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2009年7月

2009年7月25日 (土)

ドヴォルザーク 交響曲全集 名盤  ~愛~ 

Naoekabuto ドヴォルザークは交響曲を全部で9曲書いています。さすが後期の第7番、第8番、第9番「新世界より」の3曲は傑作でクラシックファンに広く愛好されています。ところが第6番以前の作品はどうかと言えば、一般的にはほとんど聴かれていないと思います。確かに音楽の充実度において、かなりの差が有るのは事実です。それでも後期の3曲や「チェロ協奏曲」、弦楽四重奏曲「アメリカ」などを好んでいるドヴォルザークのファンであれば、是非とも全曲を聴いて頂きたいと思います。何と言っても、ここには作曲家ドヴォルザークの「音楽愛」「故郷ボヘミアへの愛」が満ち溢れているからです。

ドヴォルザークの交響曲は、最初に第6番から出版されましたので、現在の第6番が以前は「第1番」でした。ちなみに現在の第7番が「第2番」、第6番が「第3番」、第8番が「第4番」、「新世界より」が「第5番」と少々ややこしいのです。古い中古のLP盤にはそのように記載されているものがまだ残っています。

曲の充実度としては、円熟の「7番」「8番」「新世界より」に次いでは「4番」「5番」「6番」が優れています。特に「6番」には録音の種類もそれなりに有りますし、単独で聴いてみてもとても美しく魅力ある曲です。激しい舞曲のフリアントを用いた第3楽章の躍動感にはわくわくします。

「第4番」「第5番」にも「第6番」に準じた魅力を感じます。美しく叙情的ですが、立体的な部分との対比も曲に変化を感じさせます。第6番を楽しめる方なら、間違いなく気に入ることと思います。

しかし「第1番」「第2番」「第3番」になると、さすがに習作の印象が強く、音楽に未成熟さを感じてしまいます。

とはいえ第1番「ズロ二ツェの鐘」には若い時代にしか書けないような青春の瑞々しい息吹がとても感じられて個人的に好んでいます。ズロ二ツェというのはドヴォルザークが若い頃に住んでいた町で、確かに鐘が有ったそうです。たとえ「若書き」の未熟さはあっても、ファンには是非とも聴いて頂きたい作品です。

僕自身、全集盤は滅多に聴くことは有りませんが、1年に1度ぐらいは気が向いて順に聴くことが有ります。そして、何かとても懐かしさを憶えて心が満たされます。ドヴォルザークのファンにはそれで充分なのです。

全集盤は種類も限られていますが、ここで幾つかをご紹介しておきます。

449 ラファエル・クーベリック指揮ベルリン・フィル(1970年代/グラモフォン盤) 僕がまだ学生の時に最初にアナログLP盤で購入した全集です。現在はもちろんCDで出ています。当時は後述のノイマン盤かこのクーベリック盤の選択しかありませんでしたが、当時大好きだったクーベリックの選択で迷いませんでした。確かに初めのうちは気に入っていたのですが、友人の購入したノイマン盤と聴き比べているうちにベルリン・フィルの余りにも立派でぶ厚い響きに段々と違和感を感じるようになりました。「こりゃボヘミアの空気とは違うなぁ」という気がしたのです。やはりボヘミア音楽の演奏には素朴さを残して置いて欲しいと思うのです。もっともドイツ的な重圧さを持つ第7番の演奏だけは例外的に今でも好んでいます。

Cci00051b ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル(1970年代/スプラフォン盤) ノイマンの一回目の全集です。学生当時に友人の家で何度も耳にしたこの演奏は、スプラフォン録音のあの幾分硬めでかつ素朴さを感じるチェコ・フィルの音を満喫出来ました。その音の印象がCD化されても変わりが無いのは嬉しいです。ノイマンの指揮にも全体的に若々しい覇気が感じられて素晴らしいですし、この演奏はドヴォルザークが愛したボヘミアの自然を大いに連想させてくれます。唯一問題が有るとすれば第8番です。どういうわけだか演奏が少々「がさつ」なのです。この曲以外の演奏が非常に良いのでとても残念です。

Cci00052 ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル(1980年代/スプラフォン盤) ノイマンの二回目の全集です。DENONのスタッフがプラハに乗り込んでデジタル録音された音は一回目の純スプラフォン録音と随分違いを感じます。けれども、むしろこちらの方がより本物に忠実な音だと思います。というのは実際に生で聴いたノイマン/チェコ・フィルの音は非常にきめ細かく繊細な美音であり、それはこの録音の音に近いと記憶しているからです。演奏も全曲ともまとまりが良く失敗作が有りません。但しその分、旧盤と比べて個性がやや薄く感じられるのも事実です。もしもノイマンの新旧盤のどちらか一つ選ぶとすると大変に難しい選択ですが、個人的には新盤の方を上げるでしょうか。

