2012年1月27日 (金)

~追悼~ パーヴォ・ベルグルンド

Berglund

フィンランドの名指揮者パーヴォ・ベルグルンドが今月25日に病気の為に亡くなられたそうです。82歳でした。

実は今回初めて知ったのですが、この人は左手で指揮棒を持っていたのですね。オーケストラで弦楽奏者が左手で弓を持つと、隣と弓使いが揃わなくて不便そうですが、普通の楽器奏者なら、左手でベースを弾くポール・マッカートニーのような有名な人も居るので不思議はありません。

ベルグルンドと言えば、まず思い浮かぶのは素晴らしいシベリウスの演奏です。この人はなにしろ3回も交響曲全集を録音しています。いずれも名演ですが、第1回目のボーンマス交響楽団とのものは、再録音と比べると、深みにおいて僅かに物足りなさを感じます。2度目のヘルシンキ・フィルハーモニーとのものは、多くのファンに絶賛されて、いまだに決定盤として名高い演奏です。普通ならば、これほどの名演奏を残した後に、更に再録音を残そうとは思いそうに有りませんが、三度目の挑戦をしました。オーケストラはヨーロッパ室内管弦楽団です。当然、フルオーケストラの編成からは小さくなりますが、それこそがポイントです。シベリウスが生きていた時代に演奏をしていた編成に近いからです。ピリオド編成の再現という意義は大いに認めます。確かに極限まで切り詰められた内容の6番、7番あたりは良さが出ていて、ヘルシンキ・フィルと、どちらを取るか迷うところです。けれども他の曲、特に1番、2番、5番のようなスケールの大きい音楽の場合には、ヘルシンキ・フィルに比べると、どうしても音が脆弱に感じられます。音楽評論家は総じて新盤を推薦しているようですが、多くのファンの意見は割れているように思います。僕自身は、もちろん両方とも好きですが、やはりヘルシンキ・フィル盤をリファレンスとしています。

シベリウスの交響曲の演奏には、この人以外にもオッコ・カム、レイフ・セーゲルスタム、オスモ・ヴァンスカ、ユッカ‐ペッカ・サラステ、それにネーメ・ヤルヴィといった素晴らしい録音が多く存在しますが、それらの中にあって一段と輝やかしい光を放っているのがベルグルンド盤です。僕は実演で聴く機会が持てなかったことがとても心残りですが、残された宝の名録音をいつまでも大切に聴き続けたいと思います。

<過去記事> 「シベリウス交響曲全集で思うこと」

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モーツァルト 交響曲第39番変ホ長調K.543 名盤

モーツァルトの第35番ハフナー以降の六大交響曲はどれもが傑作ですが、中でも最後の第39番、40番、41番の3曲は俗に「三大交響曲」と呼ばれていて、一段と輝きを放っています。この3曲は1788年の夏に、たった2か月という短い間にたて続けに作曲されましたが、このときモーツァルトは32歳。天に召される3年前です。

それにしても、この3曲の完成度には驚くばかりです。透徹した美しさを持つ39番、孤高の哀しみを湛えた40番、あたかも天界に飛翔するかのような41番と、どの曲をとっても完成し尽されています。しかも、3曲を並べた場合の均衡には驚くべきものがあります。それは、後期ロマン派の大シンフォニーをもってしても、比較をすることがおよそ無意味に思われるような存在です。器楽曲としては、モーツァルトの音楽だけでなく、音楽史上のどんな作品をもしのいでいるかもしれません。

3曲のうち、最初に書かれたのが第39番変ホ長調K.543です。この曲ではオーボエが外されて、クラリネットが活躍しますが、これは当時の編成としてはかなり珍しいです。バロック的な音のオーボエでは無く、ずっと新しくロマン的な音色のクラリネットを使うことによって、斬新なオーケストラの響きを生み出そうとしたのではないでしょうか。

前作「プラハ」は3楽章構成でしたが、この曲では再び4楽章に戻りました。けれども、以前の曲と徹底的に違っているのは、それまでは軽妙な舞曲に甘んじていたメヌエット楽章の充実ぶりに有ります。このメヌエットが驚くほどの高みに至っていて、それはベートーヴェンのあの素晴らしいスケルツォ楽章が登場する完全な前触れであったと思います。

ところで、この第39番を聴くと、宮本輝さんの小説「錦繍(きんしゅう)」を思い出します。主人公の女性が通う「モーツァルト」という喫茶店がでてきますが、そのマスターがモーツァルト好きで、流れている音楽はいつもモーツァルトです。マスターは主人公に、モーツァルトについて色々なことを教えてくれるのですが、交響曲第39番のことを「十六分音符の奇跡」と言います。なるほどモーツァルトのこの曲の姿をよく言い表していると思います。

それでは、僕の愛聴盤のご紹介に移ることにします。

Mozart_6_symph_walterブルーノ・ワルター指揮コロムビア響(1960年録音/CBS盤) 昔はニューヨークPOとのモノラル盤の方が好きでしたが、それは随分とベートーヴェン寄りの演奏ですので、現在はもっぱらステレオ盤を好んでいます。ゆとりのあるテンポで、あたかもウイーンの音のような柔らかい表情を持つのが非常に心地よいです。若いころの師であるマーラーの指揮するモーツァルトを「少々ロマンティックに過ぎる」と語ったワルターでしたが、どうしてどうして自分の晩年の演奏も相当にロマンティックです。

M204ジョージ・セル指揮クリーヴランド管(1960年録音/CBS盤) 昔はセルの演奏はどうも冷たいイメージが有って好みませんでしたし、今聴いても同じように感じることはあります。このモーツァルトもスマートでクリーン、不純物ゼロという印象です。けれども元々、ある意味「孤高の音楽」であるこの曲の表現としては、それもまた大いに魅力となります。いまだ人間が汚していない山の清流のように清らかな美しさを持っています。

Mozart_monteuピエール・モントゥー指揮北ドイツ放送響(1964年録音/DENON盤) 元々メカニカルに整えた演奏では無いので、残響の少ない録音が余計に粗さを感じさせるかもしれません。けれども、このおおらかさがモントゥーの魅力です。少しも神経質にならないウォームな音楽には心がとことん癒されます。このような演奏の良さを感じ取れないような、いわば現代病のような精神状態にはなりたくないと、日頃から思っています。

Vicc2032エフゲニ・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル(1965年録音/メロディア盤) 昔から宇野功芳先生が絶賛していて、僕も長い間愛聴してきました。演奏には余分な脂肪分を落とし切った純度の高さが有ります。アクセントやフレージングにも豊かなニュアンスが込められていて飽ることがありません。4楽章だけは速過ぎて腰の軽さを感じますが、非常に個性的で、ベートーヴェンの4番と並んで、この39番は孤高の演奏だと思います。

9528aad8eb5aa6add4cd619595c9df9fカール・ベーム指揮ベルリン・フィル(1968年録音/グラモフォン盤) なるほどベームらしい立派で威厳の有る演奏です。ベルリンPOも重厚な響きを聴かせてくれます。但し、一方で余りに常識的で、いくらか四角四面に過ぎる印象も残ります。全集の演奏としては充分素晴らしいですが、この辺りの曲になると、更にプラスアルファの魅力を感じさせてほしいと思ってしまいます。

706パブロ・カザルス指揮マールボロ音楽祭管(1968年録音/SONY盤) 序奏後の第一主題の豊かな歌に惹きつけられます。アレグロに入っての力強さも凄いです。2楽章でも短調部分の激しさに驚きます。老カザルスのこの情熱は何なのでしょうか。3楽章の激しさもやはり同様です。4楽章も速いテンポでどんどん高揚します。他の誰よりも命の燃える炎を感じさせてくれます。これこそが「芸術は爆発だ!」ではないでしょうか。

858ヨーゼフ・クリップス指揮コンセルトへボウ管(1972年録音/DECCA盤) 序奏部の柔らかく溶け合った響きの美しさに驚きます。やはりこのオケは音の美しさではウイーンPO、SKドレスデンと並びます。クリップスの指揮はフォルテでも柔らかいので、聴き手によっては物足りなく感じるかもしれませんが、これがこの人の味なのです。そして、それを100%生かすコンセルトへボウの音と上手さです。ここには「爆発しない芸術」が有ります。

Hans_schumit_beeth7 ハンス・シュミット‐イッセルシュテット指揮北ドイツ放送響(1972年録音/GreenHill盤) 北ドイツの雄NDRはほの暗く厚い音が魅力的です。ウイーン風でなく純ドイツ風のモーツァルトなのですが、シンフォニックなこの曲にはこれもまた良いのです。イッセルシュテットにこの曲の正規盤があったかどうか忘れましたが、これは海賊盤ながら優れたステレオ録音です。しかも最良の姿の演奏が聴けますので、有り難い気持ちで一杯です。

435オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1976年録音/Berlin Classics盤) 三大交響曲については後述の日本ライブ盤もありますが、このSKドレスデン盤も本当に素晴らしいです。全盛期のこのオケの各楽器が柔らかく溶け合った典雅な響きが実に美しいですし、スウィトナーの速いイン・テンポによる古典的な造形性も秀逸です。べたべたした演奏が嫌いで、古楽器では味気ないと思う方には最適ではないでしょうか。

