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2010年12月 2日 (木)

ブラームス ヴァイオリン・ソナタ集 ~隠れ名盤~

「ブラームスはお好き?」と聞かれれば「もちろん大好きですよ!」と答えます。このブログをスタートした一昨年のブラームス特集の中でも、ヴァイオリン・ソナタ集を取り上げました。僅か3作品のみにもかかわらず、いずれもが傑出した名作ですね。旧記事「ブラームス ヴァイオリン・ソナタ集 名盤」を書いた後にも二つの素晴らしいCDに出会いました。どちらも地味で渋い、いかにもブラームスにぴったりの演奏です。録音の存在自体も目立たないCDですので、「隠れ名盤」としてご紹介します。

Brahms_violin_sonata_hetzel

ゲルハルト・ヘッツェル(Vn)、ヘルムート・ドイチュ(Pf)(1992年録音/CANYON盤) 

ヘッツェルはウイーン・フィルの名コンサートマスターとしてかつてベームから絶大な信頼を受けていましたが、若くしてアルプスの山から転落して亡くなりました。そういえば11月に来日したウイーン・フィルのコントラバス団員も休日に富士山に登ってやはり滑落死してしまいました。アルプスに囲まれたオーストリアの音楽家が山登りを好むのは当たり前でしょうが、楽壇の損失にはなってほしくありません。名手ヘッツェルの演奏は、ウイーン室内合奏団やオーケストラ曲の独奏部分で聴くことができますが、ソロ曲の録音は決して多く有りません。その中で彼の最高の遺産と言って良い録音がこれです。大ホール向きのヴィルトゥオーゾタイプの演奏ではないので、むしろ曲にふさわしい気がします。基本表現は美しく端正ですが、時にすっくと立ち上がるような勇壮さを感じさせることも有ります。ベタベタ甘くならない、男っぽいブラームスですが、心の中は優しさで一杯というイメージです。正にこれらの曲の原点を感じます。第3番はオイストラフ/リヒテルの演奏などを聴くと何か巨人の格闘でも連想させますが、この演奏ではずっと等身大の人間を感じます。それでも終楽章では充分に迫力があります。もちろんヘッツェルに技術的な不満は全く有りません。本当に上手なコンサートマスターでした。ピアノを弾くドイチュも堅実で非常に素晴らしいです。

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ヨセフ・スーク(Vn)、パウル・バドゥラ‐スコダ(Pf)(1997年録音/チェコLOTOS盤) 

スークもソリストにしてはとても端正なヴァイオリンを弾く人でした。ですので曲によっては時に物足りなさを感じます。ブラームスのソナタは、若い時代にジュリアス・カッチェンと組んでDECCAに全曲を録音していますが、ブラームスにしては少々爽やか過ぎる印象でした。1番あたりでは曲想に合っていて確かに良かったとは思いますが。二度目はスプラフォンに2番と3番を録音しましたが、1番が欠けています。ところが68歳になって、今度はバドゥラ‐スコダと組んで全曲を再録音しました。それがこのCDです。スークは若いころはビブラートの小さい細身の音でしたが、晩年はビブラートが幾らか大きめになった気がします。その結果、音が柔らかく太くなった印象です。おおげさに歌わない端正なところはヘッツェルと同じで、ブラームスの曲にとても適していると思います。ウイーン出身で日本にもしばしば訪れているバドゥラ‐スコダのピアノも素晴らしいです。実にゆったりとスークのヴァイオリンを支えています。両者は若手の奏者には真似のできない大人の雰囲気を一杯に醸し出しています。1番も2番も非常に美しい演奏ですが、3番もとても良い演奏です。激しさのある1楽章や終楽章で少しも力みを見せません。それでいて物足りなく感じることがなく、自然に曲に浸ってしまいます。2楽章ではしっとりと大きく歌って魅了されます。

全3曲を収めたCDとしては、僕はやはりシェリング/ルービンシュタイン盤が一番好きですが、このヘッツェル/ドイチュ盤とスーク/バドゥラ‐スコダ盤も非常に気に入っています。現在はどちらも入手性は良くないと思いますが、中古店などで見つけられたら是非のお勧めです。

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更に後に聴いた、シゲティの1番&3番、ゴールドベルク盤も非常に素晴らしいです。

素晴らしい演奏はまだまだ有るもので、ユーディ・メニューイン盤も愛聴盤の仲間入りをしました。

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ブラームス(室内楽)」カテゴリの記事

コメント

ああっ!
今週はずっと頭の中で「ニ短調」が鳴りっぱなしなんですよ!(好きじゃないけど)パールマンとバレンボイムの全集を聴いたので。どの楽章もいいですよね!

