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2010年12月

2010年12月26日 (日)

ベートーヴェン 交響曲第9番ニ短調 「合唱」 ~懐かしの指揮者で~

クリスマスも終わって今年もいよいよカウントダウンに入りました。3年目に入った自分のブログでしたが、今年はブルックナーとマーラー、それにベートーヴェンのシンフォニー特集を達成できたことはとても満足です。来年も書きたいことは色々と有りますが、とてもそれを全部出来るわけではありませんので、新年の抱負として幾つか絞ろうかなぁと思っています。それよりも厳しくなる経済情勢がいつまで自分にブログを書く余裕を与えてくれるか時々心配になることもあります。もしも日々の生活に追われたらそれどころでは有りませんからね。でも、仮に環境が変わっていったとしても、きっと断念することは無いと思います。こんなに楽しい趣味のふれあいの場ををやめてしまうのは余りにもったいないからです。

ところで秋に特集したベートーヴェンの交響曲の中で第九が残っていました。というのは既に一度旧記事「交響曲第9番”合唱”名盤」を書いてしまったこともあり、その中で触れていない演奏を年末に書こうと思ったからです。そこで我が国にとても馴染み深く、自分にとっても非常に懐かしい指揮者の演奏を挙げてみます。

Beetho9_2 オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ベルリン(1982年録音/エテルナ盤)
スウィトナーさんはかつてNHK交響楽団を度々指揮したので良く知られていますね。僕は手兵SKベルリンとの来日公演でモーツァルトのシンフォニーを聴きましたが、最高の演奏でした。第九は年末にN響を何回か指揮しましたが、たぶん生では聴いていなかったと思います。この演奏はシンフォニー全集の中の録音ですが、この人らしいドイツの伝統に沿ってはいても、新鮮さを失わない演奏です。SKベルリンの響きもドイツ的に溶け合っていて非常に美しいです。1楽章のテンポは速めでとても推進力があります。けれどもせかついた感じはしません。重量級ではないのですが聴きごたえがあります。2楽章も同様に速めで切れの良い演奏です。3楽章は非常に美しく、心が洗われるようです。終楽章もことさら劇的に構えることなく誠実に熱演しています。但しこの楽章は破格の音楽ということもるので、一抹の物足りなさを感じる感無きにしもあらずです。僕のCDは独エテルナの旧盤ですが、DENONから最新リマスター盤も出ています。

Beethoven9ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル(1976年録音/DENON盤)
ノイマンは手兵チェコ・フィルとも、単独でも何度も来日しました。僕が忘れられないのは上野の東京文化会館で聴いた全盛期’70年代のチェコ・フィルとの「ドン・ファン」とドヴォルザークの第8番です。よほど調子が良かったのか、チェコ・フィルは驚くほどに美しい音がしていました。この第九は同じ東京文化会館でのライブ演奏で、日本コロムビアによる録音です。ノイマンはドヴォルザークとマーラーはほぼ2度のシンフォニー全集を残しましたが、ベートーヴェンの録音は意外に少ないです。恐らく商業ベースでスプラフォンが避けたのではないかと想像します。この第九を当時生では聴いていませんが、引き締まったテンポでストレートな良い演奏だと思います。元々チェコ・フィルの音は透明感が有りますが、金管特にトランペットを強く奏するので、ドイツの楽団の管と弦が溶け合う響きとはだいぶ違って聞こえます。中々に新鮮に感じます。僕はちょうど同じ頃にマズアとゲヴァントハウス管の第九を聴きましたが、四角四面で面白くない演奏だったのを記憶しています。こちらの方を聴きに行けば良かったです。

Beetho9_neu ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル(1989年録音/スプラフォン盤)
ノイマンには本国での演奏も有ります。チェコのビロード革命による民主化実現の年にプラハで記念コンサートが開かれました。会場はスメタナホールです。当日は民主化を推進したハヴェル大統領も訪れて歴史的なコンサートとなりました。この時にはノイマンがチェコ・フィルを指揮しましたが、演奏されたのは人類の平和と友愛を歌う第九で、これはそのライブ録音です。演奏には大きな期待をするところですが、東京ライブから10数年の歳月はノイマンを指揮者として更に進化、いえ深化させたのでしょう。テンポがかなり遅めになり、見得を切るような音のタメと間の取り方が「フルトヴェングラー的」に変わりました。音の持つ含蓄や意味の深さはこちらのほうが明らかに優っています。チェコ・フィルはやはり澄んだ響きなのですが、東京ライブほどには金管が浮き上がらないので、ドイツ的な厚い響きに近づいています。独唱陣と合唱も非常に感動的です。勝利と平和の祈りに満ち溢れているように感じます。このような素晴らしい演奏を聴いてしまうと、晩年のノイマンがベートーヴェンのシンフォニー全集を残していてくれたらなぁと思わずには居られません。

今年もこうして第九をゆっくりと聴きながら無事に年末を迎えることができました。本当に感謝すべきことです。皆様も去りゆく年の終わりと新たなる良い年を迎えられることを心からお祈り申し上げます。この一年どうもありがとうございました。

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2010年12月22日 (水)

ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番ハ短調op.18 名盤 ~大人の浪漫~

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今年も年の瀬となり、すっかり寒くなりました。不景気で不安定な世の中ですので、冷たい風が余計に身に沁みてきます。街角をコートの襟を立てて足早に歩くサラリーマンの行きゆく姿を見ては、我が身が映し出される思いです。そんな時に頭の中に響いてくる音楽は何だと思いますか。えっ、ジングルベル!? それは~商店街のスピーカーから流れるBGMでしょーに!(笑) 
実はラフマニノフなんですね。それもピアノ協奏曲第2番。第3番の時も有りますが、やはり2番です。感傷的でほの暗く甘い曲のイメージが凍てつく街角にとても似合います。もっともラフマニノフがこの曲を作曲したのはサンクトペテルブルクを拠点にヨーロッパを移動していた頃ですので、ロシアの自然にヨーロッパの街の雰囲気が混じり合って曲が出来たかのような印象です。彼は心に自然に浮かんでくるメロディをそのまま曲にしたと語っていたそうです。何しろリストと並ぶ、歴史に残る超絶技巧ピアニストですので技術的には困難を極めますが、曲想そのものは伝統的なロマン派の音楽です。

この曲はロマンティックなメロディの名曲ですので、古い映画によくBGMとして使用されました。一番有名なのは、やはり名匠デビット・リーン監督の「逢いびき」でしょう。既婚者同士の男女がお互いに惹かれ合って、やがて別れるというストーリーですが、モノクロのスクリーンのバックに流れるこの曲が何とも情緒を醸し出していて素敵でした。映画を見たのはまだ若いころでしたが、「逢いびき」というものにとても憧れたものです。

以前はラフマニノフの曲を聴いていると、「何だか古いハリウッド映画のイメージだなぁ」と思っていたのですが、それは実は逆ですね。古い映画音楽がロマンティックなラフマニノフの音楽を真似していたのですね。ですので、彼の音楽はロシア風にも聞こえるし、古き良き時代のハリウッド映画風にも聞こえます。どちらにしても、これは大人の浪漫の曲ですね。

出来ればこの曲は大きな邸宅の居間の暖炉の前でくつろいで、ウイスキーグラスでも傾けながら聴きたいものです。音楽に陶酔して、つぶやく言葉はと言えば、「う~ん、ラフマニノフ!」 ところが現実の居住空間はそうではありません。でも、つぶやく言葉は同じです。

さて、僕のこの曲の愛聴盤です。この曲ばかりはどの演奏を耳にしても陶酔させられますけれど。

Rachmaninov_naxos_8110601_2 セルゲイ・ラフマニノフ独奏、ストコフスキー指揮フィラデルフィア管(1929年録音/NAXOS盤) 何と言っても作曲者自身の演奏が聴けるのですから、この曲の原点を知ることができます。テンポ自体は速めですが、自由自在に緩急をつけてロマンティックに歌い込みます。さすがに本人ですから大きなルバートが実に自然で心に浸みこんできます。オーケストラの甘いポルタメントのかかった音も懐かしさで一杯でただただうっとりです。本家のRCAからも復刻盤が出ていますが、僕はNAXOS盤で聴いています。初版SP盤からの復刻なのでピアノの音に輝きが有り、とてもこの年代とは思えない良い音質です。

Rktr スヴャトスラフ・リヒテル独奏、ヴィスロツキ指揮ワルシャワ・フィル(1959年録音/グラモフォン盤) リヒテルというピアニストは一筋縄ではいかない人で、物凄く繊細な演奏をしたかと思えば、デリカシーの欠如した演奏をしたりもします。ですがこの演奏は1、2を争うほどのベストフォームです。重く底光りするような音は話に聞くラフマニノフのようですし、1楽章の驚くほど遅いテンポで沈みこんで行くやるせなさはたまりません。2楽章の暗い浪漫の香りもまた最高です。3楽章は速い部分ではメリハリが効いていますが、一転してゆったりと歌う部分では体が宙に浮くかのような甘さを見せます。うーん、これぞラフマニノフ以上のラフマニノフ!ワルシャワ・フィルも良いのですが、録音でやや音が古めかしく感じます。ややマイナスです。

Cci00013b アルトゥール・ルービンシュタイン独奏、オーマンディ指揮フィラデルフィア管(1971年録音/RCA盤) ルービンシュタインにはライナー伴奏の旧盤も有り、テクニック的には申し分無いのですが、この曲のロマンティックな味わいを堪能させてくれる点では新盤がずっと上です。オーマンディはラフマニノフの伴奏も務めたほどなので音楽を知り尽くしています。フィラデルフィア管の音も非常に美しく、この曲にうってつけです。この演奏はロシアの雰囲気よりも、都会的な浪漫の香りで聴かせるタイプですが、その方向では代表盤と言って良いと思います。

Eresco_rachmaninov ヴィクトール・エレスコ独奏、プロヴァトロフ指揮ソヴィエト国立響(1984年録音/メロディア盤) エレスコはロン・ティボー・コンクールで優勝していますが日本では無名でしょう。これは本国で録音した全集の中の1曲です。指揮もオケもロシア勢なのでフォルテ部分の荒々しさが魅力です。うーん、ロシア! けれども静かに沈滞する部分ではしっかりとロシアの憂鬱を感じさせてくれます。ハリウッド風の甘さは無いですが、ラフマニノフがロシア時代に書いた曲だということを改めて認識させてくれます。エレスコのピアノは繊細さは有りますが、先輩のリヒテルと比べるとスケールの大きさではとても敵いません。

