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2010年1月

2010年1月31日 (日)

ブルックナー 交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」 続・名盤

ブルックナー&マーラーの交響曲特集も第4番までやって来ました。ブルックナーの4番だけはこの特集の前に一度、ブルックナー交響曲第4番「ロマンティック」 名盤というタイトルで記事にしたことがありました。そこで、今回のディスクのご紹介は続編とします。

Brucner8第4番はブルックナーのマニアには一段低く見られがちの作品で、第3番のほうを上にする評論家諸氏も居ます。僕個人としては、多くの曲想が混ざってやや散漫な印象を受ける3番よりもシンプルな曲想で勝負している4番を好んでいます。例えて言えば3番は「幕の内弁当」で4番は「とんかつ弁当」のようなものです。ブルックナーは5番以降で飛躍的に音楽の深みを増しますので、4番をそれらの作品と比べればどうしても浅い印象は受けます。ですがその分、これからブルックナーを聴き始めようという方には逆に親しみ易いかもしれません。副題の「ロマンティック」も作曲者本人が付けたかどうかは定かで有りませんが、知らない人が聴いてみたくなる効用は有るでしょう。

第1楽章はオーストリアはアルプスの大自然です。冒頭のホルンは山々にこだまするアルペンホルンの響き以外の何物でも有りません。巨峰の威容、山間の自然の美しさが次々と目の前に現われます。第2楽章は弦のピチカートとともに自然の中をゆっくりと逍遥する人間です。この楽章は初めは退屈に思えるかもしれませんが、心静かに美しさを味わって欲しいと思います。第3楽章はブルックナーが曲に馴染みやすくする為に「城から騎士達が白馬に乗って現われる・・・」などと説明を付けています。雰囲気としては確かにそんなイメージも湧きますが、余りとらわれることなく純音楽的に聴いても充分楽しめると思います。中間部トリオの木管と弦の美しさ可憐さは、さしずめ花畑を目にするようで得も言われません。終楽章は後期の作品に匹敵する深みに達しています。特に終結部はブルックナーの本質である「宇宙的な広がり」「悠久の自然」を感じさせて非常に感動的です。

この曲のCDでは何といってもカール・ベーム/ウイーンフィルとギュンター・ヴァント/ミュンヘンフィルが絶対のお薦めですが、前回には触れなかったCDをご紹介します。

Burufuru ウイルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーンフィル(1951年録音/DECCA盤) ミュンヘンでのライブ演奏です。ベートーヴェンの演奏は正に神業で未だに絶大な人気を集めていますが、ことブルックナーとなると現在フルトヴェングラーの演奏が話題になることは無いと思います。急激なアッチェレランド、粘る歌いまわし、人間感情の爆発というブルックナー演奏の禁じ手が頻繁に現われるからです。それは録音状態を云々する以前の問題であって、この演奏を聴いてブルックナーを聴いた気には到底なれません。その点でクナッパーツブッシュとは天地の開きです。しかしフルトヴェングラーのファンでもしも聴かれていない方には試しにご自分で聴かれることも一興ではないでしょうか。

Cci00030 ハンス・シュミット‐イッセルシュテット指揮北ドイツ放送響(1966年録音/TAHRA盤) この人はDECCA録音のベートーヴェンあたりだけを聴いていると穏健でいかにも特徴の無い指揮者と思われてしまいそうですが、北ドイツやバイエルンの放送響を指揮したライブではドイツ魂を感じさせる勇壮な演奏が多く存在します。この録音も実にオーソドックスで素晴らしいブルックナーです。ゆったり気味のテンポですが緊張感を保ち、何よりふくらみの有る美しい響きを引き出していて見事です。といっても最近のベルリンフィルやアメリカのオケのような無機的な美しさとは無縁です。第2楽章や終楽章終結部には非常に奥深い情緒的な味わいが有ります。思わず聞き惚れてしまう好きな演奏です。   

Cci00029 オイゲン・ヨッフム指揮アムステルダム・コンセルトへボウ管(1975年録音/TAHRA盤) コンセルトへボウとのライブのブルックナー選集に含まれています。ドレスデンとの全集と同じ年の演奏です。基本的なテンポ設定や解釈にほとんど変わりは無く、オケの持つ音色と録音の違いだけです。コンセルトへボウとヨッフムは長年共演していたのでブルックナーの音楽が自然に染み付いていまし、どちらのオケも最優秀なので甲乙は付けられません。そうなると決め手は録音ですが、透明感の有る録音のこちらのほうを個人的には好んでいます。

Brch4 オイゲン・ヨッフム指揮ドレスデン国立歌劇場管(1975年録音/EMI盤) ヨッフム/ドレスデンのEMIへの全集録音のひとつです。1楽章は早めのテンポでオケを豪快に鳴らしています。さすがにドレスデンの音は柔らかく、金管も金属的な音になったりはしないのでうるさいとは感じませんが、この豪放な鳴りっぷりは相当なものです。2楽章、3楽章では美しくブルックナーの音楽を味わせてくれます。終楽章もやはり早めのテンポで豪放ですが、至る所でちょっとした変化やアクセントが生きていて聴き応えを増しているのはさすがです。 

Bru950 ヘルベルト・ブロムシュテット指揮ドレスデン国立歌劇場管(1980年録音/DENON盤) ブロムシュテットというのはつくづく指揮者の匂いを感じさせない人だと思います。いくらブルックナーでも少しは指揮者の匂いを感じさせても良いのではとも思います。余りにも真面目すぎる音楽が少々面白みに欠ける気がします。とは言え、ドレスデンの音は柔らかく素朴なのでブルックナーにとても向いています。ウイーンフィルの透明な響きとは違いますが、金属的にならずにふっくらと溶け合った響きが何とも心地良いのです。

