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2008年12月

ベートーヴェン 交響曲第9番ニ短調op.125 「合唱」 名盤

Beethoven 年末に「第九」を聞くという習慣も、聞けば日本のみでなくヨーロッパなどでも段々増えているとか。果たして日本から逆輸入の文化として定着するのでしょうか。それにしても日本では12月にはオケコンサートも「第九」一色です。東京は最も著しく、在京オケは揃って数回づつコンサートを行いますから、プロオケだけでも全部で40回前後。アマオケも同じように演奏するので、第九の演奏会数は50~60回以上なのではないでしょうか。第九だけはチケットも良く売れますので、おそらく東京エリアだけでも延べ10万人くらいの人が第九を聴きに行く勘定です。確かにこの曲は、荒波にもまれた一年に禊を行う気分で聴いて、来る新年を迎えるにはとてもふさわしい音楽だと思います。「苦悩を突き抜けて歓喜へ」とは未曾有の景気悪化まっただ中の今年の年末には特にぴったりでしょう。とはいえ、私の財布も不景気なので、コンサートへ行く代わりにCDで「第九」三昧と行くことにしました。

Cci00054 フルトヴェングラー指揮ベルリンフィル(1942年録音)(写真はターラのフルヴェン戦時中録音集) ファンには有名な戦時中の演奏です。私が高校生の頃にカラヤンの次に買ったLP盤でした。その余りの違いに愕然とした。すっきりスタイリッシュなカラヤンと壮絶極まりないフルトヴェングラー。どちらに感動したかは言うまでも無いことです。感受性豊かな若い頃にこの演奏に出会ったことが私がクラシック音楽にのめり込む大きなきっかけになったと思います。さすがに今では滅多に聴くことは無いですが、クラシックファンなら一度は聴いておくべきだと思います。少々大げさに言えば人生観さえ変わるほどの凄さだからです。

Cci00058 フルトヴェングラー指揮バイロイト祝祭管弦楽団(1951年録音/グランドスラム盤) 最も有名な戦後バイロイト再開の年の記念演奏です。戦時中のあれほどの壮絶さは無いですが、限りなくスケール壮大な演奏です。いや単に「壮大」などとひと言では表現できない正に「宇宙的なまでの広がり」を持った演奏なのです。本家EMIリファレンス盤も悪くは無かったですが、平林直哉さんのグランドスラムレーベルによる初期LPからの復刻盤が非常に音が良いです。MYTHOS盤よりも良いような気もします。いままで団子状態だった弦楽の細かい刻みまで聞き取れるので感動新たなのです。ファンには是非のお薦めです。余談ですが、朝日カルチャー講座の後に一度お話の出来た平林さんはいかにも誠実そうな印象でした。氏の仕事ぶりも全く同じ印象です。

なお、同じ日の放送局正規録音として昨年オルフェオからCDが出ましたが、まったく同じ演奏ではありません。ということはEMI盤には編集部分が有ると考えられます。しかし今回のオルフェオ盤はEMIリファレンス盤と比べても音は落ちますし、平林盤と比べれば更に落ちるので正直余り存在意義を感じていません。フルトヴェングラーのCDなら全て集めるというマニア向けだと思います。(私は決してマニアではありません。)(^^)

Cci00054b フルトヴェングラー指揮ウイーンフィル(1953年録音/独グラモフォン盤) フルトヴェングラーのウイーンフィルとの第九録音は幾つか有りますが、中では演奏・録音のバランスが一番取れている「ウイーンフィル150周年記念」(1953.5.30録音)盤を好んでいます。ここではベルリン盤でもバイロイト盤でも聴けないウイーンフィルの弦の上手さ、美しさを味わえるので私はとても好きなのです。

263 フルトヴェングラー指揮フィルハーモニア(1954年年録音/OTAKEN盤) 昔、フルトヴェングラーが亡くなる直前のルツェルン音楽祭の第九がバイロイトよりも凄いという評判を聞いて、どうしても聴きたくなりプライヴェートLPを購入しました。大学生の身には高価でしたが実際に聴いてみてその噂通りの素晴らしさに本当に驚きました。但し音はかなり悪かったです。それが時を経て、いまから10年近く前にターラからオリジナルテープからの復刻CDが出た時にはその余りに明瞭な音に驚愕したものです。演奏の真価がようやく明らかになり、その時には本当にバイロイト盤よりも上だと思いました。今聴いているのはターラ盤よりも自然な音造りのOTAKEN盤です。これはどちらで聴いても満足できると思います。

以上、フルトヴェングラーの4種類があれば正直第九はもう充分と思わないでもありません。事実、これまで他のどの第九演奏を聴いてもフルトヴェングラーの良くて半分位の感動しか得られなかったからです。「感動」だけが鑑賞の尺度では無いとは思いますが、感動の無い第九など聴きたくも無いですし、録音状態の良し悪し以外でフルトヴェングラーの彫りの深い表現を超えるものには出会ったことがありません。まあそうは言いながらも他の指揮者を全て否定してしまうのもどうかと思いますので、私の好みでCDを幾つか挙げてみたいと思います。

Cci00055b カール・ベーム指揮ウイーン交響楽団(1957年録音/フィリップス盤) どうしようか迷いましたが、ベームは好きな指揮者なのでひとつ位は挙げておきます。ただし後年のグラモフォン盤の2種の録音では無く、まだまだベームが壮年期で演奏に元気が有るほうにします。とは言えやはりスタジオ録音ですのでベームにしては随分おとなしいです。欲を言えば70年辺りで条件の良いライブ録音が放送局に残っていないものだろうか。バイエルンやケルン放送からは随分良いものが色々と出ているからです。

Cci00055 フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチッヒゲバントハウス管(1959年録音/edel盤) コンヴィチュニーのベートーヴェンは学生の頃に廉価盤のLPで良く聴きました。安っぽくひどいデザインのジャケットでしたが演奏はどれも一級品でした。曲によっては一番好んだ演奏も有ったほどです。CD化されたこの全集も第一に選びたいほどです。第九も実に素朴な味わいであり、よく言われるようにまるで古武士の如き堅牢な響きがなんとも魅力的です。合唱団、歌手陣も共にバランスが良いです。

Cci00059 ハンス・シュミット-イッセルシュテット指揮北ドイツ放送響(1970年録音/ターラ盤) このCDはステレオ盤の方です(別のモノラル盤も有ります)。多少ざらつき感は有りますが奥行きの有る良好な録音なのが嬉しいです。どうもこの人はスタジオ録音の場合の柔和なイメージが強く、かなり誤解されているようです。ライブでも虚飾の無い実直なスタイルに変わりはないですが、力強さがまるで違うのです。この演奏も3楽章だけはあっさりしていますが、その他の楽章は非常に彫りが深く、剛健な北ドイツ放送響の音を充分に楽しめます。DECCA録音のあの穏やかなウイーンフィル盤とは次元の異なる貴重なCDです。

