤です。ピアノの余りの凄まじさとオーケストラのゴージャスな音と表現力が有無を言わせません。ピアノのみに関してはデリカシー溢れるニュアンスが抜群のアルゲリッチにも強く惹かれます。オーソドックスでロシアの香りに溢れる中村紘子/スヴェトラーノフ盤も愛聴盤に仲間入りします。

<補足>
中村紘子/スヴェトラーノフ盤をあとから加筆しました。

<関連記事>
ラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番 ラザール・ベルマンの名盤
第1回チャイコフスキー・コンクール・ライブ ヴァン・クラィバーン 

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2011年1月16日 (日)

ボロディン 弦楽四重奏曲第2番ニ長調(ノクターン) ~ロシア音楽紀行~

毎日ほんとうに冷え込みます。北陸や日本海側では大雪とのニュースが伝えられています。皆様お気を付けて下さい。それにしても昨年のあの長く暑い夏がなんだかとても懐かしく感じられますね。さて「暖炉にあたった気分でロシア音楽を聴きましょうシリーズ」も第4回です。前回はチャイコフスキーの三大交響曲と派手に行きましたので、今回はずっと静かな曲を聴きましょう。ボロディンの弦楽四重奏曲第2番です。

Ab_b01 ボロディンはムソルグスキーやリムスキー・コルサコフと同じ時代に活躍した作曲家ですが、作品は決して多くは有りません。歌劇「イーゴリ公」からの「ダッタン人の踊り」が有名ですが、あとは交響曲と管弦楽曲などが有ります。この人の作品は余りロシアの土俗感を強く感じません。冬の寒さというよりもむしろ夏のロシアの屋外の温かさを感じさせます。そんな作品の中で僕が昔から大好きなのが、弦楽四重奏曲第2番です。第3楽章の「ノクターン(夜想曲)」は単独でも「ボロディンのノクターン」として知られています。NHKの深夜のラジオ番組のエンディング・テーマとしてよく流れていました。この曲も寒さを感じないので、温かい室内で夜更けに一人ソファに座って聴くのにこれほどうってつけの名曲はありません。

この曲は4楽章構成です。第1楽章はアレグロ・モデラートですが、第1主題はとてもゆったりとした味わいでロマンティックです。ノクターンならずとも夜更けに聴くには既に最高です。途中で闊達になりますが、この楽章も僕は大好きです。第2楽章はスケルツォですが、やはりとても甘い雰囲気を持っていて魅力的です。第3楽章が有名なノクターンで、夜のしじまが遠く聞こえてくるような本当に夢見る様に静かな名曲です。こんな曲を聴きながら暖炉にあたることが出来たら本当に素敵でしょうね。第4楽章はアンダンテ・ヴィヴァーチェで、最後は闊達に曲を締めくくります。

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この曲のCDはたった1枚しか所有していません。学生時代にLP盤で愛聴した演奏を今はCDで聴いています。ボロディン弦楽四重奏団が1962年にDECCAへ録音した演奏です。この当時は第1ヴァイオリンをロスティスラフ・ドゥヴィンスキーが弾いていて、まだコぺルマンには変わっていません。ドゥヴィンスキーのほうが全体的にアクセントが強めで歌いまわしもダイナミックです。一方しなやかな美しさでは後のコぺルマンのほうが上だと思います。二人とも素晴らしいヴァイオリニストなのですが、コぺルマン時代には彼らはこの曲を何故か録音していません。ですのでいまだに自分の愛聴盤は変わっていません。もちろん他のメンバーも上手いですし、ロシアの雰囲気いっぱいのこの演奏は何物にも代えがたいです。

カップリング曲はLP時代と変わらず、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第8番ですが、これも素晴らしい演奏です。現在のCDには、更にヤナーチェク弦楽四重奏団の演奏するドヴォルザークの「アメリカ」も収められています。第1ヴァイオリンのイジー・トラーブニーチェクを中心に土俗的でダイナミックな演奏で楽しめます。僕はもちろんスメタナ四重奏団の演奏が一番好きなのですが、この演奏も中々に好きです。

というわけで、ボロディンをもう一度聴きながら寝ます。おやすみなさい・・・(Zzzzz)

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2011年1月14日 (金)

チャイコフスキー 後期三大交響曲 ポリャンスキー/ロシア国立響 ~ロシア音楽紀行~

「暖炉にあたった気分でロシア音楽を聴きましょうシリーズ」の第3回です。”何とかの一つ覚え”みたいにチャイコフスキーばかりが続くのもどうかとは思いますが、好きなものは仕方がありません。本当にチャイコフ好き~!

