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2008年12月

2008年12月30日 (火)

ベートーヴェン 交響曲第9番ニ短調op.125 「合唱」 名盤

Beethovenベートーヴェンの『第九』が古今のクラシック作品の中でも、最も偉大な作品の一つであることは疑いのない事実ですので、今更この曲について細かいことを述べるつもりは有りません。

しかし、年末に第九を聴こうという習慣も、聞けば日本だけのことでは無く、ヨーロッパなどでも段々と増えているそうですね。日本から逆輸入の文化として、すっかり定着するのかもしれません。

それにしても、日本では12月になると音楽会は「第九」一色です。とりわけ東京では著しく、在京オーケストラはどこも揃って数回づつコンサートを開きますから、プロ・オケだけでも全部で40回前後。アマ・オケも同じように演奏しますから、第九の演奏会数は50~60回以上になるのではないでしょうか。第九だけはチケットも良く売れますので、おそらく東京エリアだけでも延べ10万人くらいの人が第九を聴きに行く計算です。

確かにこの曲は、荒波にもまれた一年に禊(みそぎ)を行う気分で聴いて、新しい年を迎えるにはとてもふさわしい音楽だと思います。「苦悩を突き抜けて歓喜へ」とは未曾有の景気悪化まっただ中の今年の年末には特にぴったりでしょう。

第九のコンサートを聴きに行くのも良し、自宅でCDを聴いて第九三昧するのもまた良しです。

それでは第九のCDの愛聴盤、お薦め盤をご紹介することにしますが、たとえどんなに録音が古くなろうとも、ドイツの大巨匠ヴィルヘルム・フルトヴェングラーの演奏を避けて通ることは絶対に出来ません。そこでフルトヴェングラーとそれ以外の演奏で其々まとめてみることにします。

―フルトヴェングラーの演奏―

Cci00054 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1942年録音)(写真はターラのフルヴェン戦時中録音集) ファンには有名な戦時中の演奏です。僕が高校生の頃にカラヤンの次に買ったLP盤がこの演奏でした。その二つの演奏の余りの違いに愕然としました。すっきりスタイリッシュなカラヤンと壮絶極まりないフルトヴェングラー。どちらに感動したかは言うまでもありません。感受性豊かな若い頃にこの演奏に出会ったことが自分がクラシック音楽にのめり込む大きなきっかけになったと思います。さすがに今では滅多に聴くことは無いですが、クラシックファンならば一度は聴いておくべきだと思います。少々大げさに言えば人生観さえ変わるほどの凄さだからです。

Cci00058 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮バイロイト祝祭管弦楽団(1951年録音/EM原盤I:Grand Slam盤) 最も有名な戦後バイロイト再開の年の記念演奏会の録音です。戦時中演奏のあれほどの壮絶さは無いですが、限りなくスケール壮大な演奏です。というよりも、単なる「壮大さ」などとひと言では表現できない正に「宇宙的なまでの広がり」を持った演奏なのです。本家EMIの海外References盤の音も悪くは無かったですが、平林直哉さんのGrand Slamレーベルによる初期LPからの復刻盤が非常に音が良いのでお薦めです。MYTHOSの復刻盤よりも良いような気もします。これまでは団子状態に聞こえていた弦楽の細かい刻みまでが充分に聞き取れますので感動も新たです。これはファンには是非のお薦めです。余談ですが、朝日カルチャー講座の後に一度お話の出来た平林さんはいかにも誠実そうな印象でした。氏の仕事ぶりも全く同じ印象です。

Fb9 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮バイロイト祝祭管弦楽団(1951年録音/オルフェオ盤) 上記の1951年バイロイトと同じ日の放送局正規録音ということで、オルフェオからCDがリリースされましたが、聴いてみるとこれは全く同じ演奏ではありません。ということは、これまでのEMI盤には実は編集部分が有ったのだと推測されます。けれどもオルフェオ盤は残念ながらEMIリファレンス盤と比べても音質は落ちますし、Grand Slam盤と比べればそれ以上に落ちるのでEMI盤以上の存在意義は感じません。あくまでも”記録”として聴いています。

520ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーン・フィル(1952年録音/ターラ盤) フルトヴェングラーのウイーン・フィルとの第九の録音は幾つか有りますが、最もドラマティクな演奏としては、この’52年のニコライ記念演奏会が挙げられます。1楽章の遅さと音のタメは驚くほどです。但し、それが逆に音楽の流れを悪くさせているようにも思います。ですので、個人的には流れと勢いのある’53年のほうを好みます。また独唱陣の出来も余り良いとは言えません。録音としても’53年のほうが優れています。

Cci00054bィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーン・フィル(1953年録音/独グラモフォン盤) ウイーン・フィルとの第九の録音の中で演奏・録音のバランスが一番取れているのが’53年のニコライ記念演奏会で、これは「ウイーンフィル150周年記念盤」として発売されました。’52年ほどのドラマティックさは有りませんが、非常に流れの良さを感じます。録音も良いので、べルリン・フィル盤でもバイロイト盤でも聴けない、ウイーン・フィルの持つ弦の柔らかな味わい、美しさを味わうことが出来ます。

Lucerne_beethoven_9ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮フィルハーモニア管(1954年年録音/audite盤) 大学生の頃ですが、フルトヴェングラーが亡くなる直前のルツェルン音楽祭の第九がバイロイトよりも凄いという評判を聞いて、どうしても聴きたくなりプライヴェートLP盤を購入しました。学生の身には随分と高価でしたが、実際に聴いてみてその噂通りの素晴らしさに本当に驚きました。但し音はかなり悪かったです。それが時を経て、いまから10年近く前にターラからオリジナルテープからの復刻CDが出た時には、その余りに明瞭な音に驚愕したものです。演奏の真価がようやく明らかになり、その時には本当にバイロイト盤よりも上だと思いました。現在では様々なレーベルから復刻されていますが、無難な選択では放送局のオリジナルマスターテープを使用したaudite盤です。柔らかさと広がりを感じます。OTAKEN盤も硬さが有りますが非常に明瞭です。また聴いてはいませんが最近Grand Slamからオープンリールテープからのマスタリング盤も出ました。このあたりはどれを選んでも失敗は無いと思います。

以上、フルトヴェングラーの6種類の演奏があれば、正直「第九」はもう充分と思わないでもありません。事実、これまで他のどの「第九」の演奏を聴いても、フルトヴェングラーの良くて半分位の感動しか得られなかったからです。決して「感動」だけが鑑賞の尺度では無いとは思いますが、感動の無い第九などは聴きたくも無いですし、録音状態の良し悪し以外でフルトヴェングラーの彫りの深い表現を超えるものには未だに出会ったことがありません。とは言え、他の演奏を何も聴かないのもどうかと思いますので、自分の好みでCDを幾つか挙げてみたいと思います。

