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2008年10月

2008年10月29日 (水)

ブラームス ヴァイオリン協奏曲ニ長調op.77 名盤

ブラームスは弦楽器の為に2曲の協奏曲を残しました。一つは言わずと知れた「ヴァイオリン協奏曲ニ長調」です。そして、もう一つは「ヴァイオリンとチェロの為の二重協奏曲」です。この2曲はどちらも僕の非常に愛する曲ですので、もしも「どちらが好きか」と訊かれたら、答えるのに大変困ります。例えてみれば、二人の女性を同時に好きになってしまったような気分だからです。(単なる想像ですねっ)(^^)

とは言え、どうしてもどちらか1曲だけ選ぶとすれば、やはりヴァイオリン協奏曲のほうを選ばざるを得ないでしょう。めっきり冷え込んできた秋の夜長に一人静かに楽しむのには正にうってつけの曲です。「う~む、ブラームス!」とつぶやきながら、ウイスキーのグラスでも傾けたいです。

などと聴き手にとっては気楽なものですが、演奏家にとっては大変です。それは独奏部分が単に難しいだけでなく、ブラームスのピアノ協奏曲ほどでは無いにしても、ヴァイオリン協奏曲としては管弦楽部分がシンフォニックに書かれている最右翼の曲だからです。独奏者はステージでオーケストラに一人で渡り合わなければならないので、やりがいが有るのを通り越してほとんど苦行では無いでしょうか。しかも第2楽章ではオーボエの長いソロを聴かされてからようやく演奏に入るわけですからどこまで管弦楽に力を注いだ曲なでしょうか。

しかしこの曲を力を持ったヴァイオリニストが管弦楽とあるときは渡り合い、ある時はハーモニーを築き合う良い演奏を聴かせてくれた時には、ブラームスの音楽のだいご味を心から味わえて幸せな気持ちになります。

この曲にはブラームスのハンガリー趣味が強く表れているので、あまりカッチリと真面目に演奏されても面白く有りません。その辺りはブラームス自身も述べていたそうです。高い演奏技巧を駆使して、尚且つジプシーの情熱や奔放さが出るような演奏が名演奏の条件です。

この曲も昔から色々な演奏を聴いてきましたので、愛聴盤を振り返ってみたいと思います。

240 アドルフ・ブッシュ独奏、スタインバーグ指揮ニューヨークフィル(1943年録音/Music&Arts盤) 一番古い演奏ですが、ブッシュは僕の最も好きなヴァイオリニストの一人です。宇野功芳先生も「この人のヴァイオリンは音楽そのものと言うよりも人間の心そのものだ」と書いていましたが、本当にその通りです。ただ僕は個人的にはブッシュは1930年代のEMIへのSP録音時代よりもむしろ米国へ亡命した後の1940年代の演奏の方をより好んでいます。前時代的な余りに古過ぎるスタイルから戦後の時代につながるもっと普遍的な表現に変化したからです。この1943年のライブ盤は音も決して悪くないです。

ブッシュには更に後年のライブ録音も残っています。ハンス・ムンク指揮バーゼル管弦楽団(1951年録音/Music&Arts盤)です。しかし1943年盤と比べると録音が余りに悪いのとブッシュの腕もだいぶ衰えているので一応の記録としての価値しか無いと思います。

Cci00030 ジネット・ヌブー独奏、ハンス・シュミット‐イッセルシュテット指揮北ドイツ放送響(1948年録音/STIL盤) そのブッシュ晩年の演奏から遡ること3年前の有名な録音があります。僅か15歳の時にヴィエニャフスキ国際コンクールで優勝。その時の第2位が彼女より10歳以上も年上のオイストラフでした。この録音は29歳の時のライブ演奏であり、イッセルシュテット指揮の立派な伴奏のもとで激しく感情表現豊かに弾き切っています。実に感動的です。しかし彼女はこの翌年僅か30歳で飛行機事故に合い二度と帰らぬ人となったのです。なんということでしょうか。

