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2010年9月25日 (土)

ベートーヴェン 交響曲第5番ハ短調op.67 名盤(モノラル録音編)

220pxbeethoven_3 「第五じゃない!第一です!」なんて電気屋さんのテレビコマーシャルをご存知の方は、それなりのお年の方ですね。なんて話はどうでもいいとして、ベートーヴェンのいよいよ第5交響曲です。通称「運命」ですが、実はこの呼び名が広く使われているのは日本だけ。本国ドイツでも余り使われません。他の国ではほとんど使われていないのが実情です。「運命はこのように扉をたたく」とベートーヴェンが語ったと弟子のシントラーが書き記したからですが、曲とは必ずしも結びついていないようです。我々日本人にとってはさんざん刷り込まれているせいか、すっかりイメージとして定着していますけれども。

Vcm_s_kf_repr_400x168それにしてもこの曲は傑作です。第1楽章アレグロ・コンブリオの冒頭の8つの音が、何度も何度も繰り返されて曲を構成するあたりは正に天才的としか言いようが無いですね。そして、この音楽の持つパワー、パッションといったらどうでしょう。第2楽章アンダンテの気品が有って尚且つ勇壮な広がりも何とも素晴らしいです。第3楽章アレグロはスケルツォ楽章ですが、運命の動機が高らかに歌われて、あたかも苦悩と勇気が対決しているようです。そして切れ目無しに続く第4楽章の雄渾なことは並ぶものが無いと思います。正に「苦悩を突き抜けた歓喜」です。ですので、この曲をスタイリッシュに整然と流すだけのような演奏だけは決してしてほしくないのです。

それでは、例によってフルトヴェングラーを中心にモノラル録音時代の名盤を聴いていきましょう。

Cci00054 ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1943年録音/ターラ盤) 第二次大戦中の放送用録音です。僕はターラのボックスで持っていますが、中低域に量感のある聴きやすい音です。フルトヴェングラーは大戦中はナチスドイツの海外に向けた文化的な象徴でした。どうしても彼を亡命させるわけにはいかなかったのです。ですのでベルリン・フィルに在籍したユダヤ系楽員もナチスの迫害からはかなり例外扱いされました。というよりもフルトヴェングラーが守ったのですが。従ってオーケストラの水準も落ちることなく保たれていました。フルトヴェングラーの手足のように自由自在に動くオケが極限状態の中で、どれだけ白熱した凄い演奏を行っていたかの記録は、ファンならずとも一度は聴いておかなければなりません。

41uvmjpcql__sl500_aa300_ ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1947年録音/audite盤) 第二次大戦が終わってフルトヴェングラーがベルリン・フィルへの復帰した歴史的演奏会です。この時は5月25、26、27日と29日の4日間に同じ曲目で行われました。これは初日25日の録音です。会場のティタニア・パラストは古い映画館なので残響は少ないですが、RIAS放送録音集ではマスターテープからのマスタリングでかなり明快な音で聴くことができます。久々の演奏会なので初めのうちは指揮とオケの間に幾らか様子を見合っている印象を受けますが、逆に記念の演奏会を実感できて興味深いです。

Furt_berlin_5img ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1947年録音/グラモフォン盤) ベルリン・フィルへの復帰演奏会3日目の5月27日の演奏ですが、これは昔からグラモフォンが発売していましたので非常に有名です。会場は長い間ティタニア・パラストとされていましたが、最近ではベルリンに有ったソ連放送局のスタジオに客を入れて演奏されたことが分かっています。さすがに復帰3日目の演奏だけあって、指揮とオケの息がピタリと合っています。かつての手足の関係が完全に戻っています。演奏そのものをとればやはりベストかもしれません。グラモフォン盤は旧盤で持っていますが、米MYTHOSのアナログ盤からの復刻CDがベールを2枚剥いだような次元が異なる良い音ですのでファンには是非のお薦めです。

Betho5_furemi ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーン・フィル(1954年録音/EMI盤) これは亡くなる年の3月のスタジオ録音です。ここには’43年や’47年のあの白熱したパワーと変幻自在のドラマは見られません。イン・テンポでスケール大きく広がりのある演奏です。それを物足りないといった感想もよく聞きます。けれども戦前戦後を通してドイツ音楽を一人で支えてきた神様の最後の境地として耳を傾けるに充分の価値が有ると思います。優秀な録音でウイーン・フィルの美感を味わえるのも嬉しいです。3楽章から4楽章へのブリッジを非常に遅く巨大なスケールで持ちこたえて、そのあとに気が付かないぐらいに僅かづつ加速してゆく様はこの人にしか出来ない神業です。僕は終楽章だけならこの演奏が一番好きかもしれません。