Suitner398オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ベルリン(1978年録音/TDK盤) 東京の厚生年金会館で開かれた後期三大シンフォニーのコンサートですが、この時僕は客席で聴いていました。僕がこれまで実演で聴いた最高のモーツァルトです。SKドレスデンとのスタジオ盤も良いですが、こちらのライブ録音も素晴らしいです。精緻さでは僅かに劣りますが、SKベルリンのしなやかさは魅力的で、まるで目の前で演奏されているような臨場感がとても新鮮です。

Imagescamur71g_2カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1979年録音/グラモフォン盤) ベルリンPO盤と比べると、ゆったりした印象です。けれども決してもたれることはありません。この絶妙な味わいは晩年のベーム以外には中々聴くことが出来ないと思います。ウイーンPOの音も非常に美しく、1950年代の柔らかさががかなり減退したとはいえ、まだまだ魅力的です。3楽章が遅過ぎには感じますが、全体的には四角四面のベルリンPO盤よりもずっと好きです。

Cla111012012ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1980年録音/SONY盤) まず序奏の和音の美しさに惹きつけられます。アレグロ部のアンサンブルも素晴らしく、相当に弾きこんだ印象です。ベーム/ベルリンのような四角四面さは感じますが、明るいオーストリア的な音色が固さを中和しています。リファレンス的な演奏としては、クリップス盤以上だと思いますが、少々一本調子なので反復されると幾らか退屈感が残ります。そうなると、もう少し閃きが欲しくなります。

Sawallische657ウォルフガング・サヴァリッシュ指揮ウイーン・フィル(1983年録音/Altus盤) 最近リリースされたばかりのザルツブルクでのライブです。メインのブルックナー9番については、別にまた記事にしたいと思います。モーツァルトは、ウイーンPOの室内楽的な自発性を感じるのが愉しいです。テンポはやや速めで躍動感がありますが、音楽には落ち着きを感じます。録音も自然で臨場感が有り、ウイーンPOの弦楽を主体にした美しい音を捕えています。

014レナード・バーンスタイン指揮ウイーン・フィル(1984年録音/グラモフォン盤) ウイーンPOの音はそれなりに美しいですし、音楽に躍動感が有りますが、録音時期の近いベームやサヴァリッシュと比べると、音そのものが上滑りをしているような気がします。それにウイーンPOにしては、何となく音が雑に感じられます。終楽章を速いテンポで煽ってみるのも、いかにもありそうな表現で、大きな感銘を受けるに至りません。

以上を聴いた上でのマイ・フェイヴァリットなのですが、この曲にシューリヒトの録音が無いのはつくづく残念です。そこでベスト盤は、ずばりスウィトナー/SKドレスデン盤です。心情的には生演奏に接したSKベルリン盤にしたいのですが、CDで聴き比べた場合には、この曲に関してはドレスデン盤を上にします。

その他で絶対に外せないのは、ムラヴィンスキー盤、カザルス盤、ベーム/ウイーンPO盤です。そう言いながら、ワルター、セル、モントゥー、サヴァリッシュにも非常に後ろ髪を引かれる想いです。

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2012年1月20日 (金)

モーツァルト 交響曲第38番「プラハ」ニ長調K.504 名盤

Prague

モーツァルトのシンフォニーで、タイトルに土地名を持つ曲は3曲あります。第31番「パリ」と第36番「リンツ」、そしてこの「プラハ」です。前2作品はその街で作曲されたことから名付けられましたが、この曲は初演された街がプラハだったからです。

この曲は後期の曲では唯一、メヌエット楽章の無い3楽章構成です。その理由は明らかではありませんが、従来ともすると軽妙な舞曲楽章が、モーツァルトの音楽がウイーンの大衆好みの内容から、よりシリアスな内容に変化する過渡期において、曲想にそぐわなくなってしまったからなのかもしれません。それは、次の第39番以降のメヌエット楽章はスケールが格段に大きくなり、後のベートーヴェンが生んだスケルツォ楽章のあたかも先駆けのような充実感を感じるからです。とは言え、この曲は3楽章構成でも少しも物足りなさを感じません。特に1楽章のアレグロで、同じ音がスタッカートで速いリズムを刻みながら疾走するのは、まるでオペラ「魔笛」のようであり、次々と展開してゆく部分は霊感に満ち溢れていて、音楽の素晴らしさに言葉を失うばかりです。この傑作楽章を持つので、個人的には39番から41番の三大シンフォニーに並べたいぐらい好きな曲です。

それでは僕の愛聴盤を順にご紹介します。

Mahr4walt_cci00023 ブルーノ・ワルター指揮ウイーン・フィル(1955年録音/グラモフォン) ウイーン国立歌劇場再建記念演奏会の録音です。マーラー4番と一緒に演奏されました。ワルターの「プラハ」には数種類の録音が有り、古くはSP時代のウイーンPOとの録音や、50年代のニューヨークPOやフランス国立放送管とのライブ盤なども大変に素晴らしいのですが、僕が一番好きなのは、このウイーンPO盤です。当時のウイーンPOのしなやかなで柔らかい音が何とも魅力的ですが、一方で1楽章アレグロ部や3楽章での速いテンポによる激しさは物凄いです。

Mozart_6_symph_walterブルーノ・ワルター指揮コロムビア響(1959年録音/CBS盤) モノラル期の一連のライブから僅か数年後のステレオ録音ですが、スタイルはかなり変化しています。1楽章ではアレグロ部のテンポがだいぶ遅くなりましたし(といっても普通の速さです)、第2主題ではゆったりと歌います。元々ワルターが持つロマンティックな面が前面にぐっと出た印象です。これはこれで非常に惹かれます。やはりワルターとシューリヒトのモーツァルトは別格だと思います。

9528aad8eb5aa6add4cd619595c9df9fカール・ベーム指揮ベルリン・フィル(1959年録音/グラモフォン盤) 僕が初めて聴いたベームの「プラハ」はウイーンPOとのDECCAへのモノラル録音でした。きりりと引き締まった良い演奏でしたが、このベルリンPO盤は厳しく重厚な響きで非常に立派な演奏です。といって決して鈍重なことは無く、壮年期のベームの活力を感じます。ワルター、シューリヒトとはまた異なるスタイルで素晴らしいモーツァルトを聴かせてくれます。

Cdh7649042カール・シューリヒト指揮ウイーン・フィル(1960年録音/EMI盤) ザルツブルクでのライブです。ワルターとシューリヒトのウイーンPOとのライブが聴けるのは何という幸せでしょう。特にシューリヒトは後述のスタジオ盤が奇跡的な演奏なので、それに対抗できるとすればウイーンPOしか考えられません。1楽章アレグロの凄まじい速さの中に得も言われぬニュアンスが存在していて呆然とします。2、3楽章も同じように素晴らしいです。

51rn9ijfmkl__ss500_カール・シューリヒト指揮パリ・オペラ座管(1961年録音/DENON盤) カップリングの「リンツ」以上に素晴らしい演奏で、評論家の宇野功芳先生が昔から絶賛しています。学生時代にアナログLP盤で初めて耳にして、大ショックを受けました。聴いたことも無いような速いテンポでしたが、少しも珍奇ではなく、モーツァルトの音楽の底知れぬ凄さを教えられたように感じました。一流オケでは無いパリ・オペラ座管が一糸乱れぬアンサンブルを聴かせるのも驚異的です。この演奏を聴かずして、モーツァルトを絶対に語れません。同じ演奏がScribendumボックス盤にも含まれていて、より明瞭なマスタリングですが、どちらを選ぶかは好みの問題です。

706パブロ・カザルス指揮マールボロ音楽祭管(1968年録音/SONY盤) カザルスの他のモーツァルト演奏と同様に、ひたすらに音楽の核心に迫ろうという魂の力を感じます。アカデミックなモーツァルトの正に対極に位置する演奏です。アタックの音や歌いまわしはこれ以上ないほどに激しく、正に圧倒されます。「ベートーヴェン的」という表現も使えなくは無いですが、モーツァルトの音楽に普段隠されているものを、むき出しにして聴き手に差し出しているような印象を受けます。

435オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1968年録音/Berlin Classics盤) スウィトナー/ドレスデン歌劇場のコンビのオペラ「魔笛」での素晴らしい演奏が思い起こされます。ウイーンPOとは違った、目の詰んだ典雅な響きが聴けるからです。かなりの快速のイン・テンポでアンサンブル優秀でありながら、メカニカルな印象は少しもしません。手作りの肌触りを感じさせます。これはこのコンビでなければ出来ない演奏だと思います。

858ヨーゼフ・クリップス指揮コンセルトへボウ管(1972年録音/DECCA盤) いつも同じような事ばかり書いて申し訳ありませんが、本当にこれほど「ヨーロッパの伝統」という言葉が似合った音と演奏は無いように思います。テンポは中庸、フォルテのアタックは適度で重みを感じる、楽器のアンサンブルとハーモニーは最高、全体が一つにまとまって聞こえる、といった具合です。ハッとするようなことは一つも無いのに、聴いてて飽きるどころか何度でも繰り返して聴きたくなる。そんな演奏です。

Imagescamur71g_2カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1979年録音/グラモフォン盤) ベルリンPO盤と比べると、だいぶ遅く感じます。特に序奏部です。主部のアレグロはゆったりはしていますが遅くは感じません。逆に落ち着いた良いテンポです。第2主題でテンポを落とし気味にして歌うのはワルターに似ています。人間、晩年にはロマンティックになるものなのでしょうか。それにしてもウイーンPOのしなやかな音の美しいこと。やっぱりモーツァルトにはこの音でしょう。

