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2009年2月21日 (土)

シベリウス 交響詩「クレルヴォ」op.7 名盤 ~幻の傑作~

僕は毎年、春が近づいて来る今ごろはシベリウスの音楽が無性に聴きたくなります。それはたぶん若い頃に初めてシベリウスの曲の魅力に気が付くきっかけになった、丁度今ごろ雪山へ行ったとき何気なく聴いていたシベリウスの音楽が辺りの雪解けと陽の光の光景に驚くほどマッチしているのに驚いた経験が有ったからだと思います。もちろん曲によって印象は異なりますが、多くの曲にそんなイメージを湧かせてくれる部分が頻出します。

シベリウスの作品の中核は何と言っても傑作揃いの第1番から第7盤までの7曲の交響曲ですが、彼の初期の大作「クレルヴォ」も、非常に魅力的な作品です。シベリウス自身は、この曲のタイトルには単に「声楽付管弦楽の為の交響詩クレルヴォ」と記しています。但し大変に規模が大きいので、通称「クレルヴォ交響曲」と呼ばれますし、マーラーの「千人の交響曲」や「大地の歌」が交響曲なのですから、この曲も本当に「交響曲」としても良かったのじゃないかなぁとも思います。

この作品は、自国フィンランドでの初演が大成功だったのにもかかわらず、自己批判的なシベリウス本人が余り気に入らずに出版も再演も行なわなかったこともあり、長い間「幻の作品」になってしまったのです。それがようやく1958年に復活演奏されて出版もされましたが、大作であることと歌詞がフィンランド語であることが障害となって世界では簡単には広がりませんでした。それでも時とともにレコードが発売されたり、1974年にはわが国でも渡辺暁雄/都響により初演されたりと徐々に普及して来たのです。しかしこの曲がシベリウスファン以外の人にどれぐらい聴かれているかと考えると少々疑問であり、ほとんど聴かれていないのではないかと思います。これは大変残念です。

この曲はフィンランドに1000年以上も昔から伝わる叙事詩「カレワラ」伝説が題材となっています。その長大な全編の中の第35章と36章の部分がこの曲に使われています。話の内容ですが、かつて叔父に父親を殺された超人クレルヴォが、ある日ソリを走らせて家に帰る途中に若い女を誘惑しようとしますが、最初の2人に断られたものの3人目にやっと成功して、自分のソリに誘い入れて女を犯してしまいます。行為の後にお互いの身の上話をしてみると、実は生き別れになっていた兄妹の間柄であることが判りました(こういう近親相姦の話は案外題材に多いですね)。そして、悔やんだ妹はその場で川の流れに身を投げて死んでしまいます。クレルヴォも家に帰って自殺しようとしますが、それを母親に止められて、父の仇討ちを決心して出かけます。彼は父の復讐を果たして家に戻って来ますが、すると彼の家は荒れ果てて母の姿も無く、落胆した彼は妹と過ちを犯してしまった場所に再び戻り、そこで自らの剣で命を絶つという話です。とんだ超人で驚いてしまいますね。

この曲は5部構成で出来ています。

第1部「導入部」 序曲の位置づけですが、非常に魅力的です。詩情に溢れており、円熟期の作品のようなフィンランドの雄大で美しい自然が目に浮かぶようです。面白いことに主題のメロディがあたかもNHKの大河ドラマのタイトル曲を思わせます。(いや逆ですね。大河ドラマの作曲家が影響を受けているのでしょう。)

第2部「クレルヴォの青春」 情緒溢れる幻想的な曲で、ハーモニーが実に美しいです。交響曲で言えば緩徐楽章にあたります。

第3部「クレルヴォと彼の妹」 長大なこの曲の核心部分であり、クレルヴォと妹の話が歌い述べられます。出だしにソリを元気良く飛ばして女狩りをしようとする部分の音楽は楽しいのですが、最後は話の結末通り劇的に終わります。

第4部「戦いに赴くクレルヴォ(行進曲)」 父親の仇打ちの部分です。

第5部「クレルヴォの死」 フィナーレです。家に戻った後の悲劇的な最後を劇的に閉じます。

この曲は現在では既に「幻の作品」ではなく、幾つものCDが発売されていますが、僕は二つの演奏を愛聴しています。

Cci00010b パーヴォ・ベルグルンド指揮ヘルシンキ・フィル(1982年録音/EMI盤) この曲を世界で初めて録音したのはベルグルンドです。このCDは二度目の再録音盤です。ベルグルンドはシベリウスのスペシャリストとして、交響曲全集を3度も録音していますが、これはその中で最も素晴らしく、リファレンスとも言える2度目のヘルシンキ・フィルとの全集の中に収められています。当然、演奏は悪いはずが無く、このシベリウス初期の曲の魅力を充分に表しています。

Cci00010 オスモ・ヴァンスカ指揮ラハティ響(2000年録音/BIS盤) ヴァンスカも非常に素晴らしいシベリウス指揮者です。同じラハティ響との交響曲全集は、正にベストを争う出来栄えですが、この「クレルヴォ」も本当に素晴らしく、この曲に関してはベルグルンド盤以上だと思います。録音の質、バランスも優秀なので、非常に繊細で深みや静けさが表現し尽くされた演奏をとことん味わうことができます。僕はこの演奏で初めて曲の魅力が100%理解できたと思います。