Brch950 ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1981年録音/CBS SONY盤) 冒頭のホルン~第1主題とゆったりと開始されますが、リズミカルな第2主題は速めになります。主題の性格を忠実に描き分けている感じです。トゥッティでの力強さはさすがバイエルン放送なのですが、トランペットのバランスがほんの僅かに強過ぎる気がします。その結果、耳への心地良さがいまひとつなのです。弦楽は綺麗ですが、特別な閃きまでは感じさせません。この辺りがクーベリックのブルックナーの一つの限界かなという気もします。但し終楽章終結部は深い寂寥感の味わいが良く出ています。

51yayd5unl__ss500_ セルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィル(1988年録音/EMI盤) とにかく両端楽章の遅さは尋常では有りません。音楽は演奏時にはもちろん、鑑賞時にも一緒に呼吸をすることが基本と思っていますが、この演奏では息が出来ずに酸欠状態に陥ってしまうのです。良く聴くとミュンヘンPOの金管ですら息切れしています。(苦笑) ということで僕はずっとチェリさんの演奏は嫌いだったのですが、このごろは一緒に呼吸をしなければ良いことに気がつき、案外と聴けるようになりました。そうすると所々での非常に美しい部分に惹かれるのも確かです。演奏全体で好きか嫌いか問われると答えに困りますが、これは確かにユニークな演奏です。 

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ブルックナー 交響曲第4番「ロマンティック」 続々・名盤

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2010年1月22日 (金)

マーラー 交響曲第4番ト長調「大いなる喜びへの讃歌」 名盤

ブルックナー&マーラーの交響曲特集もいよいよ中盤にさしかかりました。山登りに例えればさしずめ中腹。巨峰が次々と仰ぎ見られるようになります。

Tenjyo02 マーラーの音楽は激しさや沈鬱さと優しさ、美しさが混然としているのが特徴ですが、この第4番は全体が明るさと幸福感に溢れています。またマーラーとしては短くとても親しみ易い作品なので、昔は第1番の次に多く演奏されました。副題に「大いなる喜びへの讃歌」と付けられることが多いですが、実はこれはマーラー自身が付けたわけではなく、第4楽章の歌詞が誤用されたようです。マーラーの弟子であったブルーノ・ワルターはこの曲について「天上の愛を夢見る牧歌である」と語ったそうです。イメージ的にそれほど大きな違いは無いとも思いますが、やはり弟子の言葉の方が正しい気がします。この曲は大曲揃いのこの人の交響曲の中では最も規模が小さい曲ですが、それでも演奏時間は50分を越えます。僕は第2、5、6、9番といった激しい曲を聴くことが多いですが、この第4番を聴く喜びというのは何物にも代えがたいと思っています。

第1楽章ソナタ形式 鈴の音と共に始まる冒頭からメルヘン的で、ヴァイオリンが第1主題を軽やかに奏すると心が浮き浮きしてきます。続いてチェロが歌う第2主題は何という美しさでしょう。正に天国的です。展開部のフルートはメルヘンの笛そのものですし、言いようの無い懐かしさを感じます。そして終結部のトゥッティでは、喜びと幸福感一杯の讃歌を歌い上げます。

第2楽章スケルツオ 二度高く調弦した独奏ヴァイオリンが非常に印象的です。マーラーはこれに「友ハイン(死神)は演奏する」と書いていますが、死神を「友」と呼ぶのですから、マーラーの神経はやはりちょっと普通では無かった様に思います。とは言えこの曲では、死神のヴァイオリンですら楽しく感じるのです。また中間部は非常に美しい曲想です。

第3楽章変奏曲「やすらぎに満ちて」 非常に美しい楽章で、正に天国的といえます。幸福感に満ち溢れますが、途中何度も転調してはその度に孤独感に包まれて、マーラーの精神状態を表わしているかのようです。後半急にテンポアップする部分は何となくハリウッドのミュージカルのように聞こえます。

第4楽章「極めて快適に」 「子供の不思議な角笛」からの歌詞をソプラノが歌います。管弦楽伴奏付き歌曲のようなユニークな楽章です。幸福感溢れる静かな部分が中間の闊達な部分を挟む構成です。

それでは僕の愛聴するCDを順にご紹介しましょう。

Mahr4walt_cci00023 ブルーノ・ワルター指揮ウイーン・フィル(1955年録音/グラモフォン) ウイーン国立歌劇場再建記念演奏会の素晴らしい記録です。戦前のウイーンの柔らかく甘い弦と管の魅力をまだまだ湛えている時代の演奏なので、この曲には正にぴったりです。実際この4番を演奏するウイーン・フィルの魅力というのはちょっと別格だと思います。ワルターにとっても天国的な喜びに満ちたこの曲はとても資質に適していますし、両者の組み合わせは最高に幸福な結果となっています。テンポは全体を通じてゆったりしていて情感をたっぷりと味あわせてくれますし、個々の楽器奏者の歌いまわしもセンスが抜群、懐かしさに溢れています。

Mahr4cci00023 オットー・クレンペラー指揮バイエルン放送響(1956年録音/GreenHILL) クレンペラーはEMIにスタジオ録音を残していますが、これはミュンヘンでのライブ録音です。創設間もないバイエルン放送が既にドイツの楽団らしい性能と音色を持っていて嬉しいです。演奏はいかにもクレンペラー調の徹底したインテンポなのですが、音楽が退屈になることは無く、逆に立派さを感じさせます。テンポは晩年のスタイルとは違って特に遅いということはありません。ただ曲が曲なので個人的にはもう少し面白さが有ったら良いのになぁとは思います。音質は年代としては非常に明瞭です。

Mah4130 ブルーノ・ワルター指揮ウイーン・フィル(1960年録音/Music&Arts) マーラー生誕100年記念コンサートにワルターが招かれて指揮した時の演奏です。はからずもこのコンサートはワルターとウイーン・フィルの最後のコンサートになりました。ワルター協会が所有する録音を米Music&ArtsがCDにしてくれたのは幸せです。55年盤よりもずっとゆっくりとしたテンポで全ての音符が慈しむように奏されていますが、とりわけ第3楽章は他のあらゆる演奏よりも遅く、情感も極まって感動的です。やはり彼らにとって特別な演奏会だったのでしょう。これは正に一期一会の名演奏だと思います。録音は55年盤のほうがパリッとはしていますが、鑑賞に何ら問題は有りません。むしろマイク位置が近いので、通常よりも各楽器の動きが室内楽的に明瞭に聞き取れるので新鮮です。