―フルトヴェングラー以外の演奏―

Cci00055b カール・ベーム指揮ウイーン交響楽団(1957年録音/フィリップス盤) 後年のグラモフォン盤の2種の録音ではなく、まだまだベームが壮年期で若い時代の演奏です。モノラル末期の録音なので音質も明快です。’70年代のグラモフォン盤と比べると、テンポもずっと早めで、ぐいぐいと畳み掛けるような勢いと生命力があります。円熟したグラモフォン盤よりもこちらのほうが好きだと言われる方も多いと思います。ただし自分自身はグラモフォン盤の余裕とスケールの大きさ、それにウイーン・フィルの音色の美しさを好みます。

240 ブルーノ・ワルター指揮コロムビア響(1959年録音/CBS盤) ワルターもフルトヴェングラーの第九と比較されて随分と割を食ったと思います。ところが、現在改めて聴き直してみると、これほどまでに指揮者の意図が伝わって形になっている演奏は極めて稀だということが分かります。第3楽章や、終楽章の歓喜の歌が弦楽で静かに歌われる部分の美しさは、ちょっと他には有りません。ワルターのベートーヴェンで素晴らしいのは、何も「田園」だけでは有りません。

Cci00055 フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチッヒ・ゲバントハウス管(1959年録音/edel盤) コンヴィチュニーのベートーヴェンは学生の頃に廉価盤のLPで良く聴きました。安っぽくひどいデザインのジャケットでしたが演奏はどれも一級品でした。曲によっては一番好んだ演奏も有ったほどです。CD化されたこの全集も第一に選びたいほどです。第九も実に素朴な味わいであり、よく言われるようにまるで古武士の如き質実剛健な響きがなんとも魅力的です。合唱団、歌手陣も共にバランスがとても良いです。

Cci00059 ハンス・シュミット-イッセルシュテット指揮北ドイツ放送響(1970年録音/ターラ盤) このCDはステレオ盤の方です(別のモノラル盤も有ります)。多少のざらつき感は有りますが奥行きの有る良好な録音なのが嬉しいです。どうもこの人はスタジオ録音の場合の柔和なイメージが強く、かなり誤解されているようです。ライブでも虚飾の無い実直なスタイルに変わりはないですが、力強さがまるで違うのです。この演奏も3楽章だけはあっさりしていますが、その他の楽章は非常に彫りが深く、剛健な北ドイツ放送響の音を充分に楽しめます。DECCA録音のあの穏やかなウイーン・フィル盤とは次元の異なる貴重なCDです。

41f7t1kscml__sl500_aa300_ カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1972年録音/グラモフォン盤) 30年以上も前の学生時代に聴いた時には、フルトヴェングラーに比べて随分生ぬるいと感じてしまい余り気に入りませんでしたが、現在改めて聴いてみると、やはり演奏の素晴らしさに感銘を受けます。何と言ってもウイーン・フィルの響きが美しいですし、音の緊張感にも決して欠けたりしません。テンポは幾分ゆったり気味ですが、実に堂々として立派であり、安心して身を任せられます。やはりベームは本当に偉大な指揮者でした。そのベームの第九の代表盤だ思います。

Beethoven_9__sl500_ヘルベルト・ブロムシュテット指揮ドレスデン国立歌劇場管(1979/80年録音/キング盤) 録音された1970年代はSKドレスデンが多くの名人奏者を抱えていた時代で、ドイツ音楽ではウイーン・フィル以上に魅力的な音を響かせていました。ブロムシュテットは元々強い個性を感じる人ではありませんが、ここでは極上のオーケストラがまるで自然に鳴っている印象です。特別に深刻なドラマは有りませんが堅牢な造形を持つ素晴らしい演奏です。合唱団もソリスト陣も充実していますし、この楽団のいぶし銀の音のファンにとってはかけがえの無い演奏です。

287 ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1982年録音/オルフェオ盤) クーベリックも実演になると相当に人の変わる指揮者でした。スタジオ録音でも大抵バランス良くまとめてはいましたが、ライブの激しさを知るファンにとってはどうも物足りなさを感じることが多かったです。「第九」にもベルリンPOとのDG録音が有り、とてもよい演奏でした。ですが、やはり手兵のバイエルン放送とのライブ盤で聴きたいと思います。これは非常に素晴らしい演奏です。第1楽章の気迫、ドラマはフルトヴェングラーに中々迫りますし、第3楽章、第4楽章の弦のしなやかな美しさは非常に魅力的です。録音は優秀ですし、合唱もとても良く録れていて非常にスケールが大きいです。

Cci00057 カルロ・マリア・ジュリーニ指揮ベルリン・フィル(1989年録音/グラモフォン盤) ジュリーニは不思議な指揮者で昔からイタリア的でもドイツ的でもない。何を振ってもジュリーニ的なのです。ベルリンPOも既にインターナショナルオケ化した後なのでこの演奏は決してドイツ的な音ではありません。第1楽章は遅めのテンポですが暗さは無く、およそ「苦悩」という雰囲気は生まれてきません。第3楽章も流麗で美しいですが神秘的ではありません。終楽章の合唱は力みの無いあっさりしたものです。後半になると少しも熱くならずにスケール大きく包み込むという、いかにもジュリーニ的な演奏です。

こうして並べてみると、ほとんど重量級の演奏が並んでしまいました。僕の好みははっきりしています。ドイツ的で重厚かつ激しい演奏が好きなのです。重厚なだけでも激しいだけでも駄目なのです。そうなると演奏は案外絞られます。フルトヴェングラーの中ではバイロイト盤とルツェルン盤が双璧。ウイーン・フィルとの録音では’53年盤をとります。

フルトヴェングラー以外では、1にイッセルシュテット/北ドイツ放送響、2にクーベリック/バイエルン放送響、それに捨てがたいのが、ベーム/ウイーン・フィルとワルター/コロムビア響というところです。

それでは皆様、どうぞ良いお年をお迎え下さい。

<補足>
フルトヴェングラーのルツェルン盤を書き換えました。
後からブロムシュテット盤を追加しました。

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2008年12月27日 (土)

ブラームスの室内楽 弦楽六重奏曲 名盤 ~恋人達~

ブラームスは弦楽器だけの編成による室内楽曲としては、四重奏曲を3曲(作品51の1と2、作品67)、五重奏曲を2曲(作品88、作品111)、六重奏曲を2曲(作品18、作品36)作曲しました。ご覧の通り、作品番号は早い方から六重奏→四重奏→五重奏の順です。そのため六重奏にはどことなく若書きの未熟さも感じられ、曲の深さ、充実度から言えば五重奏、四重奏が優れると思います。けれども逆に難解だとは言わないまでも、曲想がかなり渋みを帯びているので、五重奏、四重奏については他のピアノや管楽器入りの曲に親しんでから聴いても決して遅くはないと思います。その点、六重奏は曲も解り易く聴き易いですし、ヴィオラとチェロをダブルにしている為に重厚なシンフォニーのような響きをかもし出していて、ても魅力的な佳曲だと思います。ここでは、その六重奏曲についてご紹介することにします。