287 ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1982年録音/オルフェオ盤) クーベリックも実演になると相当に人の変わる指揮者でした。スタジオ録音でも大抵バランス良くまとめてはいましたが、ライブの激しさを知るファンにとってはどうも物足りなさを感じることが多かったです。「第九」にもベルリンPOとのDG録音が有り、とてもよい演奏でした。ですが、やはり手兵のバイエルン放送とのライブ盤で聴きたいと思います。残響の多い録音なので所々に生々しさに欠けて聞こえる部分も無いわけではないですが、演奏自体は実に素晴らしいです。第3楽章、第4楽章の弦のしなやかな美しさなどは最高です。合唱もとても良く録れていて非常にスケールが大きいです。

Cci00057 カルロ・マリア・ジュリーニ指揮ベルリンフィル(1989年録音/グラモフォン盤) ジュリーニは不思議な指揮者で昔からイタリア的でもドイツ的でもない。何を振ってもジュリーニ的なのです。ベルリンPOも既にインターナショナルオケ化した後なのでこの演奏は決してドイツ的な音ではありません。第1楽章は遅めのテンポですが暗さは無く、およそ「苦悩」という雰囲気は生まれてきません。第3楽章も流麗で美しいですが神秘的ではありません。終楽章の合唱は力みの無いあっさりしたものです。後半になると少しも熱くならずにスケール大きく包み込むという、いかにもジュリーニ的な演奏です。

こうして並べてみると、ほとんど重量級の演奏が並んでしまいました。私の好みははっきりしています。ドイツ的で重厚かつ激しい演奏が好きなのです。重厚なだけでも激しいだけでも駄目なのです。そうなると演奏は案外絞られます。フルトヴェングラーの中ではバイロイト盤とルツェルン盤が双璧。フルトヴェングラー以外では、1にイッセルシュテット/北ドイツ放送、2にクーベリック/バイエルン放送というところです。

それでは皆様、よいお年をお迎え下さい。

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ブラームスの室内楽 弦楽六重奏曲 名盤

ブラームスは弦楽器のみの編成の為に、四重奏3曲(op.51-1と2,op.67)、五重奏2曲(op.88,op.111)、六重奏2曲(op.18,op.36)を作曲しました。ご覧の通り、作品番号は早い方から六重奏→四重奏→五重奏の順です。そのため六重奏にはやや若書きの未熟さが感じられ、曲の深さ、充実度から言えば五重奏、四重奏が優れると思います。しかし逆に難解とは言わないまでもかなり曲が渋いので、五重奏、四重奏については他のピアノや管楽器入りの曲に充分馴染んでから聴いても遅くないと思います。その点六重奏は曲も分かりやすいし、ヴィオラとチェロをダブルにして非常に重厚なシンフォニーのような響きをかもし出していて実に魅力的な佳曲だと思います。そこでここでは六重奏曲についてご紹介することにします。

弦楽六重奏曲第1番 変ロ長調op.18

ブラームスがまだ27歳の時に書いただけあって、青春の息吹に溢れるロマンティックな名曲です(まあ、この時も彼は絶対恋をしていたでしょうね)。ですがそこはブラームス、師匠シューマンと比べれば随分甘さが控えめですし、それどころか甘さの中にも渋味がたっぷり含まれた「一番絞り」という感じです。第1楽章アレグロ・マ・ノントロッポがとりわけ素晴らしいです。若い情熱に溢れているのに、何故か昔を懐古しているような曲想はいかにもブラームス。全く精神年齢不詳の青年です。第2楽章アンダンテは名女優ジャンヌ・モロー主演の古い映画「恋人達」で使用されたので有名です。名旋律が何度も何度も繰り返し変奏されるこれも傑作です。長大なこの曲は第3楽章以降が少々落ちますが、決して水準以下ということは無く、1,2楽章の感動の余韻を楽しんでいられます。

弦楽六重奏曲第2番 ト長調op.36

第1番に比べるとかなり地味ですが、甘く優しい曲想の溢れる名作です。それもそのはずブラームスは当時婚約者のアガーテに熱烈だったです。なので、この曲は別名「アガーテ」とも呼ばれます。心静かに味わうには1番よりも2番の方が向いているでしょう。第1、第2楽章の幸せ一杯の雰囲気に比べて、第3楽章以降にはどことなく不安な気分が顔を出すのはブラームスの『またも失恋』への予感からでしょうか。恋愛に関してはつくづく気の毒な男だと思います。だからよけいに親近感(連帯感?)が湧くのですけれど・・・。

―第1番変ロ長調op.18―

Cci00043 スターン(Vn)、シュナイダー(Vn)、カティムス(Va)、カザルス(Vc)他(1952年録音/CBS SONY盤) この演奏の凄さを何と表現したら良いのでしょう。昔、私はまだ学生時代にこの演奏のLPを聴いて心底打ちのめされました。カザルスを中心とした豪華メンバーが音楽に真摯に立ち向かい、魂の演奏を繰り広げる様は壮絶です。今でもこの演奏だけは比較出来る対象の全く無い孤高の極みに達していると思っています。1楽章、2楽章の荒く喘ぐような楽器の息遣いを耳にして平静で居られるような聴き手は絶対に存在しないでしょう。全クラシックファン必聴の歴史的名盤と言えます。

409 ウイーン・コンツェルトハウスSQ他(1951年録音/ウエストミンスター盤) 古き良き時代の柔らかいウイーン風の演奏を味わうことが出来るのでとても価値が有ります。甘い青春の息吹を感じるということでは、この曲の本来持つ姿に一番近いのかもしれません。それにこのCDはピアノ五重奏曲とカップリングになっているのも嬉しいです。

Cci00050b アマデウスSQ、アルバンベルクSQ各メンバー(1990年録音/EMI盤) 個人的にはアマデウスQは余り好みません。ブレイニンのVnの過剰な表現とわざとらしさが大抵の場合に鼻についてしまうからです。ところがこの演奏には実に真実味が有って素晴らしいのです。というのもこの演奏は長年の盟友Va奏者シドロフへの追悼演奏会の後に再び実現したABQメンバーとの共演だからです。以前のグラモフォンの録音とは全く次元の異なる名演奏だと思います。