672ヨゼフ・シゲティ独奏、ヘルベルト・メンゲス指揮ロンドン響(1959年録音/Philips盤) 僕の最も好きなヴァイオリニストの一人にヨゼフ・シゲティがいます。この人の晩年は、まるで人間の心そのもののバイオリンを弾きました。外面的な美感とは最も遠いところに有ります。たとえ弓がかすれようが音が少々汚くなろうが、この大ヴァイオリニストの演奏をじっと心の耳で聴きさえすれば、他に比べるものの無い程の感動を与えられます。例えてみれば人間国宝の歌舞伎役者みたいなものです。

そして僕の最も好きなヴァイオリニストの最後の一人はヘンリック・シェリングです。僕は幸運にも30年前に東京文化会館でこの人の生演奏を聴いています。その時はリサイタルで、バッハの無伴奏パルティータやブラームスのソナタを弾いてくれました。彼の生の音は随分柔らかくとても肌理の細かい印象でした。全然力づくで楽器を鳴らしていないのに、自然に音がどこまでも広がってゆく感じです。だからあの広い文化会館のホールがまるで楽器全体であるかのような気がして、自分がそのヴァイオリンの箱の中で聴いている錯覚に陥ってしまったのです。ヴァイオリンのコンサートを聴いてあんな風に感じたのは後にも先にもこの時だけです。

シェリングの二度目のステレオ録音にドラティ指揮ロンドン響との演奏(1962年/Philips盤)があります。若々しく切れは良いのですが、後年の円熟した演奏と比べると個人的には余り惹かれません。

268ヘンリック・シェリング独奏、ベルナルト・ハイティンク指揮コンセルトへボウ管(1971年録音/Philips盤) シェリング3度目のスタジオ録音盤です。この時代の彼はボウイングが非常に安定しているので音が美しく、バイオリンのみで言えばとても好きなのですが、恐らくハイティンクの指揮に問題が有るのでしょう、オーケストラが余りに覇気に乏しいのでがっかりなのです。この頃のハイティンクの指揮にはほとんど感心しなかった気がします。

814 ヘンリック・シェリング独奏、ラファエル・クーべリック指揮バイエルン放送響(1967年録音/オルフェオ盤) シェリングはこの曲は得意なので何度もコンサートで演奏していますが、その録音も海賊盤で幾つか出ていました。その中で僕が最も気に入っていた演奏の正規録音盤が近年に出ました。絶好調のクーベリックの凄まじい伴奏に乗ってスタジオ録音とは別人の集中し切ったヴァイオリンを聞かせてくれます。3大Bを弾いて、この時代にこれほど心を感じさせるヴァイオリニストは居なかったと思います。精神性とテクニックの両立を見事に成し遂げているのです。ということで僕のベスト盤はこのCDなのです。

他にもハイフェッツ/ライナー、ミルステイン/モントゥー、オイストラフ/クレンペラー、オイストラフ/セル、ムター/カラヤン、クレーメル/バーンスタインなど色々と有るのでこの曲を聴く楽しみは尽きません。それらについては下記の関連記事から続編をご覧ください。

さて、皆さんの愛聴盤はいったい誰の演奏でしょうか?お好きな演奏を教えて頂ければ嬉しい限りです。

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2008年10月25日 (土)

ブラームス ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調op.83 名盤

ブラームスの残した2曲のピアノ協奏曲はどちらも大曲です。2曲とも演奏時間が50分を越える演奏も有りますし、生半可な交響曲を軽くしのぐ雄大なスケールの作品です。管弦楽パートは実に充実して響きは分厚く、「ピアノ独奏を伴う交響曲」とも呼べるでしょう。事実当時のウイーンの評論家ハンスリックもそのように述べました。早い話が「交響的協奏曲(シンフォニック・コンツェルト)」なのですね。

