ショパン(協奏曲)

2016年11月30日 (水)

ショパン ピアノ協奏曲第2番へ短調op.21 名盤 ~彼女への思いを寄せる~

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ピアノ協奏曲第1番の記事のときにも記しましたが、実際に作品が完成したのは、第1番よりもこの第2番の方が1年早い1829年です。この曲は出版されたのが第1番よりも後になったために第2番となりました。

若きショパンは既にウイーンでピアニストとして大成功を収めていましたが、本格的に作曲家としてデビューを目指すためにワルシャワに戻り、協奏曲の作曲に取り組んだのです。しかしショパンはこの時、ワルシャワ音楽院の同窓のソプラノ歌手グワドフスカに恋をしていて、親しい友人に「僕は彼女への思いを寄せるうちにアダージョ(実際は第2楽章ラルゲット)を作曲した。」と告白したほどです。

このような背景があることから、この曲にはショパンが心に秘めていた、甘くせつない、ひとり悩み苦しむ恋の香りがぷんぷんと漂っています。本当に恋は人を”詩人”に変えてしまいますね。

一般的には第1番が高く評価されているようですが、曲の魅力に於いては全く遜色がなく、むしろ第2番のほうを好む人もいらっしゃるのではないでしょうか。第1番が青春の喜びをストレートに感じさせるのに対して、第2番はずっと屈折した気分を感じさせます。

例えば第1楽章のみを比較した場合は第1番を取りたいですが、第2楽章においては甲乙がつけがたく、第3楽章ではよりショパンらしさの強い第2番を取りたいです。
このように第2番はもっとずっと演奏されてしかるべきだと思います。

ということで、ピアノ協奏曲第2番の愛聴盤をご紹介します。

Chopin418j8w7c4flアルフレッド・コルトー独奏、バルビローリ指揮管弦楽団(1935年録音/EMI盤) 録音年代は古くノイズも入りますが、モノラル録音に慣れた方なら充分に鑑賞出来ます。それよりもコルトーの演奏の表現の自在さには心底圧倒されてしまいます。『音楽を演奏する』とはどういうことか。それは音楽を鑑賞する我々に対しても深く問いかけているように思います。是非とも一度は聴いておくべき演奏です。3楽章では意外に速いテンポですが、揺れに揺れて聴きごたえ充分です。バルビローリもオーケストラを自在にコントロールしていてコルトーと同じように表現の豊かさが抜群です。

41j8z8wzcvl クララ・ハスキル独奏、マルケヴィッチ指揮コンセール・ラムルー管(1960年録音/フィリップス盤)  ハスキルは目の覚めるようなテクニックというわけでは無いですが、演奏全体に広がるしっとりとした陰りが何とも魅力です。ピアノの地味な音色も演奏スタイルにぴたりと合っています。第2楽章も淡々と進みますが、心に染み入る情感の深さは只事ではありません。問題はマルケヴィッチの指揮が男性的に過ぎてハスキルと必ずしも相性が合っていない点です。特に第1楽章でそれを強く感じます。第3楽章は落ち着いていますが揺れのあるリズム感が素晴らしく自然と弾き込まれます。

Cci00025アルトゥール・ルービンシュタイン独奏、ロヴィツキ指揮ワルシャワ・フィル(1960年録音/Muza盤) ルービンシュタインの祖国ポーランドでの演奏会での録音です。RCAへのスタジオ録音とは異なる真剣勝負の気迫が感じられます。中庸のテンポで流れの良い音楽の中で表情豊かに歌い回す名人芸が得も言われぬ魅力を湛えています。ピアノの音色もこの時代のライブとしては優れています。オーケストラの音に録音の古さを幾らか感じますが、演奏の良さから聴いているうちにそれも気にならなくなります。カップリングのブラームスの第2協奏曲の陰に隠れていますが、素晴らしい演奏です。