Mahr44107072515 レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィル(1960年録音/CBS盤) 宇野功芳先生が昔から推薦されている演奏です。曰く「愉しくて仕方ない演奏」とのことです。確かに第1楽章のメリハリと緩急の自在さはバーンスタインでなければ出来ない表現ですが、問題が有るとすれば、いや普通なら問題ということは無いのですが、それはオーケストラの音質です。時に騒々しさを感じさせるNYPの音(特に金管)を聴くと、この曲を演奏するウイーン・フィルのこぼれる様に美しく柔らかい音を知っている耳には、どうしても物足り無さを感じてしまうのです。とは言え愉しい演奏という点では確かに最上位かもしれません。

Mahler4_horenst ヤッシャ・ホーレンシュタイン指揮ロンドン・フィル(1970年録音/EMI盤) ユダヤ系のホーレンシュタインは昔からマーラーを得意にした指揮者です。学生時代に買った6番のLP盤は愛聴盤でした。この4番はほとんどテンポも動かさずに淡々と進める演奏です。バーンスタインのCBS盤が緩急自在の器用な天才タイプ花形満だとすれば、さしずめ素朴で努力家タイプの左門豊作のような演奏です。これは貴重な存在だと思います。特に3楽章が心に染み入り感動的です。ロンドン・フィルも美しく不満を感じません。既に廃盤のようですが、中古店なら手に入るのではないでしょうか。

Mahr4ten クラウス・テンシュテット指揮バーデンバーデン&フライブルグ響(1976年録音/ヘンスラー盤) テンシュテットにはEMIへの録音が有りますが、ロンドン・フィルの非力さがどうも気になります。その点、たとえドイツの無名オーケストラのライブ演奏であってもロンドン・フィルよりもずっと優れています。実際、このオケの音色は中々に魅力的です。テンシュテットが本領を発揮するのは「復活」のような大曲ですが、この曲も悪く有りません。バーンスタイン/NYPのような面白さが有るのにオケの音がうるさくは感じません。これはとても良い演奏だと思います。テンシュテットには翌1977年にボストン響に客演したコンサートの録音(伊Memories)も有りますが、明るく柔らかい音色のボストン響が同様の良い演奏をしています。

Mahr4aba クラウディオ・アバド指揮ウイーン・フィル(1977年録音/グラモフォン盤) 比較的早めのテンポで飄々とした演奏ですが、歌うところはアバド得意のオペラを思わせるたっぷりとしたカンタービレがとても素晴らしいです。なにせウイーン・フィルの楽器の音色が美しいので、それだけでも魅惑されてしまいます。こればかりは他のオケではどうにもならないですね。第2楽章のヴァイオリン独奏も名コンマス、ヘッツェルの何と上手いこと!第3楽章は淡々としていますが弦がもちろん美しく、終結部では大きく盛り上がります。第4楽章の独唱はフレデリカ・フォン・シュターデですが、技巧を感じさせない清純素朴な歌い方がとても気に入っています。

Mahrlcci00026 レナード・バーンスタイン指揮ウイーン・フィル(1984年録音/First Classics盤) バーンスタインにはコンセルトへボウ管との再録音盤がグラモフォンに有りますが、この曲だけはどうしてもウイーン・フィルに惹かれます。有り難いことに海賊盤でその演奏を聴くことが出来ます。ライブ録音ですが、おそらく放送局音源を使っているのか音質も優秀です。緩急自在なのは変わりませんが、ニューヨーク盤ではバーンスタインがオケを引っ張っている感が有ったのに対して、ウイーン盤の場合にはオケが自然に鳴っている印象です。それに何といってもこの柔らかい楽器の音色はウイーン・フィル以外では考えられません。第3楽章もワルター/ウイーンの60年盤並みに遅いテンポでたっぷりしています。4楽章の独唱がボーイソプラノなのはよく批判されますが、僕は好きです。大人のソプラノは大抵技巧的な「歌唱」を感じさせるのに対して、たとえ下手でも純真な「天使の歌声」を感じるからです。

Mahr441q4f2bynsil ロリン・マゼール指揮ウイーン・フィル(1983年録音/CBS SONY盤) 第1楽章のテンポはかなり遅めでゆったりとしています。そのせいかどうも生気に欠ける気がします。心が弾んでくるような楽しさが感じられないのです。第2楽章もほぼ同様です。第3楽章ではウイーン・フィルの音はもちろんとても美しいのですが、ワルターやバーンスタインのように陶酔的では有りません。第4楽章のソプラノはキャスリーン・バトルが美しい声を聞かせますが、マゼールの遅いテンポがどうも全体をもたれさせています。従って滅多に聴くことは有りません。

Mah417690522 ガリー・ベルティーニ指揮ケルン放送響(1987年録音/EMI盤) ベルティーニのマーラーはブルックナーの場合のヴァントと同じ、職人型の演奏です。実にソツが無いというか、失敗はしません。でもそれが必ずしも感動につながるとは限らないのです。この4番の演奏もフレージングが実に明確で音符一つ一つに表現意欲を感じますし、一般的に言えば立派で良い演奏なのでしょうが、このような天国的な曲の場合にはなんだか煩わしさを感じてしまうのです。神経質過ぎてうるさい、とも言えます。これでは「天国」というよりも「地上界」の音楽になってしまいます。決して美しく無いわけでは有りませんし、好みの問題ですので人によっては反対に受止められるかもしれません。

Mahr4cci00024 ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル(1993年録音/CANYON盤) これはスプラフォンへの旧録音盤では無く新盤のほうです。新盤の一連では第3番が「超」の付く名演でしたが、この4番は残念ながらその域には達していません。それでもいかにもノイマンらしい派手さの無い節度の有る自然な表現なので、この曲には向いています。チェコ・フィルの美しい音もとても魅力的です。特に第4楽章のオーケストラは3番に匹敵する魔法のような棒さばきで大変に魅力的です。ソプラノ独唱も悪く有りません。CANYONの録音もいつもながら極上です。

