モーツァルト クラリネット協奏曲&ピアノ協奏曲第27番
とうとう11月です。秋がいよいよ深まってきました。
僕は秋の夜長にはブラームスを聴くのが大好きです。特に夜も更けてきたら彼の室内楽が一番。では昼間に聴くとしたら?僕はモーツァルト。ただし晩年の曲を。特に「クラリネット協奏曲」K622と最後の「ピアノ協奏曲第27番」K595が良いのです。
晴れた日の秋の空。どこまでも抜けるように澄み切った青い空。果てしなく宇宙のかなたへまで繋がっている青い空。
そんな青空を眺めているとなんだか寂しくなってきます。ちっぽけな我々の命のはかなさとか自然界の永遠性だとか、なんだか良く分からないけれどそうことを嫌でも感じさせられてしまうからでしょうか。
このモーツァルトの晩年の2曲はそんな気分に実にふさわしいです。そして素晴らしい演奏があります。どちらもカール・ベームの指揮です。ベームにモーツァルトのこういう曲を振らせるとちょっと他の指揮者では真似のできないほどの深みが現れます。
「クラリネット協奏曲」イ長調K622
アルフレート・プリンツ独奏、ベーム指揮ウイーン・フィル(ドイツグラモフォン盤)は、プリンツの素晴らしさももちろんですが、ベーム/ウイーン・フィルの演奏の素晴らしさに尽きます。文春新書「クラシックCDの名盤」の新版では中野雄先生が旧版の推薦盤ウラッハからこちらに変更されました。生意気のようですが僕は昔からこの曲に限ってはウラッハよりもプリンツ(というかベームの)この演奏のほうが格段に好きでした。第1楽章の頭の弦のきざみを聴いただけで他の演奏とはまるで違います。柔らかくゆったりとしているが実に立派。人に依っては遅過ぎと感じるかもしれないですが、この曲の持つ永遠性の雰囲気を感じるためにはこの演奏が一番だと思います。そして第2楽章の天国的なまでの美しさ!もうとても言葉にはできません。
「ピアノ協奏曲第27番」変ロ長調K595
ウイルヘルム・バックハウス独奏、ベーム指揮ウイーン・フィル(DECCA盤)
ベームはこの曲をグラモフォンに再録音しています。それは独奏はエミール・ギレリスです。ベーム/ウイーン・フィルの演奏だけで言えば互角の素晴らしさだと思います。しかしこの旧DECCA盤は1955年当時のウイーン・フィルのおそらく録音で聴くことのできる最も魅惑的な響きを味わえる時代のかけがえの無い演奏なのです。DECCAには他にも親父クライバーの「フィガロの結婚」とかの最高の録音が多く残されています。
ここでのバックハウスのピアノは正に彼岸の曲の彼岸の演奏です。宇野功芳先生が昔から「演奏を超越して直接曲自体と結ばれる、厳しいまでに純潔、純白な演奏だ」という風に推薦し続けている演奏ですが、全く異論が無いところです。(生意気ですが師に異論を感じることは度々あります)(^^)
思えば僕がモーツァルトに開眼したのはこの演奏でした。名曲喫茶で曲名も演奏者も分らずに耳にした瞬間に脳天に電気が走ったのです。慌ててカウンターに行ってみたらこのレコードでした。人間の直感というものはある時は全てを越えてしまうようです。
この録音は現在は先のブラームスのピアノ協奏曲第2番とカップリングになっています。2大名演が1枚のCDで聴けるとは何とも有りがたいことです。
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コメント
「クラリネット協奏曲」イ長調K622の名盤は、プリンツ+ベームに同感です。
ウラッハのは、やや甘すぎるケーキみたいです。
モーツァルトとブラームスの作品がカップリングになっていますが、小生はこの組み合わせはよくないと思う。
全く違う作風の二人が一枚というのも変だし、MOOZARTの後にブラームスを聴く気になんかなれない。
投稿: sam | 2008年11月 3日 (月) 22時48分
samさん、コメントありがとうございました。
おっしゃる通りウラッハの演奏はこの曲には少々甘ったるいですね。ロジンスキーの伴奏指揮もベームには遠く及ばないですし。
K595はブラームスの後に収められています。ですので私もこの曲を聴きたい時にはモーツァルト単独で聴くようにしています。
昔はK331のソナタがカップリングされていました。合わせて聴くならその方が良いですね。
投稿: ハルくん | 2008年11月 4日 (火) 06時09分
ハルくんさま おはようございます。
