2017年3月12日 (日)

ルッツ・レスコヴィッツ ヴァイオリン・リサイタル

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昨日は”第37回プリモコンサート”として、オーストリアの巨匠ヴァイオリニスト、ルッツ・レスコヴィッツさんのヴァイオリン・リサイタルが開催されました。ヴァイオリン・リサイタルと題されてもピアノトリオが2曲も演奏されるという豪華なプログラムです。

普段からルッツさんのデュオを務めるピアニストの長谷川美沙さんに加えてチェリストの大島純さんが加わり、東京では初のピアノトリオが演奏されました。

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シューベルトとブラームスのヴァイオリンソナタ、それにハイドンとメンデルスゾーンのピアノトリオと、ドイツ・オーストリアの大作曲家たちの名曲をたっぷりと素晴らしい演奏で聴かせてくれましたのでお客様も皆さん大満足されました。

特にプログラム最後のメンデルスゾーンは、スケール大きくロマンティシズム一杯に演奏されて圧巻でした。ルッツさんのストラディヴァリウスに大島さんのチェロが重なり合う見事なハーモニーにはしばし言葉を失いました。

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2017年3月 5日 (日)

ドヴォルザーク 弦楽四重奏のための「糸杉(Cypresses)」 名盤

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ドヴォルザークは弦楽四重奏曲も多作で全部で14曲を書きました。ボヘミアの爽やかさを感じるような魅力作が並びますが、さすがに最高傑作の「アメリカ」のレベルを期待すると拍子抜けする恐れが有ります。それよりもむしろ僕が惹かれているのは”弦楽四重奏のための「糸杉」”という番号無しの作品です。

ドヴォルザークは青年時代、音楽学校を卒業後、オーケストラのヴィオラ奏者を務めていましたが、その仕事の合間にチェルマーコヴァ家の二人の娘さんの音楽教師となります。そこで姉のヨゼフィーナに恋心を抱くのですが見事に失恋してしまいます。

そこでドヴォルザークは失意のうちに、当時プラハで出版されていたモラフスキーの詩集「糸杉」を題材とした18曲の歌曲集を作曲します。詩の内容は絶望と悲しみに満ちていて、終曲では「この苦しみが自分の故郷となる」という悲痛さの中で終わります。

ところが、彼は後にヨゼフィーナの妹であるアンナと結婚をするわけですから、アントンくんも中々やりますね。どうしてどうして”女性”には案外逞しかったようです。少なくとも生涯独身のブラームス先生を越えています(?)。

当時24歳だったドヴォルザークが書いた歌曲集「糸杉」は、友人の作曲家のカレル・べンドルに献呈されましたが、余り評価をされなかったので、後に改定を加えて「4つの歌 作品2」「愛の歌 作品83」の別の歌曲に編曲しました。

更に歌曲集の作曲から22年後、46歳となったドヴォルザークが弦楽四重奏用に編曲した12曲がこの「糸杉」という作品です。

各曲のタイトルは以下の通りです。

  1. 私は甘い憧れに浸ることを知っている
  2. 死は多くの人の心をとらえる
  3. お前の優しい眼差しに魅せられて
  4. おお、私たちの愛は幸せではない
  5. 私は愛しいお前の手紙に見入って
  6. おお、美しい金の薔薇よ
  7. あの人の家の辺りをさまよい
  8. せせらぎに沿った森で
  9. おお、ただ一人の愛しい人よ
  10.そこに古い岩が立っている
  11.この地にさわやかな西風が吹き
  12.私の歌がなぜ激しいか、お前は尋ねる

どの曲も3分前後の短い曲ですが、元々が歌曲であるだけにどの曲もとても情緒的な美しい旋律を持っています。甘く恋を歌う曲も有れば、悲しみに包まれた曲も有り、ドヴォルザークの才能が既に明確に表れています。

現在では「糸杉」と言えば、むしろ弦楽四重奏版の方が取り上げられることが多いようです。実際にCDも複数出ていますが、原曲の歌曲の方は余り取り上げられていません。

ところで、Cypressの語源ですが、ギリシア神話で美少年キュパリッソが姿を変えられたのが糸杉だとされていることから、この名が付きました。キプロス島の名前もここからとされています。

糸杉はヒノキ科の木で、欧米では街路樹や建築資材に多く使われますが、キリストがはりつけにされた十字架がこの木で作られたという言い伝えがある為に、花言葉は「死」「哀悼」「絶望」であり、死や喪の象徴とされます。
これで歌曲集の意味がよくお解りでしょう。

それではCDのご紹介です。

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プラハ弦楽四重奏団(1973年録音/グラモフォン盤) 
これは彼らのドヴォルザークの弦楽四重奏曲の全集盤に含まれている演奏で、単売されていないのが残念です。けれども演奏は非常に素晴らしく、僕はこの演奏が最も気に入っています。何といっても第1ヴァイオリンのブジェティスラフ・ノヴォトニーの歌い回しが絶品で、この曲の持つ数々の美しい旋律から優しさや愛の悲しみを余すところなく表現し尽くしています。ボヘミアの情緒もこぼれ落ちそうです。

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パノハ弦楽四重奏団(1994年録音/スプラフォン盤)
パノハ四重奏団の演奏も素晴らしいです。彼らも弦楽四重奏の全集盤を完成させていて、その中に含まれますが、単売もされています。ちなみに自分が所有しているのは後期作品を集めた3枚セットです。第1ヴァイオリンのイルジー・パノハに代表されるいかにも”チェコの弦”の特徴である、しなやかで美しい音がどの曲においても楽しめます。愛を失った悲しみに溢れるこの愛すべき曲にふさわしい慈愛に満ちた名演奏だと思います。

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プラハ・ヴラフ弦楽四重奏団(1996年録音/NAXOS盤)
単品で手軽に購入されたい場合にはこちらがお勧め出来ます。廉価盤と侮ることなかれ。本場チェコの団体が行った全曲録音の中の1枚で、彼らはメジャーレーベルの演奏団体と比べて少しも遜色の無い充分な実力を持っています。楽器の音色も綺麗です。彼らの歌い回し、表現そのものは控え目で奥ゆかしさを感じますが、それは目の前の悲しみに”立ち向かう”というよりも”そっと寄り添う”というイメージです。けれどもここぞという場面ではしっかりと悲痛な叫びを上げています。

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2017年3月 1日 (水)

ドヴォルザーク 弦楽四重奏曲第12番ヘ長調 op.96「アメリカ」 名盤

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一般的に”渋い”イメージの有る弦楽四重奏曲ですが、その中でもポピュラーな曲の筆頭格なのがドヴォルザークの第12番「アメリカ」ですね。

それほど人気の高い曲の「名盤」を今まで何故記事にしなかったのかと言えば、スメタナ四重奏団の演奏する「アメリカ」を記事にしていたからです。完全無欠の彼らの演奏は極論を言えば、それだけで事は足ります。けれども、それではあんまりですし、他にも名演奏が無いわけではありません。そこで、彼らの演奏を含めて「名盤」を記事にすることにしました。

ドヴォルザークは弦楽四重奏曲を全部で14曲書きましたが、その最高傑作が「アメリカ」です。プラハからニューヨークに渡ったドヴォルザークが最初に書いた大作は交響曲「新世界より」ですが、そのすぐ後に音楽院の夏季休暇に入ったので、チェコからの移民が多く暮らすアイオワ州のスピルヴィルで過ごし、約2週間で書き上げたのが「アメリカ」でした。

もっともドヴォルザーク自身はこの曲に副題は付けていません。かつては「ニガー」(黒人の俗称)などと呼ばれもしましたが、現在では「アメリカ」と呼ばれています。

「新世界より」と「アメリカ」は、どちらも黒人やインディアンの民謡の影響を受けた共通点が有りますが、ニューヨークで書かれた「新世界より」と、ボヘミア移民の村で書かれた「アメリカ」とは幾らか趣の異なりが感じられるかもしれません。