1178287277_2 チャイコフスキーは、バレエ音楽をはじめとする管弦楽曲や協奏曲に多くの名作を書いていますが、作品群の中核を成すのはやはりシンフォニーですよね。第1番「冬の日の幻想」や第2番「小ロシア」も名曲ですが、作品の充実度から言えばやはり第4番、第5番、第6番「悲愴」の、いわゆる”後期三大交響曲”が圧倒的に優れています。僕も昔から飽きもせずに繰り返し繰り返し良く聴きました。第4番は初期の交響曲と同じようにロシアの土臭さを強く残しています。ですので、僕の気に入った演奏はほぼ全てロシア人指揮者がロシアのオーケストラを指揮したものです。ところが第5番になると、作風がロシア風からもっと普遍性を持ち始めるので、必ずしもロシアの演奏家でなくても良いものは良いと感じます。第6番「悲愴」に至っては、個の「悲しみ」の表現がベースになりながらも、作品としては人類の共通テーマとしての「悲しみ」にまで昇華されているために、演奏家の国籍はそれほど重要では無くなります。

後期三大交響曲集といえば、僕は高校時代にカラヤン/ベルリン・フィルの1970代のEMI録音をLP盤で購入して愛聴しました。豪華な響きと演奏の迫力に魅了されたものです。ところが、ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルのグラモフォン盤を聴いてしまった瞬間から愛聴盤が入れ替わってしまいました。

その他には、本場ロシアのスヴェトラーノフ/ロシア国立響やフェドセーエフ/モスクワ放送響などを愛聴していますし、個々の曲には色々と愛聴盤が有りますが、それらについては以前記事にしています。

ところが、ブログ仲間のDokuOhさんがロシアのヴァレリー・ポリャンスキーという指揮者の「悲愴」を絶賛されていたので(記事はこちら)とても興味を持ちました。原盤のシャンドス盤は入手性が余り良くないのですが、幸いにも三大交響曲を含んだチャイコフスキーのボックス・セットがブリリアント・レーベルから発売されました。さっそく購入して聴いてみたところ、噂に違わぬ非常にユニークな演奏でしたのでご紹介します。

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ヴァレリー・ポリャンスキー指揮ロシア国立交響楽団(1993~6年録音/ブリリアント盤)

シャンドス・レーベルのデジタル録音を正規ライセンスでブリリアント・レーベルが販売しているので、音質は優れています。このオーケストラの名前は非常に紛らわしいのですが、スヴェトラーノフのロシア国立響とは異なる楽団です。こちらはロジェストヴェンスキーがソヴィエト時代に率いていたソヴィエト文化省交響楽団が国家体制変更とともに改名されてこの名前になったのですが、現在ではロシア国立シンフォニー・カペラというのが正式な名称です。

ここで聴かれる演奏がユニークなのは、よくあるロシアの爆演型とは全く異なるからです。ポリャンスキーの経歴についての記述は非常に少ないですが、長く合唱指揮者として活動してきた人で、オーケストラとの録音でも合唱が加わったものが多いです。

それではそれぞれの曲の演奏を聴いた感想です。

交響曲第4番ヘ短調op.36
1楽章はかなり遅めです。金管の咆哮がかなり控えめで、金管よりも弦楽をベースに音造りしているように聞こえます。迫力不足と思いきや、中間部や終結部ではテンポを落として見事な効果を上げています。2楽章もかなり遅く、心の奥底へ沈み込んでゆくような雰囲気が独特です。歌い方が少しも大げさでなく静かに心を伝えるという感じです。3楽章は普通の演奏と言って良いですが、続く終楽章は遅いテンポで始まります。通常の派手で華やかな演奏とは違って、重い運命を引きずっているかのようです。

交響曲第5番ホ短調op.64
この曲も1楽章は遅く始まります。主部も重苦しく進みますが、歌う部分になると更にテンポを落として喘ぐように歌います。金管は終始抑え目なので弦楽の美しさが目立ちます。2楽章では遥か遠くから静かにホルンが聞こえてきます。何か過ぎ去った夢のようです。旋律が弦楽に移っても同じように終始夢のように歌います。中間部のフォルテシモも絶叫することなく美しく響かせます。3楽章のワルツもかなり遅く、沈んだような暗さを感じます。終楽章でもやはりテンポは遅めです。ここでようやく金管を開放して鳴らしますが、それでも耳につくような強奏ではありません。音色こそロシア的ですが、普通の爆演にはならないのです。テミルカーノフ/レニングラード・フィルの1992年盤が全体に遅いテンポで似ていますが、それに更に沈んだ雰囲気が加わったユニークな演奏です。

交響曲第6番ロ短調op.74「悲愴」
この曲の1楽章は息絶え絶えに始まります。失意で生きる望みを完全に失ってしまったかのように力が全く感じられません。それは中間部のあの激しいアレグロ・ヴィーヴォの部分に至っても音楽が爆発しません。ですのでカタルシスが訪れることもありません。何故なら初めから全てを失ってしまっているからです。2楽章の変拍子のワルツも非常に暗く力が有りません。3楽章の行進曲も重く感じますし、金管の爆発もだいぶ抑え目ですので、逆に他の楽章との音楽の同質性を感じる結果になりました。終楽章は悲しみの感情さえも既に失ってしまい、残されているのは単なる傍観者としての虚ろな眼差しという印象です。確かにここでは涙の滴を感じさせません。

