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2010年11月

2010年11月27日 (土)

ブラームス チェロ・ソナタ集 名盤 ~秋は夕暮~ 

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秋は夕暮。うら寂しく、人を恋しく思うころ、ひとり窓より外を眺め、ブラームスの調べなど聴きたるは、いとをかし。(清少ハル納言)

今年のあれほど長かった夏もいつしか終わり、気がつけばすっかり秋が深まりました。こんな季節には、やはりうら寂しいブラームスの音楽が最高です。上の写真は非常に珍しいブラームスの写真です。この人も深まりゆく秋に窓の外を眺めながら、自作のメロディを頭に浮かべては物想いにふけっていたのでしょうね。

自称”ブラームジアーナー”の僕ですが、一昨年にブラームスの特集をした時に取り上げなかった曲があります。それはチェロ・ソナタ第1番と第2番です。そこで今日は晩秋にうってつけのこの曲を聴くことにしましょう。

チェロ・ソナタ第1番ホ短調op.38 

ブラームスが32歳の時の作品です。第1楽章冒頭から渋く暗い旋律で始まります。いかにも晩秋の空気が漂い、心が沈んでしまいそうです。もっとも、このセンチメンタルな雰囲気がブラームスのファンにはたまらないのです。続くシンコペーションによる哀愁漂う旋律もブラームス以外の何物でもありません。う~ん、ブラームス! 続く第2楽章はメヌエット楽章ですが、やはり暗く感傷的な気分に溢れています。中間部の旋律も実に魅力的です。第3楽章はアレグロで音楽に緊迫感を感じます。

チェロ・ソナタ第2番へ長調op.99 

ブラームスが53歳の時の作品です。第1番に比べるとずっと明るさを感じます。第1楽章はいきなりチェロの高音で力強く開始されますが、勇壮さと輝きを持つ曲です。第2楽章はとても美しい曲ですが、同時にやはり渋さも感じます。第3楽章では再び明るくおおらかな気分を取り戻します。そして第4楽章はとてもリズミカルで南国的とも言える明るさを表出していて楽しいです。

という風に2曲の性格はだいぶ異なります。秋の夕暮れにふさわしい1番と、昼間の明るい陽射しを感じる2番と、絶妙な組み合わせの2曲だと思います。

それでは僕の愛聴盤です。

673 ピエール・フルニエ(Vc)、ウイルヘルム・バックハウス(Pf)(1955年録音/DECCA盤) モノラル録音時代の名盤です。僕もLP盤で何度も聴いてきました。ブラームスの心のひだに触れるようなフルニエのチェロが素晴らしいです。音符の一つ一つを慈しむように繊細に奏でるのは、この人ならではです。バックハウスのピアノももちろん良いのですが、残念なのはモノラル録音なので、この人のベーゼンドルファーの柔らかく美しい音が充分に再現できていません。全体として、とても室内楽的で派手さやハッタリの少しも無い、地味ですこぶる滋味にあふれる演奏です。

Brahms_cello_sonatajpeg ピエール・フルニエ(Vc)、ルドルフ・フィルクスニー(Pf)(1965年録音/グラモフォン盤) フルニエのステレオ再録音です。旧盤も素晴らしかったですが、やはり録音が良い分だけ、フルニエの繊細な音や表情を一層感じ取ることができます。フィルクスニーのピアノも実に素晴らしいです。仮にピアノがケンプか、あるいはバックハウスと再録音しても果たしてこれ以上の演奏になったかどうか。ですので僕はこれで十二分に満足しています。フルニエの旧盤同様に、実に室内楽的な演奏なのがまた嬉しいところです。このグラモフォン録音は長らく廃盤でしたがタワーレコードがCD発売してくれました。実に有り難いことです。

Rostropovich_serkin_brahms ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(Vc)、ルドルフ・ゼルキン(Pf)(1982年録音/グラモフォン盤) ロストロポーヴィチのチェロはいつものように太く厚い音で恰幅の良い弾きっぷりです。ですので第1番では、演奏が立派過ぎて曲想と少々マッチしないように感じます。ブラームスの侘しさや寂しさ、心の弱さが余り感じられないのです。シンコペーションのブラームス節も大げさでなんだかチャイコフスキーを聴いているようです。その点、曲内容が最初から立派な第2番については違和感を感じません。良い演奏だと思います。問題は第1番です。

この曲は、ヴァイオリン・ソナタほど幾つも演奏を聴いたわけでは有りませんが、いかにもブラームスらしい演奏を良質の録音で聴けるフルニエ&フィルクスニー盤は本当に最高です。

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2010年11月23日 (火)

ショパン ピアノソナタ第3番 ロ短調op.58 名盤

1172688185 自分は、ピアノ独奏曲のジャンルをそれほど多く聴くほうではありません。それでも、特に好きな作曲家を挙げればシューマンとベートーヴェンです。この二人は特別な存在です。もちろんショパンも好きですが、日頃聴く曲というと限られてきます。そんな中でピアノソナタの2曲(第2番、第3番)は聴くことが多い曲です。第2番「葬送ソナタ」については以前記事にしましたので、今回は第3番ロ短調に触れてみます。

ショパンの真に天才的な作品である「葬送ソナタ」から5年後の作品となる第3番にはずっと円熟味を感じます。加えて”閃き”に溢れる楽想はやはり天才の作品です。1楽章の何物かに追われているような緊迫感、3楽章のどこまでも深く静かで例えようのない美しさ、4楽章の勇壮でいて嵐の中の苦悩を感じさせるロンドと、本当に素晴らしい曲だと思います。僕はどちらか1曲をと言われれば、葬送ソナタのほうを選びますが、第3番の魅力にも中々に抗しがたいです。