これ以外に、今後入手したいと思っているのは廃盤ですがズデニェック・コシュラー指揮スロヴァキア・フィルの70年代のOPUS録音、それと最近のウラジミール・ヴァーレク指揮プラハ放送響の二つです。ヴァーレク盤を既にお聴きになられた方はご感想をお聞かせ下さると嬉しいです。

(補足)
ノイマン盤の選択を、当初の旧盤から新盤へ変更しました。
ヴァーレク盤を購入しました。記事は下記リンクから。

<後日記事>
イルジー・ビエロフラーヴェク指揮チェコ・フィル ドヴォルザーク 交響曲全集
ウラジミール・ヴァーレク指揮プラハ放送響のドヴォルザーク 交響曲全集

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2009年7月20日 (月)

ドヴォルザーク 交響曲第7番 ニ短調op.70 名盤

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ドヴォルザークの交響曲の中では、この「第7番」が「新世界より」「第8番」に次いで人気が高いです。それ以前の交響曲もどれもが佳曲と呼べますが、この3曲では音楽の充実度が明らかに増しています。第7番はドヴォルザークがブラームスの「交響曲第3番」を意識して作曲したと言われますが、確かにそれらしい曲想と重厚な響きを持つ作品になっています。もちろん、他の交響曲のようにボヘミアの雰囲気を漂わせていることには変わらないのですが、最もドイツ的な要素が強いのが第7番です。4楽章構成で、どの楽章も大変に魅力的ですが、個人的には第2楽章の牧歌的なアダージョと第3楽章の哀愁漂う名旋律のスラブ舞曲風スケルツォが大好きです。

ところで、この第7番はイギリスのロンドン・フィルハーモニー協会から依頼されて作曲をし、ドヴォルザーク自身の指揮でロンドンで初演されました。ということは「イギリス」の副題を付けるにふさわしいのは、第8番よりもむしろこちらの曲の方なのです。音楽業界も案外といい加減なものですね。

それでは恒例の愛聴盤のご紹介に移ります。

51stsqodil ジョージ・セル指揮クリーヴランド管(1960年録音/CBS盤) セルのスタジオ録音は大抵の場合で、演奏に冷静過ぎる印象が強く、余り好みません。この演奏はオーケストラのアンサンブルの切れの良さは最高ですし、非常に引き締まった音には凄みすら感じます。ボヘミアの情緒にも決して欠けるということでもありません。けれども、どうしても聴いていて息苦しさが感じられます。第8番のように晩年に再録音を残してくれていたら良かったのですが。

4125wgppchl ズデニェック・コシュラー指揮チェコ・フィル(1964年録音/スプラフォン盤) コシュラーの録音としては最初期のものでとても貴重です。指揮解釈自体は極めて堅実なもので、少々地味過ぎるほどです。テンポは中庸、大袈裟に歌わせることは有りません。やや面白みには欠けますが、この演奏の最大のポイントは、アンチェル全盛時代のチェコ・フィルの厳しく引き締まった音で第7交響曲が聴けるという点です。これはチェコ・フィルのファンにとっては何物にも代え難いことです。

41mzerdas2lラファエル・クーベリック指揮ベルリン・フィル(1971年録音/グラモフォン盤) 僕が最初に買ったこの曲のディスク(ただしLP盤)はクーベリック指揮ウイーン・フィル(DECCA盤)でした。これは非常に良い演奏で愛聴しましたが、その後ベルリン・フィルとの全集(グラモフォンのLP盤)を買ってからは、愛聴盤はそちらに変わりました。ベルリン・フィルの演奏はスケールの大きさで他の演奏を圧倒しているのと、第7番以外の曲の場合のようにベルリン・フィルの近代的な響きが余り気にならないので好んでいます。

410jypp5j2l__ss500_ ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル(1972年録音/スプラフォン盤) ノイマンはこの曲を1972年と1981年の新旧2度の交響曲全集の為に録音を行っています。演奏の出来栄えとしては、ほとんど差が有りません。強いて言えば演奏の覇気を強く感じるのが旧盤で、まとまりの良さでは新盤というところです。けれどもその違いは極めて小さいものです。録音もアナログの旧盤とデジタルの新盤どちらも優秀ですので、これは音の好みの問題だと思います。個人的にはどちらかいうと旧盤の方に幾らか惹かれています。

