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2009年4月

2009年4月30日 (木)

ドレスデン国立歌劇場管弦楽団 日本公演 リヒャルト・シュトラウス

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ドレスデン国立歌劇場管弦楽団が日本に来ています。既に関西公演を終えて現在は東京公演中です。そこで今日はサントリーホールでのオール・リヒャルト・シュトラウス・プログラムを聴きに行ってきました。指揮はイタリア人の音楽監督ファビオ・ルイジです。

この楽団は言わずと知れた世界最古のオーケストラです。もともとは宮廷楽団として発祥しましたが、以来、古都ドレスデンの歌劇場の専属オーケストラとして今年で461年という実に長い歴史を刻んで来たのです。元々は酒場の楽団であったベルリンフィルが正式にオーケストラとしてスタートしたのが130年ほど前ですから、いかにこのオーケストラが長い歴史と伝統を持つかが分かりますね。とは言いましても音楽は生きた芸術です。美術品ならば適正に保存されていれば良いのですが、構成団員は命に限りが有りますから常にメンバーが交代します。変わらずに歴史を受け継ぐのもそう簡単なことではありません。

彼らは2年前にオペラハウスとして来日して、僕はその時には東京文化会館で「タンホイザー」を聴きに行きました。あれほど質の高いドイツオペラの音を聞かせることが出来るのは他にはウイーン歌劇場とベルリン歌劇場、次いでバイエルン歌劇場ぐらいではないでしょうか。

今日の曲目は「ドン・ファン」「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」「英雄の生涯」です。もちろん2年前の文化会館でのワーグナーも素晴らしいものでしたが、今回のオーケストラコンサートの音は圧倒的でした。といってもキンキラ輝くような音とは全く異なる、実に深々と落ち着いた音なのです。管楽器や弦楽器の全てがまろやかに溶け合っていて、昔からよく言われる「いぶし銀の響き」、まさにそれです。アンサンブルも優秀ですが、機械的な冷たさは微塵も有りません。このような伝統的なドレスデン・サウンドが何年経っても変わらずに継続されているのは奇跡でしょう。特に後半の「英雄の生涯」はルイジの指揮とメンバーの気迫が一段と増して圧巻でした。アンコールはウェーバーの歌劇「オベロン」序曲。かっちりと厳しく統制されたマルカート奏法で推進力に満ち溢れた演奏はこの楽団の真骨頂。まさに最高でした。このような純正ドイツの音を出させたら、やっぱり世界一の楽団だと思います。

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2009年4月28日 (火)

グリーグ 劇付随音楽「ペールギュント」第1、2組曲 ~ぶらり北欧の旅~ 

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ノルウェーを放浪中のフーテンのハルくんですが、好きな芝居を見たさにとある町の劇場に立ち寄りました。出し物は有名な「ペールギュント」です。この劇音楽は誰でも知っているほど有名ですね。僕が中学校の頃には音楽授業の鑑賞曲でしたし、「朝」という曲はいたるところでBGMに使用されています。でもこの話の内容は結構支離滅裂なのですよ。というよりも主人公のペール・ギュントはとんでもない男なのです。話の内容を引用してみますと・・・・

落ちぶれた豪農の息子ペール・ギュントは母親と暮らす夢ばかり見ている男。かつての恋人イングリッドを結婚式から奪取して逃亡する(まるで「卒業」だね。)ところがじきにイングリッドに飽きて捨ててしまう。それからまた他の娘と婚礼寸前までゆくが逃げ出してしまう。さらに純情娘ソルヴェイグと恋に落ちるが彼女をおいてまた放浪の旅に出てしまう。山師になって金をもうけては無一文になったり、精神病院に入って皇帝になった気になってみたりするが、結局は年老いて帰郷する。ペールが死を意識して歩いていると、あるボタン職人に出会う。このボタン職人というのは実は、死んで天国に行くような善人でもなく、地獄に行くような悪人でもない「中庸」の人をボタンに溶かしこむのが仕事の職人だった。それを知ったペールはボタンには成りたがらず、自分は善悪を問わず中庸では無かったことを証明してもらおうと駈けずりまわる。ところが誰もそれを証明してはくれない。けれども最後の証人として会ったソルヴェイグは彼に子守唄を歌い、それを聞きながらペールは永眠する。

と、ざっとこんな話です。もしも最後にフーテンの寅さんがペールに会ったら何と言うでしょうね。「そうかい、そうかい。おっちゃんは随分苦労してきたんだねえ。でも安心しな。おてんとうさんはみんな分かっていなさるよ。」こんな優しい言葉をかけてあげるのではないでしょうか。