この曲は全楽章が魅力に溢れていますが、第1楽章のドラマティックな曲想の変化、第2楽章の美しい旋律による痛切な寂寥感が特に印象的です。それを受ける第3楽章、第4楽章も比較的シンプルながら民謡調の動機が小気味良く流れて行くので飽きることが有りません。正に”旋律家”ドヴォルザークの面目躍如というところです。

ところでドヴォルザークが大変な鉄道マニアであったことは有名な話で、汽車に乗ってはその走行する音を楽しんでいたのだそうです。そんな汽車のリズムが第4楽章からはっきりと聞き取れると思います。シュッシュポポ、シュッシュポポ、とね。

それでは、まずドヴォルザークと同郷のチェコの団体が演奏するCDからご紹介します。

Amerikano10695ヤナーチェク弦楽四重奏団(1962年録音/DECCA盤) 彼らはこの当時、スメタナ四重奏団よりも人気が高かったと思います。このカルテットの魅力は一にも二にも第1Vnのイルジー・トラヴニチェクにあります。表情豊かで濃厚な歌い回し、切れの良さが迫力を生み、いかにも民族的な土の香りに溢れています。それが音楽への共感に溢れているので少しもわざとらしさが感じられません。他の三人の表現がトラヴニチェクには及びませんが、これはまだ第1ヴァイオリン主導型のスタイルが全盛の時代だったからなのでしょう。トラヴニチェクは残念なことに1973年に急死してしまい、メンバーも交代して実力はともかく、それまでの名声は保てなくなりました。

41zm8h2t6al__sl500_aa300_ スメタナ弦楽四重奏団(1966年録音/EMI盤) 彼らは「アメリカ」を全部で5回録音しています。時代と共にスタイルは少しだけ変りますが、全て名演です。このEMI盤は非常にスタイリッシュな演奏で、後年のライブ録音のようなルバートや音のタメは有りません。ですのでドラマティックさは余り強く感じません。けれども音には非常にしなやかさがありますし、切れの良さや流れの良さが格別です。技術的にも全盛期にあり完璧です。第1ヴァイオリンのノヴァークも上手いのですが、第1楽章第1主題を弾くヴィオラのミラン・シュカンパの魅力は惚れ惚れするほどです。ヤナーチェク四重奏団のような強い個性は有りませんが、やはり好きな演奏です。

Amercans51jvz5egcclプラハ弦楽四重奏団(1973年録音/グラモフォン盤) 1956年にプラハ交響楽団の首席ヴァイオリニスト、ブジェティスラフ・ノヴォトニーを中心に結成された団体ですが、グラモフォンの全集録音に抜擢されました。全集を残していないヤナーチェクQやスメタナQが取り組めばそれ以上の出来栄えの全集が生まれたことと思いますが、歴史は変えられません。ノヴォトニーの弾き方がスタッカート気味で、やや弾み過ぎる傾向にあるのが時に気になりますが、全体的には土の香りのする演奏で情緒表現も豊かですので不満は有りません。CDでは単売されておらず、全集で購入するしか無いのが不便ですが、他の曲も聴いてみたいと思う方にはお勧めします。

Cci00029スメタナ弦楽四重奏団(1980年録音/DENON盤) 彼らの録音の中でも特に素晴らしいのは4回目の1980年の日本ツアーの際に神戸文化会館で残したライブ盤です。まだ技術の衰えは感じませんし、時に大きなルバートや音のタメが見られる、彼らとしては最もドラマティックに歌わせた演奏です。とは言え、彼ららしく基本的には端正で、過剰に弾き崩したりはしません。このCDはこともあろうに廃盤扱いです。中古店では時々見かけますので、「アメリカ」やスメタナ四重奏団がお好きな方には是非ともお聴き頂きたいと思います。

307スメタナ弦楽四重奏団(1987年録音/DENON盤) 彼らは晩年にもプラハの芸術家の家でスタジオ録音を行いました。80年の神戸ライブに比べると、技術的にはだいぶ衰えを感じます。特に第1ヴァイオリンのノヴァークにそれを感じてしまいます。またアンサンブルとしても明らかに結晶度が落ちています。しかし、それではこれがつまらない演奏なのかと言えば、全くそんなことは無く、もしも80年盤が存在しなければ、こちらを代表盤としても十分に通ります。彼らのドヴォルザークの演奏は、どれもが本当に素晴らしいです。もし「新世界より」で例えてみるとすれば、王道をゆくヴァーツラフ・ノイマン/チェコ・フィルの演奏というところでしょう。

Amerikan040パノハ弦楽四重奏団(1994年録音/スプラフォン盤) チェコのヴァイオリニスト、イルジー・パノハをリーダーに1968年に結成された団体です。彼らの全集盤からの演奏ですが単売もされています。いかにもチェコの団体らしいしなやかで美しい音を持ち、どこかで素朴さ感じさせます。但し、かつてのスメタナQやヤナーチェクQのような貫禄は無く、どうしても小粒に感じてしまうのが残念です。ヴィオラ奏者がやや弱いのもマイナスです。それでも一貫してこの美音と高レベルの演奏が聴けるのであればむしろ全集盤の価値が高いように思います。

続いてはチェコ以外の団体のCDです。

Amerikan882ウイーン・コンツェルトハウス四重奏団(1962年録音/DENON盤) ウエストミンスターへの数々の録音で今でも人気の高い彼らですが、ウイーン・フィルが日本に来た時に日本コロムビアによってステレオ録音が残されているのは奇跡です。この団体もまた第1ヴァイオリンのアントン・カンパ―の魅力が際立ちますが、このとき第2ヴァイオリンを担当したワルター・ウェラーも秀逸です。カンパーは既にかなり体力を落としていて、この後直ぐに亡くなるのですが、いざ録音を開始すると別人のように毅然と演奏をしたそうです。彼らの甘くたっぷりとした歌い回しは最高で、ダイナミクスと優雅さが共存した素晴らしい演奏です。「新世界より」であれば、これはさしずめイシュトヴァン・ケルテス/ウイーン・フィルの演奏です。

Amerikansimジュリアード弦楽四重奏団(1967年録音/CBS SONY盤) この団体は音楽的には第1ヴァイオリンのロバート・マン主導の古い専制君主型なのですが、いかんせん他のメンバーも技術が非常に高いので四者均等型のように聞こえます。各パートの音はバランス良くすこぶる立体的に構築されていて、一聴したところはクールで緻密な演奏のように感じますが、中々どうして歌からは郷愁が強く訴えかけられて来ます。しかし全体からは田舎の素朴さよりも大都会に建ち並ぶビルディングを想わせます。これは「新世界より」ならジョージ・セル/クリーヴランド管の演奏というところです。

ということで、「アメリカ」のマイ・フェイヴァリットは何を置いてもスメタナ四重奏団の1980年神戸ライブですが、ヤナーチェク四重奏団、更にはウイーン・コンツェルトハウス四重奏団、ジュリアード四重奏団も外せません。

<注記>
スメタナ四重奏団のCD紹介内容は過去の「スメタナ四重奏団の忘れられない思い出」からの抜粋です。ほぼ重複していることをお断りしておきます。

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2017年2月15日 (水)

ドヴォルザーク 交響曲第9番「新世界より」 再聴盤あれこれ

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”新世界交響曲”はニューイヤーコンサートでよく演奏されますね。新しい世界に足を踏み出すことが、新たな年の一歩に結び付けられるからでしょうね。

それにしても、これほど解かり易く魅力的な曲も珍しいです。僕自身も一番最初に好きなったクラシック音楽ですし、これからクラシックを聴いてみたいという方には真っ先にお勧めしたい曲です。

ですので、これまで色々なレコードやCDを聴いて来ました。そのうちの、お気に入りのディスクに関しては、ドヴォルザーク交響曲第9番「新世界より」名盤隠れ名盤マッケラスのライヴ盤でご紹介しましたが、それらのほとんどはチェコもしくはスロヴァキアのいわゆる本場もののオーケストラ、指揮者の演奏でした。

その本場もの嗜好は今でも全く変わりませんが、年齢を重ねてゆくと人間、段々と丸くなるようで(体形の話ではありませぬ!)、世評に高い演奏でありながら、余り好きになれなかったものを改めて聴いてみようかという気になりました。但し一度レコードやCDを手放していますので再購入が必要でした。

