~アルプスへの旅~ ブルックナー 交響曲第4番「ロマンティック」 名盤
さて、ライン地方の風景を満喫し毎日ビールを飲んだくれていたフーテンのハルくんでしたが、ようやく旅を続けてやってきたのはオーストリアはアルプス山脈の麓にあるリンツです。たいそう美しいこの街には有名な聖フローリアン教会が有るのですが、かつてこの教会のオルガニストを勤めたのがアントン・ブルックナーです。この人は一般的には決してポピュラーということは無いのですが、日本では本場ドイツオーストリア以上に人気が有ります。それほどファンの間には熱烈に支持されているのです。それは何故か?この人の音楽の本質をごく簡単に説明すると「悠久の大自然や宇宙を前にしたはかなさ」ということです。これは他の作曲家の音楽が感じさせるものとはだいぶ異なります。しいて言うと晩年のシベリウスが同じような特徴を持つぐらいです。要するに音楽に「人間臭さ」が全く感じられないのです。其処にあるのは、大アルプスの山々とのどかな森林やお花畑。晩年の作品に至っては、大自然の風景すら超越して、まるで大宇宙そのものと自然の摂理みたいな音楽です。いや音楽すら越えてしまっているかもしれません。
数年前にベストセラーになった藤原正彦さんの「国家の品格」の中に、日本人の持つ特徴として「自然に対する繊細な感受性が他の国民よりも格段に豊かであり、悠久の自然の儚い人生に美を感じる」とあります。僕はこの文章を読んだときにまるでブルックナーの音楽を言い表しているなぁ、と思いました。それゆえに多くの日本人がブルックナーの音楽の本質を理解し愛好するのでしょう。
ですが音楽を聴いて大宇宙や人間の存在の小ささをを感じるなんてつまらない、そんなのまっぴら御免だという方も居るでしょう。そんな方にはこの交響曲第4番は彼の作品の中では一番アルプスの山々や自然どまりの雰囲気なので聴きやすいと思います。終楽章の終結部は流石に宇宙を感じさせますがそれまでは馴染みやすいと言えます。その分、後期の一連の作品のような深みには欠けますけれど。でも曲の副題が「ロマンティック」というのはちょっといただけないですがね。いっそ「アルプスシンフォニー」にでもすればいいのにね。それは他にあるって?そうでしたね。さあ涼しい風を体いっぱいに感じながらアルプスの山々を眺めましょう。
カール・ベーム指揮ウイーンフィル(1973年録音/DECCA) アルプスの空気と言えばやはりウイーンフィルの澄み切った清純な音で聞きたいですね。しかもベームはオーストリアの山岳地帯グラーツの出身です。このコンビ位にイメージがピッタリの組み合わせはなかなか無いでしょう。弦も木管も実に美しいですが、音を割ったウインナホルンの威力がアルプスの威容をとことん感じさせてくれます。録音もアナログ全盛期のDECCAだけあって優秀です。
ギュンター・ヴァント指揮ミュンヘンフィル(2001年録音/Profil盤)リンツからドイツ側に下るとミュンヘンが有ります。だからか昔からミュンヘンのオーケストラはブルックナーを得意にしています。ヴァントもブルックナーを最も得意としていてこの曲を何度も録音していますが、特に優れたものの一つがこの演奏です。最晩年のヴァントは職人技を極めて人間国宝みたいな域に達していたと思います。
ギュンター・ヴァント指揮北ドイツ放送響(2001年録音/RCA盤) ミュンヘン盤が2001年の9月録音、こちらは10月の録音です。そしてこのコンサートがヴァントの最後の演奏会になりました。ですのでこのコンビが直前の2000年に日本で9番を聴かせてくれたのは実に幸運でした。あの時の生の音は決して忘れることができません。そしてこの4番の演奏にはヴァントも団員もまるで最後を予感していたかのような特別な雰囲気が漂っています。枯れているといえばそうなのですが、そこが独特の魅力を湛えていて実に感慨深いものが有ります。
ルドルフ・ケンペ指揮ミュンヘンフィル(1972年録音/IMG盤) これはライブ録音であり、昔出ていたスタジオ録音とは違います。ケンペもブルックナーを得意としていて、同じミュンヘンフィルとは5番の超名演を残していますが、このライブの4番もそれに匹敵する素晴らしい出来栄えです。この名匠の腕による彫りの深い演奏はどちらかいうとアルプスの自然よりはミュンヘンの街のあのゴシック様式の巨大な聖母教会を想わせる様な立派さです。僕が生で聴くことができたその聖母教会のパイプオルガンの地響きを立てるような音はミュンヘンフィルの響きに通じていると感じます。
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウイーンフィル(1955年録音/DECCA盤) クナ抜きにブルックナー演奏は語れません。但しこの演奏はスタジオ録音なので非常に柔らかい演奏であのクナの地響きを立てるような実演とはかけ離れています。ところがそれでも魅力が失われないのがクナの面目躍如です。何と美しい響き、表現の演奏なのでしょう。クナには最晩年1964年に同じウイーンフィルとのライブ録音が有り、それは正に空前絶後、恐らく最も素晴らしい4番の演奏なのですが、残念なことに音質の悪い非正規盤しか有りません。是非正規盤で聴きたいと思うのですが。
カール・シューリヒト指揮シュトゥットガルト放送響(1955年録音/Archiphon盤) 最後にもう一人ブルックナーを得意としたシューリヒトのご紹介も。ウイーンフィルとの3、5、8、9番ほどの名演とは言い難いので、まあこんなのも有りますということで。軽い足取りはアルプスの野原をさっさと早足で散策しているかのようです。ドイツでビールを飲んだくれてお腹がポッコンのフーテンのハルくんにはこの速さに付いて行くのはちょっと辛いなぁ。
ブルックナーの他の曲、特に好きな5、7、8、9番などについてはそのうちにじっくり触れたいと思っています。
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