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2010年8月11日 (水)

シベリウス ヴァイオリン小品集 ~アイノラにて~

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夏の暑いときには北欧の音楽もまたボヘミア音楽と並んで清涼感が最高です。冷房の効いた部屋でうっかり聴いていると風邪でもひきそうなくらいの涼しさを感じます。北欧はフィンランドの生んだ偉大な音楽家シベリウスというと、交響曲や管弦楽曲を直ぐに思い浮かべますが、実は室内楽曲も随分と書いています。そんな中で、夜に一人静かに楽しむのにお気に入りのCDがあります。ヴァイオリンとピアノのための小品集です。このCDは実は特別な録音です。その理由は、これがシベリウスが1904年に移り住んだイェルヴェンバーの自宅アイノラで録音されたものだからです。

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ベリウスは都会での生活の煩わしさが嫌になって、田舎イェルヴェンバーの湖のほとりに引っ越しました。その家は愛妻アイノの名前をとって「アイノラ(アイノの家)」と名づけられました。ここでシベリウスは中期以降のあの深遠な交響曲の創作を行うわけですが、その合間には、とても親しみ易い小品集を幾つも作曲しました。そんな曲たちを、フィンランドの若手奏者が、シベリウスが実際に使っていたピアノを使用して演奏・録音しました。ヴァイオリンを弾くのはペッカ・クーシストです。この人は19歳の時にフィンランドのシベリウス・ヴァイオリンコンクールで優勝して、自国では一躍有名になりました。その直後に録音したシベリウスのヴァイオリン協奏曲は、セーゲルスタム/ヘルシンキ・フィルの素晴らしい伴奏とも相まって、僕の大好きな演奏です。<旧記事>シベリウス ヴァイオリン協奏曲 名盤

けれどもクーシストはその後、ヴァイオリンの通常名曲にはほとんど目もくれず、シベリウスの室内楽作品ばかりを録音したり、北欧の民謡をフォーク/ジャズ風に演奏したりと非常にユニークな活動をしています。

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これは、そんなクーシストがシベリウスの小品を集めた愛すべきCDです(フィンランドONDINEレーベル盤)。シベリウス使用のピアノを弾いて息の合った伴奏を聞かせているのは、ヘイニ・カルッカイネンというやはりフィンランドの若手女性ピアニストですが、二人はまるでホームコンサートのようにリラックスした演奏ぶりです。録音もアイノラの室内の柔らかい響きを捉えているので、一緒に部屋の中で聴いているような臨場感が味わえます。

それでは曲目を下記に紹介します。

・5つの小品 op.81 

・4つの小品 op.78

・5つの田園舞曲 op.106

・4つの小品 op.115

・3つの小品 op.116

作品番号から判るように、これらは中期から最晩年に書かれたものです。前半の三作品は、まるでクライスラーの小品のように洒落ていて楽しい曲想です。但し、晩年の作品115と116では深い心象風景を感じずにいられません。どことなく印象派ドヴュッシーの作品のような雰囲気を漂わせています。このCDを静かに聴きながら、アイノラで家族でくつろぐシベリウスの姿を思い浮かべていると、とても幸せな気持ちになってしまいます。

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シベリウス(室内楽)」カテゴリの記事

コメント

すごいですね、このCD。
シベリウスファンなら、泣いて飛びつきますね
(笑)

私は、まだシベリウスはちょっとかじりかけですが、
誰であれ、ウンチク好きなので、こういう話
には弱いです。

クーシストという人、立派だと思います。
自分がほれ込んだ対象に集中するのが、
やはりいいと思いまする

投稿: 四季歩 | 2010年8月11日 (水) 20時50分

四季歩さん、こんばんは。

ええ、このCDの解説を目にしただけで飛びつきました。(笑)
やはり芸の世界というのは、何でもオールマイティに極めるようなわけには中々行かないんじゃないかと思いますね。結局は一芸に秀でる人にはかなわないんじゃないでしょうか。

