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2009年11月24日 (火)

ブルックナー 交響曲第1番ハ短調 名盤

335pxantonbruckner_2 アントン・ブルックナーはオーストリアのリンツにある聖フローリアン教会でオルガニストを勤めていました。敬虔なカトリック信者である彼は自らの作品を神様に捧げようとしたのです。このことだけでも彼が随分浮世離れした人物であったことが分ります。彼の作品の中心は交響曲と宗教曲ですが、一般に人気の有るのは何と言っても一連の交響曲作品です。よく彼の作品は「オルガン的」と言われますが、それは単に管弦楽の響きの方法論であって、決して音楽の本質では有りません。本質は、浮世(俗世間)を離れた、あたかも自然界や宇宙界、森羅万象の世界を想像させる、およそ他のいかなる作曲家とも異なる独自のものです。けれども、このような音楽というのは、自然や季節の移り変わりや"もののあはれ"を理解する日本人にとっては感覚的に案外受け入れ易いと思います。ですので日本には本国ドイツ、オーストリア以上にブルックナー・ファンが大勢居ます。数年前迄は朝比奈隆やギュンター・ヴァントというブルックナーを得意とする指揮者が現役でしたので、ブルックナー・ファン達も非常に賑やかでしたが、最近は少々沈静化してしまった感が有ります。巨匠の時代の終わりと共に、ブルックナー演奏の時代も区切りが付いてしまったとすれば大変残念な事です。

ブルックナーの交響曲には第1番から未完成で終わった9番迄の作品の他にも、第0番、習作の第00番が有ります。近年は全集盤に0番と00番が入るものも増えています。ところで僕はブルックナーは大好きですが、全ての交響曲を万遍無く聴いている訳でも有りません。愛聴していると言えるのは後期の大曲である5番、7番、8番、9番ぐらいです。次いでは3番、4番でしょうか。1番、2番、6番ももちろん好きですが、普段はほとんど聴きません。ところが熱烈なブルックナーファンは初期の0、1、2番も愛好しますし、8番、9番あたりの曲は、あらゆる録音を全て聴くという人も決して珍しくは有りません。事実自分の友人にも存在します。そういう意味では自分は熱烈なブルックナーファンでも無いかもしれません。

交響曲第1番は1868年にブルックナー自身の指揮で初演されました。マーラーの第1番の初演が1889年ですので、先んじること21年です。規律正しくいかにも独欧系の音楽という風情で進行する第1楽章アレグロ、オーストリアの美しい自然を想わせる第2楽章アダージョ、野趣に溢れた第3楽章スケルツオ、激しく高揚する第4楽章フィナーレと、いずれも魅力的です。ブルックナーファンにとっては無条件で楽しめます。しかしファン以外が聴いて楽しめるかというと果たしてどうでしょうか。正直よく分かりません。これからブルックナーを聴かれるという方は、まず先に3、4、5、7、8、9番を聴かれた後からでも遅くないと思います。

この曲は普段聴く事が無いので所有するCDの種類もごく限られてはいますが、ご紹介しておきます。

41kqn94kz0l__ss500_ オイゲン・ヨッフム指揮ベルリン・フィル(1965年録音/グラモフォン盤) ヨッフムもブルックナーを得意にしていた名指揮者です。特に晩年の幾つかのライブ録音はいずれも最上のブルックナーでした。この1番はグラモフォンでの最初の交響曲全集の中の録音で、宇野功芳先生が昔から絶賛している演奏です。ベルリン・フィルがフルトヴェングラー時代のドイツ的な音色をかろうじて残している時期の録音なので幸運でした。元々パワフルなオケが音楽を踏み外さずに、力強く、かつ美しく響かせているのはやはりヨッフムの実力だと思います。終楽章などは実に見事です。アダージョの美感やスケルツオの切れの良いリズム感などにも惚れ惚れします。

2059c48ea678dc0cfe8109975a4bb3591 オイゲン・ヨッフム指揮ドレスデン国立歌劇場管(1978年録音/EMI盤) グラモフォン盤に続いて二度目の全集の中の録音です。完全無欠のベルリン・フィル盤に対して、ドレスデン盤はどこか集中力にスキが有るような気がします。それはオケの持つ性格も有るのかもしれません。宇野先生などは明らかにベルリン盤の方が上と言われています。ところが人の好みというのは面白いもので、僕はむしろドレスデン盤に惹かれます。聴きようによってはややメカニカルな音に聞こえるベルリン・フィルよりも、音に素朴さが有るドレスデンの方が聴いていて心地よいのです。とは言え、どちらか片方を選んでも問題は有りませんし、両方を聴かれればもちろん更に良いと思います。