4108080443 エフゲニ・キーシン独奏、ゲルギエフ指揮ロンドン響(1988年録音/RCA盤) 神童キーシンが17歳のときの録音です。おいおい17歳がこんな大人の浪漫の曲を演奏するなよー、と言いたくなります。打鍵は底光りするようなものでは有りませんが、やはり美しいです。1楽章は何となく健康的で退廃的な気分に欠けるかなぁ、と聴いているといつの間にか沈滞した気分になっていて中々中々。2楽章では深く静かに浪漫を奏でます。キミ、ほんとに17歳?やはり神童だ~!意外に物足りないのがゲルギエフです。3楽章などはもっとたっぷり歌わせて欲しいと思いました。

764 アンドレイ・ガヴリーロフ独奏、ムーティ指揮フィラデルフィア管(1989年録音/EMI盤) ロシアではメジャーなガヴリーロフも日本では人気が今一つのようですが、正統ロシアのピアニストとしての実力者です。この演奏はスケールの大きなピアノとフィラデルフィアのゴージャスな響きとが相まって、曲の恰幅が一回りもニ回りも大きくなった印象です。それでいて2楽章の沈滞する雰囲気も見事です。テクニックも凄いですし、パワーとデリカシーを併せ持つ素晴らしい演奏だと思います。

Racci00015 中村紘子独奏、スヴェトラーノフ指揮ロシア国立響(1990年録音/SONY盤) チャイコフスキーの協奏曲でも愛聴盤としてご紹介しましたが、カップリングされたラフマニノフも実に素晴らしいです。一番の理由は晩年のスヴェトラーノフ/ロシア国立響の重く分厚い音にあります。ハリウッドくそくらえ、この曲はロシア音楽なんだと言わぬばかりに荒涼たるシベリア大地を思わせる豪快かつ情緒たっぷりの演奏です。これを聴くとこの曲が「目からうろこ」状態になること請け合いです。中村紘子のピアノも大健闘していて豊かな表情が大変素晴らしいです。

018 クリスティアン・ツィマーマン独奏、小澤征爾指揮ボストン響(2000年録音/グラモフォン盤) 宇野功芳先生が最近一押しの演奏です。でもどうも録音バランスが気になります。ピアノが常に前に出ていて、オーケストラの音が引っ込んでいますが、この曲の実演では必ずピアノがオケに埋もれるので、これはあり得ません。スタジオ録音なので音量のバランスを変えるのは良いとしても、これでは「オケ伴奏つきのピアノ独奏曲」です。ピアノが常に目立ちすぎて少々煩わしく感じます。ツィマーマンは、もちろん非常に上手く繊細で深い詩情も有りますし、小澤さんの指揮もやはり繊細ですが、ロシアの荒々しい雰囲気は希薄です。

ということで僕のフェイヴァリットは、ピアノが何しろ素晴らしいリヒテル/ヴィスロツキ盤ですが、良く聴くのはスヴェトラーノフの指揮するオーケストラが最高で、ピアノも大健闘している中村紘子盤です。それにもうひとつ、円熟した大人の甘いムードに溢れてピアノとオーケストラのバランスが良いルービンシュタイン/オーマンディ盤も素晴らしく、この3つです。ガヴリーロフ/ムーティ盤は穴盤です。ラフマニノフ本人の演奏は別格なのは言うまでもありません。

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ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番 エレーヌ・グリモー盤
テミルカーノフ/サンクトぺテルブルグ・フィルとエレーヌ・グリモーのライブ盤

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2010年12月18日 (土)

ブラームス ピアノ協奏曲第2番 続・名盤

すっかり冷え込んできました。北国や山では雪だそうです。いよいよ本格的な冬の到来ですね。晩秋に聴くのが最高のブラームスもそろそろ賞味期限切れ(?)です。冬にはやはりロシア音楽ですからね。さあ年末のブラームス祭りもいよいよ本日限りです。とすれば、やはりこの曲になるでしょう。

古今の数多くのピアノ協奏曲の中で僕の最愛の曲は何かといえば、間違いなくブラームスの第2協奏曲です(もちろんチャイコフスキーも大好きですし、モーツァルトの何曲かも別格ですけど)。交響曲以上に好きかもしれません。以前にも旧記事の「ブラームス ピアノ協奏曲第2番 名盤」で愛聴盤をご紹介しましたが、その中でもバックハウス/ベーム盤は、何度聴き返しても飽きるどころか、毎回新たに良さを発見するという最高の名演奏だと思っています。とは言うものの前回触れなかった演奏にも、とても気に入ったものがありますので、その続編としてご紹介したいと思います。

