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2010年11月 1日 (月)

ベートーヴェン 交響曲第8番へ長調op.93 名盤

Img_beethoven_1_2 第7交響曲を書きあげた後の僅か数か月で、第8交響曲は完成されました。この曲はベートーヴェン自身が「小交響曲」と呼んだように、規模の小さなロココ調の優美さを持った作品です。けれども、それまでに幾つもの大交響曲を作り上げてきたベートーヴェンですから、小さな規模の中に力強さや情熱がはみ出るほどにたっぷり盛り込まれています。全4楽章ともおよそ無駄に思われる部分が無く、一度聴き始めると一気に聴き通してしまいます。「苦悩を突き抜けた歓喜(勝利)」を想わせる第3、第5、第9とは異なって、極めて明るい雰囲気に包まれた名作として個人的にはとても好きな曲です。

051101_210 ところで、この曲は随分前に演奏したことが有ります。学生時代に都内の某大学オケにヴィオラのエキストラ参加したときです。指揮者は炎のコバケン(小林研一郎氏)でした。と言っても、コバケンの棒で弾いたのはゲネプロの一度だけです。結局本番の出演を取り止めてしまい、代わりに弟子のT氏が指揮したからです。これには非常にがっかりしました。とはいえゲネプロの時のコバケンには心底圧倒されました。あの人が指揮台に登っただけで頭の上にオーラ(炎?)が見えるんですね。お世辞にも上手いとは言えないアマチュア・オーケストラが、まるで魔法にかけられたように緊張感のある良い音を出してしまうのです。カリスマ性とは、ああいうものかなぁってつくづく思い知らされました。今では懐かしい青春時代の良い想い出です。

それでは僕の愛聴盤ですが、この曲に関してはフルトヴェングラーの特別扱いは止めます。まずはモノラル録音からです。

Toscanini_beethoven_3_4 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC響(1952年録音/RCA盤) カーネギーホールでの録音です。トスカニーニの筋肉質の男性的な演奏は「英雄」や「運命」では非常な魅力なのですが、この曲の場合は典雅さや優美さの不足がかなり不満に感じます。残響の少ない録音もデメリットです。ところがそれでも結局のところは、速いテンポの明快で生命力溢れる演奏に無理やり引きずり込まれてしまうのが、この人の凄さです。小さい交響曲の凄まじい演奏として忘れることはできません。

1161001303 ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1953年録音/グラモフォン盤) ベルリンでのライブ演奏です。同じ日の7番と同様に録音の鮮度は今一つです。演奏はトスカニーニとはまた違う意味で優美さから遠く、1楽章の短調に転調して展開する部分などは壮絶極まりなく、重い運命を背負っているかのようです。2、3楽章のテンポは遅く、聴きごたえが有ります。終楽章もやはり遅めで重量感を感じます。フルトヴェングラーが指揮をすると、この曲は全くスケールの小ささを感じさせません。

857 ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーン・フィル(1954年録音/オルフェオ盤) 7番と同じ日のザルツブルクでのライブ演奏です。当然前年のベルリン盤との比較になりますが、録音の鮮度はこちらが幾らか上に思います。1楽章は更にテンポが遅く、壮絶さは後退しています。またウイーン・フィルなので音そのものに典雅さを感じます。2、3楽章ではその魅力が更に強く感じられます。全体を通してベルリン盤よりも迫力は感じませんが、逆にこの曲の本来の姿に近い演奏であるような気がします。

Schu_bet_758カール・シューリヒト指揮パリ音楽院管(1957年録音/EMI盤) これもEMIへの全集に収められています。全体に速めのテンポできりりと引き締まった演奏です。細部の音へのこだわりは相変わらずシューリヒトです。よく歌いますが、ウイーン風の柔らかな甘さは感じません。スタイルはドイツ風なのですが、パリ音楽院管の明るい音が中和させます。特に耳を奪われるのが終楽章で、弦やティンパニの切れが有り激しい音のアタックは壮絶ですらあります。

ここからはステレオ録音になります。

123039253647216211547 ブルーノ・ワルター指揮コロンビア響(1958年録音/CBS盤) 1楽章は案外速めです。但しオケの性能のせいか、練習が足りないのか、音の結晶度不足を感じます。2楽章はテンポは中庸ですが、この曲のこぼれるような美感に欠ける気がします。3楽章はかなり遅いテンポでよく歌います。けれども、どうもオケの質感に満足できません。終楽章は遅いテンポで重さを感じます。この楽章にしては少々重すぎて、もたれるんじゃないかと思ってしまいます。

Cci00055フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1960年頃録音/edel classics盤) これも全集盤に収められている演奏です。これこそは「ドイツ風」としか言いようのない演奏です。1楽章は幾らか遅めのテンポで堂々としています。2楽章と3楽章は意外に速めですが、非常にかっちりとしていて聴きごたえが有ります。終楽章はじっくりとしたテンポで「熱狂」からは遠いのですが、じわりじわりと高揚してゆくのですが、面白みに欠ける気もします。何度も言い尽くしましたが、ゲヴァントハウス管の厚い響きはやはり素晴らしいです。