200751457 サンソン・フランソワ独奏、フレモー指揮モンテ・カルロ歌劇場管(1965年録音/EMI盤) 第1番との楽想の違いがフランソワに向いていると思います。1楽章から即興的な味わいが音楽に艶っぽさを与えていて大変魅力的です。こうしてツボにはまった時のフランソワは実に素晴らしいです。第2楽章の恋の甘さとせつなさの表現にも深い共感を覚えます。ああ、フレディ!恋はつらいね!3楽章に入ってもフランソワの独壇場は続きます。テンポの良さと音楽の揺れ、表情の刻々とした変化が何とも魅力的です。オーケストラの音が粗いのが欠点ですが、ピアノの素晴らしさにさほど気にならなくはなります。

Chopin_rubinsアルトゥール・ルービンシュタイン独奏、クレンツ指揮ポーランド国立放送響(1966年録音/Prelude & Fugue盤) 第1番でも紹介したルービンシュタインが祖国ポーランドで弾いたライブです。テンポの伸縮やルバートが多用されていますが、全てが自然でわざとらしさが微塵も感じられません。どの部分を耳にしても音楽に魅力が溢れていて、少しも弛緩することなく曲がどんどん進んでゆきます。ルービンシュタインのピアノは男性的で女々しさは有りませんが、音には優しさや心がこもり切っています。クレンツ指揮のオケにも情感が溢れ出ていて胸に迫ります。録音も明瞭で生々しさを感じられるのが嬉しいです。このCDはスイスのPrelude & Fugueレーベルがポーランド放送のライセンスで出した物ですが、既に廃盤なので大変貴重です。

Rubinstein_chopinslアルトゥール・ルービンシュタイン独奏、オーマンディ指揮フィラデルフィア管(1968年録音/RCA盤) 前述の66年ライブ盤から2年後のセッション録音です。ルービンシュタインのショパンが素晴らしい点では変わりありませんが、ライブにある真剣勝負の緊張感にはやはり敵いません。ピアノの音の明瞭さもむしろ66年盤の方が勝ります。オーケストラは実にシンフォニックで迫力満点ですが、ダイナミズムの変化が余りにも楽譜そのままで常套的なのが面白くありません。オーマンディのやっつけ仕事という印象です。もちろんこの演奏だけ聴けば優れた演奏なのですが、66年盤を聴いてしまってはどうしても満足し切れません。

Chopin81zfl5yitwl__sl1420_ホルヘ・ボレット独奏、デュトワ指揮モントリオール響(1989年録音/DECCA盤) 第1番では音楽が盛り上がる部分でもインテンポに徹していたので音楽が停滞していました。第2番でも基本テンポは遅めですが、音楽に流れが感じられるので改善されています。けれどもフランソワやルービンシュタインと比べると表情の豊かさに於いて一歩譲るような印象を受けてしまいます。第2楽章に関してもテンポの遅さの割には心情的に没入した感じは無く、恋のせつなさを充分に表現しているとは言えません。このオーケストラの演奏も極めてシンフォニックですが、常に醒めた雰囲気でショパンの音楽への熱い共感はほとんど感じられません。

Nakamichi_chopin334仲道郁代独奏、コルト指揮ワルシャワ国立フィル(1990年録音/BMG盤) これは非常に美しいショパンです。ハッとさせるような即興性や切れ味の鋭さはありませんが、一本調子にならない揺らぎも有りますし、音楽が盛り上がる際の感情の高まりや熱さも中々のものです。第1番では少々真面目過ぎて面白みに不足する印象を受けましたが、第2番では品の良さを失わずも、ずっと楽しめる演奏になっています。ピアノタッチの美しさや力強さも申し分のないものです。それにしてもワルシャワ・フィルのショパンの音楽への共感が溢れて美しい演奏には脱帽です。北米のオーケストラは立派でもこのような感動は決して与えてくれません。