418meqgepcl__ss500_ ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1978年録音/オルフェオ盤) ベルリン・フィル盤は非常に聴きごたえの有る素晴らしい演奏ですが、同時にボヘミアの素朴さも求めたくなると、ベルリン・フィルよりも手兵のバイエルン放送響のほうに適正を感じます。従って、この曲についてはその時の気分で聴き分けることにしています。それにしても、クーベリックの演奏で聴くと、この曲の風格が一段も二段も上がったように感じるのは流石です。

Dovocci00052_2 ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル(1982年録音/スプラフォン盤) ノイマンにはこの曲に3種類の録音が有りますが、どれも解釈は似かよっていますし優れた演奏です。ですので、どれを選んでも失敗は有りません。この二度目の録音は、演奏のまとまりの良さでは一番なのですが、逆に特徴が薄く感じられるかもしれません。個人的な好みを言えば、前述の通り旧録音盤と、晩年のライブ盤のほうを僅かに気に入っています。

Cci00006 ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル(1991年録音/CANYON盤) ノイマン/チェコ・フィルの3度目の録音は東京芸術劇場でのライブ盤です。この時のライブの第8番はスプラフォン盤に比べると劣っているように感じるのですが、第7番については逆にスプラフォン盤以上に気に入っています。円熟した演奏でありながら、覇気とスケールの大きさを一層感じさせるからです。一般的にノイマンは個性の無い指揮者と見られがちですが、晩年の一連のマーラー作品の録音などと合わせてそれが大きな誤りであることを充分証明する演奏です。

Cci00055 ズデニェック・コシュラー指揮チェコ・ナショナル響(1994年録音/ビクター盤) コシュラーは1964年のチェコ・フィルとの録音のあとに、1970年代にはスロヴァキア・フィルと二度目の録音を行なっています。従ってこのチェコ・ナショナル響との録音は3度目になります。ところが8番、9番と違って意外に魅力を感じません。叙情的な部分ではさすがにコシュラーだけあって美しいのですが、緊迫感を要求される部分にそれが欠けている印象です。

ということで、僕が特に好きな演奏は、クーベリックのベルリン・フィル盤とバイエルン放送響盤の2種類、それにノイマン/チェコ・フィルの72年盤と91年盤の2種類です。この曲の持つスケール感とボヘミアの味わいを両立させている演奏は決して多くは無いと思います。

せっかくですので、次回は第1番から第6番までの曲についてを「全集盤」として触れてみようかと思います。

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2009年7月17日 (金)

ドヴォルザーク 交響曲第8番 ト長調op.88 名盤

Dvorak1 通称「ドボ8」。と言いましても、ドロボーの八っあんでは有りません。ドヴォルザークの交響曲第8番です。この曲は「新世界より」と並んでオーケストラ・コンサートの定番プログラムですね。とても親しみやすく、変化に富んでいるので、これからクラシックの管弦楽を聴き始めようという人にお勧めする10曲に入れても良いのではないでしょうか。僕も、かつては飽きるほど聴きました。最近はそれほどは聴きませんが、なにしろ爽やかな曲なので湿度が高くジメジメした今頃の季節にはスメタナあたりと並んでとても聴きたくなります。

この曲は最初にロンドンの出版社から楽譜が出版されたので、よく「イギリス」と呼ばれますが、音楽そのものには何の関連性も有りません。むしろ曲想は極めてチェコとスロヴァキアの自然を感じさせるので、「ボヘミア」と呼びたいぐらいです。曲は第1楽章や第4楽章の高揚する生命力も素晴らしいですが、第2楽章のボヘミアの草原を感じさせる牧歌的な美しさや、第3楽章の正にグラツィオーソで哀愁漂うスラブ風舞曲と、実に変化に富んでいて飽きさせません。でもひとつだけ第4楽章の中間部の転調後に土俗的なリズムに乗って♪タンタンターン、タタタタターン♪と繰り返される部分が何故か「コガネムシ~は金持ちだ~」に聞こえるのは僕だけでしょうか。その後更にフォルテシモでコガネムシの大合唱になってからは正に圧巻です。(笑) ちなみに黄金虫のメロディを聴いてみたい方は下記のリンクからどうぞ。
「黄金虫(こがねむし)」

