2017年4月27日 (木)

ピアノトリオ・コンサートへのお誘い ~洗練された室内楽の風に乗せて~

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       (クリックしてください。拡大します。)
ヴァイオリニストの國本樹里さん、ピアニストの福田美成子さんのお二人は共にフランスのパリへ留学して数年前に帰国した若き音楽家です。ご縁が有ってご帰国以来応援をさせて頂いています。

國本さんは現在在京オケのエキストラなどを務めながら多方面で活躍中。福田さんはラジオ出演や新聞の音楽コラムを手掛けながら室内楽・ソロで活躍中です。

そのお二人が札幌交響楽団のチェリストを7年間務めた長瀬菜々子さんとトリオを組んで6月に演奏会~洗練された室内楽の風に乗せて~を開きます。

会場は群馬県高崎市のカフェサロン小径(こみち)です。高崎はピアノの福田さんの出身地であることから、きっとアットホームなサロンコンサートになることと思われます。

ご都合が付きましたら優れた音楽家三人によるピアノトリオ演奏をどうぞお聴きになられてください。

開催日時:2017年6月4日(日)14:00開演 

会場:カフェサロン小径(こみち) 群馬県高崎市高関町306-4(JR高崎駅より車5分、徒歩15-20分) 

料金:2,500円(全席自由)

ご予約・お問い合わせ
カフェ小径  027-330-5512
サロン代表 080-4926-3111

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2017年4月19日 (水)

マーラー 交響曲第5番 テンシュテット/北ドイツ放送響の1980年ライヴ盤

Ph13058クラウス・テンシュテット指揮北ドイツ放送響(1980年録音/Profil盤)

マーラー演奏を得意とする古今の指揮者は何人も挙げられますが、それでも突き詰めればレナード・バーンスタインとクラウス・テンシュテットが双璧だと思っています。

もっともバーンスタインがニューヨーク・フィル、ウイーン・フィル、コンセルトへボウといった超一流のオーケストラとの共演が多かったのに対し、テンシュテットの演奏はランクが一段下のロンドン・フィルがメインでした。というのもテンシュテットはリハーサルの際に、まるでアマチュアオケのように厳しく練習を行うことから、伝統のあるドイツ・オーストリアの楽団とは折り合いが悪かったからです。

その点、ロンドン・フィルは献身的に練習をこなし、団員は「彼の為なら我々は120%の演奏を行う」と言っていました。事実、彼らは毎回死に物狂いの熱演をしましたし、ライヴ録音からはそれが確かに感じ取れます。

しかしどんなに献身的に熱演をしたとしても、やはり超一流の音は出せないのです。それが証拠に「折り合いが悪かった」という北ドイツ放送響やウイーン・フィルとの数少ないライヴ録音の圧倒的な名演にはどうしても及ばないからです。

テンシュテットの最高のマーラー演奏の記録は恐らく北ドイツ放送響との第2番「復活」だと思います。これはテンシュテットのマニアなら誰でも知っている海賊レーベルFirst Classicsから出ていたもので、あのバーンスタインの「復活」をも凌ぐであろう唯一の演奏です。

テンシュテットが北ドイツ放送響の音楽監督だったのは1979年から1981年のわずか3年であり、しかも録音が非常に乏しいのが現実ですので、海賊盤ながら極めて優秀な音質で聴くことが出来るこの録音には計り知れない価値が有ります。

マーラーには同じFirst Classics盤に第1番が有り、これもまた非常に素晴らしい演奏ですので、どうしてこのオケともっと多くの録音を残してくれなかったのか悔やまれてなりません。

そんな中で、1980年録音の北ドイツ放送響との「第5番」のライヴ録音が一昨年にProfilレーベルからリリースされました。ご紹介がすっかり遅くなりましたが、これを紹介しないわけには行きません。

テンシュテットが特に得意として何度も指揮していた第5番には、まず主兵のロンドン・フィルとは1978年のセッション録音(EMI盤)、1984年の大阪ライヴ(TDK盤)、1988年のライヴ録音(EMI盤)が有ります。特にライヴ録音は壮絶な演奏で絶対に聴いておかなければなりません。

また、コンセルトへボウ管に1990年に客演した際のライブ盤は、ロンドン・フィルとのライヴほどの壮絶さは無いもののオケの優秀さから、個人的にはこれまで最も好んできた演奏です。

そこで、この北ドイツ放送響と1980年にハンブルクで行われたライヴ盤を実際に聴いてみましたが、第1楽章からテンシュテット得意の大見得を切った迫力が凄いです。巨大で濃厚な表現は後年の演奏と比べて全く遜色なく、この時期で既に曲の解釈、表現が完成されていたことがよく理解できます。北ドイツ放送響の音は色彩や艶やかさにはやや乏しく、かなり暗めの音色なのですが、腹に響く底力の有る音が凄く、これだけ充実して聴き応えの有る音は中々有りません。何度も何度も厳しい練習を繰り返して仕上げられたであろう演奏の完成度は驚異的です。それは単にミスが有る無しという次元の話ではありません。

バーンスタインやカラヤンはディナーミクの変化を極端に大きく取るので、弱音部では旋律線が弱くなる傾向が有ります。それに対してテンシュテットは決して旋律が消え入るほどには弱くしません。従って北ドイツ放送響の弦楽セクションにはウイーン・フィルのような色気は有りませんが、頻繁に現れる情緒的で歌謡調のメロディを存分に味わうことが出来ます。

この演奏で、もしも僅かでも物足りなさを感じるとすれば、第4楽章アダージェットでしょうか。あの深い闇の中や空間に消え去ってしまいそうな感覚というのをこれ以上に強く感じさせる演奏は他にも存在するからです。

この演奏はライヴ録音ながら完成度が極めて高いのですが、第4楽章で第1ヴァイオリンの中にハイポジションの音を外している人が居たり、更にどうしたことか終楽章のイントロでホルンが音をコケています。中にはこの部分を挙げてこの演奏を否定する方が居るかもしれませんが、それでは余りに勿体無いです。実演では疵は付きものですし、全体の圧倒的な感銘の前には些細な問題だと私は考えます。いずれにしても最も好むマーラーの第5番の録音が登場しました。

なお、このディスクは2枚組で同じ1980年のライブの「亡き子をしのぶ歌」が収録されています。ビルギット・ファスベンダーが独唱を務めていて、こちらももちろん素晴らしい演奏です。

<関連記事>
マーラー 交響曲第5番 名盤(テンシュテット/ロンドン・フィル他)
マーラー 交響曲第5番 テンシュテット/コンセルトへボウ管のライブ盤

マーラー 交響曲第2番「復活」 名盤(テンシュテット/北ドイツ放送響他)

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2017年4月 7日 (金)

メンデルスゾーン ピアノ三重奏曲第1番ニ短調op.49 名盤 ~メントリは1羽?~

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先日のルッツ・レスコヴィッツさん達のメンデルスゾーンのピアノ・トリオの名演奏の余韻がいまだに残っていて、手持ちのCDを改めて聴き直しています。

ところで、このピアノ三重奏曲第1番は演奏家の間では通称「メントリ」と呼ばれています。決してメンドリ(雌鶏)ではありません!