Brahs250 ハンス・リヒター=ハーザー独奏、カラヤン指揮ベルリン・フィル(1958年録音/EMI盤) オールドファンには知られた演奏だそうですが、僕が聴いたのは割と最近です。バックハウスよりもドイツ的だという記事も見かけたことが有り、ある部分言い得ていると思います。但しバックハウスが一貫して堂々としているのに対して、この人の場合は、時にせわしなくなる部分が顔を出します。とは言え、情緒的な部分は美しいですし、これだけ立派な演奏にもそうそうお目に掛れないと思います。録音年代のわりにはピアノの音がしっかり録れていますし、ベルリン・フィルの響きも少々こもってはいますが標準的なレベルです。

1198010917 ゲザ・アンダ独奏、フリッチャイ指揮ベルリン・フィル(1960年録音/グラモフォン盤) アンダはこの曲を得意としていたようで、幾つもの演奏が有ります。’67にはカラヤンとも録音していますが、フリッチャイ/ベルリン・フィルと’60に録音を残してくれたのは嬉しいです。フリッチャイのゆったりと深みのある伴奏に乗って、アンダの実に男っぽいながらもデリカシーを持ち合わせた素晴らしいピアノを味わえます。正にブラームスを聴く醍醐味です。録音も良いので当時のベルリン・フィルのドイツ的な響きが聴けるのが大変嬉しいです。

Brahms_pcon_anda ゲザ・アンダ独奏、クーベリック指揮バイエルン放送響(1962年録音/オルフェオ盤) フリッチャイ盤から2年後のミュンヘンのヘラクレス・ザールでのライブ録音です。一瞬ステレオかと聴き間違える位に明晰なモノラル録音です。この演奏もとても魅力的です。堂々たる演奏なのですが、ライブならではの即興性を感じてとても楽しめます。クーベリックの指揮の影響か、フリッチャイ盤よりもテンポは速めです。熱気が非常に有りますが、勇壮さと陰影の深さが素晴らしく、ブラームスの音楽に非常に適しています。

Schucci00019b ジュリアス・カッチェン独奏、フェレンチク指揮ロンドン響(1967年録音/DECCA盤) カッチェンと言えばやはりブラームス。早逝する前にこの曲の録音を残してくれていたのは嬉しいです。非常に力強いタッチがブラームスにピッタリです。荒々しさを感じますが、決して乱暴には聞こえません。沈滞する部分では共感を持って美しく奏でています。この人はやはり天性のブラームス弾きだったと思います。フェレンチクの指揮は悪くありませんが、ロンドン響の音は時に薄く聞こえてしまい、ブラームスの分厚い響きを再現するにはやや物足りない印象です。

51dx28dv2fl__sl500_aa240_ ブルーノ・レオナルド・ゲルバー独奏、ケンぺ指揮ロイヤル・フィル(1973年録音/EMI盤) ドイツ音楽を得意とするゲルバー32歳の時の録音です。どうしてそんな若さでこれほど大人のブラームスを表現できるのか不思議です。タッチも美しいですが、何よりゆったりとした構えで少しもせわしなさを感じません。問題はロイヤル・フィルの音が薄いことです。ケンぺの指揮をもってしてもどうにもならなかったようです。ピアノは素晴らしいのに残念です。但し、このEMI廉価盤には独奏曲の「16のワルツ」作品39が収められていて、通称「ブラームスのワルツ」の第15曲が聴けるのが嬉しいです。

Brahms_gilels エミール・ギレリス独奏、ヨッフム指揮アムステルダム・コンセルトへボウ管(1973年録音/AUDIOPHILE盤) コンセルトへボウ・シリーズの1枚ですが、同じコンビのグラモフォン盤の翌年のライブ録音です。以前にも書きましたが、グラモフォン盤のベルリン・フィルの音はうるさくてとてもブラームスを聴いた気がしないので、こちらのコンセルトへボウのほうがずっと好きです。ギレリスの弾くピアノはほぼ同じです。深みが一見有るようでいて余り無いのがこの人の特徴ですが、いわゆる「鋼鉄の音」の迫力は健在です。録音はグラモフォン盤に比べれば劣りますが、ライブ録音としては年代相応です。

Brahmspf2_2 マウリツィオ・ポリーニ独奏、アバド指揮ウイーン・フィル(1976年録音/グラモフォン盤) 僕はそれほどには感じませんが、この曲はブラームスのイタリアへの憧れが反映されていると言われます。その点、イタリアン・コンビの演奏はドイツ的な晦渋さからは解放されています。若きポリーニのピアノも切れの良いテクニックで颯爽としているので、沈滞するようなブラームスらしさは感じません。時にはこういうブラームスも良いのかもしれませんが、筋金入りのブラームス好きには幾らか物足りないかもしれません。ウイーン・フィルの響きが厚く捉えられた録音なのは嬉しいです。

795 ミシェル・べロフ独奏、ヨッフム指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1979年録音/WEITBRICK盤) このディスクの目当ては実はSKドレスデンでした。オケの重心の低い響きは圧倒的です。ヨッフムとしても、前述のコンセルトへボウやベルリン・フィルと比べると雲泥の差です。ベロフもドビュッシーなどを弾くときとは別人のような熱演ぶりです。打鍵は荒々しいぐらいでテンポも前のめりなのですが、不思議と惹きつけられます。難点はマスタリングが、恐らくはイコライジング過多だと思いますが、高音強調型なことです。これではせっかくのSKドレスデンの音色の魅力が半減です。とは言え、それでも尚、魅力的なことには変わりません。

