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2010年7月31日 (土)

ドヴォルザーク 交響詩全集 ボフミル・グレゴル/チェコ・フィル

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ドヴォルザークはアメリカに渡っている間に最後の交響曲である「新世界より」を作曲しましたが、その後再び母国のチェコに戻りました。帰国した翌年の1896から1897年にかけて作曲されたのが5曲の交響詩です。そのうちの4曲はチェコの詩人で民話の研究家でもあるカレル・エルベンの民族的バラード集から題材がとられています。いまでもチェコの子供たちに親しまれている昔ばなしを美しい音楽に表現したのが、このドヴォルザークの交響詩なのです。

「水の精」op.107  湖の近くに住む若い娘が誤って湖に落ちてしまう。彼女を助けた水の精は彼女を妻にする。やがて二人に子供が生まれる。彼女が里帰りをしたがるために、水の精は夕べの鐘が鳴るまでに帰るという条件で許す。ところがやっと戻ってきた娘を彼女の母親が再び湖に返そうとしない。怒った水の精は子供を連れて嵐の中を家にやってくる。ドアの音がドンドンと叩かれて異様な音がするので娘がドアを開けてみると、子供がドアに叩きつけられて息絶えていた、という話です。娘を助けたのは良いとしても、拉致して子供を生ませてこの始末では水の精というのは本当にひどい奴ですね。

「真昼の魔女」op.108  家事に追われる母親が、泣きわめく子を叱りつけて「真昼の魔女を呼ぶよ」とおどす。子供が泣き止まないでいると、本当に魔女が現れて「子供をもらってゆく」と言う。母親は魔女に憐れみを乞うが聞き入れられない。そのとき教会の鐘が鳴ると魔女は消える。安心した母親は子供を抱いたまま気を失う。夕方、夫が帰宅して彼女は意識を取り戻すが、子供はすでに死んでしまっていた、という話です。子供を感情的に叱りつけてはいけないということなのでしょうね。

「金の紡ぎ糸」op.109  狩りに出た若い王が、森のつむぎ小屋で水をもらった娘に一目ぼれして求婚する。娘は継母に付き添われて城に向かうが、継母は途中で彼女を殺して両足を切断し、遺体を森に捨ててしまう。そして自分の連れ子を娘に仕立てて城に連れて行き、気が付かない王と結婚させる。森の魔法使いの老人は、継母に金の紡ぎ車を送り、代わりに切断された娘の両足を受け取る。魔法使いは娘の体を元に戻して彼女を生き返らせる。王妃が王の前で金の紡ぎ車で糸をつむごうとすると、紡ぎ車は継母の悪事を歌いだす。驚いた王様は急いで森に行き、娘と再会して改めて妃に迎え入れる、という話です。この王様って、とんでもなくそそっかしがりやでお馬鹿さんだと思いませんか。

「野ばと」op.110  若く美しい未亡人は、実は夫を毒殺していた。やがてハンサムな若者が彼女に求愛したので、彼女は再婚する。一羽の鳩が亡き夫の墓の近くの樫の木に巣をつくり、悲しそうに鳴き続ける。彼女はその声を聞いているうちに自責の念にかられて自殺をしてしまう。すると死によって罪をあがなった女を憐れむように鳩が優しい歌を歌いだした、という話です。夫を殺したくなるときもあるでしょうが、本当に殺してしまってはいけないということですね。

「英雄の歌」op.111  最後の曲だけはエルベンのバラードからではなく、ドヴォルザーク自身の詩的な楽曲です。苦難を乗り越えての光明というテーマらしいですが、具体的な記述は残されていません。芸術家ドヴォルザーク自身のことだという見方も有りますので、リヒャルト・シュトラウスの「英雄の生涯」みたいなものなのでしょうか。

5曲はどれもが幻想的でボヘミアの情緒いっぱいであり、円熟した管弦楽で書かれています。ヤナーチェクもエルベン題材の4曲を「最上にチェコ的な名曲」と激賞しています。

ところが、この交響詩が全曲まとまったCDというのは、非常に少ないのです。クーベリックがグラモフォンに管弦楽曲集を残していますが、オケはバイエルン放送響です。演奏自体はとても素晴らしいのですが、やはりチェコのオケの音で聴きたいところです。ところが残念なことにアンチェルもノイマンも全曲は残していません。それでも幸いなことに、素晴らしい全曲録音があります。名指揮者ボフミル・グレゴルがチェコ・フィルを指揮した演奏です(1987年録音/スプラフォン盤)。この人はオペラを得意にしていて、プラハ歌劇場で長く指揮をしていました。昔、LP盤で愛聴したヤナーチェクの歌劇「利口な女狐の物語」の名演奏が特に忘れられません。オペラを得意とするだけに、交響詩のような作品の語り口は非常にうまいものです。まるで、おじいさんが子供達に昔ばなしを聞かせているような風情があります。このCDは2枚組で値段も手ごろですので、是非聴かれてみてください。  