41uvmjpcql__sl500_aa300__2 ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1954年録音/audite盤) これもRIAS放送録音集に収めらえている’54年5月の演奏です。フルトヴェングラーが亡くなる半年前の最後の第5の録音です。音質もスタジオ録音並みに優秀です。テンポ設定ではウイーン・フィルとのEMI録音が一番遅く、それよりも幾らか速めですが、これはやはり実演であったせいでしょう。但し全盛期の白熱とパワーはもはや有りません。フルトヴェングラーが手兵ベルリン・フィルと共にした最後の演奏ということで、やはり大切にしたいと思っています。

31hy76477kl__sl500_aa300_ アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC響(1952年録音/RCA盤) フルトヴェングラーの演奏がロマン的なのに対してトスカニーニはよく即物的だと言われました。確かに表面的なスタイルは正反対ですが、演奏家としての凄さはお互いに認め合っていたそうです。両者に共通していたのは炎と燃え尽きるような情熱と生命力です。フルトヴェングラーには陽の裏側の陰りを強く感じることが多いのに対して、トスカニーニはどこまでも陽側の精神の強靭さを感じます。残響の無い録音が即物的だという評価を助長したのでしょうが、決してそんなことはありません。速くストレートな演奏の中に絶妙なカンタービレとニュアンスが一杯に織り込まれています。

Erich_betho5 エーリッヒ・クライバー指揮アムステルダム・コンセルトへボウ管(1953年録音/DECCA盤) カルロスの実父クライバーには根強いファンがいますし、「フィガロ」などの未だ最高の名盤も有ります。基本的に速めのテンポで優雅さとニュアンスを持ち合わせるのはシューリヒトに似ています。但しこの人には驚かせるようなデフォルメは有りません。終楽章に向かって徐々に高揚してゆく良い演奏なのですが、強いて言えば1楽章で音の緊張感に不足する部分が有るのが欠点です。DECCAの優秀な録音はモノラルでもオケの素晴らしい音を捉えていて嬉しいです。

Schu_bet_758 カール・シューリヒト指揮パリ音楽院管(1957年録音/EMI盤) これもEMIへの全集に収められています。1楽章は速めのテンポですが、シューリヒトにしては案外遅めな気がします。トスカニーニや父クライバーのほうがよほど速いです。けれども強靭な生命力はいつもと変わりなく、決め所の迫力はトスカニーニに負けません。2楽章以降も絶妙なニュアンスの変化を見せながら進みます。4楽章ではトランペットが明るい音色で勝利の歌を高らかに奏するのですが、ビブラートを目いっぱいかけ過ぎるのが少々耳につきます。

Betho5_kuna ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ヘッセン(フランクフルト)放送響(1962年録音/ターラ盤) 「クナッパーツブッシュはベートーヴェンに不向きであるという風評に真っ向反対をする」という評論家の方がおられましたが、僕はやっぱり不向きだと思っています。苦悩、歓喜という人間的なドラマ抜きで部分部分をじっくりと積み重ねてゆくブルックナー・スタイルの演奏はどうも合わないと感じるからです。クナのファンはどんな曲を演奏してもクナであるところが嬉しいのでしょうが、僕の聴き方はやはり先に音楽があっての演奏選択なのです。とはいえこの極めて遅く巨大で圧倒的な「運命」も是非一度は聴かれて欲しいと思います。意外にハマるかもしれませんよ。

以上の「第5」の演奏の中で特に好きなものを挙げれば、やはり人間の苦悩や歓喜を他の誰よりもドラマティックに表現し切っているフルトヴェングラーになります。とりわけ’47年5月27日盤、’54年EMI盤、’54年RIAS盤の3つです。他にはトスカニーニだけはどうしても外せません。

次回はステレオ録音編です。色々と改めて聴き直してみることにします。

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ベートーヴェン(交響曲第4番~6番)」カテゴリの記事

コメント

こんばんは

第5番のモノラル盤はフルトヴェングラーの
2枚(グラモフォンとEMI)とトスカニーニ、
E.クライバー、カラヤン/フィルハーモニア
の5種が好きで、どうしても絞りきれず、同じ
曲はレコード3枚までのルールから外れて
いる数少ない曲でもあります。

