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2008年12月27日 (土)

ブラームスの室内楽 弦楽六重奏曲 名盤 ~恋人達~

ブラームスは弦楽器だけの編成による室内楽曲としては、四重奏曲を3曲(作品51の1と2、作品67)、五重奏曲を2曲(作品88、作品111)、六重奏曲を2曲(作品18、作品36)作曲しました。ご覧の通り、作品番号は早い方から六重奏→四重奏→五重奏の順です。そのため六重奏にはどことなく若書きの未熟さも感じられ、曲の深さ、充実度から言えば五重奏、四重奏が優れると思います。けれども逆に難解だとは言わないまでも、曲想がかなり渋みを帯びているので、五重奏、四重奏については他のピアノや管楽器入りの曲に親しんでから聴いても決して遅くはないと思います。その点、六重奏は曲も解り易く聴き易いですし、ヴィオラとチェロをダブルにしている為に重厚なシンフォニーのような響きをかもし出していて、ても魅力的な佳曲だと思います。ここでは、その六重奏曲についてご紹介することにします。

弦楽六重奏曲第1番 変ロ長調op.18

ブラームスがまだ27歳の時に書いただけあって、青春の息吹に溢れるロマンティックな名曲です(まあ、この時も絶対に彼は恋をしていたでしょうね)。ですが、そこはやはりブラームス、師匠シューマンと比べれば甘さは控えめですし、甘さの中にも渋味がたっぷりと含まれた「一番絞り」という感じです。楽章としては、第2楽章アンダンテが名匠ルイ・マレ監督、名女優ジャンヌ・モロー主演の映画「恋人達(Les amante)」のテーマ曲として使用されたので有名です。名旋律が何度も何度も繰り返し変奏される名曲です。けれども個人的には第1楽章アレグロ・マ・ノントロッポが、それ以上の傑作だと思います。若い情熱に溢れているのに、何故か昔を懐古しているような曲想はいかにもブラームス。全く精神年齢不詳の青年です。この第1楽章は映画「恋人達」の中では濃厚なラブ・シーンで使用されています。1、2楽章が非常に優れているので、3楽章以降が幾らか聴き劣りはしますが、もちろん水準以上ですし、1、2楽章の感動の余韻を充分に楽しんでいられます。

弦楽六重奏曲第2番 ト長調op.36

第1番に比べるとかなり地味な曲ですが、いじらしいほどに甘く優しい雰囲気に溢れる名作です。それもそのはず、ブラームスは当時婚約者のアガーテに熱烈だったです。なので、この曲は別名「アガーテ」とも呼ばれます。心静かに曲を味わうには、第1番よりもむしろ第2番の方が向いているかもしれません。第1、第2楽章の幸せ一杯の雰囲気に比べて、第3楽章にはどことなく不安な気分が顔を出すのはブラームスの『またも失恋』への予感からでしょうか。こと恋愛に関してはつくづく気の毒な男だと思います。だから、よけいに親近感(連帯感)が湧くのかもしれません??

ということで、この2曲は、どちらも「恋」のイメージに結び付きます。天涯孤独のブラームスの若き幸福な日々を想像するだけでも楽しいではありませんか。

―第1番変ロ長調op.18―

Cci00043 スターン(Vn)、シュナイダー(Vn)、カティムス(Va)、カザルス(Vc)他(1952年録音/CBS SONY盤) この演奏の凄さを何と表現したら良いのでしょう。昔、僕がまだ学生時代にこの演奏のLPを聴いて心底打ちのめされました。カザルスを中心とした豪華メンバーが音楽に真摯に立ち向かい、とてつもなく気宇の大きい魂の演奏を繰り広げるこの演奏だけは未だに比較出来る対象の無い孤高の極みに達していると思っています。1楽章では喘ぐような大きな歌が本当に感動的です。2楽章では荒々しい楽器のぶつかり合いが美感を損ねているほどですが、はらわたをえぐられるような壮絶さは他の演奏がみなムード的に聞こえてしまうほどです。この演奏を耳にして平静で居られるような聴き手は絶対に存在しないと思います。全てのクラシックファン必聴の歴史的名盤だと言えます。

409 ウイーン・コンツェルトハウスSQ他(1951年録音/ウエストミンスター盤) このCDは、古き良き時代の柔らかい、あの本場ウイーンの演奏を味わうことが出来るので、とても価値が有ります。ブラームスの甘い青春の息吹を感じるという点では、この曲の本来の姿に一番近いのかもしれません。その分重厚さは余り有りません。1、2楽章よりもむしろ終楽章がとても楽しめます。このCDはピアノ五重奏曲の名演とカップリングになっているのが嬉しいです。

