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2008年12月22日 (月)

ブラームスの室内楽 ヴィオラ・ソナタ集 愛聴盤

114 それでは、ヴァイオリン・ソナタとの巴(ともえ)戦で敗れたヴィオラ・ソナタとチェロ・ソナタの2位決定戦に移るとします。ここで対戦に先立ってひと言触れておきますと、ヴィオラ・ソナタの方は実は元々は晩年にクラリネット・ソナタ作品120の1、2として書かれたものです。それをブラームス自身がヴィオラ用に書き換えたという謂わば競技転向組なのです。個人的にはオリジナルのクラリネット版よりもヴィオラ版の方を遥かに好んでいます。何故かと言うとクラリネット選手時代には持っていなかった美技、ダブルとトリプルのストップ(重音のこと。回転ジャンプ?では無いです。)を取り入れたからなのです。このブラームスならではの六度ほかの和音はたいそう美しく魅力的で、これを味わってしまうと単音ではちょっと物足りなくなってしまうのです。(クラリネットファンの方、ゴメンなさい)

さて、いよいよ選考試合開始ですが、楽器としてのポピュラリティが高く、名プレイヤーの録音が多く存在するチェロ・ソナタが有利と思いきや、ヴィオラ・ソナタもさすがにブラームス最晩年のクラリネット名曲ファミリーからの転向パワーアップ選手だけあって一歩も引けを取りません。それどころか見事な旋律、楽想の数々を次々と繰り出して、名作であるチェロ・ソナタをすっかり圧倒してしまいました。これは完全なヴィオラ・ソナタの判定勝ちであります。(チェロファンの方、ゴメンなさい) それにしてもそれほど有名でもない作品の中にこれほどの大傑作が有ろうとは、正にブラームスの室内楽恐ろしです。

ヴィオラ・ソナタ第1番ヘ短調op.120-1

第1楽章アレグロアパッショナートの冒頭にいきなり出てくる暗くくすんだ感情溢れる旋律に一遍に魅惑されてしまいます。ブラームス晩年の寂寥感に覆われてはいるのですが、その情熱は少しも枯れることなく迸り出てきます。中音部楽器のヴィオラがまるで人間の声のようにうねり歌い上げて胸を打ちます。優しく静けさ一杯の第2楽章、哀愁を漂わせながら優美に踊る第3楽章アレグレットも素晴らしいですが、第4楽章ヴィヴァーチェがまたどことなくラプソディックでとても楽しいです。

ヴィオラ・ソナタ第2番変ホ長調op.120-2

ヴァイオリン・ソナタの1番、2番のように穏やかで叙情味に溢れたアレグロの第1楽章からして既にとても魅力的です。そして一転して不安に心揺れるような素晴らしい第2楽章アレグロアパッショナート。白眉は中間部のゆったりとしたバラード風の旋律とあの何とも美しい六度ほかの重音部分ですが、これには言葉を失うほどです。第3楽章アンダンテは再び落ちついて心を和ませます。

この曲はCDが少ないので余り多くは聴いていないのですが、一応僕の愛聴ディスクをご紹介させて頂きたいと思う。

Cci00048a ピンカス・ズーカーマン(Va)、ダニエル・バレンボイム(Pf)(1975年録音/独グラモフォン盤) 学生時代にテープデッキに録ったものを何度も聴いた演奏です。当時ヴァイオリンとヴィオラの全集という形でリリースされましたが、僕はヴィオラソナタの演奏の方がずっと好きでした。ズーカーマンのヴィオラはヴァイオリン奏者らしい軽く明るい音色なので、生粋のヴィオラファンには好まれないかもしれません。専門のヴィオラ奏者は弓を持つ右手の肘に腕の重さをかけるので、音色は厚く渋くなり、しばしばこの楽器特有のグチャっという潰れたような音を出します。それがヴァイオリニストがヴィオラを弾く場合には、腕の重さを余りかけないのでどうしても軽いヴァイオリン的な音色になってしまうのです。しかし僕はさんざん昔に聴いたせいか、この演奏はやはり好きなのです。バレンボイムもロマンティックですが芯の有る音で実に堂々とピアノを弾いていて素晴らしいと思います。