これらのうち、僕が特に好きなのは、ワルターの1960年盤とバーンスタインの1984年盤です。この二つが正に双璧です。次いではワルターの1955年盤とアバドの1977年盤なのですが、要するにいずれもウイーン・フィルの演奏です。このオーケストラの持つ音色は、この曲に於いては決定的な魅力となるからです。 

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2010年1月17日 (日)

映画「シャネル&ストラヴィンスキー」

Cci00021 今日は公開初日の映画「シャネル&ストラヴィンスキー」を観てきました。上映は渋谷、新宿、銀座のみですが、僕が観たのはシネスイッチ銀座です。このブログを覗いてくれる方であれば、僕がこの映画を観たいと思った理由はお判りでしょう。そう、ストラヴィンスキーの映画だからです。バレエ音楽「春の祭典」のパリ初演がブーイングと怒号の嵐にさらされて大酷評に終わったことは知っていても、彼のプライヴェートの部分については余り語られないので知りませんでしたし、そのストラヴィンスキーを公私共に支援したのがココ・シャネルだったことも知りませんでした。

この映画は「春の祭典」初演のシーンに始まって、直後にシャネルがストラヴィンスキーに出会って彼を支援をする為に家族ごと彼女のパリ郊外の別荘に住まわせること、2人の肉体関係やそのことを知る彼の妻の心の苦しみ、シャネルが香水「シャネルNo.5」の開発に執念を燃やすこと、その後「春の祭典」の再上演にシャネルが尽力を尽くして大成功を収めること、そして2人が別れるまでの僅か1年程の間の話を描いています。監督のヤン・クーネンはこの映画にとって付けた様な話は一切交えずに、事実を忠実に淡々と描いています。ですので話の進行がとてもゆっくりしていて大人の映画に仕上がっています。(事実この映画はR-18指定でしたがいやらしさは全く有りません) 映像がとても美しく、当時のパリの香り(当然!)をいっぱいに漂わせています。配役もよく吟味されていて、シャネルもストラヴィンスキーも本人に似ていて違和感が有りませんし、「春の祭典」の初演指揮者ピエール・モントゥー役まで似ているのは可笑しかったです。

この映画は昨年のカンヌ映画祭でクロージング作品に選ばれて話題となったそうですが、いかにもそんな感じのフランス映画でした。こういう大人の映画はやっぱりいいなぁと思います。ご興味の有る方には是非お薦めします。

尚、この映画を観て「春の祭典」のバレエDVDや音楽CDをこれから鑑賞してみたいという方には、以前の記事でご紹介していますのでご参考までに。

<旧記事>ストラヴィンスキー/バレエ「春の祭典」 DVD他名盤

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2010年1月14日 (木)

チャイコフスキー 交響曲第2番ハ短調「小ロシア」op.17 名盤

毎日寒い日が続いています。来週の大寒を過ぎれば寒さも段々と和らいで春に向かうのでしょうか。余りに寒いのでブルックナー&マーラー特集をまたまたお休みしてチャイコフスキーです。真冬にはチャイコがほんとにスキ~です。

Tch00189042 第1番「冬の日の幻想」は素晴らしい名曲ですが、第2番も非常に好きな曲です。この曲は副題として「小ロシア」もしくは「ウクライナ」と呼ばれますが、これはチャイコフスキー自身が付けた訳では有りません。この曲はロシア(ウクライナ)民謡が頻繁に使われているので、そう呼ばれたのでしょう。第1楽章のホルン独奏による序奏はロシア民謡「母なるヴォルガ」を元にしています。ダイナミックな第1主題もやはりロシアを感じさせますし、第2主題では再び「~ヴォルガ」が使われます。第2楽章は静かな行進曲ですが、軽い足取りがバレエに登場する王侯貴族達のステップを思わせます。第3楽章はスケルツオに当たりますが、中間部はまたまたバレエ音楽のようです。第4楽章はスケール大きく開始されますが、主題がどことなくムソルグスキーの展覧会の絵の「キエフの大門」を思わせます。そういえばキエフはウクライナの古都ですね。余談ですがウクライナの人はロシアが嫌いなんだそうです。大国に物を言わせて力づくでウクライナを併合したからでしょう。逆に日本は好印象なんだそうです。それはかつて憎き大国ロシアを東の外れの小国日本が日露戦争で打ち破ったからです。これはウクライナに駐在した友人から聞いた話なので本当のことでしょう。

なんだか曲の話で無くなりましたが、僕の愛聴盤をご紹介します。

Tccci00011 エフゲニ・スヴェトラーノフ指揮ソヴィエト国立交響楽団(1967年録音/Aulos盤) これは世界で最初のチャイコフスキー交響曲全集の中の録音です。以前、全集盤については記事にした事が有ります。これはあたかも旧ソヴィエト連邦体制下の精密な器械体操選手を思わすような演奏で、非常に若々しくスピード感に溢れていて爽快です。終楽章などはその緊迫感ある演奏に圧倒されます。但しその分晩年のような余裕は有りません。それでも個々の楽器の歌い回しはロシアの情緒たっぷりですし、むしろこちらの方を好む方も多くいらっしゃると思います。現在はメロディアからのライセンスでAulosが発売していますが、マスタリングは良好です。

Sve2 エフゲニ・スヴェトラーノフ指揮ソヴィエト国立交響楽団(1990年録音/CANYON盤) サントリーホールで行われた全曲チクルス演奏会の録音で、所謂「東京ライブ」です。キャニオンの録音は優秀なのでスタジオ録音に遜色が有りません。スヴェトラーノフの指揮はロシア風たっぷりですし、オーケストラは優秀、その上ライブ演奏ならではの高揚感が有りますので、本場のロシア音楽をとことん堪能することが出来ます。特に4楽章が迫力と情感両方に溢れていて感動的です。このCDは現在は廃盤ですが、全集であれば海外盤で出ています。どの曲も素晴らしい演奏なのでお薦めです。