さて、この音楽を聴くのに素晴らしい演奏が有るのでご紹介します。

41b20vy3vyl__ss500_ アリ・ラシライネン指揮ノルウェー放送管(1996年録音/ワーナーミュージック盤) 有名曲だけに昔から多くの指揮者が大オーケストラと録音していますが、それらはまずほとんどが大げさで派手な演奏です。その点、この自国ノルウェーのオーケストラは響きが一味違います。「朝」のなんという爽やかさでしょう。空気感が全然違うのです。カラヤン/ベルリン・フィルだと「朝だぞ~!日の出を拝みにさっさと出て来い~!」という感じなのですが、同じ北欧のフィンランド出身のライシネンが指揮するこの演奏では、静かに優しく声をかけられて気持ちよく目が覚めてゆく感じなのですよ。「オーゼの死」もたいていはぶ厚い弦楽群がこれでもかと大げさに歌い上げますよね。ラシライネンはそうではなく、静かに、しかし心を込めて歌います。なので悲しみの深さが余計感じられるのです。「アニトラの踊り」はうって変わってセンス抜群ですし、「山の魔王の宮殿で」は決してこけおどしでない迫力が最高です。終曲の「ソルヴェイグの歌」では淡々とペールの帰りを待ちわびる心を歌い上げます。

どうぞ「こんな中学校の鑑賞曲など今更聴かないさ」とおっしゃられる人にこそこの演奏を聴いて頂きたいと思います。たまたま一度お会いしたことも有る音楽評論家の許光俊さんが「クラシック名盤バトル」の中でこのCDを取り上げているのを見たときにはわが意を得たりでした。あの先生は結構キワモノ(?)を推薦することが多いですが、これぞという推薦盤もあるので注目はしています。

それにしても、とうとう世界中で発生した新型インフルエンザ。トンだことになりました。安心して世界を旅行出来なくなってしまいますよね。旅好きのフーテンのハルくんはこのまま旅を続けるのでしょうか。

(注:ハルくんの旅行記はあくまで創作です)

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2009年4月25日 (土)

グリーグ ピアノ協奏曲イ短調Op.16 名盤 ~ぶらり北欧の旅~ 

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ここしばらく、シベリウスの音楽ばかりを聴いていましたので、フィンランドの自然をすっかり満喫した気分になりました。せっかくの美しい北欧の旅ですので、ここはこのままぶらぶらと旅を続けようかと思います。北の海沿いをぐるりと回ってお隣のノルウェーにでも流れて行ってみようかなぁ。さしずめフーテンのハルくんの気ままな一人旅です。

ノルウェーといえば世界に冠たる水産国。僕の好きな鯖が美味しいのですよ。日本の近海ものは乱獲がたたって小ぶりの脂の少ない鯖が多いのですが、ノルウェーは漁船ごとに年間の捕獲量が厳しく決められているので乱獲をせずに魚がすっかり成長するまでは獲らないのだそうです。それを最新鋭の漁船で一瞬にして冷凍にしてしまうのです。なので鮮度が失われません。安くて美味しい鯖がこうして日本の食卓に届くわけです。僕はシンプルに塩焼きに大根おろしが一番好きです。味噌煮も美味しいですけどね。

さて魚の話はここまでにして、音楽の話に行きましょう。ノルウェーと言えばやっぱりグリーグですよねぇ。グリーグのピアノ協奏曲はイントロがとても印象的。「チャン!チャチャチャン。チャチャチャン、チャチャチャン、チャチャチャ~ン♪」というあれです。(って知らない人がわかるかよー。)子供の頃に毎日ラジオで「ルーテル・アワー」という番組を聞いていましたが、その始まりの音楽でしたので良く耳にしました。実際の曲はそのあとに続く木管の調べがなんとも哀愁が漂って美しいです。そしていよいよピアノが登場して静かに優しく木管の旋律をなぞって行くのです。だんだんにテンポアップはしますが曲の瑞々しさはそのままで、やはり北欧の自然を連想させてくれます。第2楽章アダージョがまたすこぶる美しいですね。とっても心を癒される音楽です。第3楽章アレグロ・モデラートはリズミカルですが少しも賑やかに成り過ぎずに楽しませてくれます。

この曲は素晴らしい名曲だと思うのですが、実はヴィルトゥオーゾ・タイプの有名ピアニストが弾くとなんとなく大げさになってしまうことが多いようです。この曲はそんな大げさな曲ではないと思うのです。僕にとってはノルウェーの港の近くの丘の上に可愛く咲いている花がひっそりと港を見下ろしているような印象なんです。ですので、僕の好きなCDは比較的地味な演奏のものが多いのです。それでは愛聴盤をご紹介させて頂きますね。