Img_743670_39816568_2 クリスティアン・ツィメルマン独奏/指揮ポーランド祝祭管(1999年録音/グラモフォン盤) ツィメルマンが理想の演奏のためにと自分でオーケストラを編成して録音を行いました。指揮もピアノも極めて雄弁であり、余りに徹底しているので唖然とします。それは時に音楽の流れが停滞してブツ切れとなるほどです。表現意欲の過剰さには少々抵抗を感じないこともありませんが、1楽章の緊迫感ある迫力には嫌でも熱くなりますし、2楽章の美しいピアノと深々としたロマンティシズムにも強く魅了されます。3楽章は速いテンポで意外にオーソドックです。全体的にはこれだけ思い切りの良い演奏ぶりにはやはり拍手を贈りたいです。

Chopin0204スタニスラフ・ブーニン独奏、コルト指揮ワルシャワ国立フィル(2001年録音/EMI盤) 1985年ショパンコンクール優勝から16年後に日本で残したライブ録音です。第1番は札幌でしたが、第2番は東京サントリーホールの録音です。ライブ収録でも年代が新しいので音質、バランスともに良好です。ブーニンはスマートな演奏ですが、即興性や揺らぎのある表情が素晴らしいです。特質すべきは2楽章で、ロマンティックな若者の辛さ、せつなさが充分過ぎるほど感じられてすこぶる感動的です。オーケストラもワルシャワ・フィルなので単に美しいだけでなく共感一杯で素晴らしいです。但し3楽章はテンポが速過ぎるのが良し悪しで聴き手の好みが分かれるかもしれません。

Chopin713jtrghuhl__sl1050_ラファル・ブレハッチ独奏、セムコフ指揮ロイヤル・コンセルトへボウ管(2009年録音/DG盤) 新世代の優れたピアニスト、ブレハッチのライブ録音です。彼はこのCDについて『ポーランドの伝統的な演奏を聴かせたいと思った』と語っていますが、確かにアルゲリッチやツィメルマンの大げさで派手な表現とは一線を画しています。ピアノタッチは美しく、単なるスケールやアルぺッジオの部分からも素晴らしいニュアンスの変化を聴かせてくれます。2楽章の抒情性も非常に魅力的ですが、白眉は3楽章で、きりりとしたリズムで躍動感が有り、さらに音楽に揺らぎを感じさせているのが見事です。オーケストラの共感度ではポーランドの団体に一歩譲りますが、コンセルトへボウは流石に上手いです。

25785245カティア・ブニアティシヴィリ独奏、パーヴォ・ヤルヴィ指揮パリ管(2011年録音/SONY盤) パリでのライブ録音です。ブニアティシヴィリは若い世代では特に才能あるピアニストだと思いますが、パーヴォもお気に入り?のようです。ダイナミズムに微細な変化をつけるのはアルゲリッチ風ですが、それが恣意的には感じられずに長所となっています。往年の巨匠のような深い呼吸感は有りませんが、若くしてこれだけ魅力的に弾けるのは凄いです。2楽章では繊細に夢見るような静寂さを醸し出していて見事です。3楽章は速いテンポで緊迫感を持ちますが、個人的にはもう少し揺れを感じられるほうが好みではあります。パーヴォもオーケストラを入念にコントロールしてソリストを上手く引立てています。

以上から、マイ・フェイヴァリットはやはりルービンシュタインの66年ポーランドライブ盤ですが、それに匹敵する素晴らしさがブレハッチの2009年ライブ盤です。

それ以外にも良い演奏が多くありますが、中でもブーニンの東京ライブ、フランソワ、仲道郁代あたりは折に触れて聴きたくなるお気に入りです。

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2016年11月 2日 (水)

ショパン ピアノ協奏曲第1番 ホ短調  続・名盤

CDを新しく入手したものの記事にアップしていないものが相当溜まってしまいました。1~2枚であれば、その曲の旧記事に加筆しているのですが、数枚に及ぶ場合は新たに記事にします。ということで、まずはショパンから。