投稿: かげっち | 2010年12月 3日 (金) 12時20分

へえっ、かげっちさんは頭の中でブラームスが鳴りっぱなしですか!いいですね。iPodが必要ありませんね~(笑)

3番も素晴らしいですし、3曲とも全部の楽章が良いと思います。もっともブラームスはほとんどの曲についてそう言えますよね。

投稿: ハルくん | 2010年12月 3日 (金) 12時47分

本題とは関係ないですが、この録音の1992年にウィーンのシュターツオパーでR・シュトラウスの楽劇「エレクトラ」を聴き、そのときのコンサートマスターがヘッツェルさんでした。そして、その横には現在の第1コンサートマスターのキュッヒルさんでウィーン・フィルの素晴らしい時期の最後の豪華な出演でもちろん見事な演奏。オペラとはいいながら、オーケストラがある意味主役でもありました。
この年、ヘッツェルさんは非業の死を遂げたんですね。でも、聞くところではアルプスではなく、ウィーンのほんと裏山を散歩しているときに崖から落ちたということでした。いずれにせよ残念なことでした。彼がコンサートマスターで録音した名盤が数々ありますね。是非、そのCD聴いてみます。

投稿: sarai | 2010年12月 4日 (土) 00時07分

saraiさん、こんにちは。

ウイーンではもうアルプスとは言えませんが、
彼が転落したのはザルツブルクの近くの山と聞きました。であればアルプス山脈の麓ですのでそう書いたのです。

ウイーン室内合奏団の1stヴァイオリニストとしての演奏も色々と聴くことができますよ。どれもみな素晴らしいと思います。

投稿: ハルくん | 2010年12月 4日 (土) 11時52分

今晩は、ハルくん様。 あの日から1年経ちました。被災地の様子をニュースで見るにつけ、こんな普通の生活をしていて良いのだろうかと。そんな思いのなか、韓国の新進ヴァイオリニストのシン・ヒョンスさんのリサイタルへ…。ベートーヴェンの「春」で軽やかに幕を開け、パガニーニアーナでテクニック全開。 何と言ってもブラームスのソナタ3番が素晴らしかったです。2008年ロンティボーの優勝者の実力遺憾なく発揮してくれました。客席400足らずの小ホールでしたが、かえってそれが良かった~。本国ではチョン・キョンファ、サラ・チャンとも違う高い評価を受けているというのも納得。3/11に思いを寄せての祈るような演奏会でした。

投稿: from Seiko | 2012年3月11日 (日) 19時46分

Seikoさん、こんばんは。

本当に1年が経つのは早いですね。
被災地の方々の苦労を思う反面、いつなんどきわが身が同じ境遇に陥るかもしれないという不安に襲われる毎日です。

シン・ヒョンスさんの演奏はまだ聴いたことが無いのですが、綺麗な人ですね~。機会があれば、是非見に行きたい・・・じゃなかった、聴きに行きたいです。

室内楽は小ホールで聴くに限りますからね。とても良かったですね。

投稿: ハルくん | 2012年3月11日 (日) 22時16分

こんばんは。
ヘッツェル/ドイチュ盤を聴き終えました。曲に合った柔らかい録音が心地良いし、流麗だけど重さも在る。ドイチュの伴奏にも参りました。3番はオイストラフ/リヒテル盤で聴いていたので違いが判ります。
今ではもう中古屋では室内楽から見るようになってしまい、バッハ/ヴァイオリンとチェンバロの為のソナタという未体験の曲を、シェリング/ヴァルヒャという組み合わせに魅かれて試聴し即買い。

投稿: source man | 2013年2月17日 (日) 21時45分

source manさん、こんばんは。

オイストラフ/リヒテルは、もちろん凄い演奏なのですが、何度も聴くにはヘッツェル/ドイチュが良いように思います。気に入られて良かったです。

バッハのヴァイオリンとチェンバロの為のソナタはまだ記事にしていませんが、シェリング/ヴァルヒャ盤は良いですね。他にコーガン/リヒター盤というのも有って、そちらも良いです。

source manさん、室内楽ブームなのですねー。
もうじき室内楽のアルプス山脈、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲に取り組むつもりですが、これが大仕事なのですよ。今からちょっとひるんでいます。(笑)

投稿: ハルくん | 2013年2月17日 (日) 22時27分

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