はじめまして。別の方のブログでブッシュに触れておられましたので、こちらを覗かせていただきました。身軽なのがezorisuの身上です。
モーツァルトのクラリネット協奏曲ですが、私にはご紹介のベーム盤がさっぱりダメです。プリンツの音は好きなのですが、とにもかくにもベームのテンポが何を聴いても合いません。フィガロは何種類を何回聴いてもまったく楽しくなりませんでした。好みの違いとご拝察ください。
甘ったるいと辛い?評価のウラッハですが、カラヤン盤の第2楽章はすばらしいと思います。録音はEMI国内盤が良かったのですが、オーパス蔵ではこもった感じが残念です。
ちなみにK595はハイドシェック/ヴァンデルノート盤をよく聴いています。また、ブッシュのお話しをさせてください。
投稿: ezorisu | 2008年11月 4日 (火) 09時03分
ezorisuさん、ようこそおいでいただきました。これからもお身軽にお越しください。(^^)
>ベームのテンポが何を聴いても合いません。
食べ物の嗜好と同じように人により異なって当然です。各人好みの違いがあればこそ芸術鑑賞は楽しくなります。そもそも自分自身の好みだって大いに変わりますしね。
実はウラッハのカラヤン盤は聴いていません。偉そうなことを言うのにこれではいけませんね。それとオーパス蔵盤は世評通りでなく感じることは有ります。私もワルター/ウイーンの未完成などは国内盤のほうが良いなぁ、と思いました。
私も若いころのハイドシェックは好きですよ。特にK488などは他の誰を聴いてみてもいまだに一番好きです。
ブッシュについては最近拙ブログで初めてブラームスのVnコンチェルトに触れましたが、どうしても触れなければならない演奏がまだまだたくさん有ります。ぜひゆっくりお話しましょう!
投稿: ハルくん | 2008年11月 4日 (火) 13時01分
モーツアルトの没後200年(1991年)のアニバーサリーの時にケッヘルナンバーをもとに、その作品のほとんどをコレクション出来たので、ほっと一息して暫くの間、大いに自己満足に浸ったものですが、ではその中で最も好きな3曲を撰んで下さいと言われたならばどの曲を挙げるか、非常に苦しい選択を強いられると思います。
でも貴兄が今日ここで上げられたK595とK622の2曲はいくら考えても外すことはできないだろうと思います。
バックハウスとプリンツは私にとっても欠くことの出来ない意中の演奏なので、別のレコードで好きなのを2・3枚この中に加えてみることにしましょう。K595ではハスキルとフリッチャイの1957年の録音盤の直截な表現には、心を浄化させる強い力が宿っていると言えるのではないでしょうか。
もう一枚はヘブラーとクリストフ・フォン・ドナーニ盤も好きなレコードです。Mr・Uno
もお好きな演奏だと理解しています。
K622ではプリンツの旧盤でカール・ミュンヒンガーとのウイーンフィルのレコードも静謐な魅力のある演奏でした。
この2曲はモーツアルトの白鳥の歌であり、静夜にそっと聴く音楽かも知れませんね。
部屋にはクレーの描く天使の絵でも飾って・・・この次にはK515など室内楽を教えてくださると嬉しいです。
投稿: ISCHL | 2008年11月 4日 (火) 15時44分
ISCHLさん、コメントありがとうございました。
モーツァルトの曲から3曲選ぶなんてことは実際不可能ですね。オペラだけでも3曲になってしまいますから。でも私もやはりK595とK622だけは外せないと思います。K488も捨てがたいですが。
私もハスキルのモーツァルトは昔から大好きですよ。最近は益々好きかなぁ。
バレンボイムの旧盤も好きです。時々ピアノがカタつきますがオケ伴奏はデリケートですし、ゆったりロマンティックなのも悪くないです。ハイドシェックならやはり若いときの旧盤のほうでしょうね。カーゾンも雰囲気はとても良いのですが、やはりピアノがカタつくのがどの盤でも気になります。ゼルキン/セルも結構良かった気がします。
プリンツは旧盤も美しいですが、ミュンヒンガーをベームを比べてしまうと貫禄負けという気がします。演奏のタイプが似ているぶん損ですね。ならばいっそもっと生命感のあるシフリン/シュワルツあたりを聴いてしまいます。
実は私はモーツァルトの室内楽はそれほどは好みません。ですので好きな曲も少し違うかもしれません。でもせっかくですから是非近いうちに。
パウル・クレー素適ですね。モーツァルトの室内楽にぴったりです!