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ジョージ・セル指揮クリーヴランド管(1959年録音/CBS盤)
 セルのCBS時代のセッション録音は概して精密ながら「機械的」で整い過ぎているのが面白くないというのが、かつての自分の印象でした。しかし好きな人は非常に好き。ということで再聴です。あっさりと始まる冒頭で「やはり・・・」と思いかけてみたものの、主部に入ると速いテンポで颯爽と飛ばします。よく”室内楽的”と評されるように各パートが緻密で正確無比です。そして剣の達人のごとき最高の切れ味で聴き手を圧倒します。全く何というオーケストラなのでしょう。けれど演奏に血が通っていないかというとそんなことは無く、意外にも熱い血潮が流れています。いい例が第2楽章で、テンポは速めでも豊かな情感を感じさせます。演奏には哀愁が迸っています。そういえばセル自身はハンガリー人ですが、母はスロヴァキア生まれなのでやはり影響は有るのかもしれません。後半3楽章のリズムの切れ味は最高、4楽章に入ると更に高揚感が増してゆき、これを単に「機械的」だなどという軽い言葉で済ますのは大きな誤りであることが分かります。基本はインテンポでも、ここぞというところでテンポを落すのが非常に効果的なのはトスカニーニと似ています。

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レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィル(1962年録音/CBS盤)
 これは昔アナログ盤で愛聴した演奏でしたが、セルとは全く正反対のスタイルです。テンポは遅い部分と速い部分の差が非常に大きいので、現在聴くとそのアクセルとブレーキの切り替えの多さに車酔いを起こしそうです。たたみ掛ける迫力は凄いですし、更にダイナミクスの変化も大きいので、正に山あり谷ありのバーンスタイン・ワールドというところです。これがレニー得意のマーラーにおいて絶大な魅力となるのですが、ドヴォルザークではもう少しシンプルな進行が望ましいと思います。どうしても自分にはレニーの独りよがりの解釈に感じられてしまうのです。ニューヨーク・フィルも、ここでは幾らか雑な仕上がりに聞こえる部分も有りますが、これは当時レコーディングが目白押しだった弊害だと思います。

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イシュトヴァン・ケルテス指揮ウイーン・フィル(1961年録音/DECCA盤)
 これは録音当時、飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍をしていたケルテスの代表盤のひとつで、現在でも非常に人気の高い演奏です。テンポの大きな変化、ダイナミクスの巾の大きさはバーンスタインと共通しますが、レニーがやや唐突感を感じてしまうのに対して、ケルテスは若いながらも計算され尽くした演奏である印象を受けます。チェコ出身の指揮者ではここまで自在な指揮はまずしませんが、好みは別として”天晴れ”を送りたいです。良く言われるように若手にもかかわらずウイーン・フィルを手綱で絞めて引き摺り回し、快演させること自体大変凄いことです。当時のウイーン・フィルの音色も都会的でなく田舎臭さを大いに残しているのは大きな魅力です。それでいて弦の音色などはまるで美しいシルクの印象を与えます。デッカの録音はとても聴き易く、古めかしさを感じないばかりか、アナログ的な柔らかさが心地良さを与えてくれます。

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ヴァーツラフ・スメターチェク指揮プラハ放送響(1966年録音/PRAGA盤)
 奇しくも昨年亡くなられた宇野功芳先生の推薦盤がケルテス、スメターチェクと続きます。これは”本場もの”の演奏ですね。実は、このCDも昔手放したもので、その後に随分とプレミアが付いたので再購入を躊躇していましたが、ようやくリーゾナブルな価格で入手できました。スメターチェクは元々ストレートで思い切りの良い直情的な演奏をしますが、そこに熱い血潮が感じられるのが宇野先生の好みであったようです。この演奏はプラハでのライヴなのでその傾向は明確です。洗練されていないオーケストラを熱くドライブさせて楽しませます。しかしオケの響きは薄めで、その割にティンパニを強打させますので、バランスが余り良いとは言えません。これを果たして「迫力」に感じるか、「貧弱」に感じるか、聴き手の耳がどちらに転ぶか際どいと思います。事実自分もかつては後者に感じたのでCDを手放したのでした。では今は?後者にも感じるが、それでも捨てがたい魅力を感じるという処です。やはり人間丸くなったみたいです。

さて、今回の”名盤”再聴の中で、一番気に入ったのはジョージ・セル盤でした。これはチェコやスロヴァキアの本場もの以外の演奏で一番のお気に入りとなりました。
でもまてよ、アメリカのオケの演奏は新世界としての”本場もの”だったかな。

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2017年2月 8日 (水)

プッチーニ オペラ「蝶々夫人」 新国立劇場公演2017

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日曜日のこと。新国立劇場でオペラ「蝶々夫人」を観劇しました。栗山民也のこの演出で観るのは何度目でしょうか。この長崎を舞台にしたオペラのとても分かり易くセンスの良い演出は完成度が高いです。日本の長崎で起こった悲劇を静的に、かつ劇的に堪能させてくれます。

今回のタイトルロールは安藤赴美子さん。新国立劇場生え抜きですが、素晴らしい歌唱に魅了させられました。ピン・カートンを除く全員を日本人歌手が歌いましたが、みな素晴らしかったですね。期待ほどでは無かったのがピン・カートン役のリッカルド・マッシ。テノールの声が持つあの輝きが感じられませんでした。調子が万全でなく安全運転に徹していたのでしょうか。

指揮のフィリップ・オーギャンと東京交響楽団はとても良かったです。弦も管も音が大変充実していました。特に終盤のドラマティックなシーンでのティンパニの強打が凄く雄弁で印象的でした。

それにしても昔から男が単身赴任すると現地妻を持ったりとロクなことをしませんねぇ。悲劇が起こらないようにみなさん気を付けましょ~ね。

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2017年2月 2日 (木)

ブラームス 弦楽六重奏曲第1番&第2番 ~隠れ名盤~ ルッツ・レスコヴィッツ、エミール・クライン他

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オーストリアのザルツブルク出身のヴァイオリニスト、ルッツ・レスコヴィッツ氏の存在を知ったのは一昨年の秋のことでした。氏の生演奏を聴いたヴァイオリン好きの友人が感激してその話をしてくれたからです。

その後、実際に自分も演奏を聴ける機会が有りました。友人の話に違わずそれは素晴らしい演奏でした。

レスコヴィッツ氏をご存知の方は少ないと思います。何故なら氏はエージェントを使わずに、小規模のコンサートを各地で開いているからです。聞くところでは氏は必ずしも大勢の客を好むわけでは無く、本当に自分の演奏を聴きたい客にたとえ人数は少なくても演奏を身近に聴いて貰う方が良いという考えなのだそうです。

今では本場でも希少となりつつある伝統的なウイーンの演奏法を伝承する目的で世界を旅するルッツさんは、まるで音楽の伝道師のようではありませんか。

レスコヴィッツ氏のキャリアを読んで頂くとどれほど凄い演奏家なのかがお分かりになると思いますが、とりわけ名ピアニストのイエルク・デームス氏と50年もの間、デュオを組んだことは特筆されると思います。

過去には協奏曲の録音もされたようですが、残念なことに現在入手できるCDはごく限られています。そんな中で見つけたのが「ブラームス 弦楽六重奏曲第1番&第2番」です。

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これはARTE NOVAから発売されたディスクです。
第1ヴァイオリンのルッツ・レスコヴィッツ氏と第1チェロのエミール・クラインが演奏全体をリードしている印象ですが、他の4人の奏者も知名度は低いながら、いずれも実力者ばかりです。