僕は高校生の頃にブラームスの交響曲が大好きになったのですが、ピアノ協奏曲についてはそれまで一度も聴いたことが有りませんでした。ところが、ある日レコードを買うことを思い立ちました。理由は当時新盤のギレリス独奏、ヨッフム/ベルリン・フィルのLPが絶賛されたからです。ところが、いざそのレコードを聴いてみたのですが良く分かりませんでした。長すぎてつかみどころが無かったのです。でも今思えば、高校生の若造が一度聴いて理解出来るような曲でしたら、とっくに世の中から飽きられていることでしょう。何度か聴きかえすうちにだんだんと気に入り、いつしかブラームスの中でも最愛の2曲になっていったのです。

第2番は疑いなく古今のあらゆる協奏曲のジャンルの最高峰だと思います。さしもの「皇帝」でさえもひれ伏す、正に「協奏曲の王様」ではないでしょうか。曲の構成もユニークな全4楽章から成ります。通常の3つの楽章に更にスケルツォが加わるのです。

第1楽章アレグロ・ノン・トロッポ ソナタ形式で長大でシンフォニック。ホルンのゆったりとしたソロにピアノの分散和音が寄り添う序奏からして、もうぐっときてしまいます。その後もピアノとオーケストラが丁々発止と渡り合って全く飽きさせることがありません。

第2楽章アレグロ・アパショナート 大海のように勇壮なスケルツォ楽章です。スケールの大きさはマーラーのシンフォニーのそれにも匹敵するでしょう。けれども曲想はいかにもブラームス風なので魅力充分です。

第3楽章アンダンテ ゆったりとした緩徐楽章です。秋も深まった頃に聴くと一層に味わい深いです。チェロのしみじみとした独奏が長々と続くのも大きな聞きものです。

第4楽章アレグレット・グラチオーソ 軽快なロンド楽章です。この楽章は作曲期間中の2回のイタリア旅行の影響があるので明るいとよく言われるのですが、そこはブラームスのこと。メンデルスゾーン先生のような脳天気な明るさには到底なりません。それでも終楽章が軽やかなので曲を聴き終った後にどっと疲労することがありません。もしも仮にこの楽章が重々しい曲だったら、まるでマーラーやブルックナーを聴いた後のように(良い意味で)どっと疲れ果てることでしょう。

それでは僕の愛聴盤をご紹介します。

Cci00028 ウィルヘルム・バックハウス独奏、カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1967年録音/DECCA盤) 僕が一番愛してやまない演奏は、宇野功芳先生ではないですが、やはりバックハウス盤です。晩年のバックハウスのピアノは本当にしみじみとして心の奥底に染み入る美しさです。決して力で押しまくるようなことは無いのですが、堂々としていて威厳が有り、実に立派なピアノです。普通のピアニストが軽く弾く最終楽章でも、ゆったりと一音一音を慈しむかのように弾き進める愉悦感は、他のピアニストからは決して味わえません。どの部分をとっても含蓄の深さを感じるので何度聴いても飽きることが有りません。強いて不満を言えば、ベームの指揮は大変立派なのですが、ウイーン・フィルの音がDECCA録音ということも手伝い、透明感が有り過ぎて(音響的に)分厚さ感がやや不足することぐらいでしょうか。

Cci00027アルトゥール・ルービンシュタイン独奏、ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管(1971年録音/RCA盤) ルービンシュタインのブラームスも非常に素晴らしいです。最近では、さっぱり話題に登りませんが、これはバックハウスに次いで味わいの深い名演奏だと思います。それはルービンシュタイン晩年の録音だということもあるでしょう。オーケストラの音はやや明るめですが違和感を感じる程ではありませんし、オーマンディのリズム感もずっしりと落ち着いていてブラームスらしく、とても好ましいです。これはもっと多くの人の話題に上がって良い名盤です。

Cci00025アルトゥール・ルービンシュタイン独奏、ヴィトルド・ロヴィツキ指揮ワルシャワ・フィル(1960年録音/Muza盤) ルービンシュタインには1960年のライブ録音もあります。この2枚組みのCDには、親切にもステージ・リハーサル(中断無しの通し練習)とコンサート本番の両方の録音が収められているので、とても楽しめます。ルービンシュタインの祖国ポーランドでの演奏会ですので、RCAへのスタジオ録音とはまるで違った気迫が感じられます。ピアノのミスタッチが幾つも有るのはご愛嬌ですが、ほとんど気にもなりません。これは隠れ名盤であり、個人的には1971年盤以上に好んでいます。