Cci00026b エヴァ・クナルダール(Pf)、インゲブレッセン指揮ロイヤル・フィル(1978年録音/BIS盤) 僕が一番気に入っているのはノルウェーに生れて子供のときに米国に渡り、35歳になって再びノルウェーに戻ったクナルダールという女流ピアニストの演奏です。 写真をご覧になって頂ければ、およそヴィジュアル路線からはかけはなれたプレイヤーだということがお分りになることでしょう。(笑) でもね、演奏が本当に素晴らしいのです。正直テクニックは大したこと無いのですが、曲をゆったりと本当に心から慈しむように弾いているのです。 Cci00027_2このような演奏はこれまで決して耳にしたことが有りません。 同じノルウェー人のインゲブレッセンの指揮する伴奏も素晴らしいです。同郷ならではの音楽への共感と味わいに満ち溢れています。ですのでこのCDは過去の好きな演奏を全て忘れてしまうほどです。但し繰り返しますがテクニックを気にされる方にはお薦めできません。音楽の味わいを最も大切にされる方だけにお薦めします。

Cci00026 レイフ=オヴェ・アンスネス(Pf)、キタエンコ指揮ベルゲン・フィル(1991年録音/EMI盤) ノルウェー生れのアンスネスは抜群のテクニックと才能を持った若手ですが、これはまだデビュー時の10代の時の録音です。テクニックは既に完成されていますが、驚くのは音楽の深さです。表現力は豊かですが、そこは自国出身の人だけあって、よくあるヴィルトゥオーゾ・ピアニストのような大げさなところは全く感じさせません。このCDはまた自国オケのベルゲン・フィルの音が最高なのですよ。弦楽器も管楽器も音色からして北欧の空気に満ち溢れています。フィンランドのオケの奏でるシベリウスといい、この空気感の違いというのは何なのでしょうね。前述のクナルダール盤に加えてこのCDが有るので充分満足しています。

Schcci00037 ラドゥ・ルプー(Pf)、プレヴィン指揮ロンドン響(1973年録音/DECCA盤) ルプーのデビュー直後の録音です。当時のキャッチコピー「千人に一人のリリシスト」を証明する、繊細なリリシズム溢れる演奏です。プレヴィンの美しい伴奏にサポートをされた大変に素晴らしい演奏だと思います。僕もかつてはとても愛聴していました。北欧の味わいも感じさせますが、クナルダールとアンスネスの二つの演奏に比べてしまうと、その点ではどうしてもかないません。

さてノルウェーのひとり旅、フーテンのハルくんは旅先で素適な女性に果たしてめぐり合うことが出来るでしょうか。楽しみですね~(笑)

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2009年4月19日 (日)

シベリウス 交響曲第7番ハ長調op.105 名盤

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シベリウスの最後の交響曲であって、本当は最後では無い交響曲。シベリウスは途中まで書いた第8番の楽譜を自らの手で焼き捨てたと言われていますが、妻アイノの証言によれば実は既に完成していたという話のようです。しかし煙と灰になってしまった以上、我々が聴くことのできる最後の交響曲はこの第7番なのです。曲は通常20数分で演奏されて古典派以降の交響曲としては随分短い方です。シベリウスは曲のタイトルに「ファンタジア・シンフォニカ」とつけましたし、楽章の無い単一楽章構成になっていますので多分に交響詩的にも見受けられます。しかしこれはマーラーに代表される肥大化した交響曲とは全く逆におよそ無駄の無い極限にまで凝縮され尽くした交響曲なのです。

僕は第1楽章に相当するアダージョ部分が好きです。非常に哀しさを感じます。しかしそれは、あらゆる命が永遠に繰り返される輪廻そのもののような彼岸の雰囲気を感じます。もちろん続くスケルツォにあたる部分、更に刻々と移り変わる曲想の変化の妙も素晴らしく言葉を失うほどです。

この曲の演奏なのですが、曲の持つ雰囲気が近いこともあって第6番の演奏にどうしても重なってくるのは致し方ないところです。

51wgp741rql__ss400_ パーヴォ・ベルグルンド指揮ヘルシンキ・フィル(1986年録音/EMI盤) やはりベルグルンドをリファレンスにしたいところです。どこまでも限りなく美しく、純粋にこの曲の素晴らしさを心底堪能出来る演奏です。全体に彼岸の雰囲気をいっぱいに漂わせていています。スケルツォ部分の上手さも見事です。相変わらず録音がオフ気味ですが、気になる程ではありません。ベルグルンドには新録音盤も有りますが、全くの個人的にはやはりこのヘルシンキ・フィル盤を好みます。