ショパンのピアノ協奏曲第1番は青春の息吹に包まれた美しい名曲で、音楽のシンプルさから一見飽きそうな気がしますが、僕は案外飽きもせずによく聴く曲です。
この曲は随分以前に「ショパン ピアノ協奏曲第1番 名盤」で記事にしていますが、今回は久しぶりにその続編です。どうぞごゆるりとお楽しみいただければ幸いです。

Chopin146273574760143956178ハリーナ・チェルニー=ステファンスカ独奏/ロヴィツキ指揮ワルシャワ国立フィル(1958年録音/MUZA原盤:日本コロムビア盤) ポーランドの大ベテランCステファンスカ女史の古い録音ですが、無心で聴いていると自然に引き込まれてゆき心が幸福感で満たされるという良い演奏です。誇張や大げさな表現は皆無なので、現代の挑戦的で刺激的な演奏を聴いた後だと、微温的でまだるっこく感じるかも知れませんが、このゆとりは実に得難いです。決して退屈なわけではありません。さすがにピアノの音に少々古めかしさはありますが、個人的には下手に金属的な音よりもむしろ好ましく感じます。

Chopin81zfl5yitwl__sl1420_ホルヘ・ボレット独奏デュトワ指揮モントリオール響(1989年録音/DECCA盤) 時にもたれるぐらい遅い演奏をすることがあるボレットですが、この演奏でもその片鱗は伺えます。極端に遅いわけでは無いのですが、音楽が盛り上がる部分でもインテンポに徹していて決して煽ったりはしません。デュトワもボレットのピアノに忠実に合わせています。一音一音を大切にしているのは分からなくはありませんが、音楽が停滞してしまっていては問題です。特に第3楽章に頭書に出ています。もっとも第2楽章に関しては遅いテンポが詩情を醸し出していて中々に味わい深いです。

Nakamichi_chopin334仲道郁代独奏/コルト指揮ワルシャワ国立フィル(1990年録音/BMG盤) とても美しい音で奏でられたショパンです。アルゲリッチのような切れの良さや凄みこそ有りませんが、この曲の美しさが充分に感じ取れます。オーケストラがワルシャワ・フィルというのもアドヴァンテージです。祖国の生んだ偉大な音楽家への共感に満ち溢れていますし、ピアノと管弦楽が美しく溶け合ったまろやかな響きに思わずうっとりとさせられます。往年の巨匠や鬼才の演奏ばかりでなく、時には日本のピアニストの優れた演奏を聴いてみるのも「目から鱗」でとても楽しいものです。但し、しいて言えばピアノも指揮も少々真面目過ぎて面白みに不足するのが玉に瑕です。

Chopin0204スタニスラフ・ブーニン独奏/コルト指揮ワルシャワ国立フィル(2001年録音/EMI盤) ブーニンは1985年ショパンコンクール優勝時のライブが非常な秀演でした。それから16年後に再びライブ録音を札幌で残しました。相変わらず見事な演奏で大きく変わることは有りませんが、ひたむきさがより多く感じられるのは旧盤のように思います。新盤には逆に余裕が感じられますが、どちらを好むかは聴き手次第というところです。オーケストラ演奏はどちらもワルシャワ・フィルで優れていますが、個人的には旧盤の方により強く惹かれます。どちらにしてもブーニンのショパンは素晴らしいです。

Chopin713jtrghuhl__sl1050_ラファル・ブレハッチ独奏セムコフ指揮ロイヤル・コンセルトへボウ管(2009年録音/DG盤) ずっと若い世代の優秀なピアニスト、ブレハッチもまたライブ録音です。ブレハッチは極めてオーソドックスでポーランドの伝統を強く感じさせます。曲のメロディアスな部分をそれほど大げさに歌うわけではなくむしろあっさりと流しますが、連続するスケールやアルぺッジオの部分から驚くほど豊かなニュアンスの変化を聴かせてくれます。これは高い技術に裏付けされているのでしょうし、正に新世代の才能輝くといった感が有ります。コンセルトへボウはもちろん非常に上手いオーケストラですが、音が重過ぎるのと、音楽への共感度においてはやはりワルシャワ・フィルに及ばないように感じます。

