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2010年10月21日 (木)

ベートーヴェン 交響曲第7番イ長調op.92 名盤(モノラル録音編)

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ベートーヴェンの交響曲作品の中で、昔から一般に広く知られているのは、やはり副題の付いた「英雄」「運命」「田園」「合唱」です。けれどもクラシックファンの間では副題無しの第7番も、昔からとても人気が有りました。それはひとえに曲そのものの魅力からです。また、アマチュア・オーケストラに在籍する者にとっては、この曲は「ベト7」として必ず一度は演奏をしたくなる人気曲です。そんなこの曲が、一般にも広く知られてブームを巻き起こしたのは、言わずと知れた「のだめカンタービレ」の主題曲に使用されてからです。このTV番組と映画がきっかけでクラシックファンそのものの裾野が広がったことも事実ですし、これは大いに歓迎すべきです。

この曲を高く評価したのはリヒャルト・ワグナーで、曲全体が非常にリズムが強調されているので「舞踏の聖化」と呼びました。また、この曲は「バッカスの饗宴」と呼ばれることもあります。バッカスというのはローマ神話の酒の神様ですが(上の絵で金色の車に乗っている人です)、要するにこの曲が酒宴での乱地気騒ぎに例えられたのです。どうですか、あなたの大学や職場にもミスター・バッカスが一人や二人はいるんじゃないですか?

この曲の初演の際にはベートーヴェン自身の指揮で第1ヴァイオリン18人の大編成で演奏されたので、さぞかし迫力があったことでしょう。ですので同業者からは「ベートーヴェンは頭が狂った」などと言われたりもしたそうです。実際に、この曲の第1、3、4楽章は激しくリズムが刻まれていて実に興奮させられます。第2楽章のみが緩やかなアレグレットで悲哀の旋律が美しく奏されて、見事な対比となっています。

それでは、モノラル盤の愛聴盤を聴いてゆきますが、もちろんフルトヴェングラーが中心です。

803 ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1943年録音/オーパス蔵盤) 第二次大戦中のベルリンでのライブ演奏ですので、当然音は良くありません。けれども元々ドラマティックなフルトヴェングラーの中でも特に壮絶な演奏です。1楽章の鬼気迫るような雰囲気、2楽章の重い運命を背負ったような悲劇性も素晴らしいですが、終楽章の鳥肌が立つような切迫感には怖れさえ感じさせられます。ここには「健康的な」興奮とは全く異なる世界が存在しています。現代との時代の違いは無視出来ないでしょうが、どうか違いを比べてみて下さい。元々古い録音で一部音の揺れはありますが、オーパス蔵のメロディアLPからの復刻盤は中々しっかりした音です。他ではメロディア盤のCDが手堅いと思います。

Betho5_furemi ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーン・フィル(1950年録音/EMI盤) 晩年のEMIへのスタジオ録音は皆音質は良好なのですが、この’50年の7番だけは録音が余り良くありません。海外References旧盤は高音が比較的刺激的で無く低域が厚いので聴きやすいですが、それでも他のEMI録音よりも大分劣ります。演奏はスタジオ録音なので、それほど熱狂的では有りませんが、それでも終楽章などはまるでライブのような迫力をも感じさせます。僕自身はウイーン・フィルの持つしなやかさは好きで、2楽章の演奏はこれが一番好きかもしれません。

1161001303 ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1953年録音/グラモフォン盤) ベルリンでのライブ演奏です。録音は分離も鮮度も今一つですが’50EMI盤より幾らか良く感じます。演奏は1、3楽章はベルリン・フィルの重圧な音と迫力が素晴らしく、EMI盤以上に惹かれます。2楽章は逆にウイーン・フィルのしなやかな美しさを取りたいと思います。終楽章は即興的な感が有り、音の間を幾らか大きくとっています。テンポも前半ではじっくりと進みますが、後半から徐々に加速してゆき、フィナーレには荒々しく突入します。

857 ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーン・フィル(1954年録音/オルフェオ盤) 最晩年夏のザルツブルクでのライブ演奏です。1楽章は遅めで大きさと広がりがある分、かつての切迫感は薄れました。2楽章は逆に幾らか速めですが、ウイーン・フィルのしなやかさはやはり魅力です。弦も非常に美しいです。終楽章は遅めで躍動感には欠けますが、それでも後半の気力などは、とても3か月後にこの世を去る人の演奏とは思えません。録音は’50年、’53年盤よりは各楽器の分離の良さと音の鮮度を感じます。