Cci00050b アマデウスSQ、アルバンベルクSQ各メンバー(1990年録音/EMI盤) 個人的にはアマデウスSQは余り好きではありません。第1ヴァイオリンのブレイニンの過剰な表現とわざとらしさが大抵の場合に鼻についてしまうからです。ところがこの演奏には、大変に真実味が有り素晴らしいです。というのも、この演奏は長年の盟友であったヴィオラ奏者シドロフの追悼演奏会の後に、再び実現したABQメンバーと共演したライブ録音だからです。音そのものは非常に綺麗なのですが、第1楽章や第2楽章での喜びや哀しみをなり振り構わずに大きく歌う演奏には目頭が熱くなります。これはカザルスたちの演奏に迫るほどの、以前のグラモフォンの録音とは全く次元の異なる名演奏だと思います。

Cci00052_2 ブッシュSQ他(1949年録音/Music&Arts盤) これは番外として挙げたいブッシュ晩年のライブ録音です。というのも年代を考慮しても録音が悪過ぎます。それでも、この演奏の持つ深く濃厚なドイツ浪漫はひとつの聴きものではあります。よほどのファン以外にはお勧め出来ませんが、現代では失われてしまった戦前のドイツロマン派時代の偉大なカルテットの演奏ということで、大変貴重な記録です。

―第2番ト長調op.36―

Cci00051 ウイーン・コンツェルトハウスSQ他(1954年録音/ウエストミンスター盤) これも前述の第1番と全く同様に、古き良き時代の柔らかいウイーンのローカルな味わいを聴ける素晴らしい演奏です。アントン・カンパーの歌わせるヴァイオリンが何とも懐古的、情緒的で味わい深く、大変に魅力的です。第2楽章の何とチャーミングなことでしょう。全体の演奏の出来映えとしても、第1番よりも第2番の方が優れていると思います。このCDのカップリングは弦楽五重奏曲第1番ですが、そちらもやはり魅力的な演奏です。

Cci00050 アマデウスSQ、アルバンベルクSQ各メンバー(1987年録音/EMI盤) これはアマデウスSQの盟友シドロフの追悼演奏会のライブ演奏です。ここには、旧グラモフォン盤での表現のわざとらしさは影を潜め、心からの歌を歌っているのに胸を打たれます。彼らは長年の盟友を失うことで、初めて真実の音楽表現が可能になったとすれば何とも皮肉なものですね。ただ、この曲のいじらしい曲想にしてはブレイニンの演奏の表情づけが大き過ぎるようにも感じますし、ライブという条件を考慮しても音程が甘いのが気になります。演奏そのものの出来栄えとしては前述の第1番の方が上回ります。

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この際ですので、弦楽四重奏と五重奏の全集盤のご紹介も簡単にしておきます。

弦楽四重奏曲&弦楽五重奏曲全集

177 ブダペストSQ(CBS SONY盤) 本家SONYが長い間廃盤にしていた名盤をまとめてタワーレコードが発売してくれました。(SONYは全く何を考えていたのかなぁ) 他にもゼルキンとのピアノ五重奏、クラリネット五重奏が収められています。ブダペストQの演奏は非常に音が渋いですが、だからこそブラームスの良さが際立つものと信じています。この全集はブラームジアーナーの座右の名盤と言えるでしょう。

790アマデウスSQ(独グラモフォン盤) 個人的には余り好きになれないのでご紹介するのもどうかとは思いますが、アマデウスSQのファンが多いのも事実です。それに、このBOXセットは他にも弦楽六重奏曲、エッシェンバッハとのピアノ五重奏曲、ライスターとのクラリネット三重奏/五重奏曲と、非常に盛りだくさんですので、好みの問題を抜きにすれば、とてもお買い得なのは間違いありません。

11月に始めたブラームスの室内楽特集も今回で、はや9回目。ひとまずは最終章とします。まだまだ触れたい曲も残ってはいますが、それはまたの機会にということで。皆様、ご笑読と多くのコメントを大変有り難うございました!

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コメント

ハルくんさん、こんばんは!
ブラームスの弦楽六重奏はデームス/ウィーン・コンツェルトハウスQのを愛聴してます。カンパーの音色はブラームスの哀愁漂う旋律にぴったりですね!もっとも、その哀感が強調される感じ、ブラームスが嫌いな方には余計ツライ演奏かもしれませんが(苦笑)。

ブダペストQの弦楽四重奏も絶品ですね。以前ブログへのエントリーしたのですが、特に3番はうぐいすも愛聴してます。ただ、四重奏も音楽自体がすでに重厚なため、逆に軽い感じの演奏も聴いてみたいのですよ。HMVのサンプルで聴いた限りでは新ブダペストQなんて悪くなさそうだったのですけど、どうかなあ・・・まあぼちぼちとこれから探してみたいと思ってます。

投稿: うぐいす | 2008年12月27日 (土) 23時51分

うぐいすさん、こんにちは。いつもコメントありがとうございます。

ブラームスファンで無くても六重奏ならば馴染みやすいと思いますが、爽やかな演奏の方がより良いのかもしれませんね。しかし、いっそカザルス盤の方がファン云々する以前に圧倒されてしまう演奏なので逆に良いかなとも思います。