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コメント

どれも佳作ですね、もっと演奏されてもいいのに。「我が祖国」の「モルダウ」以外の曲と比べても、演奏機会が少ないように思います。そういえば乳児の突然死の一種で、オンディーヌ症候群というのがあるそうです。

投稿: かげっち | 2010年8月 2日 (月) 12時54分

かげっちさん、

「わが祖国」はよく全曲で演奏されますけど、ドヴォルザークの交響詩全曲演奏会は無いでしょうね。どれも良い曲なんですけどねぇ。

医学が未発達の昔は子供の突然死は、やはり悪魔や魔女の仕業だと思われていたのでしょう。

投稿: ハルくん | 2010年8月 3日 (火) 00時14分

「我が祖国」みたいに、連作全体に標題をつけてしまえば、誰か奇特な方が連続演奏にチャレンジしてくださったでしょうに。

投稿: かげっち | 2010年8月11日 (水) 12時36分

かげっちさん、こんにちは。

ほんとうですね。
連作交響詩「ボヘミアの伝説」とかですよね。
きっとコンサートで取り上げられそうな気がしますものねぇ。

投稿: ハルくん | 2010年8月11日 (水) 15時43分

今晩は、ハルさま。台風の後、暑さ再びですね。
この記事を読んで、ハル様の優れた文章力に惹かれ交響詩集探しました。
廉価で交響詩の他、序曲を集めた3枚組(ヤナーチェクフィル演奏→存在を知りませんでした)を見つけたので購入したら、あらら、解説書が全部英語…リーズナブルな理由が判明…到底私では、内容を理解するに至らず↓
ハル様の解説を読みながら聞いておりました。

曲はどれもホントにハル様、かげっち様のおっしゃる通り佳作ですね。
お話について、ハル様の解説はブラックユーモア仕立てで上手くまとめて下さっていますが、よく考えると恐ろしいものばかり。まるで“本当は怖いグリム童話”みたく、暑い夜にピッタリですなぁ(寒っ)
まっ、ハル様の周りにいる美女もある意味魔女かもしれませんけどねっ
(笑)

投稿: From Seiko | 2010年8月16日 (月) 01時03分

Seikoさん、こんばんは。

ヤナーチェク・フィルのセットには、序曲集やチェコ組曲も入っていますよね。どれも名曲揃いですからゆっくり聴かれてくださいね。演奏は聴いていませんが、チェコのオケですからきっと良いでしょうね。
昔話って実はどこの国のも怖いのですよね。日本のカチカチ山とか桃太郎も確か本当は残酷な話じゃなかったかなぁ。

そうかあ、僕は女性に弱いのですぐにコロリと行かされると思っていたら、実はみなさん魔女だったのですかね。謎が解けました。(笑)

投稿: ハルくん | 2010年8月16日 (月) 22時31分

その魔女を手玉に取るハル様は…反対語に魔男(マダン)→という言い方がありませんよね。おとこと読んだら別の意味でマズイし…魔王ですね!その話題の豊富さや視点で人を魅了する点においても(吐息)

投稿: From Seiko | 2010年8月16日 (月) 23時34分

Seikoさん、めっそうもありません。
魔女を手玉に、なんて冗談を言っていると「真昼の魔女」ならぬ「夜中の魔女」がホントに現れて連れていかれるかもしれませんね。(怖っ!)

話題が豊富と言うよりは、単に好きなことを気ままに語っているだけですよ。いつもお付き合い下さって、とても感謝しています。
これからもよろしくお願いしますね!

投稿: ハルくん | 2010年8月16日 (月) 23時57分

こんにちは。
コシュラー/スロヴァキア/opusの全集ビクター最初期盤(分売)を、別々の店舗から合わせ技wで入手。

特に「真昼の魔女」。ドヴォルザークさに、珍しく妖しさが混ざっており、トリスタン/前奏曲みたく多くの演奏家が取り上げて欲しい。あとは「野ばと」、カップリング「交響的変奏曲」も気に入りました。

スメタナみたく連作交響詩を書いていたら、スゴい曲になったのでは。

投稿: source man | 2013年12月20日 (金) 08時38分

source manさん、こんにちは。

ドヴォルザークには本当に、「我が祖国」みたいな連作交響詩を書いて欲しかったですね。その分、構成力の強い「交響曲」のジャンルで作品を多く書いたのでしょうけれども。

コシュラー/スロヴァキアPOの録音がことごとく廃盤なのはとても残念です。ドヴォルザークのシンフォニー、スメタナ「我が祖国」どれも素晴らしい名演でした。ドヴォルザークの交響詩集は未聴ですが、やはり良い演奏でしょうね。再リリースならないものでしょうかね。

投稿: ハルくん | 2013年12月20日 (金) 11時42分

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