モーツァルト 「レクイエム」 ニ短調 K.626
一週間後の12月5日はウォルフガング・アマデウス・モーツァルトの命日です。それにしても天才モーツァルトの残した多くの作品ほど世界中で演奏されている音楽は無いでしょう。なんでも彼の作品にもしも著作権が残っていたとしたら、それだけで小さな国がひとつ買えてしまうのだとか。小室哲哉氏が聞いたらなんと羨ましく思うことでしょうか。(^^)
私はこれまでモーツァルトの命日に「レクイエム」をことさらおごそかに聴いてきたという人間ではありませんが、今後残された人生で彼の命日にこの曲を聴いてみるというのも悪くないな、という気が最近してきました。
かつての私の職場の上役に相当のモーツァルトファンが居ました。その人は病気の為に定年前に亡くなってしまったのですが、生前に自分の葬儀にはレクイエムを流し続けて「モーツァルト葬」にしてほしいと言っていました。それなので奥さんは実際に本人の希望通りにしたのです。ご主人は本望だったことでしょう。だが私の葬儀のときにはどうでもいいので、生きているうちにせいぜいこの曲を聴いておきたいと思います。
「レクイエム」には今では様々な版が存在しています。私は正直、余り版にはこだわりません。理由は、結局どれをとっても本人の完成品では有り得ないからです。ジェスマイヤー版にケチをつけるのは学者やファンの自由ですが、モーツァルトが死の床で作品の完成をかりにも託した人物の偉業(とあえて言いたいです。彼が途中で補作をやめていたら、これほど演奏されるようにはなり得なかったからです。)は到底無視できるはずはありません。ましてやあの「ラクリモーサ(涙の日」を更に補作するなどというのは余計なことではないでしょうか。モーツァルトだってジェスマイヤーに「この曲はこのまま手をつけなくて良い」と指示した可能性だって充分考えられるのですし。
演奏も最近では古楽器演奏が流行りですが、それぞれの良さが有ると重うので余り限定はしたくありません。私はそんなに多くの演奏を聴いたわけでは無いですが、心に残った演奏は多く有りますし、最近知った素晴らしい演奏も有りますので是非ここでご紹介させて頂きたいと思います。
オイゲン・ヨッフム指揮ウイーン交響楽団(1955年/グラモフォン盤) これは記念碑的な演奏です。生誕200年の年にモーツァルトゆかりのウイーン・ステファン大聖堂において彼の命日に行われたミサがそのまま収録されています。その雰囲気には当然ただならぬものが有ります。だが、ミサという割にはどうもソロ歌手(特にソプラノのゼーフリート)がオペラチックなのが気に入りません。我慢して続けて聴いていると段々気にはならなくなるのですが。これは当時のスタイルとしては仕方が無いところでしょうか。
ブルーノ・ワルター指揮ウイーンフィル(1956年/オルフェオ盤) ワルターのモツレクには数種類の録音が有り、先に世に出た同じ年のウイーンフィル盤がSONYに有りますが、私はこのオルフェオ盤の方が好きです。オケ、合唱、独唱ともに欠点が少ないですし録音もなかなか良いです。演奏の感動が最も伝わってくるのです。但しやはりアルトがオペラチックな歌い方なので古さを感じてしまいます。
カール・シューリヒト指揮ウイーンフィル(1962年/Tresor盤) これもステファン大聖堂でのライブ演奏です。ワルターが出たらシューリヒトを出さない訳には行きません。モーツァルトの演奏にかけてはこの二人は別格だからです。ロマンティックなのですが、ヨッフムやワルターのように粘り気はありません。ずっと爽やかな印象なのです。この辺りはシューリヒトならではと言うところです。これは聴くたびに魅力が増してくる不思議な演奏です。やはりソリストの歌い方が古いのはこの時代では仕方ありません。
カール・リヒター指揮/ミュンヘンバッハ合唱団(1961年/テルデック盤) リヒターは「マタイ」や「ロ短調」のように遅いテンポのロマンティックな演奏も有りますし、逆にあの時代にしては早めのテンポできりりと引き締まった演奏も有ります。これは後者のスタイルです、正に襟を正して聴きたくなる演奏です。合唱の彫りの深さと仰ぎ見るような立体感は流石だと思います。現在でも余り古さを感じさせない名演奏だと私は思っているのですが。
カール・ベーム指揮ウイーンフィル(1971年/グラモフォン盤) 私が初めて買ったレコード(LP盤)です。当時は最新盤だったのに時の経つのは早いものです。最近ではすっかり古楽演奏派に押されてしまい、「もはや古いスタイル」と言われています。ですが、古くて何がいけないのだ!これほど感動的な演奏を前にして演奏スタイルがどうのこうのと言う方がおかしいと思います。確かにテンポは相当に遅いですが、その分スケールの大きい実に立派な演奏であり、時代を超えた普遍性を感じます。決して古臭いとは思いません。ベームのこの余りに美しく悲しい「涙の日」を聴く時には私はとても普通では居られなくなるのです。
ハンス・ギレスベルガー指揮/ウイーン宮廷音楽教会管弦楽団&合唱団(1979年/タワーレコード盤) この指揮者をご存知でしょうか?ウイーンの合唱界では有名な人です。一見聞いたことも無いような団体ですが、ウイーンフィルの団員と国立歌劇場合唱団が特別参加しています。この演奏は名門SEONレーベルがウイーンの音楽界の総力を挙げて録音に臨んだものなのです。最初の「キリエ」からして雰囲気が違いますし、合唱に非常に厚みが有ります。どんどん立体的に重なり合ってくる様は正に圧巻です。そして何より素晴らしいのは、いかにも大聖堂で教会合唱団を聴いているような厳かで敬虔な響きであることです。ソプラノとアルトはウイーン少年合唱団。しかもソロパートまでを少年が歌っているのですがこれが信じられないほど上手いのです。この純粋無垢な声を聴いてしまったら、大人の歌手はもちろんカウンターテナーでもとても聞けなくなるほどです。オーケストラの管楽パートも滅法上手いです。トップは皆ウイーンフィル団員なのだから当たり前ですが。この演奏がぬるま湯教会演奏などと思ったら大違い。「怒りの日」など切れ味と緊迫感が凄いです。この時代にこれほど正統的かつ新鮮な演奏をしていたギレスベルガーには本当に驚きます。
このCDには「戴冠式ミサ」も合わせて収められているのが嬉しいです。「レクイエム」の演奏と比べるとやや落ちますが、それでもフィリップスの同じウイーンのクリスチャン・ハラー盤よりもよほど良いと思います。録音も優秀ですし、タワーレコードの廉価盤として出ているので是非とも一聴されることをお薦めします。
ペーター・ノイマン指揮/ケルン室内合唱団(1990年/ヴァージン盤) モーツァルトで古楽器演奏は取り立てて好きということはありませんが、ひとつくらいは挙げておきたいです。P.ノイマンは宗教合唱曲のスペシャリストだけにやはり素晴らしいのです。前述のギレスベルガーやこういう演奏を聴いていると、所謂「巨匠指揮者」の演奏がどんなに感動的であっても、宗教曲の場合にはその専門家と合唱団が歌う方がやはり本物かな、と思えてきます。
| 固定リンク | コメント (21) | トラックバック (0)




























最近のコメント