さて、「黄金虫」を聴いて笑って頂いたところで、恒例の愛聴盤コーナーです。

Cci00005 カレル・アンチェル指揮チェコ・フィル(1960年録音/PRAGA盤) アンチェルはこの曲のスタジオ録音を残しませんでした。これは本当に悔やまれることです。この演奏はプラハでのライブです。録音はモノラルですが、年代を考えると音質は標準レベル程度です。ところが演奏に関しては驚くほどの素晴らしさです。アンチェルはスタジオでは造形性を重視した比較的冷静な演奏を残しますが、ライブでは時に阿修羅のような演奏をします。この8番も弦は表情豊かに歌い、管楽器/打楽器は迫力一杯に鳴らし切ります。時に熱くなり過ぎて崩れることも多々ですが、この演奏ではぎりぎりの所で踏み留まっているので、その感動は比類が有りません。このCDは海外盤のみですが、中古店ではよくカップリングされたドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲の棚に紛れていますのでご注意を。

61hg1zds72l__ss500_ジョージ・セル指揮クリーブランド管(1970年録音/EMI盤) よく言われることですが、スタジオ録音の場合にはどうも冷静過ぎて面白みの無い演奏が多いセルはライブになると相当に人が変わります。しかしこの晩年のEMIへの録音はスタジオ演奏にもかかわらず冷たさを余り感じません。むしろスケールの大きさとじわじわと高揚感の湧く素晴らしい演奏です。オケの上手さは比類ないのですがそれがかつてのように機械的には感じさせないのです。これに比べるとCBSの旧盤はやはり演奏が窮屈で面白く有りません。

Cci00051b ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル(1972年録音/スプラフォン盤) ノイマンの一回目の全集盤に収められていますが、現在単売はされていないかもしれません。2度目の録音に比べると、強い表現意欲を感じます。テンポやダイナミクスの振幅が大きいのです。但しそれが多少流れの悪さにもつながり、必ずしもプラスとも思えません。この辺りは聴き手の好みだと思います。録音は優秀なアナログなので、音の柔らかさを感じます。アナログ好きな人には非常に良いと思います。

418meqgepcl__ss500_ ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1976年録音/オルフェオ盤) クーベリックもこの曲を得意にしていて日本でもこのコンビで燃え上がるように熱い演奏を聞かせてくれました。この本拠地ミュンヘンでのライブではもう少しゆとりを持って演奏していますが、繰り返して聴くにはそれがプラスに感じます。「新世界より」と同様にベルリン・フィルとの録音も有りますが、僕はバイエルン放送響の音のほうがずっと好きです。あとはチェコ・フィルと晩年に録音を残してくれていれば良かったとは思うのですが。

Dovocci00052_2 ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル(1982年録音/スプラフォン盤) ノイマンにはこの曲には3種類の録音が有りますが、最も優れているのは断然この二度目の全集への録音です。最初の1972年の録音では楽器バランス、リズム、歌い方の流れがいまひとつなのと、1991に日本でCANYONに残した録音はどうも演奏に覇気が感じられないからです。その点、この1982年盤は音楽の自然な流れの良さが抜群で、かつて自分が70年代に東京文化会館で聴けた、覇気があり素晴らしく美しい音のチェコ・フィルの生演奏を思い出させてくれます。この曲の理想的な演奏だと思います。

Cci00006 ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル(1991年録音/CANYON盤) ノイマン/チェコ・フィルの3度目の録音はオーチャードホールでのライブ盤です。この時のライブの7番についてはスプラフォン盤以上に気に入っていますが、8番はどうも演奏に覇気と切れの良さが不足するように感じられます。凡百の演奏に比べれば遥かに素晴らしいですが、ノイマンの8番を聴くなら、やはりスプラフォンの新旧盤のほうを聴いた方が良いと思います。

Cci00055 ズデニェック・コシュラー指揮チェコ・ナショナル響(1994年録音/ビクター盤) この演奏では新生楽団がなかなか美しい音を聞かせています。アンチェルやクーベリックに代表される爆演型とは対照的に非常に落ち着きとゆとりのある演奏なのでなかなか気に入っています。熱狂でなく美しさに重点を置いた第4楽章などは誠にユニークだと思います。やはりコシュラーは只者では有りません。第8番については、スロヴァキア・フィルとの旧盤は長いこと聴いていませんが、むしろこの新盤の方が良いような気がします。

以上の中から更に絞リ込むとすれば、モノラル盤ながらもアンチェル/チェコ・フィルの1960年ライブ盤が最高です。ステレオ録音の中では、オーソドックスで何度聴いても飽きない名演としてノイマン/チェコ・フィルの1982年盤、というところです。

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2009年7月11日 (土)