Toscanini_beethoven_3_4 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC響(1951年録音/RCA盤) カーネギーホールでの放送用録音です。トスカニーニの演奏はとにかく力強く明快です。1楽章アレグロ部の躍動感は正に「舞踏の聖化」というイメージです。一つ一つの音の持つエネルギーが半端でありません。2楽章も沈滞することなく力強くリズムを刻みます。3楽章も当然ながら同様で、中間部も実に明るく強靭です。終楽章も情熱的で明るいです。この演奏に「フルトヴェングラーのような陰りの部分が欲しい」などと言うのは野暮というものです。

Mahcci00006 カール・シューリヒト指揮ウイーン・フィル(1956年録音/Tresor盤) ウイーン・フィルがアメリカに演奏旅行したときに国連会議場で行った記念コンサートです。会場の残響は少ないですし、音質には不満を感じます。我々にとってはシューリヒトとウイーン・フィルのライブを聴けるだけでも嬉しいのですが、演奏は手堅いものの特別な凄みは有りません。終楽章などはかなりの熱演なのですが、会場の音響がマイナスしているのかもしれません。僕は現在はTresor盤で持っていますが、初出のarchiphon盤と音質に差は有りません。

Schu_bet_758 カール・シューリヒト指揮パリ音楽院管(1957年録音/EMI盤) これもEMIへの全集に収められています。当然、ウイーン・フィル盤よりも録音条件は格段に良いです。モノラル録音なのに立体感を感じるほどです。案外じっくりとしたイン・テンポで進みますが、良く聴くと楽譜の読みが非常に細かく徹底していることに気づきます。例えば終楽章終結部で各弦楽パートが掛け合う部分などは、スラーを外して弾かせているので驚くほど歯切れの良さが出ています。シューリヒトの個性的なこだわりを表現するには、むしろドイツ音楽に伝統を持たないオケのほうが良いのかもしれません。録音、演奏ともにウイーン・フィル盤よりもずっと好みます。

以上から、7番に関してはフルトヴェングラーのフェイヴァリット盤がどうしても絞れません。’43年盤は迫力が有るが音質が悪い。’50年盤は演奏のバランスは良いですが音質が今一つ。’53年盤は音の厚みは良いですが2楽章がベストではない。’54年盤は音質は良いですが迫力不足。ということで4種類を聴き分けるよりありません。フルトヴェングラー以外では、シューリヒト/パリ音楽院盤に惹かれます。他にはエーリッヒ・クライバーがウイーン・フィルを振った演奏をLP盤時代に愛聴しましたが、現在CDは持っていません。

それでは、次回はステレオ録音盤を聴くことにします。

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ベートーヴェン(交響曲第7番~9番)」カテゴリの記事

コメント

こんばんは

ミスターバッカス、周囲を見回すまでもなく、鏡を見れば
そこにいたのでドキッとしました。

表題のない曲でももの凄く惹かれるのはバッカスの血が
流れているからかも知れませんね。

ご紹介されている演奏以外ではカラヤン/フィルハーモニア
も心地よい爽やかな風を感じ大好きです。

投稿: メタボパパ | 2010年10月23日 (土) 00時08分

メタボパパさん、こんばんは。

おおっパパさまはMr.バッカスでしたか!(笑)
でも、この曲は酒飲みも下戸も全員そろって血をたぎらせてしまうでしょう。いっそバッカス・パーティ(怪しい??)といきましょうか。

カラヤンは後年のベルリンPOよりも若い時代のほうがストレートでこの曲に合っているかもしれませんね。

投稿: ハルくん | 2010年10月23日 (土) 00時47分

こんにちは

私は’43年のものを聴いてます。最高です!この演奏を聴いたとき、こんな凄い演奏があったのかと驚愕したのを憶えています。DGからBOXで発売されていますよ。しかも、現在再発売中で40%引きらしいです。私は持ってるので買いませんが。
ところで、モントゥー/ウィーンフィルの「田園」を注文してしまいました。届く日が楽しみです^^

投稿: kurt2 | 2010年10月23日 (土) 13時41分

kurt2さん、こんにちは。
フルトベングラーの43年盤は本当に凄い演奏ですね。ただ僕は、どの演奏にもそれぞれの良さがあるので決められません。
モントゥーの田園のご感想楽しみにしていますね。

