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2008年11月

2008年11月28日 (金)

モーツァルト 「レクイエム」ニ短調K.626 名盤 

Mozart4_2
一週間後の12月5日はウォルフガング・アマデウス・モーツァルトの命日です。それにしても、天才モーツァルトの残した多くの作品ほど世界中で演奏されている音楽は無いでしょうね。なんでも彼の作品に、もしも著作権が残っていたとしたら、それだけで小さな国がひとつ買えてしまうのだとか。小室哲哉氏が聞いたらなんと羨ましく思うことでしょうか。(^^)

僕はこれまでモーツァルトの命日に「レクイエム」をことさら厳かに聴いてきたというわけではありませんが、今後自分に残された人生で、彼の命日にこの曲を聴いてみるというのも悪くないかな、という気がしてきました。

僕のかつての職場の上役に、熱烈なモーツァルト・ファンが居ました。その人は病気の為に定年の前に亡くなってしまったのですが、生前に「自分の葬儀にはレクイエムを流して”モーツァルト葬”にしてほしい」と言っていたそうです。ですので、残された奥様は本人の希望の通りにしました。ご主人はきっと喜んだことでしょう。でも、僕の葬儀の時には何でも構わないので、生きているうちにせいぜいこの曲を聴いておきたいと思います。

モーツァルトの「レクイエム」には、現在では様々な版が存在しています。但し、僕は正直言って、版の違いには余りこだわりません。理由として、結局のところはどれをとってもモーツァルト本人の完成作品では無いからです。もちろん、ジュースマイア版にケチをつけるのは学者やファンの自由ですが、モーツァルトが死の床に在り、作品の完成を託した人物の偉業(とあえて言いたいです。彼が補作を諦めていたら、これほど演奏されるようにはなり得なかったからです。)は、到底無視できるはずはありません。ましてや、あの「ラクリモーサ(涙の日」を更に補作するなどというのは余計なことではないでしょうか。モーツァルト自身がジュースマイアに「この曲はこのまま手をつけなくて良い」と指示した可能性も充分考えられると思います。

演奏も最近では古楽器による演奏が増えましたが、現代楽器と古楽器には、それぞれの良さが有ると思いますし、余り決めつけをしたくはありません。

数多くあるこの曲のCDを、それほど沢山聴いたわけではありませんが、心に残る演奏は幾つも有りますし、最近でも非常に素晴らしいものを知りましたので、是非ここでご紹介させて頂きたいと思います。

Cci00035 オイゲン・ヨッフム指揮ウイーン交響楽団(1955年/グラモフォン盤) これは記念碑的な演奏です。生誕200年の年にモーツァルトゆかりのウイーン・ステファン大聖堂において彼の命日に行われたミサがそのまま収録されています。当然、会場の雰囲気には厳かでただならぬものが有りますし、演奏も非常に感動的です。ただ、ミサという割には独唱(特にソプラノのゼーフリート)がオペラティックな歌い方なのが気になります。我慢して聴いていれば徐々に気にはならなくなりますし、当時のスタイルとしては仕方が無いところでしょうか。録音も当時のライブとしては良好だと言えます。

953 ブルーノ・ワルター指揮ウイーン・フィル(1956年/オルフェオ盤) ワルターの「モツレク」には数種類の録音が有り、ニューヨーク・フィルとのCBS盤や、ウイーン・フィルとのものでは先にリリースされた同じ年の演奏がSONYから出ていますが、僕はこのオルフェオ盤を一番好んでいます。オケ、合唱、独唱ともに比較的欠点が少ないですし、演奏の感動が最も伝わってくるように思います。但し、やはりアルトがオペラティックな歌い方で少々古さを感じてしまいます。録音は並みというレベルです。

Cci00037 カール・シューリヒト指揮ウイーン・フィル(1962年/Tresor盤) これもステファン大聖堂で行われたライブです。ワルターが登場すればシューリヒトを出さない訳には行きません。モーツァルトの演奏にかけてはこの二人は特別な存在だからです。演奏スタイルはロマンティックですが、ヨッフムやワルターのように粘り気はありません。ずっと爽やかな印象です。この辺りはシューリヒトならではというところです。聴くたびに魅力が増してくる不思議な演奏だと言えます。独唱の歌い方が古めかしいのはこの時代では仕方ありません。

Cci00038 カール・リヒター指揮ミュンヘン・バッハ合唱団(1961年/テルデック盤) リヒターは「マタイ受難曲」や「ロ短調ミサ」のように遅いテンポでのロマンティックな演奏も有りますし、逆にあの時代にしては早めのテンポできりりと引き締まった演奏も有りますが、これは後者のスタイルです。正に襟を正して聴きたくなるような厳かな演奏です。合唱の彫りの深さと仰ぎ見るような立体感は流石リヒターだと思います。現在でも余り古さを感じさせない名演奏だと僕は思っています。

713 カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1971年/グラモフォン盤) 僕が初めて買った「モツレク」のレコード(LP盤)でした。当時はもちろん最新盤でしたが、時の過ぎるのは早いもので、最近ではすっかり古楽演奏派に押されてしまい、「もはや古いスタイル」と言われています。ですが、古くて何がいけないのでしょう。これほど感動的な演奏を前にして、演奏スタイルがどうのこうのと言う方がおかしいと思います。確かにテンポは相当に遅いですが、その分スケールの大きい非常に立派な演奏であり、時代を超えた普遍性を感じます。決して古臭いとは思いません。ベームのこの余りに美しく悲しい「涙の日」を聴く時には、僕はとても平常心では居られなくなるのです。