ドヴォルザーク 交響曲第9番ホ短調「新世界より」op.95 名盤

Dvorak2スメタナがチェコ国民楽派の開祖なら、ドヴォルザークはそれを集大成した偉大な音楽家です。昔から僕はこの人の作品が大好きなのですが、特に「新世界より」は自分が一番最初にハマったクラシック音楽なので大変に想い出の深い曲です。
第1楽章の序奏が静かに始まり、徐々に高揚して主部に移るまでの展開にはドキドキしますし、中間部での落ち着きから再び終結部に向って追い込みをかけてゆく緊張感は本当に素晴らしいです。
第2楽章の主題には歌詞が付けられて「家路」として有名ですが、望郷の念が一杯に溢れる旋律が胸に染み入ります。特に中間部の寂寥感溢れる部分は言葉にならないほどです。「お兄さん、失恋した後にはね、これは涙無しにゃ聞けないよ。あんたわかるかい?」(フーテンの寅さん風)
第3楽章のスラブ舞曲風のスケルツォも楽しいですが、第4楽章の勇壮な主題は最高です。これぞオーケストラを聞く醍醐味だと言えるでしょう。後半の展開は少々単調になりますが、これはご愛嬌ということころでしょう。

何度も書いていることなのですが、僕はこの手の国民楽派の曲は、同じ国の演奏家以外にはどうも興味が湧いてこないのです。かつてはバーンスタインや、カラヤン、セルやケルテスといった指揮者の演奏も聴きましたし、一般的にはケルテス盤などは非常に良い演奏だと思います。ですが最近は、本当にボヘミア人がボヘミアの楽団を指揮した演奏以外はほとんど聴きません。それによって失うものよりも、逆に新たに見えてくるものが有るとも思っています。ということで「新世界より」の愛聴盤をご紹介してゆきます。

Cci00050 ヴァーツラフ・ターリッヒ指揮チェコ・フィル(1949年録音/スプラフォン盤) チェコ・フィルを世界的な名楽団に育て上げたターリッヒの代表盤と言える名盤です。この時代にしては極上の音質なのも価値を失わない理由でしょう。現代の多くの演奏がいわば機械造りの陶器だとすれば、これは名人の手による逸品という趣で、造形の崩れは有りませんが手造りならではの味わいに満ちています。多くのチェコの後輩指揮者達が影響を受けた、その原点となる演奏だと言えます。

Cci00050b ヴァーツラフ・ターリッヒ指揮チェコ・フィル(1954年録音/スプラフォン盤) 何故か前述の49年盤が何度も再発売されてきた影に隠れてしまった新録音盤なのです。音質は更に優れていますが、管楽器や打楽器が前に出て聞こえるのはむしろ49年盤。なので一聴すると49年盤のほうが迫力が有るように感じられます。けれども音楽の深さと言う点では54年盤のほうが更に数段優れています。現在はターリッヒ・エディションという海外盤のみしか出ていませんが、これは24Bitのマスタリングが高音強調で音質的に感心できません。中古店で根気よく旧盤を探されることをお薦めします。

Cci00051 カレル・アンチェル指揮チェコ・フィル(1961年録音/スプラフォン盤) これはステレオ時代の古典的名盤です。アンチェルは名指揮者であるにもかかわらず、歴史の荒波に押し流された人生を過ごしました。しかしこの「新世界より」の録音は正にこの曲のリファレンスといえる名盤です。この演奏を聴かずしてこの曲は絶対に語れません。全盛期のチェコ・フィルの音が聴けるという点で非常に価値が高いですが、実はCDによって随分音質が異なります。正直一番良いと感じるのはやはりアナログ盤です。以前記事にしたことが有りました。CDで選ぶとすればやはり最新リマスターのXrcd盤ということになるのでしょうが、価格が高いのがちょっと難です。案外アナログの柔らかい音に近くて良いのは旧リマスターで、日本コロムビアの国内盤、スプラフォンの海外盤のどちらもお薦めできます。最も気に入らないのは現在のDENONの24Bit盤です。高音が非常に強調されていてチェコ・フィルでは無くまるでアメリカのオケのように聞こえるからです。

アンチェル/チェコ・フィルのコンビのライブ録音は自分の知る限り2種類有ります。ひとつは1963年ザルツブルクのライブ(オルフェオ盤)です。演奏そのものはスタジオ盤以上に素晴らしいのですが、モノラル録音で音がパリッとしないのでどうもチェコ・フィルの音に聞こえません。ですので一般的にはお薦めしません。もうひとつは1958年アスコーナでのライブ(aura盤)です。これは非常に激しい演奏ですが演奏と録音の楽器バランスが崩れていて抵抗感が有ります。面白い演奏とは思いますが繰り返し聴くには向かないと思います。