投稿: ハルくん | 2010年10月23日 (土) 16時10分

ベートーヴェンの交響曲の演奏法についてはワインガルトナーが大部の著作を残しています。ところが彼の録音を聴くと必ずしも本に書いてあるように演奏していなくて、むしろフルトヴェングラーのほうが近い演奏をしているので笑ってしまいます。方針としては基本的に正しいと思っています。

投稿: かげっち | 2010年10月28日 (木) 13時42分

かげっちさん、こんばんは。

残念ながらワインガルトナーの本は読んだことが有りませんが、演奏は幾らか聴きました。「苦悩を突き抜けて歓喜へ」というようなドラマティックさは余り感じませんね。
そこはやはりフルトヴェングラーの独壇場でしょう。

投稿: ハルくん | 2010年10月28日 (木) 22時22分

こんばんは^^

7番、私のベストはオーパス蔵の43年です。
当初は50年だったのですが、どうしても気に入った録音に出会えず・・・
実はいちばん好きなのが第2楽章なので、今回のレビューを拝見してあらためて50年も聴きなおしてみましたが、やはりよいですね!
第2楽章、「不滅の恋/ベートーヴェン」という映画で使われていたのが印象的でした。

投稿: micchik | 2010年11月 7日 (日) 22時34分

micchikさん、こんばんは。

43年盤は確かに凄いですからね。Bestと言われるのは良く分かります。
2楽章本当に傑作ですが、不滅の「アレグレット」で演奏されると、どうも速過ぎに感じられて困ります。ここだけはフルトヴェングラーの演奏は他に絶対に譲れないですね。

映画「不滅の恋/ベートーヴェン」は観ましたが、この曲の流れるシーンってどんな場面でしたっけ・・・ う~ん思い出せない!


投稿: ハルくん | 2010年11月 7日 (日) 23時07分

再びこんばんは。

「のだめ」がClassicに目醒める一因で、アノ主題に聴き飽きて避けてた曲ですが、貴Blogで紹介されたし何か1枚だけでもと、フルトヴェングラー/VPO/EMI盤を。

音質の覚悟をして聴き始めたのが良かったのか、ブライトクランク盤(TOCE-6514)が正解だったのか、確かに霞がかった感じですが充分confidentでした。特に、何処かしらでよく耳にしてた2楽章lovely

貴Blogを最後までsweat02拝読すると
>2楽章の演奏はこれが一番好きかも
いきなり引き当てた感じデスhappy01

投稿: source man | 2010年11月13日 (土) 18時13分

source manさん、再びコメントありがとうございます。

ブライトクランク盤は耳あたりが良くなる反面、低域の音像が大分甘くなる傾向があります。もしもお気が向けば、References旧盤が格安ですし、ぜひ聴き比べてみてください。

投稿: ハルくん | 2010年11月13日 (土) 19時15分

ハルくん様
トスカニーニの1936年、ニューヨーク・フィルハーモニックはいかがでしょうか?
後年のNBC交響楽団の録音に比べると、柔軟性があり、NYPの鋼がしなるような強靭な演奏です
自分には特別こだわる所がありまして、それは終楽章も終わる直前460小節目、第1,2ヴァイオリンのタイですが、これほど鮮明に聞こえるのは自分の知る限りこの演奏とカザルス・マールボロ音楽祭管弦楽団だけで、あとは大抵スタジオ録音といえども、アンサンブルが混濁しています
最後の土壇場でベートーヴェンの書き残した楽譜がぐしゃぐしゃになるのは聴いていて残念なのです


投稿: ブルー | 2010年11月18日 (木) 23時31分

ブルーさん、こんにちは。

トスカニーニの'30~'40年代の演奏の凄さは知っていますが、この曲は聴いたことがありません。
ベト7は一度アマチュアオケで演奏したことがあるのですが、現在スコアが無いので460小節がはっきりとは分かりませんが、終結部でしょうか?音符がぐしゃぐしゃも困りますが、こういう曲が冷徹完璧過ぎるのも困りますよね。バランスの難しさを感じます。

投稿: ハルくん | 2010年11月20日 (土) 00時14分

ハルくんさん、こんばんは。

早速、7番聴いてみました。比較のためにEMI旧盤(References)をまずチェックしてみましたが、ハルくんさんがおっしゃるほどの音質の悪さは感じませんでした。ただ、低いレベルのぼこぼことした雑音と第2楽章の不安定気味の音がちょっと気になっただけです。音楽的な音質はウィーン・フィルの高域の艶やかさは十分感じられました。

