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2008年11月16日 (日)

ブラームスの室内楽 ホルン三重奏曲変ホ長調op.40 名盤

ブラームスの室内楽に、管楽器を伴う作品は多くはありません。けれども大傑作であるクラリネット五重奏曲の他にも、とても魅力的な作品が有ります。それは「ホルン三重奏曲 変ホ長調Op.40」です。この曲は、まず外すことは出来ません。

曲全体は、4楽章構成で、第1、第3楽章がゆったりとした緩徐楽章で、第2、第4楽章は生き生きとした楽章と、変化とバランスに富んでいます。4楽章は馬に乗って狩りをするような躍動感と楽しみがあり、ホルンは狩りのラッパを想わせるように爽快に鳴り響いて楽しさの極みです。

ブラームス・ファンには昔から人気の高い曲だと思いますが、僕もLP時代から大好きで、よく聴いていました。そこで愛聴盤のいくつかをご紹介させて頂きたいと思う。

Cci00034 アドルフ・ブッシュ(Vn)、オーブレイ・ブレイン(Hr)、ルドルフ・ゼルキン(Pf)(1933年/EMI盤) だいぶ古い録音です。ブッシュは大好きですが、この録音にはさすがに古めかしさを感じます。いくらレトロな感じが良いとはいってもこれを普段しばしば聴いて楽しむことはありません。けれどもゼルキンのピアノは素晴らしいです。彼は若い頃からとても優れたピアニストであり、大ブッシュからどれほど信頼されていたかが良く分かろうかというものです。言い遅れましたが、ホルンを吹いているのは、有名なデニス・ブレインのお父さんです。(補足:その後に入手した英Testamentの復刻盤がかなり状態が良く、演奏を充分に楽しめます。併録のクラリネット五重奏曲はEMI盤のほうが音が良いですが、ホルン・トリオを聴くならばTestament盤で聴くべきです。)

406 ワルター・バリリ(Vn)、フランツ・コッホ(Hr)、フランツ・ホレチェック(Pf)(1952年/Westminster盤) これも懐かしいウエストミンスターの室内楽録音の中の一つです。とてもゆったりとしたウイーンの古きよき時代の雰囲気に満ち溢れていて素適です。ブッシュ達の演奏ほどには古めかしさを感じません。バリリのヴァイオリンは甘く柔らかく歌い、コッホのホルンもウィーン風の柔らかい音で素晴らしいです。ホレチェックのピアノも堅実で良いのですが、これがイエルク・デームスならば、更に良かったのではと思わないこともありませんが。モノラル録音ですが明瞭で聴き易いです。

672 ヨゼフ・シゲティ(Vn)、ジョン・バローズ(Hr)、ミエツィスラフ・ホルショフスキー(Pf)(1961年/フィリップス盤) これは僕が最初にLPを買って良く聴いた演奏です。CD化されて音が明瞭になったので益々好きになりました。晩年のシゲティは本当に素晴らしいです。音のひとつひとつに込められた意味の深さが、他のヴァイオリニストとは次元が違うからです。但し、まるで禅の修業をしているかのような厳しい音は、普段流麗な演奏に慣れた耳であればあるほど受け入れ難いでしょう。しかし音楽愛好家がこの演奏を表面的な技術や音色の点で、もしも敬遠するとしたら、大変な損失だと思います。ホルンのバローズはイギリス人ですが、味が有り上手いです。ホルショフスキーもよく知られた名ピアニストです。このCDのカップリングは、既記事に書いた素晴らしいヴァイオリン協奏曲です。

Br51jhwpl6xnl_ac_ ヨゼフ・スーク(Vn)、ズデ二ェク・ティルシャル(Hr)、ヤン・パネンカ(Pf)(1976年録音/スプラフォン盤) 何と言ってもチェコ・フィルの首席ホルン奏者だったティルシャルが素晴らしいです。オーケストラの場合は時に過剰と思えるヴィブラートがここでは表情豊かに歌わせるのに適しています。スークも地味ですが、持ち前の端正で美しい音で好感が持てます。パネンカも同様です。全体的にはブラームスの濃密な演奏スタイルでは有りませんが、第3楽章の翳りの深さ、終楽章の楽しさは非常に魅力的です。ティルシャルのホルンは正に狩りのラッパの雰囲気で最高です。何度聴いても楽しむことが出来ます。ブラームスの3曲のピアノトリオのCDに含まれているのも有難いです。