3曲の演奏に共通しているのは、少しも絶叫することなく響きが常に美しく、どこまでも沈み込んでゆくような雰囲気で一杯という点です。オーケストラの音色は紛れもないロシアの音なのですが、常に抑制がかかっています。まさかロシアの指揮者とロシアの楽団がこのようなタイプの演奏を聴かせるとは思いませんでした。ですので通常の豪快なロシア風の演奏や、ゴージャスな響きを期待すると間違いなく裏切られます。けれども他の演奏では決して味わえない個性的な名演奏を聴くことが出来ます。その大きな理由はポリャンスキーが合唱指揮指揮者としての経歴が長いからなのかもしれません。

このCDボックスは実は6枚組で、幻想序曲「ロミオとジュリエット」と「スラヴ行進曲」をポリャンスキーの指揮で聴くことが出来ます。ヴァイオリン協奏曲は、ウラディーミル・スピヴァコフ独奏、スロヴァーク指揮スロヴァキア・フィルの演奏ですがこれは中々に良い演奏です。また同じスロヴァーク指揮の「弦楽セレナーデ」もしっとりとした良い演奏です。それ以外にも演奏の出来映えはともかくとして、デレク・ハン独奏のピアノ協奏曲第1番と2番、エンリケ・バティス指揮の3大バレエ組曲、更にはキエフ室内オーケストラによる「なつかしい土地の思い出」op.42から瞑想曲、メロディまで入っていて非常に盛り沢山です。

このセットはHMVのWEBショップで通常でも¥3000ちょっとですし、現在はスペシャルプライスで、な、な、なんと¥1000ちょっとです。安値でチャイコフスキーの名曲をそろえたい方や、後期三大交響曲で個性的な素晴らしい演奏を探されている方には是非のお勧めです。

<関連記事>
ポリャンスキー ロシア国立交響楽団 日本公演

三大交響曲の旧記事へはこちらから
交響曲第4番 
交響曲第5番 
交響曲第6番「悲愴」

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2011年1月10日 (月)

チャイコフスキー 弦楽四重奏曲第1番ニ長調「アンダンテ・カンタービレ付き」op.11 ~ロシア音楽紀行~

寒い冬が続きますので、「暖炉にあたった気分でロシア音楽を聴きましょうシリーズ」第2回です。今回は本当に暖炉にあたっている気分になりますよ。

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ご紹介するのはチャイコフスキーの弦楽四重奏曲第1番「アンダンテ・カンタービレ付き」です。チャイコフスキーは生涯に弦楽四重奏曲を正式には3曲しか残していません。そのうち悲歌の印象が強い第3番にも惹かれますが、やはり最も魅力を感じる作品は第1番です。また一般に広く知られているのもこの曲です。その大きな理由としては、第2楽章の「アンダンテ・カンタービレ」が有名だからです。チャイコフスキーはかつてウクライナの村に滞在したときに、村のペチカ(ロシア式の暖炉)造り職人が仕事をしながら歌っている民謡を聴いて、この曲の第1主題をつくりあげたそうです。どうりで暖炉にあたっている気分になるわけですよね。

けれどもこの曲は第2楽章以外もとても充実しています。第1楽章モデラート・エ・センプレーチェはゆったりとした、いかにもロシア情緒を湛えた雰囲気です。曲の魅力は第2楽章に少しも負けないと思います。第2楽章アンダンテ・カンタービレはもちろんロシア民謡そのものの悲歌ですが、この曲を演奏会で聴いた文豪トルストイが感動の余りに涙を流したと伝えられています。第3楽章スケルツォも民族舞曲を感じさせる個性的なリズムが魅力的です。第4楽章アレグロ・ジェストもやはりロシアの民族舞曲の性格を持つ胸の高鳴るような素晴らしい楽章です。

曲全体が非常に民族的で、第2楽章にエレジーを持ち、続く3、4楽章が民族舞曲風という構成はドヴォルザークの「アメリカ」によく似ています。どちらの曲も非常に魅力的で、広く愛聴されているのも同じです。