Cla111012012ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1980年録音/SONY盤) クーベリックの「プラハ」というと、40年ぶりに「プラハの春音楽祭」で母国の指揮台に立った翌年のチェコ・フィルとのライブが記憶にあります。記憶のチェコ盤、実質のバイエルン盤、どちらを取るかと聞かれれば、やはり演奏としてはバイエルン盤を取りたいと思います。ただ、それにしてもオーソドックスですが、特別に優れた演奏とまでは思っていません。

Buru8_suitner570 オトマール・スウィトナー指揮ベルリン国立歌劇場管(1984年録音/WEITBLICK盤) まだ20代の頃に東京で、このコンビのモーツァルトの後期三大シンフォニーを聴きましたが、僕がこれまで実演で聴いた最高の演奏でした。SKドレスデンとのスタジオ盤も良いですが、こちらのライブ録音も実に素晴らしいです。速いテンポ設定はほぼ同じ。生命力に溢れています。音のしなやかさはSKドレスデン以上で、非常に魅力に感じます。

014レナード・バーンスタイン指揮ウイーン・フィル(1984年録音/グラモフォン盤) 同じウイーンPOでもベーム盤とは僅か5年しか離れていませんが、音の響きとフレージングの深さが、いずれもベーム盤には敵わないと思います。それでもウイーンPOの美音には違いありませんし、若々しい躍動感も魅力的です。2楽章の室内楽的な表現もユニークです。一般的に言えば、充分に素晴らしい演奏です。

以上の中で、僕が特に気に入っている演奏としては、シューリヒトのウイーン盤とパリ・オペラ座盤、それにワルターのウイーン盤を加えて不動のベスト・スリーです。次点としてはスウィトナーの2種類と、クリップス/コンセルトへボウ盤、ベーム/ウイーン盤というところです。

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2012年1月14日 (土)

モーツァルト 交響曲第36番「リンツ」ハ長調K.425 名盤

モーツァルトが新妻コンスタンツェとザルツブルクからウイーンに向かう旅の途中でリンツに立ち寄った時、トゥーン=ホーエンシュタイン伯爵の邸宅に滞在しました。音楽好きの伯爵は彼らを大歓迎して音楽会を企画しました。そこでモーツァルトは、コンサートまで僅か4日という極めて短い時間の中で、新しい交響曲を作曲しました。それにはオーケストラのパート譜の作成も必要となりますから、どんなに速筆のモーツァルトとは言え、とても信じがたいことです。ともかく、その曲が交響曲第36番であり、副題の「リンツ」はもちろんこの町の名前から付けられました。

それほどの短い時間で完成させたにもかかわらず、この曲の完成度は非常に高く、充実しています。確かに38番以降のような霊感は感じませんし、作曲技法を駆使して書かれた印象は有りますが、大変魅力的な作品です。前作「ハフナー」のようにとても明るい曲想ですが、元々セレナーデとして書かれた「ハフナー」と比べると、構成感や立派さで格段に上回ると思います。

それでは僕の愛聴盤を順にご紹介します。

706パブロ・カザルス指揮プエルト・リコ・カザルス音楽祭管(1959年録音/SONY盤) カザルスの残した後期六大交響曲の中でも最も古い録音ですし、この曲だけがオケがマールボロ管ではありません。残響も無いので、慣れないと聴きづらいと思います。という悪条件なのですが、表現はやはり凄いです。1楽章は驚くほど遅いテンポで威容を感じます。2楽章の歌は極めて濃厚です。3、4楽章は割に普通ですが、味の濃さは相変わらずです。

Mozart_6_symph_walterブルーノ・ワルター指揮コロムビア響(1960年録音/CBS盤) 全体に柔らかい響きのヨーロッパ的な演奏は、どこか戦前のウイーンPOを連想します。テンポはゆったり気味ですし、フォルテのアタックも激しくなく、非常に優雅な気分に覆われています。2楽章の歌いまわしのチャーミングなことはどうでしょう。アメリカの楽団にこのような演奏をさせられるのはワルター以外には考えられません。といって3、4楽章などに躍動感が無いわけではありません。

51rn9ijfmkl__ss500_カール・シューリヒト指揮パリ・オペラ座管(1961年録音/DENON盤) コンサートホール・レーベル録音ですが、音質はまあまあです。1楽章は快速テンポで駆け抜けてまるで機関銃のようですが、僕は大好きです。2楽章もテンポは速いのに、典雅な表情が素敵です。3楽章は力強く、リズムの切れが抜群です。終楽章は再び快速テンポですが、展開部以降で同じ音型を各パートが次々と後から追いかけてゆく部分の立体感が実に素晴らしく、まるで魔法のようです。実はその秘密は、後から登場するパートほど音量を増して、頭の音を強いアタックで弾くからなのです。決して魔法でも何でもないのですが、シューリヒトならではの天才的な閃きです。この演奏、確かにオケは一流では有りませんし、シューリヒトのファンでもそれほど高い評価はされませんが、僕は非常に好んでいます。

9528aad8eb5aa6add4cd619595c9df9fカール・ベーム指揮ベルリン・フィル(1966年録音/グラモフォン盤) ベームのリンツというと、僕はウイーンPOとDECCAに残したモノラル録音が忘れられません。速めのテンポで素晴らしく切れの良い演奏でした。このベルリンPO盤もやはり速めで、同じように切れが良く立派な演奏です。これだけ品格の高さを感じさせるモーツァルトを振ることが出来る指揮者はちょっと他に知りません。

435オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1968年録音/Berlin Classics盤) これもシンフォニー選集です。導入部分がベーム並みに立派なのに驚きます。主部は速いテンポで躍動感があります。SKドレスデンンが古風で典雅な音色なのもいつもながら魅力的です。2楽章の優しい表情も素晴らしく、この人のモーツァルトはやはり良いです。但し3楽章が遅めで、終楽章が速めなので、幾らか一貫性に欠ける印象は残ります。

858ヨーゼフ・クリップス指揮コンセルトへボウ管(1974年録音/DECCA盤) クリップスのモーツァルトの素晴らしさを知ったのは、歌劇「ドン・ジョヴァンニ」でした。そしてシンフォニーもまた素晴らしいです。ウイーンPOを振れば、もっと柔らかい音を出したのでしょうが、コンセルトへボウの熟成された音もまた魅力的です。今にも歌手が歌い出しそうなオペラの伴奏のような2楽章が何ともチャーミングです。他の楽章も、聴いていて心が本当に充実感で満たされます。

Cla111012012ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1980年録音/SONY盤) これも非常にオーソドックスな演奏です。全体的にテンポは中庸ですし、オ―ケストラも優秀です。個人的には、1楽章でフォルテの音が柔らか過ぎるのが少々気に入りませんが、全体の響きがとても柔らかく、美しいので良しとしましょう。面白みは感じませんが、一般的に薦められる演奏だと思います。ただ、この人はライブでは別人のようにドラマティックに豹変するので、一度聴いてみたかったです。

014レナード・バーンスタイン指揮ウイーン・フィル(1984年録音/グラモフォン盤) 非常にメリハリのついた演奏です。1楽章導入部はゆったりしたテンポで重厚ですが、主部に入ると躍動します。2、3楽章は中庸のテンポですがウイーンPOの美質が良く生きています。終楽章は非常に速いテンポでたたみ掛けます。非常に解りやすい演奏で、全体の統一感は不思議とまとまっている印象です。

以上の中で、僕が特に気に入っているのは、やはりシューリヒトです。モーツァルトをロココの美しい音楽として、耳触りの良いBGMのように聴きたいと思っている人には決して勧められませんが、自分にとってはこの音楽の迫真性が他に代えがたい演奏だからです。

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2012年1月 6日 (金)

モーツァルト 交響曲第35番「ハフナー」ニ長調K.385 名盤

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新春気分もすっかり抜けてきましたが、今年のスタートはモーツァルトのシンフォニー特集です。それも後期六大交響曲です。この6曲はどれもが本当に傑作ですので、毎回名曲シリーズのようなものですね。その中でも、最も明るく華麗で人の心を浮き立たせるような交響曲第35番「ハフナー」から聴くことにします。

モーツァルトはザルツブルクの富豪ハフナー家の祝賀行事のために2曲のセレナーデを書きましたが、その片方をシンフォニーに改作したのが、この曲です。従って、4楽章全てが明るく輝き、喜びの気分に満ち溢れています。中期以降の曲で、寂しい翳りの表情がどこにも顔を出さないのはむしろ珍しいと言えます。それでいて、決して馬鹿騒ぎな印象は無く、曲を聴き終えた後の心の中には、しっとりとした愉悦感、幸福感が余韻として残ります。う~ん、なんと素晴しき哉、モーツァルト!

それでは愛聴盤を順に聴いてゆきます。

Mozart_6_symph_walterブルーノ・ワルター指揮コロムビア響(1959年録音/CBS盤) ワルターのハフナーというと、ニューヨークPOとのモノラル録音の人気も高いですが、僕はステレオ盤の方が好きです。ずっとヨーロッパ的な柔らかさが有るからです。3楽章のみテンポが遅過ぎに感じますが、それ以外は生命力だけでなく落ち着きと余裕が感じられて、安心して身を任せて聴いて居られます。こんな風に音楽を聴く幸福感を心から感じさせてくれる指揮者が果たして現代に存在するでしょうか?