Cci00023 ハンス・ギレスベルガー指揮ウイーン宮廷音楽教会管弦楽団&合唱団(1979年/タワーレコード盤) この指揮者の名前をご存知でしょうか?ウイーンの合唱界では有名な人です。一見聞いたことも無いような団体ですが、ウイーン・フィルの団員と国立歌劇場合唱団が特別参加しています。この演奏は、オーストリアの名門SEONレーベルがウイーンの音楽界の総力を挙げて録音に臨んだものなのです。最初の「キリエ」からして厳粛な雰囲気が違いますし、合唱には非常に厚みが有ります。どんどん立体的に重なり合ってくる様は正に圧巻です。そして何より素晴らしいのは、いかにも大聖堂で教会合唱団を聴いているような厳かで敬虔な響きであることです。ソプラノとアルトはウイーン少年合唱団。しかもソロパートまでを少年が歌っているのですが、これが信じられないほど上手いのです。この純粋無垢な歌声を聴いてしまったら、大人の歌手には”あざとさ”が感じられてしまい、とても聞けなくなるほどです。オーケストラの管楽パートも滅法上手いのですが、実はトップ奏者は皆ウイーン・フィルの団員なのです。これは当たり前ですね。この演奏がぬるま湯の教会的演奏などと思ったら大違いです。「怒りの日」などの切れ味と緊迫感は凄いです。この時代にこれほど正統的かつ新鮮な演奏をしていたギレスベルガーには本当に驚きます。この演奏はペンギン・ガイドでも推薦されていましたので、世界では高い評価を受けていた何よりの証明です。嬉しいことに、このCDには「戴冠式ミサ」も収められています。「レクイエム」の名演と比べると劣りますが、それでもフィリップスの同じウイーンのクリスチャン・ハラー盤よりも上だと思います。録音も優秀ですし、タワーレコードの廉価盤として出ているので太鼓判のお薦めです。

Mozart_sacredmusic ニクラス・アーノンクール指揮ウイーン・コンツェントゥス・ムジクス(1981年録音/テルデック盤) モーツァルトで古楽器演奏は取り立てて好きということはありません。但し、かつての巨匠指揮者達による演奏はロマンティックに過ぎて大時代的感じることも事実です。アーノンクールはこの曲をAシェーンベルク合唱団と再録音しましたが、僕が持っているのはテルデックに残した宗教曲全集への旧盤です。この曲での合唱はウイーン国立歌劇場です。演奏はかつてのアーノンクール調で、切り裂くようなスタッカートや極端なダイナミクスの変化が刺激的です。好きでは有りませんが、確かに新鮮です。

Cci00036 ペーター・ノイマン指揮ケルン室内合唱団(1990年/ヴァージン盤) これも古楽器による演奏です。ペーター・ノイマンは宗教合唱曲のスペシャリストであるだけにやはり素晴らしいです。前述のギレスベルガーやこのノイマンの演奏を聴いていると、所謂「巨匠指揮者」の演奏がどんなに感動的であっても、宗教曲の場合にはその専門家と合唱団が歌う方がやはり本物のように思えてきます。同じ古楽器派でもアーノンクールと比べると、ずっと表現が自然で抵抗感も無く、虚飾を排した端正で引き締まった演奏です。透明感のある合唱や独唱の美しさも印象的です。

というわけで、魅力ある演奏は幾つも有りますが、ハンス・ギレスベルガー盤こそは隠れたる超名演であり、現在の僕の一番の愛聴盤です。廃盤になってしまわないうちに是非お聴きになられてください。

<補足>ギレスベルガー盤は既に廃盤になりましたが、Amazonの日本、イギリス、アメリカで「Hans Gillesberger Requiem」で検索を掛けるとRCA盤が比較的安価で見つかると思います。ご参考までに。

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2008年11月24日 (月)

ブラームスの室内楽 ピアノ四重奏曲集 名盤

ブラームスの書いた、ピアノを伴う室内楽曲は全て名作と言えます。と言うよりは、元々完璧主義者の彼の作品には、そうでは無い曲などは、およそ存在しないのです。ともかくピアノ五重奏曲の次は、ピアノ四重奏曲に行きましょう。ブラームスはこのジャンルでは3曲を残しています。

ピアノ四重奏曲第1番 ト短調Op.25 

 若々しい曲想に満ちていて(もっともブラームスにしてはですが)、とても親しみ易い名作だと思います。そのために最も演奏される機会が多いです。短調のわりには余り暗過ぎることもなく、終楽章などは実に情熱的です。第三楽章の中間部に突然、行進曲が出てくるのもユニークです。ちなみにこの第1番には有名なシェーンベルクが編曲した管弦楽版も有りますが、その行進曲部分の大迫力には思わずのけ反ってしまいます。
(管弦楽版の記事へのリンクは下記<後日記事>参照)

ピアノ四重奏曲第2番 イ長調Op.26

 第1番とほぼ同時進行で書かれましたが、第2番のほうが曲想はやや明るめですし、終楽章が非常に情熱的です。けれども随所に哀愁漂う旋律がちりばめられていますし、第2楽章などは完全にエレジーです。この辺りはやっぱりブラームスです。

ピアノ四重奏曲第3番 ハ短調Op.60

 さすがにこの頃の作品になると、音楽が円熟して実に素晴らしいです。曲の進行には少しも無駄が無く、飽きることが有りません。不安げな曲想の第二楽章スケルツォ、歌謡調で美しい第三楽章アンダンテ、暗い情熱に溢れる終楽章アレグロコモードと、いずれも大変に魅力的です。

僕は第1番と第3番に特に惹かれますが、やはり3曲まとめて聴きたいものです。そこで3曲まとめたCDをということなりますが、これが意外に少ないのです。ここでは僕の愛聴盤を二つご紹介させて頂きます。

415 イエルク・デームス(Pf)/バリリ弦楽四重奏団員(1956年録音/ウエストミンスター盤) オールドファンなら誰でも知っている、長年名盤の王座に君臨してきたバリリSQ盤です。モノラル末期の録音ですので音質は良好です。表現はどこまでも無理がなく自然です。若きデームスのピアノもとても味わいが深いです。それに何よりも、現在では失われてしまった古き良きウイーンの情緒をバリリSQの名演奏でたっぷりと味わえるのがかけがえありません。正にこれは永遠の名盤と言えるでしょう。

