ベートーヴェン 交響曲第9番ニ短調op.125 「合唱」 名盤
年末に「第九」を聞くという習慣も、聞けば日本のみでなくヨーロッパなどでも段々増えているとか。果たして日本から逆輸入の文化として定着するのでしょうか。それにしても日本では12月にはオケコンサートも「第九」一色です。東京は最も著しく、在京オケは揃って数回づつコンサートを行いますから、プロオケだけでも全部で40回前後。アマオケも同じように演奏するので、第九の演奏会数は50~60回以上なのではないでしょうか。第九だけはチケットも良く売れますので、おそらく東京エリアだけでも延べ10万人くらいの人が第九を聴きに行く勘定です。確かにこの曲は、荒波にもまれた一年に禊を行う気分で聴いて、来る新年を迎えるにはとてもふさわしい音楽だと思います。「苦悩を突き抜けて歓喜へ」とは未曾有の景気悪化まっただ中の今年の年末には特にぴったりでしょう。とはいえ、私の財布も不景気なので、コンサートへ行く代わりにCDで「第九」三昧と行くことにしました。
フルトヴェングラー指揮ベルリンフィル(1942年録音)(写真はターラのフルヴェン戦時中録音集) ファンには有名な戦時中の演奏です。私が高校生の頃にカラヤンの次に買ったLP盤でした。その余りの違いに愕然とした。すっきりスタイリッシュなカラヤンと壮絶極まりないフルトヴェングラー。どちらに感動したかは言うまでも無いことです。感受性豊かな若い頃にこの演奏に出会ったことが私がクラシック音楽にのめり込む大きなきっかけになったと思います。さすがに今では滅多に聴くことは無いですが、クラシックファンなら一度は聴いておくべきだと思います。少々大げさに言えば人生観さえ変わるほどの凄さだからです。
フルトヴェングラー指揮バイロイト祝祭管弦楽団(1951年録音/グランドスラム盤) 最も有名な戦後バイロイト再開の年の記念演奏です。戦時中のあれほどの壮絶さは無いですが、限りなくスケール壮大な演奏です。いや単に「壮大」などとひと言では表現できない正に「宇宙的なまでの広がり」を持った演奏なのです。本家EMIリファレンス盤も悪くは無かったですが、平林直哉さんのグランドスラムレーベルによる初期LPからの復刻盤が非常に音が良いです。MYTHOS盤よりも良いような気もします。いままで団子状態だった弦楽の細かい刻みまで聞き取れるので感動新たなのです。ファンには是非のお薦めです。余談ですが、朝日カルチャー講座の後に一度お話の出来た平林さんはいかにも誠実そうな印象でした。氏の仕事ぶりも全く同じ印象です。
なお、同じ日の放送局正規録音として昨年オルフェオからCDが出ましたが、まったく同じ演奏ではありません。ということはEMI盤には編集部分が有ると考えられます。しかし今回のオルフェオ盤はEMIリファレンス盤と比べても音は落ちますし、平林盤と比べれば更に落ちるので正直余り存在意義を感じていません。フルトヴェングラーのCDなら全て集めるというマニア向けだと思います。(私は決してマニアではありません。)(^^)
フルトヴェングラー指揮ウイーンフィル(1953年録音/独グラモフォン盤) フルトヴェングラーのウイーンフィルとの第九録音は幾つか有りますが、中では演奏・録音のバランスが一番取れている「ウイーンフィル150周年記念」(1953.5.30録音)盤を好んでいます。ここではベルリン盤でもバイロイト盤でも聴けないウイーンフィルの弦の上手さ、美しさを味わえるので私はとても好きなのです。
フルトヴェングラー指揮フィルハーモニア(1954年年録音/OTAKEN盤) 昔、フルトヴェングラーが亡くなる直前のルツェルン音楽祭の第九がバイロイトよりも凄いという評判を聞いて、どうしても聴きたくなりプライヴェートLPを購入しました。大学生の身には高価でしたが実際に聴いてみてその噂通りの素晴らしさに本当に驚きました。但し音はかなり悪かったです。それが時を経て、いまから10年近く前にターラからオリジナルテープからの復刻CDが出た時にはその余りに明瞭な音に驚愕したものです。演奏の真価がようやく明らかになり、その時には本当にバイロイト盤よりも上だと思いました。今聴いているのはターラ盤よりも自然な音造りのOTAKEN盤です。これはどちらで聴いても満足できると思います。
