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2009年5月

2009年5月30日 (土)

ブルックナー 交響曲第4番「ロマンティック」 名盤 ~アルプスへの旅~ 

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さて、ライン地方の風景を満喫して、毎日ビールを飲んだくれていたフーテンのハルくんでしたが、旅を続けて次にやって来たのはオーストリア、アルプス山脈の麓にあるリンツです。たいそう美しいこの街には有名な聖フローリアン教会が有るのですが、かつてこの教会のオルガニストを勤めていたのがアントン・ブルックナーです。この人は一般的には決してポピュラーとは言えないでしょうが、日本では本場ドイツ・オーストリア以上に人気が有ります。それぐらいファンの間では熱烈に支持されています。それは一体何故か?ブルックナーの音楽の本質をごく簡単に説明すると「悠久の大自然や宇宙を前にしたはかなさ」ということです。これは他の作曲家の音楽が感じさせるものとはだいぶ異なっています。しいて言えば晩年のシベリウスが似たような性質を持っているぐらいです。要するに、音楽に「人間臭さ」が全く感じられないのです。其処にあるのはアルプスの巨大な山々や、のどかな森林やお花畑、更に晩年の作品に至っては、大自然の風景すらを超越して、まるで大宇宙そのものと自然の摂理みたいな音楽です。いや、ことによると音楽すら越えてしまっているのかもしれません。

数年前にベストセラーになった藤原正彦さんの「国家の品格」の中に、日本人の持つ特徴として『自然に対する繊細な感受性が他の国民よりも格段に豊かであり、悠久の自然の儚い人生に美を感じる』とあります。僕はこの文章を読んだときに、まるでブルックナーの音楽を言い表しているなぁ、と思いました。それゆえに多くの日本人がブルックナーの音楽の本質を理解し愛好するのでしょう。

もっとも、「音楽を聴いて大宇宙や人間の存在の小ささをを感じるなんてつまらない。そんなのはまっぴら御免だ。」という方も居るでしょう。そんな方には、この交響曲第4番は、彼の作品の中では一番アルプスの山々や大自然どまりの雰囲気なので親しみ易いと思います。終楽章の終結部は流石に宇宙を感じさせますが、それ以外は馴染みやすいと思います。その分、後期の一連の作品のような奥深さには不足するのですけれども。しかし、曲の副題が「ロマンティック」というのはちょっといただけないですね。いっそのこと「アルプスシンフォニー」にでもすればいいのにね。それは他にあるって?そうでしたね。さあ涼しい風を体いっぱいに感じながらアルプスの山々を眺めましょう。

それでは愛聴ディスクのご紹介です。

343 カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1973年録音/DECCA盤) アルプスの空気と言えばやはりウイーン・フィルの澄み切った清涼な音で聞きたいですね。しかもベームはオーストリアの山岳地帯グラーツの出身です。このコンビぐらいにイメージがピッタリする組み合わせは中々見当たらないでしょう。弦楽も木管も実に美しいですが、音を割ったウインナホルンの威力がアルプスの威容を目の当たりに感じさせてくれます。録音もアナログ全盛期のDECCAだけあって非常に優秀です。

Ph06046 ギュンター・ヴァント指揮ミュンヘン・フィル(2001年録音/Profil盤) アルプスをリンツからドイツ側に下るとミュンヘンが有ります。その為か、昔からミュンヘンのオーケストラはブルックナーを得意にしています。ヴァントもブルックナーを最も得意とした指揮者で、この曲を何度も録音していますが、特に優れたものの一つがこの最晩年のライブ演奏です。この頃のヴァントは元々持っていた職人技を極めて、正に人間国宝のような域に達していたと思います。

108 ギュンター・ヴァント指揮北ドイツ放送響(2001年録音/RCA盤) ミュンヘン・フィル盤が2001年9月の録音で、こちらは10月の録音です。そして、このコンサートがヴァントの最後の演奏会になりました。ですので、このコンビが直前の2000年に日本で第9番を聴かせてくれたのは実に幸運でした。あの時の生の音は決して忘れることができません。この第4番の演奏には団員もまるでヴァントの死期を予感していたかのような一種特別な雰囲気が漂っています。枯れているといえばそうなのですが、それが独特の魅力を湛えていて実に感慨深いものが有ります。

