« ブラームスの室内楽 ピアノ五重奏曲ヘ短調op.34 名盤 | トップページ | モーツァルト 「レクイエム」ニ短調K.626 名盤  »

2008年11月24日 (月)

ブラームスの室内楽 ピアノ四重奏曲集 名盤

ブラームスの書いた、ピアノを伴う室内楽曲は全て名作と言えます。と言うよりは、元々完璧主義者の彼の作品には、そうでは無い曲などは、およそ存在しないのです。ともかくピアノ五重奏曲の次は、ピアノ四重奏曲に行きましょう。ブラームスはこのジャンルでは3曲を残しています。

ピアノ四重奏曲第1番 ト短調Op.25 

 若々しい曲想に満ちていて(もっともブラームスにしてはですが)、とても親しみ易い名作だと思います。そのために最も演奏される機会が多いです。短調のわりには余り暗過ぎることもなく、終楽章などは実に情熱的です。第三楽章の中間部に突然、行進曲が出てくるのもユニークです。ちなみにこの第1番には有名なシェーンベルクが編曲した管弦楽版も有りますが、その行進曲部分の大迫力には思わずのけ反ってしまいます。
(管弦楽版の記事へのリンクは下記<後日記事>参照)

ピアノ四重奏曲第2番 イ長調Op.26

 第1番とほぼ同時進行で書かれましたが、第2番のほうが曲想はやや明るめですし、終楽章が非常に情熱的です。けれども随所に哀愁漂う旋律がちりばめられていますし、第2楽章などは完全にエレジーです。この辺りはやっぱりブラームスです。

ピアノ四重奏曲第3番 ハ短調Op.60

 さすがにこの頃の作品になると、音楽が円熟して実に素晴らしいです。曲の進行には少しも無駄が無く、飽きることが有りません。不安げな曲想の第二楽章スケルツォ、歌謡調で美しい第三楽章アンダンテ、暗い情熱に溢れる終楽章アレグロコモードと、いずれも大変に魅力的です。

僕は第1番と第3番に特に惹かれますが、やはり3曲まとめて聴きたいものです。そこで3曲まとめたCDをということなりますが、これが意外に少ないのです。ここでは僕の愛聴盤を二つご紹介させて頂きます。

415 イエルク・デームス(Pf)/バリリ弦楽四重奏団員(1956年録音/ウエストミンスター盤) オールドファンなら誰でも知っている、長年名盤の王座に君臨してきたバリリSQ盤です。モノラル末期の録音ですので音質は良好です。表現はどこまでも無理がなく自然です。若きデームスのピアノもとても味わいが深いです。それに何よりも、現在では失われてしまった古き良きウイーンの情緒をバリリSQの名演奏でたっぷりと味わえるのがかけがえありません。正にこれは永遠の名盤と言えるでしょう。

880 デレク・ハン(Pf)/イザベル・ファウスト(Vn)/ブルーノ・ジュランナ(Va)/アラン・ミュニエール(Vc)(1996年録音/ブリリアント盤) 実は僕はずっとバリリSQの一本道だったのでしたが、最近この素晴らしい演奏を知りました。ヴァイオリンのイザベル・ファウストについてはホルントリオの記事でご紹介しましたが、この演奏は10年前のデビュー直後にこの録音されました。メンバーが凄いのです。弦に詳しい方ならヴィオラのブルーノ・ジュランナはご存知でしょう。昔はウィリアム・プリムローズがヴィオラの神様でしたが、その神様の後継者と言えばこの人でした。ピアノのデレク・ハンのことは知りませんでしたが、ゼルキンにマールボロ音楽祭に招かれた程のピアニストだそうです。どうりで実力は確かなはずです。チェロのミュニエールについてだけが良く分かりませんがやはり上手いです。若手実力ヴァイオリニストをベテラン勢が脇をしっかり固めただけあって演奏は非常に素晴らしいです。よく若手の演奏家が集まったときに感じるような、現代的過ぎて味気無いような演奏とは全く異なります。ベテラン勢とファウストのヴァイオリンとのバランスが絶妙なのです。このCDはブリリアントの「ブラームス室内楽全集」にも入っていますが、単売でも出ています。この名演奏が廉価盤で買えるなんて何と幸せなことでしょうか。