Schurichtカール・シューリヒト指揮ウイーン・フィル(1956年録音/IMG盤) 何というオーケストラの音の柔らかさでしょう。ここには戦前のウイーンPOの音が有ります。冒頭はなんだか嫌々音を出すように開始しますが、曲が進むにつれてどんどんと興が乗ってきます。この即興性がたまりません。2楽章の柔らかさ、瑞々しさはどうでしょう。3、4楽章の何度聴いても飽きない味わいも格別であり、現代の機械的に整えられたアンサンブルとは対照的に感じます。僕はIMG盤で持っていますが、オリジナル盤はDECCAです。

Mahcci00006 カール・シューリヒト指揮ウイーン・フィル(1956年録音/Tresor盤) これはウイーン・フィルがアメリカに演奏旅行したときに国連会議場で行った記念コンサートです。会場の音響はデッドで音質的には不満です。けれども演奏の熱気は充分で、アンサンブルもDECCA盤よりもむしろ優れています。シューリヒトを深く知りたいと言う人には勧めることが出来ます。僕はTresor盤で持っていますが、初出のarchiphon盤と音質は同等です。

31jkgj0kfhl__sl500_aa300_ カール・シューリヒト指揮ウイーン・フィル(1956年録音/ISMS盤) これはモーツァルト生誕200周年のザルツブルクでのライブ録音です。シューリヒトはこの年にハフナーを多く演奏しました。同じライブでも熱気は国連コンサートのほうが上回りますが、基本的には同じですし、録音がモノラルとは言え、この年代にしてはかなり明瞭ですので、シューリヒトのライブとしては、こちらを代表盤に選びたいと思います。

9528aad8eb5aa6add4cd619595c9df9fカール・ベーム指揮ベルリン・フィル(1959年録音/グラモフォン盤) 何しろ、世界最初の交響曲全集です。この頃は、まだベルリン・フィルがドイツ伝統の音を保っていましたし、スタジオ録音のベームは幾らか堅苦しいとはいえ、壮年期のこの人以外に、この大仕事にふさわしい人が他にいたとは思えません。非常に立派で重厚ですが、躍動感にも事欠きません。

Mozart_monteuピエール・モントゥー指揮北ドイツ放送響(1964年録音/DENON盤) 極めて躍動感に溢れていて、かつ歌心で一杯です。ニュアンスに富んでいる点では、シューリヒトと並ぶと思います。アンサンブルが結構甘いのですが、そんな些細なことに目くじらを立てるのが、どうでも良くなるぐらいに魅力的な演奏です。元々はコンサート・ホールレーベル録音ですが、DENONのリマスターは優れています。

706パブロ・カザルス指揮マールボロ音楽祭管(1967年録音/SONY盤) 故岡本太郎氏が「芸術は爆発だ」と語っていましたけれども、ゴッホの絵画やカザルスの演奏には、正にその言葉が当てはまると思います。モーツァルトをロココ趣味の単に美しいだけの音楽にしないで、これほどまでに激しく情熱が爆発する演奏を聴かせる演奏家は他に決して居ません。好き嫌いは別にして、一度は聴いておかなければならない演奏だと思います。

435オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1968年録音/Berlin Classics盤) 相当に速いテンポを基調とするスイトナーのモーツァルト演奏ですが、機械的な印象は全く無く、きりりと引き締まった古典的な造形美を感じます。しかも、音楽の内側には愛情が充分に込められているので、冷たい印象も無く、人間的な心の温かさを感じずにいられません。SKドレスデンの典雅な響きもウイーンPOとはまた異なる素晴らしさです。現在は交響曲選集で聴いています。

858ヨーゼフ・クリップス指揮コンセルトへボウ管(1972年録音/DECCA盤) 元々はフィリップス録音の中期以降の選集です。ウイーン生まれのクリップスがヨーロッパ伝統の音のオーケストラを指揮したこの演奏には、過剰なものも不足するものも無く、正に「中庸の美」を感じます。どれか特定の曲を取りだして聴くというよりも、選集として聴いてこそ価値が有ると思います。地味ですが、やはり良い演奏です。

2531335カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1980年録音/グラモフォン盤) 晩年のベームの、特にスタジオ録音をよく「タガの緩んだ」などという人が居るけれど、とんでもない話です。確かに壮年期の凝縮した音や、ライブの鬼神のような演奏はしないものの、立派で落ち着いた風格の演奏は常に健在です。この「ハフナー」もベルリンPOとの全集盤とはまた異なる、ウイーンPOのしなやかな音を美しく生かしていて、本当に素晴らしい演奏です。

Cla111012012ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1980年録音/SONY盤) ヨーロッパの伝統をそのまま受け継いでいるかのような非常にオーソドックスな演奏です。その点でクリップス盤とよく似た印象です。テンポも速過ぎず遅過ぎずですが、もしもこれがライブであればずっと熱演型になったことでしょう。オケは優秀で響きもとても美しいです。ハッとするような閃きや仕掛けはどこにも有りませんが、安心して聴いていられる演奏です。

014レナード・バーンスタイン指揮ウイーン・フィル(1984年録音/グラモフォン盤) 普通の意味ではとても良い演奏だと思います。ウイーンPOの音は美しいですし、活力と切れのあるリズムで音楽が生き生きとしています。ところが、ヨーロッパの名匠達の腹芸のような演奏を次々に聴いてきた後だと、何か物足りなさを感じるのです。ウイーンPOがモーツァルトをやれば、間違いなく良い演奏をするぞ、という想定範囲を超えないのです。贅沢な不満でしょうか。

834 アレクサンドル・ラヴィノヴィチ指揮シンフォニア・ヴァルソヴィア(1999年録音/accord盤) これはライブ演奏です。アルゲリッチとよく共演をするラヴィノヴィチですが、二人はタイプが似ています。表現意欲が旺盛で、ニュアンスの変化が自在です。10年ほど前に生演奏でも聴きましたが、呆れるほどでした。但し、それは練習をしつこく繰り返して到達したような印象であって、シューリヒトやモントゥーのような即興的な感じは受けません。そのあたりは好みの問題ですが、凄い演奏には違いありません。

というわけで、僕が何度聴いても飽きないのは、シューリヒトのDECCA盤とザルツブルク・ライブ盤、それにモントゥー盤です。あとは、次点ではもったいないくらいのカザルス盤、ベームの新旧両盤ですが、ワルターやスイトナーも大好きです。あれれ、これではほとんどですね。(苦笑)

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2012年1月 3日 (火)

今年のブログの抱負

お正月三が日もあっという間に過ぎ去りますね。とほほ・・・明日からはまた仕事です。でも頑張らなくっちゃpunch

「一年の計は元旦にあり」ですが、のんびりものの僕は今日、今年のブログの抱負を考えています。昨年の元旦に計画を立てて実現出来たのは、結局モーツァルトのピアノ協奏曲とブラームスのシンフォニーだけでしたので、まずは昨年、計画倒れに終わってしまったモーツァルトのシンフォニー、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲、バッハの三大宗教曲は何としても実現させたいと思います。あとはシューベルトの三大歌曲集、フォーレの室内楽も良いですね。好きなオペラの何曲かも取り上げられたら良いなと思います。それに名曲シリーズはもっと多く取り上げたいです。

自分のブログ記事のスタイルはすっかり定着してしまいましたが、中には「単に巨匠の古い演奏を羅列するだけ」と思われる方もおいででしょう。ですが、このブログをスタートした一番の目的は、いわゆる「盤友」との語らいを広く求めたかった為です。100年にも及ぼうかという、20世紀の巨匠達の演奏を聴けば聴くほど、音楽の深み、味わいが、それがどんなに歴史と時間をかけて熟成されたものか感じずにはいられません。もちろん現役世代にも優れた演奏家は多く存在しますが、歴史と時間のふるいにかけられる前の演奏家は、まだまだ玉石混合という印象を持っています。ですので、その中から本物を見つけ出して聴いて行きたいなと、いつも思っています。

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2012年1月 1日 (日)

~迎春2012~ ワーグナー/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第一幕への前奏曲

Sun_rise_new_year

明けましておめでとうございます。

昨年は日本にとっても世界にとっても大変な一年でしたが、個人的には転居もして新生活のスタートとなった年でした。今こうして新たに迎える年は、全ての人にとって良い年となるようにと祈るばかりです。

この一年が良い年になることを願うためにも、聴き初めにはやはり明るい曲を選びたいと思います。そこで、ワーグナーの楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」から第一幕への前奏曲を聴こうかと思います。ワーグナーのオペラは素晴らしいのですが、自分にとっては家で聴くには少々長過ぎます。そこで前奏曲など一部を抜き出して聴くと言う方法も有りますが、最近はそれも余りしません。よほど気が向いた時だけです。この作品も全曲は非常に長く感じられますが、前奏曲は10分前後の間に、勇壮で輝くばかりの喜びの気分が込められているので、気分転換にはうってつけです。

大学時代のことですが、母校が毎年入学式を日本武道館で行なうので、所属をしていたオーケストラは、この曲と校歌をそこで演奏をするのが役割でした。本当に祝典にピッタリの曲です。