それでは僕が愛聴している演奏をご紹介します。

418bgpvydul__sl500_aa300_ ボロディン弦楽四重奏団(1979年録音/Aulos盤) ロシアの名カルテットの演奏です。彼らは3曲とも3回は録音していますが、僕の所有しているのは2度目のものです。第1バイオリンのミハイル・コぺルマンはシューベルトあたりを弾かせてもウイーン風に柔らかく聞かせる相当な名人だと思いますが、ロシアものを弾くときには正に最高です。全ての旋律の節回しがロシアの味そのものに感じます。他のメンバーも上手いですし、アンサンブルも優秀です。従って決定盤と言えると思います。このCDは韓国のAulosレーベルがメロディアのライセンスで発売したので音質は優れています。但し現在は廃盤のようなのでワーナーミュージックから出ている新盤のほうが入手性は良いと思います。同じコぺルマンが弾いていますので演奏は間違いないですし、どちらも3曲の他に弦楽六重奏曲「フィレンツェの想い出」がカップリングされていて楽しめます。

41zm8h2t6al__sl500_aa300_ スメタナ弦楽四重奏団(1966年録音/EMI盤) 僕の大好きなスメタナQも録音を残しています。全盛期の録音ですのでメンバーの技術が安定しています。但し、非常にしなやかで柔らかく歌っているのですが、どうもロシアものにしては少々しなやかに過ぎる気がします。美しい演奏には違いないのですが、ボロディンQたちに比べると、ロシアの良い意味での荒々しさに欠けるかな、と感じます。このCDにカップリングされたドヴォルザークの「アメリカ」の演奏のほうも若々しく、晩年の円熟した演奏とはまた別の魅力があって素晴らしいです。

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2011年1月 8日 (土)

~ロシア音楽紀行~ チャイコフスキー「弦楽のためのセレナーデ」ハ長調op.48

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本当に寒い日が続きますね。こんな冬の夜には、♪雪のふる夜は楽しいペチカ~♪という気分になりませんか?そのペチカというのはロシアの暖炉のことです。日本ではお金持ちでなければこんな暖炉は造れないでしょうけれど、暖炉にあたりながら音楽を聴いたら素敵でしょうね。その時に聴くのははもちろんロシア音楽です。ということで暖炉にあたった気分でロシア音楽を聴きましょうシリーズです。

新年の気分がすっかり抜けたとはいうものの、余り暗くなるのもいやですので、美しく楽しいチャイコフスキーの「弦楽セレナーデ」を聴きましょう。昨年小澤征爾さんが、がんの治療からカムバックして最初に指揮したのはこの曲でした。その演奏には並々ならぬ気迫を感じましたが、この曲は決して表面的に美しいだけでなく、チャイコフスキーの強いロシアへの想いが込められていると思います。弦楽セレナーデではドヴォルザークの作品も有名で僕は大好きですが、どちらも負けず劣らず素晴らしい名曲だと思います。ドヴォルザークは5楽章構成でしたが、チャイコフスキーのほうは4楽章構成です。

第1楽章「ソナチネ形式の小品」 導入部の重圧で哀愁漂う弦楽合奏が非常に印象的ですが、主部に入ってからの軽快な動きも非常に楽しいです。

第2楽章「ワルツ」 バレエの得意なチャイコフスキーは美しいワルツを幾つも書いていますが、その中でも特に傑作だと思います。美しく軽快ですが、どこかメランコリックな味わいがたまらない魅力です。

第3楽章「エレジー」 美しいロシア風の悲歌で全体に憂愁が漂いますが、暗くなり過ぎることが無いのでとても楽しめます。

第4楽章「ロシアの主題のフィナーレ」 ロシア民謡から主題が取られています。躍動感の中に大きく歌う部分がとても心地よいです。最後に1楽章の導入部分が再現されて感動的に終わります。

それでは僕の愛聴盤のご紹介です。

Tchaikovsky_strings_serenade_mravi エフゲニ・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル(1949年録音/メロディア盤) 古いモノラル録音ですので、音質に期待はできません。けれどもムラヴィンスキーらしい速めのテンポで彫の深い演奏はやはり存在感が有ります。ムード的に陥る部分が無く、全ての音符が真剣勝負といった風情です。もちろん無味乾燥ということでは無く、味わいに満ち溢れてています。軽く流される音が無いので非常に聴きごたえが有ります。

Tchaikovsky_strings_serenade_stoko レオポルド・ストコフスキー指揮ロンドン響(1974年録音/DECCA盤) 19世紀生まれのストコフスキーはポーランド系ですが、ロンドン生まれのアメリカ育ちです。戦前から積極的にレコーディングに取り組んでいたのと映画「オーケストラの少女」にも登場しましたので大衆にとても人気が有りました。大曲も多く演奏しましたが、ポピュラー指揮者というイメージが強くて気の毒です。この演奏は90歳を超えての録音ですが、生命力に溢れてロマンティックに歌わせた楽しい演奏です。

Sve2live エフゲニ・スヴェトラーノフ指揮ロシア国立管(1992年録音/CANYON盤) CANYONの優秀な録音のせいも有るのでしょうが、弦楽の響きがため息が出るほどに美しいです。ロシア国立管の弦がこれほど優秀とは思いませんでした。スヴェトラーノフのテンポはゆったりとしていて非常に重圧です。決して重苦しいということは有りませんが、まるでロシアの大地を想わせるかのようです。ワルツも楽しさの中に哀愁が一杯に感じられますし、エレジーでの歌いまわしも実に自然でロシアの空気感に惹きつけられます。フィナーレも同様でロシアの味わいに満ちています。