Si026 レイフ・セーゲルスタム指揮ヘルシンキ・フィル(2002年録音/ONDINE盤) セーゲルスタムも同じヘルシンキ・フィルを指揮して、非常に素晴らしい演奏を多く残していますが、この曲は正直余り感銘を受けません。演奏には神々しい雰囲気というよりは純器楽的であり、どちらかいうと近現代音楽を聴いているような感じがします。この曲が果たしてそれで良いものか少々疑問に思います。ONDINEの録音は相変わらず優秀です。

Cci00023 渡邉暁雄指揮ヘルシンキ・フィル(1982年録音/TDK盤) ヘルシンキフィル初来日の時のライブ録音です。アケさんの実力はヘルシンキ・フィルのような優秀なシベリウス・オケを振ると見事に生かされます。どちらか言えば古い感覚の良く歌った演奏表現です。この曲の持つ彼岸の雰囲気はなかなか良く出ていますが、温かみがやや有り過ぎる点で評価の分かれるような気もします。ライブなので仕方有りませんがアンサンブルがほんの少し荒い気もします。TDKの録音はここでも優秀です。

36133027_1 ユッカ=ペッカ・サラステ指揮フィンランド放送響(1993年録音/FINLANDIA盤) これもサンクトべテルブルクでのライブ録音ですが、完成度に優れていて非常に美しい演奏です。スケルツォ部分のリズム感も歯切れが良く、素晴らしいです。但し、少々気になるのは幾らかせわしない面が有り、音楽に小ささを感じてしまう点です。あるいは空気の広がり感とでも言いましょうか、それが少しだけ不足している気がします。

Biscd864 オスモ・ヴァンスカ指揮ラハティ響(1996年録音/BIS盤) ヴァンスカによく見られるピアニシモを多用する表現が、ここでもまた音楽を痩せて聞こえさせてしまう気がします。曲の持つ彼岸の雰囲気に決して不足しているわけでも無いのですが、何となくこの彼岸の曲にどっぷりと入っていけない感じが気になります。とは言え、これもやはり非常に美しい演奏であることには変わり有りません。

4140bnz4zhl__ss500_ パーヴォ・ベルグルンド指揮ヨーロッパ室内管(1995年録音/FINLANDIA盤) ベルグルンドのヨーロッパ室内管との新盤も秀逸です。ヘルシンキ・フィル盤よりも高く評価する人が居るのも充分に理解できます。完全に統率されたアンサンブル、ニュアンスの豊かさはひとつの演奏表現の極地だと思います。そうなると後は神秘性でヘルシンキ・フィル盤とどちらが上かということになるのですが、その点ではやはりヘルシン・フィルのように思います。全体の魅力としては中々に甲乙が付けがたいところです。

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2009年4月12日 (日)

シベリウス 交響曲第6番ニ短調op.104 名盤

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シベリウスが交響曲第6番を完成させたのは、第5番の完成から8年後のことですが、草稿としては5番が完成する前に既に書き始めていました。その間には5番の改定を二度行い、また第7番も併行して手がけていたそうです。第7番の完成は6番の翌年ですので、この3曲の創作はかなり重なり合っていたようです。しかし6番と7番において、交響曲としていよいよ最終的な境地に及んだのです。作品を完成させておきながら本人が焼き捨ててしまったという第8番の楽譜が存在しないので、第7番が最終到達点であるとは良く言われますが、この6番も7番に匹敵するほどに曲想が充実しています。個人的には5番が一番好きかもしれませんが、6番を聴いている時にはこちらの方が好きかなとも思えてしまうほどです。

この曲は一般的にニ短調とされていますが、実は教会調であるドリア調なのですね。その為に非常に荘厳かつ神秘的な雰囲気を漂わせます。ここではもう単に地上の世界での自然というよりも、何か森羅万象の域にまで達してしまったかのようです。特にメロディアスでありながら涅槃の雰囲気を持っている第4楽章にはたまらない魅力を感じます。ここには人間感情としての「喜び」「悲しみ」ではなく、生きとし生けるものに永遠に繰り返される「ものの哀れ」という感じがします。これは大変な音楽だと思います。

ですので演奏においても、もしも人間的な矮小さを少しでも感じさせてしまったりすると、音楽の意味が全く伝わらなくなってしまいます。そういう基準で僕の愛聴盤をご紹介します。