3203050754 ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル(1972年録音/スプラフォン盤) ノイマンは70年代と80年代にドヴォルザークの交響曲全集を二度録音しました。これは最初の全集からの演奏です。当時はノイマンは前任のターリッヒ、アンチェルと比べると個性に乏しく演奏も生ぬるいように感じましたが、イメージを一新させたのは東京で聴いた実演です。その時は8番を聴いたのですが、非常に瑞々しく美しい音の名演奏でした。この9番もアナログ録音らしく柔らかく良い音を味わえます。欠点はティンパニーの音がこもっていることですが、全体としては非常に素晴らしい出来です。

P1010072ズデニェック・コシュラー指揮スロヴァキア・フィル(1973年録音/ビクター盤) コシュラーは都響に度々客演しましたので日本にとって馴染み深いですが、この人は実に素晴らしい指揮者でした。この演奏を初めて耳にしたアナログ盤を当時はアンチェルやノイマン盤以上に気に入っていましたが、それを手放してからは長い間聴いていませんでした。ところが最近、CDを入手して改めて聴いてみると、余りの素晴らしさにかつての感動が甦りました。テンポの微妙な加減が絶妙です。第2楽章のどこまでも沈み込んでいくような情緒の深さも底知れません。それに、スロヴァキア・フィルはチェコ・フィルとは違って完全にローカル・カラーの素朴な音色であるのが何とも魅力的です。但し注意点として、原盤元の海外オーパス・レーベル盤は第3楽章の冒頭の音が欠落しています。従って国内のビクター盤で入手するべきです。

Cci00054b ズデニェック・コシュラー指揮チェコ・フィル(1979年録音/Panton盤) コシュラーが最も魅力的な演奏をするのはどうもスロヴァキア・フィルとのコンビのように思います。チェコ・フィルとのライブともあれば大いに期待したいところでしたが、どうも今ひとつ自分の表現をし尽していないのです。名門オケへの遠慮があったのかどうかは判りませんが、ともかくスロヴァキア・フィル盤のような個性と深みが出ていません。むろん悪い演奏とは思いませんが別の指揮者が振ったのと余り変わらない気がします。

Cci00055b ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1980年録音/オルフェオ盤) クーベリックはもちろんチェコ出身ですしチェコ・フィルとの演奏も有りますが意外に期待外れです。またベルリン・フィルとの演奏にいたってはカラヤン全盛時代のオケが派手な音で鳴り響き過ぎて全然良くありません。その点、手兵のバイエルン放送盤は充実した演奏となっていますが決して過剰なところが有りません。純血の組み合わせ以外では僕が一番好きな演奏です。

51iqvpughll ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル(1981年録音/スプラフォン盤) ノイマン2度目のデジタル録音盤です。72年盤と比べた場合、バランスの良さと造形感では優れますが、演奏の覇気はやや劣る印象です。どちらもオーソドックスな名演なのでなかなか優劣は付け難く、結局は聴き手の好み次第だと思います。実際に僕も以前は新盤が良いと思っていましたが、今回聴き直すとオケの音色の点で旧盤のほうにより惹かれました。

Cci00053b オンドレイ・レナルト指揮ブラティスラヴァ放送響(1987年録音/Amadis盤) レナルトもかつての新星日響に客演していたので日本では馴染みが有るかと思います。でも大変地味な存在ですね。このCDは海外盤ですが日本で何枚販売されたのでしょう。相当少ないでしょうね。ところがこの演奏は実に素晴らしいのです。派手さとは無縁の地味な指揮者の滋味溢れる演奏ですが、終楽章は充分な迫力も見せます。録音も良いですし、オケの響きがスロヴァキアフィル以上に田舎臭いのがとても魅力です。

Cci00053 イルジー・ビエロフラーヴェク指揮チェコ・フィル(1989年録音/スプラフォン盤) ビエロフラーヴェクは僕がまだ大学生の頃に日フィルに客演した生演奏を聴いた記憶があります。ところがどんな演奏だったかを全然憶えていません。なので、さほど興味の有る指揮者では無かったのですが、この「新世界」の演奏は中々に良いのです。極めてオーソドックスで安定感が有ります。特別な天才の閃きこそ感じませんが、常にゆとりが有るので安心してこの名曲を味わうことが出来ます。ある意味でノイマン以上にリファレンス的かもしれません。録音も優秀です。