ということで、ファーストチョイスとしては当然、スヴェトラーノフ盤になるのですが、ムラヴィンスキー盤は聴いているうちに音質を忘れて演奏に惹きこまれます。ステレオ録音が残されていたら、どんなに良かったでしょう。

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2011年1月 4日 (火)

~名曲シリーズ~ ヴィヴァルディ 協奏曲集「四季」 名盤

今年から「名曲シリーズ」と題して、良く知られた名曲を毎回1曲選んで記事にしてみたいと思います。もしもご存じの無い方がいらっしゃれば是非とも聴いて頂きたいですし、よくご存じの方には僕が聴いている演奏についてご紹介したいと思います。

ということで第一回は新春にふさわしく、ヴィヴァルディの協奏曲集「四季」です。昔は日本で一番売れているクラシックのレコードとしてイ・ムジチ合奏団の演奏が有名でした。現在ではどうかは知りませんが、依然としてトップ人気の曲であるのは間違いありません。

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この「四季」は18世紀イタリアのバロック音楽の大家アントニオ・ヴィヴァルディが作曲した全部で12曲からなる協奏曲集「和声と創意への試み」作品8のうち最初の1番から4番までです。1番から順に「春」「夏」「秋」「冬」と続きますから、季節の移り変わりをことのほか愛する日本人には親しみやすいでしょう。もちろんタイトルだけでこれほど人気が高いはずは有りません。曲自体が本当に魅力的です。一度聴けば親しめるほど旋律が分り易くて、そのくせ変化に富んでいるので飽きが来ないのです。この曲でのヴィヴァルディには正に天才を感じます。各曲には自然や村の季節ごとの描写がなされています。鳥たちのさえずり、湧き出る泉、養育院の少女たちの官能的な踊りや姿態、夏の光や遠雷、農民の踊りと団欒、凍てつく寒さ、炉辺の温かさ、といったものが息つく間もないほどに次々と登場します。

この4曲が余りに魅力的なので、当然のことに残りの8曲も聴いてみたくなりますが、実際に聴いてみると、どういうわけか内容的に物足りません。ですので、「四季」から続けて聴いてみると、その間の落差に唖然とします。もちろんどれも悪い曲ではありませんが、「四季」が余りに傑作過ぎるので、そう感じられてしまうのしょう。

「四季」の録音は、室内合奏団のものや有名バイオリニストが独奏を弾くものなど多種多様です。ですので自分の好みに合わせて色々と聴いてみるのが楽しいと思います。僕自身、そう言いながらも、それほど多くは聴いていませんが、愛聴盤をご紹介します。

Phcp3631 イ・ムジチ合奏団、フェリクス・アーヨ(独奏ヴァイオリン)(1959年録音/フィリップス盤) これこそが歴史的ベストセラーになった演奏です。僕は高校時代に友人からこのレコードを借りて気に入ったものの、同じイ・ムジチの当時新盤のミケルッチ独奏盤を購入しました。テンポが速くなり活力が増しているのですが、何となくアーヨ盤のほうが良い気がしました。最近の古楽演奏による過剰なまでの表現の演奏と比べると面白さは劣るかもしれません。けれどもゆったりとしたテンポでレガートで弾かれる旋律の美しさはどうでしょう。逆に非常に新鮮に感じます。アーヨのヴァイオリンはため息が出るほど美しく、古楽器ではとてもこんな美しさは聴くことが出来ません。かと言って大家のような脂肪分が多過ぎのわけでもありません。早い部分も攻撃的な迫力は感じませんが、完成されたアンサンブルは充分に素晴らしいです。「温故知新」という言葉が思いつく、この演奏は不滅だと思います。

Yamano_4105050181イ・ムジチ合奏団、ロベルト・ミケルッチ(独奏ヴァイオリン)(1969年録音/フィリップス盤) アーヨ盤のイメージが余りに強かったので、昔は後継のミケルッチ盤は味わいが薄いと思っていました。けれども改めて聴き直すと、現代的に弾むリズムや明確なスタッカートを持ちながらも、アーヨ譲りの柔らかい音色と甘い歌いまわしも持ち合わせていて、中々に捨てがたい魅力があります。アーヨでは甘過ぎ、後年のイ・ムジチではスッキリし過ぎと感じる方には、案外と目からうろこ盤かもしれません。