Sve2live エフゲニ・スヴェトラーノフ指揮ロシア国立交響楽団(1993年録音/CANYON盤) 東京ライブの3年後に今度はモスクワでスタジオ録音が行われました。ライブに比べるとややおとなしい印象です。第2楽章は少々テンポが遅すぎる気もしますし、第3、第4楽章も高揚感においてどうしてもライブに劣る気がします。もちろんこのCDのみを聴けば録音は優秀ですし、本場のオーケストラで存分にロシア音楽を味わえて満足出来るのですが、東京でのライブ盤は更にその上を行くということです。ちなみにこの93年盤も廃盤です。困ったものです。

Tcha2 ウラジミール・フェドセーエフ指揮モスクワ放送響(1999年録音/Relief盤) ロシア国立響と並ぶ優秀なモスクワの2大オーケストラですので、素晴らしいチャイコフスキーが味わえます。「母なるヴォルガ」のところのホルンも上手く、このような味わいは本場ロシアのオケ以外ではちょっと聴くことは出来ないでしょう。僕はこういうロシア民謡のような曲を自国以外の楽団で聴く気にはどうしてもなれないのです。第2楽章はスヴェトラーノフよりもかなり速いですが、軽快で楽しいバレエの感じはこちらの方が良く出ています。第3楽章は互角。第4楽章は早いテンポで迫力にも欠きませんが、豪快な感じはスヴェトラーノフの方がより出ています。このあたりは好みの問題でしょう。

これらはロシアを味わうのにどれも充分満足出来ますが、ベストを選ぶとすればスヴェトラーノフの東京ライブです。その他では昔LP盤で聴いていたロジェストヴェンスキー/モスクワ放送響の演奏が有りますが、現在は廃盤なのでぜひ再発売して欲しいと思っています。

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2010年1月10日 (日)

チャイコフスキー 交響曲第1番「冬の日の幻想」 フェドセーエフ盤

来週20日は大寒です。一年中で一番寒い時期になりました。ブルックナーもマーラーも余り季節には関係無く聴きますが(さすがに真夏にマーラーはキツイですが・・・)、真冬に聴いて一番しっくり来るのは何と言ってもチャイコフスキーです。中でも交響曲第1番「冬の日の幻想」。これですね。昨年の今頃にもこの曲の記事を書きました。

<旧記事>チャイコフスキー 交響曲第1番「冬の日の幻想」

曲については同じような内容になってしまうので書きませんが、美しいメロディに溢れた本当に良い曲です。CDについては、スヴェトラーノフ指揮ロシア国立響のスタジオ録音盤か東京ライヴ盤のどちらかがあれば充分とは思いますが、たまに別の演奏で聴きたくなる時も有ります。かと言って、僕はこういうロシア情緒一杯の曲を、ロシア以外の演奏家で聴こうとは思わないので、選択肢は自ずと限られてしまいます。そんな中から今日はもう一つお気に入りの演奏をご紹介します。

Tcha1 ウラジミール・フェドセーエフ指揮モスクワ放送響(1999年録音/Relief盤) フェドセーエフがモスクワ放送響の首席指揮者にロジェストヴェンスキーの後を継いで就任したのは1974年ですから、既に30年以上になります。ロシアの指揮者というのは昔から爆演型やら透徹型やら正に様々な個性派揃いですが、この人は非常にオーソドックスな演奏をします。と言って無味乾燥ということは無く、以前生演奏を聴いた時にも、非常にオケの統制を取りながらも、正真正銘ロシアの味わいを感じさせてくれました。フェドセーエフは1980年代にもこの曲を録音しましたが、これは90年代末に交響曲を全曲録音し直した時の新録音盤です。正にロシア的な歌いまわしを満喫出来る素晴らしい演奏です。スヴェトラーノフ盤が録音、演奏ともに最高でしたので、どちらが上かと聞かれればどうしてもスヴェトラーノフの上位は譲れませんが、それでも気分を少し変えて別の演奏でこの曲を楽しみたい時にはうってつけだと思います。それに第2楽章の聴き所のホルン独奏の部分などは、むしろモスクワ放送の方に惹かれます。このホルンパートはロジェストヴェンスキーがこのオケと録音した70年代の演奏が最高でしたが、もしや同じ奏者なのでしょうか。

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2010年1月 3日 (日)

ブルックナー 交響曲第3番ニ短調 名盤

Bru226058822早いもので新年三が日も今日で終わり、明日からはまた仕事です。今年も頑張りましょう!

さてニューイヤーの「新世界より」で中断したブルックナー&マーラー特集でしたが、ブルックナーの第3番から再開です。ブルックナーの交響曲は第3番から第6番までが中期と呼べるでしょうが、その中での最高峰が第5番というのは誰もが認めるところです。けれども、この第3番も中々に人気があります。楽想の豊かさでは第4、第6を凌ぐかもしれません。

この曲は初稿がワーグナーに捧げられた為に「ワーグナー交響曲」の愛称で呼ばれます。実際に初稿ではワーグナーの旋律が引用されていましたが、現在一般に演奏されている晩年に改定を行った第3稿では全て省かれています。その為か、この曲は何となく全体のスタイルが統一感に欠ける印象も拭い切れませんが、やはりとても美しくチャーミングな佳作です。ちなみに初稿でのCDも発売されてはいますが、個人的には一度聴いたらそれで充分と言う気がします。

第1楽章<中庸の速さで躍動的に> 弦のトレモロに乗って吹き鳴らされるトランペットで始まり、スケール大きく響き渡るトゥッティとなる楽想は中期の魅力で一杯です。後期の曲ほどに深刻でないので理屈抜きに楽しめますが、反面深さに欠けるのはやむを得ません。頻発する二連と三連音符の組み合わさった美しい動機は典型的なブルックナーの楽曲です。