075ルドルフ・ゼルキン独奏、ジョージ・セル指揮クリーヴランド管(1966年録音/CBS盤) バックハウス、ルービンシュタインと来れば、ここはオールドファンの為にはゼルキンに登場してもらうしかないでしょう。第1番と同じジョージ・セルとのコンビの演奏ですが、演奏そのものはピアノとオケのどちらも第2番のほうが更に充実しています。ゼルキンのピアノにはまだまだ若々しさがあります。壮年期の演奏は確かに気迫がもの凄かったです。これもとても好きな演奏です。

035イヴァン・モラヴェッツ独奏、イルジー・ビエロフラーヴェック指揮チェコ・フィル(1988年録音/スプラフォン盤) 第1番と同じ演奏家ばかりが並んでしまうのは申し訳ないのですが、このモラヴェッツ盤も大好きです。ここでも第1番と同じように、テクニックだけでない非常に音楽的な名人芸を披露していて大変に魅了されます。およそ"愉しさ"という点では随一の演奏ではないでしょうか。但しビエロフラーヴェックの指揮は割に平凡でオケの音も厚みに不足します。録音はデジタルで非常に優秀なのが嬉しいです。

さて、ところで僕が高校生の時代に愛聴したギレリス/ヨッフム盤が出てこないのは、すっかり好きでなくなってしまったからです。第1番と同じ理由ですが、ベルリン・フィルの咆哮が必要以上に騒々しいし、ギレリスのピアノもデリカシーに物足りなさを感じるからです。どうせこの両者の演奏を聴くなら、このグラモフォン録音の半年後にオケをコンセルトへボウに変えてのライブ録音があります(AUDIOPHILE盤)。ベルリン・フィルほど騒々しくないのでよほど好きです。

しかし今でもギレリス盤の世評は凄く高いですし、一般的に見れば、音楽に滋味を求めるバックハウス派と迫力を求めるギレリス派に二分されているように思います。残りはポリーニ/アバド、ツィマーマン/バーンスタイン、アラウの新旧録音、ブレンデル/アバドなどの少数派閥に分かれるでしょう。

みなさんはどの演奏がお好きですか?好みは人それぞれなので、この曲を愛する人のご意見、感想であればどのようなことでも伺いたいと思っています。何しろこの曲は、本当に大好きですから。

<後日記事>
ブラームス ピアノ協奏曲第2番 続・名盤
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2008年10月20日 (月)

国立劇場で歌舞伎「大老」

3326_1 国立劇場へ歌舞伎を観に行きました。演目は「大老」です。言わずと知れた井伊直弼の半生記です。井伊大老といえば、今年のNHK大河ドラマの「篤姫」でも非常に存在感の有る役どころであったので皆さんも記憶に新しいところだと思います。

歌舞伎といっても作家は昭和の劇作家北條秀司なので、台詞はほとんど時代劇調でとてもわかり易く、私のような歌舞伎初心者にはとても有り難いのです。(^^)

3326_2_2 彦根でのんびり暮らしていた井伊直弼が兄の突然の死により家督を相続し、大老として国政を担うことになり、国家存亡の危機に直面した我が国を米国と通商条約を結ぶことで欧米列強国の植民地になることを防ごうと奮闘するのですが、水戸藩を中心とする攘夷派と争って、最後は結局桜田門外で暗殺されてしまいます。その彼の半生を、心の葛藤や妻お静の方との情愛を交えて見事に描き出していて大いに楽しめました。

井伊直助役は中村吉右衛門で、その迫力ある演技には圧倒されました。特に最後の暗殺される直前のお静と二人きりの場面で「生まれ変わったらお前とのんびり静かに暮らしたい。大老には絶対になりたくない。」という語りにはとても感動させられました。