51wgp741rql__ss400_ パーヴォ・ベルグルンド指揮ヘルシンキ・フィル(1986年録音/EMI盤) やはりリファレンスにすべきはこの演奏です。むろん美しいことこの上ないのですが、それも不純な物の全く存在しない浄化され尽くされた演奏です。第1楽章は早めのテンポですが神々しいほどの美しさです。第2楽章も実に神秘的な雰囲気をいっぱいに漂わせて見事です。第3楽章のリズム感も素晴らしいですが、終楽章では美しさここに極まれりという感じです。この演奏は本当に涅槃の境地にまで達しているような気がします。録音がオフ気味なのも逆に神秘的さが増してプラスに働いています。

763 レイフ・セーゲルスタム指揮ヘルシンキ・フィル(2002年録音/ONDINE盤) セーゲルスタム盤も同じヘルシンキ・フィルですし、やはり非常に素晴らしい演奏です。曲によっては時に荒々しさが過ぎるセーゲルスタムですが、この曲ではそのような事はありません。第2楽章の美しさや逍遙しながらの瞑想の深さも充分ですし、第3楽章の壮麗な盛り上がりも大変見事です。全般的にはベルグルンドよりもロマンティックに聞こえますがこの神々しい曲にとっては決してプラスに働かないのが難しいところです。いつもながらONDINEの録音は透明感が有って優秀です。

423 オッコ・カム指揮ヘルシンキ・フィル(1982年録音/TDK盤) ヘルシンキ・フィル初来日の時のライブ録音です。何度か書きましたが、この時の第3番と5番の演奏で僕はシベリウスに開眼しました。この6番の演奏も実に美しく、ライブでこれほど完成度の高い演奏が出来るのは当時からヘルシンキフィルがいかに高い実力を持っていたかの証明です。同じオケでもベルグルンドやセーゲルスタムのような神経質さは有りませんが、カムにしては随分と細部にまで気を配った演奏です。しかし全体は大波に乗ったような安心感と流れが有り素晴らしいものです。TDKの録音はここでも優秀です。

Vcm_s_kf_repr_500x493 ネーメ・ヤルヴィ指揮エーテボリ管(1983年録音/BIS盤)  ヤルヴィのこの曲の演奏も秀逸です。空気感と美しさは相当なものですし、第1楽章の主部の速さはベルグルンド以上で「全てを置き去りにして走り去る美しさ」を感じます。それはカール・シューリヒトの演奏するモーツァルトの「プラハ」のような感覚と言えるでしょうか。新録音(グラモフォン)はまだ聴いていませんが、旧録音全集(BIS)の中では最も優れた演奏だと思います。

36133027_1 ユッカ=ペッカ・サラステ指揮フィンランド放送響(1993年録音/FINLANDIA盤) これもサンクトべテルブルクでのライブ録音ですが、演奏の完成度に何ら不満は有りません。第1楽章から流れるようにとても美しいですし、第2楽章についても同様です。第3楽章のリズム感も素晴らしいものです。第4楽章もやはり美しいのですが、どうしてもベルグルンドと比較してしまうと表現の徹底度合いと神秘感においてやや不足を感じてしまいます。これだけ聴いていれば充分過ぎるほど良い演奏だとは思うのですが。

Biscd864 オスモ・ヴァンスカ指揮ラハティ響(1996年録音/BIS盤) ヴァンスカらしく、第1楽章はずっと小さめの音で押し通しますが、決して音楽が痩せて聞こえることが有りません。曲の神秘感を漂わせるのに完全にプラスに働いているのです。第2楽章も静寂の中に瞑想を深く感じさせて実に素晴らしいです。第3楽章はリズムの切れが良く、ピアノとフォルテの対比が効果的でスケールの大きさを感じます。第4楽章も同様で素晴らしいのですが、時折強奏される金管や打楽器の為に現実の世界に戻されてしまう気がします。ここではやはり涅槃の雰囲気を感じ続けさせてもらいたいのです。とは言え、これは本当に美しい演奏であると思います。

41gq3ga0eql__sl500_aa300_パーヴォ・ベルグルンド指揮ヨーロッパ室内管(1995年録音/FINLANDIA盤) ベルグルンドがヨーロッパ室内管を指揮した新盤(FINLANDIA)も秀逸です。人によってはヘルシンキ盤よりも高く評価しますし、弦楽の極限まで統率された点などは唖然としますが、どうも「優秀な室内合奏を聴いている」という感じが音に現れていて、自然感や神秘性においては、やはりヘルシンキ・フィルに及ばないと感じてしまいます。

