« シューマン ピアノ四重奏曲変ホ長調op.47 名盤 ~ヴィオロンのためいき~  | トップページ | シューマン ピアノ三重奏曲第1番ニ短調op.63 名盤 ~炎の情熱~  »

2009年10月17日 (土)

シューマン ピアノ五重奏曲変ホ長調op.44 名盤

Imc2193_2 シューマンの室内楽曲の最高傑作であるピアノ五重奏曲は、長年の念願がかなってクララ・ヴィークと結婚した2年目の1842年、所謂「室内楽の年」に作曲されました。もう一つの名作ピアノ四重奏曲曲も、そのひと月後に完成されています。当時は弦楽四重奏にピアノが加わるピアノ五重奏という編成は非常に珍しく、この曲は正にピアノ五重奏曲のパイオニアだったのです。その後もブラームスのそれと並んで、このジャンルの2大名作として君臨しています。

その音楽は実にシューマネスクです。非常に美しくロマンティックなのですが、曲の進行が随分と気まぐれに感じられます。大げさに言えば、なんだか”躁鬱気味”なのです。第1楽章からして、心が沸き立っていたかと思えば直ぐに沈んでしまいます。第2楽章は全体的に沈滞していますが、中間部は焦燥感に襲われて居てもたってもいられないという感じです。第3楽章は元気になりますが、またしても中間部ではメランコリックな気分になったり、再び焦燥感に襲われたりと、典型的な躁鬱状態です。そして第4楽章で、やっと覚悟が決まったかのような安定感を得ます。この楽章は、いかにもドイツ的なリズムで何度も繰り返される主題がとても魅力的で大好きです。

この曲には名盤が多く存在します。僕はどうしても古い時代の演奏を好んでしまうのですが、そこはどうかご容赦ください。

P1000403 ブッシュ弦楽四重奏団、ルドルフ・ゼルキン(Pf)(1942年録音/CBS SONY盤) 20世紀の偉大なヴァイオリニスト、アドルフ・ブッシュの主宰するカルテットの演奏です。但し僕が持っているのはアナログLP盤です。本家のCBS SONYがCD化したかどうかは憶えていませんが、現在は英国Pearlから復刻CDが出ています。録音は古いですが鑑賞に全く支障は有りません。それよりも、演奏自体は本当に素晴らしいです。ドイツ・ロマン派の伝統を継承した最後のカルテットはシューマンの音楽に何と相応しいのでしょうか。濃厚なロマンティシズムと、うつろい易い曲想が最高に生かされた演奏です。テンポの緩急やルバートは自在ですが、それがごく自然に感じられるのは正に名人芸です。若きゼルキンのピアノも偉大なカルテットに一歩も引くこと無く、素晴らしいです。 

410 バリリ弦楽四重奏団、イエルク・デームス(Pf)(1956年録音/MCAビクター盤) バリリSQにはどちらかというと四重奏曲のほうが向いているとは思いますが、この五重奏曲もやはり素晴らしい出来栄えです。ブッシュSQのような濃厚なドイツ浪漫の雰囲気ではなく、古き良き時代のウイーン・スタイルの大変瑞々しい演奏です。この曲としてはやや不健康さに欠ける気もしますが、ゆったりと大きく歌ってくれるので、落ち着いて曲を味わうには最適な美演と言えるでしょう。四重奏と五重奏のカップリング・ディスクを選ぶなら迷うことなくこのCDにすべきです。

Cci00030 ブダペスト弦楽四重奏団、ルドルフ・ゼルキン(Pf)(1969年録音/CBS SONY盤) ブダペストSQはブッシュSQと並んで僕の大好きなカルテット、というよりも20世紀を代表する偉大なカルテットです。男性的で厳しい表現を持ち味としているので、ベートヴェンやブラームスでは絶対的な名演奏をするのですが、シューマンになると少々いかつ過ぎる感が無きにしもあらずです。その点では、ブッシュSQに及ばないというのが正直なところです。とは言え、この演奏はロマンティックな面と力強さを兼ね備えていて非常に素晴らしい出来です。

Cci00026schu01 ゲヴァントハウス弦楽四重奏団、ペーター・レーゼル(Pf)(1983年録音/シャルプラッテン盤) この五重奏曲が初演されたのはライプッチのゲバントハウスですが(ちなみにピアノはクララが弾きました)、そのレジデンス・カルテットでカール・ズスケが第1ヴァイオリンだった時代の名演です。四重奏曲と同じ様に、誠実さとしなやかさを持ちあわせた、正統的なドイツのカルテット演奏として大変素晴らしいと思います。2曲のカップリングCDとしてはバリリQのセカンド・チョイスとしてとてもお薦めできます。