さあ、2012年の第一幕への前奏曲ということで、家にある演奏を順に聴いてみることにします。

41uvmjpcql__sl500_aa300_ ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1949年録音/audite盤) ベルリンのティタニア・パラストでのライブです。これまでグラモフォンから出ていましたが、新しいRIASボックス盤のほうが音質は向上しています。フルトヴェングラーのワーグナーはテンポが極端に揺れるので、造形やスケール感を損なう結果となって基本的に好みません(「トリスタン」のような例外は有りますが)。響きも濁っていて透明感が無いと思います。

Wagner_toscaniniアルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC響(1954年録音/Music&Arts盤) カーネギー・ホールで行なわれたワーグナー管弦楽曲集の実演ですが、れっきとしたステレオ録音です。残響の無いデッドな録音ですが、音質的には良好です。演奏は、さすがにトスカニーニ最晩年のために統率力を失いかけている印象ですが、ワーグナーとしてはむしろ凝縮し過ぎずに聴き易いです。テンポはやや速めです。演奏記録としての価値は非常に有ると思います。

Cci00036b カール・シューリヒト指揮バイエルン放送響(1961年録音/Scribendum盤) 以前DENONからも出ていましたが、Scribendumボックス盤で聴いています。元々はコンサートホール・レーベルの録音ですが、リマスターの音質は明瞭です。やや速めのシューリヒト・スタイルですが、決して軽過ぎることは無く、ファンファーレ部分には充分な重みが有ります。中間部の歌い方も情熱的です。フルトヴェングラー、トスカニーニよりも僕は好みます。

Wagner_knaハンス・クナッパーツブッシュ指揮ミュンヘン・フィル(1963年録音/ウエストミンスター盤) ファンには有名なウエストミンスター録音です。クナの響きは凝縮せずに、膨らみを持って広がってゆく印象なので、ワーグナーやブルックナーに向いています。逆にベートーヴェンやブラームスでは締まりが無くなる欠点があります。ここでは、クナのゆったりとしたテンポで、当時のミュンヘン・フィルが何とも素朴で人間的な肌触りの音を聞かせてくれます。

Mister_karajanヘルベルト・フォン・カラヤン指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1970年録音/EMI盤) これはEMIと東独の共同制作の全曲盤の演奏ですが、最大の魅力はオーケストラの音です。都会的で無く、古風な響きは、この曲の舞台の中世ドイツを想像させるに最適だからです。カラヤンも中庸の良いテンポで、オケを必要以上に鳴らすこともなく理想的です。音質的には昔のアナログ盤がもちろんベストですが、CDの場合にはドイツ旧盤がお薦めです。リマスター盤は音がハイ上がりで硬いからです。

756ピエール・ブーレーズ指揮ニューヨーク・フィル1972年録音/SONY盤) 昔、アナログ盤で愛聴した演奏ですが、現在聴いても非常に素晴らしいです。遅いテンポでスケール巨大でありながら、推進力が有ります。フォルテの音も固過ぎず、ギュッとした集中力が有るのが見事です。後半の様々なパートが次々とからみ合う部分も実に素晴らしく、思わず手に汗を握るほどです。ニューヨークPOの音は都会的ですが、抵抗が有るほどではありません。

Cci00014b_2 カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1975年録音/グラモフォン盤) 日本ツアーのNHKホールでのライブです。この時には何公演かのアンコールで演奏していますが、大きな違いはありません。テンポは中庸です。ベームのワーグナーはオーケストラの音が凝縮するために幾らか窮屈な印象は有ります。けれどもそれが、逆に良さでもあるのです。ここでもウイーン・フィルが実に厳しい張りのある音で熱演をしています。NHKの録音は低域まで充実した優秀さです。

Wagner_regnerハインツ・レーグナー指揮ベルリン放送響(1977年録音/シャルプラッテン盤) レーグナーもブーレーズ以上に遅いテンポで悠然と進めますが、もたれた感じはしません。録音の残響が深いこともあり、楽器のハーモニーが極めて美しく、音そのものに身が浸るという印象です。その割にはティンパニの強打もよく捉えられていて迫力が有ります。同じディスクの「ジークフリート牧歌」と並ぶ名演だと思います。

Wagner_cheri セルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィル(1993年録音/EMI盤) ミュンヘンでの管弦楽曲集のライブです。導入部は遅くスケールの大きいテンポでとても良いのですが、ファンファーレが余りに遅過ぎて、もたれてしまいます。この人の晩年のブルックナーのように、少々息苦しさを覚えます。それでも終結部の巨大なスケール感は素晴らしいです。オーケストラの音は透明感が有って美しく、さすがにチェリビダッケです。

以上の中で、特に好きな演奏はと言うと、演奏そのものはブーレーズ盤、オケの響きではカラヤン/ドレスデン盤というところです。シューリヒトやクナ、それにレーグナーも中々に捨てがたいですが。

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2011年12月29日 (木)

チャイコフスキー 交響曲全集 ロジェストヴェンスキー/モスクワ放送交響楽団

本当に大変だった一年もいよいよ終わろうとしています。気が付けば「晩秋」もどこへやら、真冬となり各地から大雪のニュースが伝えられてきます。僕が住む神奈川に雪が降ることは滅多にありませんが、それでも冬の寒さはこたえます。そんな時には、やはりチャイコフスキーを聴くのが良いんですね。大オーケストラの勇壮な響きで、冬将軍に負けるな!という気になります。

そんなチャイコフスキーの交響曲全集というと、現在では幾らでも選ぶことが出来ますが、僕が学生の頃にはごく限られたものしか有りませんでした。世界初の録音として、スヴェトラーノフの全集について以前記事にしました。本国ロシアが1960年代に当時新進気鋭のスヴェトラーノフとソヴィエト国立交響楽団(現在ではロシア国立響)に託した事業です。その後を追って1970年初めに、モスクワの放送交響楽団と全集録音したのが、やはり当時若手のロジェストヴェンスキーでした。この全集はとても話題になり、僕もアナログLP盤で購入しました。そのような、とても思い出深い全集なのですが、そのアナログ盤は既に手放してしまい、長いことCDも出ていませんでした。前からもう一度聴いてみたいと思っていたところ、少し前にようやくリリースされたので、久しぶりに聴くことが出来ました。その感想をお伝えしたいと思います。

Tchaikovsky158_2

ゲンナジ・ロジェストヴェンスキー指揮モスクワ放送交響楽団(1972年録音/ヴェネツィア盤)

オリジナルはロシアのメロディア録音ですが、定評のあるヴェネツィア・レーベルのリマスターですので、まずは信頼できます。アナログ録音のデジタルリマスターのために、どうしても高音型になり、かつてのアナログ盤と比べると低域の量感不足を感じますが、音造りとしては決して悪くないと思います。

250pxgennady_rozhdestvenskyロジェストヴェンスキーという指揮者は、たとえばスヴェトラーノフがロシアの広大な大地を想わせるような土臭さは持っていません。ずっと洗練されたスマートさを感じさせます。その点では、ムラヴィンスキー・タイプなのかもしれません。けれどもムラヴィンスキーもそうでしたが、一たび指揮棒に気合が入ると耳をつんざく様な金管が炸裂する凄まじい爆演を行ないます。ところが、それとは逆にチャイコフスキーにしばしば登場する軽やかなバレエ音楽のような美しい部分の表現にかけても、大変な素晴らしさなのです。この両面性がこの指揮者の最大の魅力です。

ところで、当時のモスクワ放送響は、相当のヴィトゥオーゾ集団でした。ホルンの首席の名前は知りませんが、長いパッセージを朗々と歌い切る実力は他の一流楽団の奏者と比べても群を抜いています。ですので第1番「冬の日の幻想」の2楽章や第5番の2楽章のような、ホルンのソロの聴かせどころは最高です。また、弦ではチェロ・パートをヴィクトル・シモンというロストロポーヴィチばりの名奏者が統率していましたので、低弦の歌い方といったらそれは素晴らしかったです。もちろん金管楽器のパワーもさすがにロシアの一流オーケストラです。当時のスヴェトラーノフのソヴィエト国立交響楽団、ムラヴィンスキーのレニングラード・フィルと並びます。

昔は、初期の第1番から3番までの演奏は非常に気に入っていましたが、4番以降についてはムラヴィンスキーと比べて物足りなさを感じていました。けれども現在聴き直してみると、4番以降も実に素晴らしい演奏です。いかにもロシア的な荒々しい音の迫力と、洗練されたおしゃれなセンスとを兼ね備えている非常に稀有な演奏だということに気づきます。チャイコフスキーの交響曲全集としては、スヴェトラーノフの晩年のスタジオ録音と東京ライヴの二種類が最高だとは思いますが、やや違う味わいを楽しめる演奏としてはこのロジェストヴェンスキー盤が真っ先に挙げられそうです。

この全集は6枚組ですが、実はサービスが満点なのです。「マンフレッド交響曲」が入っているだけでも有り難いのに、更に「ヴァイオリン協奏曲」のオイストラフ/ロジェストヴェンスキーの1968年ライブの天下の名演が入っています。そのほかに、ロストロポーヴィチ独奏の「ロココの主題による変奏曲」や序曲「1812年」、バレエ「くるみ割り人形」組曲も全てロジェストヴェンスキーの指揮で入っています。正にジャパネット・タカダばりの出血大サービスです。

というわけで、これが本年最後の記事になると思います。明日明後日は家の大掃除ですので。

皆様方もどうか良い年越しをお過ごしになられ、そして素晴らしい新年をお迎えください。一年間拙ブログにお越し頂きまして本当にありがとうございました。

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2011年12月27日 (火)