それでは、僕の愛聴している演奏をご紹介します。

4107081279 ディヌ・リパッティ(1947年録音/EMI盤) 古いモノラル録音でヒスノイズが入っていますが、ピアノの音が明瞭なのでさほど気にはなりません。早世の天才リパッティの録音の数は決して多くありませんが、残された貴重な録音はどれもが彼独特の素晴らしい魅力に溢れています。ピアノの音は姉弟子のクララ・ハスキルと同じように、少しも金属的で無いいぶし銀の響きであるのが好きです。現代のピアノ奏者はとかく大ホール向けの音なのが余り好きではありません。それにしても、この詩情溢れるピアノはどうでしょう。33歳の若さで亡くなったことが本当に惜しまれてなりません。

41lnhodiz0l__ss500_アルトゥール・ルービンシュタイン(1961年録音/RCA盤) ポーランド出身の大巨匠ルービンシュタインのショパンは昔から定番として愛好されていますが、ポリーニやアルゲリッチの登場以降は、微温的で切れ味に欠ける演奏に受け止められていないでしょうか。確かにスタジオ録音にはそういう傾向は有ります。けれども逆に余裕ある音楽の大きさを感じられる点では、やはり素晴らしいと思います。とても若手奏者には真似のできない芸当です。この人が残した多くのショパンの録音は、ある意味でバックハウスの残したベートーヴェンの録音に匹敵するのではないでしょうか。

51o5s6arc1l__ss500__2マルタ・アルゲリッチ(1975年録音/グラモフォン盤) アルゲリッチの演奏は60年から70年代が一番好きです。80年代を過ぎると、徐々に頭で考えた演出臭さを感じる様になってしまうからです。女性の最大の強みはたぶん本能で感じるままに音楽に没入することのような気がします。それは男性には真似の出来ない能力だからです。それはヌヴーやデュプレを聴いても同じように感じます。この演奏は70年代のアルゲリッチとしては普通の出来だと思います。曲への没入加減がいまひとつに思います。おそらくスタジオ録音のせいかもしれません。それでも終楽章の焦燥感などは独特の魅力です。

51qthr2xf0l__ss500_ マウリツィオ・ポリーニ(1984年録音/グラモフォン盤) ポリーニのソナタの演奏はディスクではなく、当時FMで放送された、確かウイーン芸術週間のライブを録音して良く聴いていました。堅牢な造形と音楽の流れの良さがとても気に入っていました。このスタジオ録音はそれに比べると、造形性は増しているものの、勢いだとか流れの良さが幾らか劣るような気がします。ポリーニ全盛期の素晴らしい演奏には違いありませんが、あの衝撃的なエチュード集ほどの高みには至っていないような気がします。

51xcxnjhaql__sl500_aa300_ ニキタ・マガロフ(1991年録音/DENON盤) マガロフが80歳で亡くなる前年に東京の江戸川文化センターで演奏した録音です。元々ハッタリの無い端正な演奏をした人ですが、ここでは遅めのテンポで悠然とした構えの骨太のピアノを聴かせます。さしずめ晩年のベームのような演奏です。あるいはルービンシュタインから洒落っ気を取り除いた生真面目な演奏とも言えます。使用されたスタインウェイは瑞々しくとても自然なピアノの音なので好ましいです。

Chopin_kissin エフゲニ・キーシン(1993年録音/RCA盤) 神童キーシンが青年となった22歳の時のライブ録音です。僕はCD5枚セットで聴いています。この人はとにかく音が美しいですね。良くも悪くも優等生的で面白みに欠ける印象は有りますが、ライブにもかかわらずテクニックは完璧ですし、オーソドックスな美演を選ぶとすれば良い演奏だと思います。確かにショパンの暗く追いつめられる様な苦悩は感じませんけれども、とても繊細な感情のひだを感じさせてくれます。

これらの演奏はどれも特徴が有って一長一短ですので、なかなか好みの順番を付けるのは難しいところです。さて皆さんは誰がお好きですか。

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2010年11月21日 (日)

ショパン ピアノ協奏曲第1番 ホ短調op.11 名盤 ~青春の旅立ち~ 

Chopin00 若きショパンが故郷ポーランドを離れパリへと向かう旅立ちの直前に書かれたのがピアノ協奏曲第1番ホ短調です。実際に書かれたのは第2番ヘ短調のほうが早いのですが、第1番が先に出版されたためにこの番号となりました。

ピアノ協奏曲第1番の演奏には、男性的な力強さと女性的な優しさの両立が要求されると思います。また、ショパンは管弦楽パートの扱いが未熟だと言われますが、瑞々しく美しい曲想そのものは大変に魅力的だです。そうなると当然のことですが、ピアノ独奏とオーケストラ伴奏の両方の演奏が良くないと物足りなくなります。意外とバランスが難しい曲であると思います。

この曲の愛聴盤については、以前の記事「ルービンシュタインのワルシャワ・ライブ」でご紹介したことが有ります。ショパンと同じポーランド出身の巨匠ルービンシュタインが、祖国ポーランドを長く離れて再びワルシャワに戻って行った歴史的演奏会のライブであって、極めて感動的です。今回は、その演奏も含めて愛聴盤を順にご紹介します。

4107071255 ディヌ・リパッティ独奏、アッカーマン指揮チューリッヒ・トーンハレ管(1950年録音/EMI盤) 伝説の名ピアニスト、リパッティのチューリッヒでのライブ演奏です。録音は良くないのですが、演奏の個性で忘れることができません。大抵は端正な演奏をすることが多いこの人が、ゆったりとした部分では驚くほどロマンティックに歌い上げています。それが真にリパッティの心から湧き出た感情なので実に説得力が有ります。不自然な印象は全くありません。但しオケ伴奏は平凡です。

