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2009年3月19日 (木)

シベリウス 交響曲第3番ハ長調op.52 名盤

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僕はシベリウスの音楽を毎年春が近づいて来る頃に集中して聴く習慣が有ります。無性に聴きたくなるのです。その理由は恐らく僕がシベリウスの作品の魅力に目覚めたのが、丁度冬が終わりを告げてもうじき春になる時期だったからだと思っています。きっかけになったのは私が社会人になって間もない頃、春スキーに行った帰りにスキーバスに揺られながら携帯オーディオでシベリウスの3番と5番を聴いていました。FM放送から録音したばかりのヘルシンキフィルの来日コンサートです。その日は晴れわたり、明るい日差しに山々の雪が徐々に溶け出していました。その光景とシベリウスの音楽が驚くほどマッチしているように感じたのです。家に帰って調べてみると5番にはシベリウス自身が「春の訪れとともに雪溶けの音に驚いた白鳥が湖から飛び立って自分の頭上を旋回し、光の中に消えていった」そんな風なコメントが付いているとか。なるほどと納得しました。「自然の神秘と生の憂愁」こそがシベリウスの音楽の基本テーマなのです。

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この3番はシベリウスが都会の社交界から離れて、片田舎の湖の近くに小さな家(アイノラ:上の写真)を買って夫人と2人で移り住んだ後に書いた最初の交響曲作品です。よく言われるように、第1番、2番の気宇壮大な曲想とは異なり、小さな規模で極めて内省的な内容の音楽になりました。第1楽章は土俗的で歯切れの良いリズムに、雪に覆われた大地の上を春の訪れを予感させる風が流れていくような爽やかさと喜びを感じます。第2楽章は素朴で美しい民謡風のメロディが静かに流れてゆき、深い瞑想を感じさせます。この楽章は余りの心地の良さに、いつまでも聴いていたくなります。第3楽章は前半の舞曲風の部分を経てから後半はそれにコラール主題が重なり合って高揚していきます。ところがこの曲には第4楽章は無く、これで終わってしまいます。壮大な1、2番に比べるとずっとこじんまりとした室内楽的な作品です。凝縮された構成で表現する「寡黙」と「神秘」。これこそが後期のシベリウス音楽の特徴であるのです。そして僕にとってもこの曲はシベリウスの中でも特に愛すべき曲の一つです。

それでは僕の愛聴盤のご紹介です。毎回同じような演奏家が並んでしまって申し訳ないのですが、第3番以降は益々演奏家を厳しく選ぶ音楽ですので止むを得ません。

423 オッコ・カム指揮ヘルシンキ・フィル(1982年録音/TDK盤) ヘルシンキ・フィル初来日の時の東京厚生年金会館でのライブ録音です。この演奏こそが前述の僕のシベリウス開眼となった記念すべきものなのです。当時のテープを既に駄目にしていた僕が、このCDの発売にどれほど歓喜したかはご想像下さい。今改めて聴きなおしてみても、素朴な美しさと優しさ、そして生命感に満ち溢れた素晴らしい演奏です。合奏は非常に優秀なのに少しも神経質で無いところがこの曲にとても合っていると思います。そのうえ更に私の青春の日々の思いが重なりあって、正に宝物のような存在なのです。TDKの録音も相変わらず優秀です。

51xbpaqnqql__ss400__4 パーヴォ・ベルグルンド指揮ヘルシンキ・フィル(1986年録音/EMI盤) さすがに初演を行った楽団は音楽が楽員の身体に染み付いています。そしてここでも弦楽器も管楽器も澄み切ったハーモニーが非常に美しいです。ベルグルンドの表現もいつもながらに自然でやり過ぎたところが有りませんし、一つ一つの音符が本当に大切に扱われているので本当に安心して聴いていられます。第2楽章の静かなたたずまいと足取りも瞑想を深く感じさせます。第3楽章の自然な盛り上がりも素晴らしく、これでこそシベリウスの音楽が生きるというものです。但しカムと比べてしまうと幾分神経質な分、好みが分かれるかもしれません。