91ey9jjbqrl__aa1420_ ボロディン弦楽四重奏団、スヴャトスラフ・リヒテル(Pf)(1994年録音/テルデック盤) リヒテルとボロディンSQは多く共演しています。シューベルトの「鱒」の録音が有りますが、まるで古いウイーンの団体のように甘いポルタメントを使った素適な名演でした。このシューマンも同様な演奏です。リヒテルは不思議な演奏家で、がさつな演奏をしたかと思うと、極めて繊細な演奏をしたりと、一筋縄で行きません。ですがこの演奏は後者の方で、他のピアニストとは貫禄の違いを感じます。同じコンビの1985年モスクワでのライブがDremiレーベルから出ていますが、モノラル録音で音質は良くありません。

Cci00030b ケルビーニ弦楽四重奏団、クリスティアン・ツァハリアス(Pf)(1991年録音/EMI盤) 1stVnを弾くクリストフ・ポッペンは指揮者、教育者としても知られるドイツのヴァイオリニストです。彼の主催するケルビーニSQは地味な存在ですが、ドイツの伝統を継承する素晴らしい団体です。この演奏もゲヴァントハウスSQあたりよりもずっと落ち着いたテンポの美しい演奏です。ただしシューマンの音楽の持つ濃密なロマンの香りや、気まぐれで移ろい易く不健康さの表出が少々不足するのは好みが分かれると思います。この演奏は3曲の弦楽四重奏曲とのカップリングとして収録されていますが、ディスクの少ない四重奏のほうはオーソドックスな名演としてとても価値が高いと思います。

さて、どれもが優れた演奏なのですが、最も濃厚なロマンティシズムを感じるブッシュSQ/ゼルキンがやはり最高です。ただ、これはアナログ盤ですので、CD限定では、もっとオーソドックスで録音の優秀なボロディンSQ/リヒテルを選びます。それに古きウイーン・スタイルを継承したバリリSQ/デームスも絶対に落とせません。

<補足>
ボロディンSQ盤の紹介をDremi盤からテルデック盤に書き替えました。

|

« シューマン ピアノ四重奏曲変ホ長調op.47 名盤 ~ヴィオロンのためいき~  | トップページ | シューマン ピアノ三重奏曲第1番ニ短調op.63 名盤 ~炎の情熱~  »

シューマン(室内楽)」カテゴリの記事

コメント

ハルくんさん、こんにちは
私はシューマンの室内楽曲はあまり多くは聴いていないのですが、このピアノ五重奏曲は割と繰り返し聴いて来ました。2種類の録音しか持っていませんが、そのうちの、エッシェンバッハのピアノ、ドロルツ弦楽四重奏団の1966年録音をもっぱら聴いています。淡いロマンを感ずる清々しい演奏です。曲本来の響きとは違うかもしれませんが、私には大変魅力的に聴こえます。エッシェンバッハはフィッシャー=ディスカウとの録音も素晴らしく、特にシューマンに向いているように思います。HABABI

投稿: HABABI | 2009年10月17日 (土) 12時30分

HABABIさん、こんにちは。
ご無沙汰しましたがお元気そうで何よりです。

エッシェンバッハ&ドロルツQ盤ですか。
それはとても良さそうなディスクをお持ちですね!残念ながら自分は聴いたことがありません。エッシェンバッハはピアノでも指揮でも現代の音楽家には珍しく、ロマンティックな演奏をする事が多いのでとても好きです。DFディースカウとのシューマン歌曲集は僕もアナログ3枚組みで愛聴しています。いいですよね。
ピアノ五重奏の演奏はそれほど濃密では無さそうですが、大変興味が有ります。貴重な情報をありがとうございました。