投稿: メタボパパ | 2010年9月25日 (土) 18時19分

メタボパパさん、こんばんは。

フルトヴェングラーのグラモフォン盤にEMI盤、トスカニーニ、E.クライバー、みな良いですよね。名曲の名演が幾つも存在する場合は無理やり絞られないで宜しいんじゃないですか?もったいないですよ。

投稿: ハルくん | 2010年9月25日 (土) 19時45分

こんばんは

フルヴェンの’43年盤は私も持ってます。何もいうことありません。素晴らしいです。フルヴェン以外で好きな演奏は昨年購入したカラヤンのモスクワライヴです。それからクリュイタンス/ベルリンフィルも好きです。

投稿: kurt2 | 2010年9月26日 (日) 18時11分

kurt2さん、コメント沢山ありがとうございます。

フルトヴェングラーの演奏はそれぞれが特徴を持ちますし、録音状態のばらつきは有りますが演奏はみな素晴らしいですね。

カラヤンはどうも聴かず嫌いなんです。昔スタジオ盤を聴いて余り気に入らなかったからです。ライブは良いかもしれませんね。クリュイタンスは全集を買おうかなと思いつつまだ手に入れていません。

投稿: ハルくん | 2010年9月26日 (日) 18時56分

こんばんは。
フルトヴェングラーの5番は他の追随を許さないところがありますね。優れた演奏の中でも取り分けフルトヴェングラーの棒と一致したものの一つだと思います。
クリュイタンスの全集は私も好きです。形式と感情のバランスが絶妙です。演奏に何を求めるにしても8割がた満足せられる。これはなかなか出来ることではありませんね。録り方も美しい。さらに、他の指揮者にはない品があります。ベルリンの音も未だカラヤン色に染まっていません。ただ、意外に8番がイマイチなのと、第九の一楽章は余りに遅すぎます。
前者は、フルトヴェングラーのスタジオ録音と称して音質を劣化させ、嘗てLP発売された事件がありましたね。

投稿: シャルリン | 2010年9月26日 (日) 21時16分

シャルリンさん、こんばんは。
いつもコメントをありがとうございます。

ベートーヴェンの交響曲の中でも3、5、7、9番はフルトヴェングラーに最も合っていると思います。匹敵する人は中々居ないですよね。

そうでしたね、僕もクリュイタンスの8番はフルトヴェングラーとして聴いていた時期が有りました。その後に正規盤?としてLPで聴きましたが結構好きでした。全集盤改めて聴いてみたい気がします。ベートーヴェンは録音の数が多いのでなかなか聴き切れないのですが。

投稿: ハルくん | 2010年9月26日 (日) 21時34分

フルトヴェングラーの運命の最大の特徴は第三楽章から第四楽章への移行の瞬間だと思っています。もちろん全体通して素晴らしいのですが。やはり私は43年盤と47年5月27日盤がベストだと思います。26年盤などは宮沢賢治が愛聴していたりと資料としては貴重ですが、やはり録音の制約はいかんともしがたいですね。
トスカニーニは39年チクルスをよく聞きますが、単純に盛り上がっていく熱狂度合いは他を圧倒していると思います。
クナのヘッセン盤はまさか最後までこのテンポとは・・・と驚かされました。同じクナでもBPO盤はがっしりしているのが興味深いです。
他にもモノラルだとベームBPOなど名演が目白押しで棚があふれそうです(笑)

投稿: ボナンザ | 2014年6月27日 (金) 20時34分

ボナンザさん

フルトヴェングラーの1954年EMI盤はファンの間でも評価が分かれるようです。延びたうどん?と評価する人も居ますが・・・
僕は3楽章から4楽章に移る箇所以降はやはりEMI盤が一番好きです。あのスケールの大きさは半端ではありません。それでいて自然さを損なわないのが凄いです。

ステレオ盤ではやはりフリッチャイ/BPOが一番ですが。

投稿: ハルくん | 2014年6月27日 (金) 22時49分

ハルくんさん、こんばんは。
先日の オーディオの話題、大変 興味深く拝読させていただきました。
あの 名機 「ヤマハ NS1000M」で聴かれていらしたのですね。私もヘッドフォン派に転向する前は 「いつかは……」と憧れていたスピーカーです。
なんだかんだ言っても オーディオは 「音の出口」で決まりますからね。
 