668 レイフ・セーゲルスタム指揮ヘルシンキ・フィル(2002年録音/ONDINE盤) ヘルシンキ・フィルの奏でるシベリウス演奏はどれも素晴らしく、このセーゲルスタム盤もまた魅力的です。ところどころでベルグルンド盤よりも更に美しいかなと感じる部分が有りますが、ひとつはこのCDは録音が非常に優秀なのでそう感じてしまうのかもしれません。但し第2楽章の瞑想はベルグルンドのほうが深いような気がします。第3楽章の盛り上がりについては全く文句が有りません。

36133027_1 ユッカ=ペッカ・サラステ指揮フィンランド放送響(1993年録音/FINLANDIA盤) これもサンクトべテルブルクライブでのライブ録音です。冒頭から早めのテンポでさっそうと始まり、リズミカルな心地よさが悪くありません。金管も強奏されティンパニも強打されますが不思議と素朴な曲想を損ねているようには感じません。第2楽章も早めのテンポなのですが違和感は無く、木管の素朴な歌い回しが魅力的です。弦も民謡風の雰囲気が良く出ていてとても好ましく思います。第3楽章は後半のコラールが重なり合ってくるところからも少しも大げさでない自然な高揚感を見せていてとても気に入っています。

643 オスモ・ヴァンスカ指揮ラハティ響(1996年録音/BIS盤) この演奏もいかにもヴァンスカらしく非常に細部にまでこだわりを見せている演奏です。ピアノとフォルテとの対比はセーゲルスタム以上です。第1楽章は遅めのテンポで非常に小さな音で始まりますが、少々弱すぎてしまい旋律が痩せて聞こえます。その反面ティンパニをかなり強打させるなど、どうも曲想の素朴さが失われているように感じます。第2楽章はとても遅いテンポで瞑想を深く感じさせますのでこれは秀逸です。第3楽章は前半、後半ともに非常に彫りが深くこの曲の魅力がかつて無いほど新鮮に感じられます。特に後半の壮大な盛り上がりは驚くほどです。この演奏で聴くと3番も決してこじんまりとした曲ではなく1、2番のようなスケールの大きな曲に聞こえます。

以上のCDはいずれも大変素晴らしく、これほどの高次元になると正直言って優劣をつけるのは至難の業です。あくまでも僕の好みとお断りした上で選びますと、カム/ヘルシンキ・フィルがベスト。2番目がベルグルンド/ヘルシンキ・フィル。3番目にサラステ/フィンランド放送響。以上がベスト3というところです。しかし残りの二つも全くの僅差、特にユニークなヴァンスカには捨てがたい良さが有ります。

さて、次回は第4番です。いよいよシベリウスの深遠の世界に入って行きます。

<関連記事>
「若き日のオッコ・カムのシベリウス」

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コメント

簡にして要を得た解説、敬服します。でも私は、春というより晩冬と言いたい感覚にとらわれます。雪はたくさん残っているが、光の春がやってきて、快晴の日に犬ぞりで疾駆しているような1楽章、日暮れ空が群青色に変わってゆく2楽章、そして終楽章は翌朝?

アイノラは札幌の郊外(恵庭とか千歳とか)にでもありそうな静かな環境でしたが、彼が住んだ当時はもっと静かで不便だったことでしょう。生活が一変したことが作品にも影響し、音楽が凝縮されたのではないでしょうか。4楽章構成であれば3・4楽章に相当する要素が、一つの楽章に入っているわけですね。実は私は、1、2番を聴いていると、3楽章のスケルツォが一番シベリウスらしくない感じがするのです。それでこのような構成にしたのではないか?と勝手に憶測しています(協奏曲では普通の構成ですけどね)。

お金がなかった学生時代は、友人の持っていたマゼル(VPO)盤からコピーしたテープで勉強しました。今もテープは残ってますが、ふだん聴くのはヴァンスカです。(例のシベリウスだけ奏く楽団の常任指揮者はヴァンスカに師事した方のようですね)