というわけで、演奏を色々と聴き比べてみればみるほど、ベルグルンド/ヘルシンキ・フィル盤が断然のベストのように感じます。次点は正直どれでも良いという感じですが、強いて挙げればヴァンスカ/ラハティ響盤でしょうか。

次回の予定はいよいよ最後の第7番です。

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2009年4月 4日 (土)

シベリウス 交響曲第5番変ホ長調op.82 名盤・愛聴盤諸々

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交響曲第5番はシベリウスが50歳になった年(1915年)に、その祝賀演奏会で初演された曲です。自分自身の為のバースデー・シンフォニーですね。シベリウスがこの曲を初めからこの式典の為に書き始めたのかどうかはわかりませんが、彼としては第2番以降で最も明るい印象の曲になっています。これがもしも第4番では、ちょっとハッピー・バースデーの雰囲気では無くなりますからねぇ。(苦笑) 演奏会は大成功だったのですが、彼自身は曲の出来栄えには充分満足をしてはいなかったようで、後から2度も書き直しをしています。初演版は現在では滅多に演奏されません。通常は1919年の最終版で演奏されています。

この曲は、非常に美しい曲想を持った自然賛歌です。北欧の澄み渡った青空の元での清涼な空気を感じます。そういう点では7曲の中でも最右翼ではないでしょうか。季節としては、冬の終わりから春が訪れようとする頃ですね。事実、シベリウス自身がこの曲へ残したコメントが有ります。

「日はくすみ冷たい。しかし春はだんだん近づいてくる。今日は16羽の白鳥を見ることができた。神よ何という美しさか。白鳥は私の頭上を長いこと旋回して、くすんだ太陽の光の中に消えて行った。自然の神秘と生の憂愁、これが第5交響曲のテーマなのだ。」

この言葉がこの曲の全てを語リ尽くしていると思います。

初演版は、現在オスモ・ヴァンスカのCDで聴くことができます。1919年版と比較すると、確かに所々で散漫で無駄に感じる部分が有ると思います。しかし、もしもシベリウスが書き直しを行っていなかったとしても、これはこれで魅力的な作品には違いありません。しかし書き直しにより、曲構成も3楽章と4楽章を一つにしてしまいましたし、ずっと簡潔な傑作に仕上がりました。僕は、ある演奏家の全集を購入しようかどうか迷った時には、大抵は5番をまず聴いてみます。この曲は、オーケストラ自体の音を感じさせない自然音のような響きが理想的です。ところが美しく演奏するのが本当に難しい曲だと思います。その点ではブルックナー演奏に共通しています。従って、この曲の演奏が良ければ他の曲を聴いてもまず大丈夫です。

それでは僕の愛聴盤についてご紹介してみたいと思います。

Cci00023b ヨルマ・パヌラ指揮ヘルシンキ・フィル(1968年FINLANDIA盤) この人はベルグルンドと同じ世代ですが、そのベルグルンドの前のヘルシンキ・フィルの常任指揮者です。名前があまり有名でないのはCDの数が極端に少ないことと演奏活動よりもアカデミーの教授としてより多くの時間を過ごしたからです。事実門下生にはサロネン、オラモ、サラステ、ヴァンスカとそうそうたる名前が並んでいます。この人が60年代にヘルシンキフィルと5番の録音を残してくれたのは幸運でした。オーケストラの実力はベルグルンドの80年代にはまだ及びませんが、透明で清涼感溢れる音色というものは既に確立されています。フィンランドのシベリウス演奏の基礎は更に歴史を遡ると思いますが、パヌラが後輩達に与えた影響が大きいことは明らかだと思います。

Cci00025 オッコ・カム指揮ヘルシンキ・フィル(1982年録音/TDK盤) ヘルシンキ・フィル初来日の時のライブ録音です。この時の第3番と5番の演奏で僕はシベリウスに開眼しました。ライブでありながら完成度が非常に高いのはオケの実力が格段に上がったからだと思います。カムの好きなところはベルグルンドやセーゲルスタムに比べて神経質さが無く素朴に感じられるところとロマンティックな感覚が強いところです。ですので2楽章の美しさなどは際立ちます。3楽章後半もこけおどしでない高揚感が素晴らしく非常に感動的に終わります。TDKの録音も相変わらず優秀です。

51wgp741rql__ss400_ パーヴォ・ベルグルンド指揮ヘルシンキ・フィル(1986年録音/EMI盤) 僕が演奏のリファレンスとしているのはこの演奏です。それは最も過不足が無く、それでいて曲の素晴らしさをとことん感じさせてくれるからです。第1楽章冒頭からしてホルンの保持音に続く木管の受け渡しにほれぼれしますし、こけおどしでない壮麗さも実に素晴らしいです。第2楽章の静かな足取りで深く瞑想を感じさるのも見事です。第3楽章の自然な盛り上がりも素晴らしいですが、何より全体に弦楽器と管楽器の透明感の有るハーモニーが本当に美しいです。これでこそシベリウスの音楽が生きるというものです。但し録音がONDINEやBISと比べてパリッとしないのがやや不満です。