Cci00039_2 ルドルフ・ケンペ指揮ミュンヘン・フィル(1972年録音/IMG盤) これはライブ録音であり、昔出ていたスタジオ録音とは違います。ケンペもブルックナーを得意としていて、同じミュンヘン・フィルとは第5番の名盤を残していますが、このライブの第4番もそれに匹敵する素晴らしい出来栄えです。この名匠の腕による彫りの深い演奏はどちらかいうとアルプスの自然よりはミュンヘンの街のあのゴシック様式の巨大な聖母教会を想わせる様な立派さです。僕が生で聴くことができたその聖母教会のパイプオルガンの地響きを立てるような音はミュンヘン・フィルの響きに通じていると感じます。

Cci00039b ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウイーン・フィル(1955年録音/DECCA盤) クナ抜きにブルックナー演奏は語れません。但しこの演奏はスタジオ録音ということもあって非常に柔らかい演奏で、あのクナの地響きを立てるようなライブ演奏とはかけ離れています。ところが、それでも魅力を失わないのがクナの面目躍如です。何と美しい響き、表現の演奏なのでしょう。クナには最晩年1964年に同じウイーン・フィルとのライブ録音が有り、それは正に空前絶後、恐らく最も素晴らしい第4番の演奏なのですが、残念なことに音質の悪い非正規盤しか有りません。是非とも正規盤で聴きたいと思うのですが。

Cci00040 カール・シューリヒト指揮シュトゥットガルト放送響(1955年録音/Archiphon盤) 最後にもう一人ブルックナーを得意としたシューリヒトの演奏もご紹介します。ウイーン・フィルとの録音の3、5、8、9番ほどの名演とは言い難いので、まあこんなのも有りますよ、という程度です。軽い足取りはアルプスの野原を早足でさっさと散策しているかのようです。ドイツでビールを飲んだくれてお腹がポッコン、体の重くなったフーテンのハルくんにはこの速さに付いて行くのはちょっと辛いです。

ブルックナーの他の曲、特に好きな第5、第7、第8、第9番などについてはそのうちにじっくり触れたいと思っています。

<関連記事>
ブルックナー 交響曲第4番「ロマンティック」 続・名盤

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2009年5月23日 (土)

ヨハン・パッヘルベル 「カノン」ニ長調 名盤 ~人生のカノン~

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通称「パッヘルベルのカノン」。この曲は、とっても親しまれていて有名ですね。皆さんもよくご存知のことと思います。実は僕も、昔からこの曲が大好きなのですよ。

作曲者のヨハン・パッヘルベルはドイツの中南部で活躍した音楽家ですが、元々はオルガニストで、オルガン音楽の発展に貢献した人です。

この曲は本来「3つのヴァイオリンと通奏低音のためのカノンとジーグ」という曲です。但し、普段は前半の「カノン」の部分だけで演奏されるのは珍しくありません。

それにしても、この「カノン」はなんと優雅で心優しいメロディなのでしょう。僅か5分前後の短い曲なのですが、通奏低音が流れ始めたとたんに何か心が癒される気分になってしまいます。そして3声部に分かれたヴァイオリンが静かに入ってくるともうたまりません。心はうるうる状態です。曲が段々に盛り上がってゆき、ヴァイオリンが歌い十六分音符で駆け回れば、優雅な落ち着きだけでなくて非常に心を駆り立てられます。

この曲は、よく街中なんかでもBGMとして流れていたりしますが、僕はそんな喧騒の中ですらハッと耳を奪われて、思わず涙腺が緩んだりしてしまいます。この曲を聴いていると、何だかノスタルジックな気持ちに誘われて、過去の人生や現在の人生、あるいは多くの友人たちとの出会い、そして愛する人との出会いと別れ・・・。そういった様々な思いが次から次へと走馬灯のように心に浮かんでは消えてゆくのです。それは正に「人生のカノン」のように思えます。でも、この曲は決して感傷的では無く、ずっと肯定的な気分にさせてくれます。
僕はそんな風に感じるのですが、皆さんはどうでしょう?