51utxbxft6l__ss500_ クリスティアン・ツィマーマン独奏、バーンスタイン指揮ウイーン・フィル(1984年録音/グラモフォン盤) 若きツィマーマンの演奏です。初めて冒頭の何十小節かを聴いた時は、「なんて凄い演奏だ!」と思いました。表情の彫の深さといい、打鍵の美しさといい申し分無かったからです。ポリーニのほうがよほど青二才に思えました。けれどもだんだん聴いているうちに、特にゆったりとした部分で間がもたないのですね。こういう処はバックハウスや他の巨匠の至芸には及びません。なので徐々に幾らか飽きが来てしまいます。バーンスタインも力演ですが、やはり音楽に含蓄の深さは有りません。でも、とても美しく分かりやすい演奏なので、初めてこの曲に親しもうという方にはお勧めできます。

というわけで、この中から愛聴盤1部リーグへ昇格させて良いのは、アンダ/フリッチャイ盤です。ベロフ/ヨッフム盤にも大いに惹かれるのですが。

<後日記事>
「ブラームス ピアノ協奏曲第2番 続々・名盤」
「ブラームス ピアノ協奏曲第2番 新・名盤」

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2010年12月15日 (水)

ブラームス ヴァイオリン協奏曲 続々・名盤 ~男祭り~ 

僕の好きなヴァイオリン・コンチェルトと言えば、まずはベートーヴェン、ブラームス。それにチャイコフスキー、シベリウス、メンデルスゾーンと続きます。その中でも色々と違う演奏を聴いて大いに楽しめる点ではブラームスが一番かもしれません。このブログでも既に、特別に愛聴している演奏をご紹介した「ヴァイオリン協奏曲ニ長調 名盤」と、女流演奏家だけに絞った「続名盤 女神達の饗宴」と2度記事にしています。そこで今回は、男性演奏家だけに絞った「男祭り」です。もっとも”男”と言っても、ほとんどが往年の大巨匠達です。
それでは順にご紹介してゆきます。

123ブロニスラフ・フーベルマン独奏、ロジンスキー指揮フィルハーモニック響(1944年録音/Music&Arts盤) 録音は年代相応ですが、曲のせいか鑑賞には問題ありません。世紀のヴルトゥオーゾの演奏が聴けるだけで良しとしましょう。とにかく表現力が豊かで、とことん歌わせます。これこそがヴァイオリンの原点だという感じです。その自由奔放さは現在ではちょっと考えられません。2楽章終了時に拍手が入ったあとの終楽章での名人芸も凄いです。細部の仕上げは結構おおざっぱなところもありますが、このおおらかさが味なのでしょう。この演奏は機会があれば是非とも聴かれて欲しいと思います。

Cci00044 ヨゼフ・シゲティ独奏、オーマンディ指揮フィラデルフィア管(1945年録音/CBS SONY盤) シゲティは20世紀の歴史上で五指に入る偉大なヴァイオリニストだと思いますが、晩年の演奏は音が滑らかで無いために一般的には余り高い評価を受けていません。音楽そのものは、ちょっと類例が無いほどの深みに達しているので実にもったいないことだと思います。この演奏では技術的にもまだ衰えを見せていませんし覇気も充分ですので、晩年の演奏に付いて行けない方にはお勧めです。それでも他の演奏家に比べれば遥かに深い表現力です。音質は年代相応ですが聴き易いです。

71apecxm6ll__aa1500_ ユーディ・メニューイン独奏、フルトヴェングラー指揮ルツェルン祝祭管(1949年録音/EMI盤) フルトヴェングラーのこの曲の録音ではヴィートとの1952年イタリアライブが有りますが、なにせ隣の家から聞こえてくるような粗悪な音質です。それに比べればこちらは遥かにマシです。メニューインのヴァイオリンも素晴らしく、情熱的に弾き切っています。カデンツァは荒いほどですが、この曲には合っています。これはフルトヴェングラーの指揮に触発されているのでしょう。メニューインの代表盤としては後述のケンぺ盤になるでしょうが、こちらも捨て難いです。         

429_2 ヤッシャ・ハイフェッツ独奏、ライナー指揮シカゴ響(1957年録音/RCA盤) 超人ハイフェッツとライナー/シカゴの共演とくれば演奏は聴く前から想像ができます。いつもながらの唖然とするほどの快刀乱麻ぶりです。このバイオリンの切れ味に対抗できるのはレオニード・コーガンただ一人でしょう。それにしても、爽快さは比類が無いのですが、ブラームスの暗い音楽の情緒表現にはほとんど期待できません。それでも2楽章は案外と歌いこんでいて中々に雰囲気が有ります。3楽章の上手さは凄いですが、健康的で何だかスポーツみたいです。やっぱり自分の好みには合いません。

Brahms_violin_con_02 ユーディ・メニューイン独奏、ケンぺ指揮ベルリン・フィル(1957年録音/EMI盤) メニューインの独奏するコンチェルトが推薦されている記事なんか滅多にお目にかかったことはありません。ところが中々に良い演奏が有ります。このブラームスもその一つです。外面的な美音や甘さを排除している点では自分の好みだといえます。シゲティの求道的なまでの厳しさには及びませんが、この禁欲主義には大いに惹かれます。2楽章なども非常に深々として感動的です。初期のステレオ録音なのがちょっと残念ですが、ケンぺの振るベルリン・フィルの厚い響きは魅力的です。

