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2008年10月29日 (水)

ブラームス ヴァイオリン協奏曲ニ長調op.77 名盤

ブラームスは弦楽器の為に2曲の協奏曲を残しました。一つは言わずと知れた「ヴァイオリン協奏曲ニ長調」です。そして、もう一つは「ヴァイオリンとチェロの為の二重協奏曲」です。この2曲はどちらも僕の非常に愛する曲ですので、もしも「どちらが好きか」と訊かれたら、答えるのに大変困ります。例えてみれば、二人の女性を同時に好きになってしまったような気分だからです。(単なる想像ですねっ)(^^)

とは言え、どうしてもどちらか1曲だけ選ぶとなれば、やはりヴァイオリン協奏曲のほうを選ばざるを得ないでしょう。めっきり冷え込んできた秋の夜長に一人静かに楽しむのには正にうってつけの曲です。「う~む、ブラームス!」とつぶやきながら、ウイスキーのグラスでも傾けたいです。

などと聴き手にとっては気楽なものですが、演奏家にとっては大変です。それは独奏部分が技術的に難しいだけでなく、ブラームスのあの2曲のピアノ協奏曲ほどでは無いにしても、ヴァイオリン協奏曲としては管弦楽部分がシンフォニックに書かれている最右翼の曲だからです。独奏者はステージでオーケストラに一人で渡り合わなければならないので、やりがいが有るのを通り越してほとんど苦行では無いでしょうか。しかも第2楽章ではオーボエの長いソロを聴かされてからようやく演奏に入るわけですからどこまで管弦楽に力を注いだ曲なでしょう。

しかしこの曲を力を持ったヴァイオリニストが管弦楽とあるときは渡り合い、ある時は寄り添い美しいハーモニーを築き合うような良い演奏を聴けた時には、ブラームスの音楽のだいご味を心から味わえて幸せな気持ちになります。

この曲にはブラームスのハンガリー趣味が強く表れているので、あまりカッチリと真面目に演奏されても面白く有りません。その辺りはブラームス自身も述べていたそうです。高い演奏技巧を駆使して、尚且つジプシーの情熱や奔放さが出るような演奏がこの曲の名演奏の条件だと思います。

この曲も昔から色々な演奏を聴いてきましたので、愛聴盤を振り返ってみたいと思います。

240 アドルフ・ブッシュ独奏、スタインバーグ指揮ニューヨークフィル(1943年録音/Music&Arts盤) 一番古い演奏ですが、ブッシュは僕の最も好きなヴァイオリニストの一人です。宇野功芳先生も「この人のヴァイオリンは音楽そのものと言うよりも人間の心そのものだ」と書いていましたが、本当にその通りです。ただ僕は個人的にはブッシュは1930年代のEMIへのSP録音時代よりもむしろ米国へ亡命した後の1940年代の演奏の方をより好んでいます。前時代的な余りに古過ぎるスタイルから戦後の時代につながるもっと普遍的な表現に変化したからです。この1943年のライブ盤は音も決して悪くないです。

ブッシュには更に後年のライブ録音も残っています。ハンス・ムンク指揮バーゼル管弦楽団(1951年録音/Music&Arts盤)です。しかし1943年盤と比べると録音が余りに悪いのとブッシュの腕もだいぶ衰えているので一応の記録としての価値しか無いと思います。

Cci00030 ジネット・ヌブー独奏、ハンス・シュミット‐イッセルシュテット指揮北ドイツ放送響(1948年録音/STIL盤) そのブッシュ晩年の演奏から遡ること3年前の有名な録音があります。僅か15歳の時にヴィエニャフスキ国際コンクールで優勝。その時の第2位が彼女より10歳以上も年上のオイストラフでした。この録音は29歳の時のライブ演奏であり、イッセルシュテット指揮の立派な伴奏のもとで激しく感情表現豊かに弾き切っています。実に感動的です。しかし彼女はこの翌年僅か30歳で飛行機事故に合い二度と帰らぬ人となったのです。なんということでしょうか。

672ヨゼフ・シゲティ独奏、ヘルベルト・メンゲス指揮ロンドン響(1959年録音/Philips盤) 僕の最も好きなヴァイオリニストの一人にヨゼフ・シゲティがいます。この人の晩年は、まるで人間の心そのもののバイオリンを弾きました。外面的な美感とは最も遠いところに有ります。たとえ弓がかすれようが音が少々汚くなろうが、この大ヴァイオリニストの演奏をじっと心の耳で聴きさえすれば、他に比べるものの無い程の感動を与えられます。例えてみれば人間国宝の歌舞伎役者みたいなものです。