さすがに国立劇場は劇場として格調が高いので、このような演目にはふさわしいです。一方で歌舞伎座の庶民的な芝居小屋の雰囲気もまた捨てがたい良さが有って好きです。両者の違いを味わうのもまた楽しいものです。

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2008年10月17日 (金)

ブラームス ピアノ協奏曲第1番 ニ短調op.15 名盤

ブラームスはピアノ協奏曲を2曲書きました。2曲とも屈指の大作であり名曲ですが、特に第2番は古今のあまたのピアノ協奏曲の中でも最高峰だと思っています。けれどもこの第1番も、良い演奏を耳にしている時には第2番に負けないぐらいの傑作に思えてきます。

僕は以前、この曲の素晴らしい生演奏に接することができました。ラドゥ・ルプー独奏、ホルスト・シュタイン指揮バンベルク交響楽団の東京での公演です。ルプーは30年ほど前には「リパッティの再来」と呼ばれたりして随分と注目されました。その後は続々と出てくる若手の影に隠れてしまい、やや地味な存在となってしまいましたが、彼は非常に素晴らしいピアニストになっていたのです。第2楽章などは本当に心に染み入るようなデリケートなピアノで、まるで夜空の月明かりが雲の隙間から刻々と射したり隠れたりと移り行く様のようでした。事実、僕の心の中では本当に舞台のルプーを月明かりが照らしていたのです。

Cci00024ラドゥ・ルプー独奏、クルト・ザンデルリンク指揮バイエルン放送響(1990年録音/JOY盤) そのルプーには若い時代のDECCA録音も有りますが、実は米国のJOYレーベルという海賊CD-R盤にザンデルリンク/バイエルン放送響と組んだライブ演奏があります。このCDーRは録音も滅法良いですし、ルプーのあの実演での素晴らしいピアノをそのままに聴くことができます。しかもザンデルリンクの伴奏が実に素晴らしいのです。堂々とした遅めのテンポで極めて重厚であり、尚且つ情熱も兼ね備えていて非常に聴き応えが有ります。元々ブラームスはこの曲を交響曲にするつもりで書き始めたといいますが、なるほどブラームスの交響曲であの最高の演奏を行うザンデルリンクであればこその名演奏です。僕の最も愛聴する演奏ですが、いつか正規盤が発売されて広く聴かれて欲しいものです。

51p3ar0uel__sl500_aa300_ エレーヌ・グリモー独奏、クルト・ザンデルリンク指揮シュターツカペレ・ベルリン(1997年録音/エラート盤) ザンデルリンクはこの曲を女流ピアニストのエレーヌ・グリモーとも録音を残しています。オーケストラはSKベルリンですが、またしても他の指揮者とは全く次元の違う名演奏を行っています。重圧な響きが最高で、その点ではバイエルン放送響以上かもしれません。そしてグリモーのピアノがまた本当に素晴らしいです。まだまだ若い女流奏者であるにもかかわらず、このように立派で美しく、渋みをも感じさせるブラームスを弾けるとは何とも驚きです。正規録音盤の中では僕の最も好きな演奏ですし、ルプー盤に限りなく肉薄しています。

この2つの演奏が余りにも素晴らしいので、他の演奏はどうしても分が悪くなりますが、幾つか好きな演奏が有るのでご紹介しておきます。

3201100130 ルドルフ・ゼルキン独奏、ジョージ・セル指揮クリーヴランド管(1968年録音/CBS SONY盤) 硬派の二人の組み合わせです。いかにもドイツ風の真面目なピアノのゼルキンに、少々堅苦しさは感じるものの、いつものスタジオ録音よりはずっと気合の入ったセルのオケ伴奏が聞けます。男性的で力強いですが、激しさと抒情性の両方を持ち合わせた素晴らしい演奏だと思います。ですので、これも非常に好んでいます。