第2楽章<アダージョ・クワジ・アンダンテ> アダージョですが、後期と違って幸福感を湛えた明るさが有ります。自然や神への祈りをも感じるとても美しい楽曲です。

第3楽章<スケルツオ> 初期の曲よりも段違いに充実しています。激しいリズムの主部に対比されるトリオのゆったりとした舞曲は明るく素朴で何とも魅力的です。

第4楽章<フィナーレ・アレグロ> 急速で厳しい響きの第1主題が終わると、明るいヴァイオリンの伴奏に乗って荘重なコラールが歌われます。この部分も大変にチャーミングで、初中期ならではという感じです。終結部は例によって壮大に鳴り響いて感動的なエンディングとなります。

それでは僕の愛聴盤をご紹介します。

Brucci00010 ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウイーン・フィル(1954年録音/DECCA盤) 昔から宇野功芳先生が推薦している有名な演奏です。僕も学生時代にLP盤を購入してよく聴きました。モノラル録音にしては良好な音質で昔のウイーン・フィルの陶酔感溢れる美音がこぼれ落ちるようですが、現在となってはやはり音質への不満が無いわけではありません。第1~3楽章まではクナにしては速めのテンポで進めていて緊張感も有って良いのですが、第4楽章に緊張感が不足するのが大きなマイナスです。後述のライブ盤の凄演を知っているファンにとってはこの"ゆるい"スタジオ録音盤に満足するのはちょっと難しいと思います。

Bru899 ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウイーン・フィル(1960年録音/Altus盤) 楽友協会大ホールでのライブ録音です。演奏だけを取ればDECCAの54年盤よりも格段に優れた出来栄えです。ウイーンフィルの甘くこぼれるような美音と晩年のクナのスケールの大きさを兼ね備えた理想的な演奏だからです。第1楽章の二連/三連主題の弦の柔らかさはDECCA盤以上ですし、トゥッティの緊張感を持つ響きには凄みすら感じさせます。但し問題はマスタリングで、中音部の抜けた高音強調型の音がキンキンうるさいことです。データを見るとエンジニアが巷で悪評の高いアイヒンガー&クラウスとあります。これでは貴重な音源の発掘価値がぶち壊しというもので非常に残念です。 

Burukunacci00011 ハンス・クナッパーツブッシュ指揮北ドイツ放送響(1962年録音/Music&Arts盤) 晩年のハンブルクでのライブ録音です。音質が非常に良いのが嬉しいです。60年盤と違って中低音がぶ厚い録音(マスタリング)なので、クナのスケールの大きさが充分に感じられます。第1楽章の前半では遅いテンポに緊張感がまだ付いていきていませんが、後半は緊張感が増してスケール壮大となります。第2楽章もたっぷりとして良いのですが、ウイーン・フィルの柔らかく魅惑的な表情と比べると聞き劣りがします。第3楽章は一転して厳しく豪快なリズムが素晴らしいです。音楽がオケに合っているのでしょう。終楽章も同様で遅いテンポで巨大な音楽となっています。コラールも非常にゆったりとして懐かしさを感じさせて素晴らしいです。

■ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ミュンヘン・フィル(1964年録音) 写真が無いのは現在はCDを持っていないからです。以前、ゴールデンメロドラム盤で聴いていましたので触れておきます。この演奏は中野雄先生が実際にお聴きになられたコンサートとのことで、著述もされています。曰く「地鳴りのような響きの記憶は鮮明に耳の奥に残っている」です。Gメロドラム盤の音質が余りに貧弱なので手放しましたが、いつか正規録音盤が出ないかと期待をしています。クナのこのミュンヘンでのラストコンサートは貧弱な音からもその凄さを知る事が出来ますし、中野先生の記憶が全くその通りであろうことが良く判ります。この最晩年のクナの演奏はウイーンでの1960年盤と並ぶかそれを越えるものである気がしますので、それを正規音源で確かめたくてなりません。

0021512bc クルト・ザンデルリンク指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1963年録音/Berlin classics盤) かつてゲヴァントハウスの首席指揮者を務めたコンヴィチュニーがブルックナーの5番、7番に名盤を残していますが、これは彼が他界した翌年の録音です。ですのでオケの響きがコンヴィチュニー時代そのままの質実剛健で古色蒼然としたものです。ウイーンスタイルの柔らかさは有りませんが、素朴で下手な味付けの無い音色に逆に惹かれます。それでも第1楽章の二連/三連部分などは弦もとてもよく歌っています。若きザンデルリンクの豪快さも凄いですが、個人的な好みでは少々音を鳴らし過ぎで、管の強奏がやや耳につきます。第2楽章の弦の素朴な音色は良いですが、盛り上がりのカロリーは中々高めです。第3楽章は速めのテンポで実に豪快ですが、トリオではゆったりと歌っています。第4楽章はじっくりとやや遅めのテンポですが迫力は満点。後年のザンデルリンクのスタイルを感じさせます。クナ以外では最も豪快な演奏と言えるでしょう。但しコラールはゆったりと魅力的です。

Bruchcci00010 カール・シューリヒト指揮ウイーン・フィル(1965年録音/EMI盤) 同じウイーン・フィルを振ってもクナの豪傑型のスタイルとは全然異って実にスッキリと端正な演奏です。初期の曲という点ではシューリヒトの方が正統的なのではないかと思ったりもします。シューリヒトが同じEMIに残した8番、9番と比べると出来栄えは落ちるかもしれませんが、これも60年代のウイーン・フィルの美感を捉えた名演だと思います。トゥッティになっても音の柔らかさと張りを兼ね備えていて実に素晴らしいです。第2楽章の純粋な美しさも非常に印象的ですし、第3楽章の良い意味で"軽み"の有るリズムも素晴らしいです。第4楽章は少しもうるさくならずに徐々に高揚してゆく辺りは流石にシューリヒトの匠の技です。録音は古めですが、僕の持っているドイツプレス盤はしっとりとした音でさして不満は感じません。。