そして僕の最も好きなヴァイオリニストの最後の一人はヘンリック・シェリングです。僕は幸運にも30年前に東京文化会館でこの人の生演奏を聴いています。その時はリサイタルで、バッハの無伴奏パルティータやブラームスのソナタを弾いてくれました。彼の生の音は随分柔らかくとても肌理の細かい印象でした。全然力づくで楽器を鳴らしていないのに、自然に音がどこまでも広がってゆく感じです。だからあの広い文化会館のホールがまるで楽器全体であるかのような気がして、自分がそのヴァイオリンの箱の中で聴いている錯覚に陥ってしまったのです。ヴァイオリンのコンサートを聴いてあんな風に感じたのは後にも先にもこの時だけです。

シェリングの二度目のステレオ録音にドラティ指揮ロンドン響との演奏(1962年/Philips盤)があります。若々しく切れは良いのですが、後年の円熟した演奏と比べると個人的には余り惹かれません。

268ヘンリック・シェリング独奏、ベルナルト・ハイティンク指揮コンセルトへボウ管(1971年録音/Philips盤) シェリング3度目のスタジオ録音盤です。この時代の彼はボウイングが非常に安定しているので音が美しく、バイオリンのみで言えばとても好きなのですが、恐らくハイティンクの指揮に問題が有るのでしょう、オーケストラが余りに覇気に乏しいのでがっかりなのです。この頃のハイティンクの指揮にはほとんど感心しなかった気がします。

814 ヘンリック・シェリング独奏、ラファエル・クーべリック指揮バイエルン放送響(1967年録音/オルフェオ盤) シェリングはこの曲は得意なので何度もコンサートで演奏していますが、その録音も海賊盤で幾つか出ていました。その中で僕が最も気に入っていた演奏の正規録音盤が近年に出ました。絶好調のクーベリックの凄まじい伴奏に乗ってスタジオ録音とは別人の集中し切ったヴァイオリンを聞かせてくれます。3大Bを弾いて、この時代にこれほど心を感じさせるヴァイオリニストは居なかったと思います。精神性とテクニックの両立を見事に成し遂げているのです。ということで僕のベスト盤はこのCDなのです。

他にもハイフェッツ/ライナー、ミルステイン/モントゥー、オイストラフ/クレンペラー、オイストラフ/セル、ムター/カラヤン、クレーメル/バーンスタインなど色々と有るのでこの曲を聴く楽しみは尽きません。それらについては下記の関連記事から続編をご覧ください。

さて、皆さんの愛聴盤はいったい誰の演奏でしょうか?お好きな演奏を教えて頂ければ嬉しい限りです。

<関連記事>
ブラームス ヴァイオリン協奏曲 続・名盤~女神達の饗宴~ 
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ブラームス(協奏曲:ヴァイオリン他)」カテゴリの記事

コメント

ハルくんさん、こんばんは!
過日はいろいろと教えて頂いて有難うございました。その後、お薦めのクナッパーツブッシュの「パルジファル」を購入しました。

さてブラームスのヴァイオリン協奏曲ですが、さすがにいろいろと聴いておられますね。私がいちばん好きなのは、オイストラフ/セルです。自分の場合、たぶん高校時代に最初に聞いたのがオイストラフ/セルだったので、その時の印象・感動が強く、他を聴いても結局オイストラフ/セルに戻ってくるような面があります。他には拙ブログで記事にしたばかりのフランチェスカッティも好きです。

投稿: アルトゥール | 2008年11月 2日 (日) 20時27分

アルトゥールさん、こんばんは。
当ブログにもようこそいらっしゃいました。

クナッパーツブッシュの「パルジファル」を購入されましたか!ご感想のブログ記事を楽しみにしています。

オイストラフ/セルも立派な演奏ですね。非常に模範的といえる名演奏だと思います。ただこの二人にしてはやや冷静に過ぎた感無きにしも非ずという気もします。更に熱くなっていたら良かったのになぁ、とちょっと思ったりもします。
フランチェスカッティのこの曲は未だ聴いたことがありませんので一度聴いてみたいと思います。