880 デレク・ハン(Pf)/イザベル・ファウスト(Vn)/ブルーノ・ジュランナ(Va)/アラン・ミュニエール(Vc)(1996年録音/ブリリアント盤) 実は僕はずっとバリリSQの一本道だったのでしたが、最近この素晴らしい演奏を知りました。ヴァイオリンのイザベル・ファウストについてはホルントリオの記事でご紹介しましたが、この演奏は10年前のデビュー直後にこの録音されました。メンバーが凄いのです。弦に詳しい方ならヴィオラのブルーノ・ジュランナはご存知でしょう。昔はウィリアム・プリムローズがヴィオラの神様でしたが、その神様の後継者と言えばこの人でした。ピアノのデレク・ハンのことは知りませんでしたが、ゼルキンにマールボロ音楽祭に招かれた程のピアニストだそうです。どうりで実力は確かなはずです。チェロのミュニエールについてだけが良く分かりませんがやはり上手いです。若手実力ヴァイオリニストをベテラン勢が脇をしっかり固めただけあって演奏は非常に素晴らしいです。よく若手の演奏家が集まったときに感じるような、現代的過ぎて味気無いような演奏とは全く異なります。ベテラン勢とファウストのヴァイオリンとのバランスが絶妙なのです。このCDはブリリアントの「ブラームス室内楽全集」にも入っていますが、単売でも出ています。この名演奏が廉価盤で買えるなんて何と幸せなことでしょうか。

人気のある「第1番」は単独でも幾つか愛聴盤が有りますので、触れてみたいと思います。

Busch_brahms_piano_quart1古い録音ですが、ゼルキン/ブッシュ弦楽四重奏団員(1949年録音/EMI)の演奏が有ります。これは完全に後期ロマン派寄りのスタイルです。ブラームスの音楽の古典的な造形面には欠けますが、深い情緒の表出と熱いロマンのほとばしりはいかばかりでしょう。若きルドルフ・ゼルキンのピアノも見事です。特に終楽章の情熱と高揚ぶりは凄いです。最晩年の演奏ですので彼らの録音にしては音質もしっかりしています。

474 昔から人気の高いギレリス/アマデウスSQ盤(グラモフォン)も有ります。評論家もよく推薦していますが、僕は正直好みません。アマデウスSQのいつもながらのオーバーな表現には今更驚きませんが、ギレリスがどうもいただけないのです。力み過ぎてしまって音に余裕が無いばかりか、終楽章の16分音符などでは走って前のめりに転んでいて、とても聴いていられません。この時ギレリスは人気カルテットとグラモフォン録音のチャンスを得たことで、余りに張り切り過ぎてしまったのではないでしょうか?

903 そして天下の爆演、アルゲリッチ/クレーメル/バシュメット/マイスキー盤(グラモフォン)です。凄いメンバーの凄い演奏です。面白いことは間違いないです。でも果たしてこれが良い演奏かというと?です。彼らは曲の良さを表現しようというよりも、いかに自分達の腕前を披露してやろうかという態度にしか思えません。曲の節々のいじらしいメロディに少しも共感を感じませんし、終楽章の快速弾き飛ばしぶりは何!? 昔、ワルター・バリリが「16分音符は一つ一つの音がはっきりと聞こえるように正確に弾かなければならない」とどこかで話していましたが、これは全然逆の演奏です。バリリ教授が怒るでしょうね。僕はこの演奏を全然好みませんが、ブラームスが苦手な人には、逆に受けることでしょう。

「第2番」にも古い録音ですが愛聴盤が有ります。

Brahcci00029 ゼルキン/ブッシュ弦楽四重奏団員(1932年録音/EMI) さすがに第二次大戦前の録音ですので、もちろん音質は貧弱です。演奏スタイルもポルタメントを多用した非常に古い奏法です。けれども、それが逆に何とも言えぬ懐かしさを感じさせてくれます。深い浪漫の香りがムンムンと漂って来ます。3楽章の暗い暗い情熱もとても素晴らしく、こういう音楽を弾かせると正にアドルフ・ブッシュのヴァイオリンの独壇場です。

さて皆さんの愛聴盤はいかがなものでしょうか?

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2008年11月22日 (土)

ブラームスの室内楽 ピアノ五重奏曲ヘ短調op.34 名盤

ブラームスは少年時代、北ドイツの港町ハンブルクで生まれ育ちました。幼少から父親に音楽を習いますが、ピアノ演奏にかけては天才的でした。けれども余り裕福でない家の家計を助ける為に、子供ながらにレストランや酒場でピアノを弾いて稼いだのです。その心境の程は計り知れるところではありませんが、彼は生まれながらのピアニストだったことは確かです。しかるにブラームスの室内楽作品のうちでピアノを伴う曲目は最も重要ですし、実際に作品数も多いのです。

その中でまず1曲を挙げるとしたら、僕は迷わず「ピアノ五重奏曲ヘ短調 Op.34」を挙げます。この曲は正に「クラリネット五重奏曲」と双璧の傑作だからです。ブラームスがまだ30歳という青年期の作品なので情熱と生命力に溢れていて、ピアノと弦楽は始終寄り添うというよりも、まるで協奏曲のようにお互いがぶつかり合いますが、その緊迫感と迫力には思わず手に汗を握ってしまいます。それでいて、いかにもブラームスらしい優しさや哀愁の気分が至るところに漂っているのがファンにとってはたまらない魅力です。