弦楽六重奏曲第1番 変ロ長調op.18

ブラームスがまだ27歳の時に書いただけあって、青春の息吹に溢れるロマンティックな名曲です(まあ、この時も絶対に彼は恋をしていたでしょうね)。ですが、そこはやはりブラームス、師匠シューマンと比べれば甘さは控えめですし、甘さの中にも渋味がたっぷりと含まれた「一番絞り」という感じです。楽章としては、第2楽章アンダンテが名匠ルイ・マレ監督、名女優ジャンヌ・モロー主演の映画「恋人達(Les amante)」のテーマ曲として使用されたので有名です。名旋律が何度も何度も繰り返し変奏される名曲です。けれども個人的には第1楽章アレグロ・マ・ノントロッポが、それ以上の傑作だと思います。若い情熱に溢れているのに、何故か昔を懐古しているような曲想はいかにもブラームス。全く精神年齢不詳の青年です。この第1楽章は映画「恋人達」の中では濃厚なラブ・シーンで使用されています。1、2楽章が非常に優れているので、3楽章以降が幾らか聴き劣りはしますが、もちろん水準以上ですし、1、2楽章の感動の余韻を充分に楽しんでいられます。

弦楽六重奏曲第2番 ト長調op.36

第1番に比べるとかなり地味な曲ですが、いじらしいほどに甘く優しい雰囲気に溢れる名作です。それもそのはず、ブラームスは当時婚約者のアガーテに熱烈だったです。なので、この曲は別名「アガーテ」とも呼ばれます。心静かに曲を味わうには、第1番よりもむしろ第2番の方が向いているかもしれません。第1、第2楽章の幸せ一杯の雰囲気に比べて、第3楽章にはどことなく不安な気分が顔を出すのはブラームスの『またも失恋』への予感からでしょうか。こと恋愛に関してはつくづく気の毒な男だと思います。だから、よけいに親近感(連帯感)が湧くのかもしれません??

ということで、この2曲は、どちらも「恋」のイメージに結び付きます。天涯孤独のブラームスの若き幸福な日々を想像するだけでも楽しいではありませんか。

―第1番変ロ長調op.18―

Cci00043 スターン(Vn)、シュナイダー(Vn)、カティムス(Va)、カザルス(Vc)他(1952年録音/CBS SONY盤) カザルスが主催したプラド音楽祭の開催中に行われた録音ですが、この演奏の凄さを何と表現したら良いのでしょう。昔、僕がまだ学生時代にこの演奏のLPを聴いて心底打ちのめされました。カザルスを中心とした豪華メンバーが音楽に真摯に立ち向かい、とてつもなく気宇の大きい魂の演奏を繰り広げるこの演奏だけは未だに比較出来る対象の無い孤高の極みに達していると思っています。1楽章では喘ぐような大きな歌が本当に感動的です。2楽章では荒々しい楽器のぶつかり合いが美感を損ねているほどですが、はらわたをえぐられるような壮絶さは他の演奏がみなムード的に聞こえてしまうほどです。この演奏を耳にして平静で居られるような聴き手は絶対に存在しないと思います。全てのクラシックファン必聴の歴史的名盤だと言えます。

409 ウイーン・コンツェルトハウスSQ他(1951年録音/ウエストミンスター盤) このCDは、古き良き時代の柔らかい、あの本場ウイーンの演奏を味わうことが出来るので、とても価値が有ります。ブラームスの甘い青春の息吹を感じるという点では、この曲の本来の姿に一番近いのかもしれません。その分重厚さは余り有りません。1、2楽章よりもむしろ終楽章がとても楽しめます。このCDはピアノ五重奏曲の名演とカップリングになっているのが嬉しいです。

Cci00050b アマデウスSQ、アルバンベルクSQ各メンバー(1990年録音/EMI盤) 個人的にはアマデウスSQは余り好きではありません。第1ヴァイオリンのブレイニンの過剰な表現とわざとらしさが大抵の場合に鼻についてしまうからです。ところがこの演奏には、大変に真実味が有り素晴らしいです。というのも、この演奏は長年の盟友であったヴィオラ奏者シドロフの追悼演奏会の後に、再び実現したABQメンバーと共演したライブ録音だからです。音そのものは非常に綺麗なのですが、第1楽章や第2楽章での喜びや哀しみをなり振り構わずに大きく歌う演奏には目頭が熱くなります。これはカザルスたちの演奏に迫るほどの、以前のグラモフォンの録音とは全く次元の異なる名演奏だと思います。

Cci00052_2 ブッシュSQ他(1949年録音/Music&Arts盤) これは番外として挙げたいブッシュ晩年のライブ録音です。というのも年代を考慮しても録音が悪過ぎます。それでも、この演奏の持つ深く濃厚なドイツ浪漫はひとつの聴きものではあります。よほどのファン以外にはお勧め出来ませんが、現代では失われてしまった戦前のドイツロマン派時代の偉大なカルテットの演奏ということで、大変貴重な記録です。

―第2番ト長調op.36―

Cci00051 ウイーン・コンツェルトハウスSQ他(1954年録音/ウエストミンスター盤) これも前述の第1番と全く同様に、古き良き時代の柔らかいウイーンのローカルな味わいを聴ける素晴らしい演奏です。アントン・カンパーの歌わせるヴァイオリンが何とも懐古的、情緒的で味わい深く、大変に魅力的です。第2楽章の何とチャーミングなことでしょう。全体の演奏の出来映えとしても、第1番よりも第2番の方が優れていると思います。このCDのカップリングは弦楽五重奏曲第1番ですが、そちらもやはり魅力的な演奏です。

Cci00050 アマデウスSQ、アルバンベルクSQ各メンバー(1987年録音/EMI盤) これはアマデウスSQの盟友シドロフの追悼演奏会のライブ演奏です。ここには、旧グラモフォン盤での表現のわざとらしさは影を潜め、心からの歌を歌っているのに胸を打たれます。彼らは長年の盟友を失うことで、初めて真実の音楽表現が可能になったとすれば何とも皮肉なものですね。ただ、この曲のいじらしい曲想にしてはブレイニンの演奏の表情づけが大き過ぎるようにも感じますし、ライブという条件を考慮しても音程が甘いのが気になります。演奏そのものの出来栄えとしては前述の第1番の方が上回ります。

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この際ですので、弦楽四重奏と五重奏の全集盤のご紹介も簡単にしておきます。

弦楽四重奏曲&弦楽五重奏曲全集

177 ブダペストSQ(CBS SONY盤) 本家SONYが長い間廃盤にしていた名盤をまとめてタワーレコードが発売してくれました。(SONYは全く何を考えていたのかなぁ) 他にもゼルキンとのピアノ五重奏、クラリネット五重奏が収められています。ブダペストQの演奏は非常に音が渋いですが、だからこそブラームスの良さが際立つものと信じています。この全集はブラームジアーナーの座右の名盤と言えるでしょう。

790アマデウスSQ(独グラモフォン盤) 個人的には余り好きになれないのでご紹介するのもどうかとは思いますが、アマデウスSQのファンが多いのも事実です。それに、このBOXセットは他にも弦楽六重奏曲、エッシェンバッハとのピアノ五重奏曲、ライスターとのクラリネット三重奏/五重奏曲と、非常に盛りだくさんですので、好みの問題を抜きにすれば、とてもお買い得なのは間違いありません。

11月に始めたブラームスの室内楽特集も今回で、はや9回目。ひとまずは最終章とします。まだまだ触れたい曲も残ってはいますが、それはまたの機会にということで。皆様、ご笑読と多くのコメントを大変有り難うございました!