演奏は一言で”極めて美しい”です。第1番ではパブロ・カザルス達の録音に代表されるような、激しく、まるで慟哭するような演奏が有りますが、それとは正反対です。このブラームスの青春の息吹を心の奥底に染み入るような実に柔らかい歌い方で聴かせてくれます。この曲は前半の第1楽章と第2楽章が非常に充実しているので、どうも頭でっかちのような印象を受けてしまいがちです。ところが彼らの演奏で終楽章を聴いてみると、何ともゆったりとしたウイーン的な魅力に溢れ、すこぶる充実して聞こえます。もちろん前半の1、2楽章の演奏も素晴らしく、全体のバランスが凄く良いのです。レスコヴィッツ氏のヴァイオリンは誇張や恣意的な表現を排除して大変美しく、この名曲に独特の輝きを与えています。

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もし貴方がブラームジアーナーであれば、第1番の感想を読まれれば、第2番の演奏がそれ以上に曲に向いていることは楽に想像出来ると思います。「アガーテ」と呼ばれるこの曲には大げさな演奏は似合いません。レスコヴィッツ氏とエミール・クラインがリードする演奏には、恋人への思い、優しさが溢れ出ています。元々第2番もとても好きでしたが、この演奏で聴くと人気の高い第1番に肩を並べる名曲であることに気づきます。過去のウイーン・コンツェルトハウスQやアマデウスQなどの演奏をすっかり忘れさせるほどに素晴らしい内容です。

残念なことに、これほど素晴らしいCDなのに現在は廃盤となっています。中古もしくは海外のAmazonなどで探されるしかありません。

☆ 2017.3.11.演奏会情報(東京都目黒区洗足)
 
ルッツ・レスコヴィッツ ヴァイオリン・リサイタル

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ブラームス 弦楽六重奏曲第1番&第2番 名盤
ブラームス 弦楽六重奏曲第1番&第2番 ジュリアード四重奏団のライヴ盤

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2017年1月13日 (金)

ルッツ・レスコヴィッツ ヴァイオリン・リサイタルのお知らせ

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巨匠ピアニストのイエルク・デームスと50年間もの長い間デュオを組み、バドゥラ=スコダやケンプ、その他大勢の有名演奏家と共演し、現在も世界中で活躍されているヴァイオリニスト、ルッツ・レスコヴィッツさんが洗足のプリモ芸術工房に出演します。
現在では本国でも希少となりつつあるウィーン伝統の演奏スタイルと名器ストラディヴァリウスの美しい響きによる至福のひと時になることは間違いなしです!

この日は無伴奏ヴァイオリン、ピアノとの二重奏、ピアノ三重奏と大変バラエティに富んだ精力的なプログラムです。どうぞお聴き逃し無く。ぜひご一緒にウイーンの音楽を満喫しましょう。

日時
  2017年3月11日(土)14:00開演(13:30開場)

出演
  ヴァイオリン:ルッツ・レスコヴィッツ
  ピアノ:長谷川美沙
   チェロ:大島純

プログラム
  バッハ:無伴奏ヴァイオリンソナタBWV1001よりアダージョ
  シューベルト:ヴァイオリンソナタ D574
  ブラームス:ヴァイオリンソナタ第2番 Op.100
  ハイドン:ピアノ三重奏曲「ジプシー」 Hob. XV; 25
  メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1番 Op.49

チケット
  一般 4000円(当日一般 4500円)

※お問合せ&お申込み
  プリモ芸術企画 03-6421-6917 info@primoart.jp 
  (ホームページへのリンクはこちら

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2017年1月12日 (木)

シューベルト歌曲集「冬の旅」 ユリアン・プレガルディエン(T)と鈴木優人(Pf)のコンサート

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今日は寒い冬の夜、四谷の紀尾井ホールまで旅してシューベルトの歌曲集「冬の旅」を聴いて来ました。ユリアン・プレガルディエンのテノールと鈴木優人のフォルテピアノです。二人ともその道で有名な父親を持ちますので優秀な二世同士ということですね。

このコンサートを聴いてみたくなったのは「冬の旅」の原譜のテノールで歌われること(最近は家でもテノールで聴くのが好き)。二人とも30歳そこそこの同世代であり、シューベルトが「冬の旅」を作曲した年齢に近いこと。演奏に使われるフォルテピアノの製造時期が「冬の旅」が書かれた頃であること。などなどです。

ユリアンの声は非常に美しく、父上のクリストフに良く似ていますね。黙って聞かされたら分からなそうです。歌唱については父上のリートの域に届くにはもう少し時間がかかるかな、という印象ですが、この若さでこれだけの表現力が有るのは凄く、今後増々期待が出来るのは間違い無しです。
優人さんのフォルテピアノの伴奏も美しく表現力豊かでとても良かったです。古い楽器ですが大変綺麗な音がしていました。
驚いたのは終曲の「辻音楽師」で、明らかに辻音楽師の持つ”ドレーライヤー”の調べを模写するような細く金属的な音色でした。どういう仕掛けであのような音に出来たのか気になりますが、素晴らしいアイディアでした。

ということでコンサートは良かったのですが、本厚木の我が家まで帰るには冬の旅をして2時間です。満員電車でコンサートの余韻も消え去り、何をしにしに行ったのかな、と。平日の夜の都心のコンサートには二度と行くまい!と毎回思うのですが、懲りずにまた行っている自分が居ます。

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2017年1月 9日 (月)

バッハのコンチェルト ~愛聴曲三昧~

三連休も今日で終わり、年末年始気分もとうとう完全に消え去りそうです。気持ちを切り替えなくてはいけません。YOU CAN CHANGE!

でもその前に新年に聴いた音楽についてまとめてみます。新年にはやはり厳かな音楽が聴きたくなるので、毎年バッハかベートーヴェンを聴くのが恒例のようになっています。ということで、今年はバッハの協奏曲で好きなものを良く聴いていました。今回上げているCDはこれまでの記事には無かったものですので、以前のものと比べてみると新しい発見が有ったりして面白いです。

ブランデンブルク協奏曲集BWV1046-1051

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ベルリン古楽アカデミー(1997年録音/ハルモニアムンディ盤)

以前は古楽器の音を「干物の魚みたい」などと酷いことを書いていましたが、時と共に耳や感覚は変わるもので、最近ではバロックはむしろ古楽器が良いような気もします(今頃!)。
そこで新たに聴いたのがベルリン古楽アカデミー盤です。巷での評判も良く、ゲーベル/ムジカ・アンティク・ケルン盤と並べて評されることも有るので期待しました。但しこのCDは1枚目に1番、3番、5番、2枚目に2番、6番、4番の順で変則に並んでいるのが少々微妙です。
演奏は確かに素晴らしいもので、音色、技術、楽しさはゲーベル盤と比べても遜色有りません。それでいてベルリンの団体だけあって、どこかドイツの香りを感じさせるのが良いです。問題が有るとすれば第1番です。ディナーミクの変化(クレッシェンド、ディミヌエンド)が自然でなく、とって付けたようなわざとらしさを感じます。管楽器の音も大き過ぎて、弦楽をかき消し気味です。アカデミーということでも無いでしょうに、まだまだ青いですね。その点ゲーベル盤は面白くても自然でした。
けれども逆に第6番は、ゲーベル盤が余りにテンポが速過ぎて何をやっているのか分かりませんでしたが、こちらは速いながらも程良いテンポなのでこの曲の滋味深い旋律を充分に楽しませんてくれます。
総合的にどちらと言うのは難しいですが、僕は第6番が大好きなのでベルリン古楽アカデミー盤に惹かれます。
但し、いまだにリヒター盤やパウムガルトナー盤をこよなく愛することに変わりは有りません。
<関連記事>ブランデンブルク協奏曲 名盤

ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲ニ短調BWV1060

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コレギウム・アウレウム合奏団、フランツヨーゼフ・マイアー(Vn)、ヘルムート・フッケ(Ob) (1976年録音/ハルモニアムンディ盤)