人気のある「第1番」は単独でも幾つか愛聴盤が有りますので、触れてみたいと思います。

Busch_brahms_piano_quart1古い録音ですが、ゼルキン/ブッシュ弦楽四重奏団員(1949年録音/EMI)の演奏が有ります。これは完全に後期ロマン派寄りのスタイルです。ブラームスの音楽の古典的な造形面には欠けますが、深い情緒の表出と熱いロマンのほとばしりはいかばかりでしょう。若きルドルフ・ゼルキンのピアノも見事です。特に終楽章の情熱と高揚ぶりは凄いです。最晩年の演奏ですので彼らの録音にしては音質もしっかりしています。

474 昔から人気の高いギレリス/アマデウスSQ盤(グラモフォン)も有ります。評論家もよく推薦していますが、僕は正直好みません。アマデウスSQのいつもながらのオーバーな表現には今更驚きませんが、ギレリスがどうもいただけないのです。力み過ぎてしまって音に余裕が無いばかりか、終楽章の16分音符などでは走って前のめりに転んでいて、とても聴いていられません。この時ギレリスは人気カルテットとグラモフォン録音のチャンスを得たことで、余りに張り切り過ぎてしまったのではないでしょうか?

903 そして天下の爆演、アルゲリッチ/クレーメル/バシュメット/マイスキー盤(グラモフォン)です。凄いメンバーの凄い演奏です。面白いことは間違いないです。でも果たしてこれが良い演奏かというと?です。彼らは曲の良さを表現しようというよりも、いかに自分達の腕前を披露してやろうかという態度にしか思えません。曲の節々のいじらしいメロディに少しも共感を感じませんし、終楽章の快速弾き飛ばしぶりは何!? 昔、ワルター・バリリが「16分音符は一つ一つの音がはっきりと聞こえるように正確に弾かなければならない」とどこかで話していましたが、これは全然逆の演奏です。バリリ教授が怒るでしょうね。僕はこの演奏を全然好みませんが、ブラームスが苦手な人には、逆に受けることでしょう。

「第2番」にも古い録音ですが愛聴盤が有ります。

Brahcci00029 ゼルキン/ブッシュ弦楽四重奏団員(1932年録音/EMI) さすがに第二次大戦前の録音ですので、もちろん音質は貧弱です。演奏スタイルもポルタメントを多用した非常に古い奏法です。けれども、それが逆に何とも言えぬ懐かしさを感じさせてくれます。深い浪漫の香りがムンムンと漂って来ます。3楽章の暗い暗い情熱もとても素晴らしく、こういう音楽を弾かせると正にアドルフ・ブッシュのヴァイオリンの独壇場です。

さて皆さんの愛聴盤はいかがなものでしょうか?

<関連記事>
ブラームス ピアノ四重奏曲 続・名盤
ブラームス ピアノ四重奏曲第1番 シェーンベルク編曲管弦楽版

|

« ブラームスの室内楽 ピアノ五重奏曲ヘ短調op.34 名盤 | トップページ | モーツァルト 「レクイエム」ニ短調K.626 名盤  »

ブラームス(室内楽)」カテゴリの記事

コメント

ハルくんさま こんにちは

私のベストはルービンシュタイン/グァルネリ盤です。ルービンシュタインがブラームスを弾くとこのような音になるという見本のような演奏だと思います。第1番で随所にでしゃばり過ぎかなと思えるピアノもご愛嬌に思えます。第3番の第1楽章の出だしも抜群だと思います。聴いていてワクワクしてくる演奏です。ブラームスも人の子。募る思いを一気に撒き散らした感じですね。

古くはブッシュの演奏が気に入っています。手堅さなら、これが一番ではないでしょうか。こういうのを渋い演奏と言うのでしょうか。ゼルキンのピアノがすばらしいですね。

何れも何故か第2番がありません。この曲はご紹介のデムス/バリリ盤で申し分ないと思います。

クレーメル(いちばん好きなので代表しました)盤はご紹介で初めて知りました。早速注文しました。ものすごいメンバーですね。こういうケレンに満ちた演奏も楽しみです。

投稿: ezorisu | 2008年11月25日 (火) 11時56分

ezorisuさん、こんにちは。
いつもコメント頂きましてありがとうございます。

私もルービンシュタインは大好きなのですが、グァルネリQというのがどうかと思いこれまで聴いていませんでした。でも是非聴いてみたくなりました。ただ、廃盤みたいですね。中古店を捜さなくてはならなそうです。