エレーヌ・グリモーのモーツァルト/ピアノ協奏曲第23番他

Title0005_2今年を振り返って、というわけでもありませんが、自分のブログについて言えば、一年の半分もの時間を費やしたモーツァルトのピアノ協奏曲に尽きると思います。こんなに長い期間、来る日も来る日もそれを聴き続けたことはありません。そのうちの第23番K488の記事の時に、発売のタイミングで間に合わなかったディスクが有りました。それは僕の大好きなエレーヌ・グリモーの演奏です。彼女が弾いたブラームスの協奏曲第1番は最高に好きな演奏のひとつですし、ブラームスやシューマンの独奏曲も気に入っていますが、モーツァルトに関しては、これまで全く聴いたことが有りませんでした。ですので、初めて出す協奏曲のCDの曲目が第23番と知った時には、聴くのが楽しみで仕方ありませんでした。

070

①ピアノ協奏曲第19番K459

②コンサート・アリア「どうしてあなたを忘れられよう」K505

③ピアノ協奏曲第23番K488

エレーヌ・グリモー(ピアノと指揮 )、モイカ・エルトマン(ソプラノ)、バイエルン放送響室内管(2011年録音/グラモフォン盤)

このCDのユニークな点は、2曲の名作協奏曲の間に、素晴らしいコンサート・アリアが収まっていることです。幼少の時に、このアリアを初めて聴いたグリモーは、この曲に込められたモーツァルトの音楽ならではの優美さに心を打たれて、それ以来ずっと愛して止まない曲となったそうです。

まず、1曲目の第19番を聴いて、オーケストラの音のきりりと引き締まった端正な響きに驚きます。この団体の母体はバイエルン放送響ですが、少人数で室内管弦楽団の編成をとっています。グリモーは指揮もこなしていますが、スタッカート気味でノン・ヴィヴラートに近い古楽器的な弾き方にもかかわらず、非常に繊細な表現を聞かせています。その反面、ピアノは現代に近い弾き方なので、オケの音とギャップが生まれそうですが、両者はとても上手く融合していて少しも不自然でありません。2楽章の哀しみの表情もとても深々しています。

2曲目のコンサート・アリアは若手のモイカ・エルトマンの美しい声に惹かれます。この曲は、昔からテレサ・ベルガンサの美声で親しんで来ましたが、エルトマンの歌も非常に素敵です。そして、もちろんグリモーも、この曲への愛情がにじみ出るような美しいピアノ伴奏を聞かせています。

3曲目が第23番です。もちろんスタイルは第19番と同様です。早めのテンポで引き締まった両端楽章も良いですが、2楽章の一見無表情の演奏が虚無感までも感じさせて、言いようも無く哀しくなります。大げさに歌うよりもよほど孤独な怖さを感じるのです。一転して、3楽章の飛び跳ねるような生命力のほとばしりは見事です。ピアノもオケも最上の出来栄えです。この曲の一番好きなハイドシェックの演奏に肉薄するか、あるいは並び立つほど魅力的な演奏だと思います。僕の大好きな第23番に素晴らしい愛聴盤が増えました。それにしても、本業のピアノはともかくも、グリモーの指揮の才能には驚嘆します。彼女のモーツァルトの弾き振りの第二弾、そしていずれは全曲を聴いてみたくなります。この美貌にして、この才能。う~ん、参った!

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2011年12月23日 (金)

ブラームス クラリネット五重奏曲 続・名盤

クラリネット五重奏曲ロ短調op.115は、ブラームスが晩年にクラリネット奏者リヒャルト・ミュールフェルトの為に書いた一大傑作ですが、そればかりかブラームスの全室内楽作品の中でも間違いなく頂点を極めていると思います。

僕もこの曲とは心中しても良いと思うぐらい(古い言い方だぁ~オヤジくさっ!)大好きなので、過去にも「クラリネット五重奏曲 名盤」で一度記事にしています。今回は、3年ぶりにその後に加わった愛聴盤をご紹介したいと思います。

Vegh967アントニー=ピエール・ド・バヴィエ(Cl)、ヴェーグ四重奏団(1949年録音/CASCAVELLE盤) ジュネーブでの古いライブ録音ですので、お世辞にも音質は良いとは言えません。ノイズも多いです。けれども、この演奏で強烈に耳に残るのは、第1ヴァイオリンのシャンドール・ヴェーグの奏でるロマンティックな音です。何とも言えぬ懐かしさで胸がいっぱいになります。どこをとっても人間的で、機械的な感じが全くありません。味わいの濃さでは、ウイーン・コンツェルトハウスのアントン・カンパ―と並びます。それはジプシー・ヴァイオリンの血を引くハンガリーの出身だからかもしれません。バヴィエのクラリネットも上手さはともかくも味わいが有ります。但し、この演奏は余りに個性的ですので、誰もにお薦めするのは少々ためらいます。

Hcd11596ベーラ・コヴァーチュ(Cl)、バルトーク四重奏団(1974年録音/フンガトロン盤) オール・ハンガリーのメンバーによる演奏です。この曲にはハンガリーの音が良く似合うと思います。バルトークQはヴェーグあたりと比べるとずっとスマートで、しなやかな弦の響きが新鮮です。しかも現代的な冷たさは少しも有りません。ポルタメントを多く使って甘さを醸し出しています。ここには強い哀しみは存在しません。良くも悪くも「老境の孤独」というよりも、「青春の感傷」というようなイメージを感じます。

Brahms_melosミッシェル・ポルタル(Cl)、メロス四重奏団(1990年録音/ハルモニアムンディ盤) ポルタルはフランスのベテランですが、音色に翳りが有るのでこの曲に向いています。メロスQも第1ヴァイオリンのメルヒャーを中心に、しっとりとした美演を聞かせてくれます。決して枯れた味わいでは無く、瑞々しさを感じさせます。非常にニュートラルな演奏なので、この曲を聴く時のリファレンスとしても良いと思います。但し、余り強いクセが無いので抵抗なく自然に聴いていられる反面、もっと個性が欲しいかな、という気も起きてきます。

Uccg50081m01dlデヴィッド・シフリン(Cl)、エマーソン四重奏団(1996年録音/グラモフォン盤) これは凄い演奏だと思います。彫琢の度合いが半端で無く、メンバー全員の弾く音符全てに意味が有ります。クールには違いありませんが、機械的だとか無機的な印象は有りません。ある意味、シンフォニックとも言えそうです。シフリンも素晴らしいですが、弦楽が非常に素晴らしく、両者のからみ合いは、初めてこの曲を聴くかの如く新鮮に感じます。特に気に入っているのは、遅めのテンポで立体的な1楽章と、万華鏡のように様々な変化を見せる4楽章です。それは、何となくジュリーニの演奏するシンフォニーを連想させます。

というわけで、どんな演奏を聴いてもウラッハ/ウイーン・コンツェルトハウスQ盤の王座は揺るぎませんが、ヴェーグQ盤とシフリン/エマーソンQ盤は、絶対に欠かせないマイ・ベスト3の座に就きました。

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2011年12月17日 (土)

ブラームス ピアノ四重奏曲集 続・名盤

「ピアノ四重奏」という編成は、弦楽四重奏団にとっては少々半端な編成です。なぜなら、第2ヴァイオリンの出番が無いからです。ですので、常設のカルテットは余り演奏を行いません。ところが、ブラームスはこのジャンルにも非常な名作を3曲書いています。幸いなことに、バリリ四重奏団の往年の名盤や、イザベル・ファウストを中心としたメンバーの素晴らしい録音が有るので、家で楽しむのに不自由はしません。その二つの演奏については、3年前のブラームスの室内楽特集の時に「ブラームス ピアノ四重奏曲集 名盤」としてご紹介しました。ところが隠れた名盤というのは有るもので、更に二つの素晴らしい演奏に出会うことが出来ました。それを是非ご紹介したいと思います。

ピアノ四重奏曲第1番~3番

41uudouvwkl__sl500_フェスティヴァル四重奏団(1957-60年録音/RCA盤) ”祝祭カルテット”ってなに?とお思いでしょうが、彼らはアメリカのロッキーマウンテンの小さな町アスペンで毎年夏に催される音楽祭に出演して大好評だったために、定期的に活動を行うようになった団体です。メンバーはシモン・ゴールドベルク(Vn)、ウイリアム・プリムローズ(Va)、ニコライ・グラウダン(Vc)、ヴィクター・ヴァビン(Pf)という名手揃いです。ゴールドベルクとグラウダンは、かつてフルトヴェングラー時代のベルリン・フィルの首席奏者どうしでした。その間の音を”神様”プリムローズが埋めるのです。この団体の演奏の特色は、簡単に言えば、ミニ・ベルリンフィル(といっても当然昔の)という印象です。非常に良く練り上げられたアンサンブルと音色、人間的な歌いまわし、力強く刻むリズムなど、全て「古き良き」ベルリン・フィルの味わいです。彼らは常設では無いにしても、固定メンバーで活動した珍しい”ピアノ四重奏団”でしたが、グラウダンが急死してからは、「代わりのメンバーを迎えて活動を続けるなど論外のこと」と、解散をしてしまいました。この団体がどれほど素晴らしい演奏を行なっていたかは、この録音を聴いて貰えれば一目瞭然です。

