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2009年10月18日 (日)

シューマン ピアノ三重奏曲第1番ニ短調op.63 名盤 ~炎の情熱~ 

431a56ff6a0e198a960e50a1f1db33d0 シューマンは室内楽の分野でピアノ四重奏曲、ピアノ五重奏曲、そしてヴァイオリン・ソナタという傑作を書いていますが、ピアノ三重奏曲にも特筆すべき作品が有ります。ピアノ三重奏曲第1番ニ短調です。

シューマンはこのジャンルで3曲を作曲していますが、奇しくも後輩のブラームスも同じ三曲の作品を残しています。もしも両者が3対3の6人タッグマッチで先輩後輩対決をすれば、これは後輩チームの圧倒的な勝利に終わることでしょう。それほどブラームスのこのジャンルは充実しています。それについてはちょうど1年前に記事にしました。(過去記事:ブラームスのピアノ三重奏曲集 名盤

しかし団体戦で敗れたとは言え、シューマン・チームの大将格である第1番だけはブラームスのどの作品と競っても互角に渡り合いますし、シューマンの四重奏曲、五重奏曲と比べても全く見劣りしません。

第1楽章はいかにも彼らしい屈折した感情を湛えた音楽で、情熱は青白い炎にくすんでいます。第2楽章も「生き生きと」と指定があり情熱的なのですが、その割には相変わらず屈折した焦燥感を感じてしまいます。第3楽章ではとうとう深く心の奥底へ沈んでゆくようです。それはまるで底なし沼のようです。ところが第4楽章では一転して感情が一気に爆発します。それもそのはず、楽譜には「Mit Feuer」と指定が有ります。直訳すれば「炎とともに」。つまり「炎のような情熱をもって」ということでしょう。これが「ファイヤー!」や「燃える闘魂」では、本当にプロレスリングになってしまいますからね。(苦笑) 
くだらない冗談はさておき、この楽章はシューマンの最も情熱的な感情を表わした傑作だと思います。

そして僕がこの曲が大好きな理由は、最高の名演奏が存在するからでもあります。

Scumann_piano_trio_casalsパブロ・カザルス(Vc)、アレキサンダー・シュナイダー(Vn)、ミエチスラフ・ホルショフスキー(Pf)(1952年プラドでのライブ録音/CBS SONY盤)

大音楽家カザルスは母国スペインで内戦が起こると新政権から逃れてフランスの片田舎プラドに亡命して暮らしました。ある日そこへアメリカから一人で訪れたのが、誰あろうブダペスト四重奏団の2ndヴァイオリニスト、アレキサンダー・シュナイダーだったのです。理由はアメリカで開催するマールボロ音楽祭にカザルスを呼ぶ為です。ところがカザルスはこれを断ります。そこでシュナイダーはカザルスと親しいミエチスラフ・ホルショフスキーに相談します。結果、それならカザルスの住むプラドで室内楽中心の音楽祭を開こうということになったのです。カザルス・ファンなら誰でも知っているこの音楽祭は1950年から56年まで開催されて多くの有名演奏家が参加しましたが、開催資金を出した米コロムビア社(現在のSONY MUSIC)が演奏の録音を行いましたので、我々は音楽祭の記録を鑑賞する事ができるのです。

音楽祭実現の立役者シュナイダー、ホルショフスキー、それにカザルスの3人によるこの演奏は記録としても価値が有りますが、それを別にしても大変に素晴らしいです。シュナイダーはブダペスト四重奏団ではセカンド・ヴァイオリンの担当ですが、実は大変な実力者であり、しばしばセッションではファーストヴァイオリンを弾いています。史上最強のセカンド・ヴァイオリン奏者と言っても過言ではありません。そこにヨゼフ・シゲティとの多くの共演で知られた名ピアニスト、ホルショフスキーが組むのですから何をいわんやです。

第1楽章から第3楽章までの音楽の深さと情熱は既に大変に素晴らしいのですが、第4楽章に至っては真に情熱の爆発が起こります。この曲こそは、炎の音楽家カザルスに最も相応しい曲なのです。実際にこの演奏を耳にしてもらえれば、いま僕の書いていることが少しも大げさで無いことがお分かり頂けることでしょう。それにしてもカザルスは当時既に80歳近く。この情熱は一体どこから来るのでしょう。シュナイダーもホルショフスキーもカザルスと堂々と渡り合って実に見事です。3人の情熱の爆発は上手いの下手のという次元を超えて聴き手の魂を揺さぶります。