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2008年12月24日 (水)

J.S.バッハ「クリスマス・オラトリオ」 クルト・トーマス/聖トーマス教会合唱団盤

頑張ってブラームス室内楽の最終章かとも思いましたが、X’masイヴになにも「寂寥感溢れるブラームス~」も無いかなぁと思って急遽予定を変更です。

ヘンデル「メサイア」とバッハ「クリスマス・オラトリオ」のどちらかと迷ったのですが、普段はまず聴かない「クリスマス・オラトリオ」に決定です。

この曲はCDにしても普通3枚の大曲ですが、元々はカンタータの寄せ集め。(でしたよね?バッハについてはまだまだ初心者の僕はうっかりするといい加減なことを言いそうなので要注意・・・)(苦笑) クリスマス気分に溢れた良い曲ばかりで、聴いていて心がなんとも「和む」というか、とても幸せな気分にさせてくれます。

僕は以前からバッハ本家の聖トーマス教会合唱団のいかにも教会合唱という雰囲気が大好きなのですが、特にこういう曲は大人だけの合唱よりも少年合唱が混じった純真素朴な歌声の方が断然好きなのです。

Cci00053 クルト・トーマス指揮ゲヴァントハウス管弦楽団、聖トーマス教会合唱団(1958年録音/edel盤) 少々古いですが僕の好きなクルト・トーマス(名前が良いよねー)がギュンター・ラミンの後を継いでカントールになった時代の録音です。合唱の素晴らしさはもちろんの事ですが、ここではゲルハルト・ボッセ教授のヴァイオリンソロを聴けるのが嬉しいです。弟子のカール・ズスケに比べると遥かに端麗辛口の音色がいかにもバッハにぴったりです。学生時代に東京文化会館で聴けた彼らの「マタイ受難曲」でのボッセ教授のヴァイオリンの美しさがいまだに脳裏に焼きついて離れないでいます。

オラトリオを聖トーマス教会の座席に座って聞いている気分になってメリークリスマス!

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2008年12月22日 (月)

ブラームスの室内楽 ヴィオラ・ソナタ集 愛聴盤

114 それでは、ヴァイオリン・ソナタとの巴(ともえ)戦で敗れたヴィオラ・ソナタとチェロ・ソナタの2位決定戦に移るとします。ここで対戦に先立ってひと言触れておきますと、ヴィオラ・ソナタの方は実は元々は晩年にクラリネット・ソナタ作品120の1、2として書かれたものです。それをブラームス自身がヴィオラ用に書き換えたという謂わば競技転向組なのです。個人的にはオリジナルのクラリネット版よりもヴィオラ版の方を遥かに好んでいます。何故かと言うとクラリネット選手時代には持っていなかった美技、ダブルとトリプルのストップ(重音のこと。回転ジャンプ?では無いです。)を取り入れたからなのです。このブラームスならではの六度ほかの和音はたいそう美しく魅力的で、これを味わってしまうと単音ではちょっと物足りなくなってしまうのです。(クラリネットファンの方、ゴメンなさい)

さて、いよいよ選考試合開始ですが、楽器としてのポピュラリティが高く、名プレイヤーの録音が多く存在するチェロ・ソナタが有利と思いきや、ヴィオラ・ソナタもさすがにブラームス最晩年のクラリネット名曲ファミリーからの転向パワーアップ選手だけあって一歩も引けを取りません。それどころか見事な旋律、楽想の数々を次々と繰り出して、名作であるチェロ・ソナタをすっかり圧倒してしまいました。これは完全なヴィオラ・ソナタの判定勝ちであります。(チェロファンの方、ゴメンなさい) それにしてもそれほど有名でもない作品の中にこれほどの大傑作が有ろうとは、正にブラームスの室内楽恐ろしです。

ヴィオラ・ソナタ第1番ヘ短調op.120-1

第1楽章アレグロアパッショナートの冒頭にいきなり出てくる暗くくすんだ感情溢れる旋律に一遍に魅惑されてしまいます。ブラームス晩年の寂寥感に覆われてはいるのですが、その情熱は少しも枯れることなく迸り出てきます。中音部楽器のヴィオラがまるで人間の声のようにうねり歌い上げて胸を打ちます。優しく静けさ一杯の第2楽章、哀愁を漂わせながら優美に踊る第3楽章アレグレットも素晴らしいですが、第4楽章ヴィヴァーチェがまたどことなくラプソディックでとても楽しいです。

ヴィオラ・ソナタ第2番変ホ長調op.120-2

ヴァイオリン・ソナタの1番、2番のように穏やかで叙情味に溢れたアレグロの第1楽章からして既にとても魅力的です。そして一転して不安に心揺れるような素晴らしい第2楽章アレグロアパッショナート。白眉は中間部のゆったりとしたバラード風の旋律とあの何とも美しい六度ほかの重音部分ですが、これには言葉を失うほどです。第3楽章アンダンテは再び落ちついて心を和ませます。

この曲はCDが少ないので余り多くは聴いていないのですが、一応僕の愛聴ディスクをご紹介させて頂きたいと思う。

Cci00048a ピンカス・ズーカーマン(Va)、ダニエル・バレンボイム(Pf)(1975年録音/独グラモフォン盤) 学生時代にテープデッキに録ったものを何度も聴いた演奏です。当時ヴァイオリンとヴィオラの全集という形でリリースされましたが、僕はヴィオラソナタの演奏の方がずっと好きでした。ズーカーマンのヴィオラはヴァイオリン奏者らしい軽く明るい音色なので、生粋のヴィオラファンには好まれないかもしれません。専門のヴィオラ奏者は弓を持つ右手の肘に腕の重さをかけるので、音色は厚く渋くなり、しばしばこの楽器特有のグチャっという潰れたような音を出します。それがヴァイオリニストがヴィオラを弾く場合には、腕の重さを余りかけないのでどうしても軽いヴァイオリン的な音色になってしまうのです。しかし僕はさんざん昔に聴いたせいか、この演奏はやはり好きなのです。バレンボイムもロマンティックですが芯の有る音で実に堂々とピアノを弾いていて素晴らしいと思います。