この曲は短めの曲ながら大変溺愛しています。往年のオーボエの巨匠へルムート・ヴィンシャーマンの貫禄ある演奏を偏聴しているために、これまで古楽器の演奏には余り食指が伸びませんでした。しかし、いつまでもそれではいけないと思い、選んだのがこのコレギウム・アウレウム盤です。バロック・ファンには「何を今更」と叱られそうな、かなり以前の録音ですが、まぁ、お許しを。
しかしこれが録音された1976年当時では古楽器の先端を行っていたのでしょうが、古楽器使用といえども、ヴァイオリンはヴィブラートを普通に付けていますし、まだモダンからピリオドへの過渡期のような印象です。だからこそ、いまだモダン楽器の演奏にも大いに惹かれる自分のようなリスナーにとってはちょうど良いのかもしれません。
ヴィンシャーマンの遅いテンポによる重厚な演奏に比べればずっと速いですが、過激なスピード演奏とは異なり落ち着いてこの名曲を楽しむことが出来ます。
なお、このCDにはフルート、ヴァイオリンとチェンバロのための協奏曲BWV1044、チェンバロ協奏曲第1番BVW1052の2曲が収められています。
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ヴァイオリン協奏曲集

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ユーディ・メニューイン(Vn独奏、指揮バース祝祭管弦楽団)(1958-62年録音/EMI盤)

さて、お次に登場はバリバリのモダン楽器演奏です。メニューインはとても好きなヴァイオリニストで、バッハの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータ全曲」のCDは愛聴盤の一つです。
まぁ古楽器派全盛の時代では『古めかしい』と片付けられそうな演奏ですが、しかしこのヒューマニズム溢れる演奏には強く惹きつけられます。古いといっても更に時代を遡った戦前のバッハに比べれば現代の感覚にも十分受け入れられると思います。
特に優れているのが第2ヴァイオリンに当時の若き名手クリスティアン・フェラスを擁した「2台のヴァイオリンのための協奏曲」で、かのヘンリク・シェリングとペーター・リバールの名盤に匹敵するとまでは言いませんが、両者の温かいヴァイオリンの掛け合いに心は幸福感で満たされてしまいます。
また同様に素晴らしいのが第1番です。ゆったりと情感たっぷりに奏でられるメニューインのヴァイオリンにはスタイルを越えた素晴らしさが感じられます。
残る第2番は少々まったりし過ぎかなとも思えます。もちろんそれが特徴ではあるのですが。
なお、このCDには「ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲」も含まれていて、オールドファンには懐かしい名手ユージン・グーセンスがオーボエを演奏しています。
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2017年1月 1日 (日)

~迎春~ 2017 元旦

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皆さま、あけましておめでとうございます。

この二年ほど様々なリアル音楽活動を始めたためにブログの更新ペースががだいぶ落ちてしまい、特にCDの紹介記事に関しては激減していました。

けれども本当に有難いと思うのは、その間にも何年も前の古い記事を読んで下さり、コメントを寄せてくださる方がいらっしゃることです。

そのたびに『ああ、CDの記事を書きたいなぁ・・・』と思わずにいられません。実際にはCDを購入しても聴く時間が足りずに記事を書けないのですが、いずれは必ず復活したいと思い続けていました。

しかし昨年地元で立ち上げた県央音楽家協会の設立記念コンサートを無事に9月に終えることが出来たので一区切りが付き、ようやくCD記事を書けるようになりつつあります。

もちろん今年もリアル音楽活動は続けてゆきますし、新しい企画も色々と増えます。そんな中でもCD紹介記事を出来るだけアップしてゆきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します。

この新たな一年が皆様にとりまして幸多き年となりますようにお祈り申し上げます。

           2017年 元旦 ハルくん

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2016年12月27日 (火)

ブルックナー 交響曲第7番 クリスティアン・ティーレマン/シュターツカペレ・ドレスデン ~今年聴いたCDから~

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さて、”今年聴いたCD”の締めくくりはクリスティアン・ティーレマンのブルックナーの交響曲第7番です。

この2枚組のCDがリリースされたのは今年の夏ですが、1枚目に収められているのは2012年9月のシュターツカペレ・ドレスデンへのティーレマンの首席指揮者就任祝いの演奏会でのブルックナー交響曲第7番、そして2枚目には2013年5月のワーグナー生誕200周年記念特別演奏会でのワーグナーの男声合唱とオーケストラのための『使徒の愛餐』が収められています。

ティーレマンは押しも押されぬ当代随一の人気指揮者ですが、伝統的なドイツ音楽の継承者として他には考えられない存在です。この人は常に遅めのテンポでスケールの大きい音楽を創り出していて、現代流行りの速いテンポによる切れの良さを求めた演奏スタイルに背を向けたところが逆にファンに支持される理由なのでしょう。

ですのでこの人が最も得意とするのは当然後期ロマン派ですし、若いころからオペラハウスの現場で鍛えられたワーグナーが一番です。次いでリヒャルト・シュトラウスやアントン・ブルックナーが上げられます。ブラームスやベートーヴェンもやはりスケールが大きく素晴らしいものの、このような古典的造形性を持つ音楽ではテンポを不自然に変えてしまう悪い癖が時々現れてしまう為に手放しでは称賛出来ません。

ティーレマンとシュターツカペレ・ドレスデンはこの演奏会の直ぐ後に行われた日本ツアーでも第7番を演奏していて、僕は残念ながら聴いていませんが評判は凄く良かったようです。

このCDの音質については、柔らかく美しいもののホールトーンの成分がやや過多に感じられて細部の分離に幾らか不満を感じます。編集段階で多少残響を付加しているのかもしれませんね。ただ、その代わり何気なく聞いている分には会場で生で聴いているような心地良さが感じられます。強音には僅かに歪み成分が混じるようですが気にするほどではありません。

肝心の演奏の基本テンポは遅めですし、呼吸の深さも妥当です。チェリビダッケのような極度に遅いテンポでは呼吸困難に陥る自分には丁度良いレベルです。

オーケストラについてはさしものシュターツカペレ・ドレスデンといえどもライブでは完璧とは言えません。しかしこれもCDではなく会場で聴いていれば果たして気になるかどうかという程度ですし、ライブでこれだけの演奏が可能なのはやはり凄いことです。これを名だたるセッション録音の名盤と比べたら瑕だらけ、ライブ盤として割り切って聴けば文句なし、そんなところでしょうか。

何だか褒めているようなケチを付けているような分かりにくい感想ですみません。自分としても良く分からないまま何度も繰り返して聴いています。それで最後まで聞き通せるのですから結局は気に入っているのでしょうね。特に終楽章は集結部に向かってじっくりと腰を落して立派に構えていて、壮麗な金管も少しもうるささを感じずに充実した音楽を味わえる稀有な名演奏だと思います。

『使徒の愛餐』は、「男性合唱と大オーケストラのための聖書の情景」と副題が付いていて、ワーグナーがドレスデンの音楽監督となった頃に書かれた作品で、1843年にワーグナーの指揮により100人のオーケストラと1200人の合唱によりフラウエン(聖母)教会で初演された記録が残っているそうです。

曲は聖霊降臨の場面に基づいた内容で、前半はアカペラによって壮麗に歌われ、後半ではオーケストラが加わって「パルジファル」の世界を想わせます。元々この曲はCDが少ないので、ワーグナー記念の年に初演の場所で行われた演奏会録音は貴重ですね。

【収録情報】
Disc1 [69:58]
ブルックナー:交響曲第7番ホ長調 WAB107 (1944年、ハース版)
 録音時期:2012年9月2日
 録音場所:ドレスデン、ゼンパーオーパー

Disc2 [29:47]
ワーグナー:使徒の愛餐 WWV69
 録音時期:2013年5月18日
 録音場所:ドレスデン、聖母教会

 ドレスデン国立歌劇場合唱団 (Disc2)
 チェコ国立ブルノ・フィルハーモニー合唱団 (Disc2)
 ライプツィヒMDR放送合唱団 (Disc2)
 ドレスデン・フィルハーモニー合唱団 (Disc2)
 ドレスデン室内合唱団 (Disc2)

 シュターツカペレ・ドレスデン(演奏)
 クリスティアン・ティーレマン(指揮)

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ブルックナー 交響曲第7番 名盤

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2016年12月23日 (金)