20100907103639bc8 マウリツィオ・ポリーニ独奏、クレツキ指揮フィルハーモニア管(1960年録音/EMI盤) 現役のポリーニですが、’60年のショパンコンクールに優勝した18歳の時の録音です。技巧的には既に完璧と言えますが、余りに堅実、端正な演奏なので、面白みは少ないです。後にグラモフォンにエチュードの超演を録音した頃に残してくれたら、ずっと魅力的な演奏になったと思います。この演奏は一つの記録として楽しみましょう。ステレオ初期の録音なので、ややピアノの音に明快さを欠きます。

Rubinstein_chopinslアルトゥール・ルービンシュタイン独奏、スクロヴァチェフスキ指揮ロンドン新交響楽団(1961年録音/RCA盤) ルービンシュタインのショパンは素晴らしいです。ことさら大げさに構えるわけではなく、一見淡々と弾いているように見えても、長年のキャリアにおいて数えきれない回数を演奏したであろう曲を慈しみにも似た愛情をひしひしと感じさせてくれます。確かに「現役の青春」ではなく「過ぎ去った遠い昔の青春」という風情なのですが、それはそれを聴いている自分の年齢とも重なり合うので余計に共感を覚えてしまいます。この演奏に比べれば、ポリーニもアルゲリッチもまだまだ尻が青いというところでしょうか。

41j8z8wzcvl ニキタ・マガロフ独奏、ベンツィ指揮コンセール・ラムルー管(1962年録音/フィリップス盤) マガロフはロシア出身ですが、貴族の出身であったので、革命の際にパリに逃れ、その後スイスで活動しました。特にショパンを得意としました。テクニックは確かですが大げさな表現や派手さは有りません。この演奏もイン・テンポで端正に弾いています。情緒に溺れることは無いのに、味わい深く感じるのは中々の名人芸です。タッチも美しいですし、聴くごとに味の出る演奏だと思います。

200751457 サンソン・フランソワ独奏、フレモー指揮モンテ・カルロ歌劇場管(1965年録音/EMI盤) この曲の第1楽章は長いオーケストラの序奏で始まりますが、オケの音が粗く聞こえます。これは少なからずマイナスです。フランソワのピアノは驚くほどの大見得を切って開始されますが、ここはどうも音楽に入って行けません。余りに大げさに過ぎるからです。ところが聴き進むうちに、即興的でロマンティックな味わいに徐々に惹きつけられてしまいます。更に2楽章に入ると心を込めた演奏に益々惹かれます。3楽章では再び揺れの大きさを感じますが、ここは曲想のせいか洒落っ気がとても楽しめます。全体に余り”青春”を感じさせませんが、個性的な演奏で捨て難い魅力が有ります。

Img_1417901_56162883_0 マルタ・アルゲリッチ独奏、ロヴィツキ指揮ワルシャワ国立フィル(1965年録音/DENON盤) これは’65年のショパン・コンクールでのライブ演奏です。若きアルゲリッチのピアノはとても素晴らしいです。後年のようなわざとらしい表現は全く無く、己の本能の命ずるままに奏でている印象です。非常に感動的な演奏です。元々はこれほどの感受性と技術の持ち主なのに、年齢と共に彼女のスタイルは徐々に変わっていってしまいます。この演奏はライブなので、1楽章のオケによる美しい序奏部分が大幅に短縮されてるのが大きなマイナスです。僕はここが大好きなので残念です。

Chopin_rubinsアルトゥール・ルービンシュタイン独奏、クレンツ指揮ポーランド国立放送響(1966年録音/Prelude & Fugue盤) ルービンシュタインが祖国ポーランドで弾いたライブです。この人は、スタジオ録音だとどうもサロン的とでも言える演奏をする傾向がありますが、祖国の聴衆を前にした実演では真剣勝負で演奏していて実に感動的です。クレンツ指揮のオケも導入部から心がこもっていて最高です。ルービンシュタインのピアノは若々しく男性的で、心がこもり切っています。基本テンポは崩さず、ここぞというところでルバートさせるので、その真実味が聴き手の胸に深く響きます。この素晴らしいCDはスイスのPrelude & Fugueレーベルがポーランド放送のライセンスで出した物ですが、既に廃盤なのが惜しまれます。

Argerich マルタ・アルゲリッチ独奏、アバド指揮ロンドン響(1968年録音/グラモフォン盤) ショパン・コンクールから3年後のスタジオ録音です。アルゲリッチは3年前よりも表現の幅が広がった印象ですし、後年の演奏のわざとらしさは感じさせません。’65年ライブほどの高揚感は無いものの、完成度という点では上だと思います。アバドの指揮は繊細、丁寧によく歌おうとしていますが、時に粘り過ぎて流れの悪さを感じる時があります。

512rsdoqswl__sl500_aa300_ 中村紘子独奏、ロヴィツキ指揮ワルシャワ国立フィル(1970年録音/CBSソニー盤) アルゲリッチ優勝の’65年ショパン・コンクールで4位に入賞した中村紘子が、コンクールの際に伴奏を務めていたロヴィツキ/ワルシャワ・フィルと5年後に録音をした演奏です。タッチは力強いですが、まだ粗削りな印象が多少あります。けれども若々しい勢いがあるので、聴いているうちに惹き込まれていきます。それに彼女の余り難しいことを考えないストレートさがこの曲の場合はむしろプラスになっている気がします。オケ伴奏はもちろん非常に美しいです。

41kznpi8vtl__sl500_aa300_ 中村紘子独奏、フィストラーリ指揮ロンドン響(1984年録音/CBSソニー盤) 上述盤から14年後の再録音です。すっかり円熟した印象です。フォルテの音は相変わらず力強いですが、タッチがずっと洗練されました。粗さも感じさせません。もちろんこの人にはアルゲリッチのような天才的な閃きは有りませんが、くせのない美演ということでは中々の水準だと思います。もっとも完成度は新盤のほうが高いのですが、個人的には演奏に勢いのある旧盤のほうを好んでいます。