確かにこの曲はメンデルスゾーン円熟期の素晴らしい名作です。メンデルスゾーンには晩年に書かれたピアノ・トリオの第2番が有るのですが、「メントリ」と言えば第1番ということになっています。随分と不公平な扱いですが、大変美しく分り易いメロディが次から次へと出てくる第1番に人気が集中するのは容易に理解出来ます。ブラームスの書いたあの3曲のピアノ・トリオの含蓄の深さには及びませんが、このジャンルを代表する傑作の一つであることは間違いありません。

この曲は4楽章で構成されています。

第1楽章 アレグロ・モルト・アジタート 3/4拍子 チェロによりほの暗く美しい旋律が感情豊かに奏されて開始されます。旋律はヴァイオリンが引き継いで、そこにピアノが見事に絡み合い情熱的に進みます。その後いかにもメンデルスゾーンらしい甘く美しい曲想に変化して飽きさせません。終結部も壮大に盛り上がり、この曲の要である楽章です。

第2楽章 アンダンテ・コン・モート・トランクィロ 4/4拍子 第1楽章から一転して静けさと幸福感に覆われた極めて美しい音楽に変わります。正に「無言歌」といった風情です。

第3楽章 スケルツォ 6/8拍子 急速なスケルツォは、「真夏の夜の夢」の妖精たちが飛び回る光景そのままです。

第4楽章 フィナーレ:アレグロ・アッサイ・アパショナート 4/4拍子 エキゾチックな旋律とリズムが大変印象的で一度聴いたら忘れられないことでしょう。主題を繰り返すうちに徐々に感興が高まってゆき、やがてそれが爆発して最後は情熱的に盛り上がります。

それでは所有CD盤をご紹介します。

51ejw4igywlティボー(Vn)、カザルス(Vc)、コルトー(Pf)(1927年録音/EMI盤) SP録音時代に一世を風靡したトリオの名演奏です。自分は写真の海外盤のセットで聴いていますが、1枚物でも出ています。なにせに90年前の録音ですので音は貧弱です。しかしこの演奏から一杯に湧き上がる濃厚なロマンの香りは如何ばかりでしょう!こんな演奏が聴けていた時代が有ったのです。時代が変わり、生きている人間も変わり、演奏スタイルも変わりました。演奏にミスが有るか無いか、そんなことが演奏の評価を左右することのない古き良き時代。聴衆にとってはどちらが幸せなのでしょう。そんなことを改めて考えさせられる演奏です。一度はお聴きになられて欲しいです。

51uoqbiaoelシュナイダー(Vn)、カザルス(Vc)、ホルショフスキー(Pf)(1961年録音/CBSソニー盤) カザルスがホワイトハウスに招かれて演奏会を行いました。ケネディ大統領の御前演奏です。この日はアンコールで「鳥の歌」も演奏されました。共演したシュナイダーはブダペスト四重奏団の第2ヴァイオリン奏者ですが、大変な実力者にしてカザルスの盟友です。演奏はその気宇の大きさに圧倒されます。激しく気迫に溢れていてメンデルスゾーンの美感は確かに損なわれていますが、そんなことよりももっと大切な「真の音楽とは何か」ということを教えられるようです。モノラル録音で音質はクリアというわけには行きませんが、「歴史的」という名に恥じない物凄い演奏です。

61jxmpplyflスーク(Vn)、フッフロ(Vc)、パネンカ(Pf)(1966年録音/スプラフォン盤) スークのヴァイオリンは爽やかで清潔感に溢れますが、特に若い時代には音の線が細くすっきりとし過ぎているきらいが有りました。フッフロとパネンカも同質の傾向ですので、それが古典派やボヘミア物だと大いに魅力となりますが、ロマン派の音楽には幾らか物足り無さを感じてしまいます。このメンデルスゾーンも端正で誠実な演奏で好感が持てますが、もう少し艶や色気が欲しいところです。そうなると後述のスターン達の演奏が自分にとっては理想形に近いです。

510p5wluyel__sx425_スターン(Vn)、ローズ(Vc)、イストミン(Pf)(1966年録音/CBSソニー盤) スターンが大ヴァイオリニストの割には意外に華やかさに欠けるトリオでしたが、演奏は実に素晴らしいです。古典的な様式感、造形性を保っているので、派手さは受けませんが、スターンの精緻かつ音楽的な演奏とやはり実力者の二人とが相まって、非常にバランスの良い名演奏を繰り広げています。ある程度たっぷりとしたロマンティシズムも感じさせますので、スーク達のように物足り無さを感じさせることも有りません。もっともオーソドックスな名盤だと言えます。

91w8sr5qphl__sl1500_チョン・キョンファ(Vn)、トルトゥリエ(Vc)、プレヴィン(Pf)(1978年録音/EMI盤) 全盛期のキョンファのヴァイオリンが凄いです。一音一音に凄まじい切れと気迫が漲っていて圧巻です。音色は暗く甘さが無いので、通常のメンデルスゾーンのイメージとは少々異なります。その分トルトゥリエはいかにも大家らしくたっぷりとチェロを歌わせて全体が一本調子に陥るのを防いでいます。プレヴィンのピアノも健闘しています。非常に聴き応えの有る名演奏に違いありませんので是非お薦めしたいです。また、カップリングされたシューマンのトリオ第1番では音楽との距離はより密接にあると思います。

ということでマイ・フェイヴァリットはカザルス達のホワイトハウス・ライヴ盤、リファレンスにしたいスターン盤、個性的なチョン・キョンファ盤で、これらはことあるごとに聴きたくなります。

なお、ここには挙げていませんがムターがハレル、プレヴィンと共演したグラモフォン録音盤も3、4楽章など必要以上の快速なのでどうかとは思いますが、面白さは抜群です。

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2017年3月12日 (日)

ルッツ・レスコヴィッツ ヴァイオリン・リサイタル

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昨日は”第37回プリモコンサート”として、オーストリアの巨匠ヴァイオリニスト、ルッツ・レスコヴィッツさんのヴァイオリン・リサイタルが開催されました。ヴァイオリン・リサイタルと題されてもピアノトリオが2曲も演奏されるという豪華なプログラムです。

普段からルッツさんのデュオを務めるピアニストの長谷川美沙さんに加えてチェリストの大島純さんが加わり、東京では初のピアノトリオが演奏されました。

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シューベルトとブラームスのヴァイオリンソナタ、それにハイドンとメンデルスゾーンのピアノトリオと、ドイツ・オーストリアの大作曲家たちの名曲をたっぷりと素晴らしい演奏で聴かせてくれましたのでお客様も皆さん大満足されました。

特にプログラム最後のメンデルスゾーンは、スケール大きくロマンティシズム一杯に演奏されて圧巻でした。ルッツさんのストラディヴァリウスに大島さんのチェロが重なり合う見事なハーモニーにはしばし言葉を失いました。

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2017年3月 5日 (日)

ドヴォルザーク 弦楽四重奏のための「糸杉(Cypresses)」 名盤

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ドヴォルザークは弦楽四重奏曲も多作で全部で14曲を書きました。ボヘミアの爽やかさを感じるような魅力作が並びますが、さすがに最高傑作の「アメリカ」のレベルを期待すると拍子抜けする恐れが有ります。それよりもむしろ僕が惹かれているのは”弦楽四重奏のための「糸杉」”という番号無しの作品です。