投稿: ハルくん | 2010年8月11日 (水) 21時07分

こんばんはwink

今回はシベリウスですね。

フィンランディアと
交響曲第二番は大好きで
よく聴いているのですが、
ハルくんさんの書かれている
小品は知りませんでした。
勉強になりますshine

ハルくんさんのうんちく、
曲を深く味わうことができるように
書かれているので、とっても興味深いです。

投稿: こまっち | 2010年8月11日 (水) 21時30分

こまっちさん、こんばんは。

「勉強になる」なんて言われるとお恥ずかしいですよ。(汗汗)

フィンランディアも2番も本当にいい曲ですからね。他にもまだまだ良い曲は沢山ありますよ。100年、200年と時を超えて来たクラシックには良い曲が沢山有りすぎて困りますね。気長に順に聴いていきましょう!

投稿: ハルくん | 2010年8月11日 (水) 22時18分

はじめまして。シャルリンと申します。
「トリスタン」を調べていて此方に寄らせて頂きましたが、ハルさんの記事が面白くて、知らない内にマーラー、ブルックナー、チャイコフスキー...と次から次へと読ませて頂きました。
私も小学校以来、クラシック音楽を愛好して来ましたが、知らないことも多く大変ためになります。
ハルさんの記事を読んでいると早速、そのCDを聴いてみたくなりますね。
このシベリウスなど、本当に今聴きたくなってしまいました。仏蘭西もの贔屓の私には「ドビュッシーのような」という言葉は殺し文句ですが、それを別としても、こうした選曲、演奏、そして全体に雰囲気がある手作りのようなアルバムが今は少ないですからね。数枚の写真とハルさんのお話だけでも、フィンランドの涼しい空気が伝わって来て「アイノラ」に招かれたような気分になれました。今夜のような暑苦しい夜には特に有り難い限りです。
まァ、ワーグナーなんか聴いている私が悪いんですが。

投稿: シャルリン | 2010年8月16日 (月) 22時10分

シャルリンさん、はじめまして。
ご丁寧なコメントを下さりありがとうございます。

フランスものがお好きなのですね。フランスものにはこれまで触れていませんので、いずれ書きたいと思っています。ただ、どうしてもドイツもの、国民楽派ものが大好きなので後回しになってしまうのです。

ワーグナーでも真夏の夜にぴったりの「ジークフリート牧歌」なんて爽やかな曲も有りますね。もちろん「トリスタン」は名曲中の名曲ですが、やっぱり・・・暑いですかねぇ。(笑)

これからもよろしくお願いします!

投稿: ハルくん | 2010年8月16日 (月) 22時59分

あ、このCD買わなくちゃ!週末は札幌に帰ってシベリウス弾いてきました。正確には、ドナウとフィンランディアは合唱にまわり、2番はClの1stを吹き、アンコールはラデツキーでした。幸せな祝祭的時間でした。

札幌郊外に、イサム・ノグチの設計によるモエレ沼公園という所があり、初めて連れて行ってもらいましたが、周辺はアイノラ付近の景色によく似ていました。3楽章中間部の情景はまさにこれです。
http://www.sapporo-park.or.jp/moere/index.php

そういう街で歌うフィンランディア
堀内敬三訳詞

雲わく しじまの森と
しずかに輝く水
野の花 やさしく香る
スオミよ 平和の里
幾たび 嵐に耐えて
過ぎ越し 栄えある都市
新たな 文化は香る
スオミよ さやけき国

虹と雪のバラードの先取りのような歌詞です。

投稿: かげっち | 2010年8月18日 (水) 12時27分

かげっちさん、こんばんは。

札幌のコンサート良かったですね。
シベ2でクラを吹かれて、ドナウとフィンランディアでは合唱だなんて、なかなか味わえるものではないでしょう。

札幌はしばらく訪れていないので、モエレ沼公園というのは知りませんでした。素敵な所のようですね。機会あれば是非行ってみたいものです。
堀内敬三さんの訳詞も実に素敵ですね。