510ownxsh1l__sl500_aa300_ イ・ムジチ合奏団、マリアーナ・シルブ(独奏ヴァイオリン)(1995年録音/フィリップス盤) イ・ムジチ合奏団はアーヨ盤以後にも、この曲を何度も繰り返して録音していて、どれもが素晴らしいと思いますが、その中で好きなのはこのシルブ独奏盤です。テンポは速まってはいますが、レガート気味の奏法はこの頃になっても大きくは変わりません。伝統的な音に安心感を感じます。それでも奇をてらった表現ではありませんが、かなり激しく弾いている部分も有ります。この演奏では通奏低音に通常のチェンバロだけでなくリュートが加えられていますが、風雅な雰囲気を醸し出していてとても素敵です。奏しているのは日本人のリュート奏者、野入志津子さんです。

M000010527310002 イタリア合奏団(1986年録音/DENON盤) イ・ムジチ以外で伝統的なイタリアの合奏団で聴きたい時には、この演奏を取り出します。これは最もオーソドックスだと思います。良くも悪くもイ・ムジチがややムード的だと言えば、イタリア合奏団は純器楽的です。イ・ムジチよりもずっと速めのテンポで、きりりと引き締まっています。アンサンブルも極めて優秀です。独奏バイオリンは一人が弾くのではなく、4曲とも異なった奏者が弾いています。このCDは作品8の全12曲が収録されていて廉価ですので、とてもお勧めできます。

4109051712 ジュリアーノ・カルミニョーラ(独奏ヴァイオリン)、ヴェニス・バロック・オーケストラ(1999年録音/SONY盤) 僕は古楽器の音は必ずしも好きではありません。潤いのないカサついた肌触りのようで心地が良くないからです。とは言え現代楽器の脂肪分の多い音ばかりを聴いているのもどうかと思うので、口直しの意味で聴きます。古楽器演奏盤は現在多く有りますので、自分自身もどれを聴いたら良いのか分りません。仕方がないので評判を聞いて購入したのはカルミニョーラ独奏盤です。この人は旧盤のほうが良いという評も聞きますが、所有しているのは新盤のほうです。過激で変幻自在な演奏は初めて聴いた時には驚きでしたが、その後は何度聴いても面白さでワクワクします。

以上の中で、特に好きな演奏はというと、やはりイ・ムジチのアーヨ盤とシルブ盤なのですが、他の演奏もどれも魅力的です。みなさんは、どんな演奏でこの名曲を聴かれていますか?

<後日記事> ヴィヴァルディ 「四季」 続・名盤

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2011年1月 1日 (土)

ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調「皇帝」op.73 名盤 ~迎春2011~

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皆様、明けましておめでとうございます。1年が経つのは本当に早いものです。どんどん時間が過ぎてゆくのは逃げようの無いことですが、せめて日々流されることなく自分の出来ることを精一杯してゆきたいものだと思います。

堅い話はここまでにして、このブログで今年は何をしたいかなぁと考えてみました。昨年はブルックナーとマーラーの二本立て特集とベートーヴェンのシンフォニー特集をしました。そこで今年のこのブログの抱負です。

まずは今までほとんど触れていないモーツァルトの特集をしたいと思います。シンフォニーとピアノ協奏曲を。ベートーヴェンは弦楽四重奏をぜひやりたいです。それにブラームスのシンフォニーも。これは意外なことに今まで一曲毎にはちゃんとやっていませんでした。バッハの三大宗教曲もやりたいです。これらの合間に、名曲シリーズ、旬の季節シリーズ、ご当地シリーズなど、なんだか良く分かりませんがやってみたいです。そうそう、それにオールドロックシリーズもです。

というわけで新年の抱負を立てようと思っていたのですが、まるで収拾がつかなくなりました。でも目標としては大体そんな内容です。

でも新年はやはり相応しい曲でスタートしたいところです。一昨年はベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲でしたので、今年はピアノ協奏曲の「皇帝」にします。ヴァイオリン協奏曲もそうですが、ベートーヴェンはこういう雄渾な音楽を書かせたら正に最高ですね。立ちはだかる困難にも勇気を持って挑戦すれば必ず打ち勝てる!というような、強い意志の力を音楽に感じます。堂々とした威容は曲のタイトルそのものです。僕としてはピアノ協奏曲の「王様」と言えばブラームスの第2番を上げます。(さしづめ”王様の影武者”は第1番でしょうね) となると「女王」はチャイコフスキーだと思いますが、「皇帝」という名前はやはりこの曲にしか考えられません。第1楽章の雄渾さ、第2楽章の深い祈りの境地、第3楽章の生命力の爆発。本当に素晴らしい名曲ですね。