C10217 スタニスラフ・ブーニン独奏ストゥルガーワ指揮ワルシャワ国立フィル(1985年録音/CAPRICCIO盤) ブーニンがショパン・コンクールに優勝した時のライブ録音です。’65年のアルゲリッチも素晴らしかったですが、ブーニンも素晴らしいです。安定したテクニックと感受性でショパンの青春を余すところなく表現仕切っていると思います。即興的にニュアンスの変化を多くつけているにもかかわらず、音楽の流れを損なうことが全く有りません。あれだけの一大ブームを起こして当然の才能溢れる新人だったことが今更ながら良く分かります。躍動感が素晴らしい終楽章終了後の聴衆の拍手も凄まじいです。ワルシャワ・フィルの伴奏も非常に素晴らしいです。

834マルタ・アルゲリッチ独奏、ラヴィノヴィチ指揮シンフォニア・ヴァルソヴィア(1999年録音/accord盤) ワルシャワでのライブ演奏です。アルゲリッチのこの曲の録音は他にも沢山有っていちいち全部は覚えていませんが、これはユニークな演奏です。彼女とラヴィノヴィチの共演は10年ほど前に東京でベートーヴェンの2番の生演奏を聴いていますが、表現意欲の大きさに驚きました。その点で二人の相性は最高です。あとは好き嫌いの問題です。自分としては、この恣意的な表現に一種の”あざとさ”を感じるので、それほどは好みません。2楽章の即興的に弾かれるピアノは非常に美しいですが、終楽章の急き込むようなリズムの崩しには抵抗が有ります。

Img_743670_39816568_2 クリスティアン・ツィメルマン独奏/指揮ポーランド祝祭管(1999年録音/グラモフォン盤) ツィメルマンは既に2度の録音を残していますが、理想の演奏のために自分でオーケストラを編成して再録音を行いました。アルゲリッチ盤のラヴィノヴィチも雄弁でしたが、ツィメルマンの指揮はそれ以上に雄弁、徹底していて呆れるほどです。序奏の音楽の流れは悪くフレーズがブツ切れです。ピアノも同様で、表現意欲過剰の演奏には少々抵抗を感じますが、やはり専門のせいか、中々に面白く聴けます。沈滞する部分の雰囲気も深いです。2楽章はピアノもオケもリリシズムが大変に美しいです。終楽章はテンポの揺れはありますが、抵抗無く切れの良いピアノタッチを楽しめます。

41fb9hrsvcl__sl500_aa300_ ジャン‐マルク・ルイサダ独奏、ターリッヒ弦楽四重奏団(1998年録音/RCA盤) このディスクは実に面白いです。オーケストラ伴奏では無く、ピアノ六重奏版の演奏だからです。単独の弦楽器が奏でる旋律の表情の豊かさと繊細さは、ちょっとオケでは再現不可能です。ルイサダも元々繊細なピアノを弾く人なので、この編成に適しています。実にニュアンスが豊かですが、表情過多に感じることは有りません。美しいタッチで瑞々しさを失わずに、共感を込めて奏でています。しばしば見せる弦楽とのからみが、何と美しいことでしょう。2楽章などはまるで夢を見ているようです。

ということで、ルービンシュタインの’66年ライブは別格として、特に好きな演奏を上げると、同じルービンシュタインの’61年RCA盤とブーニンの’85年ライブです。番外としては、ルイサダのピアノ六重奏盤でしょうか。アルゲリッチの’65年ライブは1楽章序奏部のカットが大きなマイナスなのですが、彼女のピアノを聴くならこれが一番好きです。

余談ですが、色々と聴き比べて一つ感じるのがワルシャワ・フィルやポーランド放送響の演奏が実に素晴らしいことです。昔から何度も何度も繰り返して演奏してきたことと、何と言ってもショパンと同郷の血の共感が有るからでしょうね。

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2010年11月18日 (木)

ショパン・コンクール2010 受賞記念コンサート ユリアンナ・アヴデーエワ

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ショパン生誕200年記念の今年は、5年に一度開催されるショパン・コンクールの年でもありました。今回の優勝者はロシア出身のユリアンナ・アヴデーエワ嬢です。彼女の受賞記念コンサートの曲目は、通例のピアノ協奏曲第1番です。その演奏は、コンクールのホームページで全曲を通して聴くことが出来ます。聴いてみましたが、やはり素晴らしい演奏ですね。テクニックはもちろん確かなのですが、驚くほどの切れ味とか凄みとかは余り感じません。ハッタリの無いとても堅実な弾き方です。けれども歌いまわしに関してはものすごく繊細です。しばしば登場する、大きなルバートをかけてじっくりと聴かせる部分などは思わず涙腺が緩んでしまいました。こういう表現が自然に感じられる演奏って、相当なベテランでも中々に難しいと思いますが、若い彼女はそれをさらりとやってのけます。今後とても注目したいピアニストが現れたような気がします。

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2010年11月11日 (木)

ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン 2010 プレートルの「エロイカ」

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今年もウィーン・フィルハーモニーが来日しました。世界のオーケストラの中で僕が特に好きな楽団といえば、なんといってもシュターツカペレ・ドレスデンと、このウィーン・フィルです。いぶし銀の響きのドレスデンは、例えてみればコシのある信州蕎麦。なめらかで艶やかな音のウィーン・フィルはのど越しの良い更科蕎麦というところです。どちらが美味しいかということではなく、味わいの違いだけなのです。ということで、僕はツアーの最終公演となる10日のサントリーホールへ行ってきました。