以上、フルトヴェングラーの4種類があれば正直第九はもう充分と思わないでもありません。事実、これまで他のどの第九演奏を聴いてもフルトヴェングラーの良くて半分位の感動しか得られなかったからです。「感動」だけが鑑賞の尺度では無いとは思いますが、感動の無い第九など聴きたくも無いですし、録音状態の良し悪し以外でフルトヴェングラーの彫りの深い表現を超えるものには出会ったことがありません。まあそうは言いながらも他の指揮者を全て否定してしまうのもどうかと思いますので、私の好みでCDを幾つか挙げてみたいと思います。
カール・ベーム指揮ウイーン交響楽団(1957年録音/フィリップス盤) どうしようか迷いましたが、ベームは好きな指揮者なのでひとつ位は挙げておきます。ただし後年のグラモフォン盤の2種の録音では無く、まだまだベームが壮年期で演奏に元気が有るほうにします。とは言えやはりスタジオ録音ですのでベームにしては随分おとなしいです。欲を言えば70年辺りで条件の良いライブ録音が放送局に残っていないものだろうか。バイエルンやケルン放送からは随分良いものが色々と出ているからです。
フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチッヒゲバントハウス管(1959年録音/edel盤) コンヴィチュニーのベートーヴェンは学生の頃に廉価盤のLPで良く聴きました。安っぽくひどいデザインのジャケットでしたが演奏はどれも一級品でした。曲によっては一番好んだ演奏も有ったほどです。CD化されたこの全集も第一に選びたいほどです。第九も実に素朴な味わいであり、よく言われるようにまるで古武士の如き堅牢な響きがなんとも魅力的です。合唱団、歌手陣も共にバランスが良いです。
ハンス・シュミット-イッセルシュテット指揮北ドイツ放送響(1970年録音/ターラ盤) このCDはステレオ盤の方です(別のモノラル盤も有ります)。多少ざらつき感は有りますが奥行きの有る良好な録音なのが嬉しいです。どうもこの人はスタジオ録音の場合の柔和なイメージが強く、かなり誤解されているようです。ライブでも虚飾の無い実直なスタイルに変わりはないですが、力強さがまるで違うのです。この演奏も3楽章だけはあっさりしていますが、その他の楽章は非常に彫りが深く、剛健な北ドイツ放送響の音を充分に楽しめます。DECCA録音のあの穏やかなウイーンフィル盤とは次元の異なる貴重なCDです。
ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1982年録音/オルフェオ盤) クーベリックも実演になると相当に人の変わる指揮者でした。スタジオ録音でも大抵バランス良くまとめてはいましたが、ライブの激しさを知るファンにとってはどうも物足りなさを感じることが多かったです。「第九」にもベルリンPOとのDG録音が有り、とてもよい演奏でした。ですが、やはり手兵のバイエルン放送とのライブ盤で聴きたいと思います。残響の多い録音なので所々に生々しさに欠けて聞こえる部分も無いわけではないですが、演奏自体は実に素晴らしいです。第3楽章、第4楽章の弦のしなやかな美しさなどは最高です。合唱もとても良く録れていて非常にスケールが大きいです。
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮ベルリンフィル(1989年録音/グラモフォン盤) ジュリーニは不思議な指揮者で昔からイタリア的でもドイツ的でもない。何を振ってもジュリーニ的なのです。ベルリンPOも既にインターナショナルオケ化した後なのでこの演奏は決してドイツ的な音ではありません。第1楽章は遅めのテンポですが暗さは無く、およそ「苦悩」という雰囲気は生まれてきません。第3楽章も流麗で美しいですが神秘的ではありません。終楽章の合唱は力みの無いあっさりしたものです。後半になると少しも熱くならずにスケール大きく包み込むという、いかにもジュリーニ的な演奏です。
こうして並べてみると、ほとんど重量級の演奏が並んでしまいました。私の好みははっきりしています。ドイツ的で重厚かつ激しい演奏が好きなのです。重厚なだけでも激しいだけでも駄目なのです。そうなると演奏は案外絞られます。フルトヴェングラーの中ではバイロイト盤とルツェルン盤が双璧。フルトヴェングラー以外では、1にイッセルシュテット/北ドイツ放送、2にクーベリック/バイエルン放送というところです。
それでは皆様、よいお年をお迎え下さい。
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