ブダペストQの四重奏と五重奏はどの曲も本当に絶品です。これに六重奏も残してくれていたらなぁ、とつくづく思ってしまいます。
軽い感じの演奏を探すという事は思い付きませんでした。(笑) 正直どうかなとも思いますが、見つかりましたら是非ご紹介ください。

投稿: ハルくん | 2008年12月28日 (日) 07時41分

こんばんは。

1番の一楽章がいいとの評に初めて出会いました。私も全く同意見です。有名な二楽章よりも一楽章のほうが素晴らしいと思うのですが、そのような評を見ることは滅多にありません。

私の好きな演奏はいくつかエントリしてますが、1番ではライプツィヒSQ他、シュツットガルト・ソロイスツ、レ・ミュジシャン、ラルキブデッリです。2番はライプツィヒSQが最高で、あとラルキブデッリを聴きます。私は2番のほうが好きですね。やはり天邪鬼でしょうか(笑)。
五重奏では2番はメロスSQが大好きです。

投稿: dokuoh | 2008年12月28日 (日) 22時09分

dokuohさん、こんばんは。

1番は絶対に第1楽章のほうが良いですよ。第2楽章は聴き過ぎると飽きかねないです。

私は曲としては、やっぱり第2番よりも第1番の方が好きですかねえ。むろんどちらも好きですが。

五重奏のメロスQは聴いていませんので興味有りますね。機会有れば聴いてみます。

投稿: ハルくん | 2008年12月29日 (月) 00時11分

ハルくんさん、こんばんは。

こちらで拝見して、ずっと欲しいなあと思っていたブダペストSQの全集を買い求めました。弦楽五重奏曲、大好きなのです。

ブダペストSQの渋く、くすんだ音色が たまりません。おかげさまでいい出会いをしました。ご紹介ありがとうございました。  

投稿: ANNA | 2010年3月31日 (水) 23時17分

ANNAさん、こんばんは。

またまた古い記事へのコメントありがとうございました。とっても嬉しいです。

ブラームスの弦楽五重奏がお好きだとは、本当にANNAさんは「渋好み」ですね~(笑)

ブダペストSQ良いでしょう!何を隠そう(ちっとも隠してない?)この渋い渋い音色が僕は好きでたまらないのです。
余談ですが、ベートーヴェンの弦楽四重奏全集もイイですよ~。特に14番、15番の孤高の厳しさはちょっと別格です。そのうち記事にしたいと思っていますが。

投稿: ハルくん | 2010年3月31日 (水) 23時37分


こんばんは^^

以前の記事へのコメント、失礼します~っ
ブラームス弦楽六重奏1番のCD、どれを買おうか迷っていたところ、ハルくんさんの記事で即決です!
ただいま、スターン盤をポチってきました。
第2楽章をきっかけにこの曲と出会いましたが、「第2楽章、聴きすぎると飽きかねる」には、思わず頷いちゃったり。。
CD到着、楽しみです!

投稿: micchik | 2011年5月18日 (水) 23時40分

micchikさん、こんばんは。

いえいえ、こんなに古い記事へコメントを頂けると、とっても嬉しいです。
スターン盤は、精神的支柱はカザルスなのですけど、本当に素晴らしい演奏ですよ。第2楽章も、この演奏だと全然飽きません。とにかくお聴きになられてみてください。
ご感想も是非!楽しみにしていますね。

投稿: ハルくん | 2011年5月19日 (木) 00時17分

作品111の弦楽五重奏(2番:ト長調)はいいですね。ブラームスの滋味が凝縮されています。やはり3拍子系はこの作曲家の得意分野なのではないでしょうか。腰をためた分厚い弦楽の響きが素晴らしい。個人的には第1楽章の繰り返しは省略してもいいのではないかと思うのですが、どうなんでしょうね。

明るい曲調の中に郷愁がにじみ出る感じ。本物は派手な表現によってではなく、にじみ出るものだということがよくわかります。フォーレの後期作品とともにロマン派室内楽の最高峰の一つだと思います。

投稿: NY | 2012年5月26日 (土) 19時52分

NYさん、こんばんは。

弦楽五重奏曲第2番は円熟しきった名作ですね。第1番のほうも凄く好きですけれど。
やはり四重奏にヴィオラ一本が加わると、ずっと厚い響きになり、いかにもブラームスらしくなります。
3拍子系は得意ですね。振幅が大きく、そこに更にシンコペーションで旋律が乗ったりすると、これぞブラームス!って感じになります。
ただ、確かに第2番の1楽章は少々長過ぎに感じられなくもありませんね。

フォーレの晩年の室内楽も最高ですね。仰る通りに、ロマン派室内楽の双璧ではないですか。


投稿: ハルくん | 2012年5月27日 (日) 00時18分

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