この曲の僕のCD愛聴盤をご紹介します。

Cci00038 僕の好きなCDは、少し古いのですがフランスのジャン=フランソワ・パイヤール指揮パイヤール室内管弦楽団の演奏です。昔、NHKFMの朝の名曲の時間のテーマ音楽として使われていた演奏です。ですので「カノン」というとこの演奏がすっかり身体に刷り込まれてしまったみたいです。現在のバロック演奏のスタイルとはかけ離れて、ゆったりと過剰なほどにロマンティックに演奏しています。時代遅れと言えばそれまでなのですけれど、だからこそ逆に良いのです。懐かしい気分たっぷりで疲れた心をとことん癒してくれます。このCDは名曲集なので他にも沢山曲が入っていますが、やはり「カノン」が白眉です。パイヤールにはRCAの再録音盤も有りますが、僕の好きなのはこの懐かしいエラート録音の旧盤です。

Cci00038b もっと新しい演奏ならば、古楽器派の名アンサンブル、ラインハルト・ゲーベルとムジカ・アンティカ・ケルンのCDが有ります。いつも彼らのように、実にスピーディな演奏なのですが、3本のヴァイオリンの絡み合いはニュアンスとセンスに溢れた名人芸で最高です。さすがにムジカ・アンティカ・ケルン、独特の味わいが有ります。僕はこれも大好きなのです。でもカノンの後にジーグを演奏しても5分かからないというのは驚異的。「カノン」だけで比較すると、パイヤールが7分10秒かかっているのに対してこちらは僅か3分5秒と倍以上の速さです。ちょっと早く終わり過ぎるかな。人生はこんなに早く駆け抜けたくは無いですねぇ。

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2009年5月 9日 (土)

シューマン 交響曲第3番「ライン」変ホ長調op.97 名盤 ~ハルくんのラインへの旅~ 

今回の旅行記は創作ではありません。実話なのです。(写真はクリックしてもらうと大きくなります)

今から3年前のことですが、ハルくんはデュッセルドルフに長期赴任している日本人の旧友に会いに行きました。しかも、その友人とはおよそ20年ぶりの再会だったのです。彼はそれは大歓迎してくれて、その晩は街のビアレストランで再会の祝杯を挙げました。ドイツの地ビールはそれは美味しかったです。

P1020050 翌日は友人の車で観光案内をしてもらうことになり、一路ケルンへ向かいました。約一時間程度で着いたケルンには、名高い大聖堂が有ります。中世の巨大な建築物です。ロベルト・シューマンはデュッセルドルフに移ってまもなく、ケルン地方を中心に旅をしましたが、この大聖堂の威容には大変感銘を受けたそうです。旅から帰ってすぐに作曲したのが交響曲第3番「ライン」でした。それにしても、この大聖堂は実に巨大なのです。何でも一年中修復を続けているそうですよ。有る部分の修理が終わると、また別の部分が傷んでくるので、それを永遠に繰り返すのだそうです。大きな修理工房が裏手に有りました。

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大聖堂は上の方まで延々と階段で歩いて登ることができるので、その日も結構な人数の観光客が一生懸命登っていました。フーフー言いながら、やっとこさ展望階まで登ってみると、眼下には街の真ん中を堂々と流れるライン川が見下ろせました。素晴らしい景色です。

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翌日はライン川の上流方面に車を走らせました。川沿いの小高い丘の上に、次々と中世のお城が見えてきます。大きな城も小さな城も、みなその土地のかつての領主の居城だったのです。そしてライン川が悠然と流れる様を眺めていると、頭に浮かんでくるのは「ライン」の第2楽章です。そして周りののどかな町並みと人々の静かな生活風景は第3楽章です。特に夕べの時間帯はイメージがぴったりだと思います。

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更に上流に上ると、だんだん川幅が狭くなり流れの勢いがどんどん増してきます。この辺は「ライン」の第1楽章のイメージですね。そして、ついにあの有名なローレライの岩に到着しました。土曜の昼間にもかかわらず、他にはほとんど観光客が居ないので、友人と僕は岩の上に登ってゆっくりとライン川を眼下に眺められました。「岩」といってもそれは実は大きな丘なのです。なんとも雄大な景色を堪能できました。ローレライ伝説というのは「波の間から聞こえてくる美しい歌声に船の舵取りが気を取られてしまい座礁して沈没してしまう」という内容ですが、確かにこの岩の近くは急流で一番の難所のようです。昔から「美女の誘いには気をつけろ」というのが男性への教訓だったようですね。僕も一度で良いので美女に誘われて沈没してみたいものです。