ヨッフム以外であれば、たぶんヴァントかスクロヴァチェフスキー辺りが無難なところではないでしょうか。但し僕は聴いていません。

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ブルックナー(交響曲第0番~3番)」カテゴリの記事

コメント

ハルさん、こんばんは。

私が初めてブルックナーの第1を聴いたのは、ハルさんも挙げられているヨッフム=SKD(EMI)のCDでした。ヨッフムの指揮というよりもシュターツカペレ・ドレスデンの何とも表現し難い素朴なオケのサウンドに心惹かれたものでした。ベルリン・フィルとの演奏によるCDは未聴ですが、恐らくシュターツカペレ・ドレスデンの魅力には抗し難いのだろうな、と想像してしまいます

他には、スクロヴァチェフスキ=ザールブリュッケン放送響とのCDが素晴らしい演奏を残してくれています。勿論オケの魅力は、ドレスデンに勝ることはありませんが、スクロヴァチェフスキの表現がオケの細部にまで浸透している印象があり、聴く毎に発見があります。この人は大曲になると物足りなさを感じることが多々ありますが、ブルックナーの初期の交響曲では水を得た魚のように楽しい演奏をしてくれます。

ヴァントはリンツ版ではなく、ウィーン版を使用していて、版の違いを聴ける興味深さはあるものの、個人的にはリンツ版の荒削りな曲想が好きなので、これといって強い印象は持っていません。

朝比奈=大フィルは、第1を初期の交響曲としてではなく、後期の交響曲と同様にスケールの大きな表現をしていて、それなりに聴かせてくれますが、どうしてもオケに限界を感じてしまう(シュターツカペレ・ドレスデンと比較するのが間違いですが・・・)ので、あまり聴く機会がないです。

あとはティントナー=ロイヤル・スコティッシュ管のCDも持っています。この人の指揮は好きで、購入した当初はよく聴いたのですが、最近は聴かなくなってしまいました。表現もこなれていて、聴いていて違和感は全く覚えないのですが、やはりオケのサウンドにやや不満を覚えてしまうからでしょうか

ということで、私も一番好きなCDはヨッフム=シュターツカペレ・ドレスデン、次点はスクロヴァチェフスキ=ザールブリュッケン放送響です。

投稿: たろう | 2009年11月25日 (水) 01時43分

たろうさん、詳しいコメントをありがとうございます。

職人型のスクロヴァチェフスキーは確かに後期の大曲よりも初期の小型の曲のほうが向いているのかもしれませんね。

朝比奈は僕も生演奏では非常に感動しましたけれども、CDで聴いた場合にはオケの限界をやはり感じてしまいます。

ティントナーも今となっては懐かしいです。ヨーロッパのオケを振ることが有ったらこの人の評価は随分変わっていたことでしょうね。

ヨッフムですが、ベルリンPO盤も聴かれることを是非お勧めします。ドレスデン盤と相互補完し合う関係だと思っていますので。

投稿: ハルくん | 2009年11月25日 (水) 12時49分

ついにブルックナーチクルスも始まってしまいましたね。

ワグナーやマーラーと異なりブルックナーは、木管は2管編成が基本(8,9番は3管)、ホルンも4本、このつつましい編成で長大な曲を壮大に響かせるには、オケと指揮者に並々ならぬ地力と愛(または執念)がなければいけません。

そうでなければ、(大胆な油絵の色彩ではなく)重ね塗りした水彩画のような音色が微妙に移ろいゆくさまも、たちどころに濁って何を表現したいんだかわからなくなってしまう・・・そういう絵に対して好みが分かれるのも理解できますが。

投稿: かげっち | 2009年11月25日 (水) 18時46分

かげっちさん、こんにちは。

ブルックナーの響きを忠実に再現するのはオーケストラにとって至難の技だと思います。
僕自身も3番、9番の演奏経験が有りますが、アマオケは止めた方がいいですね。(苦笑) そもそも普通のプロオケが演奏をしても相当に厳しいです。かと言って、例えばアメリカの機能的なオケが演奏してもしっくりしません。ブルックナーの演奏が許されるのはドイツ/オーストリア近隣の非常に上手くて柔らかい音を持つ楽団のみだと思っています。