で、新リマスター盤ですが、音質的にはそう大差はありません。低レベルのぼこぼこも一緒です。ただ、高域の伸びやかさとクリア感が少し感じられます。音質的な差はあまりないとは言え、この演奏は素晴らしいの一語です。特にウィーン・フィル特有の高音域での弦の艶やかさは大満足です。また、演奏も今更ながらですが終楽章ですっとテンポをあげた効果は絶大で大変な緊張感にあふれ、緊密なアンサンブルでコーダに突入するのを涙なしにはとても聴けません。それにしてもこのテンポで一切の乱れを見せないウィーン・フィルの実力には舌を巻きました。
曲は違いますが、ウラニアのエロイカを音楽面でも音質面でも超える演奏で感動しました。とてもCDを聴いている感覚ではありませんでした。

ところで試しに運命を聴いてみましたが、これは54年録音で圧倒的に素晴らしい音質でした。この4年の差が大きいのかも知れませんね。でも、音楽的には7番が上だと思いました。

以上、あくまでも独断と偏見ですので、そのおつもりで。
・・・やはり、EMI新リマスターBOXはフルトヴェングラーのファンとベートーヴェンのファンは買い!でしょう。

投稿: sarai | 2011年2月17日 (木) 01時06分

saraiさん、ご感想をありがとうございます。

EMIのReferences盤は年代からすればまあまあなのかもしれません。DECCAでも'50年だと必ずしも良くは無いですから。
他の'52以降録音の3、5、6盤と比べて余りに差が有るので記事にはあのように書いただけです。

新リマスターはそれほどの大差は無いとお感じになられましたか。僅かの差にどれほど価値を見い出すかはファン次第ですからね。

5番と7番の演奏比較は中々に難しいと思います。僕自身はウラニア、EMIエロイカともに非常に高く評価しています。

投稿: ハルくん | 2011年2月17日 (木) 23時56分

ハルくんさん、こんばんは。

ブログにも書きましたが、1943年のメロディヤ盤(2006年?のリマスター)を聴きました。音質はまあまあで高域の伸びは素晴らしく、気持ちよく聴けます。聴衆の咳の多さにのは閉口しますが、ライブなので仕方ありませんね。フルトヴェングラー特有の前へ前への凄い推進力に圧倒されます。第4楽章のテンポの速さは必然に感じますが、恐ろしいほどの気魄ですね。1950年のEMI盤(ウィーン・フィル)を聴き比べましたが、生ぬるく感じてしまうほどでした。
音質は圧倒的な差がありますが、1943年盤を聴くと、もう、元へは戻れないという感じです。素晴らしいCDをご紹介願い、大変感謝しています。

投稿: sarai | 2013年3月11日 (月) 01時55分

saraiさん、こんばんは。

フルトヴェングラーの1943年盤を聴かれたのですね。
演奏本位で言えば、これか1950年盤が素晴らしいと思っています。1950年盤以上に凄いというのも本当のことですが、オケの違いでもあるので、両方とも捨て難いところです。
どちらにしてもこの人にしか出来ない至芸ということですね。

投稿: ハルくん | 2013年3月11日 (月) 19時17分

フルトヴェングラーの43年と50年は別格ですね。53年と54年もそれぞれ良さが有りますが、やはりこの曲であれば最初の二つの迫力が何者にも代え難いです。
トスカニーニもニューヨークフィルとの旧録音はむしろしなやかなイメージですが、やはりNBCとの録音の方が凄まじく、好きです。
ムラヴィンスキーはなんだかテンポの取り方に違和感があります。この曲はリズム感が命ですので、シューリヒトのようなセンスが必要ですね。

投稿: ボナンザ | 2014年7月27日 (日) 15時15分

ボナンザさん

フルトヴェングラーの4種の演奏に関しては、全く同意見のようですね。
トスカニーニ/NBCの演奏は、フルトヴェングラーとはまた別の魅力が有りますね。どちらも素晴らしいです。

ムラヴィンスキーのベートーヴェンはムラヴィンスキーの熱烈なファンの為のものだと思います。かくいう自分も熱烈なひとりだとは思うのですが。。。

投稿: ハルくん | 2014年7月28日 (月) 23時38分

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