この曲のマイ・フェイヴァリットは何といってもルービンシュタインの1966年ワルシャワ・ライブですが、続くブーニンの1985年ライブに加えて、これからはブレハッチ盤を頻繁に聴きたくなりそうです。

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2010年11月21日 (日)

ショパン ピアノ協奏曲第1番 ホ短調op.11 名盤 ~青春の旅立ち~ 

Chopin00 若きショパンが故郷ポーランドを離れパリへと向かう旅立ちの直前に書かれたのがピアノ協奏曲第1番ホ短調です。実際に書かれたのは第2番ヘ短調のほうが早いのですが、第1番が先に出版されたためにこの番号となりました。

ピアノ協奏曲第1番の演奏には、男性的な力強さと女性的な優しさの両立が要求されると思います。また、ショパンは管弦楽パートの扱いが未熟だと言われますが、瑞々しく美しい曲想そのものは大変に魅力的だです。そうなると当然のことですが、ピアノ独奏とオーケストラ伴奏の両方の演奏が良くないと物足りなくなります。意外とバランスが難しい曲であると思います。

この曲の愛聴盤については、以前の記事「ルービンシュタインのワルシャワ・ライブ」でご紹介したことが有ります。ショパンと同じポーランド出身の巨匠ルービンシュタインが、祖国ポーランドを長く離れて再びワルシャワに戻って行った歴史的演奏会のライブであって、極めて感動的です。今回は、その演奏も含めて愛聴盤を順にご紹介します。

4107071255 ディヌ・リパッティ独奏、アッカーマン指揮チューリッヒ・トーンハレ管(1950年録音/EMI盤) 伝説の名ピアニスト、リパッティのチューリッヒでのライブ演奏です。録音は良くないのですが、演奏の個性で忘れることができません。大抵は端正な演奏をすることが多いこの人が、ゆったりとした部分では驚くほどロマンティックに歌い上げています。それが真にリパッティの心から湧き出た感情なので実に説得力が有ります。不自然な印象は全くありません。但しオケ伴奏は平凡です。

20100907103639bc8 マウリツィオ・ポリーニ独奏、クレツキ指揮フィルハーモニア管(1960年録音/EMI盤) 現役のポリーニですが、’60年のショパンコンクールに優勝した18歳の時の録音です。技巧的には既に完璧と言えますが、余りに堅実、端正な演奏なので、面白みは少ないです。後にグラモフォンにエチュードの超演を録音した頃に残してくれたら、ずっと魅力的な演奏になったと思います。この演奏は一つの記録として楽しみましょう。ステレオ初期の録音なので、ややピアノの音に明快さを欠きます。

Rubinstein_chopinslアルトゥール・ルービンシュタイン独奏、スクロヴァチェフスキ指揮ロンドン新交響楽団(1961年録音/RCA盤) ルービンシュタインのショパンは素晴らしいです。ことさら大げさに構えるわけではなく、一見淡々と弾いているように見えても、長年のキャリアにおいて数えきれない回数を演奏したであろう曲を慈しみにも似た愛情をひしひしと感じさせてくれます。確かに「現役の青春」ではなく「過ぎ去った遠い昔の青春」という風情なのですが、それはそれを聴いている自分の年齢とも重なり合うので余計に共感を覚えてしまいます。この演奏に比べれば、ポリーニもアルゲリッチもまだまだ尻が青いというところでしょうか。

41j8z8wzcvl ニキタ・マガロフ独奏、ベンツィ指揮コンセール・ラムルー管(1962年録音/フィリップス盤) マガロフはロシア出身ですが、貴族の出身であったので、革命の際にパリに逃れ、その後スイスで活動しました。特にショパンを得意としました。テクニックは確かですが大げさな表現や派手さは有りません。この演奏もイン・テンポで端正に弾いています。情緒に溺れることは無いのに、味わい深く感じるのは中々の名人芸です。タッチも美しいですし、聴くごとに味の出る演奏だと思います。