Cci00048b ヨゼフ・スーク(Va)、ヤン・パネンカ(Pf)(1990年録音/スプラフォン盤) スークが最円熟期に素晴らしい録音を残してくれました。この人のヴァイオリンは若い頃は少々線が細過ぎて物足りない印象でした。虚飾の無い端正なスタイルはその後もずっと変わらなかったですが、年齢を重ねるにつれてだんだんと音と表現に厚みを増して行ったと思います。この演奏はズーカーマンに比べればずっと渋いヴィオラの音を聴くことができますし、表現も晩年のブラームスの枯淡の気分が感じられてとても好ましいです。パネンカのピアノがいつもながら少々頼りないのが惜しいですが、これはこれで室内楽的な雰囲気といえないこともないので一応合格とします。

Cci00049 キム・カシュカシャン(Va)、ロバート・レヴィン(Pf)(1996年録音/ECM盤) この人は本職のヴィオリストです。ならばヴィオラ本来の深い音を期待したいところなのですが、意外に音が軽いのです。いかにも女性が弾いているブラームスという感じです。歌いまわしも叙情的な部分は良いとしても、晩年の男性的な渋さに欠けるのでどうも物足りません。やはりアメリカ人女性奏者にブラームスは無理なのでしょうか。レヴィンのピアノが抜群なだけに残念です。

この他には、僕がLP時代に聴いていたヴィオラの神様ウイリアム・プリムローズ/ルドルフ・フィルクスニーの録音(EMI)がありましたが、現在CDでは出ていないようです。これは少々残念なことです。

ユーリ・バシュメット盤は聴いていません。どうもこの人のヴィルトゥオーゾ風のイメージが僕を食わず嫌いにさせています。ヴィオラ奏者にしては活躍が華々し過ぎるのです。ヴィオラはもっと日陰者の方が似合う楽器です。(などとウジウジ理屈にもならない理屈をこねるのがブラームジアーナーの面目躍如なのです)

以上、僕の好きな演奏はこの中ではヨゼフ・スーク盤です。このCDはつい最近コロムビアの廉価盤で再リリースされたばかりなのでお薦めできます。

さて次回はいよいよブラームスの室内楽特集の最終章、弦楽器のみの編成曲を予定します。年末ご多忙の中で御笑読頂ければ幸いです。

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ブラームス ヴィオラ・ソナタ集 続・名盤

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2008年12月17日 (水)

ブラームスの室内楽 ヴァイオリン・ソナタ集 名盤

ブラームスの室内楽特集なのですが、「ピアノ三重奏曲」の次であれば「ピアノ二重奏曲」ということになるのですが、そのような呼び名は存在しませんので、「ヴァイオリン・ソナタ」あるいは「チェロ・ソナタ」や「ヴィオラ・ソナタ」がそれに該当することになります。

「ヴァイオリン・ソナタ」は正式に訳せば「ヴァイオリンとピアノの為のソナタ(Sonata for Violin and Piano)」です。それはチェロ・ソナタも、ヴィオラ・ソナタも同様です。どれも合奏曲の原型としての「ピアノ二重奏曲」です。などと言うと、なんだかへ理屈をウジウジ言っているように思われるでしょうが、まあこういうところがブラームジアーナーの性ということでご容赦頂きたいと思います。(^^)

さて、何故その中で最初にヴァイオリン・ソナタを選んだかと言いますと理由は簡単、ポピュラリティだけです。自分の好みで言えばあるいはヴィオラ・ソナタという線もあります。ただこの曲はクラリネット・ソナタの改作ですし、チェロ・ソナタにしても少々渋過ぎます。それに両者は作品が2曲づつですがヴァイオリン・ソナタは3曲有ります。2対2対3となればこれは変則タッグマッチ戦になりますから、数で有利なヴァイオリン・ソナタが最後は体力勝ちするのは間違い無いところです。まあこれは妥当な勝負判定でしょう。

ヴァイオリン・ソナタ第1番ト長調op.78 <雨の歌>

実に穏やかな佳曲です。ブラームス特有のドロドロさが無く、爽やかな印象なので若い時代の作品かと思いそうですが、れっきとした円熟期の作品です。それにしてもなんという詩情に溢れた音楽なのでしょう。<雨の歌>というタイトルは別としても、この曲を聴いていると、なんだか自分が詩人にでもなった気がしてきます。この曲の試演会には不倫恋人のクララ・シューマン夫人が同席したというが、ブラームスの彼女への恋慕心が曲に垣間見えるようです。

ヴァイオリン・ソナタ第2番イ長調op.100

この曲もやはり穏やかな美しい旋律に満ち溢れた佳曲です。それもそのはずでブラームスがスイスの美しい自然の中で過ごした時に書かれた作品なのです。更にはこの頃ブラームスは歌手のヘルミーネ・シュピース嬢に恋していたそうです。(またか!)そんな心境が反映されているのでしょう。第1番と第2番を続けて聴くと最高のBGMになります。

ヴァイオリン・ソナタ第3番二短調op.108

この曲は1番、2番とはだいぶ曲想が異なります。穏やかさは影を潜めて、暗く内省的な部分と激しく高揚する部分とが交錯する、まさにブラームスの本領発揮の曲です。構成も4楽章でスケールが大きく、聴き応え充分です。なのでこの曲はちょっとBGMには不向きですね。

当然CDには3曲をまとめた物とそうでない物とが有りますが、ここでは順不動でご紹介させて頂きたいと思います。

Cci00034 アドルフ・ブッシュ(Vn)、ルドルフ・ゼルキン(Pf)(1931、32年録音/EMI盤) 古き良きドイツロマン派の伝統を受け継ぐ最後の偉大なヴァイオリニストが、幸運にも第1番と第2番の録音を残してくれました。いささか古めかしいポルタメントを多用したスタイルなのですが、逆に現在では絶対に聴くことの出来ない貴重な演奏なのです。これを単に「古い」と片付けてしまっては絶対にいけません。シューマン~ブラームス直系のこの限りなく深いロマンを心から味いたいと思います。第1番の終楽章では大きく揺れるように歌い上げていて白眉です。

462 ゲオルグ・クーレンカンプ(Vn)、ゲオルグ・ショルティ(Pf)(1947、48年録音/DECCA盤) クーレンカンプは戦前のドイツの名ヴァイオリニストで、本国ではアドルフ・ブッシュと並び人気が高かったのですが、録音が少ないせいか現在ではほとんど忘れ去られています。やはりドイツの伝統的なロマン性を存分に感じさせる演奏なのですが、ブッシュのいささか古めかしいスタイルと比べれば幾らかスタイリッシュな印象です。ピアノ伴奏がショルティというのはご愛嬌ですが、演奏は決して悪くありません。