投稿: ハルくん | 2008年11月 4日 (火) 23時12分
あえて1枚あげろと言われたら私もプリンツです。健康的で伸びやかな音色はこの曲にぴったりです。
ちなみにテンポが遅いのは、ベームの趣味ではなく独奏者の趣味でしょう。新しいところではライスターも悪くないですが、シュミードルの使っている楽譜には、私は校訂上の異論があります。ザビーネ・マイヤーのようにバセットクラリネットを使うのは、歴史的には正しいのかも知れないけれど、音色としては好みません。ただ現在のクラリネットより音域が低いので、アルペジォの転回の仕方が違う部分があって面白いとは感じますが・・・他にはハンス・ゴイザーも悪くないと思います。
投稿: かげっち | 2008年12月10日 (水) 12時53分
かげっちさん、こんにちは。
プリンツ盤のテンポの遅さについては、私はベームの指揮によるものと思っています。近い時期のK595も随分遅いですし、交響曲29番などは尋常でない遅さです。でも、だからこそこの曲の天国的な美しさを存分に味わえるのですね。このプリンツ/ベーム盤は私にとっては正に神聖な曲の神聖な演奏なのです。ですので実は他の演奏はほとんど聴くことが無いのです。
投稿: ハルくん | 2008年12月10日 (水) 22時05分
こんばんは。
先日1~4番で書かれていた下記。
>モーツァルトの音楽は綺麗だけれども、どうも聴きごたえが無いように思っていました。
何を聴いて思ったのか憶えてませんが、胎教に良いという話も加わってか、マッタク同感で、レクイエムや大ミサ以外スルーしてました。
でも、貴殿を覚醒させた27番だけでもと、ハスキル/フリッチャイ盤を。
サロンなイメージしかなかったモーツァルトの音楽に、これ程ほの暗さが在るとは...。伴奏がそっと寄り添う感じなので、ほぼピアノ曲にさえ感じましたけど。
カップリングの19番も聴いてみます。
投稿: source man | 2011年6月12日 (日) 23時58分
source manさん、こんばんは。
随分古い記事へのコメント、どうもありがとうございました。
ピアノ協奏曲27番とクラリネット協奏曲は、「自分の好きなクラシック名曲10曲」を選ぶとすれば、最終選考迄必ず残る(というよりも恐らく10曲の中に入る)大好きな曲です。是非ともじっくりお聴きになられてください。そしてできればバックハウス/ベーム盤とプリンツ/ベーム盤をお聴きになられることを強くお勧めします。
投稿: ハルくん | 2011年6月13日 (月) 00時33分
こんにちは。
>バックハウス/ベーム盤~を強くお勧めします。
ブラームスP協2番の件から、聴くなら西独盤!4ヶ月かかって入手。
フリッチャイ/ハスキル盤はピアノが前に出た録音なので、伴奏が寄り添う感じと以前書き込みましたが、コレが本来の27番なんですね。
ハスキルの暗さも捨て難いですが、バックハウス盤は曲としての音色や響きが心地良いです。
投稿: source man | 2011年10月14日 (金) 17時17分
source manさん、ハルくんさん、こんばんは~。
ん~、バックハウス/べーム盤ですか!実はこの演奏~以前FMで聞いたのですが、確かに立派な演奏ではあるけれど、何かモーツァルトの遊びごころと言うか~弾むような愉悦感に乏しい、とても堅い演奏に聞こえて、CDでは買いませんでした。
私としては~、グルダ、アンダ、ハイドシェックあたりが~理想の第27番を奏でているように思いますが、未だに聞いておりません。