Cci00048b ヨゼフ・スーク(Va)、ヤン・パネンカ(Pf)(1990年録音/スプラフォン盤) スークが最円熟期に素晴らしい録音を残してくれました。この人のヴァイオリンは若い頃は少々線が細過ぎて物足りない印象でした。虚飾の無い端正なスタイルはその後もずっと変わらなかったですが、年齢を重ねるにつれてだんだんと音と表現に厚みを増して行ったと思います。この演奏はズーカーマンに比べればずっと渋いヴィオラの音を聴くことができますし、表現も晩年のブラームスの枯淡の気分が感じられてとても好ましいです。パネンカのピアノがいつもながら少々頼りないのが惜しいですが、これはこれで室内楽的な雰囲気といえないこともないので一応合格とします。

Cci00049 キム・カシュカシャン(Va)、ロバート・レヴィン(Pf)(1996年録音/ECM盤) この人は本職のヴィオリストです。ならばヴィオラ本来の深い音を期待したいところなのですが、意外に音が軽いのです。いかにも女性が弾いているブラームスという感じです。歌いまわしも叙情的な部分は良いとしても、晩年の男性的な渋さに欠けるのでどうも物足りません。やはりアメリカ人女性奏者にブラームスは無理なのでしょうか。レヴィンのピアノが抜群なだけに残念です。

この他には、僕がLP時代に聴いていたヴィオラの神様ウイリアム・プリムローズ/ルドルフ・フィルクスニーの録音(EMI)がありましたが、現在CDでは出ていないようです。これは少々残念なことです。

ユーリ・バシュメット盤は聴いていません。どうもこの人のヴィルトゥオーゾ風のイメージが僕を食わず嫌いにさせています。ヴィオラ奏者にしては活躍が華々し過ぎるのです。ヴィオラはもっと日陰者の方が似合う楽器です。(などとウジウジ理屈にもならない理屈をこねるのがブラームジアーナーの面目躍如なのです)

以上、僕の好きな演奏はこの中ではヨゼフ・スーク盤です。このCDはつい最近コロムビアの廉価盤で再リリースされたばかりなのでお薦めできます。

さて次回はいよいよブラームスの室内楽特集の最終章、弦楽器のみの編成曲を予定します。年末ご多忙の中で御笑読頂ければ幸いです。

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コメント

ハルくんさま こんばんは

私はユーリ・バシュメット盤しか聴いたことがありません。日陰者云々(爆笑)はさておいて、演奏は抜群に上手でした。ただし、伴奏とともにこれがブラームスの音楽かと思うにはかなり立派過ぎるように感じました。私もブラームスの室内楽には相応の渋さがほしいと思うので、お薦めのスークあたりは良さそうですね。

失礼をしてヴァイオリンソナタについて、こちらに書かせていただきます。ブッシュは別格ですね。ゼルキンのピアノも絶品だと思います。手許にはミルシテインとホロヴィッツの3番がありますが、大物の顔合わせが必ずしも成功しない例かもしれません。ルービンシュタイン盤も良いのですが、前述の渋さの点でブッシュに譲りますね。デヴィートよりもヌヴー(3番)が良いと思いますが、私の偏見では女性のブラームスは苦手なので、この方面はお好きな方向けですね。

投稿: ezorisu | 2008年12月23日 (火) 23時56分

ezorisuさん、こんにちは。
コメントありがとうございます。

ezorisuさんにとってはシェリング盤がルービンシュタイン盤になってしまうのですねー。(笑) 確かにあのピアノは素晴らしいですが、私としてははやっぱりシェリングのVnがあっての名演だと思っています。

女性のブラームスには男っぽい渋みは求められないですが、パッションや心のデリカシーは逆により多く感じることも有ります。ですので私は結構好きですよ。ただヴィオラの場合はさすがに難しいかなぁ。

投稿: ハルくん | 2008年12月24日 (水) 12時46分

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