41z9svllqklカール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1970年録音/DECCA盤) この演奏は昔聴いた時には金管の音が金属的に感じられて余り良い印象は有りませんでしたが、いま改めて聴くとやはり素晴らしい演奏です。ベームの引き出す厳しく引き締まった響きは音楽の穏やかさや陶酔感を遠ざけるものの、造形感や構築力が見事で、音楽が立派に聞こえることこの上もありません。とても迫力が有りますが荒さは感じません。ウイーン・フィルの音の美しさ、繊細さを生かしながら豪快さと両立をさせていて聴き応え充分の名演奏です。

Cci00007 オイゲン・ヨッフム指揮ドレスデン国立歌劇場管(1977年録音/EMI盤) 当時の同じ東ドイツの楽団としてゲヴァントハウスを聴いた後に聴くと、いかにもふっくらと柔らかい音に感じます。と言ってもウイーンの洗練された艶っぽさとは異なるずっと素朴な音です。オランダプレスの全集盤ではその音をそのまま味わう事ができます。トゥッティでの溶け合った美しい響きには法悦感さえ感じます。ゲヴァントハウスでは残念ながらこういう感覚は得られません。但し70年代のヨッフムの指揮はスケールが大きい訳ではなく、第1楽章の最後などはややアッチェレランド気味なのでスケールは小さくなります。第2楽章以降はヨッフムがことさら何かをしている訳ではなくオケの美しい響きに任せているという印象です。ですので聴いている時にはとても心地が良いのですが、聴き終えた後にそれほど強い印象は残りません。

Bru951 ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1980年録音/SONY盤) ドイツ音楽を得意にするクーベリックだったのにブルックナーのスタジオ録音は僅かにSONYへの3番、4番のみでした。これは大変に残念な事です。遅めのテンポでゆったりとスケール大きくオケを響かせますが、弦と管が上手くブレンドさせて美しく、トゥッティでもうるさくなることが有りません。ミュンヘン・フィルといいバイエルン放送といい南ドイツのオケは本当にブルックナーに適正を感じます。唯一気に入らないのは4楽章のコラール部分のヴァイオリン伴奏です。少々ぶっきらぼうでいじらしさに欠けている気がします。クーベリックには他に70年のライブ録音(Audite)も有るのでとても興味が有りますが未聴です。

Brucknersymphonie3wsmataciccoverロブロ・フォン・マタチッチ指揮ウイーン響(1982年録音/METEOR盤) 海賊盤ですが上げておきたいと思います。マタチッチの第3にセッション録音は有りませんが、このMETEOR盤の他にはBBCレーベルから出たフィルハーモニア管との1983年ライブ盤が有ります。この1982年盤は録音もまずまずですし、ウイーン響の音にはしなやかさが有って中々に良いです。マタチッチですので豪快さとおおらかさを兼ね備えて余り神経質にならないのはこの曲には好ましいです。ライブ特有の演奏の傷は散見されますが気になるほどでは無いですし、何よりマタチッチの演奏を聴けるだけでも有難いです。

Bruckner71lp1ko6byl__sl1429_ギュンター・ヴァント指揮北ドイツ放送響(1985年録音/Profile盤) ヴァントのブルックナーは出来不出来が少なく常に高次元を保っていると思いますが、この演奏からは意外に感銘を受けませんでした。大きな理由としては金管のハーモニーがそれほど美しく感じられないからです。かといってクナッパーツブッシュのライブのような豪快な迫力も有りません。実演で聴けばともかく、CDで聴く分にはライヴ録音のデメリットが出てしまったようです。同じ北ドイツ放送響とのライヴに1992年録音(RCA盤)も有って自分は未聴ですが、そちらのほうが恐らく出来映えは良いのではないでしょうか。

Chli_bru3 セルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィル(1987年録音/EMI盤) クナッパーツブッシュやクレンペラーのテンポの「遅さ」が凄いと感じるのは、通常早い部分で遅くなるからです。元々遅い部分では驚くほど遅くはないのです。ところが晩年のチェリビダッケの場合は、元々遅い部分が更に遅くなります。それで聴いていて息が詰まってしまうのです。この3番の演奏も典型的な晩年のスタイルです。スケールの大きさを感じるよりも、聴き通すのに長さを感じてしまいます。この演奏に関しては、オケの響きも特別に美しいとも思いません。

実は第3番にはベストと呼べるCDが有りません。強いて言えば一番楽しめるのはクナッパーツブッシュ/ウイーン・フィルの1960年ライブ盤というところです。これが良質なマスタリングのステレオ録音だったら良かったのですけれど・・・。
そこで現段階で上げておくのはベーム/ウイーン・フィル盤です。

<後日記事>
ヘルベルト・ケーゲルのブルックナー交響曲第3番

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2010年1月 2日 (土)

~新春第二弾~ ドヴォルザーク 交響曲第9番「新世界より」 続・隠れ名盤

「新世界より」の隠れた名盤の筆頭はノイマン/チェコ・フィルの1971年ライブ盤だと思いますが、いかんせん廃盤で入手が難しいのが残念です。そこで"隠れ名盤”の続編として、もう1枚僕の愛して止まない演奏をご紹介したいと思います。もっともこの演奏は以前にも愛聴盤の記事の中で一度触れた事は有りますが、改めて詳しくご紹介したいと思うのです。