668 レイフ・セーゲルスタム指揮ヘルシンキ・フィル(2002年録音/ONDINE盤) セーゲルスタム盤もやはり非常に素晴らしい演奏です。スケールの大きさという点ではベルグルンドに勝ります。曲によっては時に荒々しさが過ぎると感じてしまうことのあるセーゲルスタムですが、この5番ではそのような事がありません。第2楽章の美しさや逍遙しながらの瞑想の深さも充分です。第3楽章の壮麗な盛り上がりも大変見事ですが、決して騒々しくは成りません。それはシベリウス演奏の基本中の基本なのです。ONDINEの録音も透明感が有って最高です。

Si249 ユッカ=ペッカ・サラステ指揮フィンランド放送響(1993年録音/FINLANDIA盤) これもサンクトべテルブルクでのライブ録音なのですが、完成度の高さには驚かされます。冒頭から非常に美しく、金管も必要以上に強奏されることがありません。もっとも録音がホールトーン的な柔らかい音なのでそう感じるのかもしれません。第2楽章はあっさりとした感じで、弦も木管も素朴な歌いまわしはなかなかです。第3楽章後半も大げさでない盛り上がりに不満は有りません。但し全体的にはサラステにしてはやや平凡に感じられるかもしれません。

41xtezfhf2bl__ss500_ オスモ・ヴァンスカ指揮ラハティ響(1996年録音/BIS盤) この演奏もヴァンスカらしく、ピアノとフォルテとの対比の明確なのはセーゲルスタム以上です。彼はよくピアノの音を弱く弾かせ過ぎて旋律が痩せて聞こえることが有りますが、この演奏では気になりません。金管の強奏やティンパニの強打もぎりぎりで踏みとどまっていて逆に効果的です。第2楽章は遅いテンポで弾き方がいじらしいほどであり、瞑想を深く感じさせて素晴らしい出来栄えです。第3楽章も非常に壮大で後半の盛り上がりは実に感動的です。

以上はいずれもシベリウス演奏として優れているので、どれを聴いても満足してしまいますが、今回改めて聴きなおして最も気に入ったのはオスモ・ヴァンスカ/ラハティ盤でした。

この曲は昔から大好きで、その他にも色々と演奏を聴いて来ましたので一通り触れてみたいと思います。ただ面白いことに上記は全てフィン指揮者とフィンオケの演奏です。それ以外の演奏にはフィン+フィンの組み合わせは一つとして有りません。ここまではっきりするとは我ながら興味深い結果です。

・シクステン・エールリンク指揮ストックホルム・フィル(1950年代録音/FINLANDIA盤) 隣のスウェーデン出身の指揮者だけあって、この時代の演奏としては良いとは思いますが、いかんせん録音が古めかしいのでシベリウスの透明感のある音を味わおうとするとどうにも無理が有ります。残念ですが録音のハンディを超えてまで聴きたくなるほどではありません。

・アンソニー・コリンズ指揮ロンドン交響楽団(1955年録音/DECCA盤) コリンズといえば私の世代には、ロンドンの廉価LP盤が懐かしいことと思います。当時はシベリウスの全集などもほとんど無かったので、メジャーのデッカが発売したので欧米で結構なセールスになったのではないでしょうか。しかし優れた全集が多く揃う現在となってはどれほどの価値が有るのかは疑問です。アクセントが過剰に強調された表現や金管が騒々しいのは僕としてはご免なのですが、フィンランド演奏家に物足り無さを感じる方にはむしろ良いのかもしれません。

・タウノ・ハンニカイネン指揮シンフォニア・オブ・ロンドン(1960年代録音/EMI盤) フィンランドの指揮者ですが、なにせ名前がイイですよね。ハンニカイネンとは!僕はこのCDを名前買い?したようなものです(笑)。ところが期待に外れてオケが余りに下手でした。ロンドン響ならまだしも、ちょっとシベリウスには無理が有ります。指揮は非常に大らかなものです。この人は第2番の録音も残していますがやはり同じ印象です。