Monteux_eroicaピエール・モントゥー指揮ウイーン・フィル(1960年録音/DECCA盤) 昔から定評のあるSイッセルシュテット盤はウイーン・フィルの魅力溢れる名盤ですが、モントゥー盤では更に古き良きウイーンの味わいを聴くことが出来ます。何と言っても、当時のウイーン・フィルの室内楽的な演奏が魅力です。あたかもコンツェルトハウス四重奏団がシンフォニーを演奏してくれているようです。弦も木管も柔かく鄙びた音色が本当に素敵です。誰かがモントゥーはウイーン・フィルとは相性が悪かったようなことを書いていましたが、とんでもない話です。

4107090040 パブロ・カザルス指揮マールボロ音楽祭管(1963年録音/CBS盤) これもマールボロ音楽祭でのライブ演奏です。7番よりも6年前ですので録音は劣ります。それにしても86歳のカザルスの指揮と言ったらどうでしょう。1楽章から誰よりも速いテンポで情熱が爆発しています。この人の魂は少しも老いたりしないのですね。2、3楽章も速めのテンポですが、表情が実に豊かで生き生きしています。終楽章は速さは普通ですが、音の激しさに圧倒されます。臨時編成オケの音は少しも洗練されていませんが、これこそは魂の音楽家カザルスの真骨頂です。

905 ヨゼフ・カイルベルト指揮バイエルン放送響(1967年録音/オルフェオ盤) カぺル・マイスター、カイルベルトの7番と同じ日のミュンヘンライブです。例によって純ドイツスタイルでイン・テンポで武骨に進めます。構えが実に堂々としています。2楽章はオーソドックス、3楽章は風格を感じます。終楽章もテンポは落ち着いていますが、じわりじわりと迫力を増してゆくのが素晴らしいです。バイエルン放送の音は硬過ぎず明る過ぎず、しっとりと大変心地よいものです。

Beethoven5_hshumit ハンス・シュミット‐イッセルシュテット指揮ウイーン・フィル(1968年録音/DECCA盤) Sイッセルシュテットのウイーン・フィルとの全集のなかの白眉であり、昔から定評のある演奏です。何しろ1960年代当時のウイーン・フィルの柔らかい弦と潤いのある木管の音に魅了されます。イッセルシュテットのテンポは速過ぎも遅過ぎもせず極めて自然で、音楽の流れがとても良いです。この曲の典雅さと生命力とを実にバランス良く両立させているのが何とも素晴らしいです。DECCAの録音も優秀ですし、何度でも繰り返して聴きたくなる演奏です。

51pbpkptral__ss500_ カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1972年録音/グラモフォン盤) グラモフォンへの全集盤の中に収められています。イッセルシュテット盤との比較では、ベームのほうが一言で「立派」な印象が強いです。1楽章は提示部はゆったりとしていますが、展開部へ入ると徐々に感興が高まってゆき響きも厚くなります。2楽章では真面目過ぎてやや面白みに欠ける気がします。終楽章では1楽章と同様に少しも慌てないのにイッセルシュテット以上に感興の高まりを感じます。ベームとウイーン・フィルの底力でしょう。

0184442bcヘルベルト・ブロムシュテット指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1978年録音/Berlin classics盤) これも全集盤に収められています。毎回同じことを繰り返して気が引けますが、SKドレスデンのいぶし銀の響きが最高です。ルカ教会での録音は残響が多く柔らかいのですが、皮張りのティンパニの音などはパリッとしていて快感です。ブロムシュテットのテンポは中庸で落ち着いていますが、活力を失うことが無いので中々に良いと思います。

Abbdo_beethven6_8 クラウディオ・アバド指揮ウイーン・フィル(1986年録音/グラモフォン盤) 記憶ではアバドのデビュー盤はDECCAへのウイーン・フィルとのベト7、8でした。ですのでこれは再録音ということになります。ウイーン・フィルの音はもちろん美しいですし、テンポも適性なので悪いはずは有りません。にもかかわらず、何か面白く感じないのです。悪戯もしない、冗談も言わない優等生みたいです。それが終楽章では突然速いテンポで活力を漲らせますが、なんだかとってつけたようで入り込めません。

というわけで、今回はモノラルからステレオまでまとめて聴きましたが、僕が特に好きなのはやはりSイッセルシュテット/ウイーン・フィル盤です。同じウイーン・フィルのモントゥー盤とベーム盤や、カイルベルト/バイエルン放送盤もとても好きです。破格の演奏としては、カザルス/マールボロ盤が忘れられませんし、シューリヒト/パリ音楽院盤も同様です。

次回ですが、第9については既に2年続けて年末に記事にしていますので、今年もまた年末に未記事のディスクについて触れようかと思っています。そこで第2交響曲に戻ろうかと思います。

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コメント

こんばんは

この曲は大好きな曲です。初めて聴いたのはクレンペラーです。分厚い演奏で、小交響曲とは言えないような演奏でした。この曲に目覚めたのはカラヤン/BPOを聴いてからです。今は、ヤルヴィ/ドイツカンマーフィルのを聴いてます。