Mi0000955220 ダヴィド・オイストラフ独奏、クレンペラー指揮フランス国立放送管(1960年録音) オイストラフの弾くチャイコフスキーは最高に好きなのですが、ドイツものは必ずしも好きなわけでありません。この人の楽天的な雰囲気がどこか音楽にそぐわない気がするからです。このブラームスも、クレンペラーのスケールの大きな指揮に見劣りしない立派なヴァイオリンなのですが、どうしてもそこが気になります。3楽章では初めのうちクレンペラーの遅いテンポにややもたれてしまうのですが、徐々にその壮大な表現にはまってしまうのはさすがです。

4107071261 ダヴィド・オイストラフ独奏、セル指揮クリーヴランド管(1969年録音) オイストラフがこの曲をどうして10年も経たないうちに同じEMIに再録音したのかは判りませんが、演奏は非常に素晴らしいです。オイストラフの弾き方は、クレンペラー盤の時にはアウアー流の美感に大きく傾いていましたが、ここでは言うなればヨアヒム流に傾いた印象です。甘いポルタメントもかなり抑制気味です。個人的には禁欲的な要素が増したこちらを好みます。セルのオーケストラ伴奏は堅牢で隙の無い充実したもので、クレンペラー盤のような、やや異種格闘技的な雰囲気は感じさせません。

Bura008 アイザック・スターン独奏、メータ指揮ニューヨーク・フィル(1978年録音/SONY盤) スターンにはオーマンディ伴奏での旧盤も有りました。それも良い演奏でしたが、録音、演奏ともにこちらの新盤のほうが更に良いと思います。オイストラフほど楽天的では無く、シゲティほど厳しくは無い、丁度中間の位置づけです。メータの分厚いオケ伴奏に支えられて、テクニック、気迫の充実したバイオリンを聞かせてくれます。必ずしも注目される演奏ではありませんが、これは中々の名演だと思っています。

4107061668 ギドン・クレーメル独奏、バーンスタイン指揮ウイーン・フィル(1982年録音/グラモフォン盤) この中では唯一の現役奏者です。既に現代を代表する巨匠と呼んでいいでしょう。クレーメルを実際に生で聴くと音が随分細いので、この曲のライブの場合、分厚いオケ伴奏(しかもバーンスタイン)に埋もれてしまわないか心配ですが、録音であれば心配はありません。クレーメルらしい繊細でリリシズムに溢れた演奏です。3楽章も実に爽快感に溢れます。反面ブラームスの音楽の、しつこさや情念の深さは不足する感が無きにしもあらずです。クレーメルはこの後にもアーノンクールのオケ伴奏で新盤を入れていますが、僕はこの旧盤のほうが好きです。

189 フランク・ペーター・ツィンマーマン独奏、サヴァリッシュ指揮ベルリン・フィル(1995年録音/EMI盤) 往年の大巨匠達の中に入るとどうしても小粒な印象を受けます。ライブ録音にもかかわらず破綻の全く無い素晴らしく整った演奏なのですが、逆にブラームスに「あんなに綺麗に弾かなくても良いのにね・・・」とでも言われそうです。それだけオードソックスな演奏です。サヴァリッシュがベルリン・フィルを振るのも珍しいですが、ツインマーマンに見事に合わせた伴奏ぶりです。あっぱれ!2楽章のシェレンベルガーのオーボエ・ソロはもちろん絶品です。

というわけで、これらの演奏は普段は余り聴くことは有りませんが、どれもが個性的で捨てがたいものばかりです。

<補足>
メニューイン/フルトヴェングラー盤、ツィンマーマン/サヴァリッシュ盤を追記しました。

<関連記事>
ブラームス ヴァイオリン協奏曲 バティアシュヴィリの新盤

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2010年12月11日 (土)

ゲヴァントハウス弦楽四重奏団 来日公演 ~世界最古のカルテット~

Sq001 ゲヴァントハウス弦楽四重奏団のコンサートへ行ってきました。会場は東京の紀尾井ホールです。考えてみたら室内楽のコンサートへは最近はほとんど行っていません。昔はスメタナSQとか、カール・ズスケのベルリンSQとかへよく聴きに行ったのですけれど。

ゲヴァントハウスSQはこれまで生で聴いたことは有りませんが、懐かしいカルテットです。学生時代にベートーヴェンの作品18(第1-6番)のレコードを愛聴しました。もちろんメンバーはすっかり入れ替わっていますが、当時第2ヴァイオリンを弾いていたカール・ズスケの息子のコンラート・ズスケが現在の同じパートを担当しています。と思ったら当時のヴィオラ奏者の息子がやはり現在の同じパート奏者ですし、当時のチェロ奏者の息子が現在の第1ヴァイオリンのフランク=ミヒャエル・エルベンです。うーん、ゲヴァントハウスSQってのは歌舞伎の家元みたいに世襲制度なのかな?さすがに結成200年を超える世界最古の弦楽四重奏団は伝統芸能(?)なのですね。