デュッセルドルフへの帰り途中も、頭の中ではずっとシューマンの「ライン」が流れっぱなし。それはそうですよね、シューマンはこの景色を見て曲を作ったのですからね。ハルくんはラインの旅を体験しながら感慨にひたるのでした。「うーん、ドイツ!」「ライン!」「シューマン!」「ビール!」「美人!」(は余り見かけなかったなぁ。残念。)

さて、思い出深い交響曲「ライン」なのですが、僕はこの曲はどうしてもドイツの楽団の音で味わいたくなってしまうのです。愛聴盤をご紹介しますので、どうぞご一緒にラインの旅を味わいましょう。

P2_g3245420w ウォルフガング・サヴァリッシュ指揮ドレスデン国立歌劇場管(1972年録音/EMI盤) 学生時代に最初に買ったのがこの全集。但し当時はLP盤でした。SKドレスデンの全盛期の音を聴ける素晴らしい演奏です。金属的な音が全くしない柔らかさと厚みの有る腰の強さを併せ持つ稀有な音だと思います。ザンデルリンクのブラームス全集とサヴァリッシュのこの演奏でSKドレスデンのとりこになったファンは非常に多いと思います。CDでも充分に素晴らしいのですが、初期のLP盤で聴く音は更に格別です。サヴァリッシュの指揮はテンポ感が非常に良く、生命力と重厚さが両立していて最高です。全集の中でも3番の演奏が特に優れていると思います。

Cci00034 フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1960年録音/BerlinClassics) ゲヴァントハウスの音もまた格別です。よくシューマンのオーケストレーションは鳴りが悪いと言われますが、カラヤンのようにピッチを上げて鳴りを良くしてしまっては全く違った音に変わってしまいます。管と弦が混じりあったくすんだ響きこそがシューマンの音なのですよ。この古色然としたオケの音を味わいましょう。コンヴィチュニーの指揮もゆったりしたテンポで貫禄充分です。 

Cci00034b ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1979年録音/SONY盤) クーベリックは60年代にもベルリン・フィルと全集を録音しましたが、それは余り印象には残っていません。このバイエルン放送響との全集の方が格段に優れていると思います。響きは南ドイツ的で明るめですが、ふくよかで柔らかい音が非常に魅力的で、この曲には適しています。スケールも大きくて、これは中々に良い演奏だと思います。

Cci00035 オットマール・スイトナー指揮ベルリン国立歌劇場管(1986年録音/DENON盤) スイトナーはモーツァルトのような古典派は早いテンポで颯爽とした演奏をするのですが、ロマン派の曲になると案外遅いテンポでスケール大きく演奏します。このシューマンもそのスタイルです。第1楽章は金管のバランスが強いので、柔らかさよりも力強さを感じます。好みで言えばもう少し弦とまろやかに一体化した方が好きですね。ですが逆にこの方が好きと言う人も多いのではないかと思います。終楽章は音がまろやかに溶け合って美しいです。

Cci00035b セルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィル(1988年録音/EMI盤) いつもながらの遅いテンポによるチェリビダッケらしい演奏です。響きの美しさは有りますが、素朴さに欠けるのでこの曲に向いているとは思えません。それに情熱の高まりが無いのが気に入りません。私の好きな第3楽章も遅すぎるので、すっかりもたれてしまいます。4楽章、終楽章も同様です。終楽章の最後になって突然壮大に鳴り出すのですが、これは何なのでしょう。やはりチェリビダッケは僕の感性からは大分遠い指揮者であると思います。

Schuman_vonk_654 ハンス・フォンク指揮ケルン放送響(1992年録音/EMI盤) この曲とは所縁の深いケルンの街のオーケストラの演奏です。僕はこういうのに弱いのです。オランダ人のフォンクは何度か難病を乗り越えて指揮活動をしている人なので尊敬します。ケルン放送はベルティーニ時代よりも幾らか精度が落ちたような気もしますが、ドイツのオケらしい音色はやはり魅力です。フォンクの指揮もライン川のように雄渾で自然な流れを感じさせてとても良いです。