投稿: kazuma | 2011年10月14日 (金) 23時32分
source manさん、こんにちは。
さすがはsource manさん、バックハウスは、やはり西ドイツ盤で入手されましたか。
ハスキル盤のほうは実は余り気に入らずに、手放してしまいました。録音が良ければ印象も違ったのかもしれません。
投稿: ハルくん | 2011年10月15日 (土) 00時42分
kazumaさん、こんにちは。
こちらのコメントに一緒にお返事させて頂きますね。
バックハウス/ベーム盤は、自分のモーツァルト開眼の演奏でもあり、この曲の持つ彼岸の雰囲気を一番感じるので好きなんですよ。
でも、白紙の状態で手持ちのディスクを改めて聴き直すというのが、この特集の目的ですので、もしかしたら印象が変わる可能性も無いとは言えません。第27番まで、もう少々お待ちください。
投稿: ハルくん | 2011年10月15日 (土) 00時51分
こんばんは。
ウラッハ/20bit盤は、鮮明な音が鋭過ぎて耳が疲れてしまうのです。再生装置との相性でしょうね。最初期盤は逆に年代相応の音で残念。20bit化する前にオリジナルテープでも発見されたのでしょうか。
改めて調べて、シフリン/Delos盤を入手。デジタル録音初期の音は評価が分かれるでしょうが、柔らかく聞こえるので大正解でした。
ベーム/プリンツ西独盤を気長に探してます。
投稿: source man | 2012年2月 1日 (水) 22時55分
source manさん、こんばんは。
僕はウラッハ盤は、それほど好まないのですが、シフリン盤は良いですね。好きです。
もちろんプリンツ/ベームが一番なのですが、そのうちこの曲も、あらためて記事にしたいなぁなんて思っています。
西独盤、見つかると良いですね。
投稿: ハルくん | 2012年2月 1日 (水) 23時16分
ハルくんさん、こんばんは。 モーツァルトの音楽については本当に色んな意見がありますね・・・。勉強になります。私個人の見解ですが、モーツァルトの音楽は 中期の作品(ピアノ協奏曲で言えば第23番、第24番)で完成したと思います。ですので 晩年の作品より評価する方が多くいらっるのではないでしょうか。ただ、私はモーツァルト自身は晩年の作品で次のステップにいこうとしているように思えるのです。
「究極のテクニックで表現する作品」から「究極のシンプルさで表現する作品」へ。それが どんなに難しい事か・・・。確かに晩年の作品は中期の それと比べて 完成度は低いかも知れませんが、 私にとっては かけがえのない音楽です。 カーゾンの 素晴らしい演奏で、第27番を聴いて 思いました。
投稿: ヨシツグカ | 2012年4月19日 (木) 19時52分
ヨシツグカさん、こんばんは。
まあ、モーツァルトに限らず、音楽、美術、あるいは食べ物に至るまで人の好みは千差万別ですよね。それで良いのですよ。みな「世界に一つだけの花」なのですから、自分の聴き方と他の人の聴き方が同じであるはずが無いです。
僕は23番、24番も大好きで非常に評価していますが、27番の素晴らしさも格別で、音符の数が少ないから完成度が低いと言うのは間違いだと思います。究極のシンプルさで表現する作品が どんなに難しい事か、我々はもっと気づかなくてはいけませんよね。
カーゾンの演奏も本当に素晴らしいですね。僕も大好きです。
投稿: ハルくん | 2012年4月19日 (木) 22時19分