Cci00029 ルドルフ・ゼルキン(Pf)、ブッシュSQ(1938年/EMI盤) この曲の名盤といえば古いところではゼルキンとブッシュSQのSP録音が有ります。アドルフ・ブッシュは戦前のドイツ・ロマン派のヴァイオリンの伝統を継承する最後の生き残りです。この演奏は力強さは有りますが、非常に情緒的でほの暗い浪漫の香りが一杯に漂っています。ですので第2楽章などは最高です。ブラームスファンであれば一度は聴いておくべき演奏だと思います。但し、この曲は非常に立体的な作品なので、できればステレオ録音で聴きたいところです。

409 イエルク・デームス(Pf)、ウイーンコンツェルトハウスSQ(1952年/ウエストミンスター盤) 昔懐かしいウエストミンスターレーベルのモノラル録音です。なんといってもアントン・カンパー率いるコンツエルトハウスQとウイーンの名ピアニスト、デームスがウイーン情緒一杯の演奏で曲を堪能させてくれます。但しコンツエルトハウスQには日本に来日した時のステレオ録音盤が有り、立体的なこの曲の場合にはモノラル盤はどうしてもハンディです。ピアノの魅力では、こちらのデームスが上なのですが、全体としてはやはりステレオ盤を取りたいところです。

Cci00035 パウル・バドゥラ=スコダ(Pf)、ウイーンコンツェルトハウスSQ(1960年/オーマガトキ盤) ウイーンコンツェルトハウスというとウエストミンスター盤が有名ですが、これはそれとは別のステレオ盤で、彼らが来日した時にNHKのスタジオで録音されたものです。彼らは日本でこの他にも日本コロンビアに数曲のステレオ録音を残しているのですが、今では話題に上がることすら有りません。いずれもすこぶる名演なのに実に残念です。さて、この演奏の難点はバドゥラ=スコダのピアノが柔らかすぎて迫力に欠けることです。ウエストミンスター盤ではデームスでした。ピアノだけならデームスが上なのですが、この60年盤はコンツェルトハウスSQが非常に良く、立体的に歌いきっていて実に素晴らしいです。これは恐らく第2Vnに若き名手ワルター・ウェラーが入ったことが大きいと思います。第1Vnのアントン・カンパーとの強力2トップでウイーンの弦の魅力をこれ以上無いほどとことん味合わせてくれるのです。

Cci00033 ルドルフ・ゼルキン(Pf)、ブダペストSQ(1963年/CBS SONY盤) この演奏は若いときからブッシュSQとの競演でさんざん鍛えられた豪腕ピアニストのゼルキンと、世紀の豪傑カルテット、ブダペストとが繰り広げる、正に真剣勝負の一騎打ちです。その精神の厳しさと音楽の深さは比類が無く、最初から最後まで演奏に惹きつけられっぱなしになります。第3楽章の緊迫感も唖然とするほどで、初めてこれを聴く人はきっと腰が抜けるでしょうから注意して頂きたいです(^^)。この歴史的名盤は全ての人に聴いて頂きたいですし、個人的にも最も好んでいる演奏です。

31409651 クリストフ・エッシェンバッハ(Pf)、アマデウスSQ(1968年/グラモフォン盤) この録音はアマデウスSQの録音の中ではそれほど目立たない気がします。しかし第1ヴァイオリンのブレイニンの表情たっぷりの演奏は健在ですし、他のメンバーも同様です。「おいおいもう少し肩の力抜けよ~」と言ってやりたいくらいです(苦笑)。若き日のエッシェンバッハも悪くはないですが、ゼルキンと比べるとどうしても格の違いを感じてしまいます。

Brahms_piano_quintetペーター・レーゼル(Pf)、ブラームス弦楽四重奏団(1972年録音/シャルプラッテン盤) レーゼルは若くしてブラームスのピアノ曲全集に挑んだ強者で、この演奏もその当時の録音です。四重奏団についてはベルリン歌劇場のメンバーから成ります。要するに旧東ドイツの演奏家達ですので、ウイーン流の演奏よりもずっと厳格さが感じられます。このカッチリとした形式感はブラームスには魅力となります。それでいて第1ヴァイオリンを弾くハインツ・シュンクは要所で軽いポルタメントを交えたりして古き良き味わいを感じさせてくれます。凄みは有りませんが落ち着いて聴ける良さが有ります。

Hcd11596デジュ・ラーンキ(Pf)、バルトーク四重奏団(1973年録音/フンガトロン盤) オール・ハンガリアンのメンバーによる演奏ですが、元々ブラームスにはハンガリーの音楽の要素を持っているので、雰囲気がとても良く似合います。かと言って情緒に溺れて崩れているというわけではありません。逆に構築感と若々しい生命力やリリシズムがとても素晴らしいです。バルトークSQは優秀ですし、若きラーンキのピアノも優れています。この曲の作曲をした当時のブラームスの年齢の等身大の演奏だという気がします。

393 マウリツィオ・ポリーニ(Pf)、イタリアSQ(1980年/グラモフォン盤) この演奏は一般的には一番人気が高いのではないでしょうか。オール・イタリアンの実に流麗で爽やかな演奏なので聴いていてとても楽しいです。ですがそれは脳天気な明るさとは無縁です。ブラームスにしてはやはり渋みが少々足りないかもしれませんが、そこはこの曲の持つポテンシャルの広さということで素直にこの名演奏を楽しみたいものです。 

それにしても、この曲は何回聴いても飽きないです。つくづくブラームジアーナーで良かったと思っています。どうですか、あなたも僕と同じ穴のムジナになりませんか?(^^)

<補足>ペーター・レーゼル&ブラームスSQ盤を追記しました。

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2008年11月16日 (日)

ブラームスの室内楽 ホルン三重奏曲変ホ長調op.40 名盤

ブラームスの室内楽に、管楽器を伴う作品は多くはありません。けれども大傑作であるクラリネット五重奏曲の他にも、とても魅力的な作品が有ります。それは「ホルン三重奏曲 変ホ長調Op.40」です。この曲は、まず外すことは出来ません。