Cci00052_2 ブッシュSQ他(1949年録音/Music&Arts盤) これは番外と言うべきブッシュ晩年のライブ録音です。少々音が悪すぎるからです。ですがそれでもこの演奏の深く濃厚なドイツロマンは聞き取ることができます。よほどのファン以外には勧められませんが、失われてしまった戦前のドイツロマン派時代の偉大なカルテットの演奏記録ということでは大変貴重です。

―第2番ト長調op.36―

Cci00051 ウイーン・コンツェルトハウスSQ他(1954年録音/ウエストミンスター盤) これも1番と全く同様に、古き良き時代の柔らかいウイーンを味わえる素晴らしい演奏です。アントン・カンパーのヴァイオリンが何とも味わい深く素適です。このCDでは五重奏の第1番が組みになっていますが、それも実に素適な演奏です。

Cci00050 アマデウスSQ、アルバンベルクSQ各メンバー(1987年録音/EMI盤) 盟友シドロフへの追悼演奏会のライブ演奏です。ここでは旧グラモフォン盤での表現のわざとらしさは全く無く、心からの悲しみを歌っていて感動的です。彼らは盟友を一人失うことで初めて真実の音楽表現が可能になったとは何とも皮肉なものです。まあそれはともかくとして本当に素晴らしい演奏だと思います。

弦楽四重奏曲&弦楽五重奏曲全集

せっかくなので、四重奏と五重奏の全集盤のご紹介もしておきます。

177 ブダペストSQ(CBS SONY盤) 本家SONYが長い間廃盤にしていた名盤をまとめてタワーレコードが発売してくれました。(SONYは全く何を考えていたのかなぁ) 他にもゼルキンとのピアノ五重奏、クラリネット五重奏が収められています。ブダペストQの演奏は非常に音が渋いですが、だからこそブラームスの良さが際立つものと信じています。この全集はブラームジアーナーの座右の名盤と言えるでしょう。

790 アマデウスSQ(独グラモフォン盤) 上記であれだけけなしておいてご紹介するのもどうかとは思いますが、アマデウスのファンが多いのも事実です。それにこの全集は他にも弦楽六重奏、エッシェンバッハとのピアノ五重奏、ライスターとのクラリネット三重奏/五重奏と盛りだくさんですので、お買い得なのは間違いありません。好みの問題を抜きにすればこれはこれで良いのではないでしょうか。私は滅多に聴くことは無いですけれど。

11月に始めたブラームスの室内楽特集も今回ではや9回目。ひとまずは最終章とします。まだまだ触れたい曲も残ってはいますが、それはまたの機会にということで。皆様、ご笑読と多くのコメントを大変有り難うございました!

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J.S.バッハ「クリスマス・オラトリオ」 クルト・トーマス/聖トーマス教会合唱団盤

頑張ってブラームス室内楽の最終章かとも思いましたが、X’masイヴになにも「寂寥感溢れるブラームス~」も無いかなぁと思って急遽予定を変更です。

ヘンデル「メサイア」とバッハ「クリスマス・オラトリオ」のどちらかと迷ったのですが、普段はまず聴かない「クリスマス・オラトリオ」に決定です。

この曲はCDにしても普通3枚の大曲ですが、元々はカンタータの寄せ集め。(でしたよね?バッハについてはまだまだ初心者の私はうっかりするといい加減なことを言いそうなので要注意・・・)(苦笑) クリスマス気分に溢れた良い曲ばかりで、聴いていて心がなんとも「和む」というか、とても幸せな気分にさせてくれます。

私は以前からバッハ本家の聖トーマス教会合唱団のいかにも教会合唱という雰囲気が大好きなのですが、特にこういう曲は大人だけの合唱よりも少年合唱が混じった純真素朴な歌声の方が断然好きなのです。

Cci00053 クルト・トーマス指揮ゲヴァントハウス管弦楽団、聖トーマス教会合唱団(1958年録音/edel盤) 少々古いですが私の好きなクルト・トーマス(名前が良いよねー)がギュンター・ラミンの後を継いでカントールになった時代の録音です。合唱の素晴らしさはもちろんの事ですが、ここではゲルハルト・ボッセ教授のヴァイオリンソロを聴けるのが嬉しいです。弟子のカール・ズスケに比べると遥かに端麗辛口の音色がいかにもバッハにぴったりです。学生時代に東京文化会館で聴けた彼らの「マタイ受難曲」でのボッセ教授のヴァイオリンの美しさがいまだに脳裏に焼きついて離れないでいます。

オラトリオを聖トーマス教会の座席に座って聞いている気分になってメリークリスマス!

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ブラームスの室内楽 ヴィオラソナタ集 vs チェロソナタ集

114 それでは、ヴァイオリンソナタとの巴(ともえ)戦で敗れたヴィオラソナタとチェロソナタの2位決定戦に移るとします。ここで対戦に先立ってひと言触れておきますと、ヴィオラソナタの方は実は元々は晩年にクラリネットソナタ作品120の1、2として書かれたものです。それをブラームス自身がヴィオラ用に書き換えたという謂わば競技転向組なのです。個人的にはオリジナルのクラリネット版よりもヴィオラ版の方を遥かに好んでいます。何故かと言うとクラリネット選手時代には持っていなかった美技、ダブルとトリプルのストップ(重音のこと。回転ジャンプ?では無いです。)を取り入れたからなのです。このブラームスならではの六度ほかの和音はたいそう美しく魅力的で、これを味わってしまうと単音ではちょっと物足りなくなってしまうのです。(クラリネットファンの方、ゴメンなさい)

さて、いよいよ選考試合開始ですが、楽器としてのポピュラリティが高く、名プレイヤーの録音が多く存在するチェロソナタが有利と思いきや、ヴィオラソナタもさすがにブラームス最晩年のクラリネット名曲ファミリーからの転向パワーアップ選手だけあって一歩も引けを取りません。それどころか見事な旋律、楽想の数々を次々と繰り出して、名作であるチェロソナタをすっかり圧倒してしまいました。これは完全なヴィオラソナタの判定勝ちであります。(チェロファンの方、ゴメンなさい) それにしてもそれほど有名でもない作品の中にこれほどの大傑作が有ろうとは、正にブラームスの室内楽恐ろしです。

ヴィオラ・ソナタ第1番ヘ短調op.120-1

第1楽章アレグロアパッショナートの冒頭にいきなり出てくる暗くくすんだ感情溢れる旋律に一遍に魅惑されてしまいます。ブラームス晩年の寂寥感に覆われてはいるのですが、その情熱は少しも枯れることなく迸り出てきます。中音部楽器のヴィオラがまるで人間の声のようにうねり歌い上げて胸を打ちます。優しく静けさ一杯の第2楽章、哀愁を漂わせながら優美に踊る第3楽章アレグレットも素晴らしいですが、第4楽章ヴィヴァーチェがまたどことなくラプソディックでとても楽しいです。