シベリウス 交響曲全集 オッコ・カム/ラハティ交響楽団 ~今年聴いたCDから~

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今年聴いたCD第二弾はシベリウスの交響曲全集ですが、これはオッコ・カム/ラハティ交響楽団の昨年秋の日本ツアーに合わせてBISレーベルからリリースされたものです。ちなみにSACDハイブリッド仕様です。

初台のオペラシティで開かれた交響曲チクルスには後期の第5、第6、第7のアーベントを聴きに行きました。その感動の内容についてはこちらのブログ記事をご参照ください。

カムのシベリウスといえばデビュー時にグラモフォンに録音した第1から第3番の名演奏が有りますし、1982年のヘルシンキ・フィルの日本ツアーで渡辺暁雄とシェアしたチクルスの素晴らしい演奏がTDKによって記録されてCD化されています。

その後の檜舞台から少々離たカムの活動には欲求不満に陥っていましたが、それが一気に晴らされたのがラハティ響との日本ツアーであり、この交響曲全集でした。

コンサートの記事で書いたエピソードのように、カムは演奏直前にカメラ片手にホールの周辺をフラフラと歩き回るほどおおらかな人なので、それは音楽にも表れているように思えてなりません。人によってはオスモ・ヴァンスカが厳しく鍛え上げたラハティ響を”ユルめた”と批評する意見も見受けられますが、自分のように逆にヴァンスカ時代の演奏は幾らか”過剰”と感じられる者にとっては、カムのおおらかさが、とても心地良く感じられるのです。

来日時のラハティ響の編成は大編成では無く、幾らか小規模の編成でした。このCDの録音でもそれは感じられます。ですので通常大編成の音に慣れている第1、第2、第5ではやや音の薄さが感じられなくもありません。それはベルグルンドの三度目の全集に使っていたヨーロッパ室内管ほどではありませんが、共通した要素となっています。しかしこれはベルグルンドが目指した、シベリウス時代に実際に用いられていた小編成の管弦楽による演奏の再現に通じるものが有ると思います。

また重要なポイントとして、ロシア風のダイナミックな曲想を持ち合わせ、ともすると管楽器が咆哮しかねない第1、第2の二曲に対して非常に抑制を効かせていることです。あくまでも主役が弦楽器の印象を受けますし、そのソノリティの高さにはとても感心します。

第2では第3以降の深いシベリウスの世界にだいぶ近く感じられるのです。かといって終楽章など高揚感が不足するわけでは決してありません。それは外面的ではなく内面的な感動で勝負をしているからです。うごめくように始まりフィナーレに向かい延々と続く伴奏音型の上に奏でられる旋律は心に深く深く迫ります。

第5に関しても、近代管弦楽とばかりに金管を輝かしく鳴らすのではなく、やはり弦楽がサウンドの主体となります。第2楽章のように民謡的な旋律のいじらしい歌い方は独壇場で、こういう部分はカムは昔から本当に上手いです。終楽章はさすがに立派に金管を鳴らしていますが、それが過剰に感じられることは一切ありません。

ですので第3、第4、第6、第7のような室内楽的な要素に強く支配される曲ともなると、小規模ゆえの長所が増々生かされてきます。本来『寡黙な』シベリウスの音楽に何と合うことでしょうか。特有の”神秘感”も非常に良く感じられて素晴らしいです。

若いころのカムがそうであったように、ロマンティシズムを感じさせる特徴は少しも変わりません。それでいてシベリウスの音楽の本質を他の誰と比べても劣らないほどに掴んでいます。

その音造りの方法論として、オーケストラを厳しく締め付けるのではなく、自発性を尊重していることは、カム自身の口からも楽団員のコメントからも確かに伺えます。

シベリウスを得意とする指揮者の中でも、激しさを持つヴァンスカやセーゲルスタムとは遠く異なり、またストイックなまでに透徹したパーヴォ・ベルグルンドとも異なり、おおらかな自然体の印象を与えるネーメ・ヤルヴィや渡邉暁雄に近いスタイルです。

もちろん彼らのシベリウスはどれもみな素晴らしいので、全集盤に優劣など付けるのは無意味です。しかしあえて自分の好みを言えば、ベルグルンド(二度目のヘルシンキ・フィルとのEMI盤)と並んで、このカムの新盤が目下ツートップの存在です。

あとはネーメ・ヤルヴィの新盤(グラモフォン)にも強く惹かれますが、むしろセーゲルスタム(二度目のヘルシンキ・フィルとのONDINE盤)のセットには、ペッカ・クーシストが独奏するヴァイオリン協奏曲とフィンランドの男性合唱団が感動的な歌を聞かせる「フィンランディア」という二つの最高の演奏が含まれているので、他人にはむしろこちらを勧めたいところです。

いずれにしても、オッコ・カムのシベリウスは自分には最も肌に合う演奏なのは間違いありません。オペラシティでバッタリ出会って会話ができたのも偶然とは思えない余りに得難い体験でした。

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2016年12月20日 (火)

ドヴォルザーク 交響曲全集 イルジー・ビエロフラーヴェク/チェコ・フィル ~今年聴いたCDから~

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今年もあと二週間となりました。そこで今年聴いたCDでご紹介していないものの中から、これはというものを拾い出してみます。まずはイルジー・ビエロフラーヴェク/チェコ・フィルのドヴォルザークの「交響曲全集」です。

この全集は一昨年2014年のリリースですが、購入したのは今年です。というのもリリースの前年にこのコンビの来日公演で素晴らしいドヴォルザークを聴きましたが、正直交響曲全集はヴァーツラフ・ノイマンの新旧二種があれば充分かなと思っていました。特に二度目のノイマンのスプラフォンへの全集録音は決定盤だと思っていたからです。

ビエロフラーヴェクは、かつて在京オケへ何度も客演しましたが、特別な閃きを持つ指揮者ではないと感じていました。数年前のチェコ・フィル公演でもその印象は変わらず、オーソドックスですが新鮮味には乏しい指揮者という感じを受けました。もっともチェコ・フィルのような伝統的な音を持つオケにとってはその方が有難いのです。下手に音をいじられる方がよほどまずいからです。

というのがこの全集を買い遅れた理由でしたが、聴いてみて考えがすっかり改められました。これは全く持って素晴らしい全集です。それに意外だったのはこの全集がスプラフォンではなく、DECCAによる録音だったことです。

まず、最大のポイントは音が非常に良いということです。ノイマンの二度目のデジタル録音も当時非常に優秀でしたが、この最新のDECCAでによる録音を聴いてみるとやはり機材の進化を感じます。音に歪み成分が少なくふわりと柔らかく広がっています。聴いていて本当に心地が良いです。特に中低域にアナログ的な厚みがあるので非常に重みが感じられて安定感が有ります。

但しノイマン盤とは明らかに金管の音の録り方が異なります。ノイマン盤では金管がかなり浮き上がっているので直接的な迫力が有りました。当時デジタル録音に移行したといえども伝統的なスプラフォンの音のバランスを保っていたようです。それに比べるとこのビエロフラーヴェク盤では金管が弦楽器と良くブレンドされているので、響きが美しい反面、聴きようによってはやや迫力不足に感じられるかもしれません。そもそもチェコ・フィルの金管群に関してはノイマン時代のほうが優れていたのも事実です。しかし現在でも優れていることに変わりは有りません。

演奏全体に関しては互角と言って構いません。少なくともドヴォルザークに関しては、ビエロフラーヴェクはついにノイマンの域に達したと思います。特に気に入ったのが「新世界より」で、インテンポを守るノイマンに対して、ビエロフラーべクはアゴーギクを微妙に加えていて曲想の変化をより感じさせることに成功しています。と言ってチェコ以外の国の指揮者が良く行うようなドラマティックでわざとらしい変化は少しも見せません。あくまでも自然な範囲です。

他の曲もすべて、全9曲とも出来不出来が一切無いこともノイマンの新盤に匹敵します。ということから現時点で全集として比較した場合にはビエロフラーヴェク盤に軍配を上げたいと思います。