投稿: ハルくん | 2009年11月26日 (木) 08時06分

ヴァントとスクロヴァチェフスキーの演奏も悪くはないのですが初期の交響曲という意識が強いのか作品自体が私には小さく聴こえてしまいます。
逆に朝比奈隆の録音は後期の作品と同じ姿勢で向かいあっているので、聴いていて、大変な充実感を感じます。
オケの荒さなどがあるかもしれませんが第2楽章の湧き上がるような美しさや第4楽章の豪快さはまさにブルックナーそのものと言えるものです。
なおヨッフムのドイツグラモフォンでの録音のCDは全集としてのセットでの発売だけでしょうか?1番や2番、6番はぜひ1枚物で発売して欲しいものです。

投稿: オペラファン | 2009年11月26日 (木) 10時47分

ハルくんさん、こんにちは。

日本でのブルックナー人気に比べると、ヨーロッパではローカル作曲家の一人と思っている人もいるのでしょうか、ブルックナーに愛着の強そうなドイツ語圏のオケでなければ良い演奏は確かに少ないですね。

機能的オケと呼ぶに値するアメリカのオケであっても、油絵の具で水彩画を描けないように、ブルックナーらしい響きは作れないでしょう。

投稿: かげっち | 2009年11月26日 (木) 12時36分

オペラファンさん、こんばんは。トラックバックもありがとうございます。

なるほど朝比奈ファンのオペラファンさんならではの見解ですね。そもそも日本にあのようなブルックナー指揮者が存在したことが奇跡の様な気がします。

ヨッフムのグラモフォン録音は大半が国内盤の一枚物CDで出ていますよ。

投稿: ハルくん | 2009年11月27日 (金) 00時14分

かげっちさん、こんばんは。

ヨーロッパを捨ててアメリカに渡った先祖を持つアメリカ人にとっては、典型的なヨーロッパ音楽であるブルックナーを理解するのは容易で無いことだと思います。
実際に今まで名演と呼べる演奏を耳にしたことが有りません。

投稿: ハルくん | 2009年11月27日 (金) 00時32分

そうですね。アメリカに渡った人たちが捨ててきたものはいろいろあるでしょうが、「オルガンのある大聖堂」と、それにまつわるあれこれも捨ててきたのだと思います。それこそブルックナーらしい響きの源流なのに。

投稿: かげっち | 2009年11月27日 (金) 12時41分

まったくですね。
パイプオルガンが大理石の教会に鳴り渡る響きに慣れ親しんだヨーロッパの人達と恐らくはそういう響きに縁の無かったアメリカの人達とは「音」に対する感覚が違うような気がします。

投稿: ハルくん | 2009年11月28日 (土) 01時31分

第3楽章冒頭がかつてCMで使われていました。(若き日の斉藤由貴がでていました)後年の交響曲と比較してかなり異色の曲だと思います。かつて『気分のすぐれない時に第三楽章をよく聴く』とかいた評論家がいました。同感です。非常に野趣あふれるスケルツオで印象に残ります。録音は冴えませんがアパド/VPOが非常に印象に残っています。

投稿: k | 2014年10月29日 (水) 18時51分

Kさん

斉藤由貴ですねー。中年の彼女も可愛らしさが感じられて大好きです。(カンケイない?)

アバドはVPOと二度録音しているかな?たぶん古いDECCA盤のことですよね。前から聴いてみたいと思っていてまだ未聴です。演奏は良さそうですね。ありがとうございます。

投稿: ハルくん | 2014年10月31日 (金) 00時08分

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いよいよ朝比奈隆の指揮したブルックナーの交響曲を第1番から取り上げていきます。第1番や第2番は初期の作品という事になり、第7番以降の後期の作品と比べて作品の規模も大きくなくブルックナーの作品の中では演奏の頻度も少なく、あまり親しまれていない感があります。しかし詩情あふれ、しみじみとした孤独感といったものにあふれ、大変引きつけられるものがあります。作品の厳しさは後期の作品に譲りますが小鳥がさえずりアルプスからの風が寂しく吹いている田園的な趣を感じます。私自身、どちらかというと後期の作品よりも第3番を含... [続きを読む]

受信: 2009年11月26日 (木) 00時49分

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