Cci00036 クリストフ・エッシェンバッハ指揮北ドイツ放送響(1999年録音/RCA盤) 北ドイツ放送響は2000年にヴァントの指揮でブルックナーの9番の名演を聴きましたが、実に北ドイツ的な響きでした。厚みの有るほの暗い響きはシューマンの音楽に一層似合うと思います。エッシェンバッハは今どきの指揮者にしては珍しいくらいに暗い情念を持っている人なのでやはりシューマンに相応しいと思います。僕はこの演奏もとても好きです。

Cci00036b カール・シューリヒト指揮シュトゥットガルト放送響(1962年録音/Scribendum) 音楽評論家の中にはこの演奏を推薦している方もいらっしゃるし、僕自身も人後に落ちぬシューリヒトファンなのですが、この演奏は正直余り好きはありません。軽快なテンポで颯爽と進む演奏からは、どうもシューマンの音楽の持つほの暗さが聞こえてこないからです。元々がコンサートホールという廉価レーベル録音なので音質が良くないせいも有るかもしれませんが、もう少し厚みの有るドイツ的な響きを聞かせて欲しいものです。

以上から、僕のベスト盤を一つ上げるとすれば、何の迷いも無くサヴァリッシュ/ドレスデン国立歌劇場管盤です。この曲の演奏として傑出していると思います。

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2009年5月 5日 (火)

ブラームス ヴァイオリン協奏曲 続・名盤 ~女神達の饗宴~ 

ブラームスの作品には、明らかにハンガリーのジプシー音楽の影響を受けていて、哀愁が漂う情緒的な曲が数多く見られます。そのなかでも代表的な作品としてまっ先に上げられるのがヴァイオリン協奏曲二長調でしょう。

この曲は、既に「ブラームス ヴァイオリン協奏曲 名盤」で記事にしていますが、その中で、巨匠ヴァイオリニスト達と比べても一段と強い輝きを放っていたのが情熱的な点で正に並ぶ者が無いジネット・ヌヴーのライブ演奏録音でした。この曲は不思議と昔から女性ヴァイオリニストの名演奏が多いのですね。それは恐らくこの曲は多くの男性奏者が得意とするような古典的な造形性よりも、ジプシー音楽の持つ情熱や情感が主体となっているからだと思います。女性奏者がそのような”命がけ”ともいえる情熱的な演奏をすると、男性奏者はとてもかなわないからです。そこで今回は特にジネット・ヌヴー以外の女性奏者による名演奏のCDをご紹介したいと思います。名づけまして「女神の饗宴」です。ほらほら美人に滅法弱いフーテンのハルくんがステージにくぎづけになっていますよ。(笑)

131 ジョコンダ・デ・ヴィート(Vn)、フリッチャイ指揮ベルリン放送響(1951年録音/Audite盤) この録音は2009年に初リリースされるまでは知られていませんでした。有名なフルトヴェングラーとのイタリア・ライブの1年前の演奏です。録音状態について言えばイタリア録音よりも格段に良好です。ヴァイオリンの音はとても美しく、重音の倍音までもが良く録れています。イタリア・ライブほど熱狂的ではありませんが、かえってブラームスの重圧さが良く出ていて僕は好きです。デ・ヴィートのブラームスの代表盤にすべきだと思います。

Cci00030 ジョコンダ・デ・ヴィート(Vn)、フルトヴェングラー指揮トリノRAI響(1952年録音/IDイタリア盤) イタリア生れのヴィートのスタジオ録音によるバイオリン・ソナタ集は随分と端正な印象でしたが、このライブ演奏はフルトヴェングラーの伴奏指揮に触発されたからでしょうか、ひとつひとつの音に込めた情念の深さが際立っています。それは少々しつこく感じるほどなのですが、こういう女性の艶かしさも悪くは有りません。でも毎日付き合ったら疲れてしまうかも、っていったい何の話だ?(笑) 但し、イタリアの放送録音で音質が酷いのでお勧めはしません。

尚、ヴィートには、もうひとつヨッフム指揮バイエルン放送響(1956年録音/En Larmes盤)という海賊CD-R盤が有るのですが、イタリアでの演奏会から2年後の録音ですが、伴奏指揮がヨッフムで堅牢な為か、ヴィートの独奏もずっと安定感を増しています。そのうえ艶かしい表情は相変わらずです。録音もずっと良いですし、もしも正規録音盤が発売されればこちらを代表盤にするべきです。