ドヴォルザークは青年時代、音楽学校を卒業後、オーケストラのヴィオラ奏者を務めていましたが、その仕事の合間にチェルマーコヴァ家の二人の娘さんの音楽教師となります。そこで姉のヨゼフィーナに恋心を抱くのですが見事に失恋してしまいます。

そこでドヴォルザークは失意のうちに、当時プラハで出版されていたモラフスキーの詩集「糸杉」を題材とした18曲の歌曲集を作曲します。詩の内容は絶望と悲しみに満ちていて、終曲では「この苦しみが自分の故郷となる」という悲痛さの中で終わります。

ところが、彼は後にヨゼフィーナの妹であるアンナと結婚をするわけですから、アントンくんも中々やりますね。どうしてどうして”女性”には案外逞しかったようです。少なくとも生涯独身のブラームス先生を越えています(?)。

当時24歳だったドヴォルザークが書いた歌曲集「糸杉」は、友人の作曲家のカレル・べンドルに献呈されましたが、余り評価をされなかったので、後に改定を加えて「4つの歌 作品2」「愛の歌 作品83」の別の歌曲に編曲しました。

更に歌曲集の作曲から22年後、46歳となったドヴォルザークが弦楽四重奏用に編曲した12曲がこの「糸杉」という作品です。

各曲のタイトルは以下の通りです。

  1. 私は甘い憧れに浸ることを知っている
  2. 死は多くの人の心をとらえる
  3. お前の優しい眼差しに魅せられて
  4. おお、私たちの愛は幸せではない
  5. 私は愛しいお前の手紙に見入って
  6. おお、美しい金の薔薇よ
  7. あの人の家の辺りをさまよい
  8. せせらぎに沿った森で
  9. おお、ただ一人の愛しい人よ
  10.そこに古い岩が立っている
  11.この地にさわやかな西風が吹き
  12.私の歌がなぜ激しいか、お前は尋ねる

どの曲も3分前後の短い曲ですが、元々が歌曲であるだけにどの曲もとても情緒的な美しい旋律を持っています。甘く恋を歌う曲も有れば、悲しみに包まれた曲も有り、ドヴォルザークの才能が既に明確に表れています。

現在では「糸杉」と言えば、むしろ弦楽四重奏版の方が取り上げられることが多いようです。実際にCDも複数出ていますが、原曲の歌曲の方は余り取り上げられていません。

ところで、Cypressの語源ですが、ギリシア神話で美少年キュパリッソが姿を変えられたのが糸杉だとされていることから、この名が付きました。キプロス島の名前もここからとされています。

糸杉はヒノキ科の木で、欧米では街路樹や建築資材に多く使われますが、キリストがはりつけにされた十字架がこの木で作られたという言い伝えがある為に、花言葉は「死」「哀悼」「絶望」であり、死や喪の象徴とされます。
これで歌曲集の意味がよくお解りでしょう。

それではCDのご紹介です。

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プラハ弦楽四重奏団(1973年録音/グラモフォン盤) 
これは彼らのドヴォルザークの弦楽四重奏曲の全集盤に含まれている演奏で、単売されていないのが残念です。けれども演奏は非常に素晴らしく、僕はこの演奏が最も気に入っています。何といっても第1ヴァイオリンのブジェティスラフ・ノヴォトニーの歌い回しが絶品で、この曲の持つ数々の美しい旋律から優しさや愛の悲しみを余すところなく表現し尽くしています。ボヘミアの情緒もこぼれ落ちそうです。

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パノハ弦楽四重奏団(1994年録音/スプラフォン盤)
パノハ四重奏団の演奏も素晴らしいです。彼らも弦楽四重奏の全集盤を完成させていて、その中に含まれますが、単売もされています。ちなみに自分が所有しているのは後期作品を集めた3枚セットです。第1ヴァイオリンのイルジー・パノハに代表されるいかにも”チェコの弦”の特徴である、しなやかで美しい音がどの曲においても楽しめます。愛を失った悲しみに溢れるこの愛すべき曲にふさわしい慈愛に満ちた名演奏だと思います。

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プラハ・ヴラフ弦楽四重奏団(1996年録音/NAXOS盤)
単品で手軽に購入されたい場合にはこちらがお勧め出来ます。廉価盤と侮ることなかれ。本場チェコの団体が行った全曲録音の中の1枚で、彼らはメジャーレーベルの演奏団体と比べて少しも遜色の無い充分な実力を持っています。楽器の音色も綺麗です。彼らの歌い回し、表現そのものは控え目で奥ゆかしさを感じますが、それは目の前の悲しみに”立ち向かう”というよりも”そっと寄り添う”というイメージです。けれどもここぞという場面ではしっかりと悲痛な叫びを上げています。

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2017年3月 1日 (水)

ドヴォルザーク 弦楽四重奏曲第12番ヘ長調 op.96「アメリカ」 名盤

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一般的に”渋い”イメージの有る弦楽四重奏曲ですが、その中でもポピュラーな曲の筆頭格なのがドヴォルザークの第12番「アメリカ」ですね。

それほど人気の高い曲の「名盤」を今まで何故記事にしなかったのかと言えば、スメタナ四重奏団の演奏する「アメリカ」を記事にしていたからです。完全無欠の彼らの演奏は極論を言えば、それだけで事は足ります。けれども、それではあんまりですし、他にも名演奏が無いわけではありません。そこで、彼らの演奏を含めて「名盤」を記事にすることにしました。

ドヴォルザークは弦楽四重奏曲を全部で14曲書きましたが、その最高傑作が「アメリカ」です。プラハからニューヨークに渡ったドヴォルザークが最初に書いた大作は交響曲「新世界より」ですが、そのすぐ後に音楽院の夏季休暇に入ったので、チェコからの移民が多く暮らすアイオワ州のスピルヴィルで過ごし、約2週間で書き上げたのが「アメリカ」でした。

もっともドヴォルザーク自身はこの曲に副題は付けていません。かつては「ニガー」(黒人の俗称)などと呼ばれもしましたが、現在では「アメリカ」と呼ばれています。

「新世界より」と「アメリカ」は、どちらも黒人やインディアンの民謡の影響を受けた共通点が有りますが、ニューヨークで書かれた「新世界より」と、ボヘミア移民の村で書かれた「アメリカ」とは幾らか趣の異なりが感じられるかもしれません。

この曲は全楽章が魅力に溢れていますが、第1楽章のドラマティックな曲想の変化、第2楽章の美しい旋律による痛切な寂寥感が特に印象的です。それを受ける第3楽章、第4楽章も比較的シンプルながら民謡調の動機が小気味良く流れて行くので飽きることが有りません。正に”旋律家”ドヴォルザークの面目躍如というところです。

ところでドヴォルザークが大変な鉄道マニアであったことは有名な話で、汽車に乗ってはその走行する音を楽しんでいたのだそうです。そんな汽車のリズムが第4楽章からはっきりと聞き取れると思います。シュッシュポポ、シュッシュポポ、とね。