曲全体は、4楽章構成で、第1、第3楽章がゆったりとした緩徐楽章で、第2、第4楽章は闊達な生き生きとした楽章と、変化とバランスに富んでいます。ブラームス・ファンには昔から人気の高い曲だと思いますが、僕もLP時代から大好きで、よく聴いていました。そこで愛聴盤のいくつかをご紹介させて頂きたいと思う。

Cci00034 アドルフ・ブッシュ(Vn)、オーブレイ・ブレイン(Hr)、ルドルフ・ゼルキン(Pf)(1933年/EMI盤) だいぶ古い録音です。ブッシュは大好きですが、この録音にはさすがに古めかしさを感じます。いくらレトロな感じが良いとはいってもこれを普段しばしば聴いて楽しむことはありません。けれどもゼルキンのピアノは素晴らしいです。彼は若い頃からとても優れたピアニストであり、大ブッシュからどれほど信頼されていたかが良く分かろうかというものです。言い遅れましたが、ホルンを吹いているのは、有名なデニス・ブレインのお父さんです。(と、書いていましたが、その後に入手した英Testamentの復刻盤がかなり状態が良く、演奏を充分に楽しめます。併録のクラリネット五重奏曲はEMI盤のほうが音が良いですが、ホルン・トリオを聴くならばTestament盤で聴くべきです。)

406 ワルター・バリリ(Vn)、フランツ・コッホ(Hr)、フランツ・ホレチェック(Pf)(1952年/Westminster盤) これも懐かしいウエストミンスターの室内楽録音の中の一つです。とてもゆったりとしたウイーンの古きよき時代の雰囲気に満ち溢れていて素適です。それに、ブッシュほどには古めかしさを感じません。ただ難点はピアノが演奏、録音ともにだいぶ鈍いことです。これがイエルク・デームスならば、もっと良かったのにとどうしても思ってしまいます。

672 ヨゼフ・シゲティ(Vn)、ジョン・バローズ(Hr)、ミエツィスラフ・ホルショフスキー(Pf)(1961年/Philips盤) これは僕が最初にLPを買って良く聴いた演奏です。CD化されて音が明瞭になったので益々好きになりました。晩年のシゲティは本当に素晴らしいです。音のひとつひとつに込められた意味の深さが、他のヴァイオリニストとは次元が違うからです。但し、まるで禅の修業をしているかのような厳しい音は、普段流麗な演奏に慣れた耳であればあるほど受け入れ難いでしょう。しかし音楽愛好家がこの演奏を表面的な技術や音色の点で、もしも敬遠するとしたら、大変な損失だと思います。ホルンのバローズはイギリス人ですが、とても味が有り上手いです。ホルショフスキーもよく知られた名ピアニストです。このCDのカップリングは、既記事に書いた素晴らしいヴァイオリン協奏曲です。

901981_g イザベル・ファウスト(Vn)、トゥーニス・ファン・デア・ズヴァールト(Hn)、アレクサンドル・メルニコフ(Pf)(2007年/ハルモニアムンディ盤) 最新録音盤ですが、過去の名盤を忘れさせるくらい気に入っています。実はこの演奏はピリオド楽器使用なのです。ヴァイオリンはガット弦、ホルンは19世紀製のナチュラルホルン、ピアノも19世紀製のベーゼンドルファーだそうです。ブラームスは元々この曲をナチュラルホルンで演奏することを指定していますが、この演奏を聴くと実に納得させられます。第2、第4楽章などを聴いていると、まるで狩の風景を目の当たりにしているようです。
イザベル・ファウストは、最近知った若手の女流ヴァイオリニストですが、パガニーニコンクールで優勝する位に腕は確かです。活動は大曲だけでなく室内楽を多く行っていて、その辺りにもとても好感が持てます。ピアノのメルニコフも非常にこだわりのある人で、自分で19世紀製のピアノをさんざん捜し歩いたのだそうです。フォルテピアノに近い柔らかい音が何ともいえません。ホルンのズヴァールトはフライブルク・バロックオケの首席奏者なので抜群に上手です。このCDは3人のこだわりと曲への愛情で一杯ですが、肝心の演奏も学究的な退屈さとはかけ離れて、楽しさに満ち溢れた実に魅力的な演奏なのです。特に第3楽章の虚無感と寂寥感、第4楽章の胸が高鳴る躍動感など、かつて聴いたことの無いほどの感動を覚えてしまいます。ということで僕はすっかりこの演奏にはまってしまっています。

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2008年11月13日 (木)

ブラームスの室内楽 クラリネット五重奏曲ロ短調op.115 名盤

ブラームジアーナー(ブラームスの音楽を理屈抜きで愛好する人)にとっては、おそらく彼の室内楽曲が一番大切なジャンルではないでしょうか。一人で悶々と(男性ならしかめつらをしながら?)ブラームスの室内楽を聴く姿は、いかにも「我はクラシックファンでござい」という雰囲気丸出しで良いではありませんか。(^^)

さて冗談はさておき、ブラームスの室内楽作品の本丸はやはりピアノを伴う作品群でしょうね。ところが、彼の室内楽で一番好きな曲を選ぶとすれば、僕なら迷うこと無く「クラリネット五重奏曲」ロ短調 op.115を挙げたいです。

民族(ジプシー)音楽の影響を強く受けたこの作品は、明るい部分がおよそ無くてブラームス愛好家を喜ばすには最高の曲なのですが、さりとて聴いていて陰鬱になるかというとそんなこともありません。懐かしさと哀愁が一杯に漂う音楽ではあっても、決してマーラーやショスタコーヴィチの音楽のように悲劇的な悲しみとは異なります。ですのでゆったりと落ち着いた気分で聴いていられます。

