シベリウス 交響詩「フィンランディア」op.26 名盤 ~目覚めよフィンランド~
シベリウス特集が交響曲第4番まで終わったところで次は5番と思っていたのですが、ちょっと気が変わってフィンランド国民にとって大変に重要な作品に触れたいと思います。交響詩「フィンランディア」は知らない人が居ないほどに有名な曲ですが、この曲はフィンランドでは第二の国歌と呼ばれています。その理由は曲の作られた背景にあるのです。
フィンランドは19世紀の初めから既に100年近くも国境が隣リ合うロシアの支配下にありましたが、当時は弾圧が一段と厳しくなった時期でした。その弾圧政策の一つとして出版物への検閲が義務付けられたのです。その為にフィンランドの新聞関係者が検閲への反対集会を行うことが決定されました。集会の最後には「フィンランドの目覚め」という劇が上演されることになったのですが、その音楽を担当したのがシベリウスでした。この劇のフィナーレとなった曲が他ならぬ「フィンランディア」の原曲なのです。そして、その原曲を後でコンサート用に編曲したものが交響詩「フィンランディア」です。この曲はとても親しみやすいので、特に曲の背景を知らなくても感動させられてしまいます。ですが、そのような曲の背景を知ることで感動が一段と増すのでは無いでしょうか。
この曲の演奏には大きく分けて、管弦楽のみで演奏される版と、合唱付きで演奏される版が有ります。更には合唱付きでも男性合唱と混声合唱とが有ります。僕は合唱付きで聴くのが好きなのですが、それぞれについての名演奏をご紹介したいと思います。
レイフ・セーゲルスタム指揮ヘルシンキ・フィル/ポリテック男性合唱団(ONDINE盤) この演奏は男性合唱付きです。彼らは母国の賛歌を力強く感動的に歌い上げています。ロシアの圧制に屈することなく皆で立ち上がって戦おう、という祈りをストレートに感じます。他の国の合唱団がこのように歌うことはまず不可能でしょう。セーゲルスタムの指揮も、導入部の力強さや主部の速い部分の切れの良さは実に見事です。仮に合唱団が無かったとしても、大変素晴らしい演奏です。交響曲全集にも収められていますが、単売では4番と組み合わされています。
エリ・クラス指揮フィンランド国立歌劇場管/合唱団(ONDINE盤) この演奏は混声合唱付きです。男性合唱の場合だと、戦う為に立ち上がろうという力強さを感じるのですが、混声の場合にはもっと静かに母国への愛を歌いあげているように聞こえます。どちらも感動的なのことには変わりがなく、雰囲気の違いを楽しめるのが嬉しいです。歌劇場の管弦楽団もなかなか立派なものです。この演奏はシベリウスのカンタータ集というタイトルのCDに収められています。
オッコ・カム指揮ヘルシンキ・フィル(TDK盤) これは1982年の日本でのライブ演奏なのでもちろん合唱は付きません。ところが非常に感動的な演奏なのです。導入部から異常なまでに気迫がこもっています。一音一音が迫るように訴えかけてきて圧倒されます。主部に入ってからは早いテンポで前のめりになるほど高揚するさまに興奮させられます。そして中間部では管弦楽がまるで人の歌声のように、というよりも歌声以上に感動的に母国賛歌を歌い上げるのです。何という演奏なのでしょう。オッコ・カムは非常に録音の少ない指揮者ですが、これほどの演奏の出来る人が実にもったいないことだと思います。この演奏は第2番のCDに収められています。TDKの録音は生々しく極上です。
パーヴォ・ベルグルンド指揮ヘルシンキ・フィル(EMI盤) この演奏も合唱無しです。ベルグルンドは同じEMIに僅か数年前にフィルハーモニアともこの曲を録音していますが、このヘルシンキ・フィルとの演奏の方が数段出来は良いです。まあフィンランド人の演奏家がこの曲を演奏して良くなければ、他の国にさっさと移住したほうが良いと思います。この演奏はもちろん非常に素晴らしいのですが、オッコ・カムの奇跡的な演奏と比べてしまいますと感動度合いで少々及ばないというところです。この演奏は全集盤や4~7番の輸入2枚組盤、国内の2番に収められています。
オスモ・ヴァンスカ指揮ラハティ交響楽団(BIS盤) この演奏も合唱無しです。ヴァンスカは素晴らしいシベリウス指揮者で管弦楽曲も全てといっていいほど録音しています。ところが、この演奏は中間部の賛歌のところを非常に小さな音で弾かせるので、音楽が痩せて聞こえてしまうのです。この表現は私はちょっと気に入りません。録音もなんだかパリッとしないこもった音なので物足りなさを感じるところです。他の母国演奏家と比べて一段落ちるのがとても残念に思います。この演奏は管弦楽曲のベスト盤に収められています。
有名曲なのでフィンランド以外の演奏も多く有りますが、その中で強いてあげればネーメ・ヤルヴィ指揮エーテボリ管(グラモフォン盤)はなかなか良い演奏です。ヤルヴィはフィンランドと同じフィン民族の多いエストニア出身ですし、エストニアはやはり同じようにロシアからの独立闘争の歴史を持ちますので、この曲への共感は並々ならぬものが有って当然でしょう。オケの分厚く重々しい響きも私が生で聴いたエーテボリ管の音にかなり近い音です。この演奏は管弦楽曲盤もしくは2番のCDに収められています。
次回は交響曲第5番です。
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