Cci00053b オンドレイ・レナルト指揮ブラティスラヴァ放送響(1987年録音/Amadis盤) オンドレイ・レナルトは何年も前から日本のオーケストラに客演をしているスロヴァキア出身の指揮者なので、ある程度馴染みが有ると思います。ですがこの人のCDの数は極めて少ないので、中堅の大したことの無い指揮者だと思われている方が多いのではないでしょうか。事実、僕もその一人でした。それでも「新世界より」や「我が祖国」となると、本場物の演奏なら何でも聴いてみたくなるので、この人の新世界を聴いてみたのです。オーケストラはブラティスラヴァ放送響です。ブラティスラヴァはチェコとスロヴァキアが分離した時にスロヴァキアの首都になった都市ですが、決して有名では有りません。この国のオーケストラとしてはズデニェック・コシュラーが率いたことのあるスロヴァキア・フィルのほうがよほど知られているでしょう。スロヴァキア・フィルは二年前に日本公演を聴きましたが、ローカルな音色に味わいの深い素晴らしいオーケストラです。ところがこのレナルト/ブラティスラヴァ放送響のCDを聴いてみて、スロヴァキア・フィル以上にローカルな音色なのに驚きました。もしも日本食に例えて言えば、チェコ・フィルの音は都心の高級料理屋で腕利きの板前さんが料理する極上和食のようなものです。ところがスロヴァキア・フィルやブラティスラヴァ放送響の音は、田舎の民家の囲炉裏端で味わう郷土料理のような味わいなのです。これはどちらが良いとか言うことでは無く、味わいの違いを楽しむべきなのです。そういう意味でこのレナルト/ブラティスラヴァ放送響の演奏は最上の演奏だと思います。これまで宇野功芳先生が推薦されたスメターチェク/プラハ放送響や、コシュラー/スロヴァキア・フィル、ペシェク/スロヴァキア・フィル、ヴァーレク/プラハ放送響といったチェコフィル以外の「新世界より」も聴いてきましたが、最もローカルの味わいが深い演奏はこのレナルト盤です。第1楽章導入部のホルンやティンパニの田舎臭い音色は驚くほどです。しかも主部に入ってからのレナルトの指揮は遅めのテンポで心がこもり切った素朴な味わいが最高です。この演奏には「激情」「演出」「洗練」そんな言葉は全く当てはまりません。第2楽章も同様に滋味に溢れていて実に感動的です。第3楽章、第4楽章も派手さは皆無ですが、充実した素朴な響きは満足感で一杯にさせてくれます。レナルトが他の曲で同じような感動を与えてくれるかどうかは分かりませんが、少なくともこの「新世界より」は他の多くのCDとは一線を画す素晴らしい名盤だと思うのです。

ちなみにこのCDはデジタル録音の現役盤ですが、HMVでは正価でも僅か800円そこそこです。騙されたと思って、是非ご自分の耳でこの演奏をお聴きになられることをお薦めします。このCDにはスラヴ舞曲集作品72から第1、2、7、8番の4曲も入っていて、やはりローカル色溢れる名演です。

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2010年1月 1日 (金)

~迎春2010~ ドヴォルザーク 交響曲第9番「新世界より」 隠れ名盤

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明けましておめでとうございます!新しい年が皆様にとりまして素晴らしい年になりますように心から願っております。

さて、ニューイヤーの音楽といえばヨハン・シュトラウス&ウインナ・ワルツというのが定番です。それに次いでは「新世界より」では無いでしょうか。そこで2010年の聴き初めはドヴォルザークの「新世界より」で行きたいと思います。ところが、ここで大きな疑問に襲われてしまったのです。

どうして新年に「新世界より」なんじゃ~???

この曲は作曲家ドヴォルザークが故郷のチェコを離れて遠くアメリカへ渡り、ヨーロッパ伝統の音楽に新天地の音楽要素を取り入れて作り上げた傑作なので、恐らくは新しい領域(新年)に挑戦しよう!立ち向かおう!という意欲を感じるからなのでしょうね。第2楽章では遠い故郷へ戻りたいというノスタルジーに襲われて挫けそうになっても、第3楽章~第4楽章で一生懸命頑張って勝利を勝ち取るという曲に聞こえるのでしょう。確かに終楽章は華々しい勝利の歌です。新しい年を迎えるのにはとても相応しいかもしれません。

前にも書きましたが、この曲は僕の大好きな曲です。色々な演奏を聴いた回数では一番かもしれません。特に僕はお国もののチェコ、スロバキアの演奏家のものなら何でも聴いてみたくなる「お国もの新世界」オタクと言えるかも知れません。以前の記事ではそんな幾つかのCDについて触れました。<旧記事> ドヴォルザーク 交響曲第9番「新世界より」 名盤

この時には、アンチェル1961年盤、ターリッヒ1954年盤、コシュラー1973年盤をベスト3に選びました。ところが知らぬ事とは恐ろしいもので、まだまだ大変な名盤が存在していたのです。そこでそのCDで本年の聴き始めをしながらご紹介したいと思います。

Dvocci00013 ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル(1971年1月4日録音/PRAGA盤) ドヴォルザークの好きな方ならご存知の通りノイマンはチェコフィルとこの曲に複数の録音を残しています。①1972年(スプラフォン)②1982年(スプラフォン)③1993年ライブ(スプラフォン)④1995年(キャニオン)ですが、いずれも自国チェコフィルの美質を生かし切った名演奏です。但し、この人の特徴としては、少々冷静に過ぎるのです。先代のアンチェルはスタジオ録音では筋肉質で引き締まった造形を持ちましたが、実演になるとしばしば熱く成り過ぎて崩れを見せました。ノイマンはアンチェルほど厳しい造形は持ち合わせませんでしたが、ライブでも冷静で崩れを見せませんでした。それがノイマンの長所でも有り短所でも有った訳です。ところがこの1971年のプラハのドヴォルザークホールでのニューイヤーライブはノイマンが若かったせいも有るのでしょうが気合が入って熱気が前面に出ています。にもかかわらず、アンチェルのスタジオ録音のような筋肉質で引き締まった造形を保っているのです。言わばアンチェルとノイマンの長所を合わせたような演奏なのです。リズムは切れが良く、歌う情感もよくこもっていて正に理想的です。録音もとても優れていて、この時代のライブ録音としては最上の透明感が有り、管と弦とのバランスがベストです。第2楽章の弱音器を付けた繊細な音や、1楽章、4楽章の金管の強奏がとても良く録られています。

ということで、これまではノイマンのこの曲のベストは1981年の二度目のスプラフォン録音かなと思っていましたが、この71年ライブが断然ベスト盤になりました。またそれどころか前述のベスト3を凌駕して、現在はあらゆる「新世界より」の中でもナンバーワンかもしれません。残念な事にこのCDは既に廃盤で滅多に中古店でも見かけませんが、もしも見つけられた方は是非ご購入されることをお薦めします。

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