ヴィオラ・ソナタ第2番変ホ長調op.120-2

ヴァイオリンソナタの1番、2番のように穏やかで叙情味に溢れたアレグロの第1楽章からして既にとても魅力的です。そして一転して不安に心揺れるような素晴らしい第2楽章アレグロアパッショナート。白眉は中間部のゆったりとしたバラード風の旋律とあの何とも美しい六度ほかの重音部分ですが、これには言葉を失うほどです。第3楽章アンダンテは再び落ちついて心を和ませます。

この曲はCDが少ないので余り多くは聴いていないのですが、一応私の愛聴ディスクをご紹介させて頂きたいと思う。

Cci00048a ピンカス・ズーカーマン(Va)、ダニエル・バレンボイム(Pf)(1975年録音/独グラモフォン盤) 学生時代にテープデッキに録ったものを何度も聴いた演奏です。当時ヴァイオリンとヴィオラの全集という形でリリースされましたが、私はヴィオラソナタの演奏の方がずっと好きでした。ズーカーマンのヴィオラはヴァイオリン奏者らしい軽く明るい音色なので、生粋のヴィオラファンには好まれないかもしれません。専門のヴィオラ奏者は弓を持つ右手の肘に腕の重さをかけるので、音色は厚く渋くなり、しばしばこの楽器特有のグチャっという潰れたような音を出します。それがヴァイオリニストがヴィオラを弾く場合には、腕の重さを余りかけないのでどうしても軽いヴァイオリン的な音色になってしまうのです。しかし私はさんざん昔に聴いたせいか、この演奏はやはり好きです。バレンボイムもロマンティックなのですが芯の有る音で実に堂々とピアノを弾いていて素晴らしいと思います。

Cci00048b ヨゼフ・スーク(Va)、ヤン・パネンカ(Pf)(1990年録音/スプラフォン盤) スークが最円熟期に素晴らしい録音を残してくれました。この人のヴァイオリンは若い頃は少々線が細過ぎて物足りない印象でした。虚飾の無い端正なスタイルはその後もずっと変わらなかったですが、年齢を重ねるにつれてだんだんと音と表現に厚みを増して行ったと思います。この演奏はズーカーマンに比べればずっと渋いヴィオラの音を聴くことができますし、表現も晩年のブラームスの枯淡の気分が感じられてとても好ましいです。パネンカのピアノがいつもながら少々頼りないのが惜しいですが、これはこれで室内楽的な雰囲気といえないこともないので一応合格とします。

Cci00049 キム・カシュカシャン(Va)、ロバート・レヴィン(Pf)(1996年録音/ECM盤) この人は本職のヴィオリストです。ならばヴィオラ本来の深い音を期待したいところなのですが、意外に音が軽いのです。いかにも女性が弾いているブラームスという感じです。歌いまわしも叙情的な部分は良いとしても、晩年の男性的な渋さに欠けるのでどうも物足りません。やはりアメリカ人女性奏者にブラームスは無理なのでしょうか。レヴィンのピアノが抜群なだけに残念です。

この他には、私がLP時代に聴いていたヴィオラの神様ウイリアム・プリムローズ/ルドルフ・フィルクスニーの録音(EMI)がありましたが、現在CDでは出ていないようです。これは少々残念なことです。

ユーリ・バシュメット盤は聴いていません。どうもこの人のヴィルトゥオーゾ風のイメージが私を食わず嫌いにさせています。ヴィオラ奏者にしては活躍が華々し過ぎるのです。ヴィオラはもっと日陰者の方が似合う楽器です。(などとウジウジ理屈にもならない理屈をこねるのがブラームジアーナーの面目躍如なのです)

以上、私の好きな演奏はこの中ではヨゼフ・スーク盤です。このCDはつい最近コロムビアの廉価盤で再リリースされたばかりなのでお薦めできます。

さて次回はいよいよブラームスの室内楽特集の最終章、弦楽器のみの編成曲を予定します。年末ご多忙の中で御笑読頂ければ幸いです。

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ブラームスの室内楽 ヴァイオリン・ソナタ集 名盤

ブラームスの室内楽特集なのですが、「ピアノ三重奏曲」の次であれば「ピアノ二重奏曲」ということになるのですが、そのような呼び名は存在しませんので、「ヴァイオリン・ソナタ」あるいは「チェロ・ソナタ」や「ヴィオラ・ソナタ」がそれに該当することになります。

「ヴァイオリン・ソナタ」は正式に訳せば「ヴァイオリンとピアノの為のソナタ(Sonata for Violin and Piano)」です。それはチェロ・ソナタも、ヴィオラ・ソナタも同様です。どれも合奏曲の原型としての「ピアノ二重奏曲」です。などと言うと、なんだかへ理屈をウジウジ言っているように思われるでしょうが、まあこういうところがブラームジアーナーの性ということでご容赦頂きたいと思います。(^^)

さて、何故その中で最初にヴァイオリン・ソナタを選んだかと言いますと理由は簡単、ポピュラリティだけです。自分の好みで言えばあるいはヴィオラ・ソナタという線もあります。ただこの曲はクラリネット・ソナタの改作ですし、チェロ・ソナタにしても少々渋過ぎます。それに両者は作品が2曲づつですがヴァイオリン・ソナタは3曲有ります。2対2対3となればこれは変則タッグマッチ戦になりますから、数で有利なヴァイオリン・ソナタが最後は体力勝ちするのは間違い無いところです。まあこれは妥当な勝負判定でしょう。

ヴァイオリン・ソナタ第1番ト長調op.78 <雨の歌>

実に穏やかな佳曲です。ブラームス特有のドロドロさが無く、爽やかな印象なので若い時代の作品かと思いそうですが、れっきとした円熟期の作品です。それにしてもなんという詩情に溢れた音楽なのでしょう。<雨の歌>というタイトルは別としても、この曲を聴いていると、なんだか自分が詩人にでもなった気がしてきます。この曲の試演会には不倫恋人のクララ・シューマン夫人が同席したというが、ブラームスの彼女への恋慕心が曲に垣間見えるようです。

ヴァイオリン・ソナタ第2番イ長調op.100

この曲もやはり穏やかな美しい旋律に満ち溢れた佳曲です。それもそのはずでブラームスがスイスの美しい自然の中で過ごした時に書かれた作品なのです。更にはこの頃ブラームスは歌手のヘルミーネ・シュピース嬢に恋していたそうです。(またか!)そんな心境が反映されているのでしょう。第1番と第2番を続けて聴くと最高のBGMになります。