当初、この日に予定されていたプログラムはマーラーの第9交響曲でした。ウィーン・フィルとは所縁のマーラー、それも最高傑作の9番とあっては聴き逃すわけにはいきません。そう思ってチケットを購入し、心待ちにしていたのですが、指揮者のサロネンが来日不能になり、代役としてジョルジュ・プレートルが振ることになりました。それに合わせて、曲目もエロイカに変更されました。ウィーン・フィルのベートーヴェンは3年前にアーノンクールで7番を聴きましたし、自分としては是非ともマラ9を聴きたかったのです。同じ気持ちのファンは多かったのではないでしょうか。とは言え、ウィーン・フィルのエロイカが聴けるのですから悪いはずは有りません。

ジョルジュ・プレートルというと、最初に名前を知ったのは、マリア・カラスの歌う「カルメン」のレコードの指揮者としてでした。随分と昔の話です。それ以来、ほとんど注目をしない指揮者だったのですが、近年のニューイヤーコンサートへの登場で、その素晴らしい指揮ぶりに驚かされました。音楽家とはいっても、結局は芸人なので、長年一つの道を真っ直ぐ歩んでいれば、いつか芸の大きな花が咲くものなのですね。

そんなことを思いながら会場へ入ったところ、宇野功芳先生がソファに座られていました。以前にも面識が有ったので、お声をかけさせて頂きました。私「今日はプレートルですから期待できますね。」 先生「絶対に良いですよ。」 私「ほんとうに楽しみですね。」 こんな短いやりとりでしたが、先生も期待充分ということがわかりました。

さて予鈴が鳴って席に着き、団員がステージに上がるのを見守り、いよいよコンマスのキュッヘル登場です。チューニングが終わり、最後にプレートルが出てきました。前半はシューベルトの交響曲第2番です。序奏の1stヴァイオリンのスケールは幾らか不揃いでしたが、こういう始まりはウィーン・フィルでも難しいと見えます。曲が進みにつれて音が混じり合い、どんどんと響きが膨らんでいきます。こうなるとウィーン・フィルの独壇場です。この曲は普段聴くことは有りませんが、この楽団特有の柔らかく美しい音で聴くと、やっぱりシューベルトはウィーンの音楽家だなぁと思います。音楽とオケの音とに寸分の隙間も感じないからです。正に「同質性」を感じます。プレートルはこの曲ではほとんど手を加えずに、表現を楽団に任せてたようです。この曲ではそれはとても好ましい事だと思います。

休憩をはさんで、後半はいよいよ「エロイカ」です。冒頭の二つの和音は、とても速く切れの良い音でした。かつてのフルトヴェングラーのような重い音とは全く異なります。その後のテンポはかなり速めです。けれどもそれぞれの楽器が次ぎから次ぎへと、出たり引っ込んだりする掛け合いの見事さはため息が出るほどで、「ああ、ウィーンフィルだ!」と心の中で叫びました。それはフルトヴェングラー時代と(それ以前は知らないので)少しも変わることが有りません。プレートルのテンポは速いですが、速過ぎるとは感じさせません。テンポを落とすところは気付かせないぐらいに微妙に落として雰囲気を変えていますし、程よい緊張感が有って、音楽の流れの良さを感じさせます。

第2楽章も速めです。葬送を意識し過ぎて、音楽がもたれるようなことはありません。それに、ウイーン・フィルの弦の何と美しいことでしょう。そこに柔らかい音の管楽器が溶け合って、至福の美しさとでも言いたくなります。トゥッティでの強奏もわめきちらすことは無く、響きの美しさを感じます。

第3楽章は相当に急速テンポでした。老齢のプレートルがよくぞこれほど躍動感ある指揮をするものだと驚きました。そのテンポで余裕をもって弾き切って、少しもリズムがこけないオケの安定感もさすがです。トリオのホルンはウインナホルンの味わいが最高です。

第4楽章は冒頭のピチカートが軽やかに始まります。続く、弦の掛け合いの美しさはさすがです。この楽章も速いテンポで進み徐々に高揚してゆきますが、全曲を通して感じるのは、プレートルの音楽はドイツ的な重圧さとは異なる、フランス的な(と言って構わないでしょう)「軽み」です。ですが、そこは円熟の巨匠のこと、少しもせわしない雰囲気はありませんし、逆に色々な所でちょっとしたニュアンスの変化や遊び心を感じさせて、実に聴きごたえがあります。これこそが本当の「芸の術」なのでしょう。聴いていて本当に楽しくなります。

終了後の聴衆の拍手はもの凄かったです。演奏の素晴らしさもあるでしょうが、たぶん86歳の巨匠が日本に来るのはこれが最後かもしれないという皆の思いもあったと思います。プレートルもそれに本当に嬉しそうに応えていました。

アンコールはブラームスのハンガリア舞曲第1番でした。ヴァイオリンが、もうこれ以上たっぷりとは弾けないであろう限界まで大きく歌っていました。弦の音が本当に美しかったです。テンポの変化が凄く、ドラマティックな演奏ですが、最高のエンターテイメントです。2曲目は得意の「トリッチ・トラッチ・ポルカ」ですが、普段の1.5倍の速さではないかと思わせるほどの急速テンポが素晴らしかったです。

盛大な拍手の中、ウィーン・フィルの団員も満足した様子でしたが、彼らが舞台袖に引き上げた後もプレートルは一人で何度も何度も舞台に戻って来ました。出来ることなら、神様が許してくれさえすれば、再びこの舞台で名演奏を聞かせてほしいものです。その時には絶対に聴きに行きたいと思います。当夜、聴くことができなかったマーラーの9番はまた聴ける機会がきっと有ることでしょう。曲目変更の不満も全く消え去って、満足感に浸りきった本当に素晴らしいコンサートでした。