投稿: kurt2 | 2010年11月 1日 (月) 23時33分

kurt2さん、こんばんは。

ベト8はいい曲ですよね。全楽章とも大好きです。

残念ながら僕はクレンペラー、カラヤン、ヤルヴィのいずれのディスクも持っていません。

投稿: ハルくん | 2010年11月 1日 (月) 23時42分

ハルくんさん、おはようございます

8番の演奏録音も、とても沢山入手可能で、それぞれ特徴のあるよい演奏が多いと思いますが、ハルくんさんから刺激を受けて、以下に少々...
ワルターの演奏は、大変表現の幅が広く大いに優美さも感じさせ、今あらためて聴いてみても、やはり実に見事なものと思う次第。
いかにも古典、という印象の、形をきちっと感じさせ、その合奏能力の高さに恐ろしささえ覚えるものにセル/クリーブランドの演奏があります。恐いもの見たさ(聴きたさ)に時々聴きます。弦など、まるで同じ人が重複録音しているかのように、完璧に同じ歌わせ方をしています。(プロとは、ここまでやるものなのか...気楽に聴く側で本当によかった!)
ウィーン・フィルの演奏でユニークなものにモントゥーのものがあります。このフランスの大指揮者の持つトーンが垣間見えるのも面白いのですが、まるで四幕物のコミック・オペラか劇ででもあるかように、各楽章が周到に演出されていて楽しめます。第1楽章や第2楽章など、まるで登場人物が舞台からそでに消えるかのように、曲がひょいと終わってしまい、次の場面(楽章)ががらっと雰囲気を変えて登場するのも、面白いところです。

投稿: HABABI | 2010年11月 3日 (水) 07時04分

HABABIさん、こんにちは。

セルの8番は聴いていませんが、昔聴いた7番が正におっしゃられるような演奏だと鮮明に記憶しています。自分の好みとは遠いので、結局他の曲には手を伸ばしませんでしたが。

モントゥーの8番も未聴です。けれどもこの人とウイーンフィルとのハイドンなんかは非常に好きですので、8番は良いでしょうね。是非とも聴いてみたくなりました。良い情報をありがとうございました。

投稿: ハルくん | 2010年11月 3日 (水) 08時20分

クラ民族としては一度演奏してみたい曲の一つです、3楽章のトリオなど。聴くのも楽しいけれど、奏いて楽しい曲の筆頭格かもしれません。モントゥーの洒落っ気を聴いてみたくなりました。

投稿: かげっち | 2010年11月 3日 (水) 12時21分

かげっちさん、こんにちは。

ベト8は演奏されていませんでしたか。
この曲に限らず、ベートーヴェンって演奏して凄く楽しいんですよね。あの楽しさって一体何なのでしょうね。不思議です。

投稿: ハルくん | 2010年11月 3日 (水) 18時50分

こんばんは。お久しぶりです。
私はベートーヴェンの交響曲だと7番8番あたりがナニゲ好きなのですが、でも7番と8番とあると8番に手が伸びちゃいます。
と言っている割にはそんなにCDは持ってないし、詳しくもないのですがね。( ̄◆ ̄;)
でも大好きな曲です。
短い曲だけれど、第2楽章はめちゃくちゃカワイイし( ´艸`)、第3楽章はめちゃ難しいらしいし。
でも最終楽章のあのノリが大好きです。o(*^▽^*)o

投稿: はるりん | 2010年11月 5日 (金) 22時38分

はるりんさん、こんばんは。
ホントにお久しぶりですね。

8番はイイ曲ですよねー。でも高速道路でかっ飛ばしながら聴かれる7番よりもお好きでしたか。
そういえば終楽章のノリも7番と同じく「バッカスの饗宴」ですよね。ま、お酒を沢山飲めば、みんなでバッカスの宴会でしょー。(笑)

投稿: ハルくん | 2010年11月 6日 (土) 00時05分

そういえばこの曲も2楽章のテンポ指定が速いですね。

投稿: かげっち | 2010年11月 9日 (火) 12時08分

かげっちさん、こんばんは。

この曲のユニークなのは2楽章が緩徐楽章ではなくて、軽快な曲なことですね。
メトロノームを模倣したと言われている通り、一歩間違えばルロイ・アンダーソンになっていたかもやです。(笑)

投稿: ハルくん | 2010年11月 9日 (火) 22時25分

こんにちは。
イッセルシュテット/VPO。中古屋の国内盤を試聴(5番)した際は音質に魅力を感じず購入せずも、西独盤が安価でしたので入手。
国内盤より一段上の音、細部まで上手いVPO。この8番は世評も高いようですが、5番も名演では。C.クライバーみたく中毒性(もはや神秘性!?ww)は無いのが余り取り上げられない理由なのかも...。

投稿: source man | 2013年3月12日 (火) 08時11分

source manさん、こんばんは。

イッセルシュテット/VPOの第5は名演奏だと思いますよ。個人的にはCクライバーよりも好きですね。
8番については「魅了的」の一言です。ただただVPOの美しい音の魅力に尽きます。

投稿: ハルくん | 2013年3月12日 (火) 22時51分

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