それでは、まずドヴォルザークと同郷のチェコの団体が演奏するCDからご紹介します。

Amerikano10695ヤナーチェク弦楽四重奏団(1962年録音/DECCA盤) 彼らはこの当時、スメタナ四重奏団よりも人気が高かったと思います。このカルテットの魅力は一にも二にも第1Vnのイルジー・トラヴニチェクにあります。表情豊かで濃厚な歌い回し、切れの良さが迫力を生み、いかにも民族的な土の香りに溢れています。それが音楽への共感に溢れているので少しもわざとらしさが感じられません。他の三人の表現がトラヴニチェクには及びませんが、これはまだ第1ヴァイオリン主導型のスタイルが全盛の時代だったからなのでしょう。トラヴニチェクは残念なことに1973年に急死してしまい、メンバーも交代して実力はともかく、それまでの名声は保てなくなりました。

41zm8h2t6al__sl500_aa300_ スメタナ弦楽四重奏団(1966年録音/EMI盤) 彼らは「アメリカ」を全部で5回録音しています。時代と共にスタイルは少しだけ変りますが、全て名演です。このEMI盤は非常にスタイリッシュな演奏で、後年のライブ録音のようなルバートや音のタメは有りません。ですのでドラマティックさは余り強く感じません。けれども音には非常にしなやかさがありますし、切れの良さや流れの良さが格別です。技術的にも全盛期にあり完璧です。第1ヴァイオリンのノヴァークも上手いのですが、第1楽章第1主題を弾くヴィオラのミラン・シュカンパの魅力は惚れ惚れするほどです。ヤナーチェク四重奏団のような強い個性は有りませんが、やはり好きな演奏です。

Amercans51jvz5egcclプラハ弦楽四重奏団(1973年録音/グラモフォン盤) 1956年にプラハ交響楽団の首席ヴァイオリニスト、ブジェティスラフ・ノヴォトニーを中心に結成された団体ですが、グラモフォンの全集録音に抜擢されました。全集を残していないヤナーチェクQやスメタナQが取り組めばそれ以上の出来栄えの全集が生まれたことと思いますが、歴史は変えられません。ノヴォトニーの弾き方がスタッカート気味で、やや弾み過ぎる傾向にあるのが時に気になりますが、全体的には土の香りのする演奏で情緒表現も豊かですので不満は有りません。CDでは単売されておらず、全集で購入するしか無いのが不便ですが、他の曲も聴いてみたいと思う方にはお勧めします。

Cci00029スメタナ弦楽四重奏団(1980年録音/DENON盤) 彼らの録音の中でも特に素晴らしいのは4回目の1980年の日本ツアーの際に神戸文化会館で残したライブ盤です。まだ技術の衰えは感じませんし、時に大きなルバートや音のタメが見られる、彼らとしては最もドラマティックに歌わせた演奏です。とは言え、彼ららしく基本的には端正で、過剰に弾き崩したりはしません。このCDはこともあろうに廃盤扱いです。中古店では時々見かけますので、「アメリカ」やスメタナ四重奏団がお好きな方には是非ともお聴き頂きたいと思います。

307スメタナ弦楽四重奏団(1987年録音/DENON盤) 彼らは晩年にもプラハの芸術家の家でスタジオ録音を行いました。80年の神戸ライブに比べると、技術的にはだいぶ衰えを感じます。特に第1ヴァイオリンのノヴァークにそれを感じてしまいます。またアンサンブルとしても明らかに結晶度が落ちています。しかし、それではこれがつまらない演奏なのかと言えば、全くそんなことは無く、もしも80年盤が存在しなければ、こちらを代表盤としても十分に通ります。彼らのドヴォルザークの演奏は、どれもが本当に素晴らしいです。もし「新世界より」で例えてみるとすれば、王道をゆくヴァーツラフ・ノイマン/チェコ・フィルの演奏というところでしょう。

Amerikan040パノハ弦楽四重奏団(1994年録音/スプラフォン盤) チェコのヴァイオリニスト、イルジー・パノハをリーダーに1968年に結成された団体です。彼らの全集盤からの演奏ですが単売もされています。いかにもチェコの団体らしいしなやかで美しい音を持ち、どこかで素朴さ感じさせます。但し、かつてのスメタナQやヤナーチェクQのような貫禄は無く、どうしても小粒に感じてしまうのが残念です。ヴィオラ奏者がやや弱いのもマイナスです。それでも一貫してこの美音と高レベルの演奏が聴けるのであればむしろ全集盤の価値が高いように思います。

続いてはチェコ以外の団体のCDです。

Amerikan882ウイーン・コンツェルトハウス四重奏団(1962年録音/DENON盤) ウエストミンスターへの数々の録音で今でも人気の高い彼らですが、ウイーン・フィルが日本に来た時に日本コロムビアによってステレオ録音が残されているのは奇跡です。この団体もまた第1ヴァイオリンのアントン・カンパ―の魅力が際立ちますが、このとき第2ヴァイオリンを担当したワルター・ウェラーも秀逸です。カンパーは既にかなり体力を落としていて、この後直ぐに亡くなるのですが、いざ録音を開始すると別人のように毅然と演奏をしたそうです。彼らの甘くたっぷりとした歌い回しは最高で、ダイナミクスと優雅さが共存した素晴らしい演奏です。「新世界より」であれば、これはさしずめイシュトヴァン・ケルテス/ウイーン・フィルの演奏です。

Amerikansimジュリアード弦楽四重奏団(1967年録音/CBS SONY盤) この団体は音楽的には第1ヴァイオリンのロバート・マン主導の古い専制君主型なのですが、いかんせん他のメンバーも技術が非常に高いので四者均等型のように聞こえます。各パートの音はバランス良くすこぶる立体的に構築されていて、一聴したところはクールで緻密な演奏のように感じますが、中々どうして歌からは郷愁が強く訴えかけられて来ます。しかし全体からは田舎の素朴さよりも大都会に建ち並ぶビルディングを想わせます。これは「新世界より」ならジョージ・セル/クリーヴランド管の演奏というところです。

ということで、「アメリカ」のマイ・フェイヴァリットは何を置いてもスメタナ四重奏団の1980年神戸ライブですが、ヤナーチェク四重奏団、更にはウイーン・コンツェルトハウス四重奏団、ジュリアード四重奏団も外せません。

<注記>
スメタナ四重奏団のCD紹介内容は過去の「スメタナ四重奏団の忘れられない思い出」からの抜粋です。ほぼ重複していることをお断りしておきます。

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2017年2月15日 (水)

ドヴォルザーク 交響曲第9番「新世界より」 再聴盤あれこれ

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”新世界交響曲”はニューイヤーコンサートでよく演奏されますね。新しい世界に足を踏み出すことが、新たな年の一歩に結び付けられるからでしょうね。

それにしても、これほど解かり易く魅力的な曲も珍しいです。僕自身も一番最初に好きなったクラシック音楽ですし、これからクラシックを聴いてみたいという方には真っ先にお勧めしたい曲です。

ですので、これまで色々なレコードやCDを聴いて来ました。そのうちの、お気に入りのディスクに関しては、ドヴォルザーク交響曲第9番「新世界より」名盤隠れ名盤マッケラスのライヴ盤でご紹介しましたが、それらのほとんどはチェコもしくはスロヴァキアのいわゆる本場もののオーケストラ、指揮者の演奏でした。