Cci00031 ヨハンナ・マルツィ(Vn)、クレツキ指揮フィルハーモニア管(1954年録音/EMI盤) ヨハンナ・マルツィはハンガリー生れ。ヌヴーやヴィートに比べると知名度で劣りますが、実に素晴らしいヴァイオリニストです。非常に情熱的でありながら高い技術と男性的な造形性や堅実性を併せ持っています。第2楽章の深い情感も第3楽章の堂々とした立派さなど見事です。恋人にするならヌヴーやヴィートがエキサイティングで楽しいのでしょうが、女房にするなら堅実賢母タイプのマルツィが理想的だと思いますね。 

Cci00031b ヨハンナ・マルツィ(Vn)、ヴァント指揮シュトゥットガルト放送響(1964年録音/GreenHILL盤) マルツィは録音が非常に少ないのですが、彼女の全盛期に伴奏者にも恵まれて録音状態の良いライブ演奏が残されているのは大変貴重です。ハンガリー人らしい情熱と情感が溢れるばかりなのですが、音楽が崩れることなく素晴らしいバランスを保っています。それを支えているのが幼少の時から師事したフーバイに鍛えられた演奏技術です。後年の名匠ヴァント指揮のオケ伴奏も充実していて個人的に大好きな演奏です。
(追記:その後ヘンスラーから正規盤が出ました。高音域が強調されてヴァイオリンの艶は増しましたが、低域に厚みのあるGreenHill盤も捨て難いので、無理に買い換える必要はありません。)

Cci00030b イダ・ヘンデル(Vn)、ミュラー=クレイ指揮シュトゥットガルト放送響(1955年録音/ヘンスラー盤) これは彼女がまだ若い頃の演奏です。しかし彼女のバイオリンにはどうも余り面白みを感じません。堅実といえば確かにそうなのですが、技術的にも特別上手いわけでも下手なわけでもありませんし、余りに感情をあらわにしないのが気に入らないのです。それは謂わば「三歩下がって夫の影を踏まず」とでもいう感じでしょうか。こういう女性は奥さんにすると良いかもしれません。まあ僕の場合は影どころか生身まで踏みつけられましたけど。(笑) 

Cci00032 ミシェル・オークレール(Vn)、オッテルロー指揮ウイーン響(1958年録音/PHILIPS盤) フランス生まれで生粋のパリジャンヌのオークレールも個性的な美人ヴァイオリニストです。フランス以外の欧米男性から見るとフランスの男は嫌われていますが、フランス女性はとても人気があるようです。まあフーテンのハルくんにはとても縁の無い話なのでしょうが。えっ、わからないって?それじゃ次はフランスに行くか!(笑) オークレールのバイオリンは軽く鼻にかかったフランス語の発音のような演奏です。重厚さとか情念の濃さというものは全然有りません。そこがとてもユニーク。パリジャンヌとデートでもしている気分になって聴いていると結構楽しいです。 

Cci00033 チョン・キョンファ(Vn)、プレヴィン指揮ケルン放送響(1996年録音/En Larmes盤) 韓国に生れた素晴らしいヴァイオリニストのキョンファはブラームスの正規CDをラトルの伴奏で録音しています。でもずっと世評の高いのはこの海賊CD-R盤の演奏のほうです。僕は最近ようやく友人から借りてこの演奏を聴くことができました。僕は韓国の女性もイイなぁと思うのですよ。何を隠そう女優のチョン・ジヒョンのファンなのです。可愛いじゃありませんか。でもやっぱり彼女は恋人タイプでしょうね、ってまた話が脱線しているな。(笑) ジヒョンじゃなくてキョンファはこの録音と同じ頃に東京でリサイタルを聴きに行きましたが、虚飾の無い素晴らしい演奏でした。このブラームスも同様です。深い情念と気迫を持ちながらも外面的に陥ることなく音楽の心そのものを音にします。タイプとしてはマルツィに似ています。

144アンネ‐ゾフィー・ムター(Vn)、カラヤン指揮ベルリン・フィル(1981年録音/グラモフォン盤) 録音当時ムターはまだ弱冠16歳でしたが、ここで聴ける正に完成され切った演奏は一体何なのでしょう。単に技術的に上手く弾いているだけでなく、充分に気迫の込められた演奏には思わず引き込まれます。さすがに音楽の深みは今一つ感じられませんが、ベルリン・フィルを熱気一杯に鳴らしているカラヤンの指揮に少しも負けていません。ベルリン・フィルの音色がやや明る過ぎるのが好みではありませんが、演奏全体の素晴らしさに傷がつくほどではありません。