Cci00045 ヴォルフガング・シュナイダーハン(Vn)、カール・ゼーマン(Pf)(1957、60年録音/独グラモフォン盤) この人はウイーン出身の代表的なヴァイオリニストですが、バリリやボスコフスキー、ウェラーといったいかにもウイーン的な柔らかい音というよりは、だいぶドイツ的な音に近いように思えます。この演奏も謂わばウイーン/ドイツ折中型のイメージですので、ブラームスの音楽にとても自然にマッチしています。ただしゼーマンのピアノは重厚な純ドイツ風です。

188 ジョコンダ・デ・ヴィート(Vn)、エドウイン・フィッシャー(Pf)(但し2番のみティート・アプレア)(1954、56年録音/テスタメント盤) 純粋なイタリア娘(この時は既に47歳のおばさんですが)の弾くブラームスもなかなかに魅力的です。イタリアといっても北イタリアの生まれですのでスイスにほど近く、南国の脳天気な風土とはだいぶ異なったのかもしれませんね。事実この人はブラームスを得意にしていたそうで、この演奏でも違和感など感じさせないどころか、とても味わい深くブラームスを弾いています。フィッシャーのピアノは立派ですが少々ヨレているところもあります。

Cci00047b ヘンリク・シェリング(Vn)、アルトゥール・ルービンシュタイン(Pf)(1960年録音/RCA盤) 幸運にも僕はシェリングの弾く第1番の実演を東京で聴いた経験があります。それは柔らかくて澄み切った非常に端正で美しい音でした。CDで聴くともう少し硬い音に聞こえますが、それでもこの録音は素晴らしいです。ルービンシュタインが母国ポーランド出身の破格の実力を持つ無名ヴァイオリニストを世に紹介して2年後の再セッション録音ですが、ルービンシュタインが普段にも増して真剣に弾いていて、シェリングがそれに十二分に応える見事な演奏をしています。特に第1番と第3番が非常に素晴らしい出来ばえです。

Cci00045b アイザック・スターン(Vn)、アレクサンダー・ザーキン(Pf)(1960年録音/CBS SONY盤) シェリングと同じ年にスターンも録音を行っています。彼はウクライナ出身のユダヤ系のアメリカ人ですが、若い頃は端正な中にも力強い演奏をした良いヴァイオリニストでした。ですがこのブラームスのソナタの演奏に於いてはシェリングの完成度に大きく水をあけられていると思います。中では第3番だけはなかなか良い演奏だと思いますが、これは曲の性格の為でしょう。

Cci00046 ヨゼフ・シゲティ(Vn)、ミエチスラフ・ホルショフスキー(Pf)(1961年/Philips盤) これは第2番だけの録音なのですが、僕がLP時代から愛聴している演奏です。その演奏の素晴らしさは正に比類がありません。何しろシゲティの師匠は第3番の初演を行ったハンガリーの大ヴァイオリニスト、フーバイです。つまりはブラームスの直伝のようなものなのです。いつもながら弓がかすれる部分も度々有りますが、音楽の余りの深さに圧倒されてしまい全く気になりません。ホルショフスキーのピアノもまた実に深いです。よく評論家はシゲティの演奏を一般向きでないと言うことが多いですが、真の芸術を後の世代に広め伝えるのが彼らの使命なのではないでしょうか。良いと思うならもっと自信を持って薦めて欲しいものです。

Cci00047 ダヴィド・オイストラフ(Vn)、スヴャトスラフ・リヒテル(Pf)(1968年録音/メロディア盤) これは第3番だけのディスクです。このコンビでは2番も録音していますが、彼らに向いているのは3番のほうだと思います。LP時代には気に入ってよく聴きました。ですが今改めて聴くと、ロシアの巨人同士の演奏はブラームスの音楽にはちょっと規格外のような気がします。弾き方がオーバー過ぎるように感じますし、終楽章のバリバリ弾く迫力などは尋常でありません。これがコンチェルトだったらまだ良いのかもしれませんが。

660 チョン・キョンファ(Vn)、ペーター・フランクル(Pf)(1995年録音/EMI盤) 韓国出身の突然変異の天才ヴァイオリニストです。この人も実際の生演奏に接したことがあります。彼女は若いときから基本的に端正な弾き方をしますが、時に彼女独特の粘りを見せます。それはアウアー流派の豊穣な音の粘り気では全くなく、例えば多分に精神的な朝鮮民族の「恨(ハン)」という性質のもののような気がするのです。そしてそれは意外にハンガリーのジプシー民族のそれに似たものを感じます。その暗さがブラームスの音楽にとても向いています。

901981_g イザベル・ファウスト(Vn)、アレクサンドル・メルニコフ(Pf)(2007年録音/ハルモニアムンディ盤) 第1番だけですが、とても面白い1品があります。ホルン・トリオでもご紹介したイザベル・ファウスト嬢の最新録音盤です。これもバイオリンにはガット弦を使用していますし、メルニコフの弾くピアノは19世紀製のベーゼンドルファーです。果たしてブラームスの時代に響いていた音はこのようなものであったのかと思うと興味津々です。

さすがにブラームスのバイオリン・ソナタは名曲だけあって実に名盤が揃っています。中でも僕が特に好きなのは、第1番と第3番はシェリング/ルービンシュタインです。とりわけ第1番がピアノもヴァイオリンも最高です。第2番だけはシゲティ/ホルショフスキーです。それ以外ですと、3曲まとめたクーレンカンプとシュナイダーハンというところでしょうか。さて、皆さんのお好きな演奏はいかがでしょうか?

<関連記事>

この後に購入した、ゲルハルト・ヘッツェル盤とヨゼフ・スークの再録音盤がとても良い演奏でした。特にスーク晩年の演奏は非常に気に入っています。

さらに後に購入した、ヨゼフ・シゲティの1番と3番、シモン・ゴールドベルク盤も非常に素晴らしいです。

素晴らしい演奏はまだまだ有るもので、ユーディ・メニューイン盤も愛聴盤の仲間入りをしました。

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2008年12月12日 (金)

ブラームスの室内楽 ピアノ三重奏曲集 名盤

Brahmss このところ寄り道が続いていましたので、すっかりブラームスの室内楽特集が停滞してしまいました。これでは晩秋に始めた特集が終わるのは、初冬どころか初春になってしまいそうです。新年早々から「うら寂しいブラームスの・・・・」というのも何ですので、ここはペースを上げて年内の終了を目指したいと思います。

ブラームスは、ピアノ三重奏曲も全部で3曲を書きました。3曲とも4楽章構成であり、いずれも名作です。本人もこのジャンルをかなり好んでいたのでは無いでしょうか。

「ピアノ三重奏曲第1番 ロ短調Op.8」

第1番からして充実した傑作です。第1楽章アレグロ・コンブリオの若々しい曲想は何となくシューベルトかシューマンを思わせますが、長く続く旋律線はまぎれもないブラームスです。ファンにはたまりません。第2楽章スケルツォの中間部のゆったりとした旋律も実に魅力的です。第3楽章アダージョは若きブラームスの青春の甘い憂鬱といった趣きです。第4楽章アレグロは、不安げに始まって徐々に情熱的になっていく展開が実に見事です。この曲は円熟期に改作が行われていて、通常は改作版のほうで演奏されます。