投稿: ハルくん | 2008年11月 2日 (日) 23時08分

こんにちは。

先日ゲルギエフ来日公演の書き込み1番は私です。
名前を書き忘れて失礼しました。

ヴァイオリン協奏曲を聴いてみたく、ヌヴー/STIL盤が気になります。
PHILIPS盤とは違うのでしょうか。

投稿: source man | 2009年12月 3日 (木) 15時01分

source manさん、こんにちは。

ゲルギエフのコメントはやはりsource manさんでしたか。お名前は追記しておきました。

ヌヴーのSTIL盤とPHILIPS盤とですが、まるでマスタリングが違います。STIL盤は高音強調型なので、音が比較的明快でヴァイオリンの音がパリッとしています。反面北ドイツ放送の重厚さが消え去っています。一方のPHILIPS盤は中低音重視型なので北ドイツ放送の音はそれらしく聞くことができます。反面分離が悪くこもった感じでパリッとしません。ですので音の好みと所有するオーディオ機器によって印象は異なるはずです。
よく評論に有るようにSTILが良いとなど言う単純な話では決して無いと思っています。

でも余談ですが、僕は最近はヌヴー盤よりもGreenHILL盤のマルツィVn)、ヴァント=シュツットガルト放送のほうを好んでいます。録音もずっと良いですし。中古店で見かけたら是非のお薦め盤です。
一番はやはりシェリングのオルフェオ盤ですけれども。

投稿: ハルくん | 2009年12月 3日 (木) 20時52分

こんばんは。

ついに!シェリング/クーベリック/Orfeo盤を。
冒頭からオケはスゴいし、音が異常にイイっ。)・o・(
Vnも同様なレベルで録られてたら、もっと評価されるのでは。

曲は違いますが、PragaやGreen Hill盤で艶の在る太い音を聴いてるので、細く感じてしまうのが素直な感想です。

でも贅沢デスよねsweat01。いやはや参りましたcoldsweats01


投稿: source man | 2010年8月22日 (日) 22時00分

source manさん、こんばんは。

フィリップス盤だけを聴いていると評価を誤ってしまいますね。
ライブ演奏なので、Vnの音のバランスはこんなものでしょうか。シェリングの音は広がりは有りますが、決して太いという感じではないですし。

オルフェオはやはりマイナーレーベルなので、それほど多くの人には聴かれないでしょう。残念ですね。

投稿: ハルくん | 2010年8月22日 (日) 22時23分

再びこんばんは。

ヌヴー/北ドイツ/Stil盤も入手scissors
高音質でも「簡単な問題でない」と教えて下さってたので、過度な期待をせず聴き始めました。1948年の録音がこれだけの音で聴けるだけで感謝です。確かにVnに焦点が合ったマスタリングなのでしょうね。

それでもやはり、コノ曲にS.イッセルシュテット在り!デス。

聴いて尚更感じたのが、シェリング/Orfeo盤のクーベリック。伴奏でなく対決してるかの如く。録音が良すぎるだけなのかも知れませんが。

投稿: source man | 2010年12月 5日 (日) 19時01分

ヌヴー/STIL盤を入手されたのですね。これはもう前回お話しした通りです。けれども確かに1948年の録音が楽しめるだけでも有り難いことですね。

シェリング/クーベリックですが、奇をてらわず正攻法で攻めた、充実仕切った名演だと思います。やはりこのCDが僕のベストですね。

投稿: ハルくん | 2010年12月 6日 (月) 23時35分

今、シュナイダーハン、ケンペン指揮ベルリンフィルをレコードで聴います。ドイツ臭くてなかなか良いでず!happy01

投稿: よーちゃん | 2011年4月29日 (金) 20時56分

よーちゃんさん、こんばんは。

シュナイダーハンは大好きです。いいバイオリニストですよね。ですが、その演奏はまだ聴いたことがありません。フリッチャイ伴奏のドッペルコンチェルトが非常によかったので、是非聴いてみたいと思います。
貴重な情報をどうもありがとうございました。

投稿: ハルくん | 2011年4月30日 (土) 00時01分

ハルくんさん こんにちは! 
こちらこそ、いつも貴重な情報ありがとうございます。私の様な素人にも分かりやすい解説で助かります!特にブラームスでのプロイセンやザクセンのオーケストラの音色など非常に興味深いです。ハルくんさんのお陰で好きな演奏も変わってきました。これからも宜しくお願いします。happy01