投稿: ハルくん | 2009年10月17日 (土) 12時58分

うっひゃ~~~。ハルくんさん。。・゚゚・(≧д≦)・゚゚・。
ブッシュ弦楽四重奏団、ルドルフ・ゼルキン(Pf)(1942年録音/CBS SONY盤)はるりんはこの演奏がとっても聴きたいです。
ディスクユニオンに行って探してきます!!!
ゼルキンさんのシューマンP協を聴いて、はう~~んでしたので。。。
ちなみに今は ゲヴァントハウス弦楽四重奏団、ペーター・レーゼル(Pf)(1983年録音/シャルプラッテン盤)を聴きながらコメントしております。。。
この間ジュリアードQ/グールドのピアノ四重奏曲が欲しくて、見つけて買ったんですけれど、カップリングはバーンスタインのピアノ五重奏曲でした~~~!!!
こんな録音ってあったんですね。w(゚o゚)wびっくりでした。。。

投稿: こんにちは。 | 2009年10月17日 (土) 15時07分

へんなところに。。。。
ここは、名前を入れるところだったんですね。。。
おバカなはるりんです。。。

投稿: はるりん | 2009年10月17日 (土) 15時08分

はるりんさん、こんにちは。

ブッシュQのシューマンは気に入られること請け合いですよ。ただ、中古店で発見できる確立は恐らく低いと思います。
その場合はHMVにオーダーするしかないでしょう。ご参考までに。ちょっぴり試聴もできます。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/329452

グールド、ジュリアードの四重奏曲は昔々聴きました。その時にはあんまり好みじゃないなぁーと思って、それ以来聞いていません。
バーンスタインの五重奏曲は一度も聞いたことが有りませんねぇ。

投稿: ハルくん | 2009年10月17日 (土) 15時35分

ハルくんさん。
さっそくの情報をありがとうございました。
そうか~~~。
HMVでも売っているのですね。。。
もう売っていないものと勝手に勘違いしておりました。。。
どうもありがとうございます。

投稿: はるりん | 2009年10月17日 (土) 15時44分

ハルくんさん
こんにちは

最近になりようやくシューマンのP5重奏とP4重奏が好きになってきました。
聴いているのはピアノがアルゲリチのライヴ盤です。
なかなか良い気がします。
もっと聴き込んだら他の演奏にも手を出したいと思ってます。

投稿: kurt2 | 2009年10月17日 (土) 16時43分

kurt2さん、こんにちは。

シューマンの室内楽はイイですよ~。
是非色々とお聴きになられてください。

アルゲリッチは以前ブラームスのピアノ四重奏の時にも書いたのですが、彼女の90年代後半あたりからの演奏はどうも表情過多というか恣意的というか、心からではなく頭と指で弾いているように感じられてならないのです。若い頃は感性に任せて弾いていたので心を打たれたのですけどね。それと不自然な間合いと16分音符を伸縮自在に弾き飛ばすのに抵抗があるのです。ワルター・バリリ教授がどこかで「16分音符は一つ一つがきちんと聞こえなければならない」と言っていました。その点でも逆行します。けれども凄いメンバーの、凄い演奏なのは確かですね。
すみません、せっかく気に入られている演奏なのに余計な事を述べてしまいまして。これは好みの問題ですので、お気を悪くなさらないで下さい。

投稿: ハルくん | 2009年10月17日 (土) 17時25分

ハルくんさん、おひさしぶりです。
貴兄ほどシューマンに詳しくないですが、上手い奏者でなければ格好がつかないのが、シューマンの室内楽ではないでしょうか。もっともそれは必要条件で、十分条件ではありませんが(アルゲリッチのように)。

投稿: かげっち | 2009年10月30日 (金) 15時41分

かげっちさん、お元気そうでなによりです。

ああは言いましたが、アルゲリッチは好きな演奏も沢山有るのですよ。室内楽でもヴァイオリンソナタの伴奏なんかはとても好きです。あの表情過多の弾き方が好きだというファンも多いと思います。

投稿: ハルくん | 2009年10月30日 (金) 23時17分

t2さん、こんにちは。

自分はCDは持っていませんが、ボザール・トリオは数少ない常設の名ピアノトリオですし、破格の演奏家たちと比べるとやや普通には聞こえますが、5曲まとめて手に入ると言うことでリファレンスとするには良いと思います。
ただ、このCD既に廃盤では?中古であれば入手できるのでしょうが。

投稿: ハルくん | 2015年3月14日 (土) 16時08分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: シューマン ピアノ五重奏曲変ホ長調op.44 名盤:

« シューマン ピアノ四重奏曲変ホ長調op.47 名盤 ~ヴィオロンのためいき~  | トップページ | シューマン ピアノ三重奏曲第1番ニ短調op.63 名盤 ~炎の情熱~  »