「ピアノ三重奏曲第2番 ハ長調Op.87」 

第1楽章アレグロは悪くは無いのですが、どうもウジウジと理屈っぽい気がします。それよりも第2楽章アンダンテのまるでジプシーのエレジーが魅力的です。主題と5つの変奏でできていて、ブラームス円熟の匠の技といえるでしょう。第3楽章スケルツォは中間部の旋律が実に魅力的です。第4楽章アレグロは極めて情熱的に高揚して素晴らしいです。 

「ピアノ三重奏曲第3番 ハ短調Op.101」 

第1楽章アレグロ・エネルジーコは、いかにも円熟期のブラームスらしく堂々と重厚なリズムで開始されますが、その後に続くユニゾンの主題が最高です。ブラームスにしか書き得ない男のロマンが何とも魅力的で、「うーん、ブラームス!」と思わずうなってしまいます。第2楽章プレスト・ノン・アッサイも繊細で不安感を感じさせるとても魅力的な楽章です。第3楽章アンダンテ・グラチオーソは優しく繊細なメロディが心をとても癒してくれます。第4楽章アレグロ・モルトはスタッカートのリズムで不安げに始まりますが、時にゆっくりと歌いながら徐々に情熱的に高揚していく様が素晴らしいです。個人的にはこの第3番に特に惹かれています。

それでは、いつものように僕の愛聴ディスクをご紹介させて頂きたいと思います。

まずは、やはり3曲揃った演奏ですが、その場合には素晴らしいセットが幾つか有ります。

Cci00042 アルトゥール・ルービンシュタイン(Pf)、ヘンリク・シェリング(Vn)、ピエール・フルニエ(Vc)(1972-74年録音/RCA盤) このメンバーなら悪い演奏になるはずがありません。どの曲も、3人が持てる実力を如何なく発揮していますが、統一感と力関係のバランスが正に絶妙です。3人とも誠実な演奏で、ひたすらブラームスの音楽に奉仕するので、このディスクは正に定番の名に相応しいと思います。もしも初めて3曲まとめたものを購入して聴こうとする場合には、このCDを選んでおけば、まず間違いないと思います。

Cci00042b ユージン・イストミン(Pf)、アイザック・スターン(Vn)、レナード・ローズ(Vc)(1964、66、69年録音/CBS SONY盤) このトリオは、最近ではすっかり人気が落ちてしまった様に感じてとても残念ですが、演奏はルービンシュタイン/シェリング/フルニエと比べてもよりスケールが大きく実に素晴らしいです。スターンの力強いヴァイオリンはしばしばシェリング以上ですし、他の二人も実力では決して引けを取りません。3曲とも良いのですが、特に素晴らしいのが第3番です。僕がこの曲を好むのも、この演奏が有るからかもしれません。さんざんカザルスと共演していたスターンのヴァイオリンには大カザルスの魂を感じる部分が少なくありません。

513cr1qgxilジュリアス・カッチェン(Pf)、ヨゼフ・スーク(Vn)、ヤーノシュ・シュタルケル(Vc)(1968年録音/DECCA盤) ブラームスを得意とするカッチェンは男性的な剛腕イメージが有りますが、このトリオでは意外と大人しく、むしろ美感を大切にしている印象です。端正で線の細めのスークに合わせているのでしょうか。シュタルケルはさすがに底光りのする美しい音をじっくりと奏でています。トリオとして申し分の無い演奏で、特に第2番、第3番は優れていると思いますが、第1番には、この曲の持つ迸るような青春の熱い情熱が不足しているように思います。

以下は3曲セットでは有りませんが、曲ごとの単独盤にはとてつもない名演奏が存在します。

-第1番ロ短調Op.8-

Cci00043 アイザック・スターン(Vn)、パブロ・カザルス(Vc)、マイラ・ヘス(Pf)(1952年録音/CBS SONY盤) カザルスが主催したプラド音楽祭の開催中に行われた録音です。限りなくスケールの大きな演奏は、まるでブラームス円熟期の曲に聞こえます。ヘスのピアノは慈愛に満ち溢れていますし、スターンのヴァイオリンも本当に素晴らしいです。当時のカザルスを中心とした演奏は、どれもこれもおよそ比較するものの無いほどに凄い演奏なのですが、それは全てカザルスの偉大な精神から生まれているのに違いありません。

-第2番ハ長調Op.87-

Cci00043b アドルフ・ブッシュ(Vn)、ヘルマン・ブッシュ(Vc)、ルドルフ・ゼルキン(Pf)(1951年録音/CBS SONY盤) これはブッシュ達が米国に渡った後の最晩年を迎えた時代の録音です。この演奏も、カザルス達に引けを取らない偉大な演奏だと思います。ブッシュのSP時代の甘ったるいポルタメントがだいぶ減りましたが、懐かしい雰囲気をたっぷり味合わせてくれるところは少しも変わっていません。第2楽章の抒情溢れる歌などはまるで「荒城の月」でも聴いているかのようです(^^)。そして終楽章の情熱的な高揚感も流石にブッシュです。

Cci00044 ヨゼフ・シゲティ(Vn)、パブロ・カザルス(Vc)、マイラ・ヘス(Pf)(1952年録音 CBS SONY盤) これもやはり第1番と同じプラド音楽祭の間の録音です。ヴァイオリンがシゲティに代わって演奏は益々深みを増しました。ゆったりとしたテンポでブラームスの叙情を歌い、表現し尽くしています。シゲティの偉大な魂がカザルスのそれとぶつかり合う様は壮絶でさえあります。第2楽章では、カザルスが大きなうなり声を出しっぱなしですが、その音楽の崇高さには言葉を失ってしまいます。

この3曲はいずれも素晴らしい傑作で、ブラームスを心から堪能できますので、もしもこれまで余りお聴きになられていない方がおられれば、是非ともじっくりと聴いて頂けたらと思います。

<補足>
カッチェン、スーク&シュタルケルのCDを後から加筆しました。

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2008年12月 7日 (日)

ボリショイ・バレエ/ザハーロワ 2008日本公演 「白鳥の湖」

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今夜は来日中のロシア国立ボリショイ・バレエの「白鳥の湖」を観に行ってきました。会場は上野の東京文化会館です。寒い冬になってチャイコフスキーのバレエを生の舞台で観るのは楽しいものです。年末に「白鳥の湖」を観るのはこれで3年連続となりますが、一昨年はマリインスキー劇場バレエ、昨年はモスクワ音楽劇場バレエでした。