Cci00055 ズデニェック・コシュラー指揮チェコ・ナショナル響(1994年録音/ビクター盤) コシュラーが初代音楽監督になった新生オーケストラとの演奏です。コシュラーは若い時から天才的な演奏をしたかと思うと、個性の無い演奏をしたりと出来不出来の多い指揮者だというのが僕のイメージです。この円熟期の演奏も決して悪くは無いのですが、オケがまだ熟成したわけでもなく、かといってローカル色が強いわけでもなく、少々魅力の乏しさを感じてしまいます。やはり僕としてはスロヴァキア・フィルと再録音を行って欲しかったというのが正直なところです。 

Cci00052b ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル(1995年録音/CANYON盤) ノイマンはこの僅か2年前の93年にもライブ録音を残していますが、個人的には最後の95年録音を好んでいます。最晩年のかなり枯れた演奏なのですが、力みの一切無いところが逆に何とも言えない風情を醸し出しています。まさか「新世界より」でこんな”白鳥の歌”のような演奏が実現可能だとは思いもしませんでした。但し一般的に、特に若い世代のファンに受け入れられるかはちょっと分かりません。

Dvorak_51xj1q9ogblイルジー・ビエロフラーヴェク指揮チェコ・フィル(2013年録音/DECCA盤) ビエロフラーヴェクのチェコ・フィルとの新録音の全集から分売されました。非常に録音が良く、柔らかく広がる音が心地が良いです。中低域に厚みがあるので重心が低く安定感が有ります。金管が弦楽器と良くブレンドされているので、響きが美しい反面、人によっては迫力不足に感じられるかもしれません。ビエロフラーべクはアゴーギクを微妙に加えて曲想の変化を感じさせることに成功しています。と言ってドラマティックでわざとらしい変化は少しも見せません。あくまでも自然な範囲です。

以上、「新世界より」の愛聴盤でした。現在特に気に入っているのは、ターリッヒ/チェコ・フィルの1954年盤、アンチェル/チェコ・フィルの1961年盤、コシュラー/スロヴァキア・フィル1973年盤、ビエロフラーヴェク/チェコ・フィルの2013年盤、次点としてレナルト/ブラティスラヴァ放送響盤です。

<補足>
コシュラー/スロヴァキア・フィル盤の記事を海外盤から国内盤に書き替えました。
ビエロフラーヴェク/チェコ・フィルの2013年盤を新たに追記しました。

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2009年7月 5日 (日)

スメタナ 連作交響詩「我が祖国」 名盤

7月になりました。梅雨時というのは毎日がじめじめと蒸し暑くて嫌なものですね。四季の変化を味わえる日本に生れて良かったとは思いますが、この時期だけは梅雨の無い国に移動したくなります。でも日本でも北海道のように梅雨の無い土地も有るのですよね。とっても羨ましい限りです。

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実は僕が毎年この嫌な季節に無性に聴きたくなるのが「モルダウ」なのです。だってこの曲は本当に爽やかじゃありませんか。森の泉から湧き出た水の流れが徐々に川幅を増していって、いつしか大河の流れになる情景が実に見事です。それになんといってもあの主題は稀代の名旋律ですしね。「モルダウ」はチェコ国民楽派の開祖スメタナが書いた6曲の連作交響詩「我が祖国」の第2曲目です。6曲というのは順に1.「高い城」 2.「モルダウ」 3.「シャールカ」 4.「ボヘミアの森と草原より」 5.「ターボル」 6.「ブラニーク」です。

僕は第1曲の伝説上のチェコ建国の象徴であるヴィシェフラト城の栄光と没落を描いた「高い城」と、この「モルダウ」の2曲をよく聴きます。気が向いて「シャールカ」まで聴いてしまうと、大抵はそのまま全曲鑑賞になります。5、6曲目の「ターボル」「ブラニーク」は演奏によっては曲が単調に感じられることも有りますが、自国チェコの演奏家であればいずれも民族の共感に溢れていますので退屈することはまず有りません。僕はこういう曲はどうしてもチェコの演奏家で聴きたくなります。他の国の演奏家のものではどうも気分が落ち着かないのです。ですのでご紹介するCDはほとんどが本場物ということになりますが、どうかご容赦ください。

Cci00048 ヴァーツラフ・ターリッヒ指揮チェコ・フィル(1954年録音/スプラフォン盤) ターリッヒはチェコ・フィルを世界的な名楽団に育てた大指揮者ですし、実際に「新世界より」のようなベストの座を争うような名盤も存在します。この「わが祖国」の演奏も味わい深さという点では非常に優れているのですが、録音が古いのがマイナスになっています。個人的にはどうしてももっと録音の良い演奏を聴くことが多いです。