その本場もの嗜好は今でも全く変わりませんが、年齢を重ねてゆくと人間、段々と丸くなるようで(体形の話ではありませぬ!)、世評に高い演奏でありながら、余り好きになれなかったものを改めて聴いてみようかという気になりました。但し一度レコードやCDを手放していますので再購入が必要でした。

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ジョージ・セル指揮クリーヴランド管(1959年録音/CBS盤)
 セルのCBS時代のセッション録音は概して精密ながら「機械的」で整い過ぎているのが面白くないというのが、かつての自分の印象でした。しかし好きな人は非常に好き。ということで再聴です。あっさりと始まる冒頭で「やはり・・・」と思いかけてみたものの、主部に入ると速いテンポで颯爽と飛ばします。よく”室内楽的”と評されるように各パートが緻密で正確無比です。そして剣の達人のごとき最高の切れ味で聴き手を圧倒します。全く何というオーケストラなのでしょう。けれど演奏に血が通っていないかというとそんなことは無く、意外にも熱い血潮が流れています。いい例が第2楽章で、テンポは速めでも豊かな情感を感じさせます。演奏には哀愁が迸っています。そういえばセル自身はハンガリー人ですが、母はスロヴァキア生まれなのでやはり影響は有るのかもしれません。後半3楽章のリズムの切れ味は最高、4楽章に入ると更に高揚感が増してゆき、これを単に「機械的」だなどという軽い言葉で済ますのは大きな誤りであることが分かります。基本はインテンポでも、ここぞというところでテンポを落すのが非常に効果的なのはトスカニーニと似ています。

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レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィル(1962年録音/CBS盤)
 これは昔アナログ盤で愛聴した演奏でしたが、セルとは全く正反対のスタイルです。テンポは遅い部分と速い部分の差が非常に大きいので、現在聴くとそのアクセルとブレーキの切り替えの多さに車酔いを起こしそうです。たたみ掛ける迫力は凄いですし、更にダイナミクスの変化も大きいので、正に山あり谷ありのバーンスタイン・ワールドというところです。これがレニー得意のマーラーにおいて絶大な魅力となるのですが、ドヴォルザークではもう少しシンプルな進行が望ましいと思います。どうしても自分にはレニーの独りよがりの解釈に感じられてしまうのです。ニューヨーク・フィルも、ここでは幾らか雑な仕上がりに聞こえる部分も有りますが、これは当時レコーディングが目白押しだった弊害だと思います。

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イシュトヴァン・ケルテス指揮ウイーン・フィル(1961年録音/DECCA盤)
 これは録音当時、飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍をしていたケルテスの代表盤のひとつで、現在でも非常に人気の高い演奏です。テンポの大きな変化、ダイナミクスの巾の大きさはバーンスタインと共通しますが、レニーがやや唐突感を感じてしまうのに対して、ケルテスは若いながらも計算され尽くした演奏である印象を受けます。チェコ出身の指揮者ではここまで自在な指揮はまずしませんが、好みは別として”天晴れ”を送りたいです。良く言われるように若手にもかかわらずウイーン・フィルを手綱で絞めて引き摺り回し、快演させること自体大変凄いことです。当時のウイーン・フィルの音色も都会的でなく田舎臭さを大いに残しているのは大きな魅力です。それでいて弦の音色などはまるで美しいシルクの印象を与えます。デッカの録音はとても聴き易く、古めかしさを感じないばかりか、アナログ的な柔らかさが心地良さを与えてくれます。

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ヴァーツラフ・スメターチェク指揮プラハ放送響(1966年録音/PRAGA盤)
 奇しくも昨年亡くなられた宇野功芳先生の推薦盤がケルテス、スメターチェクと続きます。これは”本場もの”の演奏ですね。実は、このCDも昔手放したもので、その後に随分とプレミアが付いたので再購入を躊躇していましたが、ようやくリーゾナブルな価格で入手できました。スメターチェクは元々ストレートで思い切りの良い直情的な演奏をしますが、そこに熱い血潮が感じられるのが宇野先生の好みであったようです。この演奏はプラハでのライヴなのでその傾向は明確です。洗練されていないオーケストラを熱くドライブさせて楽しませます。しかしオケの響きは薄めで、その割にティンパニを強打させますので、バランスが余り良いとは言えません。これを果たして「迫力」に感じるか、「貧弱」に感じるか、聴き手の耳がどちらに転ぶか際どいと思います。事実自分もかつては後者に感じたのでCDを手放したのでした。では今は?後者にも感じるが、それでも捨てがたい魅力を感じるという処です。やはり人間丸くなったみたいです。

さて、今回の”名盤”再聴の中で、一番気に入ったのはジョージ・セル盤でした。これはチェコやスロヴァキアの本場もの以外の演奏で一番のお気に入りとなりました。
でもまてよ、アメリカのオケの演奏は新世界としての”本場もの”だったかな。

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2017年2月 8日 (水)

プッチーニ オペラ「蝶々夫人」 新国立劇場公演2017

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日曜日のこと。新国立劇場でオペラ「蝶々夫人」を観劇しました。栗山民也のこの演出で観るのは何度目でしょうか。この長崎を舞台にしたオペラのとても分かり易くセンスの良い演出は完成度が高いです。日本の長崎で起こった悲劇を静的に、かつ劇的に堪能させてくれます。

今回のタイトルロールは安藤赴美子さん。新国立劇場生え抜きですが、素晴らしい歌唱に魅了させられました。ピン・カートンを除く全員を日本人歌手が歌いましたが、みな素晴らしかったですね。期待ほどでは無かったのがピン・カートン役のリッカルド・マッシ。テノールの声が持つあの輝きが感じられませんでした。調子が万全でなく安全運転に徹していたのでしょうか。

指揮のフィリップ・オーギャンと東京交響楽団はとても良かったです。弦も管も音が大変充実していました。特に終盤のドラマティックなシーンでのティンパニの強打が凄く雄弁で印象的でした。

それにしても昔から男が単身赴任すると現地妻を持ったりとロクなことをしませんねぇ。悲劇が起こらないようにみなさん気を付けましょ~ね。

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2017年2月 2日 (木)

ブラームス 弦楽六重奏曲第1番&第2番 ~隠れ名盤~ ルッツ・レスコヴィッツ、エミール・クライン他

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オーストリアのザルツブルク出身のヴァイオリニスト、ルッツ・レスコヴィッツ氏の存在を知ったのは一昨年の秋のことでした。氏の生演奏を聴いたヴァイオリン好きの友人が感激してその話をしてくれたからです。

その後、実際に自分も演奏を聴ける機会が有りました。友人の話に違わずそれは素晴らしい演奏でした。

レスコヴィッツ氏をご存知の方は少ないと思います。何故なら氏はエージェントを使わずに、小規模のコンサートを各地で開いているからです。聞くところでは氏は必ずしも大勢の客を好むわけでは無く、本当に自分の演奏を聴きたい客にたとえ人数は少なくても演奏を身近に聴いて貰う方が良いという考えなのだそうです。

今では本場でも希少となりつつある伝統的なウイーンの演奏法を伝承する目的で世界を旅するルッツさんは、まるで音楽の伝道師のようではありませんか。

レスコヴィッツ氏のキャリアを読んで頂くとどれほど凄い演奏家なのかがお分かりになると思いますが、とりわけ名ピアニストのイエルク・デームス氏と50年もの間、デュオを組んだことは特筆されると思います。