この曲は全4楽章とも素晴らしい傑作なのですが、個人的に好きなのは第3楽章です。ジプシー的なメロディは何度聴いてもしびれてしまいます。

P1000258 レジナルド・ケル(Cl)/ブッシュSQ(1938年録音/EMI盤) この曲の名盤というと昔ならウイーンスタイルのウラッハか、ドイツスタイルのケル/ブッシュSQと言われました。けれども、いま聴くとさすがに古臭く感じてしまいます。ケルは現代ではとても考えられないような自由自在さでデフォルメをして吹いています。とは言え、昔のヴィルトオーゾ風の名人芸には違いなく、この曲であれば許せると思わないでもありません。アドルフ・ブッシュは僕の大好きなヴァイオリニストなのですが、この曲に関しては後述のカンパーのほうがずっと好きです。

240 レジナルド・ケル(Cl)/ブッシュSQ(1948年録音/Music&Arts盤) これはニューヨークでのライブ録音です。ブッシュは戦中に米国に渡ってからは、昔のドイツの伝統を守りながらも新時代の感覚を少しづつ取り入れて行ったので、個人的には古めかしいポルタメントを多用するSP録音時代よりも好んでいます。なのでこの演奏には大いに期待したいところですが、1938年盤とほとんど変わりがありません。なお、このCDのカップリングであるVnコンチェルトについては既記事の通り素晴らしい名演です。

404 レオポルド・ウラッハ(Cl)/ウイーンコンツェルトハウスSQ(1952年録音/ウエストミンスター盤) ケルがすっかり忘れられた存在なのに対して、ウラッハは今でも決定盤として必ず上がります。それは演奏スタイルが古いと言っても逆にこの曲の懐古的な雰囲気がより感じられる結果になって、抗しがたい魅力に溢れるからでしょう。僕はウラッハのクラリネットももちろんですが、第一ヴァイオリンのアントン・カンパーの弾き方が大好きなのです。第三楽章のメロディのゆっくりとした歌わせ方、繰り返しの際に加わる装飾音の生かし方が最高です。こんな弾き方をしてくれる人は他にはちょっと居ません。第一~第二楽章も同じように素晴らしいのですが、欠点は終楽章がちょっと柔らかすぎて立体的な迫力に不足することです。それが味なのかもしれませんが、第一楽章にはそれを感じさせませんからここはやはり残念。なにはともあれ、この演奏を抜きにこの曲は絶対に語れません。

Cci00035 フリードリヒ・フックス(Cl)/ウイーンコンツェルトハウスSQ(1962年録音/オーマガトキ盤) ウイーンコンツェルトハウスSQが来日した時にNHKのスタジオで録音されたものです。フックスもとても良いのですが、どうしてもウラッハと比べてしまうと物足りない感が有ります。但し、第2Vnに若き名手ワルター・ウェラーが入りましたので、第1Vnのアントン・カンパーとの絶妙な掛け合いを味わえます。ウエストミンスター盤の味の濃さよりも柔らかさの目立つ演奏です。ステレオ録音なのは大きなメリットです。ウラッハ盤を本命としつつも、時々取り出したくなる演奏です。

Cci00034 デヴィット・オッペンハイム/ブダペストSQ(1961年録音/CBS SONY盤) 私の最も好きなカルテットであるブダペストも録音を残しています。このカルテットは我が尊敬する中野雄さんにすら「すでに忘れられた存在」と公言されているほどですが、断じて異論を唱えたいと思います。「20世紀の歴史上最も偉大なカルテットである」とです。ただし彼らの余りに求道的な厳しい音が現代人の耳にはなかなか受け入れられ難いのも判ります。それについてはまたいつかゆっくりと書き記したいと思いますが、この演奏は実に素晴らしいです。第三楽章だけはウラッハ盤の綿々たる情緒に及びませんが、残る楽章、とくに終楽章の立体的な充実感は最高です。オッペンハイムはCBSのプロデューサーとしても有名だった人らしいですがプレイヤーとしてはほとんど知られていません。だがこのクラリネットは決して悪くありません。

41r4h94nk2l__sl500_aa300_ カール・ライスター(Cl)/アマデウスSQ(1967年録音/グラモフォン盤) クラリネットの大巨匠ライスターは、この曲を何度も繰り返して録音していますが、これは比較的若い時代にアマデウスSQと録音した演奏です。第1ヴァイオリンのブレイニンの大げさで演技的な弾き方には大抵の曲で抵抗を感じてしまいますが、この演奏では余り違和感を感じません。これは民族的な旋律の多い曲想からなのかもしれません。ライスターのクラリネットはかっちりとした音と表情で流石に素晴らしいです。

130 アルフレート・プリンツ(Cl)/ウイーン室内合奏団(1980年録音/DENON盤) 前述のウラッハ/ウイーンコンツェルトハウスは昔のウイーンフィルの団員達ですが、その後輩達にも当然新しい録音が有ります。これはG.へッツェル時代に名手プリンツが吹いた録音です。個人的にはへッツェルはモーツァルトの場合にはもう少し柔らかい情緒が欲しくなりますが、ブラームスにはほぼ満足できます。初めてこの曲を聴こうという方にもしもCDをお薦めするとしたらこれでしょうか。

3202030696 ペーター・シュミードル(Cl)/ウイーンムジークフェラインSQ(1993年録音/Plazz盤) もうひとつウイーンスタイルの演奏を。これはウイーンフィルのもっと新しい世代のプレヤーですから、最近のファンにも御馴染みでしょう。シュミードルはプリンツとは互角と言って良いと思います。第1ヴァイオリンのキュッヘルはへッツェルと比べると、良く言えばドラマティック、悪く言えば荒いです。ですので好みで選べば良いと思います。ですが、僕はどうせウイーンスタイルを聴くならやはりウラッハ盤を聴きたいということになってしまいます。 

しかし名曲には名盤がまだまだ有るもので、続編、続々編と記事にしました。
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2008年11月 9日 (日)

ブラームスの室内楽(彼と作品について思うこと)