それでは僕の愛聴盤を順にご紹介してゆきます。

410rqjyevvl__sl500_aa300_ ウイルヘルム・バックハウス独奏、シュミット=イッセルシュテット指揮ウイーン・フィル(1959年録音/DECCA盤) 学生時代に全集をLP盤で買って何度も聴きかえした演奏です。とにかくバックハウスの弾くベーゼンドルファーの音は柔らかく美しいです。このウイーンの名器と50年代のウイーン・フィルの柔らかい音とが溶け合った響きはそれだけで最高です。バックハウスの堅実な演奏は人によっては物足りなく感じるかもしれませんが、地味なようでいて実はこの上なく意味深い演奏で味わうことのできる至福を是非とも感じ取って頂けたらと思います。Sイッセルシュテットもウイーン・フィルの美感を充分に生かした素晴らしい指揮です。

F47739e488e8ee878be9dd9e9954280f ウイルヘルム・バックハウス独奏、ショルティ指揮ケルン放送響(1956年録音/medici盤) バックハウスはモノラル期の、クレメンス・クラウス/ウイーン・フィルとのスタジオ録音も有りますが、これはケルンでのライブ録音です。若いショルティがエネルギッシュな伴奏を付けています。バックハウスもライブらしく熱い演奏ですが、完成度の高いステレオ盤を超える存在ではありません。ケルン放送の録音は年代を考えれば優秀ですが、ステレオ録音のような柔らかいベーゼンドルファーの響きは期待できません。

Emperar002 ウイルヘルム・バックハウス独奏、シューリヒト指揮スイス・イタリア放送響(1961年録音/ERMITAGE盤) スイスのルガノでのライブ録音です。この時バックハウスは既に77歳ですが絶好調で、流れる様に安定したタッチで気迫を持って弾き切っています。その点ではステレオ盤以上です。ピアノの音質はショルティ盤とほぼ同じレベルですが、オケの音はむしろショルティ盤のほうが明晰です。けれども指揮の格はシューリヒトのほうが遥かに上ですし、ローカルオケを自在に操る手腕はさすがです。バックハウスの演奏を考えても、ニ種のライブではこちらの方を上にしたいです。

71dfn4bl1gl__sl1050_ルドルフ・ゼルキン独奏、バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィル(1962年録音/SONY盤) ゼルキンは若くしてドイツの大ヴァイオリニスト、アドルフ・ブッシュのパートナー・ピアニストに抜擢されましたが、その実力はワルター/ニューヨーク・フィルと1941年に録音した「皇帝」を聴けばその実力の程が解ります。速いテンポでの躍動感が凄いのです。それから約20年後のバーンスタインとのこの録音も負けず劣らず生命力の迸る演奏ですが、それでいてドイツ的な堅牢さを持ち合わせる辺りは稀有の存在です。ピアノタッチも極めて男性的ですが決して雑にはならず、細部にニュアンスが通っているのが素晴らしいです。オケの音色は少々明る過ぎますし、バーンスタインはかなり前のめりにオケを煽っていますが、変に落ち着いた演奏よりはずっと良いと思います。

Beethoven81aoiyxz3l__sy355_ダニエル・バレンボイム独奏、クレンペラー指揮ニュー・フィルハーモニア管(1967年録音) デビュー間もない若きバレンボイムが老クレンペラーのバックで録音した全集からです。冒頭をバレンボイムは流麗に弾き切ります。ところがオーケストラの主題が始まると、クレンペラーの遅めのテンポが主導権を握り、バレンボイムは仕方なしにそれに合わせるという風情に変わります。曲が進むほどにクレンペラーはどっしりと音にタメを作り自分のペースに持ち込みます。こうなってはバレンボイムは為すすべが有りません。後半はさながら巨人の音楽です。第2楽章も遅めですが以外と深みに不足するような気がします。第3楽章もテンポは遅いですが、バレンボイムはツボを会得したのかクレンペラーと呼吸を合わせて堂々と弾いています。というようにユニークな演奏ですが面白さは格別です。EMIの録音はパッとしませんが、この演奏は一聴の価値が有ります。

Emperar001 フリードリッヒ・グルダ独奏、シュタイン指揮ウイーン・フィル(1970年録音/DECCA盤) バックハウスと比べると皇帝が30歳は若返ったような印象です。グルダのタッチは重さが無く切れ良く軽快です。1楽章は貫禄不足ですが、2楽章は意外に深みが有りますし、3楽章は躍動感に満ち溢れていて聴いていて心が湧き立ちます。ホルスト・シュタインの指揮は軽量級タイプなのでピアノに合っていますが、ウイーン・フィルはSイッセルシュテットの時のような柔らかさは有りません。この演奏は普段、巨匠タイプを好んでいる自分にとっては逆にフレッシュで中々良いと思っています。

Emperor_2 アルトゥール・ルービンシュタイン独奏、バレンボイム指揮ロンドン・フィル(1976年録音/RCA盤) ルービンシュタインがなんと88歳の時の演奏です。ピアノのタッチが非常にしっかりしているのには驚かされます。テンポが極めて遅いので、雄大さを感じる反面、少々もたつきも感じます。バレンボイムも懸命に合わせてはいますが、遅いテンポにもたない部分も有ります。かつてバレンボイムはピアノを弾いてはクレンペラーの遅さに合わせざるを得ず、指揮をしてはルービンシュタインの遅さに合わせざるを得ずと、この曲に関しては気の毒な人でした。とはいえ、この風格に対抗できる演奏はちょっと無いんじゃないでしょうか。第3楽章の巨大さは凄いです。