200751457 サンソン・フランソワ独奏、フレモー指揮モンテ・カルロ歌劇場管(1965年録音/EMI盤) この曲の第1楽章は長いオーケストラの序奏で始まりますが、オケの音が粗く聞こえます。これは少なからずマイナスです。フランソワのピアノは驚くほどの大見得を切って開始されますが、ここはどうも音楽に入って行けません。余りに大げさに過ぎるからです。ところが聴き進むうちに、即興的でロマンティックな味わいに徐々に惹きつけられてしまいます。更に2楽章に入ると心を込めた演奏に益々惹かれます。3楽章では再び揺れの大きさを感じますが、ここは曲想のせいか洒落っ気がとても楽しめます。全体に余り”青春”を感じさせませんが、個性的な演奏で捨て難い魅力が有ります。

Img_1417901_56162883_0 マルタ・アルゲリッチ独奏、ロヴィツキ指揮ワルシャワ国立フィル(1965年録音/DENON盤) これは’65年のショパン・コンクールでのライブ演奏です。若きアルゲリッチのピアノはとても素晴らしいです。後年のようなわざとらしい表現は全く無く、己の本能の命ずるままに奏でている印象です。非常に感動的な演奏です。元々はこれほどの感受性と技術の持ち主なのに、年齢と共に彼女のスタイルは徐々に変わっていってしまいます。この演奏はライブなので、1楽章のオケによる美しい序奏部分が大幅に短縮されてるのが大きなマイナスです。僕はここが大好きなので残念です。

Chopin_rubinsアルトゥール・ルービンシュタイン独奏、クレンツ指揮ポーランド国立放送響(1966年録音/Prelude & Fugue盤) ルービンシュタインが祖国ポーランドで弾いたライブです。この人は、スタジオ録音だとどうもサロン的とでも言える演奏をする傾向がありますが、祖国の聴衆を前にした実演では真剣勝負で演奏していて実に感動的です。クレンツ指揮のオケも導入部から心がこもっていて最高です。ルービンシュタインのピアノは若々しく男性的で、心がこもり切っています。基本テンポは崩さず、ここぞというところでルバートさせるので、その真実味が聴き手の胸に深く響きます。この素晴らしいCDはスイスのPrelude & Fugueレーベルがポーランド放送のライセンスで出した物ですが、既に廃盤なのが惜しまれます。

Argerich マルタ・アルゲリッチ独奏、アバド指揮ロンドン響(1968年録音/グラモフォン盤) ショパン・コンクールから3年後のスタジオ録音です。アルゲリッチは3年前よりも表現の幅が広がった印象ですし、後年の演奏のわざとらしさは感じさせません。’65年ライブほどの高揚感は無いものの、完成度という点では上だと思います。アバドの指揮は繊細、丁寧によく歌おうとしていますが、時に粘り過ぎて流れの悪さを感じる時があります。

512rsdoqswl__sl500_aa300_ 中村紘子独奏、ロヴィツキ指揮ワルシャワ国立フィル(1970年録音/CBSソニー盤) アルゲリッチ優勝の’65年ショパン・コンクールで4位に入賞した中村紘子が、コンクールの際に伴奏を務めていたロヴィツキ/ワルシャワ・フィルと5年後に録音をした演奏です。タッチは力強いですが、まだ粗削りな印象が多少あります。けれども若々しい勢いがあるので、聴いているうちに惹き込まれていきます。それに彼女の余り難しいことを考えないストレートさがこの曲の場合はむしろプラスになっている気がします。オケ伴奏はもちろん非常に美しいです。

41kznpi8vtl__sl500_aa300_ 中村紘子独奏、フィストラーリ指揮ロンドン響(1984年録音/CBSソニー盤) 上述盤から14年後の再録音です。すっかり円熟した印象です。フォルテの音は相変わらず力強いですが、タッチがずっと洗練されました。粗さも感じさせません。もちろんこの人にはアルゲリッチのような天才的な閃きは有りませんが、くせのない美演ということでは中々の水準だと思います。もっとも完成度は新盤のほうが高いのですが、個人的には演奏に勢いのある旧盤のほうを好んでいます。