投稿: ハルくん | 2010年8月18日 (水) 23時43分

もっと直訳調の歌詞もあるようですが、堀内敬三の意訳のほうがすぐれていると感じます。モエレ沼、次回はゆっくり歩きたいです。

投稿: かげっち | 2010年8月19日 (木) 12時37分

初めまして、シベリストの一人、杉ちゃんです。
私も、このCDを持っておりますが、前出のヴァイオリン協奏曲ほど聴く機会がありません
何故なら、クーシストさんの思い入れが強いというか、こだわり過ぎて、とっつき難いのです。例えば、アイノラのピアノを使うにしろ「だからどうなの?」と思いたい。そして何より、アイノラでの録音・・・録音そのものは水準を保ってますが、JAZZじゃないのでここまで、出張録音するのは録音環境が悪過ぎます。(これは、館野泉さんの「アイノラのシベリウスCANYON PCCL-00243でも言える事で、興味は有りますが、約100年前の
ピアノを使う意義が)
あっ、でも、その他のクーシストさんの録音
盤は素晴らしいです(若い時代のシベリウス
のヴァイオリン&ピアノ作品集:BIS CD-1023、1022) 

投稿: 杉ちゃん | 2010年8月21日 (土) 15時27分

杉ちゃんさん、はじめまして。
シベリストさんからのコメントを大変嬉しく思います。ありがとうございます!

おっしゃる通りですね。
でも、このCDのコンセプトは「アットホーム」だと思うのです。ホームコンサートを意識しているので、コンサートホールでの響きでは無くても構わないんのじゃないかな?
彼らにとっては、アイノラで録音することこそ意味があったと思います。世界中の他のどこでもなくてです。
そのピアノの音ですが、金属的な固い音が苦手な自分にとっては、むしろ好ましく感じられます。この辺りは好みということで・・・。

クーシストは多くの方に聴いて貰いたいですよね。特にヴァイオリン協奏曲はシベリウスファンには絶対ですね!

投稿: ハルくん | 2010年8月22日 (日) 07時22分

う~む、シベリストという言い方があるのですねupwardright当事者でありながら知りませんでした。

実際にアイノラに行くと、こういう小品が生まれてくる精神性がよくわかりました。それにシベリウスの気質からして、大作に取り組んで煮詰まってしまった時には、少し元気が残っているならばこういう小品を書くことで自分を癒せる場合もあったのではないか、と思います。

前にも書きましたが、あるViolinistはアイノラに来たとき「これからの私のシベリウス演奏は今までとまったく違ったものになるだろう」と語ったそうです(アイノラ学芸員の話)。演奏される場所や時や居合わせた人たちの一回性にこだわるのも一つのアイディアでしょう(まさにジャズのように)、一種のライブ録音のように考えればいいのでは、などと思っています。

投稿: かげっち | 2010年8月26日 (木) 12時27分

かげっちさん、こんばんは。

実はシベリストという呼び方は自分も知らなかったのですが、確かに存在しているのですね。

アイノラのご意見ですが、さすがに実際に訪れたご経験がお有りのかげっちさんですね。訪れたことのない自分とは違ってとても説得力があります。
いや~やっぱり一度は行きたいなぁ!

投稿: ハルくん | 2010年8月26日 (木) 23時12分

運命の力(嘘)でここにたどり着きました。
フィンランディアは高校の学オケでHrの3rdで乗らせてもらった曲です。
合唱がついたVer.ではありませんでしたが、先述の方にもありますが、堀内敬三氏の邦訳って、やはりいいですね。
国歌ではないにもかかわらず、この旋律が出てくると国民は誰しも何の指示もなく起立する(国歌扱い)、こういう音楽がある国、正直うらやましいです。

投稿: ochada | 2010年11月30日 (火) 03時26分

ochadaさん、はじめまして。コメントを頂きましてどうもありがとうございます。

フィンランディアは曲の作られた背景から、国民にとっては国家と同じ意味合いを持つのでしょうね。歌詞も素晴らしいですが、音楽のみでも素晴らしいのでこれほど世界中で愛されているのでしょう。

ホルンは現在でも吹かれていらっしゃるのですか?僕も昔は学オケに在籍しましたが(但し弦楽器)とうの昔に引退しました。

またお気軽にコメントください。よろしくお願いします。

投稿: ハルくん | 2010年11月30日 (火) 07時26分

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