Mi0000991668_20210514120501 ヨゼフ・スーク(Vn)、ペーター・ダム(Hr)、ヴェルナー・ゲニュート(Pf)(1982年録音/ARTS盤) シュターツカぺレ・ドレスデンの歴代のホルンの名手と言えば、やはりダムです。今でも根強いファンが多いです。ダムでこの曲を聴けるのは嬉しいです。それにヴァイオリンをスークが弾くとあればマニア唾液の録音となります。それにしてもダムのホルンの音色の何と柔らかいことでしょうか。正にいぶし銀の美しさです。ここでもスークが美しく端正な演奏で合わせていて相性はピッタリです。嬉しいことにピアノのゲニュートも無名ながら素晴らしいです。全体はロマンティックに弾き崩すことなく、造形のしっかりとした演奏ですが、これこそは真正、旧東ドイツ的スタイルだと言えるでしょう。

901981_g イザベル・ファウスト(Vn)、トゥーニス・ファン・デア・ズヴァールト(Hr)、アレクサンドル・メルニコフ(Pf)(2007年/ハルモニアムンディ盤) 新しい録音盤ですが、とても気に入っています。この演奏はピリオド楽器使用で、ヴァイオリンはガット弦、ホルンは19世紀製のナチュラルホルン、ピアノは19世紀製のベーゼンドルファーだそうです。元々ブラームスはこの曲をナチュラルホルンで演奏することを前提に書いていますが、この演奏を聴くと納得させられます。第2、第4楽章などを聴いていると、まるで狩の風景を目の当たりにしているようです。ファウストは、若手の女流ヴァイオリニストですが、パガニーニコンクールで優勝する位に腕は確かです。室内楽にも積極的で好感が持てます。ピアノのメルニコフも非常にこだわりのある人で、自ら19世紀製のピアノをさ捜し歩いたそうです。フォルテピアノに近い古雅な音です。ホルンのズヴァールトはフライブルク・バロックオケの首席奏者で上手です。肝心の演奏も学究的な退屈さとはかけ離れて、楽しさに満ち溢れて魅力的です。特に第3楽章の虚無感と寂寥感、第4楽章の躍動感など、かつて聴いたことの無いほどの驚きを覚えます。

さて、個性的で魅力的な演奏ばかりですが、バリリ/コッホ/ホレチェック盤、スーク/ティルシャル/パネンカ盤の味わい深さと楽しさが両立した名演が特にお気に入りです。

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コメント

もう初冬というべきか、今日は冷たい雨の一日でした。
さてホルン三重奏曲とくれば、デニス・ブレーン、本当に素晴らしい演奏だと常々思ってはいるのですが、仰るとおりSP時代の録音ですから現代の耳で聞くにはまことに掻靴掻痒ですね。そんなわけで、私が普段聴いている盤は、ゲルト・ザイフェルトのホルン、エドゥアルト・ドロルツのヴァイオリン、クリストフ・エッシェンバッハのピアノによる演奏です。好みと言うものは得てして親鳥と雛の関係に譬えられ、なかなか他の演奏を否定的に捉えてしまい勝ちなものですが、貴兄はその弊に片寄らず、実に豊富に聴いておられるので感心しています。チョイスされている演奏が同じだと、とても嬉しく感じます。
イザベル・ファーストは今月3日に定期で、ベルクの協奏曲を聴いたばかりです。05年の11月にもシマノフスキーの協奏曲(第一番)を弾いています。彼女の使用楽器は1704年製のストラディヴァリウス(スリーピング・ビューティ)楽団員から再共演を求められる才媛で毎回素晴らしい演奏を聴かせて貰っています。次回は何時になるのでしょうね。楽しみに待っています。

投稿: ISCIL | 2008年11月17日 (月) 01時30分

上記のコメントに思わぬ勘違いがありましたので訂正します。思い込みって怖いですね。3年前のイザベル・ファーストの演奏曲目でシマノフスキーを聴きましたと記しましたが、当夜はハルトマンの協奏曲を聴かせて貰ったのです。確認を怠り済みませんでした。申し訳のついでと言っては可笑しいですが、おまけを一つ(笑)3日のベルクの夜のアンコール曲はバッハの無伴奏パルテイータ第2番より、「サラバンド」でした。
最近の演奏家も時代の趨勢に合わせて、モダンとピリオド、それぞれ奏法も違っていますので、そのための研鑽が大変だろうなとつくづく思います。ハルモニアムンディー盤、そのうちぜひ聴いてみたいと思います。