またこの全集には、3曲の協奏曲が収録されているのも魅力です。特にアリサ・ワイラーシュタイン独奏のチェロ協奏曲はこの曲のベスト盤のひとつに上げられます。

ヴァイオリン協奏曲を独奏するフランツ・ペーター・ツィマーマンは単売のノイマン盤でのヨゼフ・スークには及びません。またピアノ協奏曲を独奏するのは懐かしいギャリック・オールソンで美しい演奏を聞かせていますが、こちらもビエロフラーヴェクの旧録音で独奏したチェコの巨匠イワン・モラヴィッツと比べると明らかな格の差を感じてしまいます。しかし、どちらもそれほどポピュラーな曲では有りませんし、交響曲全集に含まれているのは大変にお買い得です。

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2016年12月 5日 (月)

シューマン ピアノ協奏曲 続々・名盤 ~落穂ひろいに非ず~

シューマンのピアノ協奏曲イ短調はドイツ・ロマン派を代表するピアノ・コンチェルトの一つですので、このブログでもこれまでシューマン ピアノ協奏曲 名盤、さらに続・名盤と二度にわたり愛聴盤をご紹介しました。

録音状態を度外視して演奏だけで言えば、ディヌ・リパッティのアンセルメとのライブ盤がベストです。また録音やオーケストラを含めた総合点で言えば、リヒテルのムーティ/ウイーン・フィルとのライブ盤やグリモーのサロネン/SKドレスデンとのDG盤が挙げられます。

また個人的には僕の中学時代の同級生で僅か49歳でこの世を去ってしまった小池由紀子が生前ブルガリアのソフィアで演奏したライブ録音盤にも特別な想いが有ります。

それらはいずれも名演奏揃いなので、三度目ともなればともすると”落穂ひろい”になりかねません。ところがどっこい、まだまだ名盤が残っているものだと認識を新たにします。

それでは続々とご紹介してみます。

Schumann71h4pr6xkrl__sy355_アルトゥーロ・べネデッティ・ミケランジェリ独奏、ダニエル・バレンボイム指揮パリ管(1984年録音/グラモフォン盤) これはパリでのライブ録音から25年も経ってから突然発売されたCDです。その理由はミケランジェリが生前にリリースを許可しなかったからだそうです。確かにこの人にしては100%完璧だとは言えないのかもしれません。特に演奏開始後しばらくが演奏に乗り切れていないように感じられます。けれども第1楽章のあの美しい中間部に入る辺りから、がぜん演奏に感興が増してきます。それにつれてピアノの音もどんどん輝いて来るから不思議です。必ずしもがっちりとしたドイツ風の演奏ではありませんし、シューマンの音楽の持つ不健康さも余り感じません。どこまでもミケランジェリのピアノ美の様式で彩られた演奏です。そういう点ではホロヴィッツとこの人は正に双璧です。少しも粘ることなく、ロマンの香りを一杯に漂わせるのは流石はこの人です。幾らかゆったり目のテンポでじっくりと大人のロマンを味合わせてくれます。バレンボイムもミケランジェリと同質の音楽を感じさせて、雰囲気がピタリと合っています。

Scumann41jdvhzqgglホルヘ・ボレット独奏、リッカルド・シャイー指揮ベルリン放送響(1985年録音/DECCA盤) ボレットもまた大人好みの名人ピアニストだと思います。冒頭から非常にゆったりとしたテンポで、音楽に念を押しながら曲を進めて行っています。それが時にはもたれる印象を受けることも有りますが、この曲の場合には音楽に気宇の大きさを感じさせていて素晴らしいです。ピアノのタッチも神経質さからはかけ離れたおおらかな印象を受けます。かと言ってテクニックに劣ることは有りません。エンターテイナー的な印象を受けるのはルービンシュタインと似ています。とにかく演奏に温もりを感じさせていて、聴いている人を幸福感で包んでくれます。シャイーに関しては、部分部分でボレットの音楽に付いてゆけずに、やや軽さ、小ささを感じさせてしまうことが有るものの全体的にはさほど不満を感じさせることは有りません。

Shumann41gil0xlil__sl500__2仲道郁代独奏、クラウス・ペーター・フロール指揮フィルハーモニア管(1994年録音/BMGビクター盤) 仲道郁代はシューマンが最高だと思います。ショパンよりベートーヴェンよりです。もしそう言うのがおこがましければ、シューマンの演奏が一番好きです。その理由はピアノの音の、表情の「優しさ」「温かさ」に有ります。確かに「狂気」や「暗さ」には幾らか不足するかもしれませんが、とにかくシューマンの夢見るようなロマン性が自然にしかも充分に滲み出ているからです。その仲道さんの特性にピタリと合うのがピアノ協奏曲です。1楽章、2楽章と実にゆったりと穏やかにシューマネスクな世界に導かれます。3楽章は落ち着いたテンポが輝かしさに欠けるかも知れません。けれどもそれが味なのです。フロールの指揮は仲道さんの音楽の特徴と寸分の隙間も感じられずに素晴らしいサポートぶりですし、英国のオケからドイツロマン派の響きを引き出していて心地良いです。

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2016年11月30日 (水)

ショパン ピアノ協奏曲第2番へ短調op.21 名盤 ~彼女への思いを寄せる~

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ピアノ協奏曲第1番の記事のときにも記しましたが、実際に作品が完成したのは、第1番よりもこの第2番の方が1年早い1829年です。この曲は出版されたのが第1番よりも後になったために第2番となりました。

若きショパンは既にウイーンでピアニストとして大成功を収めていましたが、本格的に作曲家としてデビューを目指すためにワルシャワに戻り、協奏曲の作曲に取り組んだのです。しかしショパンはこの時、ワルシャワ音楽院の同窓のソプラノ歌手グワドフスカに恋をしていて、親しい友人に「僕は彼女への思いを寄せるうちにアダージョ(実際は第2楽章ラルゲット)を作曲した。」と告白したほどです。

このような背景があることから、この曲にはショパンが心に秘めていた、甘くせつない、ひとり悩み苦しむ恋の香りがぷんぷんと漂っています。本当に恋は人を”詩人”に変えてしまいますね。

一般的には第1番が高く評価されているようですが、曲の魅力に於いては全く遜色がなく、むしろ第2番のほうを好む人もいらっしゃるのではないでしょうか。第1番が青春の喜びをストレートに感じさせるのに対して、第2番はずっと屈折した気分を感じさせます。

例えば第1楽章のみを比較した場合は第1番を取りたいですが、第2楽章においては甲乙がつけがたく、第3楽章ではよりショパンらしさの強い第2番を取りたいです。
このように第2番はもっとずっと演奏されてしかるべきだと思います。

ということで、ピアノ協奏曲第2番の愛聴盤をご紹介します。

Chopin418j8w7c4flアルフレッド・コルトー独奏、バルビローリ指揮管弦楽団(1935年録音/EMI盤) 録音年代は古くノイズも入りますが、モノラル録音に慣れた方なら充分に鑑賞出来ます。それよりもコルトーの演奏の表現の自在さには心底圧倒されてしまいます。『音楽を演奏する』とはどういうことか。それは音楽を鑑賞する我々に対しても深く問いかけているように思います。是非とも一度は聴いておくべき演奏です。3楽章では意外に速いテンポですが、揺れに揺れて聴きごたえ充分です。バルビローリもオーケストラを自在にコントロールしていてコルトーと同じように表現の豊かさが抜群です。

41j8z8wzcvl クララ・ハスキル独奏、マルケヴィッチ指揮コンセール・ラムルー管(1960年録音/フィリップス盤)  ハスキルは目の覚めるようなテクニックというわけでは無いですが、演奏全体に広がるしっとりとした陰りが何とも魅力です。ピアノの地味な音色も演奏スタイルにぴたりと合っています。第2楽章も淡々と進みますが、心に染み入る情感の深さは只事ではありません。問題はマルケヴィッチの指揮が男性的に過ぎてハスキルと必ずしも相性が合っていない点です。特に第1楽章でそれを強く感じます。第3楽章は落ち着いていますが揺れのあるリズム感が素晴らしく自然と弾き込まれます。