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2010年11月 6日 (土)

ベートーヴェン 交響曲第2番ニ長調op.36 名盤

Beethoven1 ベートーヴェンが、この第2交響曲を作曲したのは、彼が有名な「ハイリゲンシュタットの遺書」を書いた1802年です。弟の問題、難聴や体調の問題、音楽家としての人気の低下などから、あれほど絶望的な感情に陥っていながらも、いざ創作をするとこれほど明るく生命力のみなぎった曲を書いてしまうのですから、なんという人なのでしょう。音楽家としてのプロフェッショナルさには脱帽です。

この曲は古典形式を強く残してはいますが、ハイドンの影響下に留まっていた第1番とは異なって、そこから大きく脱皮したロマンの香りや情熱のほとばしりが聴き手に強く迫ってきます。ですので第3番以降の傑作群と比べても、それほど聴き劣りがしません。特に素晴らしいのは1楽章と2楽章です。第1楽章はいかにもベートヴェンらしい勇壮な主題ですし、終結部も素晴らしく何度耳にしても興奮します。そして第2楽章のロマンティックな歌も実に美しいです。時を忘れてずっと浸っていたい気分になります。そのくせ、どこかにベートーヴェンの苦しい気持ちが隠されているような陰りを感じます。1、2楽章の魅力と比べると後半の3、4楽章は少々物足りない感は有ります。とはいえ、この第2交響曲はやはり魅力的な佳曲だと思います。

それでは、僕の愛聴盤をご紹介します。順番に聴いていきたいと思いますが、まずはモノラル録音からです。

Beethoven4_furjpg ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーン・フィル(1948年録音/EMI盤) ロンドンへの演奏旅行中のライブ録音です。これは正直、愛聴盤とは呼べません。録音が劣悪で、戦時中の録音以下だからです。けれどもフルトヴェングラーに他の録音が無いために、EMIの全集に含まれています。間違ってもこの曲を目当てにしてはいけません。但し演奏そのものは、さすがにウイーン・フィルです。音のしなやかさと、こぼれるようなロマンの香りが素晴らしいです。録音がせめてもう少し良ければ、と思わずにはいられません。

3200060182 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC響(1951年録音/RCA盤) カーネギーホールでの録音です。1楽章は相当に速いテンポで力強く突き進みます。音の迫力が凄いです。2楽章は速めですが、カンタービレを効かせてよく歌っています。3楽章も非常に力強いです。終楽章は速めですが、極端ではありません。全体として、どこまでも明晰で、あたかも地中海の気候のような演奏なので、もう少し陰りというものが欲しくなる気がします。もっともこれはこの人の全ての演奏について言えるのですけれど。

Schu_bet_758カール・シューリヒト指揮パリ音楽院管(1957年録音/EMI盤) これもEMIへの全集に収められています。1楽章の序奏のあとの主部は相当に速めです。けれども音のタメに余裕が有るので、せかつく感じは有りません。このあたりはシューリヒトの魔法と言って良いです。2楽章は粘らず清楚で実に美しいです。3楽章はリズムの切れの良さが光ります。終楽章のテンポは意外にゆとりがあります。フレーズ毎に丁寧に念押ししながら進む感じがしますが、決してもたれません。

ここからはステレオ録音になります。

51ysbm2rlel__sl500_aa300_ ブルーノ・ワルター指揮コロンビア響(1959年録音/CBS盤) 1楽章はかなり速めです。情熱と生命力が凄く、これはワルターが82歳のときの録音ですが、とても年齢を感じさせません。時々感じさせることのある、音の結晶度不足もここでは全く感じません。そしてゆったりと歌う2楽章のロマンの香りはいかばかりでしょう。ここには「田園」の2楽章にも匹敵する深い味わいが有ります。3楽章はリズムが生き生きしています。終楽章は幾らか遅めでゆとりが有りますが、決してもたれるわけではなく、フレーズの歌いまわしが非常に美しいので、せかせかした指揮者の演奏とは別の曲を聴く感じがします。

Beethoven_cluytensアンドレ・クリュイタンス指揮ベルリン・フィル(1959年録音/EMI盤) 全集盤に収められている演奏です。第1楽章の主部に入ると快速テンポでグングンと進み行くのが快感です。アンサンブルの良さも流石はベルリン・フィルです。2楽章の牧歌的な味わいと美しさは秀逸ですし、3、4楽章の切れの良いリズムによる躍動感と音楽の生命力も最高です。録音についてはEMIなので元々期待は出来ませんし、リマスターが高域型で音そのものが軽く感じられますが、この曲の場合には曲想から抵抗感は少ないです。

Cci00055フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1960年頃録音/edel classics盤) これも全集盤に収められていますが、昔、学生時代に廉価LP盤で聴いて非常に好きだった演奏です。1楽章序奏部の和音から厚いドイツの響きがとても美しく魅了されてしまいます。更に主部に入ると、ゲヴァントハウス管の合奏の上手さと切れ味に驚嘆させられます。それは単に機能的に優れているだけではなく、ドイツの伝統そのものから成り立つ凄さを感じるからです。2楽章は速めで甘さは控えめですが、和音はやはり美しいです。続く3楽章も良いですが、終楽章は分厚い合奏に凄みすら感じます。それにしても、この凄さは実際に耳で聴いてみないと分からないと思います。

51pbpkptral__ss500_ カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1972年録音/グラモフォン盤) 全集盤の中に収められた録音です。1楽章序奏部の響きはドイツのオケとはまた違ったウイーン的な柔らかさです。それが主部に入ると驚くほど速いテンポで生命力に満ち溢れます。晩年のベームの演奏が全て重いと思ったら大間違いです。2楽章は一転して、ゆったりとロマンの歌を奏でます。ウイーン・フィルの美しく抒情を感じる音も最高です。3、4楽章のテンポはゆとりが有りますが、リズムの切れも良く、決してもたつくことは有りません。