今日の曲目は、ハイドンの弦楽四重奏曲第80番、モーツァルトの第17番「狩り」、ベートーヴェンの第8番「ラズモフスキー第2番」と、ドイツ音楽の真髄のようなプログラムです。

さて演奏を聴いた感想ですが、正直言って前半は退屈でした。母体団体のゲヴァントハウス管弦楽団のような純ドイツ風の堅い音がハイドン、モーツァルトには耳あたりがきついのです。少なくとも室内楽ではもっとウイーン風の柔らかい音のほうが好きです。それに柔らかくは無いにしても、ハイドンのあの透徹した音も出ていませんでしたし、モーツァルトの音楽の「愉悦」も全然感じられません。その点では、後半のラズモフスキー第2番は良かったです。彼らの音楽はベートーヴェンのほうにずっと適性を感じます。作品59のラズモスキー3曲の中でも最も荘厳で後期の作品に近い雰囲気を持つこの曲を充分に味あわせてくれました。奇しくも、この団体が1977年に埼玉県の坂戸文化会館で演奏したラズモスキーのライブ録音が有りますが、音の造りは少しも変わりません。伝統の重みですね。但し今日の演奏の方が全般的にテンポは速まっていました。緊迫感が増しています。好みで言うと昔の重圧感が好きなのですけれども、今日の演奏も素晴らしかったと思います。

アンコールは2曲。これは非常に素晴らしかったです。1曲目は「ひばり」の第2楽章ですが、ハイドンの透徹した音が見事に出ていました。前半の音とは全く異なります。これは前半は調子が出ていなかったのか、曲の弾き込み不足が原因なのかは分かりません。そして2曲目はベートーヴェンの第13番の第2楽章ですが、これこそが今夜の最高の聴きものでした。もの凄い快速で緊迫感を持って弾き切る実力は圧巻です。でもそういうのはもっと新しく若い団体に任せておけば良いことで、彼らにはかつてのゲルハルト・ボッセ時代のような渋い演奏をしてくれたらなぁ、と個人的には思うのです。このことは母体のゲヴァントハウス管弦楽団についても同じです。まぁ、こんなことを言うと時代錯誤と言われそうですが。

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2010年12月 7日 (火)

ドレスデン聖十字架合唱団 2010日本公演 J.S.バッハ「マタイ受難曲」

Dresdener_kreuzchor_2010

師走ですが、今年は第九を聴きに行かずに、代わりにドレスデン聖十字架合唱団の日本公演を聴きに行きました。会場は横浜みなとみらいホール。曲目はバッハの「マタイ受難曲」です。第九の代わりに聴くには充分の大作です。でも考えてみたら、僕がこの曲を生で聴くのは何と約30年ぶりです。その20代の時に聴いたのはライプチヒの聖トーマス教会合唱団でした。その後、聴く機会はいくらでも有ったはずですが、何故か聴かなかったのは、たぶん聖トーマス教会合唱団のその時のマタイが余りに素晴らしく、そのイメージを大切にし過ぎたからかもしれません。ともかく今回は久しぶりに聴きに行くことにしました。

この合唱団は、古都ドレスデンの聖十字架教会に所属する聖歌隊です。団員は全員、教会の寄宿舎で一緒に生活をして学校で学ぶ9歳から19歳の少年達です。その点は、聖トーマス教会合唱団と同じです。実際、この二つの聖歌隊はドイツの代表的な教会合唱団です。

バッハの合唱曲というと、現代ではプロの合唱団や大人のそれが少人数で歌うのが流行になりました。それは確かに透明で完璧なハーモニーを聴くことが出来ますし、素晴らしいと思います。でも僕はやはり宗教曲は教会合唱団で聴くのが好きですね。少年の純粋無垢の合唱は、上手い下手を超えて心に響くものが確かにあります。大人の合唱は得てして表情付けにわざとらしさが出てしまうことがあるように思います。聖十字架合唱団を生で聴くのは初めてですが、やはり素晴らしい合唱団です。中には休みの曲で座っているときに足を崩したりしている少年も居ましたが、それもまた微笑ましいものです。けれども、彼らがひとたび歌い出せば実に感動的なハーモニーを届けてくれます。

ソリスト達は全員が大人です。時々ソプラノをボーイ・ソプラノが歌うこともありますが、その場合には相当な技量が求められるので、この選択は賢明だと思います。中でも福音史家のテノール、アンドレアス・ヴェラーは声が非常に美しく、圧倒的な上手さでした。表情が本当に豊かです。というと合唱団の話と矛盾するようですが、あれだけ上手いと有無を言わせません。