この曲については他の演奏で聴くことが有りません。破格の音楽はこの破格の演奏を聴いていればそれで良いかなと思えてしまうからです。唯一、存在感を示しているのは同じカザルスがジャック・ティボー、アルフレッド・コルトーとSP時代にEMIに残した古い録音です。音は貧弱極まりないものの、それはレトロの極みと呼べる演奏で、こちらを好むファンも決して少なく無いと思います。

91w8sr5qphl__sl1500_チョン・キョンファ(Vn)、ポール・トルトゥリエ(Vc)、アンドレ・プレヴィン(Pf)(1978年録音/EMI盤) 
 さて、上記のように書いてはいたのですが、不覚にも素晴らしい演奏が有りました。キョンファのヴァイオリンの音色は暗く悲壮感を強く感じさせるもので、シューマンにぴったりなのです。切れ味と気迫が漲っているのにも大いに惹き付けられます。トルトゥリエはさすがにチェロの大家らしく情緒たっぷりと歌わせていて実に見事です。プレヴィンのピアノも大健闘と言えます。終楽章では三者が情熱的に炎のごとく燃え上っています。この演奏はメンデルスゾーンのトリオ第1番にカップリングされていて、そちらも素晴らしいですが、このシューマンはそれを更に上回る名演奏だと思います。

注:記事の一部を修正加筆しました。またチョン・キョンファ、トルトゥリエ&プレヴィン盤を追加しました。

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コメント

カザルス!
この名前は、私に焼きついているのですが、
実は演奏はほとんど聴いたことが
ありません(汗)

カーシュという、私にとって神様のような
写真家が撮ったカザルス。
それは神々しくて。

ぜひこのCDを聴いてみたいと思いました。

投稿: 四季歩 | 2009年10月23日 (金) 20時15分

四季歩さん、こんばんは。

カザルスの演奏は全てが好きな訳ではないのですが、ツボにハマった演奏はそれは凄いです。他にお薦めはブラームスの弦楽六重奏1番あたりかなぁ。逆にバッハの無伴奏チェロソナタは余り好みません。
カザルスは指揮も凄いですよ。モーツァルトの後期6大シンフォニーは愛聴盤です。これも好みは分かれるかもしれませんが、是非お聴きになられてみて下さい。

投稿: ハルくん | 2009年10月23日 (金) 22時50分

t2さん、こんにちは。
コメントをありがとうございます。

カザルス/シュナイダー/ホルショフスキー盤を調べ直したところ、記事紹介のCBS盤は1952年録音だったようです。リリースが1953年だったのかもしれません。訂正しておきます。
メンブランのセットは音源をEMIとCBSの正規盤から流用しているようなので、恐らく同じ録音です。ただしカザルス音楽祭の録音は膨大なテイクが残されていて、CBS発売以外のものがマイナーレーベルから多く出回っているので実際は分かりません。所有していないので音質も分かりません。

また、カザルス/コルトー/ティボー盤のほうはレトロの極みという感じでやはり素晴らしいです。その方が好きだと言うファンも随分多いと思います。個人的には1952年のCBS録音が好きですが、出来れば両方聴かれてみたら良いと思います。YouTubeでもとりあえず聴くことは出来ます。


投稿: ハルくん | 2015年3月14日 (土) 10時38分

バッハの無伴奏チェロ組曲には、カザルス、ビルスマ、トルトゥリエ、フルニエ、シュタルケル、ナヴァラなど、名盤とされるCDは、たくさんありますが、ハルくんさんは、誰の演奏が好きですか。

投稿: t2 | 2015年4月 1日 (水) 16時43分

t2さん、

無伴奏チェロ組曲はまだ記事が有りませんでしたね。
実はこの曲集は昔ヴィオラ編曲版で練習をしたことがあるのですが、その割に聴き比べをするほど聴いていません。フルニエのアルヒーフ盤は好きですが、カザルスは好みません。

投稿: ハルくん | 2015年4月 1日 (水) 17時29分

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