投稿: ISCIL | 2008年11月17日 (月) 10時23分

ISCILさん、こんにちは。いつもご丁寧なコメントを本当に有り難うございます。

ザイフェルト、ドロルツにエッシェンバッハですか。その演奏は知りませんでした。メンバーからして非常に良さそうですね。機会有れば是非聴いて見たいものです。

ハルモニアムンディ盤には組み合わせにヴァイオリンソナタの1番が入っています。やはりガット弦で弾いていますが、それもとても気に入っています。

それと彼女が今月来日したことは知っています。残念ながら聴きに行けませんでした。私が彼女を最初に聴いたのはシューマンのヴァイオリンソナタ集のCDです。これらの曲は大好きなのですが、音楽に秘める狂気を表現し尽している点でギドン・クレーメル盤にも勝ると思います。久しぶりに素晴らしいヴァイオリニストに出会った気がします。
彼女は来年の6月に浜離宮でバッハの無伴奏、12月には都響の定期でシューマンの協奏曲を弾くことが決まっているようです。それには必ず聴きに行こうと思っています。

投稿: ハルくん | 2008年11月17日 (月) 21時46分

イザベル・ファウスト盤についてです。
私の求めるホルン三重奏曲は、しっとりと柔らかくです。
その点ファウスト盤はメリハリが効いて元気なので、私の好みに合いませんでした。演奏としてはかなりレベルが高いと感じますが、好きになれませんでした。
再販の2016年盤を買ったのですが、紙ジャケット仕様でCDを傷つけるタイプでした。この点もマイナス評価です。2008年盤は紙ジャケットではないのでしょうか?

私が好きなのは、ボロディントリオ(Chandos)盤です。しっとりと柔らかい演奏・録音で心地が良いです。

ハルくん様が好きと書いているCDに対し、私の好みじゃないと書き込むのはどうか?と悩みました。もし嫌な気分になられるようなら私の書き込みを削除してください。

投稿: 藤沢市民 | 2017年6月12日 (月) 23時20分

藤沢市民さん、こんばんは。

好みではないものを好みでないと書かれるのは全く構いませんよ。もちろん無礼な口調で書かれるような非常識なものでは困りますが、相手に敬意を払いつつも自分の感想はこうだと書くのには大賛成です。でなければ面白くないですよね。

ボロディン・トリオ盤がありましたか。彼らは素晴らしいトリオですね。
さて、ファウスト盤はしばらく聴いていませんが、最近自分が聴いた中ではペーター・ダムのホルン、ヨゼフ・スークのヴァイオリンたちの演奏が気に入りました。

投稿: ハルくん | 2017年6月13日 (火) 00時02分

ハルくん様
愚生が持つディスクは、パールマン&アシュケナージ&タックウェルのDecca・CD414128-2と、ブッシュ&ゼルキン&A・ブレインのEMI・LP2909671です。
通常的に取り出すのは、やはり前者ですね。演奏の性質も妙に大家風をてらわない、構えた所の皆無な伸びやかな奏きっぷりな為でしょうか。
後者も超一流の演奏家のみがスタジオに入る事を許された時代を偲ぶ、有り難いレコードです。それと以前貴ブログのベートーヴェンのop.130の項で、渡米後のCBS録音が市場で冷遇気味なのを、ぼやいておりましたように戦前の器楽奏者では近しい人ですので、やはり手元に在って欲しいディスクの一枚です。
時おりポルタメント奏法もかいま見えて、おやっとも感じますが感情の抑制もきかせる事を忘れず、様式の美しさが崩れていないのは流石です。

投稿: リゴレットさん | 2018年4月18日 (水) 15時11分

リゴレットさん

パールマンとアシュケナージのブラームスはヴァイオリンソナタ集を聴いて中々に気に入りました。パールマンの豊饒な歌い回しのブラームスもまた良いものですね。
ですのでホルントリオもきっと良いと思います。機会あれば聴いてみたいと思っていますよ。

投稿: ハルくん | 2018年4月19日 (木) 12時46分

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ブラームスは、シューベルト、シューマン、フランク、ドヴォルザーク、ショスタコーヴィチと同様、ピアノと4挺の弦楽器からなる「ピアノ五重奏曲」を1曲だけ作曲しています。ブラームス31歳の時に完成された作品34ですが、名作揃いのブラームスの室内楽の中でも特に名作の1つといえるのではないでしょうか。 一般に室内楽の作品は、作曲家が後年になって作曲したものほどすぐれた作品が多いように思われますが(ベートーヴェンが典型例ですが、モーツァルト・シューベルトなどにも同様のことが言えると思います)、ブラー...... [続きを読む]

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