指揮はローデリッヒ・クライレは10年以上前から聖十字架合唱団のカントール(音楽監督)なのですね。オーケストラはドレスデン・フィルですが、小編成で表情の豊かな演奏でした。現代楽器使用ですが、ビブラートは非常に控えめで、古楽的な奏法です。この辺りは当然でしょうね。クライレさんのテンポは概して速めで、三拍子の曲は非常に舞曲リズムを強調しています。第1部では淡々と進めていた印象ですが、第2部に入ると徐々に話に連れて表現も劇的に変わっていきました。ある意味オペラティックな解釈とも言えないことはありません。けれども教会少年合唱が直ぐに厳かな雰囲気に戻してくれます。この辺のバランスは絶妙です。宗教的な厳かさな雰囲気とイエスの受難のドラマティックな要素の混じり合った素晴らしい演奏でした。ですのであの感動的な終曲の終了後に、指揮者がまだ腕を下げていない状態で、我先に盛大な拍手をした一部の輩が居たのにはがっかりしました。周りの聴衆が静かにしているのに気が付いて、すぐに拍手を止めてくれたのがせめてもの救いですが、困ったものです。指揮者が順に歌い手、奏者を立たせて、聴衆のとても温かく盛大な拍手に応えているうちに忘れてはしまいましたが。

というわけで、純真な歌声と偉大な曲に感動できた至福のひと時でした。

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2010年12月 2日 (木)

ブラームス ヴァイオリン・ソナタ集 ~隠れ名盤~

「ブラームスはお好き?」と聞かれれば「もちろん大好きですよ!」と答えます。このブログをスタートした一昨年のブラームス特集の中でも、ヴァイオリン・ソナタ集を取り上げました。僅か3作品のみにもかかわらず、いずれもが傑出した名作ですね。旧記事「ブラームス ヴァイオリン・ソナタ集 名盤」を書いた後にも二つの素晴らしいCDに出会いました。どちらも地味で渋い、いかにもブラームスにぴったりの演奏です。録音の存在自体も目立たないCDですので、「隠れ名盤」としてご紹介します。

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ゲルハルト・ヘッツェル(Vn)、ヘルムート・ドイチュ(Pf)(1992年録音/CANYON盤) 

ヘッツェルはウイーン・フィルの名コンサートマスターとしてかつてベームから絶大な信頼を受けていましたが、若くしてアルプスの山から転落して亡くなりました。そういえば11月に来日したウイーン・フィルのコントラバス団員も休日に富士山に登ってやはり滑落死してしまいました。アルプスに囲まれたオーストリアの音楽家が山登りを好むのは当たり前でしょうが、楽壇の損失にはなってほしくありません。名手ヘッツェルの演奏は、ウイーン室内合奏団やオーケストラ曲の独奏部分で聴くことができますが、ソロ曲の録音は決して多く有りません。その中で彼の最高の遺産と言って良い録音がこれです。大ホール向きのヴィルトゥオーゾタイプの演奏ではないので、むしろ曲にふさわしい気がします。基本表現は美しく端正ですが、時にすっくと立ち上がるような勇壮さを感じさせることも有ります。ベタベタ甘くならない、男っぽいブラームスですが、心の中は優しさで一杯というイメージです。正にこれらの曲の原点を感じます。第3番はオイストラフ/リヒテルの演奏などを聴くと何か巨人の格闘でも連想させますが、この演奏ではずっと等身大の人間を感じます。それでも終楽章では充分に迫力があります。もちろんヘッツェルに技術的な不満は全く有りません。本当に上手なコンサートマスターでした。ピアノを弾くドイチュも堅実で非常に素晴らしいです。

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ヨセフ・スーク(Vn)、パウル・バドゥラ‐スコダ(Pf)(1997年録音/チェコLOTOS盤) 

スークもソリストにしてはとても端正なヴァイオリンを弾く人でした。ですので曲によっては時に物足りなさを感じます。ブラームスのソナタは、若い時代にジュリアス・カッチェンと組んでDECCAに全曲を録音していますが、ブラームスにしては少々爽やか過ぎる印象でした。1番あたりでは曲想に合っていて確かに良かったとは思いますが。二度目はスプラフォンに2番と3番を録音しましたが、1番が欠けています。ところが68歳になって、今度はバドゥラ‐スコダと組んで全曲を再録音しました。それがこのCDです。スークは若いころはビブラートの小さい細身の音でしたが、晩年はビブラートが幾らか大きめになった気がします。その結果、音が柔らかく太くなった印象です。おおげさに歌わない端正なところはヘッツェルと同じで、ブラームスの曲にとても適していると思います。ウイーン出身で日本にもしばしば訪れているバドゥラ‐スコダのピアノも素晴らしいです。実にゆったりとスークのヴァイオリンを支えています。両者は若手の奏者には真似のできない大人の雰囲気を一杯に醸し出しています。1番も2番も非常に美しい演奏ですが、3番もとても良い演奏です。激しさのある1楽章や終楽章で少しも力みを見せません。それでいて物足りなく感じることがなく、自然に曲に浸ってしまいます。2楽章ではしっとりと大きく歌って魅了されます。

全3曲を収めたCDとしては、僕はやはりシェリング/ルービンシュタイン盤が一番好きですが、このヘッツェル/ドイチュ盤とスーク/バドゥラ‐スコダ盤も非常に気に入っています。現在はどちらも入手性は良くないと思いますが、中古店などで見つけられたら是非のお勧めです。

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更に後に聴いた、シゲティの1番&3番、ゴールドベルク盤も非常に素晴らしいです。

素晴らしい演奏はまだまだ有るもので、ユーディ・メニューイン盤も愛聴盤の仲間入りをしました。

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