ということで、しばらくはシベリウス特集で行きたいと思っていますので、どうぞお暇のある方はご笑読下さい。そして何でもご遠慮なくコメント頂ければ嬉しい限りです。

<補足>
ところがその後に、フィンランドのヨルマ・パヌラのとてつもなく素晴らしいCDに出会いました。詳しくはその記事からどうぞ。

シベリウス 交響詩「クレルヴォ」 パヌラ/トゥルク・フィル盤

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コメント

このディスクは意外にもたくさん出ています。ベルグルンド、デイヴィスもそれぞれ2回。けっこう聴かれてきたレパートリーではないでしょうか。偶然ですが、私も先だって記事にしてしまいました。

投稿: fairchild670 | 2009年2月21日 (土) 21時23分

fairchildさん、始めまして。
コメント頂きましてありがとうございます。

さっそく貴記事を読ませて頂きました。
何と一日違いでクレルヴォの記事を、しかも同じヴァンスカ盤の紹介とは正に偶然ですね!
今後とも宜しくお願い致します。

投稿: ハルくん | 2009年2月21日 (土) 23時26分

ハルくん様

ついに始まりましたね、シベリウスサイクル。

>しかしこの曲がシベリウスファン以外の人にどれぐらい聴かれているかと考えると

やっぱりこの大曲を自分から聴こうとする人はシベリウスファンなのでしょう(笑)それと、コンサートのプログラミングを考えると、この曲に何を取り合わせるか?私が指揮者だったら全曲シベリウスプログラムを組んでしまいそうです。そうすると聴衆はシベリウスファン中心になってしまう(苦笑)

とはいえシベリウスの後期の交響曲に比べると描写的で下手すると冗長になってしまう曲です。ヴァンスカの指揮はよいですね。

投稿: かげっち | 2009年2月25日 (水) 11時52分

かげっちさん、こんばんは。

はい、ちょいとチャイコフスキーに戻っていますがシベリウス特集、真面目にやろうと思っていますので宜しくお願いします。

やはりオールシベリウス・プロがファンは一番喜ぶのでしょうが、メインが「クレルヴォ」では一般の客入りは余り期待できないでしょうねぇ。同じ男性合唱付きで「フィンランディア」を入れれば大分ポピュラーになりますね。中プロは「カレリア組曲」かな?興行的には。(笑)

ヴァンスカは本当に良いですよ。やっぱりファンには結構指示されているような気がします。

投稿: ハルくん | 2009年2月25日 (水) 22時28分

こんばんは。

なるほど男声合唱をどうせ起用するならフィンランディアですね。中プロにはVn協奏曲か、どうせ受けを狙わないのであれば他のフィンランド作曲家(または北欧作曲家)の現代作品を入れるのもよいでしょう。

ところで、10年以上前に経験した短いフィンランドの旅の随想をアップしていた間借りブログが閉鎖されたので、きょうmixiにリアップしたのですが、ハルくん様は加入しておられますか?

投稿: かげっち | 2009年2月25日 (水) 23時50分

かげっちさん、フィンランドへ旅行されたことが有るのですか。それは素晴らしい!私は北方面へは稚内迄しか行ったことが有りません。フィンランド、ノルウェーには是非行ってみたいものです。
mixiには残念ながら加入はしていないのですよ。

投稿: ハルくん | 2009年2月26日 (木) 01時59分

ハルくんさん

出張だったのでレスが遅れました。私も札幌出身ながら旭川・網走までしか行ったことがありません。でもフィンランド良かったですよ。また行きたいです(当たり前か)。時間ができたら随想お送りしましょうか?

昨夜のN響アワーの「我が祖国」もよかったです。「あ、そういうことか!」と、耳からウロコの箇所がいくつもありました。

投稿: かげっち | 2009年3月 2日 (月) 12時49分

かげっちさん、お忙しそうですね。

フィンランド紀行の随想ですか。それは是非とも読ませて頂きたいですね。お願いします!
私も実は二年前に行ったドイツ旅行の回想を何かの機会に書こうかなぁとは思っていますよ。ヨーロッパは本当に良いですものね。

今週のN響アワーは観なかったです。「目からうろこ」でしたか?
なかなか興味深いですねぇ。観れば良かったです。

投稿: ハルくん | 2009年3月 3日 (火) 22時24分

こんばんは。

サロネン盤で初めてこの曲を聴きましたが、良いじゃないですか!
同じ声楽入りの初期作品のマーラーの「嘆きの歌」が冗長なのに
こちらは音楽がすんなりと耳に入ってきます。
まごうことなきシベリウスの傑作です。
いままで聴いていなかった自分を恥じました。
声楽を揃える必要があるにせよ、この曲はもっと演奏されていいと思います。
パーヴォ・ヤルヴィに期待したいところ・・・

投稿: 影の王子 | 2016年12月17日 (土) 20時54分

影の王子さん、こんにちは。

交響曲第1番も名曲だと思いますが「クレルヴォ」の魅力はまた特別ですね。
情緒的で民族的かつシンフォニックな味わいが何とも言えません。後期の交響曲の”円熟味”とは異なる若書きであるからこその”新鮮味”が本当に魅力的ですね。
この大作は我が国のコンサートでももっともっと取り上げて欲しいと思います。

投稿: ハルくん | 2016年12月19日 (月) 12時48分

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