250pxjohannesbrahms 毎日確実に寒くなっています。東京の街路樹もすっかり色づいて正に晩秋の趣です。こんな頃に一人静かに楽しむ音楽はブラームス、それも彼の室内楽に勝るものは無いと思っています。何故か?季節のうら寂しさに負けて人恋しくなるというのに自分ひとり。生涯独身のブラームスもきっと一人で作曲をしながらも同じ心境だったに違いない(と勝手に決めつけている)(^^)。ブラームスの室内楽を聴いていると、そんな心の寂しさ、弱さ、優しさが痛いほど感じられてしまうのです。だから彼の音楽が好きなのです。僕はやっぱりワグネリアンでは無くてブラームジアーナーです。(苦笑)

ブラームスは良く「完全主義者」と言われますが、まったくその通りだと思います。それも相当なものです。何故なら彼の作品にはおよそ駄作というものがありません。モーツアルトだってベートーヴェンだってそれほど面白くない作品は有ると思いますが(異論も有るでしょうが)、ブラームスに限っては面白くない作品はまず無いと言って良いです。どれほど自信作だけを正式作品として残したかが伺えます。

また彼の主要な作品の残し方はジャンル毎にちょっと異常なほどに整理統合されています。

グループA) 交響曲(4曲)、協奏曲(4曲)

グループB) ピアノソナタ(3曲)、バイオリンソナタ(3曲)、チェロソナタ(2曲)、ピアノ三重奏曲(3曲)、ピアノ四重奏曲(3曲)、ピアノ五重奏曲(1曲)

グループC) クラリネットソナタ(2曲)、ホルン三重奏曲(1曲)、クラリネット三重奏曲(1曲)、クラリネット五重奏曲(1曲)

グループD) 弦楽四重奏曲(3曲)、弦楽五重奏曲(2曲)、弦楽六重奏曲(2曲)

上記のグループは僕のイメージで勝手に分けたのですが、それには理由が有ります。Aは管弦楽を伴う作品(管弦楽曲はここでは除いた) Bはピアノを伴う室内楽曲(ピアノ単独ソナタを含む) Cは管楽器を伴う室内楽曲 Dは純粋に弦楽だけの室内楽曲です。

これを見て感じるのは、ブラームスがいかに編成ごとに偏り無く、平均的に作品を残したかです。本人が「このジャンルは既に3曲書いた。だがこちらのジャンルはまだ2曲だ。ではこちらの作品を書こう。」などとウジウジと几帳面に考えながら書かないと決してこうはいかないと思います。ただそのような書き方もブラームスが古典的な作曲技法に長けていたからこそ可能だったのだと思います。当時のロマン派の革新的技法の音楽家では到底不可能なことです(というかそんなことは思いもしないでしょう)。でも良く見ると彼の最も得意なピアノを使う作品が微妙に他より多い事に気がつきます。やっぱり彼の心は生涯ピアニストだったのでしょう。

次回からはグループ毎に僕の好きな室内楽曲と愛聴盤を順にご紹介させて頂きたいと思います。お暇とご興味の有る方は是非お付き合い下さい。

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2008年11月 5日 (水)

テミルカーノフ/サンクトぺテルブルク・フィル 2008来日公演 チャイコフスキー「悲愴」他

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サンクトぺテルブルク・フィルが来日して「チャイコフスキー・フェスティヴァル」と称するコンサート・ツアーを行っています。今日は初台のオペラシティでのコンサートを聴きに行ってきました。プログラムは全てチャイコフスキーで、幻想序曲「ロミオとジュリエット」、「ロココ風の主題による変奏曲」それに「悲愴交響曲」の3曲です。

指揮はユーリ・テミルカーノフ。この人は1988年にムラヴィンスキーの後を継いでこの楽団の首席になりました。ちょうど20年前です。その時にはこの楽団の名前はかの「レニングラード・フィルハーモニー」でした。ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルといえば、もはや神格化された存在ですが、僕の音楽人生最大の後悔といえば、そのムラヴィンスキーを実演で聴いていないことです。しかし今ごろそう言っても始まらないので、いにしえの名楽団の現在を楽しむしかありません。

さて、そのコンサートですが、最初の「ロミオとジュリエット」から非常にテンションの高い演奏を聞かてくれました。ムラヴィンスキー時代の研ぎ澄まされて怖ろしいほどの切れ味というのとは多少違いますが、弦も管も非常に凄みのある音は未だ健在と感じました。今年70歳になるテルミカーノフの棒(いやこの人はタクトは使いません)(^^) は旋律の歌わせ方も堂に入っていてとても上手いです。チャイコフスキーの甘いメロディをたっぷりと味合わせてくれました。

次の「ロココ風の主題による変奏曲」は、独奏チェロを弾くのがロシアのタチアナ・ヴァシリエヴァという若手女流奏者ですが、とても上手いソリストで中々楽しめました。

そしてメインの「悲愴」ですが、演奏のテンションが増々上がって、これは大変なものでした。そもそも第1Vnが9プルト18名、チェロが10名でコントラバスが同じ10名という編成自体もえらく分厚い弦楽の音を響かせましたが、それでいてアンサンブルの精度は非常に高く凄みがあります。この曲においても歌わせるべきところはたっぷりと歌わせてくれるのが嬉しいです。そして第一楽章後半と終楽章のあの真のカタルシス!まるでこの世の終わりのように凄かったです。この曲はやはりこうでなければ。

チャイコフスキーを聴くのは、やはりロシアの優秀な楽団に限ると改めて感じ入ったコンサートでありました。

それにしても今日は帰り道が寒かったです。真冬になったら部屋の暖房をガンガンにしてチャイコフスキー三昧なんて生活が訪れるのももうすぐだなぁ(^^)