ヴァイオリン・ソナタ第3番二短調op.108

この曲は1番、2番とはだいぶ曲想が異なります。穏やかさは影を潜めて、暗く内省的な部分と激しく高揚する部分とが交錯する、まさにブラームスの本領発揮の曲です。構成も4楽章でスケールが大きく、聴き応え充分です。なのでこの曲はちょっとBGMには不向きですね。

当然CDには3曲をまとめた物とそうでない物とが有りますが、ここでは順不動でご紹介させて頂きたいと思います。

Cci00034 アドルフ・ブッシュ(Vn)、ルドルフ・ゼルキン(Pf)(1931、32年録音/EMI盤) 古き良きドイツロマン派の伝統を受け継ぐ最後の偉大なヴァイオリニストが、幸運にも第1番と第2番の録音を残してくれました。いささか古めかしいポルタメントを多用したスタイルですけれど、だからこそ現在では絶対に聴くことの出来ない貴重な演奏なのです。これを単に「古い」で片付けてしまっては絶対にいけません。シューマン~ブラームス直系のこの限りなく深いロマンを心から味わおうではないですか。第1番の終楽章は大きく揺れるように歌い上げていて特に白眉です。

462 ゲオルグ・クーレンカンプ(Vn)、ゲオルグ・ショルティ(Pf)(1947、48年録音/DECCA盤) 戦前のドイツの名ヴァイオリニストで本国ではアドルフ・ブッシュと並び人気が高かったのですが、録音が少ないせいか現在ではほとんど忘れ去られています。やはりドイツの伝統的なロマン性を存分に感じさせる演奏なのですが、ブッシュのいささか古めかしいスタイルと比べれば幾らかスタイリッシュな印象です。ピアノ伴奏がショルティというのはご愛嬌で決して悪くは無いのですが、他に誰か居そうなものなのにねぇ。

Cci00045 ヴォルフガング・シュナイダーハン(Vn)、カール・ゼーマン(Pf)(1957、60年録音/独グラモフォン盤) この人はウイーン出身の代表的なヴァイオリニストですが、バリリやボスコフスキー、ウェラーといったいかにもウイーン的な柔らかい音というよりも随分ドイツ的な音に近いように思えます。この演奏も謂わばウイーン/ドイツ折中型のイメージなのでブラームスに実に自然にマッチしています。ただしゼーマンのピアノは重厚な純ドイツ風です。

188 ジョコンダ・デ・ヴィート(Vn)、エドウイン・フィッシャー(Pf)(但し2番のみティート・アプレア)(1954、56年録音/テスタメント盤) 純粋なイタリア娘(この時は既に47歳のおばさんですが)の弾くブラームスもなかなかに魅力的です。イタリアといっても北イタリアの生まれですのでスイスにほど近く、南国の脳天気な風土とはだいぶ異なったのかもしれませんね。事実この人はブラームスを得意にしていたそうで、この演奏でも違和感など感じさせないどころか、とても味わい深くブラームスを弾いています。フィッシャーのピアノは立派ですが少々ヨレているところもあります。

Cci00047b ヘンリク・シェリング(Vn)、アルトゥール・ルービンシュタイン(Pf)(1960年録音/RCA盤) 幸運にも私はシェリングの弾く第1番の実演を東京で聴いた経験があります。それは柔らかくて澄み切った非常に端正で美しい音でした。CDで聴くともう少し硬い音に聞こえますが、それでもこの録音は素晴らしいです。ルービンシュタインが母国ポーランド出身の破格の実力を持つ無名ヴァイオリニストを世に紹介して2年後の再セッション録音ですが、ルービンシュタインが普段にも増して真剣に弾いていて、シェリングがそれに十二分に応える見事な演奏をしています。特に第1番と第3番が非常に素晴らしい出来ばえです。

Cci00045b アイザック・スターン(Vn)、アレクサンダー・ザーキン(Pf)(1960年録音/CBS SONY盤) シェリングと同じ年にスターンも録音を行っています。彼はウクライナ出身のユダヤ系のアメリカ人ですが、若い頃は端正な中にも力強い演奏をした良いヴァイオリニストでした。ですがこのブラームスのソナタの演奏に於いてはシェリングの完成度に大きく水をあけられていると思います。中では第3番だけはなかなか良い演奏だと思いますが、これは曲の性格の為でしょう。

Cci00046 ヨゼフ・シゲティ(Vn)、ミエツィスラフ・ホルショフスキー(Pf)(1961年/Philips盤) これは第2番だけの録音なのですが、私がLP時代から愛聴している演奏です。その演奏の素晴らしさは正に比類がありません。何しろシゲティの師匠は第3番の初演を行ったハンガリーの大ヴァイオリニスト、フーバイです。つまりはブラームスの直伝のようなものなのです。いつもながら弓がかすれる部分も度々有りますが、音楽の余りの深さに圧倒されてしまい全く気になりません。ホルショフスキーのピアノもまた実に深いです。よく評論家はシゲティの演奏を一般向きでないと言うことが多いですが、真の芸術を後の世代に広め伝えるのが彼らの使命なのではないでしょうか。良いと思うならもっと自信を持って薦めて欲しいものです。

Cci00047 ダヴィド・オイストラフ(Vn)、スヴャトスラフ・リヒテル(Pf)(1968年録音/メロディア盤) これは第3番だけのディスクです。このコンビでは2番も録音していますが、彼らに向いているのは3番のほうだと思います。LP時代には気に入ってよく聴きました。ですが今改めて聴くと、ロシアの巨人同士の演奏はブラームスの音楽にはちょっと規格外のような気がします。弾き方がオーバー過ぎるように感じますし、終楽章のバリバリ弾く迫力などは尋常でありません。これがコンチェルトだったらまだ良いのかもしれませんが。

660 チョン・キョンファ(Vn)、ペーター・フランクル(Pf)(1995年録音/EMI盤) 韓国出身の突然変異の天才ヴァイオリニストです。この人も実際の生演奏に接したことがあります。彼女は若いときから基本的に端正な弾き方をしますが、時に彼女独特の粘りを見せます。それはアウアー流派の豊穣な音の粘り気では全くなく、例えば多分に精神的な朝鮮民族の「恨(ハン)」という性質のもののような気がするのです。そしてそれは意外にハンガリーのジプシー民族のそれに似たものを感じます。その暗さがブラームスの音楽にとても向いています。

901981_g イザベル・ファウスト(Vn)、アレクサンドル・メルニコフ(Pf)(2007年録音/ハルモニアムンディ盤) 第1番だけですが、とても面白い1品があります。ホルントリオでもご紹介したイザベル・ファウスト嬢の最新録音盤です。これもヴァイオリンにはガット弦を使用し、ピアノは19世紀製のベーゼンドルファーです。果たしてブラームスの時代に響いていた音はこのようなものであったのかと思うと興味津々です。

さすがにブラームスのヴァイオリン・ソナタは名曲だけあって実に名盤が揃っています。中でも私が好きなのは、第1番と第3番はシェリング/ルービンシュタイン。とりわけ第1番がピアノもヴァイオリンも最高です。第2番だけはシゲティ/ホルショフスキー。それ以外ですと、3曲まとめたクーレンカンプとシュナイダーハンというところでしょうか。さて、皆さんのお好きな演奏はいかがでしょうか?