過去には協奏曲の録音もされたようですが、残念なことに現在入手できるCDはごく限られています。そんな中で見つけたのが「ブラームス 弦楽六重奏曲第1番&第2番」です。

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これはARTE NOVAから発売されたディスクです。
第1ヴァイオリンのルッツ・レスコヴィッツ氏と第1チェロのエミール・クラインが演奏全体をリードしている印象ですが、他の4人の奏者も知名度は低いながら、いずれも実力者ばかりです。

演奏は一言で”極めて美しい”です。第1番ではパブロ・カザルス達の録音に代表されるような、激しく、まるで慟哭するような演奏が有りますが、それとは正反対です。このブラームスの青春の息吹を心の奥底に染み入るような実に柔らかい歌い方で聴かせてくれます。この曲は前半の第1楽章と第2楽章が非常に充実しているので、どうも頭でっかちのような印象を受けてしまいがちです。ところが彼らの演奏で終楽章を聴いてみると、何ともゆったりとしたウイーン的な魅力に溢れ、すこぶる充実して聞こえます。もちろん前半の1、2楽章の演奏も素晴らしく、全体のバランスが凄く良いのです。レスコヴィッツ氏のヴァイオリンは誇張や恣意的な表現を排除して大変美しく、この名曲に独特の輝きを与えています。

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もし貴方がブラームジアーナーであれば、第1番の感想を読まれれば、第2番の演奏がそれ以上に曲に向いていることは楽に想像出来ると思います。「アガーテ」と呼ばれるこの曲には大げさな演奏は似合いません。レスコヴィッツ氏とエミール・クラインがリードする演奏には、恋人への思い、優しさが溢れ出ています。元々第2番もとても好きでしたが、この演奏で聴くと人気の高い第1番に肩を並べる名曲であることに気づきます。過去のウイーン・コンツェルトハウスQやアマデウスQなどの演奏をすっかり忘れさせるほどに素晴らしい内容です。

残念なことに、これほど素晴らしいCDなのに現在は廃盤となっています。中古もしくは海外のAmazonなどで探されるしかありません。

☆ 2017.3.11.演奏会情報(東京都目黒区洗足)
 
ルッツ・レスコヴィッツ ヴァイオリン・リサイタル

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ブラームス 弦楽六重奏曲第1番&第2番 ジュリアード四重奏団のライヴ盤

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2017年1月13日 (金)

ルッツ・レスコヴィッツ ヴァイオリン・リサイタルのお知らせ

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巨匠ピアニストのイエルク・デームスと50年間もの長い間デュオを組み、バドゥラ=スコダやケンプ、その他大勢の有名演奏家と共演し、現在も世界中で活躍されているヴァイオリニスト、ルッツ・レスコヴィッツさんが洗足のプリモ芸術工房に出演します。
現在では本国でも希少となりつつあるウィーン伝統の演奏スタイルと名器ストラディヴァリウスの美しい響きによる至福のひと時になることは間違いなしです!

この日は無伴奏ヴァイオリン、ピアノとの二重奏、ピアノ三重奏と大変バラエティに富んだ精力的なプログラムです。どうぞお聴き逃し無く。ぜひご一緒にウイーンの音楽を満喫しましょう。

日時
  2017年3月11日(土)14:00開演(13:30開場)

出演
  ヴァイオリン:ルッツ・レスコヴィッツ
  ピアノ:長谷川美沙
   チェロ:大島純

プログラム
  バッハ:無伴奏ヴァイオリンソナタBWV1001よりアダージョ
  シューベルト:ヴァイオリンソナタ D574
  ブラームス:ヴァイオリンソナタ第2番 Op.100
  ハイドン:ピアノ三重奏曲「ジプシー」 Hob. XV; 25
  メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1番 Op.49

チケット
  一般 4000円(当日一般 4500円)

※お問合せ&お申込み
  プリモ芸術企画 03-6421-6917 info@primoart.jp 
  (ホームページへのリンクはこちら

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2017年1月12日 (木)

シューベルト歌曲集「冬の旅」 ユリアン・プレガルディエン(T)と鈴木優人(Pf)のコンサート

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今日は寒い冬の夜、四谷の紀尾井ホールまで旅してシューベルトの歌曲集「冬の旅」を聴いて来ました。ユリアン・プレガルディエンのテノールと鈴木優人のフォルテピアノです。二人ともその道で有名な父親を持ちますので優秀な二世同士ということですね。

このコンサートを聴いてみたくなったのは「冬の旅」の原譜のテノールで歌われること(最近は家でもテノールで聴くのが好き)。二人とも30歳そこそこの同世代であり、シューベルトが「冬の旅」を作曲した年齢に近いこと。演奏に使われるフォルテピアノの製造時期が「冬の旅」が書かれた頃であること。などなどです。

ユリアンの声は非常に美しく、父上のクリストフに良く似ていますね。黙って聞かされたら分からなそうです。歌唱については父上のリートの域に届くにはもう少し時間がかかるかな、という印象ですが、この若さでこれだけの表現力が有るのは凄く、今後増々期待が出来るのは間違い無しです。
優人さんのフォルテピアノの伴奏も美しく表現力豊かでとても良かったです。古い楽器ですが大変綺麗な音がしていました。
驚いたのは終曲の「辻音楽師」で、明らかに辻音楽師の持つ”ドレーライヤー”の調べを模写するような細く金属的な音色でした。どういう仕掛けであのような音に出来たのか気になりますが、素晴らしいアイディアでした。

ということでコンサートは良かったのですが、本厚木の我が家まで帰るには冬の旅をして2時間です。満員電車でコンサートの余韻も消え去り、何をしにしに行ったのかな、と。平日の夜の都心のコンサートには二度と行くまい!と毎回思うのですが、懲りずにまた行っている自分が居ます。

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2017年1月 9日 (月)

バッハのコンチェルト ~愛聴曲三昧~

三連休も今日で終わり、年末年始気分もとうとう完全に消え去りそうです。気持ちを切り替えなくてはいけません。YOU CAN CHANGE!

でもその前に新年に聴いた音楽についてまとめてみます。新年にはやはり厳かな音楽が聴きたくなるので、毎年バッハかベートーヴェンを聴くのが恒例のようになっています。ということで、今年はバッハの協奏曲で好きなものを良く聴いていました。今回上げているCDはこれまでの記事には無かったものですので、以前のものと比べてみると新しい発見が有ったりして面白いです。

ブランデンブルク協奏曲集BWV1046-1051

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ベルリン古楽アカデミー(1997年録音/ハルモニアムンディ盤)