Brahms_piano_qurtet_schneiderアレクサンダー・シュナイダー(Vn)、ワルター・トランプラー(Va)、レスリー・パーナス(Vc)、ステファニー・ブラウン(Pf)(1977年頃録音/ヴァンガード盤) Aシュナイダーは知る人ぞ知るブダペストSQの第2ヴァイオリニストです。彼は一度ブダペストから離れてシュナイダーSQを主宰し、10年後に再びブダペストに戻ります。ブダペスト解散後には、もう一度リーダーとして、このメンバーで録音を行いました。ヴィオラのトランプラーはブダペストSQが弦楽五重奏曲を演奏するときに必ず起用された名手です。従ってこの演奏をまず聴いて感じるのが、音がブダペストSQそのものだということです。骨太で男性的な力強さに溢れます。シュナイダーの演奏は、かつてのブダペストの第1ヴァイオリンであった、ヨゼフ・ロイスマンそっくりです。高い技術に裏付けされた構築性と、しばしば聞かせる「泣き節」がまるでロイスマンです。これほどの名人が第2ヴァイオリンを弾いていたのですから、どれほどブダペストSQが凄かったか納得します。チェロのパーナス、ピアノのブラウンについては何も知りません。けれども、この演奏を聴いていると、ブダペストの演奏かと思うほどに素晴らしいので、シュナイダーが妥協無しで選んだのだろうと思います。ブダペストでこの3曲を聴きたかったという夢がかなえられたような嬉しい気持ちです。

他には、第2番単独ですが、やはり良い演奏が有りますので、ついでにご紹介します。

ピアノ四重奏曲第2番

Brahms_piano_qurtet_bordinボロディン弦楽四重奏団員、スヴャトスラフ・リヒテル(Pf)(1983年録音/タワーレコード盤) ボロディンSQは昔から好きなカルテットです。彼らがピアノにリヒテルを迎えた、シューベルトの「ます」やシューマンのピアノ五重奏曲など、いずれも素晴らしい演奏でした。このブラームスでも、第1ヴァイオリンのコぺルマンの甘いポルタメントが古き良きウイーンの味わいを醸し出していて実に素敵です。リヒテルもこのメンバーとの共演がよほど気に入っているのでしょう、実にはつらつと弾いています。終楽章では熱く成り過ぎて荒いほどですが、ピアノの貫禄ぶりは流石です。甘さと力強さが溶け合った良い演奏だと思います。なお、このCDはタワーレコードがフィリップスのライセンス販売をしています。

というわけで、全3曲揃った演奏としては、1950年代のミニ・ウイーンフィルとも呼べるバリリと、ミニ・ベルリンフィルのようなフェスティヴァル四重奏団を聴き比べるだけでも楽しいですが、個人的にはブダペストそっくりの骨太な音が聴けるシュナイダー達の演奏にとても惹かれます。そして、イザベル・ファウスト達の非常にしなやかな演奏も外せません。これだけ素晴らしい演奏を幾つも味わえるとは、ブラームジアーナー冥利に尽きます。

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2011年12月11日 (日)

ブラームス クラリネット・ソナタ集 ~こちらが元祖です~

Muhlfeldブラームスは晩年にマイニンゲンを訪れて、宮廷管弦楽団のクラリネット奏者である、リヒャルト・ミュールフェルト(写真)に出会います。その演奏に深く感激したブラームスは、クララ宛の手紙に「ミュールフェルト以上に美しくクラリネットを吹く人間はいません」と書きしるしました。そして、彼の為にクラリネット/ピアノ/チェロの三重奏曲(作品114)、五重奏曲(作品115)、2曲のソナタ(作品120の1と2)を書きました。このうち規模も内容も最高の五重奏曲は非常に有名ですが、他の曲は名作であるにもかかわらず知名度が高いとは言えません。ソナタについては、ブラームスが書き換えたヴィオラ版のご紹介をしましたが、そういうわけでクラリネット版が元祖なのです。

クラリネットという楽器は日本でも昔から広く親しまれていますね。子供のころに商店街の大売り出しで見かけた、ちんどん屋さんの中心楽器はクラリネットでした。歌謡曲や行進曲など、何を演奏してもレトロな雰囲気が漂ってきますし、悲しい曲を演奏してもどこか明るいとぼけた雰囲気を失いません。とても人懐っこい愛すべき楽器だと思います。

そんなクラリネットで聴くブラームス晩年のソナタは、遠く過ぎ去った青春への懐かしい想いを運んでくれるかのようです。諦念を感じますが、決して哀しくは有りません。懐かしい想いで胸がいっぱいになるのです。個人的には、情熱的な若さを取り戻したかのように聞こえるヴィオラ版のほうをより好んでいますが、心静かにクラリネット版で聴きたくなる時も有るのです。特に第1番の2楽章のような緩徐楽章はむしろクラリネットの味わいが勝ると思います。

どうしてもヴィオラ版を聴くことが多いために、所有するクラリネット版のCDは僅かに一つのみですが、昔からアナログ盤で親しんできた演奏です。

Brahms_cla_sonata

レオポルト・ウラッハ(Cl)、イエルク・デムス(Pf)(1953年録音/ウエストミンスター盤)

かつてのウイーン・フィルの首席奏者ウラッハは、しっとりとした柔らかい音とゆったりとした歌い口でオールド・ファンにはいまだに絶大な人気を誇っているでしょう。クラリネット五重奏曲などは、アントン・カンパ―の素晴らしいヴァイオリンともども、それ以上に心を打たれる演奏には出会ったことがありません。この2曲のソナタでも、柔らかい音と懐かしい雰囲気にとても惹きつけられます。録音はさすがに古さを感じさせますが、この曲の場合は逆にレトロな感じが増して、かえって良いのかもしれません。デムスのピアノもウラッハの伴奏として悪く無いと思います。

この曲は、そのうちにライスターとかシフリンなどのもっと新しい演奏も聴いてみたいですが、どうなのでしょうね。

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2011年12月10日 (土)

ブラームス ヴィオラ・ソナタ集 名盤 ~神様VS王様~

Viola_sonata_2昔、アマチュア・オーケストラでヴィオラを弾いていたこともあって、この曲は憧れの曲でした。当然、楽譜を買い求めて練習をしましたが、自分のレベルでは何しろ難しくてほとんど弾けませんでした。(笑) 写真はその楽譜です。

この2曲は本当に大好きなのですが、それは決して贔屓目とかではなく、愛くるしさと円熟した味が見事に溶け合って、地味ながら”滋味”に溢れた最晩年のブラームスの大変な傑作だと思います。個人的には、魅力の点でもチェロ・ソナタ以上、3曲のヴァイオリン・ソナタと全く遜色が無いと思っています。

この曲については、3年前にブラームスの室内楽特集をした時に、ブラームス ヴィオラ・ソナタ集 愛聴盤という記事を書いています。この曲はオリジナルのクラリネット版で聴くと、晩年の枯れた味わいが、とても強く感じられますが、ヴィオラ版で聴くと、だいぶ若さと色艶を取り戻したように聞こえるので不思議です。作品番号が実際の120番から一気に80番台辺りの作品に若返ったようなのです。特に第1番の1楽章、そして第2番の2楽章、いずれもアレグロ・アパショナートですが、ブラームスの情熱的な感情表現が余すことなく現れています。僕が何度聴いても胸を揺さぶられてしまう楽章です。

旧記事では、お気に入りCDとしてスーク盤をご紹介しました。この曲の可愛らしさと渋さがほどよく混じり合った素晴らしい演奏なのですが、あえて欠点を言えばピアノのパネンカが弱いことです。もうひとつのズーカーマン盤はロマンティックでずっと若々しさを感じる演奏で、バレンボイムのピアノの良さも有ってバランス的には優れています。

その記事の中で、昔LP盤で聴いていたヴィオラの神様プリムローズについて触れましたが、CDをようやく聴くことが出来ましたので、現代のヴィオラの王様バシュメットの演奏と合わせてご紹介したいと思います。

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ウイリアム・プリムローズ(Va)、ルドルフ・フィルクスニー(Pf)(1958年録音/EMI盤) 

かつて東芝EMIがCD化しましたが現在は廃盤です。それをようやく中古店で入手できました。プリムローズはかつてはヴィオラの神様でした。イギリス出身ですが、トスカニーニのNBC交響楽団の全盛期1930年代の首席ヴィオラを務め、退団してからはソロや室内楽活動を行いました。シャルル・ミンシュの「イタリアのハロルド」の録音でも素晴らしいソロを弾いています。そんなプリムローズのブラームスのソナタとあれば、代表盤にふさわしいのですが、それが廃盤ということは、やはりヴィオラは陽の当たらない楽器です。久しぶりに聴くこの演奏ですが、素晴らしさに感動しました。テンポは速めですが、大きな歌いっぷりに感情がいっぱいにこめられています。それも慈愛だけでは無く、驚くほどの激しさを持ち合わせます。スフォルツァンドでは弓のアタックで音がつぶれるほどです。この「グチャ」というこの音こそ正にヴィオラ特有の音で、やはりこう弾いてほしいです。

ここには、アドルフ・ブッシュやヨゼフ・シゲティのヴァイオリン、パブロ・カザルスのチェロのような、人間の心や感情そのものと言える演奏があります。それでいていかにも「ヴィオラ」という楽器(の奏者?)らしい、奥ゆかしさや謙虚さを決して失わないのです。