4108031773 マウリツィオ・ポリーニ独奏、ベーム指揮ウイーン・フィル(1976年録音/グラモフォン盤) ポリーニがまだ30代前半の演奏です。当時のベームと共演した映像を観ると、ポリーニはまるで飼い主の命令をきく忠犬のような顔つきをしていたのが忘れられません。それはともかくここでのベーム/ウイーン・フィルの分厚く立派な響きは素晴らしいです。その伴奏に支えられたポリーニのピアノも生真面目で堅苦しいものの実に立派です。この人がこれだけのベートーヴェンを弾くのはやはりベームの影響によるものだと思います。

272 ルドルフ・ゼルキン独奏、クーベリック指揮バイエルン放送響(1977年録音/オルフェオ盤) ゼルキン74歳の時のミュンヘンでのライブ演奏です。この人はドイツものの最高の演奏家の一人だと思いますし、ベートーヴェンのソナタの多くも僕はバックハウスの次に好きかもしれません。男性的なタッチもまだまだ健在です。1楽章からゼルキンもクーベリックもかなりの気合が入っているので、結構テンポは速めです。2楽章では厳しさの中に深い美しさをたたえています。3楽章は勢いとゆとりが共存する腹芸のような演奏です。即興的と言えないこともありません。録音も秀れています。

51vj5gzxpml アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ独奏、ジュリーニ指揮ウイーン響(1979年録音/グラモフォン盤) ウイーンでのライヴ録音です。ミケランジェリのライヴ正規盤は珍しく貴重です。クリスタルガラスのように澄んで美しい響きのピアノがオケの柔らかい音に乗って、非常に気品のある美感を感じます。2楽章の美しさは尋常ではありません。終楽章も迫力一辺倒ではなく何とも気品を感じます。ドイツ系の奏者の、ともすると厳ついベートヴェンとは味わいの異なる演奏ですが、聴きごたえは充分です。ジュリーニの指揮もさすがに美しく立派です。

7fcd8540eb49a9220748ae0f70890ff4 クラウディオ・アラウ独奏、ディヴィス指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1984年録音/フィリップス盤) この演奏の最大の魅力はSKドレスデンの響きです。芯が有るのに柔らかく厚い音はなんとも魅力的です。アラウはこの時81歳なので、ピアノに切れの良さは望むべくも有りません。ひたすら誠実に弾くのみです。能役者の演技のように動きがゆっくりでメリハリが弱いので、1楽章や3楽章ではやや退屈に感じますが、2楽章の淡々とした歩みと味わいは素晴らしいです。

599 クリスティアン・ツィマーマン独奏、バーンスタイン指揮ウイーン・フィル(1989年録音/グラモフォン盤) ウイーンでのライヴ録音です。ライオンのようなアゴひげを生やしたツィマーマンはまさに「若き鍵盤の獅子王」です。伸びのある艶やかな美しい音で繊細さと力強さの両方を兼ね備えて非常に素晴らしいです。全く堅苦しくない新鮮な皇帝という印象です。バーンスタインの指揮は第1楽章の速い部分で幾らか前のめり気味で腰が据わらないのが気になります。けれども堂々とした部分では威厳が有りますし、3楽章も非常に立派です。

この曲の演奏は正に百花繚乱です。上記以外では、エドウィン・フィッシャー/フルトヴェングラー盤、ホロヴィッツ/ライナー盤、ギレリス/ベームのライヴ盤、アシュケナージ/ショルティ盤、アシュケナージ/メータ盤などの皇帝の名前に相応しい演奏家も色々と聴いてはみましたが、どれも自分の心に残る演奏ではありませんでした。残念なのはここにリヒテルの演奏が無いことです。とても曲に向いていると思うのですが録音は残されていません。

ということでマイ・フェイヴァリット盤ですが、正直どの演奏も魅力的です。それでもたった1枚選ぶとすれば、やはりバックハウス/S.イッセルシュテット盤です。ピアノとオーケストラの溶け合いが最高だからです。次いではツィマーマン/バーンスタイン盤の新鮮さを取りたいと思います。これはファースト・チョイスでも良いぐらいです。ピアノの魅力ではミケランジェリ盤にとても惹かれます。オーケストラ・パートが最高に素晴らしいのはポリーニ盤のベーム/ウイーン・フィルです。これは総合的にベスト3に入るかもしれません。

さて皆さんの新春の聴き初めは何の曲でしたしょうか。本年もどうぞよろしくお願い致します。

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