C10217 スタニスラフ・ブーニン独奏ストゥルガーワ指揮ワルシャワ国立フィル(1985年録音/CAPRICCIO盤) ブーニンがショパン・コンクールに優勝した時のライブ録音です。’65年のアルゲリッチも素晴らしかったですが、ブーニンも素晴らしいです。安定したテクニックと感受性でショパンの青春を余すところなく表現仕切っていると思います。即興的にニュアンスの変化を多くつけているにもかかわらず、音楽の流れを損なうことが全く有りません。あれだけの一大ブームを起こして当然の才能溢れる新人だったことが今更ながら良く分かります。躍動感が素晴らしい終楽章終了後の聴衆の拍手も凄まじいです。ワルシャワ・フィルの伴奏も非常に素晴らしいです。

834マルタ・アルゲリッチ独奏、ラヴィノヴィチ指揮シンフォニア・ヴァルソヴィア(1999年録音/accord盤) ワルシャワでのライブ演奏です。アルゲリッチのこの曲の録音は他にも沢山有っていちいち全部は覚えていませんが、これはユニークな演奏です。彼女とラヴィノヴィチの共演は10年ほど前に東京でベートーヴェンの2番の生演奏を聴いていますが、表現意欲の大きさに驚きました。その点で二人の相性は最高です。あとは好き嫌いの問題です。自分としては、この恣意的な表現に一種の”あざとさ”を感じるので、それほどは好みません。2楽章の即興的に弾かれるピアノは非常に美しいですが、終楽章の急き込むようなリズムの崩しには抵抗が有ります。

Img_743670_39816568_2 クリスティアン・ツィメルマン独奏/指揮ポーランド祝祭管(1999年録音/グラモフォン盤) ツィメルマンは既に2度の録音を残していますが、理想の演奏のために自分でオーケストラを編成して再録音を行いました。アルゲリッチ盤のラヴィノヴィチも雄弁でしたが、ツィメルマンの指揮はそれ以上に雄弁、徹底していて呆れるほどです。序奏の音楽の流れは悪くフレーズがブツ切れです。ピアノも同様で、表現意欲過剰の演奏には少々抵抗を感じますが、やはり専門のせいか、中々に面白く聴けます。沈滞する部分の雰囲気も深いです。2楽章はピアノもオケもリリシズムが大変に美しいです。終楽章はテンポの揺れはありますが、抵抗無く切れの良いピアノタッチを楽しめます。

41fb9hrsvcl__sl500_aa300_ ジャン‐マルク・ルイサダ独奏、ターリッヒ弦楽四重奏団(1998年録音/RCA盤) このディスクは実に面白いです。オーケストラ伴奏では無く、ピアノ六重奏版の演奏だからです。単独の弦楽器が奏でる旋律の表情の豊かさと繊細さは、ちょっとオケでは再現不可能です。ルイサダも元々繊細なピアノを弾く人なので、この編成に適しています。実にニュアンスが豊かですが、表情過多に感じることは有りません。美しいタッチで瑞々しさを失わずに、共感を込めて奏でています。しばしば見せる弦楽とのからみが、何と美しいことでしょう。2楽章などはまるで夢を見ているようです。

ということで、ルービンシュタインの’66年ライブは別格として、特に好きな演奏を上げると、同じルービンシュタインの’61年RCA盤とブーニンの’85年ライブです。番外としては、ルイサダのピアノ六重奏盤でしょうか。アルゲリッチの’65年ライブは1楽章序奏部のカットが大きなマイナスなのですが、彼女のピアノを聴くならこれが一番好きです。

余談ですが、色々と聴き比べて一つ感じるのがワルシャワ・フィルやポーランド放送響の演奏が実に素晴らしいことです。昔から何度も何度も繰り返して演奏してきたことと、何と言ってもショパンと同郷の血の共感が有るからでしょうね。