ブッシュのこの曲は実は持っていないのです(涙)
ゼルキンの室内楽のピアノは正に絶品です。協奏曲も素晴らしいですけれど。

アルゲリッチ/クレーメル盤(私だとこう呼びます)には随分ケチをつけてしまいましたが、好き嫌いを別にすれば必聴盤です。でもアマデウスの濃い演奏のお好きなezorisuさんはきっと気に入ると思いますよ。(笑)
ご感想が楽しみですので是非知らせてください。

投稿: ハルくん | 2008年11月25日 (火) 22時04分

ハルくんさま こんばんは

夜分にお邪魔いたします(笑)。先程までブッシュの第2番について各サイトで調べていました。ドイツアマゾンまで行って「あれ???」と思いました。手許にあるではないか!!!最近この手のもの忘れが増えて来ました…。まあ、おかげで若き日のルービンシュタインに第2番があることもわかりました。

EMIの輸入盤(ピアノ五重奏とのカップリング)です。今回のハルくんさまの記事のおかげであらためて聴き直すことが出来ました。これは本当に涙が出る程の名演です。最近ANDROMEDAでも復刻されていましたよね。このレーベルの音はいかがでしょうか。ワルターのマーラーは非常に良かったと思います。

ルービンシュタイン盤はアメリカアマゾンかRCAあたりに残っていそうですが、わざわざ取り寄せるよりは、中古店でおついでの際に見つかれば聴いてみてください。

投稿: ezorisu | 2008年11月26日 (水) 00時36分

ezorisuさん、おはようございます。

ANDROMEDAは買ったことがありません。BudulfやTestamentなら信頼できますが、復刻廉価盤の場合は粗悪の音の場合があるので、どうしても仕方ない場合にはリスク覚悟でですがなるべく敬遠しています。

ルービンシュタイン盤、それにブッシュ盤も気長に捜してみますよ。いろいろとありがとうございました!(^^)

投稿: ハルくん | 2008年11月26日 (水) 06時00分

Mrハルくん
デームスとバリリSQの演奏が最初に挙げられていて嬉しく思いました。かって吉田秀和氏も、いろいろとこの曲を聴いてきているが、この盤のウイーン情緒がいつも頭の中に甦って来ると言っておられるのを読んだ記憶があります。また貴兄のブラームス連載に触発されて、連休の一日を先生の全集所載の「ブラームス(1974年)」を再読に当てました。
そして、今もってその論述の新鮮なことに改めて感じ入りました。90歳を越えてバイロイトに行かれたり、今もなおNHKFMで作曲家シリーズを続けておられる超人振りには驚嘆されっぱなしです。

幾多の浮沈を繰り返し消滅したかに思われていたウエストミンスター盤が日本人の飽くことのない探索の結果、ロスアンゼルスの倉庫からマスターテープを見出した快挙が現在の新しい復刻につながっていると思うとバリリならずとも私たちも心から喜ぶべきだと思います。初期LP盤が棚の上に現在も残してあって、トーレンスとか、ガラード301といった当時のプレイヤーに乗せて、時折、針音混じりの中から聞こえて来る柔らかなウイーンの薫りを味わう楽しさは、CD盤の明晰な音を聴くよりも私には懐かしさが余計に込み上げてくるようです。
1860年クララによって初演されたバラード4曲でお気に入りの演奏がありましたら今度教えて下さると嬉しいです。

来週はもう師走、仕事のほうもお忙しくなると存じますが風邪には十分気をつけてご精励されますように。

つい先日、冬の到来に先駆けてチャイコフスキーの弦楽六重奏曲ニ短調OP70「フィレンチェの思い出」を聴いて来ました。来月はお好きなチャイコフスキーの演奏あれこれの談義になりそうですね。またいろいろ御紹介下さるのを楽しみにしております。

投稿: ISCHL | 2008年11月26日 (水) 23時16分

ISCHLさん、こんにちは。
いつもながらご丁寧なコメントを本当に有り難うございます。

デームス/バリリ盤はどれほど時を経ても価値を失わない名盤だと思います。私は初期盤ではなく随分と後の日本コロンビア時代のLPですが今も所有しています。
でもファウストたちのブリリアント盤も実に素晴らしいですよ。

ブラームスのピアノ小品はバックハウスの録音の幾つか以外は残念ながらほとんど聴いていません。ですのでバラードについても逆に教えて頂きたいくらいです。幾つか聴いてみたら感想をお伝えしたいと思います。

演奏会で「フィレンチェの思い出」を聴かれたのですね。チャイコフスキーの似合う寒い日々に成ってきました。今年は早くも風邪があちこちで流行っています。ISCHLさんのほうもお気をつけてください。
そでではまた。