Cci00032b アンネ‐ゾフィー・ムター(Vn)、マズア指揮ニューヨーク・フィル(1997年録音/グラモフォン盤) ムターは10代の頃はぽっちゃりとふくよかで、演奏はストレートな表現でしたが、年齢を重ねるにつれてバディも音楽も段々とグラマラスになりました。ハルくんはグラマラスは余り好みではなくて、どちらかいうとスリムで端正なタイプが好みです。それはさておき、ここまで艶かしく弾かれると、やはりおじさん的にはたまりません。脂の乗り切った濃厚なテクニックにメロメロです。ここは身も心も任せて昇天してしまいましょう!もっとも、表現力が旧盤を上回る割には、必ずしも音楽の深みが増したようには思えません。マズアの指揮もいまひとつ気迫が足りないので、若い美女を囲う金持ちの爺さんパトロンというイメージです。

(補足)
その後にディスクを入手したバティアシュヴィリの新盤は古今の数々の名盤をも凌駕する最高の演奏でした。記事は下記のリンクからご覧ください。

<関連記事>
ブラームス ヴァイオリン協奏曲 続々・名盤(男祭り)
ブラームス ヴァァイオリン協奏曲 バティアシュヴィリの新盤

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2009年5月 3日 (日)

ブラームス 「ハンガリア舞曲集」 ハンス・シュミット=イッセルシュテット/北ドイツ放送響 ~ぶらりドイツの旅~ 

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フーテンのハルくんはノルウェーに別れを告げてから、スカンジナビア半島の南端からドイツへと海を渡り、ひとり旅を続けました。船で行き着いた港はハンブルグです。この北ドイツの港町はブラームスが生れた町として有名ですね。父親がコントラバス奏者という余り裕福ではない家庭に育ったブラームスは、家計を助ける為にレストランや居酒屋で小さい頃から得意のピアノを弾いてお金を稼いでいました。そういう店には、ハンブルグの港からアメリカへ移住するハンガリーからの避難民が多く来ていたので、小さい頃から異国的なハンガリー音楽に親しんでいたそうです。さらにはハンガリー出身のヴァイオリニストのレメーニと交友を持ったことが、益々彼をハンガリー音楽に近づけさせました。ブラームスの音楽の特徴の一つの哀愁漂う歌謡調のメロディは明らかにハンガリー音楽の影響です。

そんなハンガリー風音楽の代表作品といえばご存知「ハンガリア舞曲集」です。ブラームスは多くのジプシー音楽を楽譜に書きとめて、それをピアノ連弾用に編曲しました。それが、余りに人気が高かったことからブラームス自身や他の作曲家の手で管弦楽用に編曲されました。現在も観賞用や演奏会のアンコール曲として大変親しまれています。僕も大好きですので、珈琲などを飲みながらよく聴いています。

Cci00029 ハンス・シュミット=イッセルシュテット/北ドイツ放送響(1962年録音/ユニヴァーサルミュージック・フランス盤)

ブラームスの故郷ハンブルクには北ドイツ放送交響楽団という素晴らしい楽団が有ります。このオーケストラは戦後直ぐに創設されたのですが、ハンス・シュミット=イッセルシュテットやカール・シューリヒトという大指揮者の手によって鍛えられた為に、急速に非常に優秀な楽団に成りました。ブラームス作品はこの楽団の主要レパートリーの一つです。その初代常任指揮者であるSイッセルシュテットが指揮をした「ハンガリア舞曲集」の素晴らしい演奏が有ります やや古めかしい録音ですが、リマスタリングが良いので聴きにくいことは有りません。それよりもSイッセルシュテットの指揮が大変に素晴らしいのです。リズム感の良さと哀愁が漂う歌い回しが抜群です。全21曲が収められているのも嬉しい限りです。

さて、ハンブルグの港町でフーテンのハルくんは果たして憧れのマドンナとの出会いを果たすことが出来るのでしょうか。案外色っぽいジプシーの娘といい仲になってしまうのかも知れませんね。

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