Untitl3 アルトゥール・ルービンシュタイン独奏、ズービン・メータ指揮イスラエル・フィル(1976年録音/DECCA盤) これは宇野功芳先生も推薦していました。ルービンシュタイン晩年のピアノはいかにも大家らしく非常に味わいが深く、ゆったりとした気分で聴くことができます。欠点は、技術的に衰えを感じることと、少々お気楽な雰囲気で暗さに欠けること、第3楽章での迫力不足でしょうか。ですがそれらを超えた魅力を感じるので、これも大好きな演奏です。

035 イヴァン・モラヴェツ独奏、イルジー・ビエロフラーべック指揮チェコ・フィル(1989年録音/スプラフォン盤) この演奏も素晴らしく味わいが有るので大好きです。モラヴェツはチェコ出身のピアニストの中でもテクニシャンですが、それ以上に自由自在な表現でニュアンスの豊富なピアノが極めてユニークです。それは、まるで落語か講談の名人の語りを聞いているかのようです。ですが、それでいて少しもわざとらしい嫌味は感じられず、しっかりとしたブラームスの深い味わいがあります。

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2008年10月 9日 (木)

ブラームスの交響曲 愛聴盤の紹介

ブラームスの交響曲の演奏で、いくら僕がザンデルリンク/シュターツカペレ・ドレスデン盤が大好きだとは言っても、もちろん他の演奏を聴くこともあります。今日はそんな愛聴盤CDをご紹介させて頂きたいと思います。

「交響曲第1番」

第1番には案外と好きな演奏が多いのです。

416 クルト・ザンデルリンク/SKドレスデン(TDK盤) ふざけているわけではありません。これは1973年の日本公演のライヴ録音でTDKから発売されています。実演のせいかセッション録音に比べて幾分テンポのゆれを感じますが、さすがはザンデルリンクで造形を損なうようなことは全くありません。全体に高揚感も充分で、特に終楽章の盛り上がりが素晴らしいです。楽団の魅力的なことは言うまでもありません。この生演奏を聴き逃したことは悔やまれますが、当時のSKドレスデンのライブ録音が残っているのは大変有り難いです。

262カール・ベーム/バイエルン放送響(オルフェオ盤)   1969年のライブ録音で、ベームのこの曲の録音の中で最も燃えに燃えている演奏です。ある評論家が「まるで阿修羅のようだ」と記述していましたが、とても上手い表現です。老境に入る前のベームがライブでひとたび燃え上がるとどれだけ凄かったかよく分かる最高の記録でしょう。但しその分、晩年の演奏に比べて音楽の翳りにはやや乏しい面が有ります。バイエルン放送響の音色も幾分明るめに感じられますが、違和感は有りません。

Cci00014b_2 カール・ベーム/ウイーン・フィル(ドイツグラモフォン盤) 1975年の日本公演ライブです。NHKホールのこの時の演奏はオールドファンの語り草となっています。バイエルン放送響盤よりもゆったりとしたテンポでスケールが非常に大きいのですが、一方で高揚感も充分に有ります。また、ウイーン・フィルらしからぬ重圧な響きも大変魅力的です。これは偉大なベームの最上の演奏記録だと思います。NHKの録音も低域まで充実して非常に優秀ですし、個人的にはバイエルン盤以上にこのウイーン盤を好んでいます。

Cci00014_2 ウィルヘルム・フルトヴェングラー/北ドイツ放送響(ターラ盤) 1951年のライブ録音です。フルトヴェングラーのブラームス演奏はテンポを余りに揺らしすぎるので大抵の場合に曲の造詣が崩壊してしまいます。なので個人的には余り好んでいません。ところがこの演奏は例外的に余り違和感を感じません。むしろ凄い緊張感、集中力にとことん惹き付けられてしまうのです。これは本当に素晴らしい演奏です。録音は年代の標準レベルです。

241 ブルーノ・ワルター/コロムビア響(CBS SONY盤) 時にはこのような、ゆったりとした温かみの有る演奏を聴きたくなることがあります。温和な雰囲気も逆に味わい深いものです。全体のオケの音の薄さも不思議と余り気になりません。ワルターの晩年のステレオ盤では2番と3番はどうもいただけないのですが、この1番と4番はとても出来が良いと思います。