以前は古楽器の音を「干物の魚みたい」などと酷いことを書いていましたが、時と共に耳や感覚は変わるもので、最近ではバロックはむしろ古楽器が良いような気もします(今頃!)。
そこで新たに聴いたのがベルリン古楽アカデミー盤です。巷での評判も良く、ゲーベル/ムジカ・アンティク・ケルン盤と並べて評されることも有るので期待しました。但しこのCDは1枚目に1番、3番、5番、2枚目に2番、6番、4番の順で変則に並んでいるのが少々微妙です。
演奏は確かに素晴らしいもので、音色、技術、楽しさはゲーベル盤と比べても遜色有りません。それでいてベルリンの団体だけあって、どこかドイツの香りを感じさせるのが良いです。問題が有るとすれば第1番です。ディナーミクの変化(クレッシェンド、ディミヌエンド)が自然でなく、とって付けたようなわざとらしさを感じます。管楽器の音も大き過ぎて、弦楽をかき消し気味です。アカデミーということでも無いでしょうに、まだまだ青いですね。その点ゲーベル盤は面白くても自然でした。
けれども逆に第6番は、ゲーベル盤が余りにテンポが速過ぎて何をやっているのか分かりませんでしたが、こちらは速いながらも程良いテンポなのでこの曲の滋味深い旋律を充分に楽しませんてくれます。
総合的にどちらと言うのは難しいですが、僕は第6番が大好きなのでベルリン古楽アカデミー盤に惹かれます。
但し、いまだにリヒター盤やパウムガルトナー盤をこよなく愛することに変わりは有りません。
<関連記事>ブランデンブルク協奏曲 名盤

ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲ニ短調BWV1060

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コレギウム・アウレウム合奏団、フランツヨーゼフ・マイアー(Vn)、ヘルムート・フッケ(Ob) (1976年録音/ハルモニアムンディ盤)

この曲は短めの曲ながら大変溺愛しています。往年のオーボエの巨匠へルムート・ヴィンシャーマンの貫禄ある演奏を偏聴しているために、これまで古楽器の演奏には余り食指が伸びませんでした。しかし、いつまでもそれではいけないと思い、選んだのがこのコレギウム・アウレウム盤です。バロック・ファンには「何を今更」と叱られそうな、かなり以前の録音ですが、まぁ、お許しを。
しかしこれが録音された1976年当時では古楽器の先端を行っていたのでしょうが、古楽器使用といえども、ヴァイオリンはヴィブラートを普通に付けていますし、まだモダンからピリオドへの過渡期のような印象です。だからこそ、いまだモダン楽器の演奏にも大いに惹かれる自分のようなリスナーにとってはちょうど良いのかもしれません。
ヴィンシャーマンの遅いテンポによる重厚な演奏に比べればずっと速いですが、過激なスピード演奏とは異なり落ち着いてこの名曲を楽しむことが出来ます。
なお、このCDにはフルート、ヴァイオリンとチェンバロのための協奏曲BWV1044、チェンバロ協奏曲第1番BVW1052の2曲が収められています。
<関連記事>ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲 名盤

ヴァイオリン協奏曲集

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ユーディ・メニューイン(Vn独奏、指揮バース祝祭管弦楽団)(1958-62年録音/EMI盤)

さて、お次に登場はバリバリのモダン楽器演奏です。メニューインはとても好きなヴァイオリニストで、バッハの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータ全曲」のCDは愛聴盤の一つです。
まぁ古楽器派全盛の時代では『古めかしい』と片付けられそうな演奏ですが、しかしこのヒューマニズム溢れる演奏には強く惹きつけられます。古いといっても更に時代を遡った戦前のバッハに比べれば現代の感覚にも十分受け入れられると思います。
特に優れているのが第2ヴァイオリンに当時の若き名手クリスティアン・フェラスを擁した「2台のヴァイオリンのための協奏曲」で、かのヘンリク・シェリングとペーター・リバールの名盤に匹敵するとまでは言いませんが、両者の温かいヴァイオリンの掛け合いに心は幸福感で満たされてしまいます。
また同様に素晴らしいのが第1番です。ゆったりと情感たっぷりに奏でられるメニューインのヴァイオリンにはスタイルを越えた素晴らしさが感じられます。
残る第2番は少々まったりし過ぎかなとも思えます。もちろんそれが特徴ではあるのですが。
なお、このCDには「ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲」も含まれていて、オールドファンには懐かしい名手ユージン・グーセンスがオーボエを演奏しています。
<関連記事>バッハ ヴァイオリン協奏曲集 名盤

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2017年1月 1日 (日)

~迎春~ 2017 元旦

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皆さま、あけましておめでとうございます。

この二年ほど様々なリアル音楽活動を始めたためにブログの更新ペースががだいぶ落ちてしまい、特にCDの紹介記事に関しては激減していました。

けれども本当に有難いと思うのは、その間にも何年も前の古い記事を読んで下さり、コメントを寄せてくださる方がいらっしゃることです。

そのたびに『ああ、CDの記事を書きたいなぁ・・・』と思わずにいられません。実際にはCDを購入しても聴く時間が足りずに記事を書けないのですが、いずれは必ず復活したいと思い続けていました。

しかし昨年地元で立ち上げた県央音楽家協会の設立記念コンサートを無事に9月に終えることが出来たので一区切りが付き、ようやくCD記事を書けるようになりつつあります。

もちろん今年もリアル音楽活動は続けてゆきますし、新しい企画も色々と増えます。そんな中でもCD紹介記事を出来るだけアップしてゆきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します。

この新たな一年が皆様にとりまして幸多き年となりますようにお祈り申し上げます。

           2017年 元旦 ハルくん

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2016年12月27日 (火)

ブルックナー 交響曲第7番 クリスティアン・ティーレマン/シュターツカペレ・ドレスデン ~今年聴いたCDから~

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さて、”今年聴いたCD”の締めくくりはクリスティアン・ティーレマンのブルックナーの交響曲第7番です。

この2枚組のCDがリリースされたのは今年の夏ですが、1枚目に収められているのは2012年9月のシュターツカペレ・ドレスデンへのティーレマンの首席指揮者就任祝いの演奏会でのブルックナー交響曲第7番、そして2枚目には2013年5月のワーグナー生誕200周年記念特別演奏会でのワーグナーの男声合唱とオーケストラのための『使徒の愛餐』が収められています。

ティーレマンは押しも押されぬ当代随一の人気指揮者ですが、伝統的なドイツ音楽の継承者として他には考えられない存在です。この人は常に遅めのテンポでスケールの大きい音楽を創り出していて、現代流行りの速いテンポによる切れの良さを求めた演奏スタイルに背を向けたところが逆にファンに支持される理由なのでしょう。

ですのでこの人が最も得意とするのは当然後期ロマン派ですし、若いころからオペラハウスの現場で鍛えられたワーグナーが一番です。次いでリヒャルト・シュトラウスやアントン・ブルックナーが上げられます。ブラームスやベートーヴェンもやはりスケールが大きく素晴らしいものの、このような古典的造形性を持つ音楽ではテンポを不自然に変えてしまう悪い癖が時々現れてしまう為に手放しでは称賛出来ません。

ティーレマンとシュターツカペレ・ドレスデンはこの演奏会の直ぐ後に行われた日本ツアーでも第7番を演奏していて、僕は残念ながら聴いていませんが評判は凄く良かったようです。

このCDの音質については、柔らかく美しいもののホールトーンの成分がやや過多に感じられて細部の分離に幾らか不満を感じます。編集段階で多少残響を付加しているのかもしれませんね。ただ、その代わり何気なく聞いている分には会場で生で聴いているような心地良さが感じられます。強音には僅かに歪み成分が混じるようですが気にするほどではありません。