・バルビローリ指揮ハレ管(1966年録音/EMI盤) バルビローリのシベリウスは昔は好きで良く聴いたものなのですが、現在はすっかり聴かなくなりました。オケの非力さも気になりますし、表現も素朴さと雑さが紙一重でしばしば不満に感じてしまいます。金管の強奏も荒くて耳に障ります。ただし2楽章だけは愛情のこもった表情がなかなか好きです。バルビローリ/ハレ管にはこの他にライブ録音も有りますが、EMI盤よりも更に気入らない演奏でした。 

・カラヤン指揮ベルリン・フィル(1965年録音/グラモフォン盤) 元々カラヤンの演奏には好きなものが余り多くはないのですが、この演奏は悪くありません。全般的にシベリウスへの愛情のような気分には欠けますが、なかなか爽やかで端正な演奏には好感が持てます。ただし終結部の金管の咆哮だけはいただけません。どうしてフィンランド以外の演奏家は往々にしてこのようになってしまうのでしょう。

・カラヤン指揮ベルリン・フィル(1976年録音/EMI盤) 旧グラモフォン盤が比較的端正な演奏であったにもかかわらず、何故か新盤では派手なカラベル調の演奏に変わっています。金管の咆哮などは耳を覆いたくなるほどです。カラヤンはかつて「シベリウスの音楽を理解するには北欧の自然を知らなければならない」と言ったらしいですが、結局は終生北欧を知ることは無かったのでしょうね。

・クルト・ザンデルリンク指揮ベルリン交響楽団(1971年録音/DENON盤) 昔、LPで持っていた演奏です。ところが何度聴いてもシベリウスの魅力は感じられませんでした。ドイツに生れてロシアも長かったザンデルリンクにシベリウスは遠い存在なのでしょう。録音は多いですが、所詮はレコード会社のやむない人選だったのではないでしょうか。

・ネーメ・ヤルヴィ指揮エーテボリ響(1982年録音/BIS盤) 父ヤルヴィもシベリウスの交響曲全集を2度録音していますが、これは旧録音の方です。これも1部リーグ昇格に近い演奏だと思います。ただ新録音の方が落ち着いた感じがするようなのでそのうちに聴いてみたいと思っています。

・ブロムシュテット指揮サンフランシスコ響(1989年録音/DECCA盤) この演奏はファンに案外人気が有りますね。確かにとてもアメリカ西海岸のオケの音とは思えないすっきり爽やか清涼な音がしています。やはり北欧出身のブロムシュテットの指揮だからでしょうか。金管や打楽器をかなり鳴らす部分も有りますが、音楽を壊してしまうような踏み外しは全く有りません。3楽章のスケールの大きい壮麗さも見事なものです。1部リーグに昇格させても良いかもしれません。

・パーヴォ・ベルグルンド指揮ヨーロッパ室内管(1996年録音/FINLANDIA盤) ベルグルンドの指揮はもちろん素晴らしいし、録音もEMI盤と違って優秀なのですが、管楽器がどうしてもヘルシンキ・フィルと比べるとシベリウスの吹き込み不足という気がしてしまいます。それとこの曲の演奏にしては小型車が無理して高速を走っているような感じがしてしまいます。この演奏をヘルシンキ盤よりも高く評価する方が居るのは知っていますが、僕は残念ながらそこまでとは思いません。

・サカリ・オラモ指揮バーミンガム市響(2001年録音/ワーナークラシックス盤) 指揮者は良いのかもしれませんがオケの音、とくに金管が無機的で味が無く好みません。ラトルに鍛えられたオケとして有名ですがシベリウスの音を出すのにはフィンランドのオケに到底かないません。

・渡邉暁雄指揮東京都交響楽団(1975年録音/東京FM盤) 日本の誇る歴代でも世界の5指に入るであろうシベリウス指揮者にも触れます。これは東京文化会館でのライブです。指揮はもちろん素晴らしい(はずだ)と思うのですが、オケの管楽器の非力さはいかんともし難いです。生前の生演奏を偲んで聴く楽しみしか有りません。但しアンコールの「トゥオネラの白鳥」のイングリッシュホルンソロを元ロスフィル主席のギャスマンさんが吹いているので、これは素晴らしいです。

・渡邉暁雄指揮日本フィルハーモニー(1981年録音/日本コロムビア盤) 単純比較では都響盤よりもこの日フィル盤のほうがずっと良いと思います。しかし、それでもヘルシンキ・フィルと来日した際の1、4、7番の名演を知る者としてはオケの落差の大きさがかえすがえすも残念でなりません。

まだ聴いていない中では、コリン・デイヴィスをそのうちに聴こうかと思っています。

次回は第6番の予定です。第5番と並んで僕の最も好きな曲です。

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シベリウス 交響曲全集 名盤

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