投稿: ハルくん | 2008年11月27日 (木) 06時13分

ハルくんさま こんにちは。

アルゲリッチ/クレーメル盤を聴きました。最初は遅く暗い始まりだなと思っているうちにわけがわからないままで終わりました。一旦ブッシュ、ルービンシュタイン盤を聴いてから、もう一度聴き直しました。そして3度目。巧者揃いなので演奏の出来栄えは悪くないと思います。全体に休止が多すぎますね。バトンタッチの時間でしょうか?特に第4楽章の高まりが中途半端な感じです。感情の爆発ではなくて、お書きのように腕前発揮の自慢大会ですね。ブラームスさんがこの演奏を聴いたら首を横に振り続けるのではないでしょうか。

アルゲリッチのピアノは大方予想通りでした。この人に秘めたる情熱を求めても無理ですね。もっと快演を期待していたのですが、案外他の3人が大人でした。いっそアーノンクールのモーツァルトやノリントンのベートーヴェンぐらいはやってほしかったな(笑)あくまでも個人的な好みから採点すればビオラ、ヴァイオリン、チェロ、ピアノの順番です。バシュメットは良いですね。第4楽章にこだわったクレーメルも相変わらず真面目です。とにかくピアノが悪い!ゼルキンを100点とすれば大目に見ても30点です。チャイコフスキーの協奏曲ではあんなに弾けていたのに…。

つくづくブラームスの室内楽は男の音楽(偏見ではありません)なのだと感じました。今、耳を洗い直すためにベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番(バックハウス/ハンス・シュミット・イッセルシュテット盤)を聴いています。

投稿: ezorisu | 2008年12月 1日 (月) 18時22分

ezorisuさん、こんにちは。

アルゲリッチ/クレーメル盤ダメでしたか?なんだか責任を感じてしまいます。ezorisuさんは気に入るかと思ったのですが…。
アルゲリッチは昔は本能のままに弾いていたので、出来栄えにムラは有っても許せましたし好きでした。年齢を重ねてからだんだんと恣意的に細部まで作りこんだ演奏表現をすることが増えてきてからはどうも感動できないです。

それはそうとルービンシュタイン/ガルネリのピアノ五重奏曲のCDを見つけて来ましたよ。いかにもおおらかな豪快な演奏ですね。私はやはり豪快でももっと神経質なゼルキン/ブダペストが好きですねぇ。でもポリーニ/イタリアの代りとして楽しむことは出来そうです。
組み合わせがドヴォルザークのピアノ五重奏曲なのですが、こちらは全然ドヴォルザークを聞いている気分がしなくて、なんだかイタリアの曲みたいに聞こえますが面白かったです。

投稿: ハルくん | 2008年12月 1日 (月) 23時33分

ブリリアントの12枚組みの室内楽全集を買ってきました。これからブラームスの室内楽を味わって見ようと思い立ち、どれからにしようかと迷った末このブリリアントのBOXが大変リーズナブルであることで、これにしたのですがまだ一部しか聞いていません。ですが大変立派な内容・演奏・録音で誰にでも推薦できるものであると思います。まずはピアノ四重奏曲第一番から聴いています。シェーンベルグのオーケストラ版がポピュラーになりましたがやはり原曲はすばらしく、後の11枚が楽しみです。

投稿: まつやす | 2011年6月19日 (日) 20時47分

まつやすさん、こんばんは。

ブリリアントの室内楽BOXを入手されましたか。最初に一通りそろえるにはベストの選択ですね。僕は一部しか聴いていませんが、このピアノ四重奏曲集のように素晴らしい演奏が入っています。
ブラームジアーナーへのお仲間入りをお待ちしております。(笑)

投稿: ハルくん | 2011年6月19日 (日) 22時00分

こんばんは。
 CDショップで、エドウィン・フィッシャー/ブレロネル弦楽四重奏団の1939年の録音が収められたCDを見つけたんですが、ハルくんさんは、聴かれたことがありますか。

投稿: t2 | 2015年3月25日 (水) 00時28分

t2さん、こんにちは。

残念ながら、その古い録音は一度も聴いたことがありません。

投稿: ハルくん | 2015年3月25日 (水) 12時51分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1080200/25560338

この記事へのトラックバック一覧です: ブラームスの室内楽 ピアノ四重奏曲集 名盤:

« ブラームスの室内楽 ピアノ五重奏曲ヘ短調op.34 名盤 | トップページ | モーツァルト 「レクイエム」ニ短調K.626 名盤  »