肝心の演奏の基本テンポは遅めですし、呼吸の深さも妥当です。チェリビダッケのような極度に遅いテンポでは呼吸困難に陥る自分には丁度良いレベルです。

オーケストラについてはさしものシュターツカペレ・ドレスデンといえどもライブでは完璧とは言えません。しかしこれもCDではなく会場で聴いていれば果たして気になるかどうかという程度ですし、ライブでこれだけの演奏が可能なのはやはり凄いことです。これを名だたるセッション録音の名盤と比べたら瑕だらけ、ライブ盤として割り切って聴けば文句なし、そんなところでしょうか。

何だか褒めているようなケチを付けているような分かりにくい感想ですみません。自分としても良く分からないまま何度も繰り返して聴いています。それで最後まで聞き通せるのですから結局は気に入っているのでしょうね。特に終楽章は集結部に向かってじっくりと腰を落して立派に構えていて、壮麗な金管も少しもうるささを感じずに充実した音楽を味わえる稀有な名演奏だと思います。

『使徒の愛餐』は、「男性合唱と大オーケストラのための聖書の情景」と副題が付いていて、ワーグナーがドレスデンの音楽監督となった頃に書かれた作品で、1843年にワーグナーの指揮により100人のオーケストラと1200人の合唱によりフラウエン(聖母)教会で初演された記録が残っているそうです。

曲は聖霊降臨の場面に基づいた内容で、前半はアカペラによって壮麗に歌われ、後半ではオーケストラが加わって「パルジファル」の世界を想わせます。元々この曲はCDが少ないので、ワーグナー記念の年に初演の場所で行われた演奏会録音は貴重ですね。

【収録情報】
Disc1 [69:58]
ブルックナー:交響曲第7番ホ長調 WAB107 (1944年、ハース版)
 録音時期:2012年9月2日
 録音場所:ドレスデン、ゼンパーオーパー

Disc2 [29:47]
ワーグナー:使徒の愛餐 WWV69
 録音時期:2013年5月18日
 録音場所:ドレスデン、聖母教会

 ドレスデン国立歌劇場合唱団 (Disc2)
 チェコ国立ブルノ・フィルハーモニー合唱団 (Disc2)
 ライプツィヒMDR放送合唱団 (Disc2)
 ドレスデン・フィルハーモニー合唱団 (Disc2)
 ドレスデン室内合唱団 (Disc2)

 シュターツカペレ・ドレスデン(演奏)
 クリスティアン・ティーレマン(指揮)

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2016年12月23日 (金)

シベリウス 交響曲全集 オッコ・カム/ラハティ交響楽団 ~今年聴いたCDから~

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今年聴いたCD第二弾はシベリウスの交響曲全集ですが、これはオッコ・カム/ラハティ交響楽団の昨年秋の日本ツアーに合わせてBISレーベルからリリースされたものです。ちなみにSACDハイブリッド仕様です。

初台のオペラシティで開かれた交響曲チクルスには後期の第5、第6、第7のアーベントを聴きに行きました。その感動の内容についてはこちらのブログ記事をご参照ください。

カムのシベリウスといえばデビュー時にグラモフォンに録音した第1から第3番の名演奏が有りますし、1982年のヘルシンキ・フィルの日本ツアーで渡辺暁雄とシェアしたチクルスの素晴らしい演奏がTDKによって記録されてCD化されています。

その後の檜舞台から少々離たカムの活動には欲求不満に陥っていましたが、それが一気に晴らされたのがラハティ響との日本ツアーであり、この交響曲全集でした。

コンサートの記事で書いたエピソードのように、カムは演奏直前にカメラ片手にホールの周辺をフラフラと歩き回るほどおおらかな人なので、それは音楽にも表れているように思えてなりません。人によってはオスモ・ヴァンスカが厳しく鍛え上げたラハティ響を”ユルめた”と批評する意見も見受けられますが、自分のように逆にヴァンスカ時代の演奏は幾らか”過剰”と感じられる者にとっては、カムのおおらかさが、とても心地良く感じられるのです。

来日時のラハティ響の編成は大編成では無く、幾らか小規模の編成でした。このCDの録音でもそれは感じられます。ですので通常大編成の音に慣れている第1、第2、第5ではやや音の薄さが感じられなくもありません。それはベルグルンドの三度目の全集に使っていたヨーロッパ室内管ほどではありませんが、共通した要素となっています。しかしこれはベルグルンドが目指した、シベリウス時代に実際に用いられていた小編成の管弦楽による演奏の再現に通じるものが有ると思います。

また重要なポイントとして、ロシア風のダイナミックな曲想を持ち合わせ、ともすると管楽器が咆哮しかねない第1、第2の二曲に対して非常に抑制を効かせていることです。あくまでも主役が弦楽器の印象を受けますし、そのソノリティの高さにはとても感心します。

第2では第3以降の深いシベリウスの世界にだいぶ近く感じられるのです。かといって終楽章など高揚感が不足するわけでは決してありません。それは外面的ではなく内面的な感動で勝負をしているからです。うごめくように始まりフィナーレに向かい延々と続く伴奏音型の上に奏でられる旋律は心に深く深く迫ります。

第5に関しても、近代管弦楽とばかりに金管を輝かしく鳴らすのではなく、やはり弦楽がサウンドの主体となります。第2楽章のように民謡的な旋律のいじらしい歌い方は独壇場で、こういう部分はカムは昔から本当に上手いです。終楽章はさすがに立派に金管を鳴らしていますが、それが過剰に感じられることは一切ありません。

ですので第3、第4、第6、第7のような室内楽的な要素に強く支配される曲ともなると、小規模ゆえの長所が増々生かされてきます。本来『寡黙な』シベリウスの音楽に何と合うことでしょうか。特有の”神秘感”も非常に良く感じられて素晴らしいです。

若いころのカムがそうであったように、ロマンティシズムを感じさせる特徴は少しも変わりません。それでいてシベリウスの音楽の本質を他の誰と比べても劣らないほどに掴んでいます。

その音造りの方法論として、オーケストラを厳しく締め付けるのではなく、自発性を尊重していることは、カム自身の口からも楽団員のコメントからも確かに伺えます。

シベリウスを得意とする指揮者の中でも、激しさを持つヴァンスカやセーゲルスタムとは遠く異なり、またストイックなまでに透徹したパーヴォ・ベルグルンドとも異なり、おおらかな自然体の印象を与えるネーメ・ヤルヴィや渡邉暁雄に近いスタイルです。

もちろん彼らのシベリウスはどれもみな素晴らしいので、全集盤に優劣など付けるのは無意味です。しかしあえて自分の好みを言えば、ベルグルンド(二度目のヘルシンキ・フィルとのEMI盤)と並んで、このカムの新盤が目下ツートップの存在です。

あとはネーメ・ヤルヴィの新盤(グラモフォン)にも強く惹かれますが、むしろセーゲルスタム(二度目のヘルシンキ・フィルとのONDINE盤)のセットには、ペッカ・クーシストが独奏するヴァイオリン協奏曲とフィンランドの男性合唱団が感動的な歌を聞かせる「フィンランディア」という二つの最高の演奏が含まれているので、他人にはむしろこちらを勧めたいところです。

いずれにしても、オッコ・カムのシベリウスは自分には最も肌に合う演奏なのは間違いありません。オペラシティでバッタリ出会って会話ができたのも偶然とは思えない余りに得難い体験でした。

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