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ブラームスの室内楽 ピアノ三重奏曲集 名盤

Brahmss このところ寄り道が続いたのですっかりブラームスの室内楽特集がストップしてしまいました。これでは晩秋に始めた特集が終わるのは初冬どころか初春になってしまいます。新年早々から「うら寂しいブラームスの・・・・」というのも何なので、ここはペースを上げて年内の終了を目指したいと思います。

ブラームスはピアノ三重奏曲もやはり3曲書きました。3曲とも4楽章構成であり、いずれも名作揃いです。分りませんが本人もこのジャンルを好んでいたのでは無いでしょうか。

「ピアノ三重奏曲第1番 ロ短調Op.8」

第1番から充実した傑作です。第1楽章アレグロ・コンブリオの若々しい曲想は何となくシューベルトかシューマンを思わせますが、長く続く旋律線はまぎれもないブラームスです。ファンにはたまりません。第2楽章スケルツォの中間部のゆったりとした旋律も実に魅力的です。第3楽章アダージョは若きブラームスの青春の甘い憂鬱といった趣きです。第4楽章アレグロは不安げに始まって徐々に情熱的になっていく展開が見事です。この曲は円熟期に改作が行われていて、通常は改作版のほうで演奏されます。

「ピアノ三重奏曲第2番 ハ長調Op.87」 

第1楽章アレグロは悪くは無いのですが、どうもウジウジと理屈っぽい気がします。それより第2楽章アンダンテのジプシー調のエレジーが魅力的です。主題と5つの変奏でできていてブラームス円熟の匠の技といえるでしょう。第3楽章スケルツォは中間部の旋律が実に魅力的です。第4楽章アレグロは極めて情熱的に高揚して素晴らしいです。 

「ピアノ三重奏曲第3番 ハ短調Op.101」 

第1楽章アレグロ・エネルジーコはいかにも円熟期のブラームスらしく堂々と重厚なリズムで開始されますが、その後に続くユニゾンの主題が最高です。ブラームスにしか書き得ない男のロマンが何とも魅力的で、「うーんブラームス!」と思わずうなってしまいます。第2楽章プレスト・ノン・アッサイも繊細で不安感を感じさせるとても魅力的な楽章です。第3楽章アンダンテ・グラチオーソは優しく繊細なメロディが心をとても癒してくれます。第4楽章アレグロ・モルトはスタッカートのリズムで不安げに始まりますが、時にゆっくりと歌いながら徐々に情熱的に高揚していく様が素晴らしいです。個人的にはこの第3番に特に惹かれています。

それではいつものように僕の愛聴ディスクをご紹介させて頂きたいと思います。

-第1番ロ短調Op.8-

Cci00043 アイザック・スターン(Vn)、パブロ・カザルス(Vc)、マイラ・ヘス(Pf)(1952年録音 CBS SONY盤) カザルス主催のプラド音楽祭でのライブです。限りなくスケールの大きな演奏はまるでブラームス円熟期の曲に聞こえます。ヘスのピアノは実に慈愛に満ちていて、スターンのヴァイオリンも素晴らしいです。当時のカザルスを中心とした演奏はどれもこれも比較するものの無いほどに偉大な演奏なのですが、それは全てカザルスの精神から生まれているに違いありません。

-第2番ハ長調Op.87-

Cci00044 ヨゼフ・シゲティ(Vn)、パブロ・カザルス(Vc)、マイラ・ヘス(Pf)(1952年録音 CBS SONY盤) これもやはりプラド音楽祭でのライブです。ヴァイオリンがシゲティに代わって演奏は益々深みを増しました。ゆったりとしたテンポでブラームスの叙情を歌い表現し尽くしています。シゲティの偉大な魂がカザルスのそれとぶつかり合う様は壮絶でさえあります。第2楽章ではカザルスが大きなうなり声を出しっぱなしですが、その音楽の崇高さには言葉を失ってしまいます。

Cci00043b アドルフ・ブッシュ(Vn)、ヘルマン・ブッシュ(Vc)、ルドルフ・ゼルキン(Pf)(1951年録音CBS SONY盤) これはブッシュ達が米国に渡った後の晩年を迎えた録音です。この演奏もカザルス達に引けを取らない偉大な演奏だと思います。SP時代の甘ったるいポルタメントがだいぶ減りましたが、懐かしい雰囲気をたっぷり味合わせてくれるところは少しも変わっていません。第2楽章などはまるで「荒城の月」でも聴いているようです(^^)。だが私はこれも好きです。そして終楽章の情熱的な高揚感も流石にブッシュです。

しかし、出来ればやはり3曲揃った演奏も聴きたいので、その場合には好きな演奏が二つ有ります。

Cci00042 ルービンシュタイン(Pf)、シェリング(Vn)、フルニエ(Vc)(1972&74年録音 RCA盤) このメンバーなら悪い演奏になるはずがありません。どの曲も3人が持てる実力を発揮していますが、統一感と力関係のバランスが正に絶妙なのです。3人とも誠実な演奏でひたすらブラームスの音楽に奉仕するので、このディスクは正に定番の名に相応しいと思います。もしも初めて3曲まとめたものを購入して聴こうとする場合にはこのCDを選べばまず間違いないと思います。

Cci00042b イストミン(Pf)、スターン(Vn)、ローズ(Vc)(1964、66&69年録音 CBS SONY盤) このトリオは最近はすっかり人気が落ちてしまった様に感じて残念ですが、演奏はルービンシュタイン/シェリング/フルニエと比べてもよりスケールが大きく素晴らしいです。スターンの力強いヴァイオリンはしばしばシェリング以上ですし、他の二人も実力で決して引けを取りません。3曲とも良いのですが、特に素晴らしいのが第3番で、僕が3番を好むのもこの演奏が有るからかもしれません。さんざんカザルスと共演していたスターンのヴァイオリンには大カザルスの魂を感じる部分が少なくありません。