私は「運命」と言えば フルトヴェングラーの'47年 5月27日のグラモフォン盤が一番好きなのですが、現行のリマスターの"OIBPリマスター盤"と 1980年代の初期盤と聴き比べて 驚きました。初期盤の方が、解像度は劣るものの、音の厚み、雰囲気 は明らかに上で、これこそ"フルトヴェングラーの音!"と 感じました。
現在は "盤起こし復刻版"などの 優秀なCDがあり、グラモフォンのリマスター盤は価値が薄れてしまいましたね。
やはり 発売元には,リマスターの方針は 真剣に決めていただきたいと思いました。

投稿: ヨシツグカ | 2014年7月16日 (水) 23時09分

ヨシツグカさん、こんにちは。

NS1000Mは、サイズ的にも価格的にも庶民に手の届く範囲の名機という点で貴重だったと思います。

”最新リマスター盤”というのは案外とくせ者ですね。高音と低音を強調したドンシャリ型が多く、中域の厚みが有りません。これも商業主義ということでしょうか。

1947年5月27日盤がお好きなのであれば、米MYTHOSの復刻CDは良いと思います。お聴きになりましたか?試される価値は絶対に有ると思います。

投稿: ハルくん | 2014年7月17日 (木) 11時11分

ハルくんさん、こんばんは。
米MYTHOSの復刻CDについては,かなり前に注文した所 「廃盤ではありませんが 再プレス待ちの状態です。」 との事で 残念ながら まだ聴けてません…。
現在は GRAND SLAMの復刻CDを聴いています。(GS-2013) この復刻は なかなか素晴らしく、かなり気に入っています。GRAND SLAMの復刻は 他の デッカやEMIなどは好き嫌いが分かれると思いますが、グラモフォンの復刻はすごく良いです。(ムラヴィンスキーのチャイコフスキーとか……。)

投稿: ヨシツグカ | 2014年7月17日 (木) 20時31分

ヨシツグカさん、こんばんは。

米MYTHOS盤は入手難しい状況なのですね。失礼いたしました。
でもGRAND SLAMから出ていれば良さそうですね。私もバイロイトの第9とか愛聴している復刻CDが有りますよ。

投稿: ハルくん | 2014年7月17日 (木) 23時28分

こんばんは。

フルトヴェングラーの「第5」はLP時代には
47年5月27日盤を愛聴しておりました。
現在は5月25日盤を聴いておりますが
これほど徹頭徹尾、指揮者の意思が
刻み込まれた演奏もないかと・・・感じます。
LP時代から30年余り、自分なりの音楽体験を経て
「これが絶対」だとは思えなくなったものの
これほど個性的な演奏はありえません。
そうした意味で、繰り返し聴く価値があると思います。

投稿: 影の王子 | 2015年10月18日 (日) 20時47分

影の王子さん、こんにちは。

フルトヴェングラーのベートーヴェン、とりわけ「第3」「第5」「第7」「第9」はまさに神の領域で、誰にも真似ができませんね。

「第5」についてもどの演奏も比類がなく、「これが絶対」のような言い方はしたくないものの、いざ聴き終えるといずれの録音でも「最高」に思えてしまいます。
一応好みでは記事にも書いた通り、’47年5月27日盤、’54年EMI盤、’54年RIAS盤の3つが好きですね。

投稿: ハルくん | 2015年10月19日 (月) 12時51分

こんばんは。

フルトヴェングラーの’54年RIAS盤を聴きました。
素晴らしい音質です(やや高音がキツめですが)。
個人的には、やはり2種の47年盤が最高だと思いますが
この54年RIAS盤は風格と「苦み」があります。
これもじっくりと聴きつづけたいと思う名演ですね。
「英雄」もそうですが、決してワンパターンやルーティンワークに
陥ることが無いのが、偉大であり尊敬できます。

投稿: 影の王子 | 2016年7月 3日 (日) 00時08分

影の王子さん、こんばんは。

フルトヴェングラーの凄いのは、どの演奏にも特徴が有って良さが有ることです。なのでファンは残された演奏のどれをも聴いてみたくなるのでしょうね。
あとは録音を含めて聴き手の好みの問題といえそうです。
実際に私の好きなのは、あと’54年EMI盤なのですから。

投稿: ハルくん | 2016年7月 4日 (月) 21時07分

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