もうひとつ特筆すべきはフィルクスニーのピアノの素晴らしさです。この人は、フルニエと組んだチェロ・ソナタでも見事な演奏を聴かせてくれましたが、ここでも素晴らしいテクニックに支えられた、力強さと繊細さを兼ね備えた実に魅力的なピアノを弾いています。この曲のピアノ伴奏に関しては最上だと思います。

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ユーリ・バシュメット(Va)、ミハイル・ムンチャン(Pf)(1995年録音/RCA盤)

現代のヴィオラの王様バシュメットは、活動が華やか過ぎるのがどうも好きになれず、この演奏も最近ようやく聴いたものです。太く厚く、広がりがあるヴィオラの音が素晴らしく、正に王者の貫禄です。1楽章を非常に遅いテンポで悠然と演奏する様も、やはり王様の風格です。ところが、この王様は非常にクールであり、感情に流されたりしません。冷たい氷のハートと言っては言いすぎですが、演奏は実に冷めています。第1番は通して、そんな印象を受けます。第2番もスタイルは同じですが、こちらのほうが音楽に自然に入り込むことは出来ます。2楽章の大きなスケール感は聴きものです。ムンチャンのピアノは上手いのですが、バシュメットに似て感情の起伏が余り感じられ無いのが欠点です。

ということで、バシュメットの王者の風格を横目で見ながらも、プリムローズ/フィルクスニーの歴史的な演奏こそは、この曲のマイ・フェイヴァリット盤に君臨しそうです。もっとも、このCDは廃盤で手に入りにくいので、この曲を聴いてみようと思われる人には、まずはスーク盤をお勧めします。

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2011年12月 4日 (日)

ブラームス ヴァイオリン・ソナタ集 ~続・隠れ名盤~

晩秋のブラームス特集ですが、今回からは室内楽を聴いてゆきます。まずはヴァイオリン・ソナタを聴きましょう。このジャンルは、これまでにブラームス ヴァイオリン・ソナタ集 名盤、それにブラームス ヴァイオリン・ソナタ集 隠れ名盤で二度記事にしています。それらの演奏はどれも気に入っているのですが、中でも特に好きなのはシェリング/ルービンシュタイン盤とスーク/スコダ盤です。けれども、その後にまたお気に入りに仲間入りした演奏が二つ有ります。どちらも古いモノラル録音であり、余りポピュラーな存在ではありませんので、「続・隠れ名盤」としてご紹介したいと思います。

   第1番、第3番

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ヨゼフ・シゲティ(Vn)、ミエチスラフ・ホルショフスキー(Pf)(第1番:1951年、第3番:1956年録音/MYTHOS盤) 

シゲティは好きなヴァイオリニストの五指に入る存在ですが、ブラームスのソナタに関しては、一般的にはステレオ録音の2番しか知られていません。けれどもその演奏は2番単独で言えば、シェリング、スーク以上に好きな演奏なのです。であれば、当然他の曲も聴きたくなります。実はシゲティは1950年代に米コロムビアにかなりの録音を行ったそうですが、当時発売された音源のCD化は全くと言って進んでいません。最もこの米レーベルは現在はソニー傘下で、カザルスやブッシュの貴重な録音も廃盤にした状態ですので、あきらめる他に無さそうです。そんな中でも、その偉大な音楽価値を認識するマイナーレーベルはあるもので、近年BiddulphやMYTHOSが当時のアナログ盤から復刻を行なっています。このディスクも初期LP盤からの復刻です。まず聴いた瞬間に、音質の良さに驚きます。柔らかく厚いヴァイオリンの音色はアナログそのものです。第1番の1楽章の人間味溢れる表情はどうでしょう。多用されるボルタメントも小賢しい演出とは一切無縁で、自然な情感が心からにじみ出ています。2楽章の大きくヴィブラートを効かせたたっぷりとした歌い方は、表情が余りに豊かなので、聴きようによっては演歌のようです。けれども聴き手の胸を打つことこの上ありません。この音楽を聴いて心揺さぶられないなんて有り得ないと思います。3楽章も遅いテンポで、ブラームス得意の延々と続くシンコペーションの旋律をたっぷりと歌います。この楽章が、これほどまるでエレジーのように哀しく聞こえたのは初めてです。やはりシゲティはジプシーの血を持つハンガリー出身だからなのでしょうか。第3番では、バイオリンの哀しい音色に惹かれます。ボルタメントが「甘さ」では無く「泣き節」につながるのは、ハンガリーの演奏家に共通している点です。この演奏はオイストラフ/リヒテルのような力強さは有りませんが、胸に染み入ってくる情感においては、それ以上と言えます。2楽章は完全な「エレジー」です。やるせないまでに哀しくも懐かしい情景がここには有ります。3、4楽章もやはり遅いテンポでたっぷりと歌いますが、これほどまでに人間味を感じる演奏は聴いたことがありません。この復刻CDは、長年の渇望を癒して余りある有り難い存在です。1番と3番が収められていますし、何しろ音質が素晴らしく、針音やプチ・ノイズもほとんど気になりません。なお、Biddulphレーベルからも2曲が別のディスクに分かれて出ていますが、そちらは聴いていません。

   第1番~第3番

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シモン・ゴールドベルク(Vn)、アルトゥール・バルサム(Pf)(1953年録音/テスタメント盤) ポーランド生まれで、ドイツで活躍し、その後アメリカに帰化したゴールドベルクの最後の奥様が日本人ピアニストの山根美代子さんだったことは良く知られています。この人はまた、フルトヴェングラーに認められて僅か20歳でベルリン・フィルのコンサート・マスターに就任したことも知られています。多分に戦争の歴史に翻弄された人生であったことは否定できませんが、生涯演奏家を続けられたことは幸せだったのではないでしょうか。そのゴールドベルクのブラームスのソナタ集のディスクの存在は知っていましたが、じっくり聴いたことはありませんでした。それが聴きたくなったのは、このブログにコメントを頂いたViollinPaPaさんのお薦めだったからです。

ゴールドベルクは戦前のバイオリニストにしては、非常に端正な弾き方をします。幾らか速めのテンポでビブラートは控え目、ボルタメントも多用する割には目立ちにくく強調された感じが有りません。技術的には音程、リズム、ボウイングが実に安定していますが、それをひけらかすような感じは全くありません。要するに音楽の内容表現にひたすら奉仕するようです。ある種「求道的」な印象すらするほどです。現代のメカニカルな演奏とは全く異なり、実に人間的な味わいを感じます。大げさな表情づけは無いのに、胸いっぱいに音楽が浸みわたってきます。ここには古過ぎず、新し過ぎない中庸で魅力的な音楽が有ります。そういえばブラームスの音楽の特徴も同じではないでしょうか。この演奏では、3曲とも緩徐楽章の第2楽章に特に惹かれます。情感が心に沁み入ってきます。それでいて、第3番の4楽章あたりの緊迫感も充分です。決して優しい情緒だけの演奏家ではありません。共演者のバルサムのピアノもとても良いです。このCDはドイツ・グラモフォンからのライセンスなのですが、ニューヨークで録音を行ったのは、どうやらDECCAらしいです。ですので、音質は非常に優れています。

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2011年12月 1日 (木)

ブラームス 「ドイツ・レクイエム」  続・名盤

ブラームスの声楽曲の大作「ドイツ・レクイエム」は、今年3月の東日本大震災の時に「亡くなられた被災者の方へ」で、追悼の為に取り上げました。その中でご紹介した、ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響のライブ録音(audite盤)こそは、いまだに自分の一番の愛聴盤なのですが、新たに2種のディスクを購入しました。一枚はヘルムート・コッホ盤、もう一枚はヘルベルト・ケーゲル盤です。どちらもドイツ人指揮者がドイツのオーケストラと合唱団を指揮した演奏ということで、自分の嗜好にはピタリと合っています。それと、コッホはもちろん合唱指揮者ですが、ケーゲルも初めは合唱指揮者でした。従って、当然のことながら合唱曲には優れているのではないかと思えたのです。

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ヘルムート・コッホ指揮ベルリン放送響/合唱団(1973年録音/Berlin Classics盤) 

第1曲から合唱の美しさに感心します。力強さよりも声の美しさが目立つので、第2曲あたりは幾らか物足りなさを感じます。それでも中間部の合唱はやはり美しいです。オーケストラはあくまで合唱の脇役であり、主役は徹底的に合唱です。コーラスパートの対旋律がとてもよく聞き取れます。独唱歌手も声は美しいのですが、幾らか線が細い印象です。とても地味ですが、妙に神経質にならない大らかさを感じる良い演奏だと思います。

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ヘルベルト・ケーゲル指揮ライプチヒ放送響/合唱団(1985年録音/カプリッチオ盤) 

コッホ盤とは逆に、良い意味で神経質なほどに繊細な印象です。合唱の弱音がとても美しく、静寂を保っている部分はさしずめ天国からの調べのようです。何か凄く厳かな響きに感じてしまいます。オーケストラは管楽器が時々目立ち気味ですが、とても雄弁です。ケーゲルらしい非常に素晴らしい演奏だと思います。それにしても、この録音から5年後にピストル自殺をしてしまうケーゲルはこの曲をどのような心境で演奏していたのでしょうか。

ということで、両盤ともクーベリック盤とはまた違った素晴らしさが有ります。名曲を色々な名演奏で味わえるのは音楽鑑賞の大きな喜びですね。

晩秋のブラームス特集ですが、次回からは室内楽を聴いてゆきます。

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