ともあれこの3曲はいずれも素晴らしい曲でブラームスを心から堪能できますので、これまで余りお聴きになられておられない方には是非ともじっくりと聴いて頂けたらと思います。

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ボリショイバレエ/ザハーロワ 「白鳥の湖」 東京公演 

Cci00041 今夜は来日中のロシア国立ボリショイバレエの「白鳥の湖」を観に行ってきました。会場は上野の東京文化会館です。寒い冬になってチャイコフスキーのバレエを生の舞台で観るのは楽しいものです。年末に「白鳥の湖」を観るのはこれで3年連続となりますが、一昨年はマリインスキー劇場バレエ、昨年はモスクワ音楽劇場バレエでした。

今年のボリショイのお目当ては何といってもプリマのスヴェトラ・ザハーロワです。C社のデジカメのTVCMでオデットを踊っているので御馴染みでしょう。さてその姿は予想を遥かに越えて美しかったです。すらりと伸びた肢体は白鳥というよりもフラミンゴか丹頂鶴みたいでした。それにしても何て細くて長い手足なのでしょうか。そしてあの繊細極まりない表現!オデットの役は彼女の為にあると言っても過言で無いのじゃないでしょうか。いやー素晴らしい!ジークフリート王子のウヴァーロフも背が高くがっちりしていて実にカッコいいので、彼がオデットを高々とリフトすると何とも見栄えがするのです。

ボリショイの舞台はもちろん老舗の素晴らしさなのですが、個人的には昔話の絵本をそのまま舞台にしたようなマリインスキーの方が好みです。コール・ド・バレエ(群舞)もマリインスキーにはちょっと適わないと思います。オーケストラは専属の楽団だったのは良いですが、随分と荒っぽい音でした。まあロシア的と言えないことも無いのかもしれませんが、もう少し繊細にやって欲しかったです。

ちなみに最後は悪魔がオデットを連れ去ってしまい王子が一人呆然とするという悲劇の終わり方のほうでした。私は「最後に愛は勝つ」(^^)のハッピーエンドが好きなのだけどなぁ。カーテンコールは盛り上がって凄かです。熱烈なファンがステージの前に殺到して拍手が鳴り止まず。さすがにザハーロワは本当に人気が高いですね。

さて、私が家で「白鳥の湖」を楽しむ場合にはDVDとCDの両方ですが、普段鑑賞しているディスクをご紹介させて頂きます。

Cci00040 マリインスキー劇場のDVD(2006年収録) これは指揮がワレリー・ゲルギエフ。オデットはロパートキナ。小柄の彼女は可愛いので好きです。ゲルギエフの振るテンポは完全にコンサート向きなので、ダンサーにとっては速すぎたり遅すぎたりと随分踊りにくそうな部分も見うけられます。なので純粋なバレエファンには必ずしも評判は良くないのだそうです。だが、私は純粋なバレエファンでは無いので大好きです。何故ならこれほど音楽的に素晴らしい「白鳥の湖」は無いからです。薄明るく淡い色彩の舞台も本当に美しいです。そしてマリインスキーのコール・ド・バレエの美しさ。これは生の舞台に接すると言葉にならないほどなのですが、DVDでも充分美しいです。話の最後も王子が見事に悪魔をやっつけてハッピーエンドの終わり方なので私は満足。この素晴らしいDVDは普段バレエを見ないクラシック音楽ファンにこそ是非観てもらいたいお薦め品です。

Cci00039 パリ・オペラ座バレエのDVD(1992年収録) マリインスキー、ボリショイと肩を並べられるのはパリオペラ座でしょう。ジョナサン・ダーリントン指揮。オデットはマリー=クロード・ピエトロガラでジークフリートはパトリック・デュポンという素晴らしい組み合わせです。10年前くらいはピエトロガラはシルヴィ・ギエムと並んで非常に人気が高かったけれど最近はどうなのでしょう。この上演版は最後に王子がオデットを抱いて湖に沈み天国へ登るという終わり方です。デュポンの演技が見事ですし演出もドラマティックで素晴らしいです。指揮とオケの方についてはパリのオケには最初から無理な相談なのですが、チャイコフスキーだけに本来は演奏にロシアの味わいが欲しいところです。

CDで「白鳥の湖」を聴く場合に、よく全曲盤は長過ぎると言う人が居ますが、私はそうは思いません。全曲で無いと聴いた気がしないのです。確かに単なる繋ぎの退屈な曲が無いとは言いませんが、何しろこの曲は数多くの魅力的なメロディの宝庫ですので絶対に全曲盤で聴くべきだと思います。

739 ワレリー・ゲルギエフ指揮マリインスキー劇場管のCD(2006年録音フィリップス盤) これはDVDとは別の録音なのですが、やはり素晴らしい演奏です。「白鳥の湖」をこれほど美しく詩情豊かに演奏した録音はかつて聴いた覚えが有りません。ド迫力を求めるファンも居るようですが、このいじらしい程に繊細な演奏を聴いてどうして感動できないのでしょうか。私には不思議でなりません。

Cci00039sゲンナジ・ ロジェストヴェンスキー指揮USSR RTV Rarge Symphony Orchestra(早い話がモスクワ放送響)(1969年録音メロディア盤) 全盛期のロジェヴェン/モスクワ放送のコンビの演奏だけあってなかなか凄いです。耳をつんざく金管、躍動感溢れる切れの良いリズムが最高です。そしてミヒャエル・チェルニャコフスキーのヴァイオリン独奏がとても良いのです。コテコテのロシア節で土臭く弾いてくれて味わいが最高だからです。元々この曲の独奏パートはコンチェルトかと思うほどに技術的に難しく、並みのバレエ楽団のコンマスでは手に負えないのですが、この人はオイストラフかと思うくらいに上手に弾いています。こういう演奏を聴いてしまうと私はこの曲はロシアの楽団以外ではちょっと聴こうという気が起きなくなります。

以上は決してバレエ鑑賞が専門ではない私の勝手な意見ですので、その道の専門家から見たらおかしく思えることも有るかもしれません。その点はどうぞご承知置き下さい。

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ブラームス 交響曲第3番 ザンデルリンク/ウイーン響他 愛聴盤諸々