今年のボリショイのお目当ては何といってもプリマのスヴェトラ・ザハーロワです。C社のデジカメのTVCMでオデットを踊っているので御馴染みでしょう。さてその姿は予想を遥かに越えて美しかったです。すらりと伸びた肢体は白鳥というよりもフラミンゴか丹頂鶴みたいでした。それにしても何て細くて長い手足なのでしょうか。そしてあの繊細極まりない表現!オデットの役は彼女の為にあると言っても過言で無いのじゃないでしょうか。いやー素晴らしい!ジークフリート王子のウヴァーロフも背が高くがっちりしていて実にカッコいいので、彼がオデットを高々とリフトすると何とも見栄えがするのです。

ボリショイの舞台はもちろん老舗の素晴らしさなのですが、個人的には昔話の絵本をそのまま舞台にしたようなマリインスキーの方が好みです。コール・ド・バレエ(群舞)もマリインスキーにはちょっと適わないと思います。オーケストラは専属の楽団だったのは良いですが、随分と荒っぽい音でした。まあロシア的と言えないことも無いのかもしれませんが、もう少し繊細にやって欲しかったです。

ちなみに最後は悪魔がオデットを連れ去ってしまい王子が一人呆然とするという悲劇の終わり方のほうでした。私は「最後に愛は勝つ」(^^)のハッピーエンドが好きなのだけどなぁ。カーテンコールは盛り上がって凄かです。熱烈なファンがステージの前に殺到して拍手が鳴り止まず。さすがにザハーロワは本当に人気が高いですね。

さて、僕が家で「白鳥の湖」を楽しむ場合のDVDをご紹介させて頂きます。

Cci00040 マリインスキー劇場のDVD(2006年収録) これは指揮が劇場監督のワレリー・ゲルギエフ自身。オデットは看板のロパートキナ。彼女は顔立ちが可愛いので大好きです。ゲルギエフの振るテンポは完全にコンサート向きなので、ダンサーにとっては速すぎたり遅すぎたりと随分踊りにくそうな部分も見うけられます。ですので、純粋なバレエファンには必ずしも評判は良くないのだそうです。でも僕は純粋なバレエファンでもありませんし、大好きです。何しろ、これほど音楽的に素晴らしい「白鳥の湖」は無いからです。舞台の薄明るく淡い色彩も本当に美しいです。そしてマリインスキーのコール・ド・バレエの美しさ。これは生の舞台に接すると言葉にならないほどなのですが、DVDでも充分美しさを味わえます。演出も最後に王子が見事に悪魔をやっつけてハッピーエンドtぽなるオーソドックスな終わり方なので安心。この素晴らしいDVDは、普段バレエを見ないクラシック音楽ファンにこそ是非観て頂きたいお薦めです。

Cci00039 パリ・オペラ座バレエのDVD(1992年収録) マリインスキー、ボリショイと肩を並べられるのはパリ・オペラ座でしょう。ジョナサン・ダーリントン指揮。オデットはマリー=クロード・ピエトロガラでジークフリートはパトリック・デュポンという素晴らしい組み合わせです。10年前くらいはピエトロガラはシルヴィ・ギエムと並んで非常に人気が高かったけれど、最近はどうなのでしょう。この上演版は最後に王子がオデットを抱いて湖に沈み天国へ登るという終わり方です。デュポンの演技が見事ですし演出もドラマティックで素晴らしいです。指揮とオケの方についてはパリのオケには最初から無理な相談なのですが、チャイコフスキーだけに本来は演奏にロシアの味わいが欲しいところです。

以上は、決してバレエ鑑賞が専門ではない自分の勝手気ままな意見ですので、その道のファンから見たらおかしく思えることも有るかもしれません。その点はどうぞご承知置き下さい。

<補足>
なお、音楽をCDで楽しむ場合の愛聴盤は下記の記事でご紹介しています。
チャイコフスキー バレエ「白鳥の湖」全曲 名盤

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2008年12月 4日 (木)

ブラームス 交響曲第3番 クルト・ザンデルリンク/ウイーン響の新盤

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ブラームスの室内楽特集を続けている途中ですが、先日クルト・ザンデルリンクがウイーン交響楽団を指揮したコンサートのライヴCDが発売されました。もっとも新盤といっても、これは1997年の録音です。なにしろ、僕にとっては『ブラームスといえばザンデルリンク。ザンデルリンクといえばブラームス。』と言えるほどの存在ですし、この人のシュターツカペレ・ドレスデン(ドレスデン国立歌劇場管)との全集盤が昔からどれほど好きかは以前の記事でお話しした通りです。ザンデルリンクのブラームスは、この他にもベルリン交響楽団を指揮した1990年の全集録音が有ります。しかし僕は、ドレスデン盤のほうが遥かに好きなのです。そしてドレスデン盤の中でも3番と4番の演奏は特に優れていると思います。ですので、今回新盤が出るとはいえ、正直あのドレスデン盤を越える可能性は99%無いだろうなとは思っていました。それでも聴くのを非常に楽しみにしてしまうのがファンたる所以です。

こうして、新盤をいよいよ聴いてみましたが、最初の十数小節でほぼ答えは出たようです。「うーん、これは駄目だ・・・」
ウイーン交響楽団がドイツの楽団のような分厚い響きを出すとは思いませんが、中音部が痩せていて金管とヴァイオリンが目立ち過ぎます。これはいつものザンデルリンクでは有りません。テンポもベルリン盤と同じくらいのはずなのに、いやに遅く感じます。ベルリン盤でも遅過ぎてもたれると思いましたが、あれは聞きようによってはスケールの大きさを感じないでもありません。ですが、このウイーン響盤は本当にもたれます。響きにも充実感が余り感じられません。恐らく有機的なハーモニーに成っていないからでしょう。これなら、まだベルリン盤のほうが良いと思います。それにしても不思議なのは、同じ1997年にはエレーヌ・グリモーが独奏を弾くピアノ協奏曲第1番の録音が有りますが、あの演奏はシュターツカペレ・べルリンが分厚く充実した音を出していて凄かったです。ですから、単に「年老いた」とかいうことでは説明が付かないのです。オケの違い?なのかもしれません。ウイーンの楽団は第2番を除いては決してブラームスの音に向いていないと思うからです。この新盤はザンデルリンクのファンの人には余り期待して聴いて欲しくはありません。ドレスデン盤の素晴らしさを知っている人は恐らく期待を裏切られると思うからです。

でもそれはそれとして、第3番は本当に良い曲です。どこを取っても渋い響きで最もブラームスらしいのでは無いでしょうか?第1楽章や終楽章の内向的な秘めたる情熱の燃え上がりも素晴らしいですが、第2楽章の静かな歩みのほの暗いロマンや第3楽章の哀愁漂う名旋律もたまりません。個人的にはブラームスの交響曲の中では最も好きかもしれません。

<後日記事>
ブラームス 交響曲第3番 名盤 ~ブラームスはお好き~

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