Cci00025アルトゥール・ルービンシュタイン独奏、ロヴィツキ指揮ワルシャワ・フィル(1960年録音/Muza盤) ルービンシュタインの祖国ポーランドでの演奏会での録音です。RCAへのスタジオ録音とは異なる真剣勝負の気迫が感じられます。中庸のテンポで流れの良い音楽の中で表情豊かに歌い回す名人芸が得も言われぬ魅力を湛えています。ピアノの音色もこの時代のライブとしては優れています。オーケストラの音に録音の古さを幾らか感じますが、演奏の良さから聴いているうちにそれも気にならなくなります。カップリングのブラームスの第2協奏曲の陰に隠れていますが、素晴らしい演奏です。

200751457 サンソン・フランソワ独奏、フレモー指揮モンテ・カルロ歌劇場管(1965年録音/EMI盤) 第1番との楽想の違いがフランソワに向いていると思います。1楽章から即興的な味わいが音楽に艶っぽさを与えていて大変魅力的です。こうしてツボにはまった時のフランソワは実に素晴らしいです。第2楽章の恋の甘さとせつなさの表現にも深い共感を覚えます。ああ、フレディ!恋はつらいね!3楽章に入ってもフランソワの独壇場は続きます。テンポの良さと音楽の揺れ、表情の刻々とした変化が何とも魅力的です。オーケストラの音が粗いのが欠点ですが、ピアノの素晴らしさにさほど気にならなくはなります。

Chopin_rubinsアルトゥール・ルービンシュタイン独奏、クレンツ指揮ポーランド国立放送響(1966年録音/Prelude & Fugue盤) 第1番でも紹介したルービンシュタインが祖国ポーランドで弾いたライブです。テンポの伸縮やルバートが多用されていますが、全てが自然でわざとらしさが微塵も感じられません。どの部分を耳にしても音楽に魅力が溢れていて、少しも弛緩することなく曲がどんどん進んでゆきます。ルービンシュタインのピアノは男性的で女々しさは有りませんが、音には優しさや心がこもり切っています。クレンツ指揮のオケにも情感が溢れ出ていて胸に迫ります。録音も明瞭で生々しさを感じられるのが嬉しいです。このCDはスイスのPrelude & Fugueレーベルがポーランド放送のライセンスで出した物ですが、既に廃盤なので大変貴重です。

Rubinstein_chopinslアルトゥール・ルービンシュタイン独奏、オーマンディ指揮フィラデルフィア管(1968年録音/RCA盤) 前述の66年ライブ盤から2年後のセッション録音です。ルービンシュタインのショパンが素晴らしい点では変わりありませんが、ライブにある真剣勝負の緊張感にはやはり敵いません。ピアノの音の明瞭さもむしろ66年盤の方が勝ります。オーケストラは実にシンフォニックで迫力満点ですが、ダイナミズムの変化が余りにも楽譜そのままで常套的なのが面白くありません。オーマンディのやっつけ仕事という印象です。もちろんこの演奏だけ聴けば優れた演奏なのですが、66年盤を聴いてしまってはどうしても満足し切れません。

Chopin81zfl5yitwl__sl1420_ホルヘ・ボレット独奏、デュトワ指揮モントリオール響(1989年録音/DECCA盤) 第1番では音楽が盛り上がる部分でもインテンポに徹していたので音楽が停滞していました。第2番でも基本テンポは遅めですが、音楽に流れが感じられるので改善されています。けれどもフランソワやルービンシュタインと比べると表情の豊かさに於いて一歩譲るような印象を受けてしまいます。第2楽章に関してもテンポの遅さの割には心情的に没入した感じは無く、恋のせつなさを充分に表現しているとは言えません。このオーケストラの演奏も極めてシンフォニックですが、常に醒めた雰囲気でショパンの音楽への熱い共感はほとんど感じられません。

Nakamichi_chopin334仲道郁代独奏、コルト指揮ワルシャワ国立フィル(1990年録音/BMG盤) これは非常に美しいショパンです。ハッとさせるような即興性や切れ味の鋭さはありませんが、一本調子にならない揺らぎも有りますし、音楽が盛り上がる際の感情の高まりや熱さも中々のものです。第1番では少々真面目過ぎて面白みに不足する印象を受けましたが、第2番では品の良さを失わずも、ずっと楽しめる演奏になっています。ピアノタッチの美しさや力強さも申し分のないものです。それにしてもワルシャワ・フィルのショパンの音楽への共感が溢れて美しい演奏には脱帽です。北米のオーケストラは立派でもこのような感動は決して与えてくれません。

Img_743670_39816568_2 クリスティアン・ツィメルマン独奏/指揮ポーランド祝祭管(1999年録音/グラモフォン盤) ツィメルマンが理想の演奏のためにと自分でオーケストラを編成して録音を行いました。指揮もピアノも極めて雄弁であり、余りに徹底しているので唖然とします。それは時に音楽の流れが停滞してブツ切れとなるほどです。表現意欲の過剰さには少々抵抗を感じないこともありませんが、1楽章の緊迫感ある迫力には嫌でも熱くなりますし、2楽章の美しいピアノと深々としたロマンティシズムにも強く魅了されます。3楽章は速いテンポで意外にオーソドックです。全体的にはこれだけ思い切りの良い演奏ぶりにはやはり拍手を贈りたいです。

Chopin0204スタニスラフ・ブーニン独奏、コルト指揮ワルシャワ国立フィル(2001年録音/EMI盤) 1985年ショパンコンクール優勝から16年後に日本で残したライブ録音です。第1番は札幌でしたが、第2番は東京サントリーホールの録音です。ライブ収録でも年代が新しいので音質、バランスともに良好です。ブーニンはスマートな演奏ですが、即興性や揺らぎのある表情が素晴らしいです。特質すべきは2楽章で、ロマンティックな若者の辛さ、せつなさが充分過ぎるほど感じられてすこぶる感動的です。オーケストラもワルシャワ・フィルなので単に美しいだけでなく共感一杯で素晴らしいです。但し3楽章はテンポが速過ぎるのが良し悪しで聴き手の好みが分かれるかもしれません。

Chopin713jtrghuhl__sl1050_ラファル・ブレハッチ独奏、セムコフ指揮ロイヤル・コンセルトへボウ管(2009年録音/DG盤) 新世代の優れたピアニスト、ブレハッチのライブ録音です。彼はこのCDについて『ポーランドの伝統的な演奏を聴かせたいと思った』と語っていますが、確かにアルゲリッチやツィメルマンの大げさで派手な表現とは一線を画しています。ピアノタッチは美しく、単なるスケールやアルぺッジオの部分からも素晴らしいニュアンスの変化を聴かせてくれます。2楽章の抒情性も非常に魅力的ですが、白眉は3楽章で、きりりとしたリズムで躍動感が有り、さらに音楽に揺らぎを感じさせているのが見事です。オーケストラの共感度ではポーランドの団体に一歩譲りますが、コンセルトへボウは流石に上手いです。

25785245カティア・ブニアティシヴィリ独奏、パーヴォ・ヤルヴィ指揮パリ管(2011年録音/SONY盤) パリでのライブ録音です。ブニアティシヴィリは若い世代では特に才能あるピアニストだと思いますが、パーヴォもお気に入り?のようです。ダイナミズムに微細な変化をつけるのはアルゲリッチ風ですが、それが恣意的には感じられずに長所となっています。往年の巨匠のような深い呼吸感は有りませんが、若くしてこれだけ魅力的に弾けるのは凄いです。2楽章では繊細に夢見るような静寂さを醸し出していて見事です。3楽章は速いテンポで緊迫感を持ちますが、個人的にはもう少し揺れを感じられるほうが好みではあります。パーヴォもオーケストラを入念にコントロールしてソリストを上手く引立てています。

以上から、マイ・フェイヴァリットはやはりルービンシュタインの66年ポーランドライブ盤ですが、それに匹敵する素晴らしさがブレハッチの2009年ライブ盤です。

それ以外にも良い演奏が多くありますが、中でもブーニンの東京ライブ、フランソワ、仲道郁代あたりは折に触れて聴きたくなるお気に入りです。

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