649 カール・ベーム指揮バイエルン放送響(1978年録音/audite盤) ウイーン・フィル盤から6年後のミュンヘンでのライブ録音です。1楽章のテンポは6年前とほぼ同じで非常に躍動感を感じます。2楽章も非常に美しく、ウイーン・フィルに中々に迫っています。3、4楽章もウイーン・フィル盤と余り変わりませんが、ドイツのオケのせいか、4楽章の立派さは更に上回っているような気がします。総合的にウイーン・フィル盤とどちらを取るかは非常に難しいですが、個人的には僅差でウイーン盤を選びたいです。

0184442bcヘルベルト・ブロムシュテット指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1978年録音/Berlin classics盤) これも全集盤に収められています。ゲヴァントハウス管の音も素晴らしかったですが、SKドレスデンの音も最高です。演奏の凄みという点ではコンヴィチュニーに及びませんが、この演奏も実に素晴らしいです。1楽章主部は結構速いテンポなのですが、マルカートで全ての音符を弾き切っているので、実際よりも落ち着いて聞こえます。やっぱり伝統的なドイツのオケの響きと演奏には理屈抜きで惹かれます。

以上の中から、特に好きな演奏を上げるとすれば、コンヴィチュニー/ゲヴァントハウス盤がダントツです。これは学生時代から全く変わりません。他には、ウイーン・フィルが美しいベーム盤、SKドレスデンが素晴らしいブロムシュテット盤、そして指揮者の芸格が抜きんでたワルター盤も外せません。

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2010年11月 1日 (月)

ベートーヴェン 交響曲第8番へ長調op.93 名盤

Img_beethoven_1_2 第7交響曲を書きあげた後の僅か数か月で、第8交響曲は完成されました。この曲はベートーヴェン自身が「小交響曲」と呼んだように、規模の小さなロココ調の優美さを持った作品です。けれども、それまでに幾つもの大交響曲を作り上げてきたベートーヴェンですから、小さな規模の中に力強さや情熱がはみ出るほどにたっぷり盛り込まれています。全4楽章ともおよそ無駄に思われる部分が無く、一度聴き始めると一気に聴き通してしまいます。「苦悩を突き抜けた歓喜(勝利)」を想わせる第3、第5、第9とは異なって、極めて明るい雰囲気に包まれた名作として個人的にはとても好きな曲です。

051101_210 ところで、この曲は随分前に演奏したことが有ります。学生時代に都内の某大学オケにヴィオラのエキストラ参加したときです。指揮者は炎のコバケン(小林研一郎氏)でした。と言っても、コバケンの棒で弾いたのはゲネプロの一度だけです。結局本番の出演を取り止めてしまい、代わりに弟子のT氏が指揮したからです。これには非常にがっかりしました。とはいえゲネプロの時のコバケンには心底圧倒されました。あの人が指揮台に登っただけで頭の上にオーラ(炎?)が見えるんですね。お世辞にも上手いとは言えないアマチュア・オーケストラが、まるで魔法にかけられたように緊張感のある良い音を出してしまうのです。カリスマ性とは、ああいうものかなぁってつくづく思い知らされました。今では懐かしい青春時代の良い想い出です。

それでは僕の愛聴盤ですが、この曲に関してはフルトヴェングラーの特別扱いは止めます。まずはモノラル録音からです。

Toscanini_beethoven_3_4 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC響(1952年録音/RCA盤) カーネギーホールでの録音です。トスカニーニの筋肉質の男性的な演奏は「英雄」や「運命」では非常な魅力なのですが、この曲の場合は典雅さや優美さの不足がかなり不満に感じます。残響の少ない録音もデメリットです。ところがそれでも結局のところは、速いテンポの明快で生命力溢れる演奏に無理やり引きずり込まれてしまうのが、この人の凄さです。小さい交響曲の凄まじい演奏として忘れることはできません。

1161001303 ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1953年録音/グラモフォン盤) ベルリンでのライブ演奏です。同じ日の7番と同様に録音の鮮度は今一つです。演奏はトスカニーニとはまた違う意味で優美さから遠く、1楽章の短調に転調して展開する部分などは壮絶極まりなく、重い運命を背負っているかのようです。2、3楽章のテンポは遅く、聴きごたえが有ります。終楽章もやはり遅めで重量感を感じます。フルトヴェングラーが指揮をすると、この曲は全くスケールの小ささを感じさせません。

857 ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーン・フィル(1954年録音/オルフェオ盤) 7番と同じ日のザルツブルクでのライブ演奏です。当然前年のベルリン盤との比較になりますが、録音の鮮度はこちらが幾らか上に思います。1楽章は更にテンポが遅く、壮絶さは後退しています。またウイーン・フィルなので音そのものに典雅さを感じます。2、3楽章ではその魅力が更に強く感じられます。全体を通してベルリン盤よりも迫力は感じませんが、逆にこの曲の本来の姿に近い演奏であるような気がします。

Schu_bet_758カール・シューリヒト指揮パリ音楽院管(1957年録音/EMI盤) これもEMIへの全集に収められています。全体に速めのテンポできりりと引き締まった演奏です。細部の音へのこだわりは相変わらずシューリヒトです。よく歌いますが、ウイーン風の柔らかな甘さは感じません。スタイルはドイツ風なのですが、パリ音楽院管の明るい音が中和させます。特に耳を奪われるのが終楽章で、弦やティンパニの切れが有り激しい音のアタックは壮絶ですらあります。