投稿: かげっち | 2009年3月21日 (土) 23時59分

かげっちさん、こんにちは。

いや私も「3番」は冬でも無く春でも無い丁度移り変わろうとする時期のイメージです。たぶんかげっちさんの言われる「晩冬」に近いと思いますよ。

かげっちさんは実際にフィンランドへ行かれてアイノラを訪ねた経験がお有りなのですものね。羨ましい限りです。私も死ぬまでに一度は行ってみたいです。

1、2番の両3楽章はたしかに「シベリウスらしくない」印象を感じるかもしれませんね。でも考えてみれば「レミンカイネンの帰郷」とか「フィンランディア」とかも結構荒々しいですから、これは初期の作品に限られた曲想なのでしょうね。

投稿: ハルくん | 2009年3月22日 (日) 09時59分

そういえば「晩冬」という言葉は本州以南ではあまり使わないかもしれませんね。よく「番頭?」「バンド?」と言われてしまいます。冬が短いから細分しないということもあるでしょうし、来たるべき春のほうに目を奪われるということもあるでしょう。

3番より4番のほうが時期としては少し早い、厳しい季節でしょうね。

投稿: かげっち | 2009年3月27日 (金) 12時48分

かげっちさん、こんばんは。

実は私も「晩冬」という言葉を初めて知りました。これを知らない人が相手から「もうすぐ番頭になるね~」と言われれば驚きますよね。(笑)
冬が終わりそうでなかなか終わらない北国ならではの言葉なのですね。

投稿: ハルくん | 2009年3月28日 (土) 03時24分

今日、アマチュア・オケの演奏会(ザ・シンフォニー・ホール)で
この曲を聴いてきました。
予想を超える出来で、曲の素晴らしさが伝わってきました。

この曲は内省的で室内楽的なのがいいですね。
第1・第2より「一皮剥け」ているのに
演奏機会が少ないのは残念です。
その点、今日は貴重な体験が出来ました。

投稿: 影の王子 | 2013年9月15日 (日) 18時25分

影の王子さん

シベリウスの3番の曲の魅力を引き出すとは、相当に優れたアマチュアオケですね。
良いものを聴かれました。

地味ですがこのような名曲の演奏機会が少ないのは非常に残念です。

投稿: ハルくん | 2013年9月16日 (月) 09時00分

こちらにもこんにちは。

昨夜、TDKのカム/ヘルシンキを聴きました。ようやく入手できました。

録音が素晴らしいのもあり、冒頭から引き込まれます。コノ演奏を聴かれていたなんて...なんと羨ましい。

Led Zeppelin初来日も行かれてるし、現在のwebを越えたご活動も含め、音楽の星の下に居られます。

3番と同等以上に、カップリングの6番も素晴らしい時間でした。幽玄さがたまらないです。

3番と6番では、以前に書き込みしていないので、唯一の体験:ベルグルンド/ヘルシンキでは、ここまで感銘を受けていなかったのでしょう。EMI特有の録音もあるのでしょうけど苦笑。

11/末の東京公演やっぱり聴きに行きたい...。チケット探そかな...。

投稿: source man | 2015年10月 7日 (水) 10時25分

source manさん

カム/ヘルシンキのTDK盤、素晴らしいですよねー。
最近出たラハティ響との新盤も良いのですが、この日本公演録音の若々しい魅力は永遠に不滅です。
でもベルグルンド/ヘルシンキ盤もやはり素晴らしいですよ。

東京公演が聴けると良いですね。

投稿: ハルくん | 2015年10月10日 (土) 00時34分

ラトル BPOのDCHダウンロード版のハイレゾ録音が素晴らしいですよ。引越しの時に乗った機関車の描写の3楽章が圧巻です。

投稿: 通りすがり | 2016年3月13日 (日) 20時56分

ラトルの演奏は聴いたことが有りませんが面白そうですね。
この曲の自分のイメージ、好みに合うかどうかは余り自信がありませんけれども。
ご紹介ありがとうございました。

投稿: ハルくん | 2016年3月17日 (木) 12時46分

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