最後に大嫌いな(!)演奏についてもひとつだけ。

シャルル・ミュンシュ/パリ管(EMI盤) 宇野功芳先生が昔から推薦している演奏です。オケの派手な音(特に金管)とフィナーレの激しいアッチェレランドを聴くと腹が立つほどです。ブラームスをこんな風に演奏してもらいたくない最高(最悪の??)の見本です。一体この演奏のどこが「ドイツ風」であるのでしょうか。どうかご自分の耳で聞き比べてみて下さい。

「交響曲第2番」 

第2番には大変素晴らしい演奏があります。

Cci00003 カール・ シューリヒト/シュトゥットガルト放送響(archiphon盤) 1966年録音。大巨匠シューリヒト最晩年の貴重なライブでのステレオ録音です。この人は通常は早いテンポで颯爽としたイメージなのですが、ここではとても遅いテンポで全ての音符を慈しむように音楽を進めています。聴いていてしみじみとした味わいが胸にしみてきてたまらなくなります。第2番のこの演奏だけは、ザンデルリンク以上に好きなのです。ところがこの演奏、評論家はおろかシューリヒトファンからも全く無視されています。良い悪いといった評判すら聞いたことがありません。なぜだ!? 自分にとってはこれは音楽界の七不思議なのです。彼らが話題にするDECCAのウイーンフィル盤と比べてもブラームスとしてはこのほうが格段に素晴らしい演奏なのに・・・。どこかに誰か援軍は居ないものかなァ。尚、このarchiphon盤は既に廃盤です。現在出ているヘンスラー盤はマスタリングが高音傾向の様ですので、出来れば中古店でarchiphon盤をお探しになってみてください。

C0986599フェレンツ・フリッチャイ/ウイーン・フィル(ドイツグラモフォン盤) ライブ盤。1963年録音なのにモノラルなのが残念です。第2番だけはウイーンフィルの透明感の有る音も悪くはないです。おそらくこの曲は4曲の中でもっとも叙情的な曲想を持っているからでしょう。フリッチャイは病気治療明けに、とてつもなく良い演奏をすることが有りました。結局は若死にしてしまうのですが、長生きしてベルリンやウイーンフィルを70年代まで振り続けることが出来たらどんな演奏をしたでしょうか。本当に悔やまれてなりません。

175 オイゲン・ヨッフム/ウイーン・フィル(Altus盤) もうひとつウイーンフィルの良い演奏があります。1981年のベーム追悼演奏会のライブです。楽友協会大ホールの美しい響きを聞ける名録音だと思います。ウイーンフィルはスタジオ録音のスタンドマイク方式だと音の分離が良すぎてブラームスの厚い響きがどうしてもスカスカになりがちです。だがこの録音は音は美しいですが決して痩せていません。ウイーンフィルの音でこの曲をたっぷりと味わいたい場合には最適なディスクだと思います。ヨッフムの指揮もせかせかせずに堂々として非常に良いです。

「交響曲第3番」 

残念ですが第3番ばかりはザンデルリンク/ドレスデン以外には好きな演奏が余りありません。ドレスデンとの演奏としてもこの曲と第4番がとりわけ出来が良いので、他に気に入る演奏がどうしてもみつからないのです。近いうちに出るという、ザンデルリンクが晩年にウイーン交響楽団を振ったライブ盤は聴いてみなければならないですが。

「交響曲第4番」

第4番もザンデルリンク/ドレスデン以外にはありません、と言いたいところなのですが実は一つ有ります。

049_2 ブルーノ・ワルター/コロムビア響(SONY盤) CBS録音。いかにもワルターらしい実に滋味に溢れた演奏です。オーケストラの音は薄く、迫力や重厚とさは無縁の、言い方を変えればとても室内楽的な響きです。ですが、ロマンティックで何かとても懐かしさを感じる魅力的な演奏なのです。ですのでこれは時々聴きたくなるときがあります。ワルターのブラームスでは1番と並んで素晴らしい出来栄えだと思います。

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