511ess67kxl__ss500_ カレル・アンチェル指揮チェコ・フィル(1963年録音/スプラフォン盤) 全盛期のチェコ・フィルの音を聴くことができる名盤だと思います。アンチェルとしても「新世界より」とこの「わが祖国」は代表盤と言って良いでしょう。ですので僕も昔からずっと愛聴してきました。但し比較的最近リリースされた後述の1968年の歴史的ライブ盤を聴いてしまってからは少々影が薄く感じてしまいます。後半の3曲などはもっと熱く演奏できたはずだと思うのです。まあ、スタジオ録音では仕方が無いのかもしれません。

Cci00049 カレル・アンチェル指揮チェコ・フィル(1968年録音/Radio Servis盤) アンチェルは1968年にアメリカへ演奏旅行中に祖国でプラハの春事件が起きた為に帰国を断念。亡命の道を選びました。その直前の「プラハの春音楽祭」でのライブ録音が残されています。これはスタジオ録音盤とは次元の全く異なる演奏です。アンチェルがライブでどんなに熱く凄い演奏をしていたかの証明でしょう。果たしてこの時に彼が祖国に起きる事件を予感していたかどうかは分かりませんが、第1曲からエネルギー全開で特に「シャールカ」以降は驚異的にテンションの高い熱演を果たしています。この演奏だけは色々な意味で何を置いても必聴です。

51lj40glfml__ss500_ ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル(1975年録音/スプラフォン盤) ノイマンには東京でのライブ録音盤も有りますが、演奏はこのスタジオ盤のほうが優れていると思います。録音も含めてオーソドックスな名盤を選ぶとすればアンチェルのスタジオ盤に次いではこのノイマン盤が上げられるのではないでしょうか。ノイマン/チェコ・フィルはこの録音の頃に東京で生演奏を聴いていますが、それは本当に瑞々しく、ほれぼれする美しい音と演奏でした。

51rksbz3scl__ss500_ ヴァーツラフ・スメターチェク指揮チェコ・フィル(1980年録音/スプラフォン盤) スメターチェクもチェコが生んだ名指揮者です。派手な人気は有りませんが、この人にチェコのお国ものを演奏させたら、他の巨匠指揮者達に充分匹敵する演奏を成し遂げます。この「わが祖国」もとてもスケールが大きく血の共感を感じる名演です。チェコにはかつてシェイナとかグレゴルとかやはり同じような意味で非常に優れた指揮者が多く存在しました。

Smetana_044ラファエル・クーべリック指揮ボストン響(1971年録音/グラモフォン盤) クーベリックの「我が祖国」の録音は5~6種類有ったかと思いますが、恐らくは入念なセッション録音が行われたことが想像されるこの演奏はバランスが最も整っています。更に新しい録音と比べても楽器の分離が明確でスコアを見るには適しています。クーベリックの指揮にもセッション録音とは思えないほど熱が入っていて聴きごたえがあります。ボストン響は元々優秀ですが、柔らかいヨーロッパ的な響きと力強さの両方を持ち合わせていてチェコの楽団で無くても非常に魅力が有ります。

41tggf92p6l__ss500_ ラファエル・クーべリック指揮チェコ・フィル(1990年録音/スプラフォン盤) これは「プラハの春音楽祭」でチェコ・フィルと42年ぶりに共演した演奏です。同じコンビの日本でのライブ演奏もCD化されていますが、ホームでの歴史的な録音という点で個人的にはこの演奏を感慨に浸りながら楽しむことが多いです。この演奏には、その時の演奏家達の喜びが自然と滲み出ているからです。演奏には初めのうちは手探りさを感じますし、モルダウの冒頭のフルートも不揃いです。けれども徐々に高揚してゆく演奏がいかにもライブという趣で楽しめます。録音も聴き易いです。

Cci00048k ラファエル・クーべリック指揮バイエルン放送響(1984年録音/オルフェオ盤) クーベリックのこの曲の録音は多く、チェコ・フィル盤以外にもボストン交響楽団を指揮したグラモフォン盤や、手兵のバイエルン放送響盤を指揮したこの録音も非常に優れています。オーケストラの持つ音色ではチェコの楽団の魅力には及びませんが、クーベリックの表現力が最も強く出ていて、しかも堂に入っているのはこの演奏のように思います。録音は悪くは有りませんが、ホールトーン的に過ぎて細部がやや聞き取りにくいのはマイナスです。

これ以外にも、ズデニェック・コシュラー/スロヴァキア・フィルの非常に素晴らしい演奏とイルジー・ビエロフラーヴェク/チェコ・フィルの演奏を「続・名盤」として追加記事にしています。 
交響詩「わが祖国」 続・名盤

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