546 ブラームスの室内楽特集を続けている途中ですが、先日クルト・ザンデルリンクがウイーン交響楽団を振った演奏会のライヴCDが発売されました。新盤といっても1997年の録音ですが、私にとっては「ブラームスといえばザンデルリンク、ザンデルリンクといえばブラームス」と言えるほどの存在なのです。この人のシュターツカペレ・ドレスデン(ドレスデン国立歌劇場管)との演奏が昔からどれほど好きかは以前の記事でお話しました。

http://harucla.cocolog-nifty.com/blog/2008/09/post-3c7c.html

ザンデルリンクのブラームスはこの他にもベルリン交響楽団を振った1990年の全曲録音が有ります。しかし私はドレスデン盤のほうが遥かに好きなのです。そしてドレスデン盤の中でも3番と4番の演奏は特に優れています。なので今回新盤が出るとはいえ、正直あのドレスデン盤を越える可能性は99%無いとは思っていました。ですがそれでも非常に楽しみにしてしまうのがファンたる所以です。

さて、新盤をいよいよ聴いてみました。最初の十数小節でほぼ答えは出ました。うーん、これは駄目だ。ウイーン交響楽団がドイツの楽団のような分厚い響きを出すとは思いませんが、中音部が痩せて金管とヴァイオリンが目立ち過ぎます。いつものザンデルリンクでは有りません。テンポもベルリン盤と同じくらいのはずなのに、いやに遅く感じます。ベルリン盤も遅過ぎてもたれると思いましたが、あれは聞きようによってはスケールの大きさを感じないでもありません。ですがこのウイーン響盤は本当にもたれます。響きにも充実感が感じられません。有機的なハーモニーに成っていないからでしょう。これならベルリン盤のほうがどれほど良いことでしょうか。それにしても不思議です。同じ1997年にはエレーヌ・グリモーが独奏を弾くピアノ協奏曲第1番の録音が有りますが、あの演奏はシュターツカペレ・べルリンが分厚く充実した音を出していて凄かったのです。ですから年老いたとかいうことでは説明が付かないのです。オケの違い?かもしれません。ウイーンの楽団は第2番を除いては決してブラームスの音に向いていないと思うからです。この新盤はザンデルリンクのファンの人には余り期待して聴いて欲しくありません。ドレスデン盤の素晴らしさを知っている人はたぶんがっかりすると思うからです。

でもそれはそれとして第3番は本当に良い曲です。どこを取っても渋い響きで最もブラームスらしいのでは無いでしょうか?第1楽章や終楽章の内向的な秘めたる情熱の燃え上がりも素晴らしいですが、第2楽章の静かな歩みのほの暗いロマンや第3楽章の哀愁漂う名旋律もたまりません。個人的にはブラームスの交響曲の中では最も好きかもしれません。

私はザンデルリンク/ドレスデン盤以外はほとんど聴きませんと言いましたが、せっかくの機会ですので一応他の指揮者の演奏にも触れてみます。

・クナッパーツブッシュ/ベルリンフィル(1943年盤と1950年盤) これは巨大なスケールの正に巨人的な演奏。宇野功芳先生大絶賛の演奏なのですが、全くブラームスを聴いた気になれません。金管の咆哮などはこれではまるでワーグナーに魂を売ったブラームスです。私はこのような異型のブラームスはご免です。

・ウィルヘルム・フルトヴェングラー/ベルリンフィル(1954年DG盤) フルトヴェングラーは頻繁にテンポを動かします。ベートーヴェンの場合はそれが自然に受け入れられるのですが、ブラームスにはそれがとても煩わしくなるのです。この演奏はまだ良いほうですが、どっしりとしたスケール感はやはり感じられません。なので私は余り好みません。 

・エドゥアルト・ヴァン・ベイヌム/コンセルトヘボウ管(フィリップス盤) ステレオ初期の演奏で、高校生のころにカラヤン盤とかと一緒によく聴きました。割りと早めのテンポで実にオーソドックスな演奏です。当時のコンセルトへボウの響きもとても魅力的でした。CDになってずっと聴いていないので久々に聴いてみたい気がします。

・ジョン・バルビローリ/ウイーンフィル(EMI盤) 情緒綿々と歌っているのはそれはそれで良いとしても、ウイーンフィルの澄んだ音は元々ブラームスには向いていませんし、この気の抜けた薄い響きはとてもブラームスの響きではないと思います。私にとっては聴いているのが辛い演奏です。

・エードリアン・ボールト/ロンドンフィル(EMI盤) 過剰なところの無い中々渋く良い演奏だと思います。けれども一方で今ひとつ充実感を与えられません。聴いているときは悪くないのですが、聴き終わった後には余り印象の残らない演奏です。

・オットマール・スイトナー/シュターツカペレ・べルリン(シャルプラッテン盤) 第1、第4楽章はなかなか聴き応えが有ります。響きもドイツ風でブラームスを聴いた気になれてとても良いです。残念なのは第2.第3楽章の旋律の歌わせ方が少々弱いのが気になることです。

・ハンス・シュミット‐イッセルシュテット/バイエルン放送響(GreenHILL盤) 但しこれは海賊盤です。しかし録音も良いし非常に良い演奏なので無視できません。流石はドイツの優秀なオケ。共感たっぷり表情豊かで分厚い響きがなんとも魅力的ですし、意外に早めのテンポにもかかわらず決して軽くはなりません。それにライブならではの高揚感が素晴らしいです。ザンデルリンク/ドレスデン、べルリン両盤以外ではこの演奏が一番好きです。たまに中古店で見かけるのでこれは是非ともお薦めできます。

他にも昔から随分聴いたはずなのですが、今はぱっと出てきません。年かなぁ。(苦笑)

<追記> 棚にCDがまだ有ったので以下に追記します。

・ピエール・モントゥー/コンセルトへボウ管(1960年ターラ盤) モントゥーのブラームスと言えばロンドン響との2番が有名ですが、あれは特には気に入りませんでした。ですがこちらはライブ録音で、オケがベイヌム時代のコンセルトへボウということも有って中々凄い演奏です。テンポは早いのですが表情が豊かで彫りが深いので聴き応えが有ります。金管は鳴り過ぎな位なのですが、ぎりぎりのところで踏みとどまっています。ただしブラームスらしさと言う点ではどうでしょうか。

・エフゲニ・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィル(1996年メロディア盤) ムラヴィンスキーは作品によっては相当に手の込んだ演奏をします。ここでも楽器の音量バランスなどはかなり考えられています。けれど正直それが何だ?という印象なのです。逆に煩わしくさえ感じてしまいます。トゥッティも全体は柔らかく音を出そうとしているのに、しばしば金管が咆えては耳にうるさく感じます。これではブラームスの響きからはかけ離れてしまいます。第3楽章を軽く歌うのも独特ではあります。だが結局のところ私はこの人のブラームスは余り好みません。

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