投稿: よーちゃん | 2011年4月30日 (土) 13時12分

ハルさん、こんにちは。

ブラームスのヴァイオリン協奏曲で最近購入したイザベル・ファウストのCDがなかなか良いです。彼女のバッハの無伴奏ソナタとパルティータのCDも素晴らしかったですが、ブラームスのヴァイオリン協奏曲も透徹しきった表現が感動的でした。

投稿: たろう | 2011年5月 1日 (日) 09時27分

よーちゃんさん、こんにちは。

プロイセン的な音のブラームスが好きなので、ついついその傾向の演奏紹介が多くなりますが、そのように言って頂けると嬉しい限りです。どうぞ色々とお聴きになられて、ご自分の好きな演奏や音を見つけられてください。
こちらこそ今後もよろしくお願いします。

投稿: ハルくん | 2011年5月 1日 (日) 09時55分

たろうさん、こんにちは。

イザベル・ファウストの新しいCDは未だ聴いていませんが、いいですか。僕は以前に記事でご紹介した、彼女たちのブラームスのピアノ四重奏曲集やホルン三重奏、それにシューマンやブラームスのヴァイオリン・ソナタ集など、どの演奏も気に入っていますので、是非聴いてみたいですね。
どうもありがとうございました。

投稿: ハルくん | 2011年5月 1日 (日) 10時02分

ハルくんさんお久しぶりです。ブラームスのヴァイオリン協奏曲は以前からシェリング/クーベリック一辺倒でしたが欧州EMIのクレンペラー協奏曲録音集成ボックスを入手してオイストラフ/クレンペラーに感激しました。じつは聴きながら書いています。フランスのオーケストラの美点殊にオーボエ、バッソン、ホルンがクレンペラーに応えオイストラフの裕かなヴァイオリンと相まって見事なブラームスを描きます。惜しむらくはアナログを聴かなかったこと。シェリング/クーベリックは言わずもがな。

投稿: 薄暮の旅人 | 2014年4月 2日 (水) 17時02分

薄暮の旅人さん、ご無沙汰しました。
でも、お元気そうで何よりです。

オイストラフは素晴らしいとは思うのですが、楽天的なところが、幾らか好みと違います。クレンペラー盤は中野雄さんも推薦されていましたが、自分はむしろストイックなセル盤のほうが好きです。
一番好きなのはやはりシェリング/クーベリック盤ですが、最近聴いたバティアシュヴィリ盤も非常に良かったです。
多にもシゲティ、メニューイン、ヌヴー、マルツィ・・・と色々有りますね。

投稿: ハルくん | 2014年4月 2日 (水) 19時00分

この曲は人によって好みが大きく変わる気がします。オイストラフ・クレンペラーはどちらもうまいと思いますが、両者合わせる気が全くないように聞こえ、すぐに手放してしまいました。
最近のお気に入りはやはりジュリーニとパールマンの競演でしょうか。ちょっとマイルド過ぎるかな、と思うときはヌヴーやメニューインを取り出して聞いています。

投稿: ボナンザ | 2014年5月31日 (土) 14時24分

ボナンザさん、こんばんは。

オイストラフのクレンペラー盤はどうも楽天的に聞こえてしまい不満です。個人的にはセル盤の方がずっと好きです。

パールマンの演奏は、曲を”楽しむ”場合には良いですよね。ヌヴーやメニューインは大好きですが、ちょっとシリアスに過ぎて疲れる時も有ります。じっくり聴き込む分には最高ですが。

投稿: ハルくん | 2014年6月 1日 (日) 22時29分

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ブラームス    ヴァイオリン協奏曲二長調 作品77 (1955年録音) チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲二長調 作品35 (1957年録音) ヤッシャ・ハイフェッツ(ヴァイオリン独奏) フリッツ・ライナー指揮シカゴ交響楽団 (国内盤CD)BMG BVCC−37176 私の愛聴盤である。最近、ブラームスの交響曲やピアノ協奏曲は、別に嫌いなわけではないですが、めったに聴かなくなった。ブルックナーやベートーヴェンの交響曲はよく聴くだけに対象てきである。しかしブラームスの作品の中でヴァイオリン協奏... [続きを読む]

受信: 2008年10月30日 (木) 01時06分

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