さて、せっかくですので、僕の愛聴CDをご紹介させて頂きます。

幻想序曲「ロミオとジュリエット」

877 ゲルギエフ指揮キーロフ管弦楽団(フィリップス盤) 僕は現役指揮者の中ではゲルギエフが最も好きです。(というのも、とっくに死んだ指揮者ばかりを聴いているから?)(^^) それはともかくとして、この演奏は実に素晴らしいです。音の切れの良さとロマンティックな歌わせ方がどちらも最高だからです。これは、この人の「悲愴交響曲」の旧盤に組み合わされていますが、「悲愴」の演奏もとても良いです。

交響曲第6番「悲愴」ロ短調 op.74

458 フェレンツ・フリッチャイ指揮ベルリン放送響(グラモフォン盤) 既にファンには良く知られた最高の「悲愴」です。僕は普段は偏執的?(^^)なほどに本場物の演奏を好みますが、これだけはハンガリー人とドイツオケとの有無を言わせぬ圧倒的な名演奏なのです。第一楽章や終楽章の有名な旋律がかつてこれほどまでに悲しく響いたことがあったでしょうか。断じて有りません。しかも極めてドラマティックな展開も正に最高です。「悲愴」が好きで、もしもこの演奏を聴いていない方が居たらそれは一生の不覚です。

172 フェレンツ・フリッチャイ指揮バイエルン放送響(オルフェオ盤) 実はフリッチャイには上記のグラモフォン録音とは別に1960年のライブ録音が有ります。これは知る人ぞ知る、演奏だけをとればベルリン放送盤をも更に(!)しのぐ凄演です。録音も極上のモノラルですので、聴いていて音の違いは気にならなくなってしまいます。解釈はベルリン盤とほぼ同じで、ライブでの感興の高さが更に増すだけです。ベルリン盤のファンにはこちらも是非聴いて頂きたいです。

125 ムラヴィンスキー指揮レニングラードフィル(グラモフォン盤) ここでこの演奏を外すわけにはいかないでしょう。これを初めて聴いた時、それまでカラヤンのゴージャスな響きに馴染んでいた学生(30年前の私です)の耳には非常にショッキングでした。脳天につきささるような鋭利な金管の響き、異常なほどに切れの良いリズム、徹底的に鍛え上げた凄みの有るアンサンブル。それでいていかにも自国の楽団でしか味わえないようなロシア風の歌いまわし。すっかりとりこになってしまいました。ムラヴィンスキーはライブ盤も素晴らしいですが、このグラモフォン盤は原点と言えます。

<追記>
この曲については、「悲愴交響曲 名盤」で、この3枚と合わせて他の愛聴盤をご紹介しています。

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2008年11月 1日 (土)

モーツァルト クラリネット協奏曲&ピアノ協奏曲第27番

とうとう11月です。秋がいよいよ深まってきました。

僕は秋の夜長にはブラームスを聴くのが大好きです。特に夜も更けてきたら彼の室内楽が一番。では昼間に聴くとしたら?僕はモーツァルト。ただし晩年の曲を。特に「クラリネット協奏曲」K622と最後の「ピアノ協奏曲第27番」K595が良いのです。

晴れた日の秋の空。どこまでも抜けるように澄み切った青い空。果てしなく宇宙のかなたへまで繋がっている青い空。

そんな青空を眺めているとなんだか寂しくなってきます。ちっぽけな我々の命のはかなさとか自然界の永遠性だとか、なんだか良く分からないけれどそうことを嫌でも感じさせられてしまうからでしょうか。

このモーツァルトの晩年の2曲はそんな気分に実にふさわしいです。そして素晴らしい演奏があります。どちらもカール・ベームの指揮です。ベームにモーツァルトのこういう曲を振らせるとちょっと他の指揮者では真似のできないほどの深みが現れます。

「クラリネット協奏曲」イ長調K622

709_2  アルフレート・プリンツ独奏、ベーム指揮ウイーン・フィル(ドイツグラモフォン盤)は、プリンツの素晴らしさももちろんですが、ベーム/ウイーン・フィルの演奏の素晴らしさに尽きます。文春新書「クラシックCDの名盤」の新版では中野雄先生が旧版の推薦盤ウラッハからこちらに変更されました。生意気のようですが僕は昔からこの曲に限ってはウラッハよりもプリンツ(というかベームの)この演奏のほうが格段に好きでした。第1楽章の頭の弦のきざみを聴いただけで他の演奏とはまるで違います。柔らかくゆったりとしているが実に立派。人に依っては遅過ぎと感じるかもしれないですが、この曲の持つ永遠性の雰囲気を感じるためにはこの演奏が一番だと思います。そして第2楽章の天国的なまでの美しさ!もうとても言葉にはできません。

「ピアノ協奏曲第27番」変ロ長調K595

Cci00028ウイルヘルム・バックハウス独奏、ベーム指揮ウイーン・フィル(DECCA盤)

ベームはこの曲をグラモフォンに再録音しています。それは独奏はエミール・ギレリスです。ベーム/ウイーン・フィルの演奏だけで言えば互角の素晴らしさだと思います。しかしこの旧DECCA盤は1955年当時のウイーン・フィルのおそらく録音で聴くことのできる最も魅惑的な響きを味わえる時代のかけがえの無い演奏なのです。DECCAには他にも親父クライバーの「フィガロの結婚」とかの最高の録音が多く残されています。

ここでのバックハウスのピアノは正に彼岸の曲の彼岸の演奏です。宇野功芳先生が昔から「演奏を超越して直接曲自体と結ばれる、厳しいまでに純潔、純白な演奏だ」という風に推薦し続けている演奏ですが、全く異論が無いところです。(生意気ですが師に異論を感じることは度々あります)(^^)

思えば僕がモーツァルトに開眼したのはこの演奏でした。名曲喫茶で曲名も演奏者も分らずに耳にした瞬間に脳天に電気が走ったのです。慌ててカウンターに行ってみたらこのレコードでした。人間の直感というものはある時は全てを越えてしまうようです。

この録音は現在は先のブラームスのピアノ協奏曲第2番とカップリングになっています。2大名演が1枚のCDで聴けるとは何とも有りがたいことです。

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