ここからはステレオ録音になります。

123039253647216211547 ブルーノ・ワルター指揮コロンビア響(1958年録音/CBS盤) 1楽章は案外速めです。但しオケの性能のせいか、練習が足りないのか、音の結晶度不足を感じます。2楽章はテンポは中庸ですが、この曲のこぼれるような美感に欠ける気がします。3楽章はかなり遅いテンポでよく歌います。けれども、どうもオケの質感に満足できません。終楽章は遅いテンポで重さを感じます。この楽章にしては少々重すぎて、もたれるんじゃないかと思ってしまいます。

Cci00055フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1960年頃録音/edel classics盤) これも全集盤に収められている演奏です。これこそは「ドイツ風」としか言いようのない演奏です。1楽章は幾らか遅めのテンポで堂々としています。2楽章と3楽章は意外に速めですが、非常にかっちりとしていて聴きごたえが有ります。終楽章はじっくりとしたテンポで「熱狂」からは遠いのですが、じわりじわりと高揚してゆくのですが、面白みに欠ける気もします。何度も言い尽くしましたが、ゲヴァントハウス管の厚い響きはやはり素晴らしいです。

Monteux_eroicaピエール・モントゥー指揮ウイーン・フィル(1960年録音/DECCA盤) 昔から定評のあるSイッセルシュテット盤はウイーン・フィルの魅力溢れる名盤ですが、モントゥー盤では更に古き良きウイーンの味わいを聴くことが出来ます。何と言っても、当時のウイーン・フィルの室内楽的な演奏が魅力です。あたかもコンツェルトハウス四重奏団がシンフォニーを演奏してくれているようです。弦も木管も柔かく鄙びた音色が本当に素敵です。誰かがモントゥーはウイーン・フィルとは相性が悪かったようなことを書いていましたが、とんでもない話です。

4107090040 パブロ・カザルス指揮マールボロ音楽祭管(1963年録音/CBS盤) これもマールボロ音楽祭でのライブ演奏です。7番よりも6年前ですので録音は劣ります。それにしても86歳のカザルスの指揮と言ったらどうでしょう。1楽章から誰よりも速いテンポで情熱が爆発しています。この人の魂は少しも老いたりしないのですね。2、3楽章も速めのテンポですが、表情が実に豊かで生き生きしています。終楽章は速さは普通ですが、音の激しさに圧倒されます。臨時編成オケの音は少しも洗練されていませんが、これこそは魂の音楽家カザルスの真骨頂です。

905 ヨゼフ・カイルベルト指揮バイエルン放送響(1967年録音/オルフェオ盤) カぺル・マイスター、カイルベルトの7番と同じ日のミュンヘンライブです。例によって純ドイツスタイルでイン・テンポで武骨に進めます。構えが実に堂々としています。2楽章はオーソドックス、3楽章は風格を感じます。終楽章もテンポは落ち着いていますが、じわりじわりと迫力を増してゆくのが素晴らしいです。バイエルン放送の音は硬過ぎず明る過ぎず、しっとりと大変心地よいものです。

Beethoven5_hshumit ハンス・シュミット‐イッセルシュテット指揮ウイーン・フィル(1968年録音/DECCA盤) Sイッセルシュテットのウイーン・フィルとの全集のなかの白眉であり、昔から定評のある演奏です。何しろ1960年代当時のウイーン・フィルの柔らかい弦と潤いのある木管の音に魅了されます。イッセルシュテットのテンポは速過ぎも遅過ぎもせず極めて自然で、音楽の流れがとても良いです。この曲の典雅さと生命力とを実にバランス良く両立させているのが何とも素晴らしいです。DECCAの録音も優秀ですし、何度でも繰り返して聴きたくなる演奏です。

51pbpkptral__ss500_ カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1972年録音/グラモフォン盤) グラモフォンへの全集盤の中に収められています。イッセルシュテット盤との比較では、ベームのほうが一言で「立派」な印象が強いです。1楽章は提示部はゆったりとしていますが、展開部へ入ると徐々に感興が高まってゆき響きも厚くなります。2楽章では真面目過ぎてやや面白みに欠ける気がします。終楽章では1楽章と同様に少しも慌てないのにイッセルシュテット以上に感興の高まりを感じます。ベームとウイーン・フィルの底力でしょう。

0184442bcヘルベルト・ブロムシュテット指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1978年録音/Berlin classics盤) これも全集盤に収められています。毎回同じことを繰り返して気が引けますが、SKドレスデンのいぶし銀の響きが最高です。ルカ教会での録音は残響が多く柔らかいのですが、皮張りのティンパニの音などはパリッとしていて快感です。ブロムシュテットのテンポは中庸で落ち着いていますが、活力を失うことが無いので中々に良いと思います。

Abbdo_beethven6_8 クラウディオ・アバド指揮ウイーン・フィル(1986年録音/グラモフォン盤) 記憶ではアバドのデビュー盤はDECCAへのウイーン・フィルとのベト7、8でした。ですのでこれは再録音ということになります。ウイーン・フィルの音はもちろん美しいですし、テンポも適性なので悪いはずは有りません。にもかかわらず、何か面白く感じないのです。悪戯もしない、冗談も言わない優等生みたいです。それが終楽章では突然速いテンポで活力を漲らせますが、なんだかとってつけたようで入り込めません。

というわけで、今回はモノラルからステレオまでまとめて聴きましたが、僕が特に好きなのはやはりSイッセルシュテット/ウイーン・フィル盤です。同じウイーン・フィルのモントゥー盤とベーム盤や、カイルベルト/バイエルン放送盤もとても好きです。破格の演奏としては、カザルス/マールボロ盤が忘れられませんし、シューリヒト/パリ音楽院盤も同様です。

次回ですが、第9については既に2年続けて年末に記事にしていますので、今年もまた年末に未記事のディスクについて触れようかと思っています。そこで第2交響曲に戻ろうかと思います。

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