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2010年11月18日 (木)

ショパン・コンクール2010 受賞記念コンサート ユリアンナ・アヴデーエワ

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ショパン生誕200年記念の今年は、5年に一度開催されるショパン・コンクールの年でもありました。今回の優勝者はロシア出身のユリアンナ・アヴデーエワ嬢です。彼女の受賞記念コンサートの曲目は、通例のピアノ協奏曲第1番です。その演奏は、コンクールのホームページで全曲を通して聴くことが出来ます。聴いてみましたが、やはり素晴らしい演奏ですね。テクニックはもちろん確かなのですが、驚くほどの切れ味とか凄みとかは余り感じません。ハッタリの無いとても堅実な弾き方です。けれども歌いまわしに関してはものすごく繊細です。しばしば登場する、大きなルバートをかけてじっくりと聴かせる部分などは思わず涙腺が緩んでしまいました。こういう表現が自然に感じられる演奏って、相当なベテランでも中々に難しいと思いますが、若い彼女はそれをさらりとやってのけます。今後とても注目したいピアニストが現れたような気がします。

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2008年9月20日 (土)

ショパン ピアノ協奏曲第1番&第2番 ルービンシュタインのワルシャワ・ライブ ~隠れ名盤~

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今年の夏も終わりました。まだ秋というのには少々早い気もしますが毎日確実に涼しくなっています。今年もまたむし暑くなった6月頃からはボヘミア音楽ばかりをよく聴いたものです。でもさすがにそろそろ飽きてきました。(^^)  これから秋も深まってくるとブラームスがとにかく良い季節なのですが、今ごろはまだ中途半端な時期です。そこで今ごろ聴くのに丁度良いのがショパンです。僕はショパンを一年通して聴くことは無いのですが、時々聴きたくなる時期があります。

ショパンはソナタ2番、3番も好きですし、プレリュードもワルツもマズルカも良いです。そしてコンチェルトもとても好きです。実はこのコンチェルトには宝物のような演奏が有ります。アルトゥール・ルービンシュタインが祖国ポーランドで1966年に弾いたライブの第1番と第2番です。両方とも実に良い演奏ですが1番が特に素晴らしいのです。この人はRCAに相当な量の録音を残していますが、スタジオ録音だとどうもサロン的とでも言うかお気軽に弾く傾向にあります。上手いのですが、何となく(気分的に)余裕があり過ぎるのです。その点ライブ、とくに祖国の聴衆を前にした時の演奏では遥かに真剣勝負で弾くので本当に素晴らしいです。

この演奏は伴奏がヤン・クレンツ指揮ポーランド国立放送交響楽団です。まず第1番の導入部のオケ演奏から心がこもっていて実に良いのです。この曲のオケ伴奏のなかでも一番好きなほどです。そしていよいよルービンシュタインの登場なのですが、これがまだまだ決して枯れてなどいなくて若々しく男性的で少しも女々しくありません。それでいて心がこもり切っています。この演奏を聴くと、アルゲリッチやツィマーマンはもちろん、ルイサダ(の6重奏版は大好きなのですが・・・)ですらわざとらしく聞えてしまいます。表情づけが少々多すぎるのです。ルービンシュタインは過度に崩さず、本当にここぞというところでルバートさせます。それが演出ではなく心からのものなので聴き手の胸に響くのでしょう。但しスタジオ録音の場合だと、なかなかこういう感動は沸いて来ません。

2番には1960年に同じワルシャワで弾いた録音も有ります。そちらはロヴィツキ指揮ワルシャワ・フィルの伴奏でした。演奏はどちらも素晴らしく互角というところです。

このCDはスイスのPrelude & Fugueというレーベルがポーランド放送のライセンスで出した物で、現在も出ているかどうかは判りません。だから余計に僕のお宝盤なのです。スイスのレーベルだけあってCDジャケットに自国の画家パウル・クレーの絵を使っていますが、この演奏にふさわしいとても素適な絵です。

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